ー竜の民ー 

assult

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剣竜

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俺たちは鳥を休ませるため、街へ急行した。

モサキチがふらつく。

「おっと、大丈夫か?」

「キュ…」

他の兵士の鳥でさえフラフラだ。
ましてや、傷をおっているこいつは尚更疲れているはずだ。

ヴィルゴが接近してきた。

「なぁ、レイン。さっきの音よ…」

「竜が地面に落ちた音だよな?」
 
「と、いうことはよ…」

「雲の下には、地面があるってことだね。」
俺は冷静に言い切った。

「俺が思うに、竜は雲の下の地面で生活していて、何らかの理由でそれが俺たちの街を襲ってきている。」

「あぁ…なぁレイン、」
「もうひとつ疑問があるんだ…」

「雲の上にも下にも地面があるんだろ?」
「この世の全ての物は下へ落ちていくよな?」
「鳥だって、飛ばなきゃ落ちる。と、いうことはよ…」
「俺たちが住んでるこの島々は、なんで宙に浮いてんだ?」

「わからないよ…そんなこと…」 
俺はなんだか頭が痛くなった。
人類はまだ、知らないことだらけだ。

ふと空を見上げると、雲は消え失せて、ただ剣竜が旋回しているのが見えた。

さっきまで雲があったのと同じ高度を保ち、ただただ飛び回っていた。
街を襲いにいく気配はない。

なんとか全員アクイラへ戻れた。
きっと、司令部から新たな司令が出るはずだ。

「ちょっといいですか?」
シャルドが何かに気づいたようだ。

「剣竜、凄いスピードで飛び続けていますよね?」
「しかし、奴は決して降りてこない。そして、あの長く鋭い角と、前に突き出た大量の爪、つまり…」

「あ!」

「そうです。奴はあの爪と角の重さを利用して降下を繰り返すから動きがはやい。」

「そして降りてこないのは、下に下がりすぎると上空に昇るまで隙だらけになるから、」

「そう。奴よりも高い位置に居れば、奴は攻撃の手段を失う。」

「僕が雲の中で奴を見たとき、奴は僕よりも上の方から突っ込んできました。この考えは、あながち間違いではないかと…」

「確かにその通りかもしれない。奴の高度を下げさせれば、勝機がみえるかもな。」
ランサーさんも頷く。

この情報は三国全土に伝えられ、新たな作戦が考案された。

ランサーさんが読み上げる。

「アクイラ、フローラ、ザギートからそれぞれ4部隊を集め、部隊数を12にする。
それを6つの大隊に分割する。
2つの大隊を中央に配置し、剣竜を引き付ける囮とする。
残りの4つの大隊は東西南北に別れ、剣竜を囲む。」 

「中央の2部隊は剣竜の下に配置し、一方の部隊が狙われている間、もう一方の部隊が剣竜の頭上へ移動し攻撃を行う。
これによって剣竜は中央以外の場所へ移動しにくくなり、その機動力を削げる。
この2部隊は消耗が激しい為、精鋭に任せる。」

「残りの4部隊は先程の2つの部隊が囮をやっている隙に、一斉に空へ急上昇し、剣竜の頭上を位置どる。
東西南北に分けた部隊を全て狙う術は奴にはない。
万が一、囮を突破し、4つの部隊のどれかが狙われたとしても、他の3部隊がその隙に頭上に位置どれれば作戦は成功だ。」

「これは、犠牲を最小限に抑えて奴の頭上へ移動する為の作戦である。」

「アクイラからは第1、第2、第3、第5飛行隊を出す。以上だ。健闘を祈る。」


ランサーさんが言う
「きっと、精鋭の俺たちが省かれたのは雲梯竜討伐任務で疲弊したからだ。だから皆気を落とすなよ。」

(気を落としてなんかいない、むしろ安心した…)

「ただし、先程の作戦が失敗すれば俺たちも動くことになるだろう。だから準備しておけ。」


しばらくして、兵士たちの配置が完了した。

フローラ領に《中央砦》というものがあり、それは天空にある島々の中心に位置する。 
今回の作戦の重要拠点だ。

バーン…

中央砦から信号弾がうち上がる。

中央に配置された2つの大隊が一斉に飛び上がる

「グゴゴゴゴゴゴゴ…」

剣竜が突っ込んで来るがうまくかわす
(さすが精鋭揃いだ…)

