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2話 『ネコ、青年と出会う』
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「ここは、まさか……」
この世が俺が知っているロザネアなら、東の国にはない景色。となれば、他の国でこの景色に合いそうな国は北の国しかなかった。もし、北の国だとしたら、俺が進んできたあの森は東の国と北の国の間にある森「リーベルク」だった事になる。
来た道を戻れば東の国に戻れるかもしれないけど、今の俺が戻ってもこの姿で騎士の仕事は出来ないし、話した所で信じてもらえるかも怪しい。それに、この世が俺が知っている世界、時代ではない可能性もなくもない。
悩みに悩んだ末、俺は来た道は戻らずこのまま進むことにした。
「思ってたより、きついな……」
砂地は思っていたより、心身共に削られていく。
日を妨げる木々も水辺もないから、日中は物凄く暑い。その一方で夜は冷え切ってしまう程寒い。日夜の温度差に体が悲鳴を上げ、景色が変わらない砂地に一人で歩き続けていると心も疲弊していく。だけど、俺にはどうにかこの状況を凌ぐだけの力が備わっている。そう思うだけで、心の支えになる。
魔法で一時期の草を生やすことも出来るお陰で、喉の渇きを何とか防ぐことが出来るし、寒い夜は火魔法で火を熾して土魔法でドーム型の小さな寝床を作って過ごすことも出来る。
「魔法が使える身で良かった………」
今まで魔法が使えても使う機会が殆ど無かったから、魔法の必要性を感じた事がなかった。なくても困らないとさえ思っていたのに、今は魔法が使える身で良かっと心から思える。もし魔法が使えなかったら俺はきっとあの森で息絶えていたはずだ。攻撃魔法が使えたお陰で魔物を倒せるし、こうして空腹を防ぎ日夜を過ごすことが出来ている。ただ、魔法が使えて夜も安心して寝ることが出来ても思うことがある。
「……やっぱり、人は住んでいないのか?」
それは、「人」の存在だ。
俺は実際に見た訳じゃない事をウワサとか憶測で広まった話は信じないことにしているから、北の国には「人は住んでいない」という話は、東の国が勝手に言っているだけで本当は人は住んでいるかもしれないと話を鵜呑みにはしていなかった。だけど実際、ここに来るまでの道中、人には一度も会っていない。そうなると、あの話は本当の事なんだと思うしかないわけで………。
「俺、一生一人かも………ん? なんだ、あれ」
少し遠くの方に建物らしきモノが見えて、俺はほんの少しの期待を胸に足早に向かう。
「これは、塀……か?」
見えていた建物は何かを囲う様に建てられた低い木の塀のようなものだった。
「なんだ、この臭い!」
出入り口もあり、そこから中を覗くと鼻を覆いたくなる程の異臭を感じ思わず声が出る。
中に進みたくないけど、人が住んでいるかもしれないしという期待が勝ち囲いの中に足を入れた。
俺はやるべく鼻で息をしない様にして、囲いの中を見ながら進む。囲いの中には家らしき建物があるけど、どれも造りが雑なのか、年月が経ちすぎているのか、今にも崩壊してしまいそうな見た目だ。
(こんな場所に人が住んでいるわけないよな……)
臭いが気になって集中出来ないのもあるけど、人の気配は全く感じられない。
ほんの少しでも期待していた分、やっぱり落ち込んでしまう。こんな所でも人が一人でもいたらと思いながら俺は諦めて引き返そうとした。
「……な! 離せ!」
その時、奥の方から人の叫び声が聞こえ、俺は急いで声がした方に向かった。
(やっぱり人だ!)
そこには、巨大な人型の魔物が片手で何かを握り締めていた。よく見ると、魔物の手にはまだ若そうな男が苦しそうな声を上げている。
このままだと、彼は魔物に握り潰されてしまう。
「貴重な……人に何してんだよ!」
個人的な理由で、俺は風魔法を魔物に向けて放つ。
初級魔法の風の刃は勢い良く飛んで行き、魔物の腰辺りを切りつける。トドメにと放っていた火の矢が首元に当たりそこから魔物の体を火が覆う。時間差で魔物の腰から上下に切れ、火だるまになりながらその場に崩れ倒れる。
「うわぁぁぁ!」
その拍子で、魔物に握り締められていた男は宙から勢い良く落ちてくる。
「しまった!」
俺は慌てて土魔法で草をモリモリに生やし、落下地にクッションを作り出す。間一髪で、落ちて来た男を受け止められホッと息を吐く。
「いっ、たくない? 何だ、これ……」
彼は突然現れた草のクッションに驚いているのか、草に触れている。
「怪我はないか?」
「は、はい。あなたが助けて……」
驚いている彼に近づきながら声をかけると、彼はお礼を言いながら顔を上げると、分かりやすく固まった。
「どころか怪我でもしているのか!?」
「い、や……ネコがしゃべって……俺、死んでるのか?」
信じられないと言わんばかりに、彼は動揺している。
そんな彼の言葉に気付く。
「俺の言葉は、人の言葉なのか?」
「え?……あ、ああ……知らなかったの、か?」
「ああ。人には言葉は通じないって思っていたからな」
少し警戒する彼の脇に座って答える。
俺自身も正直驚いている。ネコの姿になったから言葉も人には鳴き声にしか聞こえないと思い込んでいた。だけど実際に声を出すと、普通に会話が出来るなんて嬉しいと思う反面、人に警戒されるという不安も生まれた。
「あ、あ~。その、こんな見た目だけど、俺は人間なんだ。信じるのは難しいかもしれないけど……」
「人って……俺を騙して食べるつも……」
「ま、待て! 俺に共食いをする趣味はないよ! 人の言葉を話すネコなんて不気味なのは分かるけど、俺は魔物の類じゃないんだ!」
これとばかりに俺は必死に害のない存在だと彼にアピールした。だけど、彼の反応は薄く何となくこの状況を諦めている様にも見える。
「どっちでも良いよ。どうせ俺も長くない……」
よく見ると彼の顔色が良くないように見える。
血の気がなく、活気すら感じられない。細かい傷は見て分かるけど、どれも致命的な傷じゃない。そうなれば、考えられる原因は一つ。
「病気を患っているのか?」
「……ああ。ここには医者はいないから、何の病気かは分からない。だけど、日に日に体が重くなって息もしづらくなる。次第に手足が痺れ始め、最終的には水すらも飲めなくなって寝たきりになる。ネコに話しても分からないだろうけどさ」
否定もせず、彼は覇気がない笑みを浮かべる。
ここに暮らしていた人達がこの病で次から次に倒れていき、あらゆる薬草を煎じて飲ませたりしていたが治ることなく死んでいったと彼は淡々と話した。自分にもその症状が表れ始め、今は手足が痺れ力が入らないという。
「生きたいなら、ここから出た方が良い。こうなりなくないなら……」
小刻みに震えている手を見つめながら、彼は俺に言う。
「……お前は、生きたくないのか?」
「生きたいに決まってるだろ! でも、治らないんだ! どうしろってんだよ!」
病に怯えているからなのか、彼は苛立つ。
この環境で治らない病に、疲れ切って諦めているのが話を聞いていて分かった。
「だったら諦めるなよ。治らないからって何もしないのは治す気がないのと同じだ」
「魔物かもしれない奴が知ったような……なっ!」
「俺が治してやる。大人しくしてろよ?」
「何をする気だよ!」
彼の足の間に移動して、俺は彼の前に座る。
俺を疑う彼は激しく取り乱すけど、それに構わず俺はある気配に意識を集中させる。
「な、んだ……この光……傷が消えて、いく?」
「そのままじっとして。あと少しで終わるから……」
驚く彼の声にそう答え、再び意識を集中させる。
体に巡る黄色い光の粒の存在を感じ取り、それを彼に流し込むイメージで光の粒を体から放出させる。
東の国には、病や怪我を治す事が出来る「治癒の力」という力を持って生まれてくる人がいる。この力は魔法とは異なる力で東の国に生まれた人にしか宿らない力。俺は、そんな力を持って生まれてきた一人。
