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15歳 人喰い狼と、世界でいちばん美しい姫君
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「はい、これでふかふかだよ」
そういって、ローザが乾いた私の毛皮を撫でた。
幼い頃に宣言したとおり、私の毛皮を魔法で乾かすのはすっかりローザの役割になっていた。
だが、この時間もあと僅かだ。
ローザももう十五歳。
あと一月もすれば学校を卒業し、大人となる。
卒業後の仕事先は、もう決まっていた。フォレストランドにある、魔法研究所だ。
雪の国のいくつかの研究所に加えてフォレストランドからも誘いが来ていると聞いた時は、私もサラも驚いた。
だが、止めようとは思わなかった。
ローザの人生なのだ。ローザが行きたいのなら、行けばいい。
マギアスの時とは違って、未来永劫の別れではない。
会いたいと感じたなら、会いに行けばよいのだから。
「いつでも帰ってくるがいい。もちろん、キースも連れてな」
「うん。
ふふ、キース、この前うちに来た時びっくりしてたね。わたしもだけど」
私とサラに改めて挨拶がしたいと言われてキースをこの家に上げたのは、ほんの数日前のことだった。
キースのことは幼い頃から知っているし、目の前で二人が結ばれるのを見届けたのだ。
別に改まった挨拶など不要だと言ったのだが、キースは「礼儀ですから」といって譲らなかった。
家に案内すると言って人喰い狼が出ると言われている森に入った時も、そこの家で暮らしているといった時も、キースはあまり驚かなかった。
ローザが干し肉をプレゼントした時から、街では暮らしていないだろうと大体勘づいてはいたらしい。
ただ、ここがもともとマギアスの住処で私とサラがマギアスと共に戦っていたと知った時には驚いていた。
無理もない。私もローザを拾うまでは森から出ない生活を送っていたため知らなかったが、マギアスの名は教科書にさえ載るほど有名だったのだ。
博識なキースが、マギアスを知らぬはずもなかった。
ちなみにその時はローザも驚いていた。
ずっと、私とサラだけで暮らしていたものだと思っていたらしい。
そういえば、マギアスのことをローザに話したことはこれまで一度もなかった。
おかげでその夜はマギアスが生きていた頃のことを散々質問攻めされたのは、いい思い出だ。
「あのね、パステール。昨日、サラともおはなししたんだけど……」
「なんだ」
「……今まで育ててくれて、ありがとう」
そう言って、ローザが私の毛皮を撫でた。
こみ上げるものを抑えて「ああ」と頷く。
去年、サラの言ったことは事実だったと実感した瞬間だ。
こんな喜びが、あと何回あるのだろうか。
分からなくともいい。きっと、この先もずっとそれを体感していくのだろうから。
その夜は一晩中、ローザと話をしていた。
ローザを拾ったときやヒゲを引っ張られたときの話。それから、ローザが初めて立ったときの話……。
その頃の話はローザの記憶には殆ど残っていないようで「本当に?」と驚いたり笑ったりしていた。
「パステール、よく怒らなかったね」
「赤ん坊に怒っても仕方あるまい。
……それに、ローザであったからな」
そう言って頬を舐めると、ローザは「くすぐったい」とくすくす笑った。
「他には、どんなおはなしがあるの?」
「そうさな……初めて森に出かけたときのことは覚えているか?」
「うん。パステールの歌が下手だったことは覚えてるよ」
「ううむ……それほど下手だろうか」
あれから十三年が経ったが、サラによれば私の歌は相変わらず下手らしい。
幸いローザはサラに似たようで、料理をしながら時折歌う鼻歌は上手なものだった。
唸る私の毛皮を撫でて、ローザが目を細める。
「でも、パステールの声は好きだったよ。
優しくて、ずっと聞いていたいくらい」
「そうか? では一曲……」
「それはいいかな」
