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第一章『星の奇跡編』
星の奇跡 ―5―
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「んぅん……眩しい……」
カーテンの隙間から差し込む月明かりがモニカを眠りから目覚めさせた。ノーチェスに朝は来ない。少し前に、とある大魔法使いがノーチェスを外から来る敵から守るために作った巨大な防御魔法の影響らしい。陽の光を通さないノーチェスの空は常に夜か夕暮れだ。
毛布をたたみ、顔を上げる。いつもなら寝ぼけながら毛布に巻かれて二度寝をするところだが、今日はすぐに意識が覚醒した。昨日のことが思い出せない。眠気のせいか、混濁する意識の中で記憶を探る。
(昨日パーシーと喧嘩して……久しぶりに星を見てて……それで……)
そこで記憶が蘇る。
「あっ」
九尾の狐らしき生き物。昨日、星とともに現れた謎の妖がどこかにいるのかと辺りを見渡して、ようやく違和感に気がついた。
「なんで、家に帰ってきてるの?……」
見慣れた光景がそこにあった。モニカの自室だ。よく見ると、服も着替えさせられており、心なしか部屋も綺麗になっている気がする。不可解な点が多すぎて頭がおかしくなってしまいそうだ。まだ昨日の出来事も整理しきれていないというのに、次々と問題が湧き出てきてしまう。
一旦、ごはんでも食べて落ち着こうと、部屋を出ようとベッドから降りると、モニカの目に昨日と全く同じ白い毛玉が映りこんだ。
「……気のせい気のせい」
まさかそんなことがあるわけがないと思い、扉を開けて1階へ向かう階段を下る。ほのかにフレンチトーストの甘い香りが漂ってくる。
「おはよ~」
返事がない。リビングには誰もいなかった。テーブルの上にはまだほんのりと暖かい母特製のフレンチトーストと短い書き置きがある。
『おはようモニカ。用事があるから少し家を空けます。いい子にしててね。愛してる』
父がいなくなってからというもの、母はモニカを心配して家を空けることはなくなった。こうして、家でひとりきりになることなど、もうずっと経験していなかったことだった。
「いただきます」
急に襲いかかってくる孤独感を紛らわせるように、モニカはフレンチトーストを頬張った。程よい焼き加減と絶妙な甘さがこのフレンチトーストの良さだ。噛めば噛むほど甘みが口の中全体に広がり、幸福感で満たされる。
「ん、おいしい」
「はい! おいしいです!」
「………………なんでいるの」
気がつくとモニカの目の前には白い小狐がはぐはぐと、おいしそうに小さく切り分けられたフレンチトーストを貪っている。フォークを使って無我夢中で食べる姿にはなんとも形容しがたい可愛さがあったが、モニカはそれどころではなく、再び頭を抱えた。
「むぐむぐ……ん、どうかしたんですか?」
あまりにも必死に食べていたせいか、口の周りがべちゃべちゃに汚れている。モニカは黙ってウエットティッシュを小狐に差し出し、小狐もそれを受け取り、口の周りを小さい両手を使って丁寧に拭き始めた。
「…………あなた、お名前は?」
肝心なことを聞き忘れていたと思い、モニカは小狐に話しかけた。小狐もそれに気がついたのか、呆気にとられたような表情をしている。しばらく口を熱心に拭き、小狐はちょこんと膝に手を置いて正座をした。
(拭き残してるし……)
「申し遅れました! わたしは妖狐! 名前はまだありません! 立派な妖狐になるためにこちらの世界にやって参りました!」
「はぁ……それで、なんであんな風に落っこちてきたの?」
「わかんないです!」
モニカは三度頭を抱えた。小狐に気づかれないように小さくため息をつきながら、なんとか状況を整理しようと方法を模索する。
(とりあえず、魔警団に連絡して引き取ってもらおう……いや、一応妖って言ってるんだし、他の人には見えないのかな)
ちらりと小狐の方へ目配せをする。それに気がついた小狐は大きな笑顔を見せ、にぱにぱと笑みを浮かべながら言った。
「これからここでお世話になります! よろしくお願いします!」
「……え?」
告げられた衝撃の一言に、モニカは一瞬戸惑ったが、すぐに冷静さを取り戻した。この流れに身を任せてはいけないと感じ、誤解を解くべく小狐に言った。
「あのね、別にダメってわけじゃないけど、あれはそういう意味じゃなくてね。ここに住んでもいいよっていう目配せだったんじゃなくて……」
「? ダメですか?」
「だから……ダメじゃないんだけど……」
このままではまずいと思い、素早く小狐から目を離した。乗せられてしまう。こんなに小さくて、もふもふで、愛おしく、可愛らしい見た目で、お願いなんてされたら、モニカは――
「いい? あなたは本来、見えない存在なの。妖だから。私とだけならこうしてお話できるけど、でも……」
そこまで言って、モニカは自分のミスに気がついた。しまったと、思ってからではもう遅い。小狐は、他の人には見えず、モニカにしか見えない。ならば、どうすればいいのか。小狐は目を煌めかせて、再び訴えかける。
「じゃあ、やっぱりここしかないです!」
(……ですよね~)
これではまるで、ここで面倒を見るための誘導尋問みたいだと、モニカは思う。それがまったく事実と異なると言われればそうではないが、できることなら妖とひとつ屋根の下なんてのは勘弁願いたい。
(でもまぁ、こうなっちゃったものは仕方ないか……)
自分の過ちを後悔しながらも、モニカは小狐に向かって手を差し出した。
「これからよろしく。狐さん」
「はい、改めて、よろしくお願いします!」
小狐の小さい手のひらから感じる温もりが、モニカの孤独感を取り払った。これから問題が山積みだ。まずは最優先でこの小狐をなんとかしなければと、モニカはフレンチトーストに噛み付いた。
(それから、魔法の練習と勉強。あとは……)
モニカはテーブルの端に追いやられた書類に目をやった。
(……進学)
これからどうなってしまうのか。この先のことは考えず、今だけを見ていようと、小狐と一緒にフレンチトーストを完食した。2人で一緒に手を合わせて。
「「ごちそうさまでした」」
カーテンの隙間から差し込む月明かりがモニカを眠りから目覚めさせた。ノーチェスに朝は来ない。少し前に、とある大魔法使いがノーチェスを外から来る敵から守るために作った巨大な防御魔法の影響らしい。陽の光を通さないノーチェスの空は常に夜か夕暮れだ。
毛布をたたみ、顔を上げる。いつもなら寝ぼけながら毛布に巻かれて二度寝をするところだが、今日はすぐに意識が覚醒した。昨日のことが思い出せない。眠気のせいか、混濁する意識の中で記憶を探る。
(昨日パーシーと喧嘩して……久しぶりに星を見てて……それで……)
そこで記憶が蘇る。
「あっ」
九尾の狐らしき生き物。昨日、星とともに現れた謎の妖がどこかにいるのかと辺りを見渡して、ようやく違和感に気がついた。
「なんで、家に帰ってきてるの?……」
見慣れた光景がそこにあった。モニカの自室だ。よく見ると、服も着替えさせられており、心なしか部屋も綺麗になっている気がする。不可解な点が多すぎて頭がおかしくなってしまいそうだ。まだ昨日の出来事も整理しきれていないというのに、次々と問題が湧き出てきてしまう。
一旦、ごはんでも食べて落ち着こうと、部屋を出ようとベッドから降りると、モニカの目に昨日と全く同じ白い毛玉が映りこんだ。
「……気のせい気のせい」
まさかそんなことがあるわけがないと思い、扉を開けて1階へ向かう階段を下る。ほのかにフレンチトーストの甘い香りが漂ってくる。
「おはよ~」
返事がない。リビングには誰もいなかった。テーブルの上にはまだほんのりと暖かい母特製のフレンチトーストと短い書き置きがある。
『おはようモニカ。用事があるから少し家を空けます。いい子にしててね。愛してる』
父がいなくなってからというもの、母はモニカを心配して家を空けることはなくなった。こうして、家でひとりきりになることなど、もうずっと経験していなかったことだった。
「いただきます」
