Alone Together

しち

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かくれんぼは苦手なんだよね

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 子どもの頃、かくれんぼが苦手だった。じっとしてられない子どもだったってのもあったけど、ひとりで息を殺してるのの何が楽しいのかイマイチ分からなくて。どっちかというと自分の足で探し回れて見つけた時に喜びがある、鬼の方が好きだった。
 イオは、弟は隠れるのが得意だったな。割と大人しい子だったし、家でもじっと何かに集中してることが多かったから、本気で隠れられるとなかなか探し出すのに苦労した。
『イオ見つけた!』
 でもどうにか見つけた時に俺だけに向けるパッと明るい花が開いたような顔は、俺にとって最高のご褒美だった。

 週末の遠征から帰ってきて、家路を急ぐ。空の上、ごうんちで待ってるね、って弟からの他愛のないメッセージに頬を緩めて、「何?女から?」ってチームメイトにからかわれたのがつい2時間前。
 空港に停めていた車を法定速度の範囲内で飛ばして、自分ちのマンションが見えてきて速度を落として地下の駐車場に入れようとウインカーを出したとき、エントランスからひょっこり出てきたイオを見つけた。
「あれ?どこ行くの?」
「あ……ごうおかえり。メイク落とし持ってくんの忘れたから買いにいこっかなって」
「まって、俺も行く。駅んとこ?」
「ん、ドラッグストアあったよね?」
「車停めてくるから待ってて。あ、このまま乗ってく?」
「天気いいからちょっと歩こうかなって。今日いちんちスタジオに缶詰だったし」
 めずらしいな、と思いつつ、確かにあったかくなり始めた最近は、夜の空気もずいぶん穏やかで気持ちいいモノになってたから、イオの気持ちもわかる気がして「じゃあやっぱり車停めてくるから、そこで待ってて」と早口で言ってアクセルを踏む。「はい~慌てないでいーよ」ってゆるく手を振るイオの穏やかな声が閉まりかけた窓の外から聴こえて、ああ帰って来たなぁって、うれしくなる。


「それでそんときマリさんがね」
「あ、あそこがかっこよかった、第4だっけ?タイムアウトの後のいきなりスリー」
「あのファウル、ケガするかってヒヤヒヤしたよ。ごうの試合は相変わらず心臓に悪い」
 突然の散歩タイムにご機嫌になったイオは、歩きながら仕事の話やおれの試合の感想なんかを表情豊かに話してくれる。
 おれもうんうん、って相槌打ちつつも、遠征先のホテルの下のコンビニで買ったイオが表紙の雑誌の感想とか、アメリカから新しく加入したPGの子がなんと俺らが行ってたエレメンタリースクール出てるんだって、なんて話をして、あっという間に目的の店まで着いた。
「あ、コレCMの話きてるんだよね、買ってみようかな。そのうちサンプルもらえるかもだけど」
「へぇ。俺も使っていい?」
「いいけどごうメイクする?」
「しない」
「ふふ、意味ないじゃん」
 なんて笑いながら手を伸ばすイオが愛しくて、目を細めてると「ごう、顔やばいよ」なんて言われてごまかすように別の棚に目を向けたりして。
「あ」
「なに」
「ゴムもうないんだった」
 呟くと、イオは耳を赤くする。「そういうこと口に出すかな……」
「一応小声で言ったけど。買っていい?」
「……いんじゃない」
 ぶっきらぼうな声に笑って、真っ赤な耳に唇を寄せて待ってて、って目的に向かっていこうとしたとき、突然声を掛けられた。
「あの、青田豪くん……ですよね?」
 振り向くと俺より30㎝くらい背の低い、髪の長い子とボブの子、二十代くらいの女の子二人組が立っていた。白いニットに白いコート、スカートにブーツで、姉妹みたいに見える。けどたぶん友達同士なんだろう。俺が「あ、……はい」と言うと、少し抑えた歓声のような声を上げて手を握り合いながらその場で何度か跳ねた。
 あーゴム持ってなくてよかった、と心底思いながらどっか行ってな、と視線送ろうとしてイオの方を見ると、「え、もしかしてイオ……くん?」とボブの子が気付いた。
 イオはまだ耳を赤くしたまま、目つきを尖らせたまま無言で視線を逸らした。冷たい態度に見えたのか、女の子たちが困ったように俺を見る。緊張したり、驚いたときのイオのクセなんだけど、多分知らない人には態度悪く見えるよね。
「えっと……仲良いんですね、こんなところで二人でお買い物なんて」
 言われ慣れた言葉にイオが小さく「こんなとこでごめんね」とぶっきらぼうに言う。動揺してるなぁ、と思いながらその肩をトントン、と叩いて、「俺が試合から帰って来たばっかで、家の中色々切らしてるから買い物に付き合ってもらってるんですよ」と笑うと女の子たちは「あ、試合観ました配信で」「今度代々木観に行きます」と口々に言う。
 ブースターさんかぁ。本当に危なかったなぁ、と思いながら「応援ありがとうございます」と笑って手を出すと、二人はもう不機嫌そうなイオのことは気に掛けず、「応援してます」「頑張ってください」と口々に言いながら俺の手を握り縺れ合うようにして店の外に消えて行った。
「よし、貸してそれ。買ったげる」
 手を出した俺を、イオはじとっとした目で睨む。
「え、なに」
「ごうって意外と嘘つきだよね」
「知らない人に1から100までホントのこと言ってもしょうがないでしょ」
 流石にあの後にゴム買いづらいなぁ、やっぱネットで買お、と思いながら「行くよ」ってその腕を引くと、唇を尖らせたままイオは俺についてきた。かわいいなぁ。もうさっきの焦りはどっか行っていて、早くその唇を塞ぎたい、ってことしか頭にない。