人は、気力、体力、精神力といった生きる為の力「精力」を持って生まれてくる。人によってはこれを「生命の源」と言う人もいて、光の粒の色や大きさは人によって違う。この光の粒は俺の精力で、治癒の力はこの精力を傷付いている相手に分け与えることで傷や病を治す。
「……光が消えた……呼吸が軽い……痺れもない」
「ふぅ。体の不調は治ったみたいだね」
「そうみたいだ。体が嘘みたいに軽い……一体あの光は何だったんだ?」
体の不調から開放された彼は、俺が何をしたのか聞いてきた。
話したところで理解出来るかは分からないけど、隠すことでもないから、俺は力の事を簡単に話した。
「な、るほど……そんな力があるのか。凄いな……」
「でも、この力には制限がある。使い手によって制限の形は違うけど、俺の場合は軽い病気や怪我なら五十人、重い病気や怪我なら二十人が限界なんだ」
「それを超えるとどうなるんだ?」
「自分の精力が底について、生死を彷徨うことになる。命は無限じゃない、失えば命を落とす」
そう答えると、彼は慌てて謝ってきた。
「す、すみません! そんな危険な力なんて知らずに……使わせてしまって……」
「ま、待って! そんな顔しなくても俺はまだ平気だから。制限さえ守れば普通に治療出来る……」
そこまで口にして俺はふと気付く。
彼は聞いている症状に比べて軽い方だと思うけど、手足の痺れや呼吸のしづらさを抱えていた。病なら重症とはいかないけど軽症でもないはず。それなのに治癒の力を使った感覚は軽症よりも軽く感じる。現に発動時は疲れを感じるのはいつものことだけど、治癒が終わった後の体の怠さは感じない。
「あの、どうかしたんですか?」
突然無口になった俺を心配してか、彼が声をかけてくる。俺は、気付いたことを彼には話さず「なんでない」と答えた。
「あ、あの……」
「何だ?」
「さっきの力は、まだ使えますか?」
恐る恐るに彼は聞いてくる。
「使えるけど、それがどうしたんだ?」
「……実は、病を抱えた人が他にもいるんです。見知らずの人に頼むのは情けない話ですが、治していただけないでしようか?」
「他に人がいるのか? ここに来るまで人の気配はしなかったけど……」
「奥に教会があるんです。そこに隠れているんです。魔物避けの効果がある像を置いてあるのでここでは一番安全な場所なんです」
いつの間にか敬語口調で話す彼を敢えて気にせず話を聞くと、その教会には病で倒れている人や逃げる際に怪我を負った人がいるらしい。
彼以外にも人がいるのなら、俺には助ける以外に選択肢はない。迷いなく「分かった」と答えると彼はその場に立ち上がる。
「立ち上がっても平気なのか? 治したとはいえ、体力は完全に戻っていないだろ? 少し休んでからでも……」
「いえ、大丈夫です! あなたのお陰で体の重さがなくなりました。それだけで十分動けます! それより、教会に行く前に寄りたい所があります」
そう言うと彼は歩き出した。
この世が俺が知っているロザネアなら、東の国にはない景色。となれば、他の国でこの景色に合いそうな国は北の国しかなかった。もし、北の国だとしたら、俺が進んできたあの森は東の国と北の国の間にある森「リーベルク」だった事になる。
来た道を戻れば東の国に戻れるかもしれないけど、今の俺が戻ってもこの姿で騎士の仕事は出来ないし、話した所で信じてもらえるかも怪しい。それに、この世が俺が知っている世界、時代ではない可能性もなくもない。
悩みに悩んだ末、俺は来た道は戻らずこのまま進むことにした。
「思ってたより、きついな……」
砂地は思っていたより、心身共に削られていく。
日を妨げる木々も水辺もないから、日中は物凄く暑い。その一方で夜は冷え切ってしまう程寒い。日夜の温度差に体が悲鳴を上げ、景色が変わらない砂地に一人で歩き続けていると心も疲弊していく。だけど、俺にはどうにかこの状況を凌ぐだけの力が備わっている。そう思うだけで、心の支えになる。
魔法で一時期の草を生やすことも出来るお陰で、喉の渇きを何とか防ぐことが出来るし、寒い夜は火魔法で火を熾して土魔法でドーム型の小さな寝床を作って過ごすことも出来る。
「魔法が使える身で良かった………」
今まで魔法が使えても使う機会が殆ど無かったから、魔法の必要性を感じた事がなかった。なくても困らないとさえ思っていたのに、今は魔法が使える身で良かっと心から思える。もし魔法が使えなかったら俺はきっとあの森で息絶えていたはずだ。攻撃魔法が使えたお陰で魔物を倒せるし、こうして空腹を防ぎ日夜を過ごすことが出来ている。ただ、魔法が使えて夜も安心して寝ることが出来ても思うことがある。
