* 闇の白虎

jiu

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06.夜の帳が下りる町 1

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久しぶりの教室は、再び転入した時のことを彷彿とさせた。


「佐倉君、怪我したんだって!?」

「肩、もう大丈夫なの?」

(俺は肩を負傷したことになってるのか)

ホッとしつつも瑞稀は薄ら笑いを浮かべて、腕を回したりして回復を表し、やり過ごす。

瑞稀が目を覚まさなかった数日は、担任の池永が生徒に “嘘の” 説明をしてくれたのだろう。それも、直隆の指示で。

そして、瑞稀にとってこの “集団攻撃” は何度体験しても慣れるものではないらしい。


内心うんざりしながら席に着くと、隣はやはり無表情の、だが以前よりは幾分か柔らかい雰囲気になった澪梨が座っていた。


「逃げ遅れたって事?」

「ああ、まあ、そんなとこ…」

それはジトリと疑うような眼差しであったが、何も声を掛けられないよりは、今までよりマシなのかも知れない。


「他の生徒には怪我はなかった?」

「うん、学園長がシャンデリアの落下を引き伸ばして、池永先生が円滑な誘導をしたって全校朝礼で言ってた。池永先生もたまには本気出すんだね」

椎名澪梨、それは言い過ぎではないかと瑞稀は思った。瑞稀の脳内では、池永が落胆していた。


当然鬼ごっこは騒動があった時点で中断されたが、半数以上の生徒は課題をクリアしていたため、行事自体は終了という形になった。

多目的ホールの復旧は進んでおり、生徒にとってはいつもの、日常的な生活が戻りつつあるようだ。

なんの前触れもなく、嵐のように過ぎ去っていった騒動は、慎也が言うように、自分を狙ったものかも知れない…と、瑞稀は思わずにはいられない。


(平和を望むのは…俺には贅沢かな)

退屈な座学を受けながら、外を見て目を細める。

昼間の青い空に、薄っすらと月が透き通っていた。


『慎也、明日遠出しよう』

授業の途中だが、不意に思い立って、精神感応テレパシーを慎也に送ってみる。

するとガタッと音を立てて慎也が、いきなり立ち上がった。
瑞稀を含むほぼ全員の視線を受けて、すぐに恥ずかしそうに席に着いたが、よほど唐突で驚いたのか。
少し顔を赤くして、瑞稀をチラッと睨む。


『急に何だよ…!』

『いや、そんなに驚かれると思わなくて、ごめんって』

言葉とは裏腹に、瑞稀は揶揄うように笑った。
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