占い師は自分の未来は占えない！

〇〇二 占い師、花の都パリに降り立つ！

実質無料でパリにいけるなんて！
しかも仕事で行くから食費だって出る！

打ち合わせに行ったはずの編集部から打ち合わせをせずに帰った私はその足で一階の大家さん宅へ向かい、海外出張で留守にすることを伝えた後、部屋に戻って荷造りを開始した。

そうして翌日、飛行機に揺られること十数時間、私は人生初のパリの地に降り立っていたのだ。
まだ空港内だから正確に言うとパリ市内ではないけど。

「ボン・ジュール！　パリ！」

シャルル・ド・ゴール空港の中心にある円形に突き抜けた空間で交差した透明チュープの中を通るエスカレーターに乗って前衛的な建築物を抜ける途中で私はパリに挨拶した。
大声で言うのは恥ずかしいから、前にいる編集記者の火村さんと女性フォトグラファーの水瀬さんに聞こえる程度の小さい声で言ったのに、エスカレーターに乗っていた前後のフランス人たちからパラパラと「ボンジュール！」という声が返ってくる。
恥ずかしい……けど、悪い気はしない。
フランス人てノリがいいのね。

「ノゾミちゃんはパリは初めてって言ってたわね」

火村さんがくすくす笑いながら振り返る。

「そうなんです！　お仕事だから観光は出来ないってわかってますけど、もうこの空気だけでめっさ楽しいです！」
「あら、観光する時間くらいあるわよ。私はすぐに取材記事を書いて送らないといけないから観光案内は出来ないけど、ノゾミちゃんは好きに観光してきていいのよ」

ここで私は火村さんからパリコレクション――通称パリコレとは、いったいどういうものなのかという超基本的な説明を受けた。
フランス共和国の首都パリで開催される服飾ブランドの「ファッションウィーク」と呼ばれる新作発表会の総称のことなのです。

パリコレと一概に言っても内訳は主に二種類、「パリ・プレタポルテ・コレクション」と「パリ・オートクチュール・コレクション」とがある。

「パリ・プレタポルテ・コレクション」は三月に秋冬コレクション、十月に春夏コレクションが開催される高級既製服の展示会。
プレタポルテ・コレクションで有名なものは、パリ・コレクションの他に、ロンドン・コレクション、ミラノ・コレクション、ニューヨーク・コレクション、東京コレクションの所謂五大コレクションがあるけど、やはりパリで開催されるものが規模が一番大きくて注目度が高いので影響力がある。
参加するブランド数も二〇〇を超えることもあるので、凡そ二週間に亘ってパリ市内のあちこちの特設会場で開催されるらしい。

「パリ・オートクチュール・コレクション」は一月に春夏コレクション、七月に秋冬コレクションが開催されるオーダーメイドの一点物の高級服の展示会。
こちらはプレタポルテの勢いに押されていはいるけど、やはりオートクチュールということで大量生産を考えなくていい分、贅を凝らした予算度外視のコレクションなので格式も高く見応えがある。

私が行くのはこちらの一月開催の春夏物の展示会「パリ・オートクチュール・コレクション」の方で、凡そ三日か四日に亘ってパリ市内のあちこちの特設会場でコレクション・ショーが行われる。
参加できるのはサンディカ正式加盟店とゲストブランドと招待デザイナーだけなので、そう数が多いわけじゃないけど、かなりのハードスケジュールだ。

ちなみに数日ずれた日程で「メンズ・コレクション」も開催されるんだけど、そちらもパリ・コレクションに含まれる。
このメンズ・コレクションの取材も一緒にしてしまう為、早めに現地入りしたというわけ。
メンズ・コレクションとパリ・オートクチュール・コレクションとのインターバル期間は当然取材もなく、自由行動日なのだそう。

「マジですか！　神！　火村さん、神！」

初めてのパリでフランス語だって分からなくて一人はちょっと不安だけど、あちこち回るんじゃなくて一日一箇所に絞って決まった行き帰りのルートを覚えるくらいなら私にも出来そうね。