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最終章 砂漠の薔薇
〇一五 「ナナシ」イコール「ナナセ」①
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記憶のない俺に、エリアスはひとつひとつ丁寧に説明してくれた。
俺の名前がナナセであること。
現在二十歳であること。
今から一年半近く前に異世界から来たこと。
この世界の言葉や常識は私塾で覚えたこと。
診療所で治癒術士をしていたこと。
聖者と呼ばれるほど優れた治癒術士であること。
白騎士隊に入隊したこと。
元の世界の大学を飛び級で卒業したこと。
俺の下腹部にある模様は淫紋ではなく改変された封魔紋であること。
今の俺はその封魔紋の呪詛により記憶と魔力を封じられていること。
呪術士が土の精霊を使役し土を通して俺を北の宇宙ウルソナへ飛ばしたこと。
魔力だけでなく記憶まで封じられていたので追跡出来ず、捜索が難航していたこと。
解呪の準備を急ぎ進めているということ。
勇者エリアスの結婚相手であること。
二人の仲は両家の両親も承諾していること。
エリアスと結婚式を挙げるところだったこと。
それに、エリアスは俺だけを愛していて俺もエリアスを愛しているということ――。
俄かには信じ難い現実に夢見心地で外へ出ると、既に黄昏時に差し掛かっていた。
砂漠は日の入りが早い。
娼館の裏口でエリアスはたった今合流したばかりの部下と二手に分かれた。
部下に事後処理を任せ、俺とエリアスは先にヴェイラ王国へ戻るんだそうだ。
砂漠の夕焼けに染まるエリアスの整った顔を見上げる。
俺、さっきまで死のうとしてたのに、なんでイケメン勇者と駱駝でタンデムしてんだろ。
しかもフタコブラクダのコブの間だし、今度は縛られていない。
それどころか勇者にしっかり抱かれて支えられている。
最初、普通に駱駝に跨ろうとしたら「その格好で跨るのは止めておけ」と止められ、エリアスが羽織っていた黒地に金糸の刺繍の入ったクロークで頭からすっぽり包まれた。
このクローク、黒くて暑そうだと思ったけど、どんな謎技術によるものか、羽織ってみると日差しや熱を遮ってくれるばかりか軽くて薄くて風通しも良いので寧ろ涼しい。
俺はエリアスの股の間に横座りさせられたので必然的に胸に抱き着く格好となったのをいいことに、どさくさに紛れてエリアスの胸に頭を預け、エリアスの匂いを肺いっぱいに吸い込むと多幸感で満たされる。
エリアスと一緒なら俺、このまま何処までだって行ける――そんな錯覚さえ覚えるほどに。
夕暮れの風を受けて砂漠を駱駝でひた走りながら、未だこれは夢ではないのかと考えていた。
「見過ぎだ」
夢ではないことを確認するため俺があんまり何度も見上げるので、エリアスは遂に苦笑を漏らす。
「……悪い」
「謝るな。責めているわけではない。寧ろ余所見などせずに、その瞳にずっと私だけを映していてくれ」
慌てて俯きかけた俺の頭頂部にそんな言葉が掛けられた。
いいのかよ?
許可なんか得たら、俺、物凄くガン見するぞ?