竜が囮に夢中になっている。

バーン…

もう一発の信号弾。

四方に配された部隊が同タイミングで上昇していく。

完璧だ。想定通りの布陣が完成した。
中央では囮が竜を引き付け、四方の部隊は竜の頭上にいる。

囮部隊の隊長が叫ぶ。
「総員、退避‼」

囮部隊が一斉に散開。

竜は完全に囲まれた。

「総員、攻撃開始‼」
四つの部隊が剣竜に対して猛烈な攻撃を浴びせる。

竜の周囲は爆煙と閃光でうめつくされ、もはや剣竜の姿が見えないほどであった。

「攻撃一時止め‼」

煙が晴れて竜の姿が浮かび上がってくる。
「グアアァァァァア‼」

「おい、まるで効いてないぞ…」

バシュッ、バシュッ、
竜が上へ羽ばたく

「ま、まずい‼」

シュバァーーーーーッ‼

一瞬で数人切り裂かれた。

「なんてことだ…奴の甲殻、傷ひとつついてない。硬すぎる…」

「上へ!上へ行くのだ‼」
全員上へ向かおうとするが、竜の動きが速すぎて犠牲者が出続ける。

「マックが…喰われた…」

剣竜の青い体は血に染まり、爪と爪の間には肉片が大量に挟まっている。

「殺人鬼め…」

攻撃しては斬られ、攻撃しては斬られを何の打開策も得られぬまま繰り返した。
そしてやっとのことで命中させたこれらの攻撃も、奴の甲殻を砕くに至らないのである。

「総員、撤退‼」
またもこいつに負けた。奴は強すぎる。

兵士たちが戻ってきた。
街はすでに混乱状態にあった。

剣竜はまたも悠々と、ただ空を飛び回る。

「奴は街を襲って来ませんね。」
俺はランサーさんに問いかけた。

「このまま放っておいたら一体どうなるのでしょう?」

「それなんだがな、司令部が驚きの結論を出した。奴を、このまま放っておく。」

「はぁ!?」

「勿論、街の住民は防御施設へ避難して貰う。」

「奴はもしかしたら、死ぬまであそこで飛び続けるかもしれない。」

「どういう意味ですか?」

「俺たちにはわからない。しかし、司令部は、何かを掴み初めているのかもな…」

住民は避難した。
剣竜が空を飛び続けること三日三晩、人類は恐怖に怯え続けた。

そして、その時がやってくる。

シュゥゥゥゥゥゥ…

竜がフローラの街へ急降下を始めたのだ。

ドシン‼
「グォォォォオ‼」

フローラ国民は恐らく全員が死を覚悟をしただろう。

剣竜は、その爪と角、尻尾を使って街を破壊し始めた。

「おい‼司令部の見解は外れているじゃないか‼このままではフローラが滅びる‼」 
兵士が叫ぶ。

ーアクイラ第4飛行隊本部ー

「剣竜がフローラの街を襲っている‼」

「ウソ…」

「これから俺たちは他部隊と共闘し、剣竜を討伐する‼」

「一体どうやって倒すんです!?」

「わからない。しかし、これが司令部からの命令だ。」
そこにいる全員が己の死を悟った。

フローラの街へ向かう。

「火竜の時とは違って、街の被害はそこまででもないようだね。」

剣竜は兵士の姿を発見するなり、ゆっくりと空へ飛び上がり、

シュッ

突進してきた。

第4飛行隊の前列はギリギリかわす。

「あっ…」
目の前に竜の長い角が。

「レイン‼」

ドガッ…

俺は意識を失った。

目が覚めると、俺はベッドの上にいた。

「痛っ!」
自分は全身、包帯グルグル巻きだった。

ガチャッ♪

「調子はどうだ、レイン?」

「バルトさん!ここは一体?」

「中央病院だ。俺はお前の見舞いにきた。」

「なぜ俺はここに居るんです?」

「やはり覚えていないか、実はお前は竜に殺されそうになってな。瞬時に俺がお前に向かって鳥ごと突っ込んで、剣竜の攻撃の軌道から外してやったんだ。」

「そうでしたか‼すみません、本当に助かりました!」

「しかし、お前の様子から察するに、ちと強く当たり過ぎたか。悪い。」

「とんでもないです。」
(後で知ったが俺は全身打撲でした…)

「そうだ!剣竜は!?」

「奴は死んだ。俺たちの部隊へ突進してきた後、奴はもう一度街を壊し始めた。俺たちに目もくれず。そして、暴れ回った後、急に止まってな。」

「近づいて確認してみたら、死んでたんだよ。」

「誰に傷をおわされた訳でもないのにだ。奴はな、“自分がなぜ死にゆくのか分からない”。そんな表情をしていたよ。」

(なんだそれ…)

「あっ、そうだ、俺の鳥は?」

「気絶したお前を乗せて勝手に本部に戻っていってな。幸い俺も、お前の鳥にはぶつからなかったし、切り傷も手当を受け、いたって順調だ。」

ー第4飛行隊本部ー
「ねぇ、ヴィルゴ。」

「なんだトリアン。」

「今回の二匹の竜さ、何かおかしかったよね。」

「何かってなんだ?」

「どこか計画性のようなものを感じた。竜がお互いにカバーしあっていたよね。それに、」

「竜は1000年以上生きるんでしょ?それなのになぜ剣竜は勝手に死んだの?今日がたまたま命日でした、って、そんなことあり得るのかな?」

「それにもうひとつ、竜は規則的な動きしかしなかった。雲梯竜に関しては言うまでもないけど、剣竜は、“敵がいたら突っ込む”、“下に行き過ぎたら上に昇る”、“三日目の夜を迎えたら、何がなんでも街を襲う”。そんな感じじゃなかった?」

「そりゃあ、そういうプログラムに…」

「え…!?」

「ん?今俺、なんか言ったか?」

「え………」
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