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『春日井の努力』
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『春日井の努力』
この世界において、大半の子が人工受精によって生まれている。
ゆえに父を持つ子は少ない。
彼女ら、もしくは数少ない彼らの戸籍などにおける父の欄には、出産補助センター、いわゆる精子バンクから母体へ提供された検体番号が記録されるのみだ。
確率的にまずありえないが、母と子が将来的に同じ検体、もしくはその近隣者からの検体を受けて、疑似的な近親出産を防ぐためのデータである。
検体番号は男性の絶対的なプライバシーとされており、その提供者の詳細なデータは受け取った女性でも絶対に明かされない。
検体に添えられる公表データは提供者の検体提供時のおおまかな年齢、身長体重、疾患の有無などといった健康上のデータのみ。
それでも娘からすれば唯一の父親のデータだ。検体番号を暗記している子も珍しくはない。
かつてオレが山崎先生から受け取った礼の冊子の中で、一番ショックを受けた項目でもある。
この世界の子は父の愛を知らない。
……という、オレの価値観からすると寂しい話になるが、この世界ではそれが普通。そう、普通なのだ。
しかしそれを良しとせず、パートナーを求める女性が圧倒的に多いのもまた事実。
先生だってそうだったし、
「勉強をがんばって、いい学校に入って、いい会社に入れば男の人を養えるし贅沢もさせてあげられる。そうすれば結婚できるかもと思ってがんばってる、だけど」
春日井さんもそうだというだけの話。
そしてその目標の為に優等生であろうと努力していたわけだ。
「だけど、私は……変態だから」
「ええと……どう、その……変態なの?」
何度も変態変態と連呼されてしまうと、オレとしてはこの話題に深くつっこみたくはないがもはや状況が許さない。
太ももに挟まれたオレの手も、いまや柔肌の万力に締められつづけてシットリと汗ばんできた。
「私……見られるのが好きなの。ずっと見られたいと思っていたから……たとえどんな目であっても、男の人に見られたいと思って、気が付いたら……あんな事を」
「……露出の事?」
見られたいの意味がいささか異なる気がするが。
さっきまでの春日井さんの『見られたい』は男に認められたい、愛されたい、結婚したい、という見られたいのはずだ。
しかし露出狂が望む『見られたい』は、まさにそのまま視覚的に見られたいという欲求でありまして。
「わかってるわ。それが私の望む『見られ方』ではないのは」
「そ、そうだよね。良かった」
「でも、少し前……宮城君が転入する前から、少し離れた駅で休日に露出癖のある不審者が出没するようになったと聞いたの」
「あ、そうらしいね。最近の事じゃないんだ?」
例のゲーセンに行ったに、冬原先生たちがパトロールしていた。
「そうね。昨年末あたりからかしら? コートの時期から聞くようになったし」
露出と言えば全裸コートか。
確かに今の時期にコートは不審者バリバリのファッションだし、露出趣味というのはウインターシーズンのみ達成される性癖かもしれない。
「それを最初に聞いた時、私、思った。とんでもない事をするって」
「そうだね」
「被害にあった男性がかわいそうとも思った」
「……そうだね」
「でも」
おっと?
「被害者の男性には申し訳ないと思うけど……その女がうらやましかった。少なくともその一瞬は自分の事だけを見てもらえる、トラウマになるかもしれないけど、もしかしたら一生覚えてもらえるかもって」
あかん。
これは変態とかという可愛い話でなくなった。病み系だ。
「でもだからって、私はそんな事をしない。そういうのは……犯罪にならない程度でおさえるべきだって」
「……じゃあ、その恰好」
春日井さんのセクシー系の服のチョイスの理由って、もしかして?
「ええ。最初は冬に薄着なんてしていたから職務質問もよくされたけど。最近は見極めもうまくなったし。犯罪じゃないなら大丈夫でしょう?」
「……まぁ、そう、かな?」
やはりズレている。
しかし不当に責められる理由もない。公序良俗や法に反しない限り、個人のファッションは自由だろう。
「でも……ボクにその、下着を見せてきたのは?」
「あれは……本当にごめんなさい。本当にそんなつもりはなかったの」
太ももにはさまっている手がますます締め付けられる。
「けど、そういう恰好だったよね。しかも人気のない路地裏で……」
あの時の春日井さんは、サングラス、マスク、コート、その下は下着姿の半裸だ。
完璧に露出をたしなむ方の正装だった。
「うっ、ごめんなさい! 本当にごめんなさいッ! ……言い訳のしようもないのだけど……ううっ!」
「落ち着いて。まずは理由を聞きたいから」
泣き出しそうになる春日井さんをなだめて、オレは話の続きをうながした。
この世界において、大半の子が人工受精によって生まれている。
ゆえに父を持つ子は少ない。
彼女ら、もしくは数少ない彼らの戸籍などにおける父の欄には、出産補助センター、いわゆる精子バンクから母体へ提供された検体番号が記録されるのみだ。
確率的にまずありえないが、母と子が将来的に同じ検体、もしくはその近隣者からの検体を受けて、疑似的な近親出産を防ぐためのデータである。
検体番号は男性の絶対的なプライバシーとされており、その提供者の詳細なデータは受け取った女性でも絶対に明かされない。
検体に添えられる公表データは提供者の検体提供時のおおまかな年齢、身長体重、疾患の有無などといった健康上のデータのみ。
それでも娘からすれば唯一の父親のデータだ。検体番号を暗記している子も珍しくはない。
かつてオレが山崎先生から受け取った礼の冊子の中で、一番ショックを受けた項目でもある。
この世界の子は父の愛を知らない。
……という、オレの価値観からすると寂しい話になるが、この世界ではそれが普通。そう、普通なのだ。
しかしそれを良しとせず、パートナーを求める女性が圧倒的に多いのもまた事実。
先生だってそうだったし、
「勉強をがんばって、いい学校に入って、いい会社に入れば男の人を養えるし贅沢もさせてあげられる。そうすれば結婚できるかもと思ってがんばってる、だけど」
春日井さんもそうだというだけの話。
そしてその目標の為に優等生であろうと努力していたわけだ。
「だけど、私は……変態だから」
「ええと……どう、その……変態なの?」
何度も変態変態と連呼されてしまうと、オレとしてはこの話題に深くつっこみたくはないがもはや状況が許さない。
太ももに挟まれたオレの手も、いまや柔肌の万力に締められつづけてシットリと汗ばんできた。
「私……見られるのが好きなの。ずっと見られたいと思っていたから……たとえどんな目であっても、男の人に見られたいと思って、気が付いたら……あんな事を」
「……露出の事?」
見られたいの意味がいささか異なる気がするが。
さっきまでの春日井さんの『見られたい』は男に認められたい、愛されたい、結婚したい、という見られたいのはずだ。
しかし露出狂が望む『見られたい』は、まさにそのまま視覚的に見られたいという欲求でありまして。
「わかってるわ。それが私の望む『見られ方』ではないのは」
「そ、そうだよね。良かった」
「でも、少し前……宮城君が転入する前から、少し離れた駅で休日に露出癖のある不審者が出没するようになったと聞いたの」
「あ、そうらしいね。最近の事じゃないんだ?」
例のゲーセンに行ったに、冬原先生たちがパトロールしていた。
「そうね。昨年末あたりからかしら? コートの時期から聞くようになったし」
露出と言えば全裸コートか。
確かに今の時期にコートは不審者バリバリのファッションだし、露出趣味というのはウインターシーズンのみ達成される性癖かもしれない。
「それを最初に聞いた時、私、思った。とんでもない事をするって」
「そうだね」
「被害にあった男性がかわいそうとも思った」
「……そうだね」
「でも」
おっと?
「被害者の男性には申し訳ないと思うけど……その女がうらやましかった。少なくともその一瞬は自分の事だけを見てもらえる、トラウマになるかもしれないけど、もしかしたら一生覚えてもらえるかもって」
あかん。
これは変態とかという可愛い話でなくなった。病み系だ。
「でもだからって、私はそんな事をしない。そういうのは……犯罪にならない程度でおさえるべきだって」
「……じゃあ、その恰好」
春日井さんのセクシー系の服のチョイスの理由って、もしかして?
「ええ。最初は冬に薄着なんてしていたから職務質問もよくされたけど。最近は見極めもうまくなったし。犯罪じゃないなら大丈夫でしょう?」
「……まぁ、そう、かな?」
やはりズレている。
しかし不当に責められる理由もない。公序良俗や法に反しない限り、個人のファッションは自由だろう。
「でも……ボクにその、下着を見せてきたのは?」
「あれは……本当にごめんなさい。本当にそんなつもりはなかったの」
太ももにはさまっている手がますます締め付けられる。
「けど、そういう恰好だったよね。しかも人気のない路地裏で……」
あの時の春日井さんは、サングラス、マスク、コート、その下は下着姿の半裸だ。
完璧に露出をたしなむ方の正装だった。
「うっ、ごめんなさい! 本当にごめんなさいッ! ……言い訳のしようもないのだけど……ううっ!」
「落ち着いて。まずは理由を聞きたいから」
泣き出しそうになる春日井さんをなだめて、オレは話の続きをうながした。
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