転生おめでとうございます

こおり 司

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陰と陽の鬼⓷

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 繁華街を練り歩くこと数時間、あれから追加で五体の陰の鬼を狩ることに成功したウーは上機嫌だった。
 この狩りで陽太が学んだことといえば、陰の鬼の中でもランクがあるということだった。
 ランクが上ーーつまり、より多く人間の生気を吸収した陰の鬼は、見た目がはっきりし鬼らしい姿へと変化していくようだ。
 今日見た中では、コアラのように腕にしがみつく陰の鬼が、輪郭や四肢が判断できる程度にまで全身が形造られ、陽太の知っている鬼像に一番近い見た目をしていた。
 狩りをするのはもっぱらウーで、マオマオと陽太は傍観に徹していた。
 ほとんどが意思を持たず本能で人間に取り憑いているようなレベルの陰の鬼ばかりだったかららしい。
 ようするに、二人で対処する必要性がなかったのだ。
「その時々で陰の鬼の当たりって全然違うの。今日みたいに弱い鬼ばかりの時もあれば、二人で協力しないと狩れない時もあるし、見つかる数もまちまち。ハンターって一発当てれば大きいけど、収入は安定しないから副業にしてる鬼たちも一定数いるんだよね」
 いつの間にか能力を使う機会が訪れないマオマオとの会話が中心になっている。
 もちろん、ウーの働きぶりを無下にしているわけではない。
 陰の鬼を狩るたびに、戦利品である角を見せにくる姿は懐いた犬が寄ってくる姿のようで悪い気はしない。
 その度に「よかったな」「凄いじゃん」なんて感想を述べることは怠らなかった。
「転生者はみんなハンターになるのか?」
「そんなことないよ。陰の鬼と戦う手段を持ってるってだけで、強要じゃない。まぁ、一回は声が掛かるだろうけど、それも能力が開花しないと意味ないし。能力が開花してもハンターにならずに社会生活送るのも珍しいことじゃないから。ヨータだってわざわざ危ない目に遭おうとか思わないでしょ?」
「確かに」
「私たちみたいにハンターやってる連中が少しズレてるんだと思う。だから、連れてきてなんだけどヨータも無理にハンターになろうとしなくていいからね」
 ーーマオマオはどうしてハンターになったんだろう。
 陰の鬼退治に積極的でもないし、ハンターの自分を下卑するような言い方。
 好きでハンターをやっているわけではないのだろうか。
 さっきの会話を思い出すに、
 ーーウーのため、とか?
 ありえない話しではなさそうだ。
 この疑問をぶつけるにはまだ十分な関係性が確率されていないので、無遠慮に質問するつもりもないが、鬼もそれぞれの生き方や考え方、感じ方があるのだと改めて実感した。
 繁華街を抜けると、急に人通りがまばらになる。
 すでに営業を終了した店やビルばかりが立ち並んでいるので、繁華街からの明かりがぐっと減ったせいだろう、コンビニやチェーン店のファミレスの明かりが妙に生々しく主張している。
「なー、あそこでなにか食ってこうぜ」
 ファミレスを見たせいで己の空腹に気が付いたらしいウーが提案する。
「ここはお姉さんが奢ってあげるから安心しな。ここまで無理やり連れてきちゃったのもあるし」
 陽太の背中を叩きながらウインクをするマオマオに、瞬時にどう返せばいいのかわからない。
 喜べばいいのか、拒否すればいいのか。
 人付き合いの記憶がないとこういう時不便である。
「ありがとう、ご馳走になります」
 とりあえず思案した結果、無難な回答に落ち着いた。
 奢ってもらえるのは素直に嬉しいし、マオマオも笑っているのでこの選択は正解だろう。
 ここにきて陽太もまた、自分がお腹を空かせていることに気が付いた。
 そういえば、夕食を食べていない。
 ウーに襲撃されそのままの流れで人間の世界で陰の鬼狩りのレクチャーを受けていたのだから、食事をする暇もなければ考える余裕もなかったのだ。
「なー、早くいこうぜー!」
「今行くから待って!」
 遠くで待っているウーを追いかけてマオマオが走り出す。
 二人に着いてい行こうと足を速めようとした時、微かに踏切の音が聞こえた。

