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72・目覚めれば 下
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ん……、朝……? え? もう日が高い……?
「気がついたか」
横からかけられた声にびっくりして振り返ると、その人は長椅子から立ち上がり、私の顔を覗きこんだ。
「……ルカ様?」
どうしてルカ様がこの部屋に……?
「解毒剤が効いたようだな。体調はどうだ、起きられるか?」
「え、はい。大丈夫で……」
言いながら半身を起こしたその時、記憶が一気に甦った。
サラ様に無理やり連れて行かれて、お茶に何かを入れられた。倒れた私を、男達が……。
「……!」
思わず口元を覆い震える私の背を、ルカ様が撫で、ショールを掛けてくれる。
「思い出したか。もう大丈夫だ」
そう、皆が助けに来てくれた。だから……。
――――私、それから……!?
昨夜、3人との間で何があったのか。記憶は細切れながら、何も覚えていない訳ではない。
私、今度は薬のせいで、また……やってしまったの?
カインと、エリスと、グリフと。何度も求めて繰り返し抱かれ、その間にも他の誰かが私を愛撫し、手を握り、口づけをくれた。
自分の意思ではないと言われても、それが却って恥ずかしく、辛い。
思い出すだけで、涙で視界がにじんできた。
「泣いている場合じゃない」
ルカ様の厳しい声に、私はびくっと震えた。
「でもルカ様……」
思わず口答えをし、また涙を溢れさせた私に、ルカ様は言った。
「まだサラは捕まっていないんだ」
「え?」
思いもかけないことに、私は驚いてルカ様を見上げた。助けられたことで、なんとなく全て解決したと思い込んでいた。
「昨夜、男2人を捕えている間に、サラは消え失せたそうだ。そもそもサラの狙いは何だったのか、それさえも分かっていない。ウェインは一晩中サラを捜索して、さっきやっと帰ってきたところだ。ミア、おまえにはすることがあるんじゃないか?」
ルカ様のいう通りだった。思い出すのも辛く、カイン達の顔を見るのも恥ずかしくてたまらないけれど。でもそんなことを言っている場合ではない。
私は顔を覆い、何度も深く呼吸をした。
「ルカ様、昨日のことをお話しします。皆と、……もし良ければ陛下にもお伝えくださいますか」
身なりを整え、ルカ様に付き添われて陛下のサロンへ行った。そこには既に陛下と長官様、それにカイン達4人が揃っていた。
カイン達は私を見ると、揃って気遣う表情を浮かべた。私は敢えて何も言わず、陛下に向けて一礼する。
息を整え、何とか気持ちを落ち着かせ、私は口を開いた。……どうか最後まで話し通せますように。
報告は、サラ様に半ば無理矢理部屋へ連れていかれたところから始めた。
……チャージ法を見抜かれ、自分と同じと言われたこと。
サラ様の本当の正体は百年前の魔導師ソフィアだということ。
そして他人の体に乗り移れるという特殊魔法を持ち、何人かの体に乗り移ってきたらしいこと。その際には相手の魔力や特殊魔法も受け継げること。
次の体として私を狙って、昨夜のようなことを企てたこと。
そして最初から順序だてて話してみて、口には出せないけれど、ひとつ思いついたことがあった。
死ぬほど辛い宵と、泣くほど恥ずかしい夜のこと。カイン達のおかげで、最初のほうの辛さにとらわれずに済んでいるのかも……、ということ。
でも、それは後で考えよう。私は陛下への報告に意識を戻した。
「すぐには信じていただけないと思います。すべてはサラ様が私に語ったことに過ぎず、何の証拠があるわけでもありません。ですが、私は真実だと思っています」
少しの間、サロンを沈黙が包んだ。それを破ったのはカインだ。
「陛下、我々はミアを信じるしかありません。すぐ捜索の再開を」
エリスも口を添える。
「そうです。そしてミアの言う通りなら、今度はサラを、生死問わずで探さなくてはなりません。最悪の場合、誰かほかの人間に乗り移って逃げている可能性もあります。その時は、同時に近くで失踪したものがいないかどうかも確認しなくては」
「いや、あの女が自分の体を見つけられないように工作することだって有り得るだろ。陛下、その辺りもお考えください」
ウェインの発言に陛下が頭を抱えた。
それでも、カイン達はもちろん、陛下も長官様も、私の言葉を疑わなかった。
ちなみにルカ様は、例の男達にも解毒剤を飲ませたそうだ。かなり精神の深くまで冒されていたようで、なかなか正気に戻らない。けれど時折もらす言葉のなかに、私の話と通じる部分があるらしい。
彼らは引き続き、厳重な監視のもとに置かれている。
その後、近隣の町や村まで含め、サラの捜索に加えて、若い女性魔導師を中心に、失踪したものや急に旅に出たものなどを調べることが決められた。
「とりあえず調査と捜索は、他の者にさせる。今日のところは皆、一度戻って休むがいい。―――ミアよ、言い難いこともあっただろう。よく報告してくれた」
陛下に労われ、私はまた一礼してサロンを出た。
カイン達が私について一緒に戻ってくれた。館へ着くまで、誰も口をきかなかった。
「じゃ、俺は休ませてもらうが、何かあれば言ってくれ」
ウェインはそう言って階段へ向かいかけたけれど、ふと私の前で立ち止まって、肩に手をかけた。
「嬢ちゃん、もっと早く見つけてやれなくて悪かった。でもとにかく、無事で良かったよ」
「ありがとう、ウェイン。心配かけてごめんなさい……」
ウェインは黙って首を振り、もう一度私の肩を叩いてから上がっていった。
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