転生魔王は逃げ出したい〜元カレが勇者になってやってきた〜

砂月美乃

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24・謙斗の真実 下

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 ***

「大変だ、人が落ちた!」
「駅員を! 救急車だ!」
 騒然とするホームの上で、俺は立ち尽くしていた。見ているものが信じられない。誰か嘘だと言ってほしい。
「お連れの方はいませんか!?」
 その声に、俺はやっと我に返り、階段を駆け降りた。

 ***

 会社をクビになった。
 仕方ない、馬鹿正直に名乗り出たのは俺だから。俺がちゃんと説明出来ていたら、沙織はあんなことにならなかったんだ。
 SNSを送って来たのは、この前誘いを断った女で、嫉妬からの完全な嫌がらせだったらしい。ヘタレの俺だけど、さすがに会ったら自分を抑えられる自信がない。だから、情けないけど絶対に会わないことにした。
 沙織の両親は俺を責めなかった。「娘の気性は分かっています」と一言言ったきりで、かえって罵られたほうが楽だと思ってしまったくらいだ。
 ところが会社ではいつの間にか、俺が彼女を突き落としたことになっていた。その結果が、クビだ。もういい、沙織にさえ信じてもらえなかったんだ。だから、ほかの事なんてもうどうでもいい。

 ***

 クビになった俺は、最低限の生活のために、半ば自棄やけで肉体労働を選んだ。ゲームしかしてこなかった身体にはきつかったが、ぎりぎりまで身体を酷使し、くたびれ果てて眠るだけの生活は、ある意味救いでもあった。余計なことを考えなくて済んだから。
 何年かして少し心が落ち着いたとき、過去に趣味が高じて作りかけていた、ゲームの存在を思い出した。そうだ、あれに沙織を登場させてみようかな?
 肉体労働にも身体が慣れてきていたし、仕事の後に没頭できることが出来たのは嬉しかった。そのままの沙織を投影するのは気が引けたので、見た目は完全に変えた。別にいいんだ、俺だけが沙織と分かっていれば。

 ***

 アラフォー側になったとたんに、急に仕事がきつく感じるようになった。そろそろ転職を考えようかと思っていたら、昔のゲーム仲間にばったり会った。ゲーム制作会社を立ち上げるというので「事務でも雑用でも何でもやるよ」と言ったら、とんとん拍子に就職が決まってしまった。というより、俺とそいつしかいないんだが。養う相手もいないから、暮らしていければ別に構わない。仕事でついた筋肉を落としたくないから、ジムくらいは通ってみるかな。自分では気づかなかったが、俺もずいぶん見た目が変わっているらしい。

 ***

 ある時、ひょんなことからそいつに例のゲームを見せた(もちろん沙織のことには触れない)。そうしたら、そいつが飛びついた。「これなら行ける」という。何と、最新機種用の新作に使うことになった。。
 そして、原作者に俺の名が入ったゲームが店頭に並んだ。なかなか感慨深い。大ヒットにはならなかったが、そこそこには売れてくれた。なんだか沙織が評価されたような気になって、笑ってしまう。確かに美女魔王には、コアなファンがついているらしい。

 ***

 気がついたら、やけに時代がかった場所にいた。何だ、ここ? すると微妙に見覚えのあるジジイが近寄って来て、言うじゃないか。
「お待ちしておりました、勇者殿」
 お決まりのパニックは省くとして、途中で気がついた。どう考えても、ここは俺のゲームじゃないか? 城の間取りも、王の名前も。そこへどういうわけか俺が、「勇者」として召喚されたらしい。すると待てよ、まさか俺が倒すべき「魔王」ってのは……?
 驚いた。ひょっとしたら本当に「魔王沙織」がいるのかも知れない。こうなったら何が何でも、魔王城にたどり着いてやる。

 ***

 俺の要求がやけに通るなと思ったら、どうやら俺は創造主ゲームマスターとしての力もあるらしい。試しに脳内で「設定変更」をしてみたら、面白いように仕様が変わった。最強メンバーを投入させ、俺のスペックも最強にする。これなら途中で死ぬこともないだろう。
 さあ、明日はいよいよ出発だ。その時、国王が俺を呼び止めて……。

 ***



 私は天井を仰いで、深く息をついた。でないとまた泣いてしまいそうだったから。
 知らなかった。私が死んだせいで、謙斗が会社をクビになっていたなんて。謙斗にどう償ったらいいの?
 それに、私のことを忘れないでいてくれた。
 でも夢を覗いたなんて言えない。だからって、いきなり優しくなんかしたら、かえって怪しまれる。どうしよう……?

 考えが纏まらない。もういい、とりあえず気持ちが定まるまで、このままにしていよう。あまりに沢山のことがあったから、今はもう考えたくない。私は謙斗に背を向けて、目を閉じた。


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