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Chapter 43 リンへ捧げる
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ルドルフに揺られる事数時間が経過した。まだ夜は開けず暗いまま。国境を越えてヴィルトシュヴァイン領へと入っていた。
腹の痛みが凄い。肋が折れているのは間違いないが内臓にも明らかに異変が出ている。多分破裂している臓器がある。脱出はしたが私の命が紡げるかは見通しが立たない。街までは少なくともあと4時間はかかる。しかもそれはこのまま真っ直ぐ行った場合の話だ。ルドルフは休みなくずっと走ってくれている。ルドルフの体力を考えると休憩を挟まないといけない。それならあと7時間以上は必要だ。正直4時間ですら私がもつか怪しい。どこかに僧侶が居れば治療してもらえるだろうけどそんな都合良い展開など起こらない。特に僧侶が冷遇されているヴィルトシュヴァインでは尚更だ。
…脂汗がすごい。熱が出ているのがわかる。ケルニヒとの戦闘で動きすぎた。これは不味い。
「見えて来た。ルナ、もう少し我慢して。」
「えっ…?」
私は朦朧とする意識の中、リンの肩越しに前を見ると灯りが見える。何らかの建物だ。近づくにつれてそれの正体が明らかとなった。宿だ。ここで休むという事だろうか。そしてリンがポーションを入手してくるか僧侶を連れて来る。それならなんとかもつ。ううん、もたせる。リンがここまでしてくれたのだから死ねない。私は生きてリンに恩を返さないといけない。
宿に到着するとリンは颯爽とルドルフから下馬する。そして私を優しく下ろすとそのままお姫様抱っこで抱き抱える。
「ごめんルドルフ。ルナがヤバいからさ。」
「プルルルル。」
ルドルフは『わかってる。いいから行け』というような感じで鼻先をリンの背中に押し付けた。
「ありがとう。ゆっくり休んで。」
「……ルドルフ、ありがとう。」
リンはそのまま全速力で駆け出す。宿の戸を開けてそのまま二階まで変わらず全速力。とある部屋まで一気に進みドアを開けた。
「リンちゃん!!」
「リンさーー」
部屋の中へ入ると2人の女がいた。1人は猫人族、そしてもう1人は紅い髪に紅い目…吸血鬼族だ。
「ただいま。それでさーー」
「ーールナ・チックウィードッ!!!」
吸血鬼族の女が激しい憎悪の目で私を見ている。彼女は近くにあった剣を手に取り私に向ける。綺麗な顔を歪ませ今にも斬りかかって来そうだ。ああ…、ルキナ王女か。この濃い目の紅さと美貌は間違いない。私の髪色は珍しいからすぐに誰だかわかる。祖国を滅ぼした憎き帝国の将軍だからな。仇として殺したいのだろう。彼女に殺されるのなら構わない。仮にも私は帝国将軍だ。その責任は果たさないといけない。
「お前のッ!!お前たちのせいでスノウフレイクは滅びたッ!!滅ぼされたッ!!絶対に許さないッ!!殺してやるッ!!」
ルキナ王女のあまりの怒りように隣にいる猫人族の女は狼狽えながら交互にここにいる面々を見ている。その中でリンが口を開く。
「落ち着きなよルキナ。アルタイル収めて。」
「ーー!?なんでリンさんッ!?リンさんは私の味方じゃないッ!?私の復讐の為にその女を連れて来たんでしょッ!?」
リンが宥めた為ルキナ王女はより一層怒りが増している。これは不味いな。私のせいで仲が悪くなっている。私がいなくなればいいだけなのに。早くルキナ王女に仇討ちをしてもらおう。そうすれば全て治るはずだ。
「リン。わたーー」
「ーー話がややこしくなるからルナは黙ってて。」
……リンと出会った時からずっと私は怒られているのだが私は怒られるような事を言っているだろうか。
「…ルナって。なんでそんなに仲良くなってるの。私は彼女なのに。リンさんのモノなのに。」
