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君に惹かれた理由
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寝起きの清飛に挨拶すると、呆然とした表情を浮かべつつもそこに嫌悪感は無さそうだった。まだ頭が覚醒しきってないのか、俺が料理を作っていることについては何も言わずに歯を磨きに行き、朝の支度にとりかかっている。
制服に着替える清飛を尻目にテーブルに朝食を並べると、微かな戸惑いとともに期待するような眼差しを向けられた。
(良かった。食べてくれそう。)
いくら清飛が吸血鬼の存在を知っていたからといって、得体の知れない種族が作った物を素直に食べるだろうかという不安はあった。それでなくても昨日会ったばかりなのだから、気味悪がられても仕方ないし説得が必要かもしれないと思っていたがどうやら杞憂だったようだ。だが、警戒心の弱さについては少々心配してしまう。
(信じやすいというよりかは、投げやりな感じ?)
出会ってすぐの俺を安易に家にあげたことも、血を吸われることに抵抗がないことも、「どうでも良い」という感情が透けて見えるようだった。そんな清飛に助けられたのだから感謝はしているが、嫌な奴につけこまれやしないかと勝手ながら不安を感じてしまう。
しかし一先ず、食べてくれるなら都合が良い。当初の目的を思い出してテーブルについた清飛に声をかける。
「よし、食べようか!苦手な物あったら貰うから、無理に食べないでね」
「……うん」
「いただきます」と手を合わせてスープを口に運ぶ清飛をさり気無く盗み見る。料理は得意な部類だが好みに合う味だろうか、と緊張程では無いがソワソワとした思いで視線を送った。しかし、そんな俺の思いとは裏腹に清飛の反応は良い物であった。
(あ……。)
スープを口に含んだ瞬間、ほわっと表情が柔らかくなった。別に笑顔になったという訳では無い。しかし、それは昨夜テテに触れた時のぎゅっと閉じた蕾が綻ぶような、あのかわいらしい表情だった。自分が作った料理でそんな表情を引き出せたことが嬉しく、気分が高揚する。
「なに?」
次々の食べ進める清飛の様子をじっと眺めていると、俺の視線に気付いて不思議そうに問かけてきた。
「しっかり食べてくれて良かったなって。口に合った?」
「うん、美味しい」
(素直……。)
意外か予想通りか、「美味しい」とまっすぐ返ってきた言葉に「ありがとう!」と答えると更に不思議そうな表情が浮かんだ。作り手としては素直に美味しいと言ってくれる程嬉しいことは無いのだが、それに気付いていないような清飛の反応がまたかわいかった。
朝食後、なぜまだいるのかと問われたが満月の夜にしか帰れないことを伝えるとあっさりと居候することを了承してくれた。しかし、言外に「断るのが面倒」というような思いが透けて見えるのがやはり気になってしまう。
(でも、それだけじゃ無さそうなんだけどな。)
本当に面倒なら倒れていた俺のことなんて助けなかっただろう。声はかけたかもしれないが、救急車を呼ぶなと言うそんな曰くありげな男なんて見捨ててしまっても良かったはずだ。口では「お人好しじゃない」なんて言っておいて、最終的には助けてくれたのだ。根は優しい子なのかななんて、そう思う俺は可笑しいだろうか。
清飛が学校に行くと言って立ち上がったので俺も見送りに一緒に玄関へ向かう。弁当を渡すと目を丸くして驚かれたが受け取ってくれた。
靴を履く為にしゃがみこむ清飛の後ろ姿を見ていると、ほんの小さな悪戯心が芽生えてた。吸血鬼は元来人間から怖がられるもので、俺自身人間に触れるのは基本的に避けてきた。しかし、清飛は吸血鬼を怖がらないし、肌に直接触れられるのは苦手なようだけど頭なら大丈夫じゃないだろうか。
(鬱陶しそうな表情も少し見てみたい……。)
そう思って、ほんの出来心で振り返った清飛の頭に手をのばすと寝癖を整えた頭をくしゃくしゃと撫でた。
「行ってらっしゃい!気をつけて」
しかし、悪態の一つでも吐かれるだろうとおもってとったその行動に対する反応は予想通りとはいかなかった。
清飛はきょとんとした表情を浮かべたあと、気持ち良さそうに目を細めたのだ。まさかそんな反応をされるとは思わず、驚きとともにじわじわと愛しさのような感情がこみあげてくる。
(もしかして、結構甘えたがり?)
撫でられるのは嫌ではないのか。しかも年も然程離れていない(まあ、人間と一年の日数は違うけど)男相手に。
(ああ、だけど昨夜も。そういえば……。)
首から血を吸っている時、清飛は俺のローブをぎゅっと握ってきた。頬に触れた時に怯えたような表情を浮かべていたし、やはり本当は怖いのかもしれないと思って、せめて少しでも安心してほしくて背中に手をまわしたのだが、もしかしてあの握った手は「甘えたい」という感情から生じた無意識の行動だったのだろうか。
(考えが飛躍し過ぎかな?でも、もしそうだったら。)
かわいい。何度そう思っただろう。だが、現代の吸血鬼にとっては人間に対して可愛いと思うのは至極当然の感情だった。怖がらせると気付いた時から、弱くて小さな存在は「守らなけば」という庇護欲を掻き立てられる存在へと変化していった。俺が清飛に対して抱く感情も、それと大して違いは無いと思っていた。
しかし、清飛はそれ以上に好みの子なのではないのかとこの時の俺は初めて思った。
制服に着替える清飛を尻目にテーブルに朝食を並べると、微かな戸惑いとともに期待するような眼差しを向けられた。
(良かった。食べてくれそう。)
いくら清飛が吸血鬼の存在を知っていたからといって、得体の知れない種族が作った物を素直に食べるだろうかという不安はあった。それでなくても昨日会ったばかりなのだから、気味悪がられても仕方ないし説得が必要かもしれないと思っていたがどうやら杞憂だったようだ。だが、警戒心の弱さについては少々心配してしまう。
(信じやすいというよりかは、投げやりな感じ?)
