転生魔王は逃げ出したい〜元カレが勇者になってやってきた〜

砂月美乃

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6・勇者ケント 下

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 翌朝、魔の森へ踏み込んだ勇者一行に、つぎつぎに魔物が襲い掛かった。ところが勇者ケントは、ばっさばっさと部下たちを切り伏せていく。

「……強いわね」
「……」

 パーティーは5人。勇者ケント、魔導士らしい男が2人。弓を使う女、あとはか弱そうな女……あれが聖女なのだろう。誰かがかすり傷を負うたびに、すぐさま回復させている。なかなか優秀な聖女様のようだ。

「魔導士を2人とは考えましたな。やつら、今回はかなり本気のようだ」

 宰相アードンが、思わずといった感じで口を開いた。

「そうね、勇者があれだけ使える奴なら、そのほうが正解だわ」

 ケントは意外なほど強かった。剣が使えるなんて思いもしなかったけれど、もしかしたらいわゆるチートというやつなのかもしれない。
 向こうの世界で、読んだもの。召喚された勇者にはよくあるやつだ。


 そしてケントを支える2人の魔導士も、なかなかの手練れだった。

「ちっ、えげつない真似を……」

 アードンが吐き捨てた。そう、魔導士たちは直接攻撃魔法も使うが、どちらかというと毒とか麻痺とか、補助魔法に長けているようだった。それを受けて鈍った魔物を勇者が薙ぎ払い、空から来る魔物は弓と魔法で落としてゆく。

「今までになく統率が取れているわね。誰が指揮しているのかしら」

 そう言ったものの、私は確信していた。絶対に謙斗だ。当時の謙斗は、この手のゲームが大好きだった。謙斗の世界では20年か30年が経っているとしても、当時のノウハウは失っていないに違いない。


「あの男……」
「いかがなさいますか」

 私が思わず呟くと、アードンが私を見て聞いた。会議室で同席していた将軍のひとり、ドルムスも3つの目玉を光らせて私を見ている。ドルムスは巨人型の魔物で、縦横4メートル近い身体に、背中には蝙蝠の羽が生えている。一人で会議室の半ばを占領しているような奴だ。

「陛下、私にお任せを」
「ドルムス、貴方たちを出すにはまだ早い気がするけど?」

 私が首をかしげると、ドルムスの鼻息が部屋を揺らした。

「あのような生意気な者ども、さっさと息の根を止めるに限りますぞ、陛下。無駄に生かしておいたところで寿命を先延ばしにするだけ。余計な犠牲を出すことになります」
「確かにそうね、ドルムス将軍。ならば、任せましょう」

 私が微笑んで命じると、ドルムスはもう一度鼻を鳴らし、私のドレスの裾が舞い上がった。将軍は真っ赤になって詫びて、急いで出て行った。

「さて、ではドルムスのお手並み拝見といきましょう」

 私は椅子に座り直し、魔鏡の画面を覗き込んだ。


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