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『武勇伝』
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『武勇伝』
「あの日は夏になる少し前でね。ちょうど夏祭りの夜だった。私と美雪、いや冬原先生は……」
「普段の呼び方で結構ですよ」
「そうかい? なら。私と美雪は祭りの夜だというのに女同士で寂しくブラついていたよ」
「あ、はい」
「私もアレも懐がさみしくてね。祭りで賑わう神社の屋台をひやかし、浴衣姿の男の子を遠目に眺めて青春を謳歌していたわけさ」
前世でもこちらの世界でも学生のお小遣い事情というのは似たようなものらしい。先立つものが無いなら工夫するか我慢するかの二択だ。
「だが金が無くても腹は減る。行きつけのラーメン屋でツケで食わしてもらった後の話だ」
ラーメン屋ってツケが利くのか。いや、チェーンではない個人経営の店ならアリなのか?
「腹も膨れた私たちはそれなりに満足して、帰って寝るかと話していた頃だから……22時頃かな。祭りの後とはいえ、それなりにまだ騒がしい繁華街の通りでもめ事が起きた」
「大通りですか?」
「いや、繁華街のアーケード内だけれど、奥まった方の通りで居酒屋が連なる大人向けの小道の方だね」
薫ちゃんのお店がある通りだろうか。あのあたりはメインから外れた飲み屋街だ。
「私たちはすぐに駆けだした」
「……男の子目当て、ですか?」
オレはやや演技じみたジト目で氷雨社長を見るものの、ジョークだと通じたのか苦笑を返してきた。
「勘弁しておくれ、モテない小娘たちのする事だから大目に見て欲しい。とはいえ……男の子目当てだけ、というわけでもなかったよ」
「おや? と言うと?」
「誤解しないで欲しい。私はその頃と違って今はもう落ち着いた大人だという前提で聞いてくれるかい?」
「え、あ、はい」
「男の子が悲鳴をあげているという事は、相手は女。しかも場所的に酔っ払い。それを助けるにためなら多少の喧嘩沙汰も、警察や学校も大目に見てくれるし、なんなら男の子から感謝もされる」
「つまり」
「そう。半分は男の子、半分はケンカ目当てさ。空手道部とはいえ実戦の機会は皆無だからね。大儀を得て修練の成果を確かめられるなら願ってもないだろう?」
なるほど、今は落ち着いた大人だと前置きするわけだ。
「ちなみに……こちらからケンカをふっかけたりは?」
「よしてくれ。私たちはそれなりの腕だと自負もあった。カバンの持ち手に赤だの白だのビニールテープを巻いてイキってるだけのヤンキーにケンカを売るなんてダサい事はしなかったよ」
ビニールテープ? 確か昭和時代のヤンキーがケンカを買ったり売ったりする意思表示にしていたとかいうアレだろうか?
男女比が変わっても、似たような世界では文化や風俗は同じような派生をするようだ。
それはともかくケンカを売る事はしなかったと。であれば。
「買う事はあったんですか?」
「……火の粉を払った事はあるよ。ともかく。その日は酔っ払い相手に特撮よろしくライダーキックでも食らわせてやろうと走ったわけだ」
「はい」
この異世界にもベルトを巻いたライダーもいるようだ。
「あの日は夏になる少し前でね。ちょうど夏祭りの夜だった。私と美雪、いや冬原先生は……」
「普段の呼び方で結構ですよ」
「そうかい? なら。私と美雪は祭りの夜だというのに女同士で寂しくブラついていたよ」
「あ、はい」
「私もアレも懐がさみしくてね。祭りで賑わう神社の屋台をひやかし、浴衣姿の男の子を遠目に眺めて青春を謳歌していたわけさ」
前世でもこちらの世界でも学生のお小遣い事情というのは似たようなものらしい。先立つものが無いなら工夫するか我慢するかの二択だ。
「だが金が無くても腹は減る。行きつけのラーメン屋でツケで食わしてもらった後の話だ」
ラーメン屋ってツケが利くのか。いや、チェーンではない個人経営の店ならアリなのか?
「腹も膨れた私たちはそれなりに満足して、帰って寝るかと話していた頃だから……22時頃かな。祭りの後とはいえ、それなりにまだ騒がしい繁華街の通りでもめ事が起きた」
「大通りですか?」
「いや、繁華街のアーケード内だけれど、奥まった方の通りで居酒屋が連なる大人向けの小道の方だね」
薫ちゃんのお店がある通りだろうか。あのあたりはメインから外れた飲み屋街だ。
「私たちはすぐに駆けだした」
「……男の子目当て、ですか?」
オレはやや演技じみたジト目で氷雨社長を見るものの、ジョークだと通じたのか苦笑を返してきた。
「勘弁しておくれ、モテない小娘たちのする事だから大目に見て欲しい。とはいえ……男の子目当てだけ、というわけでもなかったよ」
「おや? と言うと?」
「誤解しないで欲しい。私はその頃と違って今はもう落ち着いた大人だという前提で聞いてくれるかい?」
「え、あ、はい」
「男の子が悲鳴をあげているという事は、相手は女。しかも場所的に酔っ払い。それを助けるにためなら多少の喧嘩沙汰も、警察や学校も大目に見てくれるし、なんなら男の子から感謝もされる」
「つまり」
「そう。半分は男の子、半分はケンカ目当てさ。空手道部とはいえ実戦の機会は皆無だからね。大儀を得て修練の成果を確かめられるなら願ってもないだろう?」
なるほど、今は落ち着いた大人だと前置きするわけだ。
「ちなみに……こちらからケンカをふっかけたりは?」
「よしてくれ。私たちはそれなりの腕だと自負もあった。カバンの持ち手に赤だの白だのビニールテープを巻いてイキってるだけのヤンキーにケンカを売るなんてダサい事はしなかったよ」
ビニールテープ? 確か昭和時代のヤンキーがケンカを買ったり売ったりする意思表示にしていたとかいうアレだろうか?
男女比が変わっても、似たような世界では文化や風俗は同じような派生をするようだ。
それはともかくケンカを売る事はしなかったと。であれば。
「買う事はあったんですか?」
「……火の粉を払った事はあるよ。ともかく。その日は酔っ払い相手に特撮よろしくライダーキックでも食らわせてやろうと走ったわけだ」
「はい」
この異世界にもベルトを巻いたライダーもいるようだ。
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