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4章 帰国編
34話 不可解な暗殺
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「随分と税を滞納しているではないですか。
そろそろ払って頂かないと困るんですよ」
小太りの役人風の男ゴズだ。
領地を魔族に占領されていたいた間の税は免除されている。
しかし大金を隠し持っていたからとその期間の税を納めろと言っているのだ。
風太が不在の時を狙ったかのように現れ、回収の為にぞろぞろと兵士を引き連れていた。
猫耳の少年テラスタンは、怯えて声も出せずにいた。
男達にボコボコに殴られた挙げ句に、片方の猫耳を切り取られたのである。
その時の光景が浮かび、足がすくんで立っているのがやっとだった。
僕がアリアを守らないと。
愛する風太の為に頑張って止めないと、見捨てられてしまう。
「それは嫌だ」
小さな声だった。
ゴズは、少年の頭を手を置く。
「よく聞き取れなかった。
もう一度言ってくれないか?」
「出直して欲しい。
領主フータは、結婚式に招待されて不在です」
「我々も仕事なんでね。
手ぶらで帰るわけには行かない」
「貴方が本物の役人なら、公式な書類を見せて下さい」
「獣となっても貴族と言うことか。
まあ良いでしょう、これがご希望の書類です」
書かれている内容は一見すると正式なものに見えるが、細部が異なっていた。
特に王家の刻印が不自然なぐらい薄く、乱れていた。
誰が見ても偽物だと解るものを提示する意味はなんだろう?
テラスタンはハッとなる。
偽物に見えるように偽装し、これを廃棄すれば反旗を翻したと攻め入るつもりなのだろう。
法術を解除するすべは持っておらず、下手なことをすれば彼らの思う壺だ。
「なんて卑劣な」
本来の文面が分からないことには対処は不可能だ。
ただ解っているのは、見えている文章が偽物だということだけ。
風太が居れば簡単に解決できたのだろうか?
竜人すら従えてきた。
この程度、造作もなく解決しただろう。
悔しいとテラスタンは体が震えた。
「勘は良いようだが、残念だったな。
では、滞納した分を払って頂きましょうか?」
そんな所にアリアがお茶を運んでくる。
テラスタンは顔が真っ青になり、絶望的な結末を予期した。
足をつまずき、転ぶとと盆に乗ったお茶がゴズのデブ顔に直撃したのである。
バタン
「イタタタ……、あらごめんなさい」
「巫山戯よって、わざとやったのであろう。
この無礼な小娘を処罰せよ!」
兵士達が一斉に剣を抜く。
「彼女は、本当にドジで間抜けなだけです。
どうかお許しください」
テラスタンに出来ることは、頭を深々と下げることだけだ。
「私に剣を向けるという事は、覚悟していますの?」
もう黙って欲しい。
余計なことをするから話がややこしくくなって、悪い方向へと転がっていくんだ。
耐えて我慢すれば助かるのに……。
そんな心の声を見越したのかアリアは、テラスタンの頭を撫でる。
「彼の言葉を思い出しなさい。
弱者の戦略……」
「はい、僕は弱い……」
いくら強者でも全てが万能に強いものは稀だ。
何かしらの欠点、弱みがある。
そこを見つけ出し、自分に有利に進めるかが大切だと。
「楯突くと、王家への反逆とみなし皆殺しになると理解しているのかね。
小娘一人の為に領民まで巻き込むのは愚かだと、理解したほうが良い」
「確かにそうですね。
彼女が領主が雇っていたメイドならば、処罰を受け入れたほうが良い。
ですが、彼女は竜人の客人です」
「ははは……。
竜人だと、またそんな嘘を」
「町の住人から聞かなかったのでしょうか?
角の生えた美女が居ると」
田畑を耕し、区画整理までした竜人の事は噂になっている筈だ。
特に隠すわけでもなく、大きく協力しているのは明らかである。
「だが無礼を働いたのは小娘なのは間違いない事実。
詫びるのが筋であろう」
「しかし、客人を保護するのは騎士としての努めです。
僕が代わりに、罰を受けましょう」
テラスタンは覚悟を決めて、彼の前で正座する。
そして目を合わせた。
青楓の言葉を思い出す。
覚悟を決めたのなら相手の目をよく見なさいと。
それまでは恐怖から顔をそらし相手と向き合うことが出来ずにいた。
その変化にゴズも気づく。
覚悟を感じ、信念に満ちている男の目だ。
今まで弱者で甚振られるだけの存在が、どうして歯向かうのかと。
殴りつけようと拳を上げた。
だが目を閉じることもない。
何故怯えない!
