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最終章 砂漠の薔薇
〇一〇 ミクロンの罠②
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なんでも聖者は比い稀なる治癒能力の持ち主で、その利用価値から悪意を持って近付く者も多く、攫われるのはこれで三回目なのだそうだ。
一回目の詳細は不明だが、二回目は魔王に攫われ、三回目が今回だという。
でも三回って、こいつちょっと攫われ過ぎじゃね?
よくいる足手纏い系ヒロインなのかと思えば、勇者と聖者はどちらも男なのだそうだ。
そ、そうか。「聖女」じゃなくて「聖者」だもんな。
男同士で結婚なんて俺には理解出来んが……でもこのイケメン勇者に迫られたらきっと断れないだろうな。
一瞬でもそう思ってしまうくらい格好良すぎる。
犯人はヴェイラ王国の第一王子マキシミリアン殿下とその腹心の呪術士であることが判明して既に身柄は拘束されているが、実行犯の呪術士は死亡していたため聖者は依然行方知れずで勇者は今も血眼で捜索中。北の宇宙ウルソナの人々にも是非とも協力を求むという言葉で記事は締めくくられていた。
結婚式当日に会場から花嫁が攫われるって幸せの絶頂から一気にどん底に転落じゃねえか。
そんなの洋ドラでしか見たことねえよ。
しかも被疑者死亡で捜索が手詰まりか。
だけど肝心の聖者についての情報がほとんど何も書かれていない。
特徴はおろか名前すらない。
せめてデパートの迷子放送程度の情報は書こうぜ。
こんなんじゃ幾ら協力を求めたって捜しようがないだろ。
まあ流石に不自然だし何か事情があってのことだとは思うがな。
それよりここ、北の宇宙ウルソナって言うんだな。
他にも東の宇宙ルヴァがあるみたいだし、宇宙が二つあるってことはこの世界は俺が思ってたよりずっと広いのか。
昨日は夜も遅かったし疲れていて何も聞けなかったけど、後でナズーリンにこの世界のことを教えて貰わないとな。
「勇者様お可哀想……」
「聖者様も今頃どこでどうなさってるのか、酷い目に遭わされていないといいけど、とっても綺麗な人らしいからもしも変な輩に捕まっていたら……」
「聖者様がどこにいても勇者様が必ず捜し出して助けてくれるよ」
「そうだよね。なんてったってあの魔王を倒した方だもん」
高級男娼三人が何やら深刻な顔でそんなことを話し合っていたが、俺はまだ新聞の勇者の姿絵から目が離せなかった。
ホント、すっげえ格好良い。
いいなあ、俺のことも助けに来てくんねえかなあ。
「なあ、この新聞もう読まないなら俺が貰ってもいいかな?」
「いいんじゃない? ギャレットが朝一で読んでここに放置していったやつだから後は捨てるだけだし」
その後も勇者と聖者の恋バナに花を咲かせている三人を置いて俺は食堂を後にした。
新聞を部屋へ持ち帰り、勇者の姿絵を切り抜くためだ。
鋏もカッターもないから、紙に折り目を付けて裂いたのでちょっと四辺がケバケバになっちゃったけど勇者の姿絵は無事だった。
――勇者エリアス。
姿絵のキャプションにはそう書かれている。
エリアス――その名前は俺が着けていた指輪の内側に書かれてたのと同じ名だ。
『エリアスより愛を込めて』
奴隷商がそう読み上げていただけで俺が自分で見たわけじゃないし、俺の持ち物はもう全て奴隷商に取り上げられてしまったから確認しようがないけど、俺はあのとき婚礼衣装を着ていたんじゃなかっただろうか。
新聞の記事によると、勇者エリアスの花嫁は結婚式の当日に会場から攫われたという。
だったら当然婚礼衣装を身に着けていたはずだ。
まさかそんなわけはない。
だって俺にはまったく覚えがない。
幾ら何でも荒唐無稽すぎる。
だけど重ねずにはいられない。
妄想に取り憑かれずにはいられない。
俺に指輪をくれたエリアスが勇者エリアスだったらどんなにいいだろう。
勇者が俺をこの酷い現実から救い出してくれたらどんなにいいだろう。
俺を助けに来てくれよエリアス――。
新聞から切り抜いた勇者の姿絵を俺は自室の姿見の裏側へ隠した。
一回目の詳細は不明だが、二回目は魔王に攫われ、三回目が今回だという。
でも三回って、こいつちょっと攫われ過ぎじゃね?
