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『餓狼たちの挽歌(1)』
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『餓狼たちの挽歌(1)』
待ち合わせの場所に行くと、チラチラと周囲の女どもの視線が集中している。
私はその視線を集める主の元へ歩みを進めた。
相手の身長は172センチと、やや高め。
黒いスーツに身を包み、短めの髪をやや上げるように後ろに流してセットしている。
整った顔立ちながらも、やや憂鬱げな表情。
普通の女であれば、まず二度見する。
「待たせたか?」
私が声をかけると、さりげに盗撮などしていた女どもが驚く。
待ち人が私だと知って、金か脅しかなどと思っているのだろう。
さもあらん。
私は183センチと女としては、かなり大柄だし、なによりも胸が大きい。
ボディスーツでしめつけて、なお足元が見えないほどだ。
長身巨乳。
顔は見られないほどではないと思っているが、第一印象は最悪の部類の……今どきの言葉で言えば恋愛弱者というヤツだ。
ではそんな私が待たせていた、周囲の注目を集めている相手は誰かというと。
「押忍」
「美雪。押忍はやめろ、雰囲気が台無しだ」
旧知の者であり、正確には高校時代の部活の後輩。
今は母校で体育教師をやっている、冬原美雪という一つ下の後輩だ。
女なら誰もがうらやむ薄いボディではあるが、コイツも悲しき高身長。
互いに男っけのない生活をしてるわけだが、時折、こうして連れ立って飲みに誘っている。
「よし、行くか」
「押忍、失礼します」
その際、先輩命令として腕を絡ませるようにさせるが、これがまた気持ちいい。
パッと見、スーツを着た美雪は男にしか見えない。
いい男を連れまわしている気分になれる。
一方で美雪も今夜の飲み代は私が全額出資なので、教師の安月給ではなかなか足を運べない飲み屋……つまり、かわいい男の子のいる店を楽しめるという、ウインウインの関係だ。
男っけのない人生を少しでも虚飾で飾るための、互いに空しい代償行為であることは重々承知だが、こんなことでもしないとやっていけない人生でもある。
私は美雪を見せつけるようにしつつ、夜の街をブラつき、今夜の店を決めて飲み始めた。
「――社長さんなんですね!」
「ああ、そうだぞ。なんでも好きなものを飲むといい!」
「お若いのにスゴいんですね!」
「ああ、君もフルーツなどを頼め! 遠慮はいらんぞ!」
両サイドに今夜の推しと決めた男たちをはべらせ、心のこもらないヨイショを耳にしつつグラスを傾ける。
別に本気でうやまえなどと思ってもいない。
この子らだって金のためにやっているのだから、うわべの演技だけで充分だ。
むしろつとめて本気のようにふるまってくれるあたり、好感すら持てる。
会話をもりあげるためか、時折ボディタッチすらもしてくれる。
その手を握り返すと少しまゆをひそめて嫌がるが、それでも笑顔は崩さない。
うむ、たいしたプロ意識だ。
今夜はなかなか当たりを引いたな、そう思いながら対面席で同じく男の子に挟まれている美雪を見る。
酒もそこそこ進み、意識もゆるんでくるころだ。
いつもであれば、整った顔をだらしなくさせ、セクハラギリギリのボディタッチを試みてては、うまくホストの子らにかわされて涙目になる頃なのだが。
「お注ぎします」
「ああ、ありがとう。キミはウーロン茶にしておくか?」
酒を注がれた返杯に、ソフトドリンクをすすめる美雪。
男を酔わせてどうこうしようという気配すらなく、むしろ裕余すら感じさせる所作は、普段飢えてギラついた女の目で舐め回されている若いホストの子たちに好印象を与えているようだ。
「お姉さん、お綺麗ですよね。そちらのスーツはご趣味ですか?」
女がパンツスーツを着る場合は公式の場、もしくはそういう趣味かのどちらかが多い。
また、私のように女に男装をさせて連れまわす、高尚な趣味人も少なくない。
であれば、そういうふうに見られるのも自然だし、これまでもそうだった。
だが今夜はいささか風向きがおかしかった。
「ありがとう。先輩の前でだらしない恰好はできないからな。あちらの先輩は若くして会社を興し、成功させた素晴らしい方で、私など学生時代から今でもたいへんお世話になっている。今夜は酒を楽しみたいとの事で少しハメをはずされるかもしれないが、悪い人ではないからな。よろしく頼む」
などと、すでにハメをはずし、なんとかホストを連れ出してハメハメモードに持ち込めんかと虎視眈々としていた私のフォローまでする始末。
そうなるとホストの子らも、私が本気で男をあさっているのではなく、わざと道化じみてふざけて遊んでいるものだと良い方向に勘違いしてしまった。
さっきまでイヤがられていたソフトタッチだが、いやらしく触れようとする私の手を逆に握り返してしまわれたりする。
いざとなれば、お付きと思われている美雪が私の無頼を止めてくれるのと思っているのだろう。
そうなると私もそれ以上はがっつくわけにはいかず『若いんだからもっと自分を大事にな』などと、茶化しつつもカッコつけざるをえない。
結局、いつもより物理的にも心の距離的にもホストと近づけた席だったが、さりとてテイクアウトはかなわず、またいつのようなチップの出番もなく、明朗な会計後は店の玄関先まで笑顔のホストたちに見送られた。
しかも、また来てくださいねと名刺を渡されながら、ホッペにキスまでされた。無料で。
