11 / 11
春の日
しおりを挟む
淡い春陽の中を妖精が舞っている。
「こっちの制服も可愛いね」
と、りんは姿見の前でポーズを取りながら笑った。
「りんちゃんが可愛いから何でも似合うだけよ」
そう言うと、なぜかりんは浮かない顔で俯く。
「どうしたの?」
「冬休みが終わったら家に帰るって決めたのは私なのに、本当に戻ってきてよかったの? 結《むすび》ちゃんもいるのに」
結は、紬の娘の名前だ。りんが冬休み明けにこの家を出て行ってから生まれたのだ。
しかし、そんなことを気にかけるなんて。
「りんちゃんはさ、もっと、甘えていいんだよ?」
りんは、驚いた顔を向けた。
「でも、私、美海ちゃんみたいに」
「私も、高校生の時なんかひいじいちゃんやひいばあちゃんに一杯甘やかされて生きてたしね」
笑いかけて抱きしめた。それは慰めや励ましのためじゃなく、りんが可愛くて思わずだ。意外や、りんは嫌がる素振りも振り払うしぐさもしなかった。
ああ! これ! 心を開いてくれてるんじゃないかしら!
つれない野良猫を手なずけたときの高揚感が襲ってくる!
思わず頬ずりしそうになった時、紬の声が響いた。
「りんちゃーん! 陽向くんが迎えに来てくれたわよー!」
「えっ? えっ?」
分かりやすく動揺している姿は何て微笑ましいのだろうか。
「私が頼んだのよ。学校まで送ってあげてって。そしたら配達ついででよければかまへんよってさ」
「なっ! 別にいいのに!」
りんは強がりながらも嬉しそうに、玄関に駆けていった。
「微笑ましいよねぇ」
りんの後姿を見送りながら紬が言った。腕の中には小さく愛おしい命が眠っている。
「ほんとそうね」
言いながら、紬と結びを思わず抱きしめる。
ああ、なんて愛おしいのかしら?
「ねぇ、美海ちゃんは結婚しないの?」
昔から、この子は自分のこと以上に私の心配をしている。
「私はね、一人がいいの」
凪のような人生が好きなのよ。
それは口に出しては言わなかった。
だけど、力強い波を見つめるのは好きなのよ。
紬や結び、りんたちはこれからどんな人生を歩んでいくのかしら?
それをそばで見られる私は、本当に幸せ者だと思うわ。
「私ね、美海ちゃんは色んなことありすぎて、人生諦めちゃったんじゃないかって思ってたんだけど。でもきっと、違うね。美海ちゃんは、本当に自立した女性なんだよね。母親と正反対の……あの人は自活してるけど自立なんてしてないじゃん? 男に依存しまくりのさ」
「そっか、だからか」
得心がいった。ここまでがむしゃらに生きてきた私は無意識に、だけど強く、母のようにはなりたくないと思っていたのだろう。
不本意だが今の私は、母が作ったということだ。
本当、親子って不思議ね。
親なんて必要ないなんて、本気で思う子などいいないのだ。
りんも、紬も同じだ。
紬はこれから、母とは違う愛情を我が子に注ごうと必死に生きていくだろう。
りんは?
りんは、これからどうするだろう?
何かが欠けたままでも生きていくことはできるけど、きっと、どこかで苦痛になってくる。
私は、それをサポートしてあげられるだろうか?
いいえ、そんなおこがましいこと。
あの子は強い子だ。私なんかよりうまく乗り越えて生きていくだろう。愛する人をたくさん見つけて。
私?
私は、今日もぽっかりと空いた穴を埋めるように、たくさんの手仕事に満たして生きるだろう。
さあ、私が必死で繕った楽園を、今日も一日守っていこう。
「こっちの制服も可愛いね」
と、りんは姿見の前でポーズを取りながら笑った。
「りんちゃんが可愛いから何でも似合うだけよ」
そう言うと、なぜかりんは浮かない顔で俯く。
「どうしたの?」
「冬休みが終わったら家に帰るって決めたのは私なのに、本当に戻ってきてよかったの? 結《むすび》ちゃんもいるのに」
結は、紬の娘の名前だ。りんが冬休み明けにこの家を出て行ってから生まれたのだ。
しかし、そんなことを気にかけるなんて。
「りんちゃんはさ、もっと、甘えていいんだよ?」
りんは、驚いた顔を向けた。
「でも、私、美海ちゃんみたいに」
「私も、高校生の時なんかひいじいちゃんやひいばあちゃんに一杯甘やかされて生きてたしね」
笑いかけて抱きしめた。それは慰めや励ましのためじゃなく、りんが可愛くて思わずだ。意外や、りんは嫌がる素振りも振り払うしぐさもしなかった。
ああ! これ! 心を開いてくれてるんじゃないかしら!
つれない野良猫を手なずけたときの高揚感が襲ってくる!
思わず頬ずりしそうになった時、紬の声が響いた。
「りんちゃーん! 陽向くんが迎えに来てくれたわよー!」
「えっ? えっ?」
分かりやすく動揺している姿は何て微笑ましいのだろうか。
「私が頼んだのよ。学校まで送ってあげてって。そしたら配達ついででよければかまへんよってさ」
「なっ! 別にいいのに!」
りんは強がりながらも嬉しそうに、玄関に駆けていった。
「微笑ましいよねぇ」
りんの後姿を見送りながら紬が言った。腕の中には小さく愛おしい命が眠っている。
「ほんとそうね」
言いながら、紬と結びを思わず抱きしめる。
ああ、なんて愛おしいのかしら?
「ねぇ、美海ちゃんは結婚しないの?」
昔から、この子は自分のこと以上に私の心配をしている。
「私はね、一人がいいの」
凪のような人生が好きなのよ。
それは口に出しては言わなかった。
だけど、力強い波を見つめるのは好きなのよ。
紬や結び、りんたちはこれからどんな人生を歩んでいくのかしら?
それをそばで見られる私は、本当に幸せ者だと思うわ。
「私ね、美海ちゃんは色んなことありすぎて、人生諦めちゃったんじゃないかって思ってたんだけど。でもきっと、違うね。美海ちゃんは、本当に自立した女性なんだよね。母親と正反対の……あの人は自活してるけど自立なんてしてないじゃん? 男に依存しまくりのさ」
「そっか、だからか」
得心がいった。ここまでがむしゃらに生きてきた私は無意識に、だけど強く、母のようにはなりたくないと思っていたのだろう。
不本意だが今の私は、母が作ったということだ。
本当、親子って不思議ね。
親なんて必要ないなんて、本気で思う子などいいないのだ。
りんも、紬も同じだ。
紬はこれから、母とは違う愛情を我が子に注ごうと必死に生きていくだろう。
りんは?
りんは、これからどうするだろう?
何かが欠けたままでも生きていくことはできるけど、きっと、どこかで苦痛になってくる。
私は、それをサポートしてあげられるだろうか?
いいえ、そんなおこがましいこと。
あの子は強い子だ。私なんかよりうまく乗り越えて生きていくだろう。愛する人をたくさん見つけて。
私?
私は、今日もぽっかりと空いた穴を埋めるように、たくさんの手仕事に満たして生きるだろう。
さあ、私が必死で繕った楽園を、今日も一日守っていこう。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる