魔法世界の妖憑き

Lilac

文字の大きさ
4 / 17
第一章『星の奇跡編』

星の奇跡 ―3―

しおりを挟む
(やっぱり、落ちてきてるよね!?)


 ノーチェスの大地目掛けて、否、モニカ目掛けて真っ直ぐに。速度を上げて落ちてくるそれは、なぜかモニカを目指して軌道を変えた。


(ちょっ……ちょっと待って! 私、防御魔法なんて使えなっ――)


 目を離してはいなかった。落ちてくるほうき星は、目にも留まらぬ速さで、既にモニカの目の前まで接近していた。


(間に合わないッッ!――)


 ぽすんっと、

 気の抜けるような音を立ててそれはモニカのお腹に落下した。呆気にとられて、思考が一瞬停止する。しかしそれも束の間、もぞもぞとうごめく白い毛玉から感じる、微かな温もりでモニカは正気を取り戻した。


「……なっ、なに!? なになに、なんなのこれ!」


 視界が悪く、暗い夜でも輝いて見える純白の毛玉は、蹴りやすいボールくらいの大きさで、よく見ると小さなしっぽが左右にぶんぶんと揺れている。


「い、生き物……?」


 違う

 本能が囁く。これは、。モニカにしか分からないであろう、理屈では説明できない何かを感じる。かといって、この毛玉は今までモニカが見てきた何とも異なる。まずこれには、触れることができた。今まで見ることしかできなかった、実際に存在しているのかもあやふやなものではない。


(つまり、これは幽霊じゃない……?)


 この時点で、モニカの理性は崩壊しつつあった。何を隠そう、モニカは大の可愛い物好きなのである。得体の知れない「何か」だろうと、モニカは目の前の純白の毛玉をモフりたい衝動は抑えられなかった。


「……ちょ、ちょっとくらいなら……いいよね」


 モニカが毛玉に手を伸ばしたその瞬間、毛玉からピコりと、2つの耳が生えてきた。


(お、お耳ぃいいぃぃ!!! ぴょこんって! 今ぴょこんって出てきた!)


 理性が決壊する。たまらず抱えあげた毛玉は至福の触り心地であった。まるで幸福そのものに包み込まれているような感覚で思わずモニカは我を忘れている。


(す、吸えるかな……)


 モニカが毛玉に顔を埋めようとした直後、毛玉は白煙を上げてモニカの手の上から転がり落ちた。


「あぁ……! 大丈夫!?」


 慌てて拾い上げようと毛玉に近づくと、思いがけずモニカはと目が合ってしまった。絵に書いたような丸顔、大きくて輝いている淡い青と赤の瞳、微かにピンクに染まった頬、小さな手足。


(あ、思い出した……)


 それは、かつて父に見せてもらった絵本に描かれていたとあるあやかしのことだった。9つの尾を生やした牙を持つ獣。純白の毛と妖しげな青い炎を纏う爪を持つ獣。


「えへへ、よろしくお願いします……」


 名を、九尾きゅうびきつね。大昔、極東きょくとうと呼ばれる大地を、その大いなる美貌によって滅ぼしたとされる神獣。

 人と妖。決して結ばれることのない2つが結ばれたこの日、ノーチェスに降り注いだ奇跡と共に、モニカの人生を大きく変えることになる。


「こ、こちらこそ……?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

悪役断罪?そもそも何かしましたか?

SHIN
恋愛
明日から王城に最終王妃教育のために登城する、懇談会パーティーに参加中の私の目の前では多人数の男性に囲まれてちやほやされている少女がいた。 男性はたしか婚約者がいたり妻がいたりするのだけど、良いのかしら。 あら、あそこに居ますのは第二王子では、ないですか。 えっ、婚約破棄?別に構いませんが、怒られますよ。 勘違い王子と企み少女に巻き込まれたある少女の話し。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

処理中です...