ちなみに美雪はそんなホッペチューを笑顔でかわし、断っていた。
待ち合わせの場所に行くと、チラチラと周囲の女どもの視線が集中している。
私はその視線を集める主の元へ歩みを進めた。
相手の身長は172センチと、やや高め。
黒いスーツに身を包み、短めの髪をやや上げるように後ろに流してセットしている。
整った顔立ちながらも、やや憂鬱げな表情。
普通の女であれば、まず二度見する。
「待たせたか?」
私が声をかけると、さりげに盗撮などしていた女どもが驚く。
待ち人が私だと知って、金か脅しかなどと思っているのだろう。
さもあらん。
私は183センチと女としては、かなり大柄だし、なによりも胸が大きい。
ボディスーツでしめつけて、なお足元が見えないほどだ。
長身巨乳。
顔は見られないほどではないと思っているが、第一印象は最悪の部類の……今どきの言葉で言えば恋愛弱者というヤツだ。
ではそんな私が待たせていた、周囲の注目を集めている相手は誰かというと。
「押忍」
「美雪。押忍はやめろ、雰囲気が台無しだ」
旧知の者であり、正確には高校時代の部活の後輩。
今は母校で体育教師をやっている、冬原美雪という一つ下の後輩だ。
女なら誰もがうらやむ薄いボディではあるが、コイツも悲しき高身長。
互いに男っけのない生活をしてるわけだが、時折、こうして連れ立って飲みに誘っている。
「よし、行くか」
「押忍、失礼します」
その際、先輩命令として腕を絡ませるようにさせるが、これがまた気持ちいい。
パッと見、スーツを着た美雪は男にしか見えない。
いい男を連れまわしている気分になれる。
一方で美雪も今夜の飲み代は私が全額出資なので、教師の安月給ではなかなか足を運べない飲み屋……つまり、かわいい男の子のいる店を楽しめるという、ウインウインの関係だ。
男っけのない人生を少しでも虚飾で飾るための、互いに空しい代償行為であることは重々承知だが、こんなことでもしないとやっていけない人生でもある。
私は美雪を見せつけるようにしつつ、夜の街をブラつき、今夜の店を決めて飲み始めた。
「――社長さんなんですね!」
「ああ、そうだぞ。なんでも好きなものを飲むといい!」
「お若いのにスゴいんですね!」
「ああ、君もフルーツなどを頼め! 遠慮はいらんぞ!」
両サイドに今夜の推しと決めた男たちをはべらせ、心のこもらないヨイショを耳にしつつグラスを傾ける。
別に本気でうやまえなどと思ってもいない。
この子らだって金のためにやっているのだから、うわべの演技だけで充分だ。
むしろつとめて本気のようにふるまってくれるあたり、好感すら持てる。
会話をもりあげるためか、時折ボディタッチすらもしてくれる。
その手を握り返すと少しまゆをひそめて嫌がるが、それでも笑顔は崩さない。
うむ、たいしたプロ意識だ。
今夜はなかなか当たりを引いたな、そう思いながら対面席で同じく男の子に挟まれている美雪を見る。
酒もそこそこ進み、意識もゆるんでくるころだ。
いつもであれば、整った顔をだらしなくさせ、セクハラギリギリのボディタッチを試みてては、うまくホストの子らにかわされて涙目になる頃なのだが。
「お注ぎします」
「ああ、ありがとう。キミはウーロン茶にしておくか?」
酒を注がれた返杯に、ソフトドリンクをすすめる美雪。
男を酔わせてどうこうしようという気配すらなく、むしろ裕余すら感じさせる所作は、普段飢えてギラついた女の目で舐め回されている若いホストの子たちに好印象を与えているようだ。
「お姉さん、お綺麗ですよね。そちらのスーツはご趣味ですか?」
女がパンツスーツを着る場合は公式の場、もしくはそういう趣味かのどちらかが多い。
また、私のように女に男装をさせて連れまわす、高尚な趣味人も少なくない。
であれば、そういうふうに見られるのも自然だし、これまでもそうだった。
だが今夜はいささか風向きがおかしかった。
「ありがとう。先輩の前でだらしない恰好はできないからな。あちらの先輩は若くして会社を興し、成功させた素晴らしい方で、私など学生時代から今でもたいへんお世話になっている。今夜は酒を楽しみたいとの事で少しハメをはずされるかもしれないが、悪い人ではないからな。よろしく頼む」
などと、すでにハメをはずし、なんとかホストを連れ出してハメハメモードに持ち込めんかと虎視眈々としていた私のフォローまでする始末。
そうなるとホストの子らも、私が本気で男をあさっているのではなく、わざと道化じみてふざけて遊んでいるものだと良い方向に勘違いしてしまった。
さっきまでイヤがられていたソフトタッチだが、いやらしく触れようとする私の手を逆に握り返してしまわれたりする。
いざとなれば、お付きと思われている美雪が私の無頼を止めてくれるのと思っているのだろう。
そうなると私もそれ以上はがっつくわけにはいかず『若いんだからもっと自分を大事にな』などと、茶化しつつもカッコつけざるをえない。
結局、いつもより物理的にも心の距離的にもホストと近づけた席だったが、さりとてテイクアウトはかなわず、またいつのようなチップの出番もなく、明朗な会計後は店の玄関先まで笑顔のホストたちに見送られた。
しかも、また来てくださいねと名刺を渡されながら、ホッペにキスまでされた。無料で。
ちなみに美雪はそんなホッペチューを笑顔でかわし、断っていた。
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