「貴様!」
振り下ろす拳にも、動揺すること無く目が合ったまま。
当たる紙一重、ゴズは手を止めた。
「殴らないのですか?」
「危ういところでした。
貴方を殴ったとしても屈辱は晴れることはない。
やはり本人を処罰しなくては気が収まらない」
もし殴っていたら、それで事は収まってしまう。
それで気を失えば取り立てを強行することは出来なくなる。
もしそれを行えば盗賊と同じとみなされ、立場が危うくなる。
領主代理人としての努めを果たして貰わなくてはならない。
そう言い訳をすることで、眼力に気圧され臆したことを無かったことにしたのである。
獣が対峙した時、敗北を感じた時に目を逸らす。
ゴズも無意識に少年から目線をそらしていた。
「では、自ら腹を切りましょう」
「ちょっと、命は大切だからそんな事を言うのは駄目よ。
さて、私が責任を取れば良いのよね」
少年は弱者ではなくなっていた。
弱い方へ対象を移せたことにゴズは笑みを浮かべる。
「ええ、さあ自害して詫びなさい」
「罪に対して、罰が重すぎる気がするのだけど?
不慮の事故で、ただ濡れただけでしょう」
「言い訳とは見苦しい。
先程の責任とは、どういう意図なのか知りたいものです」
アリアが手を伸ばすと、水が集まり一瞬で濡れた服が乾く。
引力を操り、汚れを服から反発させた後に引き寄せたのである。
「これで元通りです。
何か問題があるのでしょうか?」
「何を言う、濡れたという記憶は消えてはいない!」
「なるほど、記憶を消せばよいと言うのですね」
アリアは魔法で作り出した黒いハンマーを手に持ち近づく。
そんな巨大なもので殴られたら命まで失いかねない。
ゴズは少年以上に狂った女だと恐怖に引きつる。
「何、待て待て、何をする……。
おい、やめろ!」
「記憶を少しー消すだけです」
「おい何をしている。
早く助けぬか!」
兵士達に呼びかけるが、動く様子がないどころか剣を捨てた。
「何故、剣を捨てた。
貴様達にどれだけ高額な報酬を支払っていると思っている」
巨大な影に気づきゴズは見上げると、赤竜がジーっと見ていた。
竜人のレモプティが化けているのだ。
「うわっ……」
「我の客人を襲うとは許せぬ」
ゴズは腰が抜けて尻もちを付き、必死に逃げようと手足を使って引きずるように下がる。
たった一言、正気を失い言葉を失うには十分だった。
「この土地は一度手放したのであろう。
ここを我の土地にするか、共同で保有するか領主との間で話をしている最中であった」
勿論、レモプティの思いつきで、そんな交渉など一度もしたことはない。
「……ひぃ……、助けて」
ひねり出せたのは、そんな誰でも言えるような情けない言葉だ。
戦意も目的すら忘れているのだろう。
「では、ここは我の領地とする。
それは貴様の失態が原因だと、正直に伝えよ。良いな?」
「はい……」
赤竜の爪の先から、放たれた光る蛇がゴズの首に巻き付く。
成約の法術であり、虚言を吐いた瞬間に首を噛みちぎり命を奪う。
伝言を伝えるのに多用されているものであり、一定内に達成すれば解除されるものだ。
当然だが、沈黙も虚言と同じとみなされて命を奪われ、生き残りたいなら正しい相手に伝えなければならない。
「その蛇の毒は、簡単に命を奪ってくれない。
数日間もの間、全身が痛み火に焼かれ続けるような痛みを与えるらしい」
伝言を伝えたとしても、死が待っている事は明らかだ。
ただ死に方を選べる。
「解りました。
必ず王子に伝えましょう」
死への覚悟が決まったのか、ゴズは立ち上がり。
兵をまとめて引き上げていく。
レモプティは人の姿になると、テラスタンを抱きしめた。
「時間稼ぎをしてくれてありがとう」
「直ぐに戻って来ると思って、でもアリア殿の助けがないと無理でした」
「お茶をぶっかけたのは見ていたわ」
「……なんで直ぐに助けてくれなかったんですか?」
「うーん。
英雄って遅れて登場したほうが格好良いでしょう?」
「いいえ、何時出てきても格好良いです」
「そうね。
本当は私が介入しないほうが良いと思ったからよ」
「確かに。
どうしよう……、竜人族と戦争になってしまう」
「それはないわ。
何故なら、王国は今は戦力増強をしたいはず。
こんな辺境は別に奪われても気にもとめないはず」
「本当かな?」
「何よ、その目は。
もしもの時は私がぶっ飛ばしてあげるから、大丈夫」
それが一番困るとは流石に言えない。
「でも風太に迷惑を掛けてしまった、うううぅぅぅっ」
「はぁー、なんで君は青楓じゃなくて、風太なの?」
青楓も大好きだが、色々と教えてくれる専属教師みたいな感じだ。
ちょっと厳しい面もあるけど優しい所も最高に良い。
「それは愛しているから。
ああ、あの慈悲深い手で撫でられるのは最高です」
「ペット扱いされているだけでしょう」
「例えそうであっても、
僕の愛は変わりません」
アリアは転んだらしく泥だらけになっていた。
「うーん。
私の活躍を取るなんてあんまりよ!」
「目を放すと、なんでそんな事になっているか解らないです。
僕の側から離れないでくださいね」
「子ども扱いして……もうっ」
風太一行は、王国北西の都市に来ていた。
伝統的な古い月鳥城にて、婚儀が行われるためだ。
格式高い場所で行うことで、自分の方が優れていると言うこと内外に知らしめようという魂胆なのだろう。
救出するアメジア姫も、この城に居ることは間違いない。
玉国に最も近い都市に居たわけだ。
一度訪れた街だが、情報は全く入らなかった。
幼すぎて姫だと街の人々には解らなかったのだろう。
何時来るのだろうかと、門の近くに野次馬が集まるぐらいだ。
情報収集を行っていたサラが風太とすれ違う際に言葉を発する。
「召喚施設の爆破事故は隠蔽されたようです」
グールも発生し混乱も起きたはずだが、この街ではで一切耳に入ることはない。
時計台の倒壊や、色んな事故も起きたというのに……。
それだけでは足りないのだろう。
「引き続き、調査を頼む」
「了解」
短い会話で二人は別々の場所へと向かう。
現状では姫の居場所が特定できてはない。
このまま城に潜入しても失敗するだろう。
そもそも姫の顔すらしないのに探しようがない。
着替えている所を狙って、侵入し連れ去るか?
それなら間違わずに済むが、ギリギリ過ぎて失敗したら手の打ちようがない。
とっておきの切り札を使う時だろう。
砦攻略前に運ばせておいた、怪獣の骨がある。
あれを目覚めさせれば、ここに向かって来る。
その混乱に乗じれば……。
ただそのタイミングが早すぎれば、別の場所に移動させられてることになる。
逆に遅すぎれば婚儀が終わってしまう。
「中々、難しいな。
この距離なら1日あれば到着する」
前世ではニュースに散々取り上げられ、移動速度は熟知している。
骨の怪獣の移動速度が生身と同じとは限らないが、大体は同じぐらいだろう。
いや、ゾンビやグールは少し遅いよな。
なら少し早いが起動して動かしたほうが良いか?
ぼんやり考えながら歩いていると、ビビッと衝撃が走る。
「何だ?」
最後に残ったメイドの魂が危険を知らせた。
『あの男……、私達を殺した……』
フードを被り、外套で身を包んでいる。
旅人の服装ではあるが、その体格はまさしく大男だった。
リアハを瀕死に追い込んだ、実力の持ち主。
無数の怨念が取り付き、どす黒い気を放つほどだ。
どれだけの人を殺めれば、それほどの怨念に取り憑かれるのだろうか。
「任せろ俺が仇をとる!」
風太の足が動かず、足元を見ると震えていた。
本能的にあの男に近づけば死ぬと肉体が拒否したのだろう。
『……見てくる。
そこで待って』
「ありがとう」
風太は深呼吸して、気持ちを落ち着かせた。
もし軽率に、攻撃していれば計画は破綻し救出はほぼ失敗に終わっただろう。
あの死者の本がどのような方法で離れた場所を見ていたのか解らない。
しかし、聞く方法だけは察する事ができた。
糸電話のように霊糸を人魂に繋いでおけば、音が聞こえるのである。
それを発見したのごく最近のことだ。
『コツコツ……』
足音が響いているのが聞こえる。
まだ歩いているのだろう。
道の真ん中でボーと立っているわけにもいかない。
ふと、新聞を配っている少年の姿が目に入る。
「どうぞ、無料です」
「ああ、ありがとう」
王国にも新聞があるんだ。
数枚の程度だが、時間を潰すには丁度いい。
近くの茶屋へ入り、新聞を読み始める。
いや読んでいるふりで、霊糸が繋がった指を耳に当て音を聞いている。
油断している合間に、話が始まっていたようで途中からのようだ。
『……うを果たしたいとは思わないか?』
相手の声は小さくて何を言っているのか解らない。
……まだ改良の余地があるようだ。
『疑うのも無理はない。
従っているのは家族を人質に取られていたからだ』
どういう言うことだ?
リアハからは、王子の側近だと聞いている。
そんな身近な者の家族を人質するのだろうか?
正直な所、その価値観は良く解らない。
無いとは言えないが、だからといってメイド達を皆殺しにしたことが許されるわけではない。
『このままでも、処刑は確定している。
もし暗殺に成功すれば、逃がしてやると約束する』
誰を暗殺しようとしているんだ?
また、命を奪おうというのか。
やはり、生かして置けない相手だ。
『婚儀を利用する計画をここに記してある』
視界情報があれば、何が記されていたのか解るのだが。
内容は解るか?と念を送ってみる。
糸電話と同じなら、メイドの魂にも伝わるだろう。
『城の内部……、姫は隔離塔に幽閉……』
メイドの声だ。
えっ?
つまり、暗殺相手は姫様ということなのか!
婚儀は明日の夜に行われる。
それまでに助け出さなくては、暗殺されてしまう。
「行くぞ!」
今なら先回りして救出出来るはずだ。
「お客さん、ちゃんと食べていってください」
店のおばちゃんが、不機嫌そうにお茶を置く。
「解った、簡単なものを一つ。
これはチップだ」
銀貨を1枚渡すと、おばちゃんは直ぐに持ってきてくれた。
「特製ホットドックです、焦らずゆっくり食べるんだよ」
ちょっと大きい気もしたけど……。
新聞に目を通しながら食べ始める。
ジューシーな肉汁がパンに染み込む。
結構行けるな。
婚儀のことが大々的に書かれていて目新しいものはない。
そんな中、小さな記事に目が留まる。
シャオーリ姫が帝国に亡命したことが書かれている。
民にも亡命を呼びかけたが、同意したのは百人に満たないとのこと。
「彼女が動いたのなら、俺も本気で行こうか」
一気にホットドックを口に押し込む。
金貨を指で弾き、おばちゃんに渡す。
「ちょっと待ちな。
お釣りを用意するから……」
「別にいい。
旨い物を食べさせてくれた礼、じゃあな」
風太は駆け出し、城を目指した。
同時に、骨の怪獣を目覚めさせる。
念を送れば動き出すはずだ。
故郷に戻りたい悪霊の集まり。
ただ帰りたい思いだけが足を運ばせる。
君達が帰りたかった場所はここにある!
その念と共に目覚めのだった。
花が咲き乱れる、死者の安らぎの場に巨大な怪獣の骨が集まり立ち上がった。
邪竜の屍を吸収し完全な形へと成長した姿で歩き始める。
風太が城に到達した頃には、騒ぎが起き始めていた。
「ボーンドレイクが、この街を目指しているらしいぞ」
城の警備にも混乱が見られるようだ。
城に並んで立つ塔が見える。
その塔に入るには、城の最上階から繋がっている橋を渡るしか無い。
そんな場所に姫は閉じ込められている。
伝達手段が乏しいのに、意外と早く気づいたんだな。
何でだろう。
遠く離れているにも関わらず城の見張り台からでも、その巨体が見える。
もし生きた竜だったら、警鐘が鳴り響き大混乱が起きていただろう。
それが骨だった事が、脅威して良いのか判断を狂わせていた。
堀に水が張られ、城に近づくには橋を渡るしか無い。
一瞬だが警備が不在になり、橋に誰も居なくなる。
風太は、その隙を逃さず一気に駆け抜ける。
歩いているメイドが目に入る。
メイドの耳には月のイヤリングが付いている。
付いて行けば良いのだろうか。
風太は気づかれないように気配を消してそっと後ろを歩く。
古い城だということもあり、それほど防御施設がなく直ぐに城の裏口へとたどり着く。
メイドが入った扉を開き、中に入ろうとした時だ。
真っ暗で何も見えない。
魔法だと気づいた時だ。
手が伸び首元を捕まれ引き込まれた。
「貴方は失敗したわ。
だから大人しくしなさい」
「ユークア……」
唇に柔らかい感触、彼女の唇……。
舌が入ってくる。
暗闇の中、甘い声で囁く彼女。