なんだかルキナ王女の怒りが違うベクトルに向いたような気がするが憎しみの目は増大してしまった。呪文のようにぶつぶつと言っているのは流石に私も怖い。
「ルキナ。私はルキナの味方だよ。でもルキナの仇討ちの為にルナを連れて来たんじゃない。ていうかルキナがルナを恨む理由なんてないし。」
「帝国の人間なんだからありますよッ!!十分な理由ですッ!!!」
「帝国の人間っていうのは確かだね。でも恨みはない。ルキナは知らないでしょ。」
「……何がですか?」
「ルナはスノウフレイク救おうとして動いてたんだよ。」
「え…?」
ルキナ王女の負の感情が少し和らいだ。想定外のリンの言葉に思考が変わったのだろう。
「ルナはスノウフレイクの人たちみんなをどこかに逃がそうとしてたんだよ。でもその工作してる間に戦争終わっちゃった。ルキナの事もルキナのお父さん、お母さん、お兄さんたちも救おうとしてたんだよ。」
リンの話を聞き私に剣先を向けていたルキナ王女の手が緩む。明らかに戸惑っている。
「そ、そんなのデタラメですッ!!リンさんは騙されてるんですッ!!」
「これでもそう思う?ルナごめん、マント剥がすね。」
リンは私が身につけている外套を外す。当然そのまま逃げて来た訳だから下着姿のままだ。拷問を受けた傷跡が明るい室内に照らされる。猫人族の女が手で口元を抑え声にならない声を出す。ルキナ王女も顔を青くして手にしている剣を床に落とした。
「スノウフレイクの件でルナは今日処刑の予定だった。それまでの間は憂さ晴らしの拷問。よくある話だよね。騙しでここまで周到にする?」
「……。」
「私はルナはいい子だと思ってる。友達であるルキナの国を守ろうとしてくれた。だから恩を返そうと助けた。ねぇ、ルキナ。ルナを恨む理由なんてある?」
ルキナ王女は俯いた。そんな簡単に割り切れるわけはない。私は帝国の象徴である三将軍だ。私を見ればルキナ王女は憎しみをもたないなんてことは出来ない。それは当たり前の事なんだ。私は帝国将軍としての務めを果たさなければならない。
「リン、下ろして。」
私はリンから下り、ルキナ王女の前に立つ。ルキナ王女の目は困惑している。どうしていいのかわからないのだろう。彼女を苦しめる訳にはいかない。
「スノウフレイク王女、ルキナ・ヴァン・スノウフレイク様。私はギュルテルティーア帝国三将軍ルナ・チックウィードと申します。」
私は手に持っている神魔の剣の柄をルキナ王女に差し出す。ルキナ王女は訝しんだ目で私を見る。
「貴女様の怒りを鎮められるのであればこの首喜んで差し上げます。」
「ちょっと、アンタは何でまだそうやって余計な事すんの。」
リンが間に入ろうとするが私がそれを制する。
「いいんだ。私のせいでお前たちが仲違いなどしてはならない。」
リンが怖い顔をして私に近付いてくる。
その時だった。私の視界が真っ暗になり身体から力が抜ける。
「やば…!!アナスタシア!!回復!!ルナの回復して!!」
「はっ、はいっ!!」
どうやら体力の限界のようだ。ルキナ王女の手で恨みは晴らせなかっただろうが私の死をもって償えただろうか。そうだといいな。
ーー
ーー
ーー
「うっ……ここは……?」
目が覚めた。知らない天井。冥土にやって来たにしてはいつもとそんなに変わらないような気がする。ベッドだし。
「目、覚めた?」
私は声のする右側を向く。リンがいた。
「リン…?どうしてリンが…?ここはあの世ではないの…?」
「そうだね。まだあの世じゃないよ。ここは安眠屋。」
「安眠屋…?なんで私は生きて…?」
「アナスタシアが回復してくれたんだよ。あ。アナスタシアってのは猫耳の子ね。」
「回復…そうなんだ…。でもどうして…?それにどうして私を殺さなかったの…?」
「全くルナって勝手に突っ走るよね。誰かに言われた事ない?思い込み強すぎ。」
「うっ……それは…否定しない…」
「なんで殺さなかったのかは本人に聞けば?」
