トキメキは突然に

氷室龍

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本編

前編

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診断メーカーのお題
おっさんと上司と縄の出てくるハピエン小説を書いてください

ちゃんと書けてるといいんですが…。


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前編

梅雨真っ只中の6月のある日。
私は縁結びで知られる出雲大社に来ていた。
何故、こんなところにに来ているのかというと…。

――――――2か月前――――――

「遂に真由美も結婚するの?」
「そうなんだって。」
「仕事はどうするのかな?」
「相手は外資系の営業だから辞めるんじゃない?」
「そうか…。 寿退社かぁ。」
「あたし等も負けてらんないよ!」
「そうだね、一之瀬課長みたいには絶対なりたくはないもん。」

それは会社の給湯室での後輩たちの会話だった。
彼女たちの同僚・猪原真由美がどこぞの営業マンをとっ捕まえて結婚するという話だった。
で、そこでやり玉に挙げられたのが私・一之瀬佳織。

(はいはい、どうせ私は冴えないアラフォー女子ですよ。)

などと、心の中でつぶやく。
まぁね、御年42にもなって独身ともなれば若い彼女たちからすれば完全に『お局さん』ですわ。
もっと言えば『女の幸せを捨てた干物女子』ってところなのかな?
その分、仕事では評価はしてもらっているけどね。
などと思いつつ、その場を通り過ぎ自分の席へと戻っていった。

「課長?」
「あ、ごめんなさい。」
「珍しいですね。 課長が考え事なんて…。」
「年度初めの忙しさが一段落したからかしら。
 ちょっと気が抜けたみたいね。」

私は目の前に立つ部下の相楽春香に曖昧な笑みを浮かべてやり過ごす。
よく見ると彼女の左手の薬指にはシンプルなプラチナリングが嵌っている。

(そうか、6月には結婚するんだよね。)

そういえば彼女の結婚式に呼ばれていたことを思い出す。
一応、出席することにしているが正直気が進まない。
恐らく、というか十中八九先ほどの給湯室のような陰口をたたかれる。
それくらいならまだいい。
参列者から憐みの視線を向けられたら居たたまれないことこの上ない。

(はぁ、適当な理由付けて欠席にしとけばよかったかも…。)

と、今更ながらに後悔している。
私はもう一度ため息をついた。

「それより、用件は何?」
「あ、そうでした。 梶原常務がお呼びです。」
「え?」

私は驚きのあまり目を見開いた。
そして、手にした書類を落としてしまった。

「課長?」
「あ、ご、ごめんなさい。」

私は動揺を隠すように慌てて落とした書類を拾い集める。

「それで、常務はすぐに来いって?」
「いえ、急ぎではないようで…。
 就業後でいいそうです。」
「そ、そう、分かったわ。」

私は嫌な予感しかしなかった。
そしてその予感が間違っていなかったことを思い知ることになる。

私は仕事を終わらせ常務室へとやってきた。
一度、深呼吸をしてその重厚なドアをノックする。

「営業三課の一之瀬です。」
「ああ、入りたまえ。」

その返事を確認してからドアノブに手をかける。
掌は緊張からかじっとりと汗をかいている。

「ご用件は何でしょうか?」
「まぁ、そう固くなるな。」

後ろ手にドアを閉めて、私は正面に座るその人に尋ねた。
常務は手にした書類に目を通していた。

(ちょっとだけ白髪が増えた?)

そして、もう一つ気づいたことがあった。

「うん? どうした?」

不意に常務が顔を上げ、声をかけてきた。

「い、いえ、なんでも、ありません…。
 そ、それより、ご用件を…。」

そこから先は言葉を繋げれなかった。
何故なら、常務に唇を塞がれてしまったから。

「な、なんなんですか?!」
「キスしただけだが?」
「だから、どうして、そんなことになるんですか!」
「君の唇が美味しそうだったから?」
「はぁ?!」
「なんてね。」
「常務!!」
「分かってるからここへ来たと思ったんだがね。」
「私は…。」
「あの時の返事、まだ無理なのかい?」
「…………。」

私は答えられなかった。
否、答えてはいけない気がしたのだ。

「気が付いたとは思うけど、先日離婚が成立した。」
「…………。」
「これで俺には何の障害もなくなった。
 それでもまだ返事はくれないというのか?」
「常務…。」
「50過ぎたバツイチおっさんが相手じゃ嫌なのか?」
「そ、そういう訳では…。」
「佳織…。」