急に襲いかかってくる孤独感を紛らわせるように、モニカはフレンチトーストを頬張った。程よい焼き加減と絶妙な甘さがこのフレンチトーストの良さだ。噛めば噛むほど甘みが口の中全体に広がり、幸福感で満たされる。
「ん、おいしい」
「はい! おいしいです!」
「………………なんでいるの」
気がつくとモニカの目の前には白い小狐がはぐはぐと、おいしそうに小さく切り分けられたフレンチトーストを貪っている。フォークを使って無我夢中で食べる姿にはなんとも形容しがたい可愛さがあったが、モニカはそれどころではなく、再び頭を抱えた。
「むぐむぐ……ん、どうかしたんですか?」
あまりにも必死に食べていたせいか、口の周りがべちゃべちゃに汚れている。モニカは黙ってウエットティッシュを小狐に差し出し、小狐もそれを受け取り、口の周りを小さい両手を使って丁寧に拭き始めた。
「…………あなた、お名前は?」
肝心なことを聞き忘れていたと思い、モニカは小狐に話しかけた。小狐もそれに気がついたのか、呆気にとられたような表情をしている。しばらく口を熱心に拭き、小狐はちょこんと膝に手を置いて正座をした。
(拭き残してるし……)
「申し遅れました! わたしは妖狐! 名前はまだありません! 立派な妖狐になるためにこちらの世界にやって参りました!」
「はぁ……それで、なんであんな風に落っこちてきたの?」
「わかんないです!」
モニカは三度頭を抱えた。小狐に気づかれないように小さくため息をつきながら、なんとか状況を整理しようと方法を模索する。
(とりあえず、魔警団に連絡して引き取ってもらおう……いや、一応妖って言ってるんだし、他の人には見えないのかな)
ちらりと小狐の方へ目配せをする。それに気がついた小狐は大きな笑顔を見せ、にぱにぱと笑みを浮かべながら言った。
「これからここでお世話になります! よろしくお願いします!」
「……え?」
告げられた衝撃の一言に、モニカは一瞬戸惑ったが、すぐに冷静さを取り戻した。この流れに身を任せてはいけないと感じ、誤解を解くべく小狐に言った。
「あのね、別にダメってわけじゃないけど、あれはそういう意味じゃなくてね。ここに住んでもいいよっていう目配せだったんじゃなくて……」
「? ダメですか?」
「だから……ダメじゃないんだけど……」
このままではまずいと思い、素早く小狐から目を離した。乗せられてしまう。こんなに小さくて、もふもふで、愛おしく、可愛らしい見た目で、お願いなんてされたら、モニカは――
「いい? あなたは本来、見えない存在なの。妖だから。私とだけならこうしてお話できるけど、でも……」
そこまで言って、モニカは自分のミスに気がついた。しまったと、思ってからではもう遅い。小狐は、他の人には見えず、モニカにしか見えない。ならば、どうすればいいのか。小狐は目を煌めかせて、再び訴えかける。
「じゃあ、やっぱりここしかないです!」
(……ですよね~)
これではまるで、ここで面倒を見るための誘導尋問みたいだと、モニカは思う。それがまったく事実と異なると言われればそうではないが、できることなら妖とひとつ屋根の下なんてのは勘弁願いたい。
(でもまぁ、こうなっちゃったものは仕方ないか……)
自分の過ちを後悔しながらも、モニカは小狐に向かって手を差し出した。
「これからよろしく。狐さん」
「はい、改めて、よろしくお願いします!」
小狐の小さい手のひらから感じる温もりが、モニカの孤独感を取り払った。これから問題が山積みだ。まずは最優先でこの小狐をなんとかしなければと、モニカはフレンチトーストに噛み付いた。
(それから、魔法の練習と勉強。あとは……)
モニカはテーブルの端に追いやられた書類に目をやった。
(……進学)
これからどうなってしまうのか。この先のことは考えず、今だけを見ていようと、小狐と一緒にフレンチトーストを完食した。2人で一緒に手を合わせて。
「「ごちそうさまでした」」
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