リンが視線を送ると部屋の奥からルキナ王女が姿を見せる。
「ルナさん。リンさんから全て聞きました。私は誤解をしていました。」
「…リンから何を聞いたかはわかりませんが結果として帝国がスノウフレイクを滅ぼした事、私が三将軍ということは事実です。貴女にとって憎むべき帝国人である私を、貴女は処断せばねらない。」
「いいえ、違います。あなたは私の、私たちの恩人です。」
「……恩なんて…感じないでください…私は…何もしていません…」
「してくださいましたよ。スノウフレイクの民をあなたは救ってくれた。ありがとうございます。」
「私は…なにも…」
「あなたがしてくれなければスノウフレイクは根絶やしだった。でもあなたが救ってくれたから命が繋げた。それを恩といわずに何が恩なのですか?」
「……でも…」
「ルナはさ、難しく考えすぎなんじゃない?」
私がルキナ王女の感謝を受け入れずにいるとリンが口を挟む。
「ルナが動いた結果として人の命を救ったんだよ。命を奪ったんじゃなく救った。救えなかった命の事を悔いるのはわかるけどさ、救った命があるって事を誇りなよ。知った風な口利かせてもらうけどさ、スノウフレイクの人たちはみんなルナに感謝してると思うよ。」
なんだか憑き物がとれたように目からすっと涙が落ちた。私のやった事はムダではなかったのだろうか。意味がなかったのではないか。ずっとそう思って来た。でも、リンに言われて…私は自分のした事に意味があったのだと初めて思えた。嬉しかった。
「ルナって意外と泣き虫だよね。」
「う、うるさい!!」
「はいはい。ほら、顔こっち向けて。拭けないでしょ。」
私はリンに顔を向けてタオルで拭いてもらう。なんだか凄く…温かい。ん…?なんだろう、先程まで優しげだったルキナ王女の目が鋭い。というより私を睨んでるようじゃないだろうか。気のせいかな…?睨まれるような事はしていないし。ルキナ王女は目が悪いのかもしれない。
「リン。」
「ん?」
「私はあなたに救われた。あなたがいなければ今頃私はこの世にはいなかった。あの後に陵辱され、地獄のような目にあわされて惨たらしく殺されていた。それをあなたが変えてくれた。」
私はベッドに正座してリンに向き直る。
「リン。一度は散った我が命、これからはあなたの為だけに使おう。あなたの剣となる事を誓う。あなたにこの身を捧げよう。私はーーあ痛っーー!?」
私はまたリンにデコピンを喰らわされる。本当に痛い。骨にヒビが入っているんじゃないだろうか。
「そういうのいらない。私はルナの主人でも無いし、上の存在でも無いよ。」
「し、しかし…!?」
「私たちは対等でしょ?友達だよ。それともルナは私と友達になるの嫌?」
「……そんな訳…ない。」
「なら私とルナは友達。ルキナもそうでしょ?」
「もちろんです。ルナさん、私とも友達になってくれますか?」
「ルキナ王女…よろしいのですか?」
「もう私は王女ではありません。私の事はルキナと呼び捨ててくれると嬉しいです。」
「わかりました。よろしく、ルキナ。」
「よろしくお願いします、ルナさん。」
私とルキナは握手を交わす。なんだかリンが嬉しそうだ。
「アナスタシアもそれでいいよね?」
リンが猫人族のアナスタシアさんを呼ぶ。彼女は慌てて小走りでベッドまで来た。
「あっ、私はもちろんですっ!よろしくお願いしますね、ルナちゃんっ!」
「よろしくお願いします、アナスタシアさん。それと回復して頂きありがとうございました。」
「どういたしまして!私の事も普通にアナスタシアって呼んでくださいっ!」
「わかりました。よろしく、アナスタシア。」
アナスタシアとも握手を交わした。これまたリンが嬉しそうだ。
「さてと。それじゃご飯食べにいこっか。ルナ、お腹空いてるでしょ?」
「フフ、正直お腹ペコペコ。何日食べてないのってぐらいだもの。」
「だよね。それじゃ行こっか。」