「これ、水曜に出るって」
 翌週、練習の合間に広報の田中さんに「青田、ちょっと」と事務室に連れて行かれて、週刊誌のゲラというやつを見せられた。
『青田豪 人気女優本田紗枝と夜の焼肉ミーティング』という大きな見出しとともに、たまたま入り口で一緒になった俺と本田さんが歩きながら喋ってる写真が掲載されている。
「え、これ。この前のやつですよね?」
「うん、他にいたスタッフとか関係者、全部いなかったことになってるね」
「もう出ちゃうんですか?」
「まぁ止める力はないよね、一バスケチームに。一応訊くけど」
「『二人きりで焼肉を楽しんだ後はタクシーを捕まえてホテル街に』行ってないですし『W杯のスペシャルサポーターに推薦した』のも俺じゃないですし『本田が全日本チームの合宿に同行』してないです。知ってますよね田中さん」
「うん。まぁ先方の事務所がでかいから、とりあえず対応窺って合わせとくけど」
「……すみません」
「別に青田が謝ることじゃないだろ。彼女とか大丈夫か?」
 気遣ってくれる田中さんに「まぁそれは、大丈夫です」と笑って練習に戻って、まず何よりもイオに連絡だな、と思う。水曜なんてもう明後日だ。イオがいつ記事を目にするか分かんないし(ネットにも載るだろうから見ちゃう気がする)こんなの目にしたところで真に受けるとは思えないけど、繊細なところのある子だから、不用意に傷つけたくない。
 休憩中に【話があるんだけど】とLINEするけど、すぐには既読がつかなかった。まあ仕事中だしな、と切り替えて、練習に励む。練習後電話してみよう。


「というわけで、こんなのが出るけど、全部嘘だし。焼肉には行ったし一緒にごはんも食べたけど、他に大勢スタッフさんもいたからね?」
 撮影が押してるって言われて結果的にイオの家に押しかけたのは22時を回っていた。
 コピーさせてもらったゲラをテーブルに置くと、お風呂上がりのイオはそれに視線を落として「ごうこんなライダース持ってたっけ」とぼんやりとした口調で言う。眠いのかもしれないな、と思いながら、「あ、それこないだ展示会で買った。かっこいいよ今度見せたげる」と答えて、「庵?」と名前を呼ぶ。
「あ、……ごめん、うん、わかってる。大丈夫。こりゃまたビッグネームだなぁってちょっとびっくりしただけ」
「人気者だからね、本田さん。迷惑かけなきゃいいけど……」
「ごう刺されんじゃない、向こうのファンに」
「え、怖すぎ……焼肉食べただけだよ?」
「命がけの焼肉だね」
 ふふ、と笑うイオの後ろに回って、まだところどころ水滴を纏っている髪をバスタオルで優しく拭く。
「俺は、イオだけだから」
「知ってる~」
「うん、伝わってるならいい」
「……週刊誌のタチの悪さも知ってるよ、だから心配しないで」
 タオルを持った俺の手の甲を、イオがひんやりとした手で掴む。そのまま上半身をねじって俺を見上げた。
 お風呂上がりなのに手、こんなひんやりしてて大丈夫かな、またロクに湯船に浸からずに上がったんだろうな、と思いながら、半開きの唇に吸い寄せられるように自分のを合わせる。
「ん……っ、」
「はぁ……すき、イオ……」
 薄くて柔らかい舌に、誘われるように自分のを絡めて。絨毯の上にそっと押し倒して、どんな角度でもぴったりと馴染む唇をまた重ねる。
 髪を、乾かしてあげなくちゃ。湯冷めしちゃう。そもそもゴム……ここにあるのかな。こないだもしたのに、身体、大丈夫かな……。
 いろんな想いが頭をよぎるけど、それはイオの「じゅんび……してきた、から……」という囁きで全部吹っ飛んだ。
「ごぉ……抱いて……」
 その言葉に、唇に、身体に、溺れるように沈んでいく。