「ねぇ、陽太は私のことどう思ってる?」

「――えっ?」
 さぁっ、と一陣の風が吹く。
 隣に少女が立っていたような気がしたので視線を向けたが、そこには迷い犬のポスターが貼られた電柱があるだけだった。
 ――気のせいか?
 気のせいにしてはずいぶんとはっきり声が聞こえたのだが。
 もう一度見回すも、少女の姿も形もない。
 ここまでくると本当に幻覚、幻聴だったのかもしれない。
 まだそんな年齢ではないと思うのだが。
「ヨータ、どうしたのー?」
「……なんでもない、今行く――」

「お父さん」

 今度ははっきりと聞こえた。
 幻聴じゃない。
 先程は聞こえた少女のものとは違ったが、幼さの滲む子供の声が父親を呼んでいる。
「お母さん」
 しきりに両親を呼ぶ声がどこから聞こえるのか探してみれば、ビルとビルの間の細い路地に蹲っている小さな影を見つけた。
 まだ幼い子なのだろう、しきりに両親を呼び続けている。
 迷子か。
 繁華街に家族で出かけたはいいが、そこではぐれてしまったのかもしれない。
「お父さん、お母さん」
「大丈夫か?」
 このまま放っておくこともできずに、声をかけながら近づいていく。
「お父さんとお母さんとはぐれたのか? だったら――」
「ヨータ!」
 急な呼び声に振り返ると、血相を変えたウーとマオマオがこちらに走ってきているところだった。
「おなかすいた」
 耳元で聞こえた声に、鳥肌が立つ。
 慌てて視線を戻すと、目の前には鋭い牙の並ぶ大きな口があった。
 ここまできてようやく理解した。
 陽太が子供だと思い込んでいたのは、隙を見つけてこちらを襲おうと画策していた陰の鬼だったのだ。
 心のどこかでたかを括っていた。
 今日の陰の鬼狩りを見学していて、あいつらはそんなに危険なものではないのだろうと、なんの根拠もないのに思い込んでいた。
 事前にマオマオから忠告されていたのに、やはり話だけでは他人事になりがちだ。
 こんなところに自分を襲うような陰の鬼はいない。
 いたとしてもウーとマオマオが狩ってくれる。
 だから大丈夫だと、無意識に油断していた。
 その結果がこれだ。
 目の前には陽太の顔面を食いちぎろうと大口を開ける陰の鬼。
 後方には必死で走ってはいるが間に合いそうにないウーとマオマオ。
 戦う術を持たない、陽太。
 ――詰んだ。
 まさにその一言に尽きた。
 思考も止まり、身体も動かないので逃げることもできず、ただただ牙が肉に食い込むのを待つしかなかった時。
「こらこら」
 そんな声と共に陰の鬼の頭が吹っ飛んだ。
 頭はサッカーボールのように地面を転がり、身体が支えを失いぐしゃりと地面に崩れ落ちる。
「陰の鬼には陽の鬼を襲う習性があるから気を付けるようにと誰も教えてくれなかったんですか?」
 信じられないとでも言いたげな表情でリャオがそこに立っていた。
「おやおや」
 リャオの姿を見るや、腰が抜けて地面にへたり込む陽太を面白そうに見下ろしている。
「陽太くん、もう大丈夫ですからね」
「ははっ」
 身体にすっかり力が入らないのに、安堵の笑い声だけはなんとか絞り出すことができた。
 だから早く弁明しなくては。
 陰の鬼の習性を聞いていたのに油断した自分が悪いのだと。
 ウーもマオマオも親切に説明をしてくれたのだと。
 言いたいのに、言葉が出ない。
 そんな陽太を、リャオは変わらずにこにこと眺めていた。
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