よくいる足手纏い系ヒロインなのかと思えば、勇者と聖者はどちらも男なのだそうだ。
そ、そうか。「聖女」じゃなくて「聖者」だもんな。
男同士で結婚なんて俺には理解出来んが……でもこのイケメン勇者に迫られたらきっと断れないだろうな。
一瞬でもそう思ってしまうくらい格好良すぎる。
犯人はヴェイラ王国の第一王子マキシミリアン殿下とその腹心の呪術士であることが判明して既に身柄は拘束されているが、実行犯の呪術士は死亡していたため聖者は依然行方知れずで勇者は今も血眼で捜索中。北の宇宙ウルソナの人々にも是非とも協力を求むという言葉で記事は締めくくられていた。
結婚式当日に会場から花嫁が攫われるって幸せの絶頂から一気にどん底に転落じゃねえか。
そんなの洋ドラでしか見たことねえよ。
しかも被疑者死亡で捜索が手詰まりか。
だけど肝心の聖者についての情報がほとんど何も書かれていない。
特徴はおろか名前すらない。
せめてデパートの迷子放送程度の情報は書こうぜ。
こんなんじゃ幾ら協力を求めたって捜しようがないだろ。
まあ流石に不自然だし何か事情があってのことだとは思うがな。
それよりここ、北の宇宙ウルソナって言うんだな。
他にも東の宇宙ルヴァがあるみたいだし、宇宙が二つあるってことはこの世界は俺が思ってたよりずっと広いのか。
昨日は夜も遅かったし疲れていて何も聞けなかったけど、後でナズーリンにこの世界のことを教えて貰わないとな。
「勇者様お可哀想……」
「聖者様も今頃どこでどうなさってるのか、酷い目に遭わされていないといいけど、とっても綺麗な人らしいからもしも変な輩に捕まっていたら……」
「聖者様がどこにいても勇者様が必ず捜し出して助けてくれるよ」
「そうだよね。なんてったってあの魔王を倒した方だもん」
高級男娼三人が何やら深刻な顔でそんなことを話し合っていたが、俺はまだ新聞の勇者の姿絵から目が離せなかった。
ホント、すっげえ格好良い。
いいなあ、俺のことも助けに来てくんねえかなあ。
「なあ、この新聞もう読まないなら俺が貰ってもいいかな?」
「いいんじゃない? ギャレットが朝一で読んでここに放置していったやつだから後は捨てるだけだし」
その後も勇者と聖者の恋バナに花を咲かせている三人を置いて俺は食堂を後にした。
新聞を部屋へ持ち帰り、勇者の姿絵を切り抜くためだ。
鋏もカッターもないから、紙に折り目を付けて裂いたのでちょっと四辺がケバケバになっちゃったけど勇者の姿絵は無事だった。
――勇者エリアス。
姿絵のキャプションにはそう書かれている。
エリアス――その名前は俺が着けていた指輪の内側に書かれてたのと同じ名だ。
『エリアスより愛を込めて』
奴隷商がそう読み上げていただけで俺が自分で見たわけじゃないし、俺の持ち物はもう全て奴隷商に取り上げられてしまったから確認しようがないけど、俺はあのとき婚礼衣装を着ていたんじゃなかっただろうか。
新聞の記事によると、勇者エリアスの花嫁は結婚式の当日に会場から攫われたという。
だったら当然婚礼衣装を身に着けていたはずだ。
まさかそんなわけはない。
だって俺にはまったく覚えがない。
幾ら何でも荒唐無稽すぎる。
だけど重ねずにはいられない。
妄想に取り憑かれずにはいられない。
俺に指輪をくれたエリアスが勇者エリアスだったらどんなにいいだろう。
勇者が俺をこの酷い現実から救い出してくれたらどんなにいいだろう。
俺を助けに来てくれよエリアス――。
新聞から切り抜いた勇者の姿絵を俺は自室の姿見の裏側へ隠した。
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