 翌朝、イオのベッドの上で目覚めたらイオはいなかった。
【仕事行ってくるね。試合がんばって~】
 なんてメモを残して。
「起こしてってくれたらいいのに……」
 家主不在でどこかガランとした部屋に、自分の掠れた声が響く。

 水曜はホームゲームだった。入りの時とかお客さんの前に出る瞬間はちょっとだけ緊張したけど、客席から軽いヤジが飛ぶくらいで刺される気配はなかったからホッとして。
 本田さんの事務所も当然交際を否定した上で複数人の関係者との食事会でした、と発表してくれたから、田中さんもウチも同じようなコメントが出せてよかった、と笑っていた。でも否定したからってハイそうですか、ってなるわけじゃないしSNSは見るなよ、と釘を刺されたけど、まぁバスケ以外のことで何かを言われても俺はそんなに気になる方じゃないし。
 アップの時から何となくファンの人からの視線が重い気がしたけど、コートを蹴ってボールに触れるとそんな重さもすっかり忘れて、俺はゲームに没頭した。調子も悪くなくて、4クオーターほぼ出ずっぱりだけどもっとコートにいたいと思ったくらいで。チームも勝ったし、会場を出るときももちろん刺されるなんてこともなくて、なんとなくホッとしながら車の中でイオにメッセージを送る。
【勝ったよ!今日は?家来る?】
 返事は割とすぐ返ってきた。
【おめでと。今日はやめておこうかな】
【体調でも悪い?俺行こうか?】
【ううん大丈夫。ちょっと疲れてるから今日は早く寝るわ】
【OK。しっかり休んでね】

 それから会わないまま数日が経って週末はまたホームで試合で、来週はまた遠征だからイオの顔見ときたいなぁ、でも忙しそうだし、あんまり疲れさせるのもな。俺イオがいたらついがっついちゃうし、イオは俺に比べたら体力がある方じゃないし、受け入れる側の負担もあるだろうし、って考えたら何となく誘いにくくて、結局そのまま俺から連絡はしないで、またイオに会わないまま遠征で家を空けることになった。

