24 / 29
24・謙斗の真実 下
しおりを挟む
***
「大変だ、人が落ちた!」
「駅員を! 救急車だ!」
騒然とするホームの上で、俺は立ち尽くしていた。見ているものが信じられない。誰か嘘だと言ってほしい。
「お連れの方はいませんか!?」
その声に、俺はやっと我に返り、階段を駆け降りた。
***
会社をクビになった。
仕方ない、馬鹿正直に名乗り出たのは俺だから。俺がちゃんと説明出来ていたら、沙織はあんなことにならなかったんだ。
SNSを送って来たのは、この前誘いを断った女で、嫉妬からの完全な嫌がらせだったらしい。ヘタレの俺だけど、さすがに会ったら自分を抑えられる自信がない。だから、情けないけど絶対に会わないことにした。
沙織の両親は俺を責めなかった。「娘の気性は分かっています」と一言言ったきりで、かえって罵られたほうが楽だと思ってしまったくらいだ。
ところが会社ではいつの間にか、俺が彼女を突き落としたことになっていた。その結果が、クビだ。もういい、沙織にさえ信じてもらえなかったんだ。だから、ほかの事なんてもうどうでもいい。
***
クビになった俺は、最低限の生活のために、半ば自棄で肉体労働を選んだ。ゲームしかしてこなかった身体にはきつかったが、ぎりぎりまで身体を酷使し、くたびれ果てて眠るだけの生活は、ある意味救いでもあった。余計なことを考えなくて済んだから。
何年かして少し心が落ち着いたとき、過去に趣味が高じて作りかけていた、ゲームの存在を思い出した。そうだ、あれに沙織を登場させてみようかな?
肉体労働にも身体が慣れてきていたし、仕事の後に没頭できることが出来たのは嬉しかった。そのままの沙織を投影するのは気が引けたので、見た目は完全に変えた。別にいいんだ、俺だけが沙織と分かっていれば。
***
アラフォー側になったとたんに、急に仕事がきつく感じるようになった。そろそろ転職を考えようかと思っていたら、昔のゲーム仲間にばったり会った。ゲーム制作会社を立ち上げるというので「事務でも雑用でも何でもやるよ」と言ったら、とんとん拍子に就職が決まってしまった。というより、俺とそいつしかいないんだが。養う相手もいないから、暮らしていければ別に構わない。仕事でついた筋肉を落としたくないから、ジムくらいは通ってみるかな。自分では気づかなかったが、俺もずいぶん見た目が変わっているらしい。
***
ある時、ひょんなことからそいつに例のゲームを見せた(もちろん沙織のことには触れない)。そうしたら、そいつが飛びついた。「これなら行ける」という。何と、最新機種用の新作に使うことになった。。
そして、原作者に俺の名が入ったゲームが店頭に並んだ。なかなか感慨深い。大ヒットにはならなかったが、そこそこには売れてくれた。なんだか沙織が評価されたような気になって、笑ってしまう。確かに美女魔王には、コアなファンがついているらしい。
***
気がついたら、やけに時代がかった場所にいた。何だ、ここ? すると微妙に見覚えのあるジジイが近寄って来て、言うじゃないか。
「お待ちしておりました、勇者殿」
お決まりのパニックは省くとして、途中で気がついた。どう考えても、ここは俺のゲームじゃないか? 城の間取りも、王の名前も。そこへどういうわけか俺が、「勇者」として召喚されたらしい。すると待てよ、まさか俺が倒すべき「魔王」ってのは……?
驚いた。ひょっとしたら本当に「魔王」がいるのかも知れない。こうなったら何が何でも、魔王城にたどり着いてやる。
***
俺の要求がやけに通るなと思ったら、どうやら俺は創造主としての力もあるらしい。試しに脳内で「設定変更」をしてみたら、面白いように仕様が変わった。最強メンバーを投入させ、俺のスペックも最強にする。これなら途中で死ぬこともないだろう。
さあ、明日はいよいよ出発だ。その時、国王が俺を呼び止めて……。
***
私は天井を仰いで、深く息をついた。でないとまた泣いてしまいそうだったから。
知らなかった。私が死んだせいで、謙斗が会社をクビになっていたなんて。謙斗にどう償ったらいいの?
それに、私のことを忘れないでいてくれた。
でも夢を覗いたなんて言えない。だからって、いきなり優しくなんかしたら、かえって怪しまれる。どうしよう……?
考えが纏まらない。もういい、とりあえず気持ちが定まるまで、このままにしていよう。あまりに沢山のことがあったから、今はもう考えたくない。私は謙斗に背を向けて、目を閉じた。
「大変だ、人が落ちた!」
「駅員を! 救急車だ!」
騒然とするホームの上で、俺は立ち尽くしていた。見ているものが信じられない。誰か嘘だと言ってほしい。
「お連れの方はいませんか!?」
その声に、俺はやっと我に返り、階段を駆け降りた。
***
会社をクビになった。
仕方ない、馬鹿正直に名乗り出たのは俺だから。俺がちゃんと説明出来ていたら、沙織はあんなことにならなかったんだ。
SNSを送って来たのは、この前誘いを断った女で、嫉妬からの完全な嫌がらせだったらしい。ヘタレの俺だけど、さすがに会ったら自分を抑えられる自信がない。だから、情けないけど絶対に会わないことにした。
沙織の両親は俺を責めなかった。「娘の気性は分かっています」と一言言ったきりで、かえって罵られたほうが楽だと思ってしまったくらいだ。
ところが会社ではいつの間にか、俺が彼女を突き落としたことになっていた。その結果が、クビだ。もういい、沙織にさえ信じてもらえなかったんだ。だから、ほかの事なんてもうどうでもいい。
***
クビになった俺は、最低限の生活のために、半ば自棄で肉体労働を選んだ。ゲームしかしてこなかった身体にはきつかったが、ぎりぎりまで身体を酷使し、くたびれ果てて眠るだけの生活は、ある意味救いでもあった。余計なことを考えなくて済んだから。
何年かして少し心が落ち着いたとき、過去に趣味が高じて作りかけていた、ゲームの存在を思い出した。そうだ、あれに沙織を登場させてみようかな?