耳元で囁くように名を呼ばれ、私は身を固くする。
思い出したくないのに思い出して下腹部がキュッと絞まるのがわかる。

「あの時は可愛らしく啼いてくれたのにな。」
「雅之、さん…。」

私は今目の前にいる常務・梶原雅之と一度だけ関係を持ったことがあった。
元々、常務は私の上司だった。
あれは私が課長に昇進した夜のこと。
常務は昇進祝いと言って私を馴染みのバーに連れて行ってくれた。
お酒を飲みなれていない私のために常務は甘いカクテルを勧めてくれた。
その飲みやすさから私は何杯もお代わりを頼んでしまった。
これが間違いだった。
当然のごとく私は酔いつぶれて眠ってしまった。
次に気づいたのはベッドの上。
当然、私も常務も裸だった。
常務はとても50代とは思えないほど引き締まった体をしていた。
そして私は久々に与えられた快楽の波に溺れてしまったのだった。
翌朝、常務に告げられたのは…。

「俺と付き合ってほしい…。」

私はその言葉を『愛人として囲いたい』のだと理解した。
だから、その申し出に返事をする代わりに平手打ちをかまして着替え脱兎のごとく立ち去った。
それがちょうど1年前の出来事。
それからどんなに誘われようと断固として拒否してきたのに…。

「佳織?」
「ごめんなさい。
 何度も言いますが、常務の申し出にはお答えできません。」
「何故?」
「今の生活を乱されたくないんです。」
「佳織…。」

私はもう一度深呼吸をすると常務の腕を振りほどく。

「要件がそれだけなら失礼します。」
「佳織!」

常務の呼び止める声を無視して私は常務室を後にした。

翌日、私は常務の離婚を知ることになったのだが、それでもやはり彼の申し出を受け入れられなかった。
そこからは思い悩む日が続く。
何故なら、彼は諦めることなくアプローチしてくるから。
それに疲れたある日のランチタイム。
私は社食で相楽さんと昼食をしていた。

「課長、大丈夫ですか?」
「あんまり大丈夫じゃないかも…。」
「ふふ、課長も乙女だったんですね。」
「何それ?」
「だって、今の課長って恋する乙女の顔してますよ?」
「え?」
「あ、そうだ。
 踏ん切りつかないなら思い切って縁結びのパワースポット回るとかどうです?」
「パワースポット?」
「ウジウジ悩むよりいいんじゃないですか?」
「そうかしら…。」
「課長はそんなに嫌なんですか?」
「自分ではよくわからないわ。」
「もし、断ち切りたいのなら『縁切り』って手もありますよ。」
「縁切り?」
「ええ、関西にはその手のお寺や神社があるそうですよ。」
「縁切りかぁ…。」
「私はお勧めしませんけどね。」
「相楽さん?」
「だって、課長がこの会社に勤める限り常務と縁を切るなんて不可能です。
 だから、私は『縁結び』の方を勧めます。」
「縁結びねぇ。」
「奥出雲に一人旅なんてどうです?」
「奥出雲?」
「玉造温泉に三瓶山。
 で、メインは出雲大社!」
「出雲大社?」
「出雲大社の主神・大国主命おおくにぬしのみことの嫁探しの話って知りません?」
「ごめん、そういうの疎いの。」
大国主命おおくにぬしのみことは自分の妻を探すために長い旅をして娶ったそうなんです。
 そこから出雲大社は縁結びのご利益があるってことらしいです。」
「そうなのね。」
「大きな注連縄があって結構な迫力ですよ。
 本殿までに四つの鳥居があるんですよねぇ。
 見ごたえありますよ!」
「相楽さんは行ったことあるの?」
「はい! 平成の大遷宮があった時に行ったんですよ。
 実は今度結婚する彼ってその時にお参りした後にできたんです。」
「そ、そんなんだ…。」
「だから、課長も行ってきたらどうです?」
「そうね。 そうしようかしら…。」

そんな訳で私は出雲大社に来たのだった。
相楽さんに色々レクチャーを受けて、正しい参拝方法なるものを受けた甲斐があったというもの。
これで自分の中に燻る思いをちゃんと昇華できればいいんだけど…。
でも、まさかその効果がすぐに表れるなんてこの時の私は思いもよらなかった。
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縄…
縄をどうする?
縄要素薄目な気がしてきた…。
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