こうして私はリンによって救い出された。
リンは恩なんてって言うけど私にはとても嬉しい事だった。
だからこの恩は一生をかけて返す。
私の全てはリンの為に。
腹の痛みが凄い。肋が折れているのは間違いないが内臓にも明らかに異変が出ている。多分破裂している臓器がある。脱出はしたが私の命が紡げるかは見通しが立たない。街までは少なくともあと4時間はかかる。しかもそれはこのまま真っ直ぐ行った場合の話だ。ルドルフは休みなくずっと走ってくれている。ルドルフの体力を考えると休憩を挟まないといけない。それならあと7時間以上は必要だ。正直4時間ですら私がもつか怪しい。どこかに僧侶が居れば治療してもらえるだろうけどそんな都合良い展開など起こらない。特に僧侶が冷遇されているヴィルトシュヴァインでは尚更だ。
…脂汗がすごい。熱が出ているのがわかる。ケルニヒとの戦闘で動きすぎた。これは不味い。
「見えて来た。ルナ、もう少し我慢して。」
「えっ…?」
私は朦朧とする意識の中、リンの肩越しに前を見ると灯りが見える。何らかの建物だ。近づくにつれてそれの正体が明らかとなった。宿だ。ここで休むという事だろうか。そしてリンがポーションを入手してくるか僧侶を連れて来る。それならなんとかもつ。ううん、もたせる。リンがここまでしてくれたのだから死ねない。私は生きてリンに恩を返さないといけない。
宿に到着するとリンは颯爽とルドルフから下馬する。そして私を優しく下ろすとそのままお姫様抱っこで抱き抱える。
「ごめんルドルフ。ルナがヤバいからさ。」
「プルルルル。」
ルドルフは『わかってる。いいから行け』というような感じで鼻先をリンの背中に押し付けた。
「ありがとう。ゆっくり休んで。」
「……ルドルフ、ありがとう。」
リンはそのまま全速力で駆け出す。宿の戸を開けてそのまま二階まで変わらず全速力。とある部屋まで一気に進みドアを開けた。
「リンちゃん!!」
「リンさーー」
部屋の中へ入ると2人の女がいた。1人は猫人族、そしてもう1人は紅い髪に紅い目…吸血鬼族だ。
「ただいま。それでさーー」
「ーールナ・チックウィードッ!!!」
吸血鬼族の女が激しい憎悪の目で私を見ている。彼女は近くにあった剣を手に取り私に向ける。綺麗な顔を歪ませ今にも斬りかかって来そうだ。ああ…、ルキナ王女か。この濃い目の紅さと美貌は間違いない。私の髪色は珍しいからすぐに誰だかわかる。祖国を滅ぼした憎き帝国の将軍だからな。仇として殺したいのだろう。彼女に殺されるのなら構わない。仮にも私は帝国将軍だ。その責任は果たさないといけない。
「お前のッ!!お前たちのせいでスノウフレイクは滅びたッ!!滅ぼされたッ!!絶対に許さないッ!!殺してやるッ!!」
ルキナ王女のあまりの怒りように隣にいる猫人族の女は狼狽えながら交互にここにいる面々を見ている。その中でリンが口を開く。
「落ち着きなよルキナ。アルタイル収めて。」
「ーー!?なんでリンさんッ!?リンさんは私の味方じゃないッ!?私の復讐の為にその女を連れて来たんでしょッ!?」
リンが宥めた為ルキナ王女はより一層怒りが増している。これは不味いな。私のせいで仲が悪くなっている。私がいなくなればいいだけなのに。早くルキナ王女に仇討ちをしてもらおう。そうすれば全て治るはずだ。
「リン。わたーー」
「ーー話がややこしくなるからルナは黙ってて。」
……リンと出会った時からずっと私は怒られているのだが私は怒られるような事を言っているだろうか。
「…ルナって。なんでそんなに仲良くなってるの。私は彼女なのに。リンさんのモノなのに。」
なんだかルキナ王女の怒りが違うベクトルに向いたような気がするが憎しみの目は増大してしまった。呪文のようにぶつぶつと言っているのは流石に私も怖い。
「ルキナ。私はルキナの味方だよ。でもルキナの仇討ちの為にルナを連れて来たんじゃない。ていうかルキナがルナを恨む理由なんてないし。」
