生涯の伴侶が見つからない。転生令嬢の婚活

麦畑ムギ

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15.結婚してください

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 昼食が終わった後、私は庭園を見てみたいと言ってテオドールを散歩に誘った。私たちは連れ立って庭を散策した。私はまず当たり障りのない会話をしようと思ったのだが、ドキドキしてしまって言葉が出てこなかった。テオドールも今は特に話したいことがないらしく、私たちはほとんど無言のまま歩いた。

 「あの…テオドール」

 私は緊張に耐え切れなくなって口火を切った。

 「あのね、突然でびっくりすると思うんだけど…大事な話だから、聞いてほしくて」

 私は震える声でそう言い、一呼吸置いて続けた。

 「あの…もしかしたら、困らせたり、嫌な気持ちにさせたりするかもしれないんだけど」

 テオドールは怪訝な顔でこちらを見ていた。

 「一体何だよ、遠慮せず言ってみろよ」

 「うん……」

 私は勇気を振り絞って言った。

 「その…私と…結婚、してくれたら、嬉しいんだけど…」

 「は」

 テオドールは口をぽかんと開けて停止した。

 「う…やっぱり、嫌だよね…。ご、ごめん」

 「………お、お前…正気か?」

 「ど、どういうことよお」

 「いや、いつものしょうもない冗談なのかと…いや、違うよな…お前は冗談でこんなこと言わねえな…」

 「う、うん…本気だよ。テオドールと、夫婦になれたらいいなって、思ったの。今まではそんなこと、考えもしなかった。でも、何日か前から…」

 私はつっかえながらも何とかそう言った。テオドールは穴が開くほど私を見つめた。宝珠のように綺麗な瞳が、戸惑いに揺れていた。私は逃げ出したくなっていたが、気持ちを全部伝えなければと思った。中途半端では、絶対に後悔する。

 「テオドールとなら、きっと幸せになれるって思ったの。だから、私…あなたに釣り合うように、頑張るから…。私と、結婚してもらえない?」

 私たちはしばらく無言で見つめあっていた。テオドールは微かに顔を歪めた。苦悶しているようだった。少し経って、やっと絞り出すようにこう答えた。

 「いや、それは…無理だと思う」

 やっぱりダメか、と私は思った。そう上手くいくはずはない、分かっていたことだ。そう思うのに、胸が苦しかった。言わなきゃ良かったかなぁ、気まずくなるの嫌だなぁ、そんなことを考えながら私は尋ねた。

 「…どうしてか、聞いてもいいかしら?もう心に決めた方がいるの?」

 それらしい様子は微塵もなかったが、女っ気のない奴だとは言え年頃の男だ。浮いた話の一つや二つや三つあってもおかしくはない。

 「いや、そういうわけじゃ…」

 ふむ。つまり、結婚相手に求める条件を私が満たしていないということか。私はここでハッと思い当たった。どこかで小耳に挟んだ情報によると、男は子孫を残そうという本能が強いため、それが強く刺激されると恋愛や結婚に発展しやすいとかいうことだ。

 「なるほど…つまり私とじゃ子づくりできない、ということ?」

 「お前本当何言ってんだ!?」

 私のあけすけな言葉にびっくりしたのだろうか、テオドールは真っ赤になった。ははん、図星だな。おそらく私に女としての魅力を感じないから不安なのだろう。

 「私には悩ましさというか…色気が足りないものね。今からでも身につくかしら?その、顔がどうしても無理とかだったら仕方ないけれど」

 この世界にも様々な美容法があるけれど、美容整形やそれに匹敵するようなものはないのでお直しはできない。

 「ま、待てよ!俺はそういう話をしてるんじゃねえよ。…俺は、結婚したいと思わないんだよ。子どもを持つのが嫌なんだよ」

 私は訳が分からなかった。テオドールはロチェスター家の次期当主で、そんなことは言ってられない立場のはずなのに。私はハッと思い当たった。

 「それって、おばさまのことと関係ある?」

 「……」

 私はその沈黙を肯定と受け取った。

 そうだったのか、と私は思った。そして、おばさまの死がテオドールに与えた影響について全く考えていなかった自分の浅慮を思い知った。この世界もそれなりに医療は進んでいるが、私が前世暮らしていた世界、とりわけ日本と比べると妊産婦や胎児、新生児の死亡率はずっと高い。おばさまもテオドールの出産で命を落としている。

 何と言って良いか分からず黙っていた私に、テオドールはぽつりぽつりと話し始めた。
 
 「頭では分かってるつもりだ。何が起きるか分からないのが人生だし、不幸を恐れて立ち止まってたら何も出来ないってな。でも、どうしても怖い。自分が添い遂げたいとまで思って結婚した女が孕んで、もしそれが原因で死んだらと思うと…俺のお袋みたいに死んじまったらと思うと、俺はそれが怖い」

 「…」

 私は言葉を失くした。

 「俺は、親父みたいに出来た人間じゃない。俺を産んだせいでお袋は死んだのに、親父は俺にあたることなんて一度も無かった。愛情を注いで育ててくれた。俺にはとても真似できない」

 「おばさまが亡くなったのは、テオドールのせいじゃない。おじさまのせいでもないし、おばさまのせいでもないし、誰のせいでもない。赤ちゃんのあなたを置いていかなきゃいけなかったこと、おばさまはとても悲しかったと思うけれど…絶対に後悔はしてなかったと思う」

 私はきっぱりと言った。
 
 「…そうかもな。でも、やっぱり親父と出会って、結婚して、俺を産んだから死んだんだ。俺はお袋の腹にいるときから体がでかかったらしいから、そのせいで難産だったのかもしれないしな。…いつか気持ちが変わって、子どもが欲しいと思う日が来るかもしれない。でも、今のところ全然想像できない。…こんな状態で、お前と結婚なんかできねえよ」

 テオドールは今までに見たことがない顔をしていた。寂しそうな、悔しそうな顔だった。

 子どもはつくらなくてもいい、私はそう言おうかと思った。子どもはいなくてもいいよ、テオドールと生きていけたらそれだけでいいよ、そう言いたかった。でも、それは出来なかった。百パーセントの避妊法がないこの世界で、そんないい加減なことはとても言えなかった。

 「…分かった。言いにくいことを話してくれて、ありがとう」

 私はそう言って引き下がるしかなかった。
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