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君に惹かれた理由
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しおりを挟む清飛が会いたがらないから、家族との仲は悪いのかと思っていたが、どうやらそうではないらしい。母親の墓参りまでの電車の中で、家族の話をする清飛の表情に嫌悪感は全くなく、一人暮らしを始めた理由を、ただ「意固地になっただけ」だと話していた。意固地とはどいうことだろうと疑問に思ったが、深く話すのは気が進まないようなので、それ以上は聞かなかった。ただ、清飛が傷つけられて家を出た訳ではないと知ることができて安心した。
そして、実際に会った美恵子さんも言葉の通り全然嫌な人ではなかった。
「おかえりー!久しぶり!!」
「……久しぶり、美恵子さん」
清飛のスマホから聞こえた留守電の声が、目の前の女性から聞こえる。ベリーショートで、深いブルーの麻のズボンと白色のTシャツを着た清飛の叔母である美恵子さんは、突然現れた清飛を嬉しそうな声とともに抱きしめた。清飛は帰ってきたことがばれたからか、少しだけ気まずそうな表情を浮かべながらも、振り解こうとはしなかった。それどころかふっと体の力を抜き、美恵子さんに身を委ねているように見える。
(やっぱり、甘えたがり。)
仲の良い家族の様子を目の当たりにして、ほっこりとした気分になった。
軽く自己紹介を済ませたあと、「入って入って!」と美恵子さんは俺たちを家に招いてくれた。出迎えてくれたポメラニアンの忍は、黒毛なのも相まって熊のようにも見え、とても可愛らしい。しかし、懐かれて嬉しそうにしながら、忍を抱きかかえる清飛はもっとかわいかった。その様子を見て内心ときめにつつ、廊下を歩いた先のダイニングのテーブルにつく。部屋の中はシンプルな家具で揃えられ、温かい雰囲気だ。少しだけ、家の前に置いてあったモアイの置き物のようなインテリアが見られるかと期待していたが、家の中には無く、少々残念だった。
美恵子さんが台所に向かったタイミングで、清飛に耳打ちされる。
「なんかごめん、巻き込んで」
「ううん!俺はいいんだけど、清飛の方が大丈夫?」
すまなそうに言われるが、俺にとっては好きな人が住んでた家に来ることができて嬉しくて、願ったり叶ったりだ。
「うん、ちょっと面倒くさかっただけだから」
「叔母さん……美恵子さん?本当に明るい人だね」
「賑やかだろ。人のペースを崩しまくる」
「だけど……」
(清飛、少し嬉しそうだな。)
続く言葉は戻ってきた美恵子さんによって口から出ることはなかった。あれだけ帰るのを拒否していたのに、家の中にいる清飛はリラックスしているように見える。面倒くさいと言っていても、その表情は穏やかだった。家族からは帰ってくることを大層喜ばれ、本人も熱烈な歓迎が嫌では無さそうで、本当になぜ、一人暮らしをしているのだろうと、改めて疑問に思う。だが、それを今ここで聞く訳にはいかず、無理やり頭から追い払った。
「京くんって、いつから清飛と友達?初めて会ったわよね?」
「今年からです!丁度共通の友達がいて、話すようになった感じです!」
美恵子さんからの質問に、辻褄を合わせながら答えている最中、視界の端に映る清飛の焦るような表情に笑いそうになる。
(本当に、嘘がつけない子だな。)
かわいいな、と思っていたその時、
「共通の友達っていったら清水くんかしら。というより清飛の友達っていったらあの子しか知らないわ」
という美恵子さんの言葉が気になり、清飛から意識が逸れる。そりゃあ清飛にも友達はいるだろうし、学校生活のことを全て知っているなんてあり得ないが、初めて聞く清飛の交友関係に少しそわそわした。しかも、「清水くん」の名前が出た瞬間、清飛の表情が落ち着きスラスラと話し始めたことと、美恵子さんの「友達は清水くんしか知らない」という言葉が気になり、一層気になってしまう。たった一人だけ、それも清飛にとって一番身近な人に認識されていることが面白くなく、少々嫉妬してしまった。
だが、清飛による清水くんの話が一通り終わると、また美恵子さんからの質問の時間になり、先ほどの嫉妬はおくびに出さず、答えていく。話の流れで、この姿の名前が「島崎京」になり、突然決まった名前だが、なぜだか不思議と気に入った。そもそも、俺のフルネームはケイヴィス・リドリーだ。ファーストネームがケイヴィスだから、ケイという呼び名はより近く清飛に提案された時は言い易さもあったが、それ以上に嬉しかった。
美恵子さんはやはり、離れて暮らしている清飛の様子を気にしているようだった。同級生ということや学校での様子についての説明は嘘だが、それ以外の言葉は本心だった。不器用で少し分かりづらいが優しい性格で、しっかり勉強を頑張っていて、初めてアパートに行った時から部屋の中は綺麗だった。視界の端で、やはり清飛の驚いてる表情が映るが、今話していることは殆ど事実であり、何をそんなに驚いているのだろうと不思議に思った。
一通り話すと、美恵子さんは笑顔のまま、安心したように表情を緩めて、言った。
「そっか、清飛頑張ってるのね。なんだか安心したわ」
その言葉には、ただ、一人で暮らしている子どもにむける心配だけではないような重みが込められているように感じた。もしかしたらこの決断をするまでに、二人とも大なり小なり悩むことがあったのかもしれない。当時、何があったかはわからないが、その時の最善の選択が清飛の一人暮らしだったのかもしれない。
清飛もだが、美恵子さんも不安だっただろう。この短い時間で、清飛のことが大好きなのが伝わってきた。家の中で不自由なく生活させることが一番安心できるはずなのに、あえて距離を置くことを選択した。それはきっと、清飛のためなのだろう。
(嫌な人じゃない、どころじゃない。清飛のことを心の底から大切にしている人だ。)
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