「帝国の人間なんだからありますよッ!!十分な理由ですッ!!!」
「帝国の人間っていうのは確かだね。でも恨みはない。ルキナは知らないでしょ。」
「……何がですか?」
「ルナはスノウフレイク救おうとして動いてたんだよ。」
「え…?」
ルキナ王女の負の感情が少し和らいだ。想定外のリンの言葉に思考が変わったのだろう。
「ルナはスノウフレイクの人たちみんなをどこかに逃がそうとしてたんだよ。でもその工作してる間に戦争終わっちゃった。ルキナの事もルキナのお父さん、お母さん、お兄さんたちも救おうとしてたんだよ。」
リンの話を聞き私に剣先を向けていたルキナ王女の手が緩む。明らかに戸惑っている。
「そ、そんなのデタラメですッ!!リンさんは騙されてるんですッ!!」
「これでもそう思う?ルナごめん、マント剥がすね。」
リンは私が身につけている外套を外す。当然そのまま逃げて来た訳だから下着姿のままだ。拷問を受けた傷跡が明るい室内に照らされる。猫人族の女が手で口元を抑え声にならない声を出す。ルキナ王女も顔を青くして手にしている剣を床に落とした。
「スノウフレイクの件でルナは今日処刑の予定だった。それまでの間は憂さ晴らしの拷問。よくある話だよね。騙しでここまで周到にする?」
「……。」
「私はルナはいい子だと思ってる。友達であるルキナの国を守ろうとしてくれた。だから恩を返そうと助けた。ねぇ、ルキナ。ルナを恨む理由なんてある?」
ルキナ王女は俯いた。そんな簡単に割り切れるわけはない。私は帝国の象徴である三将軍だ。私を見ればルキナ王女は憎しみをもたないなんてことは出来ない。それは当たり前の事なんだ。私は帝国将軍としての務めを果たさなければならない。
「リン、下ろして。」
私はリンから下り、ルキナ王女の前に立つ。ルキナ王女の目は困惑している。どうしていいのかわからないのだろう。彼女を苦しめる訳にはいかない。
「スノウフレイク王女、ルキナ・ヴァン・スノウフレイク様。私はギュルテルティーア帝国三将軍ルナ・チックウィードと申します。」
私は手に持っている神魔の剣の柄をルキナ王女に差し出す。ルキナ王女は訝しんだ目で私を見る。
「貴女様の怒りを鎮められるのであればこの首喜んで差し上げます。」
「ちょっと、アンタは何でまだそうやって余計な事すんの。」
リンが間に入ろうとするが私がそれを制する。
「いいんだ。私のせいでお前たちが仲違いなどしてはならない。」
リンが怖い顔をして私に近付いてくる。
その時だった。私の視界が真っ暗になり身体から力が抜ける。
「やば…!!アナスタシア!!回復!!ルナの回復して!!」
「はっ、はいっ!!」
どうやら体力の限界のようだ。ルキナ王女の手で恨みは晴らせなかっただろうが私の死をもって償えただろうか。そうだといいな。
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「うっ……ここは……?」
目が覚めた。知らない天井。冥土にやって来たにしてはいつもとそんなに変わらないような気がする。ベッドだし。
「目、覚めた?」
私は声のする右側を向く。リンがいた。
「リン…?どうしてリンが…?ここはあの世ではないの…?」
「そうだね。まだあの世じゃないよ。ここは安眠屋。」
「安眠屋…?なんで私は生きて…?」
「アナスタシアが回復してくれたんだよ。あ。アナスタシアってのは猫耳の子ね。」
「回復…そうなんだ…。でもどうして…?それにどうして私を殺さなかったの…?」
「全くルナって勝手に突っ走るよね。誰かに言われた事ない?思い込み強すぎ。」
「うっ……それは…否定しない…」
「なんで殺さなかったのかは本人に聞けば?」
リンが視線を送ると部屋の奥からルキナ王女が姿を見せる。
「ルナさん。リンさんから全て聞きました。私は誤解をしていました。」