肉体労働にも身体が慣れてきていたし、仕事の後に没頭できることが出来たのは嬉しかった。そのままの沙織を投影するのは気が引けたので、見た目は完全に変えた。別にいいんだ、俺だけが沙織と分かっていれば。
***
アラフォー側になったとたんに、急に仕事がきつく感じるようになった。そろそろ転職を考えようかと思っていたら、昔のゲーム仲間にばったり会った。ゲーム制作会社を立ち上げるというので「事務でも雑用でも何でもやるよ」と言ったら、とんとん拍子に就職が決まってしまった。というより、俺とそいつしかいないんだが。養う相手もいないから、暮らしていければ別に構わない。仕事でついた筋肉を落としたくないから、ジムくらいは通ってみるかな。自分では気づかなかったが、俺もずいぶん見た目が変わっているらしい。
***
ある時、ひょんなことからそいつに例のゲームを見せた(もちろん沙織のことには触れない)。そうしたら、そいつが飛びついた。「これなら行ける」という。何と、最新機種用の新作に使うことになった。。
そして、原作者に俺の名が入ったゲームが店頭に並んだ。なかなか感慨深い。大ヒットにはならなかったが、そこそこには売れてくれた。なんだか沙織が評価されたような気になって、笑ってしまう。確かに美女魔王には、コアなファンがついているらしい。
***
気がついたら、やけに時代がかった場所にいた。何だ、ここ? すると微妙に見覚えのあるジジイが近寄って来て、言うじゃないか。
「お待ちしておりました、勇者殿」
お決まりのパニックは省くとして、途中で気がついた。どう考えても、ここは俺のゲームじゃないか? 城の間取りも、王の名前も。そこへどういうわけか俺が、「勇者」として召喚されたらしい。すると待てよ、まさか俺が倒すべき「魔王」ってのは……?
驚いた。ひょっとしたら本当に「魔王」がいるのかも知れない。こうなったら何が何でも、魔王城にたどり着いてやる。
***
俺の要求がやけに通るなと思ったら、どうやら俺は創造主としての力もあるらしい。試しに脳内で「設定変更」をしてみたら、面白いように仕様が変わった。最強メンバーを投入させ、俺のスペックも最強にする。これなら途中で死ぬこともないだろう。
さあ、明日はいよいよ出発だ。その時、国王が俺を呼び止めて……。
***
私は天井を仰いで、深く息をついた。でないとまた泣いてしまいそうだったから。
知らなかった。私が死んだせいで、謙斗が会社をクビになっていたなんて。謙斗にどう償ったらいいの?
それに、私のことを忘れないでいてくれた。
でも夢を覗いたなんて言えない。だからって、いきなり優しくなんかしたら、かえって怪しまれる。どうしよう……?
考えが纏まらない。もういい、とりあえず気持ちが定まるまで、このままにしていよう。あまりに沢山のことがあったから、今はもう考えたくない。私は謙斗に背を向けて、目を閉じた。
3
あなたにおすすめの小説
唯一の味方だった婚約者に裏切られ失意の底で顔も知らぬ相手に身を任せた結果溺愛されました
ララ
恋愛
侯爵家の嫡女として生まれた私は恵まれていた。優しい両親や信頼できる使用人、領民たちに囲まれて。
けれどその幸せは唐突に終わる。
両親が死んでから何もかもが変わってしまった。
叔父を名乗る家族に騙され、奪われた。
今では使用人以下の生活を強いられている。そんな中で唯一の味方だった婚約者にまで裏切られる。
どうして?ーーどうしてこんなことに‥‥??
もう嫌ーー
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる
しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。
いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに……
しかしそこに現れたのは幼馴染で……?
私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】
Lynx🐈⬛
恋愛
ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。
それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。
14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。
皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。
この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。
※Hシーンは終盤しかありません。
※この話は4部作で予定しています。
【私が欲しいのはこの皇子】
【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】
【放浪の花嫁】
本編は99話迄です。
番外編1話アリ。
※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。
愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました
蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。
そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。
どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。
離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない!
夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー
※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。
※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。
黒の神官と夜のお世話役
苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
お飾りの妃をやめたら、文官様の溺愛が始まりました 【完結】
日下奈緒
恋愛
後宮に入り、妃となって二年。
それなのに一度も皇帝に抱かれぬまま、沈翠蘭は“お飾りの妃”としてひっそりと日々を過ごしていた。
ある日、文部大臣の周景文が現れ、こう告げる。
「このままでは、あなたは後宮から追い出される」
実家に帰れば、出世を望む幼い弟たちに顔向けできない――。
迷いの中で手を差し伸べた彼にすがるように身を預けた翠蘭。
けれど、彼には誰も知らない秘密があった。
冷たい後宮から始まる、甘くて熱い溺愛の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる