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第524話 Another 11
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「やっと…家に帰れた…」
私はソファーへと倒れ込む。もう体力限界ですー。流石の私もちょっとキツいー。
大阪公演が終わり数日ぶりに都内にある自宅マンションへと帰って来た私。身も心もくたくたである。
今の時刻は8月22日火曜日の午後6時を少し回った。月末から始まる私のライブ、東京公演3Daysを控えている為、明日から4日間オフとなった。私の幸せな時間。この為に必死にスケジュールを詰めて地獄の撮影行程をこなしてきたんだ。明日からは楽しく過ごそう。
私はソファーに寝転がりながら部屋の中を見渡す。広くて綺麗な部屋。黒を基調とした高級感漂うタワマン2LDK。流石に最上階ではないけどなんと月の家賃が200万円。信じられないよね。一年住んだら東京から出たら一軒家買えちゃうんじゃない?って金額。それだけ私が稼いでるって事だけどさ、もっと安い所にしたいんだよね。でも事務所から許可が出ないから無理なんだ。セキュリティー面とかを考えるとどうしてもこの金額になってしまう。事務所が半分負担してくれるけど私は家賃に月100万円も払わないといけない。もういっそのことマンション買った方が早いんじゃないだろうか。施設に支援するお金を除いても貯金は正直かなりある。マンションだって一括で買える。検討してみた方がいいよね。
ーーピンポーン
マンション購入を考えているとインターホンが鳴った。私は起き上がりモニターを見に行く。
「はいよー、開けるねー。」
私はエントランスホールの鍵を解錠し招き入れる。さてと、着替えちゃいますか。これから楽しい楽しいプライベートタイムだもんね。私はいそいそとクローゼットへと向かい服や靴を引っ張り出す。あ、メイクも軽くしないとダメかも。ノーメイクだと子供っぽすぎるもんね。
ーーピンポーン
部屋のインターホンが鳴る。一時中断だ。
私は小走りで玄関まで行きドアを開ける。
「こんばんは、アンナちゃん。」
「やっほ、美穂。入って入って。」
来たのは私の親友でもあり仲間でもある楢葉美穂だ。今日は美穂と遊ぶ約束をしていた。だからこそ急いで大阪から帰って来たのだ。
「もう何度もここに来てるけどアンナちゃんのお家凄いよね…!」
「ムダに高いからねー。凄いっていうなら美穂のお家の方が凄くない?威厳があるっていうか。」
「ウチは古いだけだよ。たまに床が抜ける時だってあるし。」
「なにそれ、なんか楽しそう。」
こうやって美穂と笑いあってるの楽しいなぁ。さっきまでの疲れが吹き飛ぶよ。
「それじゃ準備しちゃおっか。美穂の希望とかある?」
「私はオシャレとかあまりわからないからアンナちゃんにお任せかな。」
「ふむふむ。ま、美穂の感じからすれば清楚系なんだろうけど今回はちょっと冒険しちゃおっか。」
「冒険…?」
「とりあえずこの服着てみて。」
私は美穂に服を手渡す。その服を見て美穂の目が見開いた。え?本当にコレ着るの?みたいな目をしている。
私が美穂に渡した服は黒のチョーカートップス。肩が丸出しでアームカバーみたいなのが一体化しているようなセクシーな服。所謂ギャル服だ。それを清楚代表みたいな美穂に私は着せようとしている。
「え?コレ着るの?私が?」
「そそ。早く着て見て。」
「え?コレ着て凱亜くんの所に行くの?」
「そそ。早く着て見て。」
美穂が沈黙する。目が点になって私を見つめている。時が止まってしまったのだろうか。私はとうとう時を止める事まで出来るようになってしまったのか。
「無理だよね!?」
「あ、動いた。」
「私恥ずかしくて死んじゃうよ!?これ絶対胸も見えるよね!?痴女だと思われるよ!?」
「一応それ私も着た事あるんだけど。」
「無理!!無理無理無理!!!」
美穂が顔を真っ赤にしてしまった。どさくさに紛れて美穂のエロい所を撮ろうとしたのに。なんとか騙くらかしてこのエロ服着せないと。私の楽しみなんだから。
「美穂。よく聞いて。男はねギャップが好きなんだよ。」
「……ギャップ?」
「うん。美穂は清楚系でしょ?そんな美穂がギャル系になる。いつも見慣れたあの子。そんなあの子がいつもと違う雰囲気でセクシーな感じを出してたら凱亜だって男心に刺さりまくって美穂を意識しちゃうよ?」
「……本当に?」
「もちろん。」
男心なんかよく知らないけどね。付き合った事なんてないし。
「……頑張ってみる。」
チョロいな美穂。私は心配だよ。
「よし!それでその服着たらウィッグ付けるよ。流石に髪は染められないからグラデーションでうまーくやるから。そんでメイクもしてー。」
「アンナちゃん私で遊んでないよね!?」
********************
美穂をギャルにして準備が整った私たちはタクシーで歌舞伎町へとやって来た。目的地は【 エルドラド 】というホストクラブ。どうしてそこに行くのかって?凱亜がそこで働いてるから調査に行くんだよ。あの女の敵がどんな風に騙しているのかをこの目で見極めてやるんだ。
「こ、ここが歌舞伎町…!東京に住んでても私には縁が無い場所だから近づいたのも初めてだよ…!」
歌舞伎町の雰囲気に気圧されている美穂だが見た目はとてもそんな風に見えない。完全にギャル化している。調子に乗ってパンツ見えそうなぐらい短いスカートを履かせてしまった。それにウィッグを付けてアップにした髪型もあわせればとてもじゃないが美穂には見えない。メイクもしてるしね。
対する私はキャップに眼鏡というスタイルでギャル風にメイクをし、美穂と同じ様にセクシーな服、といいたいけどグッチのジャージで無難にまとめた。流石に場所が場所なだけにあからさまなハイブランドの服を着ないとナメられそうだからね。
「私も歌舞伎町は来たことないよ。」
「その割にアンナちゃんは落ち着いてるよね。」
「職業病ってやつかな。それじゃエルドラド見つけようか。どこにあるんだろ。」
私と美穂は歌舞伎町を歩く。なんか東京の陰の部分の象徴って感じだ。あんまりここにはいない方がいいかな。闇に引きずり込まれそう。芸能界とはまた違った怖さをここには感じる。
「ハァーイ!!お姉ちゃんたち!!どっこいっくのぉ?」
うわ…うざ…。変な奴に絡まれた。タクシーで店まで行けばよかった。念の為記者とか警戒して少し離れた場所に降りたのが仇となった。
私は美穂に目で合図をおくりスルーするように念を送る。美穂もそれを察知し私たちは男を避けて歩みを進めた。しかし男もめげない。私たちの後をしっかりついてくる。
「シカトとか悲しいんだけど~。ねね、話しよ?」
……チッ。うるさいなあ。女2人で歩くのはやっぱまずかった。殴り倒していいなら殴り倒しちゃうんだけど。
「てゆーか!!2人ともチョーカワイくない!?芸能人!?」
うん。芸能人。はい、話は終わり。さよならー。
私と美穂は構わず歩みを進めるとやはりこの変な男はついてくる。本当にうざい。
「待ってって~。お話しよ!俺さ、この近くのホストクラブで働いてるんだよね!ホストクラブ行ったことある?てか行っちゃう~?」
私は立ち止まる。私は男へと振り返り一言だけ尋ねる。
「何て店?」
男は私の反応に驚きつつも嬉しそうな顔をして答える。
「ロマンスだよ!ロマンス!!」
チッ。使えないな。こんな奴に期待したのが間違えだった。あー、コイツに聞けばいいか。わかるでしょ同業なら。
「エルドラドって知ってる?」
「あー、エルドラドね。なんか高級ホストクラブとか謳っちゃってる痛い店ね。お姉ちゃんたちアソコ行く気?やめた方がいいよ~?かな~り高いから。何人もソープに沈められてるって噂だしさ~。お姉ちゃんたちも沈められちゃうよ~?その点ロマンスなら飲み放題で3000円からだよ~?お得じゃな~い?」
「その悪徳なエルドラドはどこにあるの?」
「それならそこを右に行った所にあるよ。それよーー」
「ーーうん、ありがと。ばいばーい。」
用済みになった馬鹿男を置いて私と美穂は小走りで逃走する。私たちのクイックネスは超高校級だね。
流れるような動きで私と美穂はたどり着いた。悪辣と噂されるエルドラドに。
「つ、ついちゃったねアンナちゃん…!」
「まあ…そうだね。」
流石の私でも店を前にすると結構緊張して来た。何より思った以上に店構えが綺麗な事に驚いた。もう少し小汚いというか下品なイメージあったから。
「そういえばアンナちゃん、身分証はどうするの?調べたらこういうお店って未成年入れない為に必要って書いてあったよ?」
「それは抜かりないよ。撮影用の偽パスポートくすねて来たから。」
「ええっ…バレるんじゃないかな…?」
「これが結構精巧に作ってあるんだよねー。通帳作ったりする訳じゃないんだから大丈夫だよ。あとは私の演技力で乗り切る。」
「ダメで元々だよね!うん!」
覚悟の決まった私と美穂は店のドアを開けた。店のエントランスはかなり清潔感のある綺麗な造りの豪華な感じ。正直悪くない。
「いらっしゃいませ。初めてのお客様でございますね。」
現れたのはいかにもホストって感じのサーファー風の男。肌が日焼けでくすんでいるから実際よりも若そうだけど30後半ってトコかな。私が嫌いなタイプ。
「はい、初めてです。」
「初めてのお客様には本人確認出来る書類のご提示をお願いしております。何かお持ちでしょうか?」
見た目とは違って口調は随分と丁寧だ。これがホストか。
「パスポートでいいですか?」
「もちろんでございます。拝見させていただきます。」
私と美穂はホストおじさんに偽パスポートを渡す。結構しっかり見てるな。バレないだろうか。これは美術さんの腕を信じるしかない。
「ありがとうございます。それでは店内にご案内致します。」
どうやら偽パスポートはホストおじさんを倒したようだ。ありがとう美術さん。
ホストおじさんに連れられて店内へと入る。エントランスとは違って結構薄暗い。でもシャンデリアとかがあって豪華だ。
ファミレスみたいな感じの席配置になってるんだね。独立した空間といえば空間だけど丸見えだ。身バレしないように気をつけないと。
「こちらのお席へどうぞ。」
ホストおじさんにすすめられて私と美穂は席に着く。ホストおじさんも席に着く。え、なんで?ホストおじさんはいらないんだけど。
「当店のシステムをご説明させていただきます。」
ああ、そういう事。別にそんなのいいよ。凱亜呼ぶだけだし。あ、そういえば凱亜の源氏名?だっけ?知らないんだけど。やば、どうしよう。
私が考えているとホストおじさんがメニュー表みたいな物を私たちに差し出す。
「まずは指名かフリーかをお選びいただきます。指名なされると指名料がかかりますがフリーはかかりません。そちらが当店に在籍するホストとなります。」
なるほど。メニュー表じゃなかったのか。いや、ある意味メニュー表だね。ホストのメニュー。見方によってはゲスいよね。
私と美穂でメニュー表を開いてみる。最初のページに現れたのはNo.1の男が1人で写っている写真。別に全然カッコよくない。雰囲気は確かにあるけど芸能界という世界に身を置く私としては売れないタレントより少しだけ雰囲気があるだけにしか思えない。ま、話術とかが凄いんだろうけど写真からじゃわからないな。
次のページをめくるとNo.2とNo.3が左のページと右のページにそれぞれ写っている。そんで出たのが凱亜だ。No.2なのかあのダメホスト。うーむ、確かに顔はカッコいい。芸能界レベルで考えても普通にトップクラスだ。私の好みじゃ全然無いけど。
ちらりと美穂を見ると凱亜の写真に釘付けになっている。完全に女の顔だ。やれやれ。
「このNo.2の人を指名します。」
「ガイアですね。かしこまりました。少々お待ち下さいませ。」
ホストおじさんが私たちに会釈をして席から去った。ボーイなのだろうか?それともオーナー?よくわからないけど、まあいっか。
「ていうか美穂、凱亜の写真見すぎ。」
ずっと凱亜の写真から目を離さない美穂を茶化し気味に言って見る。すると美穂はアワアワしながらメニュー表を閉じて顔を真っ赤にしながら両の手のひらを左右に忙しなく振って取り繕うとする。
「みみみみ見てないよ!?他にどんな人がいるのか見てただけだよ!?」
「ふぅ~ん。美穂は他の男に興味津々なわけね~。」
「ち、ちがっ…!?ア、アンナちゃん!!!」
「あははっ。美穂は相変わらず面白いねー。」
「もうっ!!」
こうやって美穂をからかっていると私たちの席に誰かが向かって来る。席の前へ着くと男は腰を折り丁寧に頭を下げ挨拶をする。
「いらっしゃいませ。ご指名頂きありがとうございます。ガイアで………」
男は挨拶の途中に顔を上げ、私たちを見て誰だか理解すると言葉を止めて固まる。
「あれー?お兄さん挨拶途中なのに止まっちゃダメでしょ?ちゃんとお客様に挨拶しなさいよ。」
私がニマニマしながら男を見ると、男は凄く嫌そうな顔をして口を開く。
「チェンジで。」
男はそう言って席を離れようとするので私はすぐさま声を出す。
「このままどっか行ったらお店で騒ぐ。リンドブルム呼んで燃やす。」
男は足を止め。更に嫌そうな顔をして私を見る。
「テメェ……」
「あれー?お客様にその口の利き方なのー?」
男はイライラしながら乱暴に椅子に座る。そして私を睨みながら口を開く。
「お前何しに来たんだよ。つーか身分証どうした。」
「撮影用のパスポートくすねた。」
「チッ…!どうなってんだよこの店の本人確認は。あ……?おま……美穂か?」
凱亜はギャル化してる美穂を見て驚愕の表情をしている。美穂は凱亜を目の前にして真っ赤かにしてる。
「こ、こんばんは凱亜くん…!!」
「なんだってそんなカッコしてんだよ…?アンナ、テメェ美穂で遊んでんじゃねェよ。」
「凱亜うるさーい。」
イライラを抑えようと凱亜はスーツのポケットからタバコを取り出し吸い始める。
「んで…?何の用だ…?」
「凱亜が女を騙してる所を見ようと思って。」
「張り倒すぞ。」
「聞いた美穂?この男やっぱりクズだよ。DVだよ。」
「はぁ………。わかったからもう帰れよ………。」
「やだ。」
凱亜が明らかにイラっとした顔をしながら2本目のタバコに火を点ける。
「が、凱亜くんごめんね…?」
「いや…まあいいんだけどよ。」
「なんか私と美穂で態度違くない?」
このクソホストめ。女によって態度を変えるなんて最低だ。やっぱリンドブルム呼んで懲らしめてもらおう。
「てゆーか凱亜、何か食べ物とかないの?私お昼から何も食べてないんだけど。」
「そんなの俺のせいじゃねェよ。お前はポテトあればいいだろ。ポテト食ってろ。」
「え?ポテトあるの?食べる食べる。」
「美穂はどうする?コレ、メニューだから選んでみろ。」
「う、うん!」
ふむ。いつもの凱亜となら普通にしゃべっている美穂だがやはり今日は緊張が隠せない。まあ美穂がグイグイ行く感じは私も見たくないからいいけど。
「えっ…!?な、何この値段…!?」
メニューを見て美穂が驚いているので私もチラ見してみる。あー、なるほど。確かに高いね。オムライスに3000円ってありえないよね。まー、ホストクラブなんだから当然かー。
「仕方ないんじゃない?こういうお店だし。好きなの頼みなよ。私が出すから。」
「でっ、でも流石にこの値段は…」
「美穂はそんなの気にしないでいいよ。大人になってお金稼ぐようになったら奢ってくれればいいからさ。」
こう言わないときっと美穂は素直に奢られてくれない。遠慮しちゃうからさ。だから美穂と親友やってるんだけど。なんでもかんでも無遠慮に奢られるような奴なら願い下げだからね。
「絶対大人になったらご馳走するからね…!」
「うん。ま、利子として美穂を少しイタズラしたりするけど。」
「ええっ…!?」
「アンナ、美穂をからかうな。つーか俺が出すからいいよ。」
「それこそよくない。アンタは仕事でしょ?私たちはあくまでもお客として来てる。それなのにそういうのはダメだよ。プロならケジメはつけないと。」
私の言葉に凱亜は黙る。いくら友達でもそれは良くない。仕事をしてお金を稼いでいる人に出してもらうなんてありえない。それじゃたかりに来てるのと大差ない。
「そうか。悪いな。」
「いいよ。それじゃ私はポテトと飲み物。って…お酒しかない?」
「ソフトドリンクもある。コーラでいいんだろ?」
「うん。」
私は炭酸好きだからねー。流石に凱亜もわかってるね私の好み。
「美穂はどうする?」
「それじゃ私はオムライスとりんごジュースにしようかな。凱亜くん、りんごジュースある?」
「あるよ。それじゃーー」
凱亜がボーイ?か誰かを呼ぼうとするとホストのお兄ちゃんが現れた。
「ガイアさん、真由美さんが呼んでます。」
「わかった。ここの席の注文頼むわ。」
「わかりました。」
凱亜に告げるとそのお兄ちゃんは私たちの席から離れる。何か用事だったのだろうか。小さい声だし店内がガヤガヤしてるから聞き取れなかった。
「悪い。他のお客さんから呼び出しだ。戻ってくるまで待っててくれ。」
「凱亜くん、気にしないで。お仕事なんだから仕方ないよ。」
「そそ。気にしないでいいよ。凱亜の悪どい所を見に来たんだし。」
「お前は食ったら帰れ。」
凱亜が私たちの席から離れて行くのを美穂は寂しそうに見ている。これはガチ恋してる。そんなに凱亜がいいもんかね。いや、友達としては大好きだよ私も。でも男としては全然好みじゃないんだよね。そこが私にはわからない。
「美穂、顔に出すぎ。」
「な、何がかな!?」
また顔を真っ赤にしいる。そのうち沸騰しそうだ。
「他の女の所になんていかないでー、って顔?」
「ア、アンナちゃん!!!」
美穂をからかっているとドリンクを持ってホストのお兄ちゃんが帰って来た。そしてドリンクを私と美穂の前に差し出すとお兄ちゃんが席に座り出す。なんで?
「ガイアさんが戻るまでヘルプに入らせていただきますセイヤです。」
セイヤとやらが名乗り終わると流れるような動作で名刺を渡してくる。別にいらないんだけど。ヘルプも名刺もね?
「別にヘルプはいらないから戻っていいですよ。凱亜待ってるんで。」
私はぶっきらぼうにセイヤを追い払うように言う。別に身バレしてないんだから媚びる必要はない。
「でも相当時間かかりますよ?下手すればもうここに戻れないかも。」
セイヤが意味深な言い方をする。それが私の心に刺さった。その理由について尋ねてみたくなった。
「どういうこと?」
「店の右奥の席見てもらえますか?そこにガイアさんいますよね?その隣にいる女性、真由美さんって言うんですけどガイアさんの太客なんです。」
ふときゃく…?なにそれ?太い客って事?確かにあのオバサン太ってるけど。それが何の関係あるんだろ。
「あー、太客ってわかりませんか。太客というのはたくさんお金を使っていただけるお客様の事です。」
なるほど、それで太客なのかーー。
「それが何の関係があるわけ?」
太客だからなんだっていうのよ。こっちは凱亜のバカの主人みたいなもんなんだから。
「ホストクラブでは担当が被ったらより高額な注文をした方の席に着くんです。基本的には平等に着くという建前だけどそんなものはあるわけない。太客は大事にするのが当たり前ですからね。」
「要はお金使えばいいってことでしょ?」
「そうなりますね。」
なんだ話早いじゃん。
「あのオバサンが注文してるのはなんなの?」
「真由美さんはドンペリの白ですね。」
なんか聞いたことあるな。ドンペリって有名だよね。私は美穂に視線を送る。美穂はそれを理解してメニュー表からドンペリの値段を探す。すぐにそれを探し当てたのか美穂が目を見開く。大きな目がもっと大きくなった。可愛い。
「ア、アンナちゃん!?ドンペリ高いよ!?その白っていうの8万円もするよ!?」
美穂が狼狽えているのを見てセイヤが軽く鼻で笑ったのを私は見逃さない。ふーん、ナメてくれんじゃん。
「美穂、ドンペリの白って事は他にもあるんでしょ?それより高いのいくら?」
「えっと…、ドンペリニヨンロゼっていうのかな?ピンドンって書いてある。それが…って、え!?高い!?もっと高いよ!?倍ぐらい!!14万円!!」
美穂が過呼吸起こしそうになっている。そりゃ普通に考えたら信じられないぐらいの値段だよね。
「ね?高いでしょ?ガイアさんのお客様はそんな感じなのが多いから厳しいですよ。特に今日は太客なんだから。それなら俺と楽しく飲んだ方がーー」
「ーーそのピンドン持ってきて。」
私の言葉にセイヤは止まる。美穂も止まる。やはり私は時を止める術を手に入れてしまったようだ。
「は…?あの、お客様?ピンドンですよ?14万円もしますよ?初回だからカケは効きませんよ?」
「カケ?」
「後払いの事です。」
ああそういうことね。お金ないと思われてるのか。ハイブランド着てきてもあんまり意味ないのか。
私はバッグを漁る。中から100万円の束を1つ取り出しテーブルに置く。セイヤはまた時が止まった。美穂もまた時が止まった。美穂にイタズラしたい。
「お金はあるからさっさと持って来て。ついでに凱亜も連れて来て。」
「かしこまりました。ピンドン入ります!!!」
セイヤが急にスイッチが入ったように店内に向けて大声でピンドンと叫んでいる。それに呼応して他の席からもホストがなんか騒いでいる。なんか怖いな。変な宗教みたい。
それを見ていると凱亜が怖い顔して戻って来た。
「オイ、お前何やってんだよ。ピンドンなんか頼んでんじゃねェよ。値段わかってんのかよ。」
「凱亜うるさーい。値段見て頼んでますー。」
私の態度にイラついたのかこめかみをヒクつかせている。ふふん。私の勝ちー。
「なんで頼んでんだよ。つーか美穂も止めろ。この馬鹿何しでかすかわかんねェだろ。」
「ご、ごめんね凱亜くん。」
「ハァ?バカなのアンタでしょ?何あの豚みたいなオバサンに媚びてんのよ。」
なんだかカオスな空気になっているがそんな事は知った事じゃない。あのオバサンが私を見てドヤった感じ出してんのが普通にムカついた。私は負けず嫌いだから。
「媚びてねェよ。仕事してンだよ。」
「そ、そうだよね!ごめんね凱亜くん!」
「あんな豚に媚びるなんて大変な仕事ですねぇ~。」
更にカオスな空気になっているがそんなこと知ったことか。凱亜のくせに私に逆らうとか生意気すぎ。
「てめぇも同じようなモンだろうが。」
「全然ちがいます~。私はちゃんと夢与えてます~。誰かと一緒にするのやめてもらえますかぁ~?」
「ふ、2人ともケンカはやめようね!?」
更に更にカオスな空気になっているがそんなこと知ったことか。このクソホストほんとムカつくんだけど。
「……はぁ。わかったよ。」
クソホストが大人ぶって折れてやるみたいな雰囲気を出している。なにその態度。凱亜のくせに。
「なにがわかったのよ?謝りなさいよ。」
私はクソホストに対して高圧的に出る。だって凱亜のくせに私に逆らうなんてムカつくんだもん。
クソホストがイラっとした顔になるが美穂の顔を見てはーっと大きく息を吐き私を見る。
「悪かったよ。機嫌直せ。」
「ま、別にいいけど。」
私はグラスを持ちドリンクに口をつける。凱亜の顔が引きつっているが美穂がニコニコしているのを見るとまた大きくため息をついている。なんだかんだでこの2人はバランスとれてるな。このダメホストに美穂はあげないけど。
「てか凱亜、あのオバサンまた注文してこないでしょうね?」
「知らねェ。」
「つかえないなぁ。もういいや。このリシャールっていうの追加で。そうすればもうケンカ吹っかけてこないでしょ。」
「あぁ?お前リシャールいくらすっかわかってんのかよ。」
「値段書いてあんだからわかるでしょ。数字も読めないのあんた?ホント凱亜はバカなんだから。」
「こいつ…」
「が、凱亜くん落ち着こう!?ね!?」
「…ふぅーっ。おいアンナ。お前が払えないなんて思わねェけど150万以上も使ってンだぞ?もったいねェだろ。」
「別にムダなお金なんか使ってないよ。」
「あ?」
「半分ぐらいはあんたの取り分になんでしょ?それなら別にムダなお金じゃないじゃん。」
「あぁん?どういうことだよ。」
「奈緒ちゃんの病院代になるでしょ。あんたは絶対私からもらおうとしないし。でも仕事での売り上げなら構わないでしょ?働いて得たお金なんだから。」
ダメホストが驚いたような表情で私を見ている。このダメホストは強情だから絶対に私からのお金を受け取らない。奈緒ちゃんの病院代ぐらい援助したって構わないのに意地でも受け取らない。でもこうやってやればそれは凱亜が稼いだお金なんだなら文句は無いはず。手がかかる男だよね。
「お店に落とす分はアレかもしれないけどまあ楽しませてもらえればいいし。」
「アンナ…お前…」
「いっとくけど『すまん。』とか『ありがとう。』とか湿っぽいのいらないから。私は別にお客として来てるだけだからそんな事言われる筋合い無いし。ほら。早くリシャールっての持ってきなさいよ。」
「……おう。」
なんか湿っぽい感じになっちゃったな。恩とか感じさせたくなかったのに。私もこういうのヘタなんだなぁ。
「そういう目的だったんだね。」
美穂が嬉しそうな顔をして私を見ている。可愛い。お持ち帰りしたい。
「ま、一応ね。私が出来る事はしてあげたいでしょ。親友だし。」
「ふふっ。そういうアンナちゃん大好きだよ。」
「うん、結婚しよっか美穂。」
「ええっ!?でも…私は…その…」
「冗談。でも凱亜にこの仕事させるの早くやめさせないとだよ?なんかヒモっぽくなるし。」
「なななななんで凱亜くんが出てくるのかなっ!?私は別に凱亜くんと結婚とか…」
「いや…今さらすぎでしょ…」
美穂が顔を真っ赤にしながらブツブツ言ってると凱亜がボトルを持って戻って来た。
「リシャールとピンドン。メシはもう少しで出来るってよ。」
「へー、なんかリシャールのボトルかっこいいじゃん。高いだけあるね。」
「つーかこの酒どうすんだよ。」
「凱亜持って帰れば?ここで飲むのやめなよ。身体に悪いし。」
「いいのかよもらって?」
「私は全然いらないし。家で飲むか売っちゃえばいいんじゃん?高いお酒ってお金になるって聞いた事ある。」
「んじゃもらうわ。どっちも普通に美味い。」
「ん。」
こうして私の初ホストクラブは終了した。正直もう一度来ようとは思わないけど凱亜に貢いであげるからまた来るんだけどね。こういうのにハマる人の気持ちはわかんないなー。って思う体験だった。
私はソファーへと倒れ込む。もう体力限界ですー。流石の私もちょっとキツいー。
大阪公演が終わり数日ぶりに都内にある自宅マンションへと帰って来た私。身も心もくたくたである。
今の時刻は8月22日火曜日の午後6時を少し回った。月末から始まる私のライブ、東京公演3Daysを控えている為、明日から4日間オフとなった。私の幸せな時間。この為に必死にスケジュールを詰めて地獄の撮影行程をこなしてきたんだ。明日からは楽しく過ごそう。
私はソファーに寝転がりながら部屋の中を見渡す。広くて綺麗な部屋。黒を基調とした高級感漂うタワマン2LDK。流石に最上階ではないけどなんと月の家賃が200万円。信じられないよね。一年住んだら東京から出たら一軒家買えちゃうんじゃない?って金額。それだけ私が稼いでるって事だけどさ、もっと安い所にしたいんだよね。でも事務所から許可が出ないから無理なんだ。セキュリティー面とかを考えるとどうしてもこの金額になってしまう。事務所が半分負担してくれるけど私は家賃に月100万円も払わないといけない。もういっそのことマンション買った方が早いんじゃないだろうか。施設に支援するお金を除いても貯金は正直かなりある。マンションだって一括で買える。検討してみた方がいいよね。
ーーピンポーン
マンション購入を考えているとインターホンが鳴った。私は起き上がりモニターを見に行く。
「はいよー、開けるねー。」
私はエントランスホールの鍵を解錠し招き入れる。さてと、着替えちゃいますか。これから楽しい楽しいプライベートタイムだもんね。私はいそいそとクローゼットへと向かい服や靴を引っ張り出す。あ、メイクも軽くしないとダメかも。ノーメイクだと子供っぽすぎるもんね。
ーーピンポーン
部屋のインターホンが鳴る。一時中断だ。
私は小走りで玄関まで行きドアを開ける。
「こんばんは、アンナちゃん。」
「やっほ、美穂。入って入って。」
来たのは私の親友でもあり仲間でもある楢葉美穂だ。今日は美穂と遊ぶ約束をしていた。だからこそ急いで大阪から帰って来たのだ。
「もう何度もここに来てるけどアンナちゃんのお家凄いよね…!」
「ムダに高いからねー。凄いっていうなら美穂のお家の方が凄くない?威厳があるっていうか。」
「ウチは古いだけだよ。たまに床が抜ける時だってあるし。」
「なにそれ、なんか楽しそう。」
こうやって美穂と笑いあってるの楽しいなぁ。さっきまでの疲れが吹き飛ぶよ。
「それじゃ準備しちゃおっか。美穂の希望とかある?」
「私はオシャレとかあまりわからないからアンナちゃんにお任せかな。」
「ふむふむ。ま、美穂の感じからすれば清楚系なんだろうけど今回はちょっと冒険しちゃおっか。」
「冒険…?」
「とりあえずこの服着てみて。」
私は美穂に服を手渡す。その服を見て美穂の目が見開いた。え?本当にコレ着るの?みたいな目をしている。
私が美穂に渡した服は黒のチョーカートップス。肩が丸出しでアームカバーみたいなのが一体化しているようなセクシーな服。所謂ギャル服だ。それを清楚代表みたいな美穂に私は着せようとしている。
「え?コレ着るの?私が?」
「そそ。早く着て見て。」
「え?コレ着て凱亜くんの所に行くの?」
「そそ。早く着て見て。」
美穂が沈黙する。目が点になって私を見つめている。時が止まってしまったのだろうか。私はとうとう時を止める事まで出来るようになってしまったのか。
「無理だよね!?」
「あ、動いた。」
「私恥ずかしくて死んじゃうよ!?これ絶対胸も見えるよね!?痴女だと思われるよ!?」
「一応それ私も着た事あるんだけど。」
「無理!!無理無理無理!!!」
美穂が顔を真っ赤にしてしまった。どさくさに紛れて美穂のエロい所を撮ろうとしたのに。なんとか騙くらかしてこのエロ服着せないと。私の楽しみなんだから。
「美穂。よく聞いて。男はねギャップが好きなんだよ。」
「……ギャップ?」
「うん。美穂は清楚系でしょ?そんな美穂がギャル系になる。いつも見慣れたあの子。そんなあの子がいつもと違う雰囲気でセクシーな感じを出してたら凱亜だって男心に刺さりまくって美穂を意識しちゃうよ?」
「……本当に?」
「もちろん。」
男心なんかよく知らないけどね。付き合った事なんてないし。
「……頑張ってみる。」
チョロいな美穂。私は心配だよ。
「よし!それでその服着たらウィッグ付けるよ。流石に髪は染められないからグラデーションでうまーくやるから。そんでメイクもしてー。」
「アンナちゃん私で遊んでないよね!?」
********************
美穂をギャルにして準備が整った私たちはタクシーで歌舞伎町へとやって来た。目的地は【 エルドラド 】というホストクラブ。どうしてそこに行くのかって?凱亜がそこで働いてるから調査に行くんだよ。あの女の敵がどんな風に騙しているのかをこの目で見極めてやるんだ。
「こ、ここが歌舞伎町…!東京に住んでても私には縁が無い場所だから近づいたのも初めてだよ…!」
歌舞伎町の雰囲気に気圧されている美穂だが見た目はとてもそんな風に見えない。完全にギャル化している。調子に乗ってパンツ見えそうなぐらい短いスカートを履かせてしまった。それにウィッグを付けてアップにした髪型もあわせればとてもじゃないが美穂には見えない。メイクもしてるしね。
対する私はキャップに眼鏡というスタイルでギャル風にメイクをし、美穂と同じ様にセクシーな服、といいたいけどグッチのジャージで無難にまとめた。流石に場所が場所なだけにあからさまなハイブランドの服を着ないとナメられそうだからね。
「私も歌舞伎町は来たことないよ。」
「その割にアンナちゃんは落ち着いてるよね。」
「職業病ってやつかな。それじゃエルドラド見つけようか。どこにあるんだろ。」
私と美穂は歌舞伎町を歩く。なんか東京の陰の部分の象徴って感じだ。あんまりここにはいない方がいいかな。闇に引きずり込まれそう。芸能界とはまた違った怖さをここには感じる。
「ハァーイ!!お姉ちゃんたち!!どっこいっくのぉ?」
うわ…うざ…。変な奴に絡まれた。タクシーで店まで行けばよかった。念の為記者とか警戒して少し離れた場所に降りたのが仇となった。
私は美穂に目で合図をおくりスルーするように念を送る。美穂もそれを察知し私たちは男を避けて歩みを進めた。しかし男もめげない。私たちの後をしっかりついてくる。
「シカトとか悲しいんだけど~。ねね、話しよ?」
……チッ。うるさいなあ。女2人で歩くのはやっぱまずかった。殴り倒していいなら殴り倒しちゃうんだけど。
「てゆーか!!2人ともチョーカワイくない!?芸能人!?」
うん。芸能人。はい、話は終わり。さよならー。
私と美穂は構わず歩みを進めるとやはりこの変な男はついてくる。本当にうざい。
「待ってって~。お話しよ!俺さ、この近くのホストクラブで働いてるんだよね!ホストクラブ行ったことある?てか行っちゃう~?」
私は立ち止まる。私は男へと振り返り一言だけ尋ねる。
「何て店?」
男は私の反応に驚きつつも嬉しそうな顔をして答える。
「ロマンスだよ!ロマンス!!」
チッ。使えないな。こんな奴に期待したのが間違えだった。あー、コイツに聞けばいいか。わかるでしょ同業なら。
「エルドラドって知ってる?」
「あー、エルドラドね。なんか高級ホストクラブとか謳っちゃってる痛い店ね。お姉ちゃんたちアソコ行く気?やめた方がいいよ~?かな~り高いから。何人もソープに沈められてるって噂だしさ~。お姉ちゃんたちも沈められちゃうよ~?その点ロマンスなら飲み放題で3000円からだよ~?お得じゃな~い?」
「その悪徳なエルドラドはどこにあるの?」
「それならそこを右に行った所にあるよ。それよーー」
「ーーうん、ありがと。ばいばーい。」
用済みになった馬鹿男を置いて私と美穂は小走りで逃走する。私たちのクイックネスは超高校級だね。
流れるような動きで私と美穂はたどり着いた。悪辣と噂されるエルドラドに。
「つ、ついちゃったねアンナちゃん…!」
「まあ…そうだね。」
流石の私でも店を前にすると結構緊張して来た。何より思った以上に店構えが綺麗な事に驚いた。もう少し小汚いというか下品なイメージあったから。
「そういえばアンナちゃん、身分証はどうするの?調べたらこういうお店って未成年入れない為に必要って書いてあったよ?」
「それは抜かりないよ。撮影用の偽パスポートくすねて来たから。」
「ええっ…バレるんじゃないかな…?」
「これが結構精巧に作ってあるんだよねー。通帳作ったりする訳じゃないんだから大丈夫だよ。あとは私の演技力で乗り切る。」
「ダメで元々だよね!うん!」
覚悟の決まった私と美穂は店のドアを開けた。店のエントランスはかなり清潔感のある綺麗な造りの豪華な感じ。正直悪くない。
「いらっしゃいませ。初めてのお客様でございますね。」
現れたのはいかにもホストって感じのサーファー風の男。肌が日焼けでくすんでいるから実際よりも若そうだけど30後半ってトコかな。私が嫌いなタイプ。
「はい、初めてです。」
「初めてのお客様には本人確認出来る書類のご提示をお願いしております。何かお持ちでしょうか?」
見た目とは違って口調は随分と丁寧だ。これがホストか。
「パスポートでいいですか?」
「もちろんでございます。拝見させていただきます。」
私と美穂はホストおじさんに偽パスポートを渡す。結構しっかり見てるな。バレないだろうか。これは美術さんの腕を信じるしかない。
「ありがとうございます。それでは店内にご案内致します。」
どうやら偽パスポートはホストおじさんを倒したようだ。ありがとう美術さん。
ホストおじさんに連れられて店内へと入る。エントランスとは違って結構薄暗い。でもシャンデリアとかがあって豪華だ。
ファミレスみたいな感じの席配置になってるんだね。独立した空間といえば空間だけど丸見えだ。身バレしないように気をつけないと。
「こちらのお席へどうぞ。」
ホストおじさんにすすめられて私と美穂は席に着く。ホストおじさんも席に着く。え、なんで?ホストおじさんはいらないんだけど。
「当店のシステムをご説明させていただきます。」
ああ、そういう事。別にそんなのいいよ。凱亜呼ぶだけだし。あ、そういえば凱亜の源氏名?だっけ?知らないんだけど。やば、どうしよう。
私が考えているとホストおじさんがメニュー表みたいな物を私たちに差し出す。
「まずは指名かフリーかをお選びいただきます。指名なされると指名料がかかりますがフリーはかかりません。そちらが当店に在籍するホストとなります。」
なるほど。メニュー表じゃなかったのか。いや、ある意味メニュー表だね。ホストのメニュー。見方によってはゲスいよね。
私と美穂でメニュー表を開いてみる。最初のページに現れたのはNo.1の男が1人で写っている写真。別に全然カッコよくない。雰囲気は確かにあるけど芸能界という世界に身を置く私としては売れないタレントより少しだけ雰囲気があるだけにしか思えない。ま、話術とかが凄いんだろうけど写真からじゃわからないな。
次のページをめくるとNo.2とNo.3が左のページと右のページにそれぞれ写っている。そんで出たのが凱亜だ。No.2なのかあのダメホスト。うーむ、確かに顔はカッコいい。芸能界レベルで考えても普通にトップクラスだ。私の好みじゃ全然無いけど。
ちらりと美穂を見ると凱亜の写真に釘付けになっている。完全に女の顔だ。やれやれ。
「このNo.2の人を指名します。」
「ガイアですね。かしこまりました。少々お待ち下さいませ。」
ホストおじさんが私たちに会釈をして席から去った。ボーイなのだろうか?それともオーナー?よくわからないけど、まあいっか。
「ていうか美穂、凱亜の写真見すぎ。」
ずっと凱亜の写真から目を離さない美穂を茶化し気味に言って見る。すると美穂はアワアワしながらメニュー表を閉じて顔を真っ赤にしながら両の手のひらを左右に忙しなく振って取り繕うとする。
「みみみみ見てないよ!?他にどんな人がいるのか見てただけだよ!?」
「ふぅ~ん。美穂は他の男に興味津々なわけね~。」
「ち、ちがっ…!?ア、アンナちゃん!!!」
「あははっ。美穂は相変わらず面白いねー。」
「もうっ!!」
こうやって美穂をからかっていると私たちの席に誰かが向かって来る。席の前へ着くと男は腰を折り丁寧に頭を下げ挨拶をする。
「いらっしゃいませ。ご指名頂きありがとうございます。ガイアで………」
男は挨拶の途中に顔を上げ、私たちを見て誰だか理解すると言葉を止めて固まる。
「あれー?お兄さん挨拶途中なのに止まっちゃダメでしょ?ちゃんとお客様に挨拶しなさいよ。」
私がニマニマしながら男を見ると、男は凄く嫌そうな顔をして口を開く。
「チェンジで。」
男はそう言って席を離れようとするので私はすぐさま声を出す。
「このままどっか行ったらお店で騒ぐ。リンドブルム呼んで燃やす。」
男は足を止め。更に嫌そうな顔をして私を見る。
「テメェ……」
「あれー?お客様にその口の利き方なのー?」
男はイライラしながら乱暴に椅子に座る。そして私を睨みながら口を開く。
「お前何しに来たんだよ。つーか身分証どうした。」
「撮影用のパスポートくすねた。」
「チッ…!どうなってんだよこの店の本人確認は。あ……?おま……美穂か?」
凱亜はギャル化してる美穂を見て驚愕の表情をしている。美穂は凱亜を目の前にして真っ赤かにしてる。
「こ、こんばんは凱亜くん…!!」
「なんだってそんなカッコしてんだよ…?アンナ、テメェ美穂で遊んでんじゃねェよ。」
「凱亜うるさーい。」
イライラを抑えようと凱亜はスーツのポケットからタバコを取り出し吸い始める。
「んで…?何の用だ…?」
「凱亜が女を騙してる所を見ようと思って。」
「張り倒すぞ。」
「聞いた美穂?この男やっぱりクズだよ。DVだよ。」
「はぁ………。わかったからもう帰れよ………。」
「やだ。」
凱亜が明らかにイラっとした顔をしながら2本目のタバコに火を点ける。
「が、凱亜くんごめんね…?」
「いや…まあいいんだけどよ。」
「なんか私と美穂で態度違くない?」
このクソホストめ。女によって態度を変えるなんて最低だ。やっぱリンドブルム呼んで懲らしめてもらおう。
「てゆーか凱亜、何か食べ物とかないの?私お昼から何も食べてないんだけど。」
「そんなの俺のせいじゃねェよ。お前はポテトあればいいだろ。ポテト食ってろ。」
「え?ポテトあるの?食べる食べる。」
「美穂はどうする?コレ、メニューだから選んでみろ。」
「う、うん!」
ふむ。いつもの凱亜となら普通にしゃべっている美穂だがやはり今日は緊張が隠せない。まあ美穂がグイグイ行く感じは私も見たくないからいいけど。
「えっ…!?な、何この値段…!?」
メニューを見て美穂が驚いているので私もチラ見してみる。あー、なるほど。確かに高いね。オムライスに3000円ってありえないよね。まー、ホストクラブなんだから当然かー。
「仕方ないんじゃない?こういうお店だし。好きなの頼みなよ。私が出すから。」
「でっ、でも流石にこの値段は…」
「美穂はそんなの気にしないでいいよ。大人になってお金稼ぐようになったら奢ってくれればいいからさ。」
こう言わないときっと美穂は素直に奢られてくれない。遠慮しちゃうからさ。だから美穂と親友やってるんだけど。なんでもかんでも無遠慮に奢られるような奴なら願い下げだからね。
「絶対大人になったらご馳走するからね…!」
「うん。ま、利子として美穂を少しイタズラしたりするけど。」
「ええっ…!?」
「アンナ、美穂をからかうな。つーか俺が出すからいいよ。」
「それこそよくない。アンタは仕事でしょ?私たちはあくまでもお客として来てる。それなのにそういうのはダメだよ。プロならケジメはつけないと。」
私の言葉に凱亜は黙る。いくら友達でもそれは良くない。仕事をしてお金を稼いでいる人に出してもらうなんてありえない。それじゃたかりに来てるのと大差ない。
「そうか。悪いな。」
「いいよ。それじゃ私はポテトと飲み物。って…お酒しかない?」
「ソフトドリンクもある。コーラでいいんだろ?」
「うん。」
私は炭酸好きだからねー。流石に凱亜もわかってるね私の好み。
「美穂はどうする?」
「それじゃ私はオムライスとりんごジュースにしようかな。凱亜くん、りんごジュースある?」
「あるよ。それじゃーー」
凱亜がボーイ?か誰かを呼ぼうとするとホストのお兄ちゃんが現れた。
「ガイアさん、真由美さんが呼んでます。」
「わかった。ここの席の注文頼むわ。」
「わかりました。」
凱亜に告げるとそのお兄ちゃんは私たちの席から離れる。何か用事だったのだろうか。小さい声だし店内がガヤガヤしてるから聞き取れなかった。
「悪い。他のお客さんから呼び出しだ。戻ってくるまで待っててくれ。」
「凱亜くん、気にしないで。お仕事なんだから仕方ないよ。」
「そそ。気にしないでいいよ。凱亜の悪どい所を見に来たんだし。」
「お前は食ったら帰れ。」
凱亜が私たちの席から離れて行くのを美穂は寂しそうに見ている。これはガチ恋してる。そんなに凱亜がいいもんかね。いや、友達としては大好きだよ私も。でも男としては全然好みじゃないんだよね。そこが私にはわからない。
「美穂、顔に出すぎ。」
「な、何がかな!?」
また顔を真っ赤にしいる。そのうち沸騰しそうだ。
「他の女の所になんていかないでー、って顔?」
「ア、アンナちゃん!!!」
美穂をからかっているとドリンクを持ってホストのお兄ちゃんが帰って来た。そしてドリンクを私と美穂の前に差し出すとお兄ちゃんが席に座り出す。なんで?
「ガイアさんが戻るまでヘルプに入らせていただきますセイヤです。」
セイヤとやらが名乗り終わると流れるような動作で名刺を渡してくる。別にいらないんだけど。ヘルプも名刺もね?
「別にヘルプはいらないから戻っていいですよ。凱亜待ってるんで。」
私はぶっきらぼうにセイヤを追い払うように言う。別に身バレしてないんだから媚びる必要はない。
「でも相当時間かかりますよ?下手すればもうここに戻れないかも。」
セイヤが意味深な言い方をする。それが私の心に刺さった。その理由について尋ねてみたくなった。
「どういうこと?」
「店の右奥の席見てもらえますか?そこにガイアさんいますよね?その隣にいる女性、真由美さんって言うんですけどガイアさんの太客なんです。」
ふときゃく…?なにそれ?太い客って事?確かにあのオバサン太ってるけど。それが何の関係あるんだろ。
「あー、太客ってわかりませんか。太客というのはたくさんお金を使っていただけるお客様の事です。」
なるほど、それで太客なのかーー。
「それが何の関係があるわけ?」
太客だからなんだっていうのよ。こっちは凱亜のバカの主人みたいなもんなんだから。
「ホストクラブでは担当が被ったらより高額な注文をした方の席に着くんです。基本的には平等に着くという建前だけどそんなものはあるわけない。太客は大事にするのが当たり前ですからね。」
「要はお金使えばいいってことでしょ?」
「そうなりますね。」
なんだ話早いじゃん。
「あのオバサンが注文してるのはなんなの?」
「真由美さんはドンペリの白ですね。」
なんか聞いたことあるな。ドンペリって有名だよね。私は美穂に視線を送る。美穂はそれを理解してメニュー表からドンペリの値段を探す。すぐにそれを探し当てたのか美穂が目を見開く。大きな目がもっと大きくなった。可愛い。
「ア、アンナちゃん!?ドンペリ高いよ!?その白っていうの8万円もするよ!?」
美穂が狼狽えているのを見てセイヤが軽く鼻で笑ったのを私は見逃さない。ふーん、ナメてくれんじゃん。
「美穂、ドンペリの白って事は他にもあるんでしょ?それより高いのいくら?」
「えっと…、ドンペリニヨンロゼっていうのかな?ピンドンって書いてある。それが…って、え!?高い!?もっと高いよ!?倍ぐらい!!14万円!!」
美穂が過呼吸起こしそうになっている。そりゃ普通に考えたら信じられないぐらいの値段だよね。
「ね?高いでしょ?ガイアさんのお客様はそんな感じなのが多いから厳しいですよ。特に今日は太客なんだから。それなら俺と楽しく飲んだ方がーー」
「ーーそのピンドン持ってきて。」
私の言葉にセイヤは止まる。美穂も止まる。やはり私は時を止める術を手に入れてしまったようだ。
「は…?あの、お客様?ピンドンですよ?14万円もしますよ?初回だからカケは効きませんよ?」
「カケ?」
「後払いの事です。」
ああそういうことね。お金ないと思われてるのか。ハイブランド着てきてもあんまり意味ないのか。
私はバッグを漁る。中から100万円の束を1つ取り出しテーブルに置く。セイヤはまた時が止まった。美穂もまた時が止まった。美穂にイタズラしたい。
「お金はあるからさっさと持って来て。ついでに凱亜も連れて来て。」
「かしこまりました。ピンドン入ります!!!」
セイヤが急にスイッチが入ったように店内に向けて大声でピンドンと叫んでいる。それに呼応して他の席からもホストがなんか騒いでいる。なんか怖いな。変な宗教みたい。
それを見ていると凱亜が怖い顔して戻って来た。
「オイ、お前何やってんだよ。ピンドンなんか頼んでんじゃねェよ。値段わかってんのかよ。」
「凱亜うるさーい。値段見て頼んでますー。」
私の態度にイラついたのかこめかみをヒクつかせている。ふふん。私の勝ちー。
「なんで頼んでんだよ。つーか美穂も止めろ。この馬鹿何しでかすかわかんねェだろ。」
「ご、ごめんね凱亜くん。」
「ハァ?バカなのアンタでしょ?何あの豚みたいなオバサンに媚びてんのよ。」
なんだかカオスな空気になっているがそんな事は知った事じゃない。あのオバサンが私を見てドヤった感じ出してんのが普通にムカついた。私は負けず嫌いだから。
「媚びてねェよ。仕事してンだよ。」
「そ、そうだよね!ごめんね凱亜くん!」
「あんな豚に媚びるなんて大変な仕事ですねぇ~。」
更にカオスな空気になっているがそんなこと知ったことか。凱亜のくせに私に逆らうとか生意気すぎ。
「てめぇも同じようなモンだろうが。」
「全然ちがいます~。私はちゃんと夢与えてます~。誰かと一緒にするのやめてもらえますかぁ~?」
「ふ、2人ともケンカはやめようね!?」
更に更にカオスな空気になっているがそんなこと知ったことか。このクソホストほんとムカつくんだけど。
「……はぁ。わかったよ。」
クソホストが大人ぶって折れてやるみたいな雰囲気を出している。なにその態度。凱亜のくせに。
「なにがわかったのよ?謝りなさいよ。」
私はクソホストに対して高圧的に出る。だって凱亜のくせに私に逆らうなんてムカつくんだもん。
クソホストがイラっとした顔になるが美穂の顔を見てはーっと大きく息を吐き私を見る。
「悪かったよ。機嫌直せ。」
「ま、別にいいけど。」
私はグラスを持ちドリンクに口をつける。凱亜の顔が引きつっているが美穂がニコニコしているのを見るとまた大きくため息をついている。なんだかんだでこの2人はバランスとれてるな。このダメホストに美穂はあげないけど。
「てか凱亜、あのオバサンまた注文してこないでしょうね?」
「知らねェ。」
「つかえないなぁ。もういいや。このリシャールっていうの追加で。そうすればもうケンカ吹っかけてこないでしょ。」
「あぁ?お前リシャールいくらすっかわかってんのかよ。」
「値段書いてあんだからわかるでしょ。数字も読めないのあんた?ホント凱亜はバカなんだから。」
「こいつ…」
「が、凱亜くん落ち着こう!?ね!?」
「…ふぅーっ。おいアンナ。お前が払えないなんて思わねェけど150万以上も使ってンだぞ?もったいねェだろ。」
「別にムダなお金なんか使ってないよ。」
「あ?」
「半分ぐらいはあんたの取り分になんでしょ?それなら別にムダなお金じゃないじゃん。」
「あぁん?どういうことだよ。」
「奈緒ちゃんの病院代になるでしょ。あんたは絶対私からもらおうとしないし。でも仕事での売り上げなら構わないでしょ?働いて得たお金なんだから。」
ダメホストが驚いたような表情で私を見ている。このダメホストは強情だから絶対に私からのお金を受け取らない。奈緒ちゃんの病院代ぐらい援助したって構わないのに意地でも受け取らない。でもこうやってやればそれは凱亜が稼いだお金なんだなら文句は無いはず。手がかかる男だよね。
「お店に落とす分はアレかもしれないけどまあ楽しませてもらえればいいし。」
「アンナ…お前…」
「いっとくけど『すまん。』とか『ありがとう。』とか湿っぽいのいらないから。私は別にお客として来てるだけだからそんな事言われる筋合い無いし。ほら。早くリシャールっての持ってきなさいよ。」
「……おう。」
なんか湿っぽい感じになっちゃったな。恩とか感じさせたくなかったのに。私もこういうのヘタなんだなぁ。
「そういう目的だったんだね。」
美穂が嬉しそうな顔をして私を見ている。可愛い。お持ち帰りしたい。
「ま、一応ね。私が出来る事はしてあげたいでしょ。親友だし。」
「ふふっ。そういうアンナちゃん大好きだよ。」
「うん、結婚しよっか美穂。」
「ええっ!?でも…私は…その…」
「冗談。でも凱亜にこの仕事させるの早くやめさせないとだよ?なんかヒモっぽくなるし。」
「なななななんで凱亜くんが出てくるのかなっ!?私は別に凱亜くんと結婚とか…」
「いや…今さらすぎでしょ…」
美穂が顔を真っ赤にしながらブツブツ言ってると凱亜がボトルを持って戻って来た。
「リシャールとピンドン。メシはもう少しで出来るってよ。」
「へー、なんかリシャールのボトルかっこいいじゃん。高いだけあるね。」
「つーかこの酒どうすんだよ。」
「凱亜持って帰れば?ここで飲むのやめなよ。身体に悪いし。」
「いいのかよもらって?」
「私は全然いらないし。家で飲むか売っちゃえばいいんじゃん?高いお酒ってお金になるって聞いた事ある。」
「んじゃもらうわ。どっちも普通に美味い。」
「ん。」
こうして私の初ホストクラブは終了した。正直もう一度来ようとは思わないけど凱亜に貢いであげるからまた来るんだけどね。こういうのにハマる人の気持ちはわかんないなー。って思う体験だった。
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これは私の友人がゴスロリやめて清楚系に走った途端にモテ始めた話に基づくような基づかないような。
追記:3.21
忙しさに落ち着きが見えそうなのでゆっくり更新再開します。需要があるかわかりませんが1人でも続きを待ってくれる人がいらっしゃるかもしれないので…。
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