ローザにあっさりと断られ、がっくりと項垂れた。
暖かな手が慰めるように毛皮を梳く。
「あと、はじめて魔法が使えるようになった時のことも覚えてるよ。
パステールもサラも、すごく喜んでくれたから」
「うむ。ローザはいつかマギアスのような魔法使いになるのだとあの頃は真剣に思っていた。
もちろん、今も思っているがな」
なにしろ、ローザはマギアスの使い魔たる私とサラの子どもなのだ。
そう言うと、ローザは「そうだね」と微笑んだ。
「初めて銀花の街に行ったとき、わたし「どうしてみんなパステールみたいに四つ足で歩いてないんだろう。サラみたいに浮かんでないんだろう」って不思議だったの。
キースのお母さんを見てすごく悩んだし、パステールとサラがわたしと血が繋がってないって知ってびっくりした」
「……血の繋がった親に、会いたいか?」
問いかけると、ローザは黙って首を横に振った。
「昔は気になったけど、今はいいの。
わたしの親は、パステールとサラだから」
「そうか……それならいい」
一瞬脳裏に浮かんだ白雪姫の記憶をかき消して、更に話を続けた。
キースに初めてプレゼントを贈ったときや、贈られたときのこと、それに二人が初めて二人きりで出かけたときのこと―――世間一般ではデートというのだろうか―――のことを話すと、ローザは恥ずかしそうに身をよじった。
「恥ずかしいから、その時のことは言っちゃダメ」
「どうしてだ? この時のことは、ぜひ結婚式で話そうと思っているのだが……」
「ダメったらダメ! それに、結婚式なんて気が早いよ。
わたしもキースも、まだ付き合って一年も経ってないのに……」
「そうだったな。すっかり忘れていた」
二人の付き合いが長いので、いつも忘れそうになってしまう。
ローザがその思いを自覚したときから数えてもまだ三年も経っていないというのに。
……しかし、不思議なものだ。
キースが留学したとき、ローザは親友との別れを悲しむだけだった。
新種の花を見つけたと聞いた時も、それを贈られたときも、ローザはキースの親友としてそれを喜んだ。
それがたった一年で恋心へと変わり、翌年には告白にまで至ったのだ。
生後一年で成体となる魔狼の私が言うことではないのかもしれないが、人間とはなんと成熟が早いのだろう。
あるいは、私がローザやキースの気持ちに気がついていなかっただけかもしれないが……。
「ローザ」
「なに? パステール」
意味もなく名前を呼ぶと、私の毛皮を撫でていたローザが首を傾げた。
その姿を見て、思わず言葉が零れる。
「大きくなったな」
「うん……パステールと、サラのおかげでね」
ローザのその言葉を、私はきっと生涯忘れないだろう。
ローザがフォレストランドに旅立って、三年が過ぎた。
二人の交際は順調に進み、無事に結婚式を挙げたのはつい一週間前の事だ。
お姫様のように白くてふわふわのドレスを着て、キースが育てたたくさんの植物たちで作ったブーケを持ったローザはとても美しかった。
衣装や化粧の効果もあるが、それだけではない。隣にキースがいるからだ。
世界で最も美しい姫君というのは、きっとローザのことを言うのだろう。
正直な話、式のことはあまりよく覚えていない。
幸せそうに微笑むローザを目にした途端、涙が止まらなくなってしまったのだ。
ローザには「もう、泣きすぎだよ」と涙ぐまれながら言われ、キースには優しく宥められ、サラには「あんた、泣きすぎよ」とからかわれてしまった。
しかし、そんなサラの声も僅かに震えていたというのはその声を間近で聞いた私しか知り得ないことだろう。
ローザがいなくなったあと、私とサラは元の生活に……戻ることはなかった。
基本的にはマギアスが遺した家で過ごすが、時折共に銀花の街に出かけてはアイスクリームを食べたり、街を散歩したりしているのだ。
街の者達ともだいぶ親しくなった。
時折「おまけだよ」といわれてビスケットをもらったり、子どもに「おっきなわんわんだー」と言われて頭を撫でられたりしている。
マギアスの元へいける日が楽しみなのは、今も昔も変わらない。
だが、最近ではそれに今の生活を楽しむ気持ちも加わった。
だから、すまない。マギアス。
私がマギアスの元へ行くのは、出来る限り長生きしたその後になりそうだ。
その分たくさんの土産話を持っていくから、どうか空の上で見守っていて欲しい。
「パステール。ローザとキースが帰ってくる時間まで、あと少ししかないわ。
はやく来なさい」
「すまない、すぐに行こう」
考え事に耽っている間に、いつの間にか時間が過ぎていたらしい。
慌ててサラの元へ駆け寄ると、サラは「なにを考えてたの?」と不思議そうに上下に揺れた。
「マギアスのことを考えていた。
彼の元へ行く時が、考えていたよりもずっと長くなるかもしれないと思ってな。
それまでに、マギアスに話す内容を考えていたんだ」
「あんた、そんなこと考えてたのね。
まあ、考え直したならいいけど……」
そう言って、サラがふわふわと揺れた。
「マギアスは気が長いから、あんたがちょっと遅くなったくらいで怒らないわよ。
逆に、早くマギアスの所へ行った方が怒るかもしれないわ」
「そうだな。あまり早く行っては、サラが来るまでにマギアスに話すことがなくなってしまう」
「……あんた、私のことも待つつもりだったの? 精霊が生きる時間は長いわよ」
精霊はその力の強さによって寿命が異なるが、サラほどの力があれば七千年は生きるだろう。
サラがどのくらい生きているのかは分からないが、私と違ってそう早くマギアスの元へ来る事は無いはずだ。
だが、もちろん私は―――そしてきっとマギアスも―――サラを待つつもりだった。
「私とサラは、マギアスの使い魔だろう。
マギアスはさみしがりだから、片方しかいなかったらとても寂しがる。
それに、私自身マギアスだけでなくサラとも一緒に過ごしたいのだ」
「……私、あんたのそういう所が好きよ」
「嬉しいものだな」
サラの言葉はいつも難解だが、この時ばかりはすんなりと意味が伝わってきた。
尾を振る私の頭に、サラが乗る。
その身体は、初めて会った時同様に仄かに温かかった。
そういって、ローザが乾いた私の毛皮を撫でた。
幼い頃に宣言したとおり、私の毛皮を魔法で乾かすのはすっかりローザの役割になっていた。
だが、この時間もあと僅かだ。
ローザももう十五歳。
あと一月もすれば学校を卒業し、大人となる。
卒業後の仕事先は、もう決まっていた。フォレストランドにある、魔法研究所だ。
雪の国のいくつかの研究所に加えてフォレストランドからも誘いが来ていると聞いた時は、私もサラも驚いた。
だが、止めようとは思わなかった。
ローザの人生なのだ。ローザが行きたいのなら、行けばいい。
マギアスの時とは違って、未来永劫の別れではない。
会いたいと感じたなら、会いに行けばよいのだから。
「いつでも帰ってくるがいい。もちろん、キースも連れてな」
「うん。
ふふ、キース、この前うちに来た時びっくりしてたね。わたしもだけど」
私とサラに改めて挨拶がしたいと言われてキースをこの家に上げたのは、ほんの数日前のことだった。
キースのことは幼い頃から知っているし、目の前で二人が結ばれるのを見届けたのだ。
別に改まった挨拶など不要だと言ったのだが、キースは「礼儀ですから」といって譲らなかった。
家に案内すると言って人喰い狼が出ると言われている森に入った時も、そこの家で暮らしているといった時も、キースはあまり驚かなかった。
ローザが干し肉をプレゼントした時から、街では暮らしていないだろうと大体勘づいてはいたらしい。
ただ、ここがもともとマギアスの住処で私とサラがマギアスと共に戦っていたと知った時には驚いていた。
無理もない。私もローザを拾うまでは森から出ない生活を送っていたため知らなかったが、マギアスの名は教科書にさえ載るほど有名だったのだ。
博識なキースが、マギアスを知らぬはずもなかった。
ちなみにその時はローザも驚いていた。
ずっと、私とサラだけで暮らしていたものだと思っていたらしい。