「ただ……いま?」
 ひとりの時もいつも口にしている挨拶。語尾が上がったのは、自分のものじゃない靴を見つけたのと、廊下に灯りがついていたから。
 イオだ。移動の疲れが一気に吹き飛ぶ感覚がして、急いでスニーカーを脱ぐ。
「イオ?」
 でもイオはリビングにもダイニングにもいなかった。定位置のソファの前のローテーブルに雑誌が置いてあるから、ここにいた気配はあるんだけど。
 トイレかな。そう思って一旦洗面所で手を洗って、「イオ?」ドアの前から声を掛けてみるけどトイレにもいない。まさかもう寝た?と思って寝室のドアを開けると、やっぱりイオはそこにいた。
「イオ……ただいま」
「ん……ごぉ?」
 俺は息を呑む。
 暗い部屋、廊下の灯りを頼りに目を凝らしながら近づくと、イオは俺の部屋着を着て、俺のインナーとか、ジャージとか、割と良く着てる服をたくさんベッドに持ち込んで布団にくるまりながら顔を埋めていた。
 少し乱れたふわふわの髪に手を伸ばして、そっと撫でる。
「なに……さみしくなっちゃった?」
「ちがう、けど……」
「来るなら言ってよ」
「……メーワクだった?」
「違う。もっと飛ばしたのにってこと」
「あぶないよ」
「おれ運転得意なの知ってるでしょ。電気つけるよ?」
 そう言ってサイドテーブルの照明をつける。暖色のもと、イオはちょっととろんとした目で俺を見る。目の縁が少しだけ赤い。眠くて擦ったみたいな色にも、ほんのちょっと泣いた後にも見えた。
「寝てた?」
「ん……ちょっと」
 その言葉が本当かどうか確かめようとして、そっと頬に触れる。いつもよりあったかいような、そう変わらないような。
 もそもそと布団の中から出した手には、スマホが握られていた。見てるうちに寝落ちしちゃったのかな、俺もよくあるんだよね、じゃあやっぱり本当に寝てたのかもしれない、と思ってたら、イオが静かな声で話し始める。
「ごう、って愛されてるよね」
「ん?何のこと?」
「あの週刊誌のやつさぁ、悪く言ってる人ほとんどいなかった。『内容は嘘くさいけど正直お似合い』とか向こうのファンの人も『仮に本当でも青田豪なら仕方ない』とか」
「……何見てんの」
「ごめん。おれも別に見る気なんてなかったし、でもこの間撮ってもらったカメラマンがさぁ、本田さんと知り合いらしくて」
「……」
「『お兄さん、好感度凄いですね。この手のスキャンダルでここまで祝福ムードなの珍しいし、本田ちゃんも結構悪く思ってないぽいですよ、って』
「イオ」
「単純にすごいなぁって思ってさ、つい気になって見ちゃ」
 イオの手からスマホを奪って、その辺に軽く投げた。ぽす、と音がして、イオが「ごぉ……?」と不思議そうな声を出す。
「だから先週来なかったの?」
「……べつにそういうわけじゃ」
「こういう風に祝福される相手の方が、とか考えた?」
「……だって」
「だって何?俺は『イオだけだよ』って何回も言ってるよね?」
 ちょっとイライラした声を出してしまう俺に、イオがぎゅっと、周りに散らばった服を握った。白くなるくらいに硬く握られた手を見ていたら、心のトゲトゲがちょっと凪いで、護りたい、という気持ちが強くなっていく。
「……不安になっちゃった?だから俺の服」
「ごめ……シワに」
「どうでもいい」
 服ごとぎゅ、っと強くイオを抱き締める。自分ちの柔軟剤の匂いと混じっていつものイオの香りがして、護りたい、愛おしいという気持ちが棘を全部包んでしまった。
「どうでもいいよ、世間の人の反応とか、服のシワも。イオに比べたら、何もない」
「ごう……」
「好きだよ、イオ。だから不安にならないで、笑って」
 祈るように言って、キスを落とす。ちゅ、とかわいい音がしてふ、と笑ってしまう。笑った俺を見て、イオもようやく、微かに笑った。
「……おかえり。ごう」
「ただいま。ねぇ、ごはん食べた?」
「ううん、まだ」
「俺もまだ。何か買いに行こうか。今から作るのも遅くなっちゃうし」
「ん……でも、大丈夫かな」
「大丈夫だよ、行こう」
 そしてイオをベッドから引っ張り出して、エレベーターの中でもう一度、今度は深いキスをした。


 たぶん、あの川のほとりでそろそろ咲いてると思うんだよな。イオは歩いてるうちに徐々にいつもの調子を取り戻して、離れてる間にあったことなんかをポツポツと話してくれた。
「イオ」
 俺はイオの手を取って、パーカーのポケットに入れる。
「ごう」
 イオはちょっと咎めるように言ったけど、「夜だし暗いし誰にも見えない」と言うと黙って俺に手を握らせていてくれた。
「大丈夫だよ」
 俺達が夜道でひっそり手を繋いでることなんて、相当近付いてみないときっと誰にも分からない。そう思いながら、じっと後ろを見る俺に「ごう、どうしたの?」と無垢な目でイオが聞く。
「なんでもない。行こ」