「…リンから何を聞いたかはわかりませんが結果として帝国がスノウフレイクを滅ぼした事、私が三将軍ということは事実です。貴女にとって憎むべき帝国人である私を、貴女は処断せばねらない。」
「いいえ、違います。あなたは私の、私たちの恩人です。」
「……恩なんて…感じないでください…私は…何もしていません…」
「してくださいましたよ。スノウフレイクの民をあなたは救ってくれた。ありがとうございます。」
「私は…なにも…」
「あなたがしてくれなければスノウフレイクは根絶やしだった。でもあなたが救ってくれたから命が繋げた。それを恩といわずに何が恩なのですか?」
「……でも…」
「ルナはさ、難しく考えすぎなんじゃない?」
私がルキナ王女の感謝を受け入れずにいるとリンが口を挟む。
「ルナが動いた結果として人の命を救ったんだよ。命を奪ったんじゃなく救った。救えなかった命の事を悔いるのはわかるけどさ、救った命があるって事を誇りなよ。知った風な口利かせてもらうけどさ、スノウフレイクの人たちはみんなルナに感謝してると思うよ。」
なんだか憑き物がとれたように目からすっと涙が落ちた。私のやった事はムダではなかったのだろうか。意味がなかったのではないか。ずっとそう思って来た。でも、リンに言われて…私は自分のした事に意味があったのだと初めて思えた。嬉しかった。
「ルナって意外と泣き虫だよね。」
「う、うるさい!!」
「はいはい。ほら、顔こっち向けて。拭けないでしょ。」
私はリンに顔を向けてタオルで拭いてもらう。なんだか凄く…温かい。ん…?なんだろう、先程まで優しげだったルキナ王女の目が鋭い。というより私を睨んでるようじゃないだろうか。気のせいかな…?睨まれるような事はしていないし。ルキナ王女は目が悪いのかもしれない。
「リン。」
「ん?」
「私はあなたに救われた。あなたがいなければ今頃私はこの世にはいなかった。あの後に陵辱され、地獄のような目にあわされて惨たらしく殺されていた。それをあなたが変えてくれた。」
私はベッドに正座してリンに向き直る。
「リン。一度は散った我が命、これからはあなたの為だけに使おう。あなたの剣となる事を誓う。あなたにこの身を捧げよう。私はーーあ痛っーー!?」
私はまたリンにデコピンを喰らわされる。本当に痛い。骨にヒビが入っているんじゃないだろうか。
「そういうのいらない。私はルナの主人でも無いし、上の存在でも無いよ。」
「し、しかし…!?」
「私たちは対等でしょ?友達だよ。それともルナは私と友達になるの嫌?」
「……そんな訳…ない。」
「なら私とルナは友達。ルキナもそうでしょ?」
「もちろんです。ルナさん、私とも友達になってくれますか?」
「ルキナ王女…よろしいのですか?」
「もう私は王女ではありません。私の事はルキナと呼び捨ててくれると嬉しいです。」
「わかりました。よろしく、ルキナ。」
「よろしくお願いします、ルナさん。」
私とルキナは握手を交わす。なんだかリンが嬉しそうだ。
「アナスタシアもそれでいいよね?」
リンが猫人族のアナスタシアさんを呼ぶ。彼女は慌てて小走りでベッドまで来た。
「あっ、私はもちろんですっ!よろしくお願いしますね、ルナちゃんっ!」
「よろしくお願いします、アナスタシアさん。それと回復して頂きありがとうございました。」
「どういたしまして!私の事も普通にアナスタシアって呼んでくださいっ!」
「わかりました。よろしく、アナスタシア。」
アナスタシアとも握手を交わした。これまたリンが嬉しそうだ。
「さてと。それじゃご飯食べにいこっか。ルナ、お腹空いてるでしょ?」
「フフ、正直お腹ペコペコ。何日食べてないのってぐらいだもの。」
「だよね。それじゃ行こっか。」
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