そういえば、マギアスのことをローザに話したことはこれまで一度もなかった。
おかげでその夜はマギアスが生きていた頃のことを散々質問攻めされたのは、いい思い出だ。
「あのね、パステール。昨日、サラともおはなししたんだけど……」
「なんだ」
「……今まで育ててくれて、ありがとう」
そう言って、ローザが私の毛皮を撫でた。
こみ上げるものを抑えて「ああ」と頷く。
去年、サラの言ったことは事実だったと実感した瞬間だ。
こんな喜びが、あと何回あるのだろうか。
分からなくともいい。きっと、この先もずっとそれを体感していくのだろうから。
その夜は一晩中、ローザと話をしていた。
ローザを拾ったときやヒゲを引っ張られたときの話。それから、ローザが初めて立ったときの話……。
その頃の話はローザの記憶には殆ど残っていないようで「本当に?」と驚いたり笑ったりしていた。
「パステール、よく怒らなかったね」
「赤ん坊に怒っても仕方あるまい。
……それに、ローザであったからな」
そう言って頬を舐めると、ローザは「くすぐったい」とくすくす笑った。
「他には、どんなおはなしがあるの?」
「そうさな……初めて森に出かけたときのことは覚えているか?」
「うん。パステールの歌が下手だったことは覚えてるよ」
「ううむ……それほど下手だろうか」
あれから十三年が経ったが、サラによれば私の歌は相変わらず下手らしい。
幸いローザはサラに似たようで、料理をしながら時折歌う鼻歌は上手なものだった。
唸る私の毛皮を撫でて、ローザが目を細める。
「でも、パステールの声は好きだったよ。
優しくて、ずっと聞いていたいくらい」
「そうか? では一曲……」
「それはいいかな」
ローザにあっさりと断られ、がっくりと項垂れた。
暖かな手が慰めるように毛皮を梳く。
「あと、はじめて魔法が使えるようになった時のことも覚えてるよ。
パステールもサラも、すごく喜んでくれたから」
「うむ。ローザはいつかマギアスのような魔法使いになるのだとあの頃は真剣に思っていた。
もちろん、今も思っているがな」
なにしろ、ローザはマギアスの使い魔たる私とサラの子どもなのだ。
そう言うと、ローザは「そうだね」と微笑んだ。
「初めて銀花の街に行ったとき、わたし「どうしてみんなパステールみたいに四つ足で歩いてないんだろう。サラみたいに浮かんでないんだろう」って不思議だったの。
キースのお母さんを見てすごく悩んだし、パステールとサラがわたしと血が繋がってないって知ってびっくりした」
「……血の繋がった親に、会いたいか?」
問いかけると、ローザは黙って首を横に振った。
「昔は気になったけど、今はいいの。
わたしの親は、パステールとサラだから」
「そうか……それならいい」
一瞬脳裏に浮かんだ白雪姫の記憶をかき消して、更に話を続けた。
キースに初めてプレゼントを贈ったときや、贈られたときのこと、それに二人が初めて二人きりで出かけたときのこと―――世間一般ではデートというのだろうか―――のことを話すと、ローザは恥ずかしそうに身をよじった。
「恥ずかしいから、その時のことは言っちゃダメ」
「どうしてだ? この時のことは、ぜひ結婚式で話そうと思っているのだが……」
「ダメったらダメ! それに、結婚式なんて気が早いよ。
わたしもキースも、まだ付き合って一年も経ってないのに……」
「そうだったな。すっかり忘れていた」
二人の付き合いが長いので、いつも忘れそうになってしまう。
ローザがその思いを自覚したときから数えてもまだ三年も経っていないというのに。
……しかし、不思議なものだ。
キースが留学したとき、ローザは親友との別れを悲しむだけだった。
新種の花を見つけたと聞いた時も、それを贈られたときも、ローザはキースの親友としてそれを喜んだ。
それがたった一年で恋心へと変わり、翌年には告白にまで至ったのだ。
生後一年で成体となる魔狼の私が言うことではないのかもしれないが、人間とはなんと成熟が早いのだろう。
あるいは、私がローザやキースの気持ちに気がついていなかっただけかもしれないが……。
「ローザ」
「なに? パステール」
意味もなく名前を呼ぶと、私の毛皮を撫でていたローザが首を傾げた。
その姿を見て、思わず言葉が零れる。
「大きくなったな」
「うん……パステールと、サラのおかげでね」
ローザのその言葉を、私はきっと生涯忘れないだろう。
ローザがフォレストランドに旅立って、三年が過ぎた。
二人の交際は順調に進み、無事に結婚式を挙げたのはつい一週間前の事だ。
お姫様のように白くてふわふわのドレスを着て、キースが育てたたくさんの植物たちで作ったブーケを持ったローザはとても美しかった。
衣装や化粧の効果もあるが、それだけではない。隣にキースがいるからだ。
世界で最も美しい姫君というのは、きっとローザのことを言うのだろう。
正直な話、式のことはあまりよく覚えていない。
幸せそうに微笑むローザを目にした途端、涙が止まらなくなってしまったのだ。
ローザには「もう、泣きすぎだよ」と涙ぐまれながら言われ、キースには優しく宥められ、サラには「あんた、泣きすぎよ」とからかわれてしまった。
しかし、そんなサラの声も僅かに震えていたというのはその声を間近で聞いた私しか知り得ないことだろう。
ローザがいなくなったあと、私とサラは元の生活に……戻ることはなかった。
基本的にはマギアスが遺した家で過ごすが、時折共に銀花の街に出かけてはアイスクリームを食べたり、街を散歩したりしているのだ。
街の者達ともだいぶ親しくなった。
時折「おまけだよ」といわれてビスケットをもらったり、子どもに「おっきなわんわんだー」と言われて頭を撫でられたりしている。
マギアスの元へいける日が楽しみなのは、今も昔も変わらない。
だが、最近ではそれに今の生活を楽しむ気持ちも加わった。
だから、すまない。マギアス。
私がマギアスの元へ行くのは、出来る限り長生きしたその後になりそうだ。
その分たくさんの土産話を持っていくから、どうか空の上で見守っていて欲しい。
「パステール。ローザとキースが帰ってくる時間まで、あと少ししかないわ。
はやく来なさい」
「すまない、すぐに行こう」
考え事に耽っている間に、いつの間にか時間が過ぎていたらしい。
慌ててサラの元へ駆け寄ると、サラは「なにを考えてたの?」と不思議そうに上下に揺れた。
「マギアスのことを考えていた。
彼の元へ行く時が、考えていたよりもずっと長くなるかもしれないと思ってな。
それまでに、マギアスに話す内容を考えていたんだ」
「あんた、そんなこと考えてたのね。
まあ、考え直したならいいけど……」
そう言って、サラがふわふわと揺れた。
「マギアスは気が長いから、あんたがちょっと遅くなったくらいで怒らないわよ。
逆に、早くマギアスの所へ行った方が怒るかもしれないわ」
「そうだな。あまり早く行っては、サラが来るまでにマギアスに話すことがなくなってしまう」
「……あんた、私のことも待つつもりだったの? 精霊が生きる時間は長いわよ」
精霊はその力の強さによって寿命が異なるが、サラほどの力があれば七千年は生きるだろう。
サラがどのくらい生きているのかは分からないが、私と違ってそう早くマギアスの元へ来る事は無いはずだ。
だが、もちろん私は―――そしてきっとマギアスも―――サラを待つつもりだった。
「私とサラは、マギアスの使い魔だろう。
マギアスはさみしがりだから、片方しかいなかったらとても寂しがる。
それに、私自身マギアスだけでなくサラとも一緒に過ごしたいのだ」
「……私、あんたのそういう所が好きよ」
「嬉しいものだな」
サラの言葉はいつも難解だが、この時ばかりはすんなりと意味が伝わってきた。
尾を振る私の頭に、サラが乗る。
その身体は、初めて会った時同様に仄かに温かかった。
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