出会ってすぐの俺を安易に家にあげたことも、血を吸われることに抵抗がないことも、「どうでも良い」という感情が透けて見えるようだった。そんな清飛に助けられたのだから感謝はしているが、嫌な奴につけこまれやしないかと勝手ながら不安を感じてしまう。
しかし一先ず、食べてくれるなら都合が良い。当初の目的を思い出してテーブルについた清飛に声をかける。
「よし、食べようか!苦手な物あったら貰うから、無理に食べないでね」
「……うん」
「いただきます」と手を合わせてスープを口に運ぶ清飛をさり気無く盗み見る。料理は得意な部類だが好みに合う味だろうか、と緊張程では無いがソワソワとした思いで視線を送った。しかし、そんな俺の思いとは裏腹に清飛の反応は良い物であった。
(あ……。)
スープを口に含んだ瞬間、ほわっと表情が柔らかくなった。別に笑顔になったという訳では無い。しかし、それは昨夜テテに触れた時のぎゅっと閉じた蕾が綻ぶような、あのかわいらしい表情だった。自分が作った料理でそんな表情を引き出せたことが嬉しく、気分が高揚する。
「なに?」
次々の食べ進める清飛の様子をじっと眺めていると、俺の視線に気付いて不思議そうに問かけてきた。
「しっかり食べてくれて良かったなって。口に合った?」
「うん、美味しい」
(素直……。)
意外か予想通りか、「美味しい」とまっすぐ返ってきた言葉に「ありがとう!」と答えると更に不思議そうな表情が浮かんだ。作り手としては素直に美味しいと言ってくれる程嬉しいことは無いのだが、それに気付いていないような清飛の反応がまたかわいかった。
朝食後、なぜまだいるのかと問われたが満月の夜にしか帰れないことを伝えるとあっさりと居候することを了承してくれた。しかし、言外に「断るのが面倒」というような思いが透けて見えるのがやはり気になってしまう。
(でも、それだけじゃ無さそうなんだけどな。)
本当に面倒なら倒れていた俺のことなんて助けなかっただろう。声はかけたかもしれないが、救急車を呼ぶなと言うそんな曰くありげな男なんて見捨ててしまっても良かったはずだ。口では「お人好しじゃない」なんて言っておいて、最終的には助けてくれたのだ。根は優しい子なのかななんて、そう思う俺は可笑しいだろうか。
清飛が学校に行くと言って立ち上がったので俺も見送りに一緒に玄関へ向かう。弁当を渡すと目を丸くして驚かれたが受け取ってくれた。
靴を履く為にしゃがみこむ清飛の後ろ姿を見ていると、ほんの小さな悪戯心が芽生えてた。吸血鬼は元来人間から怖がられるもので、俺自身人間に触れるのは基本的に避けてきた。しかし、清飛は吸血鬼を怖がらないし、肌に直接触れられるのは苦手なようだけど頭なら大丈夫じゃないだろうか。
(鬱陶しそうな表情も少し見てみたい……。)
そう思って、ほんの出来心で振り返った清飛の頭に手をのばすと寝癖を整えた頭をくしゃくしゃと撫でた。
「行ってらっしゃい!気をつけて」
しかし、悪態の一つでも吐かれるだろうとおもってとったその行動に対する反応は予想通りとはいかなかった。
清飛はきょとんとした表情を浮かべたあと、気持ち良さそうに目を細めたのだ。まさかそんな反応をされるとは思わず、驚きとともにじわじわと愛しさのような感情がこみあげてくる。
(もしかして、結構甘えたがり?)
撫でられるのは嫌ではないのか。しかも年も然程離れていない(まあ、人間と一年の日数は違うけど)男相手に。
(ああ、だけど昨夜も。そういえば……。)
首から血を吸っている時、清飛は俺のローブをぎゅっと握ってきた。頬に触れた時に怯えたような表情を浮かべていたし、やはり本当は怖いのかもしれないと思って、せめて少しでも安心してほしくて背中に手をまわしたのだが、もしかしてあの握った手は「甘えたい」という感情から生じた無意識の行動だったのだろうか。
(考えが飛躍し過ぎかな?でも、もしそうだったら。)
かわいい。何度そう思っただろう。だが、現代の吸血鬼にとっては人間に対して可愛いと思うのは至極当然の感情だった。怖がらせると気付いた時から、弱くて小さな存在は「守らなけば」という庇護欲を掻き立てられる存在へと変化していった。俺が清飛に対して抱く感情も、それと大して違いは無いと思っていた。
しかし、清飛はそれ以上に好みの子なのではないのかとこの時の俺は初めて思った。
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