「……やっぱり、人は住んでいないのか?」
それは、「人」の存在だ。
俺は実際に見た訳じゃない事をウワサとか憶測で広まった話は信じないことにしているから、北の国には「人は住んでいない」という話は、東の国が勝手に言っているだけで本当は人は住んでいるかもしれないと話を鵜呑みにはしていなかった。だけど実際、ここに来るまでの道中、人には一度も会っていない。そうなると、あの話は本当の事なんだと思うしかないわけで………。
「俺、一生一人かも………ん? なんだ、あれ」
少し遠くの方に建物らしきモノが見えて、俺はほんの少しの期待を胸に足早に向かう。
「これは、塀……か?」
見えていた建物は何かを囲う様に建てられた低い木の塀のようなものだった。
「なんだ、この臭い!」
出入り口もあり、そこから中を覗くと鼻を覆いたくなる程の異臭を感じ思わず声が出る。
中に進みたくないけど、人が住んでいるかもしれないしという期待が勝ち囲いの中に足を入れた。
俺はやるべく鼻で息をしない様にして、囲いの中を見ながら進む。囲いの中には家らしき建物があるけど、どれも造りが雑なのか、年月が経ちすぎているのか、今にも崩壊してしまいそうな見た目だ。
(こんな場所に人が住んでいるわけないよな……)
臭いが気になって集中出来ないのもあるけど、人の気配は全く感じられない。
ほんの少しでも期待していた分、やっぱり落ち込んでしまう。こんな所でも人が一人でもいたらと思いながら俺は諦めて引き返そうとした。
「……な! 離せ!」
その時、奥の方から人の叫び声が聞こえ、俺は急いで声がした方に向かった。
(やっぱり人だ!)
そこには、巨大な人型の魔物が片手で何かを握り締めていた。よく見ると、魔物の手にはまだ若そうな男が苦しそうな声を上げている。
このままだと、彼は魔物に握り潰されてしまう。
「貴重な……人に何してんだよ!」
個人的な理由で、俺は風魔法を魔物に向けて放つ。
初級魔法の風の刃は勢い良く飛んで行き、魔物の腰辺りを切りつける。トドメにと放っていた火の矢が首元に当たりそこから魔物の体を火が覆う。時間差で魔物の腰から上下に切れ、火だるまになりながらその場に崩れ倒れる。
「うわぁぁぁ!」
その拍子で、魔物に握り締められていた男は宙から勢い良く落ちてくる。
「しまった!」
俺は慌てて土魔法で草をモリモリに生やし、落下地にクッションを作り出す。間一髪で、落ちて来た男を受け止められホッと息を吐く。
「いっ、たくない? 何だ、これ……」
彼は突然現れた草のクッションに驚いているのか、草に触れている。
「怪我はないか?」
「は、はい。あなたが助けて……」
驚いている彼に近づきながら声をかけると、彼はお礼を言いながら顔を上げると、分かりやすく固まった。
「どころか怪我でもしているのか!?」
「い、や……ネコがしゃべって……俺、死んでるのか?」
信じられないと言わんばかりに、彼は動揺している。
そんな彼の言葉に気付く。
「俺の言葉は、人の言葉なのか?」
「え?……あ、ああ……知らなかったの、か?」
「ああ。人には言葉は通じないって思っていたからな」
少し警戒する彼の脇に座って答える。
俺自身も正直驚いている。ネコの姿になったから言葉も人には鳴き声にしか聞こえないと思い込んでいた。だけど実際に声を出すと、普通に会話が出来るなんて嬉しいと思う反面、人に警戒されるという不安も生まれた。
「あ、あ~。その、こんな見た目だけど、俺は人間なんだ。信じるのは難しいかもしれないけど……」
「人って……俺を騙して食べるつも……」
「ま、待て! 俺に共食いをする趣味はないよ! 人の言葉を話すネコなんて不気味なのは分かるけど、俺は魔物の類じゃないんだ!」
これとばかりに俺は必死に害のない存在だと彼にアピールした。だけど、彼の反応は薄く何となくこの状況を諦めている様にも見える。
「どっちでも良いよ。どうせ俺も長くない……」
よく見ると彼の顔色が良くないように見える。
血の気がなく、活気すら感じられない。細かい傷は見て分かるけど、どれも致命的な傷じゃない。そうなれば、考えられる原因は一つ。
「病気を患っているのか?」
「……ああ。ここには医者はいないから、何の病気かは分からない。だけど、日に日に体が重くなって息もしづらくなる。次第に手足が痺れ始め、最終的には水すらも飲めなくなって寝たきりになる。ネコに話しても分からないだろうけどさ」