恐る恐る振り仰げば、待ち受けていた淡褐色と淡緑色の混ざり合う榛色の瞳に忽ち視線を絡め取られる。
奪われたの視線だけじゃない。心もだ。
俺の目は今、多分両目ともハート型になっちゃってると思う。
無茶苦茶シコいイケメンで、魔王を倒した勇者で、被疑者死亡で捜索が手詰まりだったにも拘わらず、ちゃんと俺を捜し出して迎えに来てくれたエリアス。
こんな優良物件をどうやって捕まえたんだ、記憶を失う前の俺。
「あの娼館のギャレットという男は、ウルソナの前国王の下で英雄と呼ばれる騎士だった。ナナセはウルソナの現国王についての噂は知っているか?」
俺がエリアスから視線を逸らせずにいるのを見て取ったエリアスは満足そうに話し出した。
俺の名前がナナセであること。
現在二十歳であること。
今から一年半近く前に異世界から来たこと。
この世界の言葉や常識は私塾で覚えたこと。
診療所で治癒術士をしていたこと。
聖者と呼ばれるほど優れた治癒術士であること。
白騎士隊に入隊したこと。
元の世界の大学を飛び級で卒業したこと。
俺の下腹部にある模様は淫紋ではなく改変された封魔紋であること。
今の俺はその封魔紋の呪詛により記憶と魔力を封じられていること。
呪術士が土の精霊を使役し土を通して俺を北の宇宙ウルソナへ飛ばしたこと。
魔力だけでなく記憶まで封じられていたので追跡出来ず、捜索が難航していたこと。
解呪の準備を急ぎ進めているということ。
勇者エリアスの結婚相手であること。
二人の仲は両家の両親も承諾していること。
エリアスと結婚式を挙げるところだったこと。
それに、エリアスは俺だけを愛していて俺もエリアスを愛しているということ――。
俄かには信じ難い現実に夢見心地で外へ出ると、既に黄昏時に差し掛かっていた。
砂漠は日の入りが早い。
娼館の裏口でエリアスはたった今合流したばかりの部下と二手に分かれた。
部下に事後処理を任せ、俺とエリアスは先にヴェイラ王国へ戻るんだそうだ。
砂漠の夕焼けに染まるエリアスの整った顔を見上げる。
俺、さっきまで死のうとしてたのに、なんでイケメン勇者と駱駝でタンデムしてんだろ。
しかもフタコブラクダのコブの間だし、今度は縛られていない。
それどころか勇者にしっかり抱かれて支えられている。
最初、普通に駱駝に跨ろうとしたら「その格好で跨るのは止めておけ」と止められ、エリアスが羽織っていた黒地に金糸の刺繍の入ったクロークで頭からすっぽり包まれた。
このクローク、黒くて暑そうだと思ったけど、どんな謎技術によるものか、羽織ってみると日差しや熱を遮ってくれるばかりか軽くて薄くて風通しも良いので寧ろ涼しい。
俺はエリアスの股の間に横座りさせられたので必然的に胸に抱き着く格好となったのをいいことに、どさくさに紛れてエリアスの胸に頭を預け、エリアスの匂いを肺いっぱいに吸い込むと多幸感で満たされる。
エリアスと一緒なら俺、このまま何処までだって行ける――そんな錯覚さえ覚えるほどに。
夕暮れの風を受けて砂漠を駱駝でひた走りながら、未だこれは夢ではないのかと考えていた。
「見過ぎだ」
夢ではないことを確認するため俺があんまり何度も見上げるので、エリアスは遂に苦笑を漏らす。
「……悪い」
「謝るな。責めているわけではない。寧ろ余所見などせずに、その瞳にずっと私だけを映していてくれ」
慌てて俯きかけた俺の頭頂部にそんな言葉が掛けられた。
いいのかよ?
許可なんか得たら、俺、物凄くガン見するぞ?
恐る恐る振り仰げば、待ち受けていた淡褐色と淡緑色の混ざり合う榛色の瞳に忽ち視線を絡め取られる。
奪われたの視線だけじゃない。心もだ。
俺の目は今、多分両目ともハート型になっちゃってると思う。
無茶苦茶シコいイケメンで、魔王を倒した勇者で、被疑者死亡で捜索が手詰まりだったにも拘わらず、ちゃんと俺を捜し出して迎えに来てくれたエリアス。
こんな優良物件をどうやって捕まえたんだ、記憶を失う前の俺。
「あの娼館のギャレットという男は、ウルソナの前国王の下で英雄と呼ばれる騎士だった。ナナセはウルソナの現国王についての噂は知っているか?」
俺がエリアスから視線を逸らせずにいるのを見て取ったエリアスは満足そうに話し出した。
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