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25・夢のその先 上

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「おい、沙織」

 翌朝いきなり低い声で呼ばれ、腕をがしっと掴まれた。これは怒ってる、ものすごく怒ってる。
 完全にバレていた。どうやら謙斗のステータス画面に、はっきりと記録が残っていたらしい。

「何でそんな事をした? そんなに俺の言ったことが、信じられなかったのか!?」

 両腕を掴んで、揺さぶらんばかりの剣幕で問いただされる。

「違う、そうじゃないの! 私―――」


 仕方なく、私は謙斗に正直に話した。何を考え、何を見たのかを。すると謙斗は頭を抱えた。

「くっそ、魔王ってのは……。そんな術、俺は設定しなかったのに……」

 それからまた顔を上げて、私を睨む。

「とにかく、これで分かったろ。おれはあの時、浮気なんかしてなかった、って」

 私は頷く。それは分かった。本当に悪かったと思う。でも、それを言うならもうひとつ……。

「何だよ、まだ疑うのか」
「だって……。どうせ他にも、女泣かせて来たんでしょ?」
「……はあ?」

 謙斗は大口を空けて固まった。

「何だよ、それ」
「何って! テントで聖女としてたじゃない!?」
「え……、ああ、そうか。見てたんだな」

 謙斗がきまり悪そうに頭をかいた。そのこめかみのあたりが、ほんのり赤いように見える。

「ほら、やっぱりそうなんでしょ?」

 私は思わずまなじりを釣り上げる。あの時誤解したのは悪かったけど、それとこれとは違うんだから!


「……ていうか、おまえさあ……」
「何よ」
「どうせ人の夢覗いたんなら、なんでその先まで見なかったんだよ……?」

 謙斗は額に手を当てて、絵に描いたようなポーズでため息をついた。

「は……?」
「俺は聖女だって抱いちゃいねえよ! 何であんなガキ……」
「何言ってんのよ、だってあの時……」
「いいから、今度こそ最後までちゃんと聞けよ!!」

 寝室に響き渡る怒鳴り声に、私ははっとした。そうだ、あの時も私の思い込みのせいで……。
 私がようやく口をつぐんだのを見て、謙斗も口調を改めた。

「俺の夢で、国王が俺を呼び止めたとこまで見たんだろ?」

 謙斗が言いにくそうに確認した。やっぱり夢を覗かれたのは恥ずかしいらしい。

「そのまま見てれば、その後の国王との話も聞けたのに……」
「じゃ、もう一回見せてくれる?」
「馬鹿、冗談じゃねえ。二度目をやったら怒るからな」

 もう怒ってるじゃないの、という言葉は耐えて、先を促す。

「なら、教えてよ」


 謙斗は軽く息を吐いて、ベッドに仰向けになった。

「国王に、泣きつかれたんだよ。もし俺が魔王を倒しても、親子ほども離れた男に娘はやりたくない、って。よくあるだろ、褒美に王女をってやつ」

 既に言いたいことはいくつもあったけれど、私はどうにか頷くだけにした。

「『こっちこそあんな子供ガキはお断りだっ!』って啖呵きったらよ、今度は土下座された」
「え、何で?」

 いけない、もう黙ってられない。

「旅の間、魔導士たちから娘の純潔を守ってやってくれってさ。あの王女、許嫁がいるんだと」
「ああ、あの魔導士たち……」

 謙斗はニヤリと笑って、私の頬を撫でた。


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