否定もせず、彼は覇気がない笑みを浮かべる。
ここに暮らしていた人達がこの病で次から次に倒れていき、あらゆる薬草を煎じて飲ませたりしていたが治ることなく死んでいったと彼は淡々と話した。自分にもその症状が表れ始め、今は手足が痺れ力が入らないという。
「生きたいなら、ここから出た方が良い。こうなりなくないなら……」
小刻みに震えている手を見つめながら、彼は俺に言う。
「……お前は、生きたくないのか?」
「生きたいに決まってるだろ! でも、治らないんだ! どうしろってんだよ!」
病に怯えているからなのか、彼は苛立つ。
この環境で治らない病に、疲れ切って諦めているのが話を聞いていて分かった。
「だったら諦めるなよ。治らないからって何もしないのは治す気がないのと同じだ」
「魔物かもしれない奴が知ったような……なっ!」
「俺が治してやる。大人しくしてろよ?」
「何をする気だよ!」
彼の足の間に移動して、俺は彼の前に座る。
俺を疑う彼は激しく取り乱すけど、それに構わず俺はある気配に意識を集中させる。
「な、んだ……この光……傷が消えて、いく?」
「そのままじっとして。あと少しで終わるから……」
驚く彼の声にそう答え、再び意識を集中させる。
体に巡る黄色い光の粒の存在を感じ取り、それを彼に流し込むイメージで光の粒を体から放出させる。
東の国には、病や怪我を治す事が出来る「治癒の力」という力を持って生まれてくる人がいる。この力は魔法とは異なる力で東の国に生まれた人にしか宿らない力。俺は、そんな力を持って生まれてきた一人。
人は、気力、体力、精神力といった生きる為の力「精力」を持って生まれてくる。人によってはこれを「生命の源」と言う人もいて、光の粒の色や大きさは人によって違う。この光の粒は俺の精力で、治癒の力はこの精力を傷付いている相手に分け与えることで傷や病を治す。
「……光が消えた……呼吸が軽い……痺れもない」
「ふぅ。体の不調は治ったみたいだね」
「そうみたいだ。体が嘘みたいに軽い……一体あの光は何だったんだ?」
体の不調から開放された彼は、俺が何をしたのか聞いてきた。
話したところで理解出来るかは分からないけど、隠すことでもないから、俺は力の事を簡単に話した。
「な、るほど……そんな力があるのか。凄いな……」
「でも、この力には制限がある。使い手によって制限の形は違うけど、俺の場合は軽い病気や怪我なら五十人、重い病気や怪我なら二十人が限界なんだ」
「それを超えるとどうなるんだ?」
「自分の精力が底について、生死を彷徨うことになる。命は無限じゃない、失えば命を落とす」
そう答えると、彼は慌てて謝ってきた。
「す、すみません! そんな危険な力なんて知らずに……使わせてしまって……」
「ま、待って! そんな顔しなくても俺はまだ平気だから。制限さえ守れば普通に治療出来る……」
そこまで口にして俺はふと気付く。
彼は聞いている症状に比べて軽い方だと思うけど、手足の痺れや呼吸のしづらさを抱えていた。病なら重症とはいかないけど軽症でもないはず。それなのに治癒の力を使った感覚は軽症よりも軽く感じる。現に発動時は疲れを感じるのはいつものことだけど、治癒が終わった後の体の怠さは感じない。
「あの、どうかしたんですか?」
突然無口になった俺を心配してか、彼が声をかけてくる。俺は、気付いたことを彼には話さず「なんでない」と答えた。
「あ、あの……」
「何だ?」
「さっきの力は、まだ使えますか?」
恐る恐るに彼は聞いてくる。
「使えるけど、それがどうしたんだ?」
「……実は、病を抱えた人が他にもいるんです。見知らずの人に頼むのは情けない話ですが、治していただけないでしようか?」
「他に人がいるのか? ここに来るまで人の気配はしなかったけど……」
「奥に教会があるんです。そこに隠れているんです。魔物避けの効果がある像を置いてあるのでここでは一番安全な場所なんです」
いつの間にか敬語口調で話す彼を敢えて気にせず話を聞くと、その教会には病で倒れている人や逃げる際に怪我を負った人がいるらしい。
彼以外にも人がいるのなら、俺には助ける以外に選択肢はない。迷いなく「分かった」と答えると彼はその場に立ち上がる。
「立ち上がっても平気なのか? 治したとはいえ、体力は完全に戻っていないだろ? 少し休んでからでも……」
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