「うわ……すご……」
「やっぱ咲いてた。週末東京暖かかったんだってね」
「え……コレ見せに来てくれたの?」
「うん。ここ結構穴場なんだよね」
 家から数分のそこは橋の上から舗装された小道に降りられるようになっていて、川の周りにはたくさん桜が咲いている。イオはうっとりと見上げて、「すご……花びら、雪みたい」と笑う。桜の木は結構高さがあって、時々吹く風に舞って落ちてくる花びらは確かに雪のようだった。
「イオ、頭」
 フットライトと街灯の控えめな灯りの下ではほとんど白に見えるイオの髪に、ピンクの花びらがいくつか乗っていて、その可憐さに笑ってしまう。
「え、なに?」
 俺はゆっくりと手を伸ばして、それを抓んでイオに見せる。
「かわいいことになってたよ」
 そう言ってちょっと揶揄うように笑うと、イオはいつもの生意気な口調で「ごうだって絶対なってるよ、ちょっと頭見せてみな」と言った。
「嫌です~」
「あ、ちょっとでかいからってずる」
「イオ手伸ばしても届かないでしょ」
「届くわ。モデル舐めんな」
 軽く追っかけ合いながらじゃれ合う俺達を捉える人工的な光を視界の端に感じながら、俺は朗らかに笑って見せた。

『青田豪、人気モデルの弟と夜桜デート!?』
 翌週、この前と同じ雑誌に載ったのは、「なんだか牧歌的だな」と田中さんに笑われた俺とイオの記事だった。
 俺とイオが並んで歩くところ(後ろから撮った、しかも夜ってこともあって手を繋いでるのは分からない)と桜を見てるところ、イオの頭にのった桜を取って追っかけ合いをしてるところがバッチリ映っていて、【やっぱ彼女より弟だよね。紗枝ちゃんでもぜんぜん祝福するけど】【さすが青田兄弟w】【想像以上に仲良くて五体投地】なんてコメントで溢れている、らしい(五体投地ってなんだろ)。俺は見てないし田中さんによると、だけど。
「本田さんとの確定写真狙ったんだろうけど、これしか撮れませんでしたってわけだ」これで週刊誌も諦めるだろ、そう続けて田中さんはおかしそうに俺の肩を叩いた。
 

「ごう、コレ気付いてたろ」
 仕事帰り、連絡なしで家に来たイオは、怒ってるのか戸惑ってるのか、複雑そうな表情で俺を睨む。
「え、なにいきなり」
「カメラマンいるの気付いてて……わざと撮らせたんだろ」
 白い頬がちょっと紅くなっていて、かわいいなぁと思う。驚かせてしまって悪かったな、とも。でも、俺にだって譲れないものはある。
「……コレが普通だって、思われた方がいいでしょ」
 イオが俺の真意を問うように、形の良い眉をピクリと顰める。無意識かちょっと尖った唇に、触れたい気持ちを抑えながらなるべく優しく、言い聞かせるように言う。
「俺たちはこれくらいが普通だって、思ってもらった方がいろいろ、ちょっとは安心だし」
「……」
「ふたりでいるところにいきなり声掛けられて、イオが怯える必要も少しはなくなるかも」
「おびえて、なんか……」
「もちろん外ではちゃんと兄弟しないとだけど、ね」
 手繋いだのはごめん。でもキスしなかっただけ褒めて欲しい。桜をうっとり見つめるイオ、儚くて怖いくらいキレイで、抱き締めてしまいたい気持ちを必死で抑えたんだから。
「……熱愛、誤魔化すためじゃないかって言ってる人もいるよ?」
 イオの言葉に、笑ってしまう。だからそんなのはどうでもいいんだって。
「イオは、そう思う?俺が本田さんと熱愛?してて、それを誤魔化すためにイオと撮られたんだって」
「思わない」
「じゃあ、それでいい」
 もういいかな、そろそろ我慢の限界なんだけど。
 俺はまだ不安そうなイオの小さな、でもぷるぷると肉感的で柔らかな唇に触れて、「キスしていい?」と伺いを立てる。
「いちいち……きかなくても……」
 おれがイヤって言うワケないじゃん、とぼそぼそ言った弟の愛しい唇を、自分のそれで性急に塞ぐ。
「好きだよ……ホントに、イオ以外は全部どうでもいいって思っちゃうくらい」
「お、れも……」
 啄むようなキスをしながらゆっくりとその身体を横たえる。
「……かくれんぼは苦手なんだよね」
 俺の下で不思議そうな顔をする弟のほっそりとした首筋に噛みつくように触れる。
「ひっぁ、……ごぉ……っ」
 白い脚が空を蹴り、テーブルに置かれた週刊誌が落ちる音がした。

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