「ずっと我慢していた」
「君は王子の為に……」
彼女の抱きしめる手に力が入る。
「あんな男の為なんかにもう力は使いたくはない」
「それなら一緒に行くか?」
ユークアは黙った。
本当なら即答でハイと言いたい。
その二言を言ったら、全てが狂う。
自ら破滅の道へと突き進むことになる。
「いいえ。
忘れて、私としたことが……」
「今から救出に向かう、良いよな?」
「認識を弱める法術を掛けました。
視界に入っても動かなければ気づかれないでしょう」
「助かる」
「でも過信はしないように。
月の後を追い続ければきっとたどり着ける」
正しいのか解らない時程、不安にかられることはない。
正解だと言ってくれることがどれだけ心の支えになるか。
聖女としての役目を果たしつつ、協力してくれる事に感謝しつつも怖さを感じていた。
全て彼女の手の平で踊らされているとしたら。
最終的に待つのは、風太自身の破滅だろう。
「ああ、君を信じている」
暗闇が消えた時、彼女の姿は無くなっていた。
調理場らしく、慌ただしく準備する料理人の姿が見える。
トントントン……と、野菜を切ったりと下準備しているようだ。
既に到着した貴族や王族がいる。
その食事に問題があれば一族の首が飛ぶ。
そんなピリピリとして緊張感が漂う。
メイドの一人に目印が付いている。
月のイヤリング。
風太が彼女の後を追っても、料理人達は気づく気配もない。
メイドの持つ籠には丸めた布巾が入っている。
(ああ、テーブルを拭くのか。
だとしたら客間へ行く筈……)
最初に住んでいた場所を思い出す。
客間は2階が殆どだ。
予想した通り、階段を上がり2階の客間へと入っていく。
ついて行って中に入るのは流石に無意味だと、外で待っていると眼の前を兵士が数人通り過ぎる。
目と鼻の先だと言うのに、全然気づく様子がない。
別のメイドが隣の部屋から出てくる。
目印がある。
風太は、そっと後ろを付いて行く。
もし背後に誰か居れば、丸見えになっていただろう。
こういう隠れながら進むゲームの体験が風太の感を冴え渡らせていた。
誰か来そうな予感がすれば直ぐに動きを止める。
未来が見えているかのような動きだ。
何人ものメイドを乗り換え、目的の橋の前に来ていた。
外に出る為に扉のノブを回す。
ガチガチ……。
「鍵か……」
側に台があるだけで鍵は見当たらない。
ふと外を見ると、巨大な骨の怪獣が迫っているのが見えた。
夕日が大地が燃えているようでとっても映える。
骨の怪獣が火を拭くわけでも無く、ただ歩くだけなのに。
小さな爆発が起きているようで、足止めしようと攻撃を加えているのだろう。
あの程度で止まるわけもないだろう。
コツコツ……。
誰かが階段を上がってくる音だ。
音がなる靴を履くのは、兵士に認知してもらうためである。
メイドだが、目印は付けていない。
関係のないメイドか?
風太は息を潜め様子を見る。
メイドは台に食事を乗せた盆を置く。
鍵の束から太陽飾りの鍵を手に取ると扉を開いた。
そこまでは何の不自然さもなかった。
身につけていたロケットペンダントを開き、小瓶を取り出すとスープに数滴垂らした。
間違いない暗殺者だ。
風太は咄嗟に彼女に赤黒い霊糸を放ち束縛を掛けた。
「さて、これがどんな物か試そうか」
「何者……、どうして体が動かない」
小瓶を取り上げると、彼女の口を無理やり開き数滴垂らす。
暗殺に使うものだ。
きっと直ぐに効果を発揮して命が尽きるのだろう。
その予想は外れ、メイドは眠っただけだった。
「睡眠薬か。
眠らせてから殺すつもりだったのか?」
具体的な暗殺計画は解らずじまいだ。
メイドの服を剥ぎ取ったが、特に不自然なものはない。
下着姿で転がっている彼女には悪いことをしたと罪悪感すらある。
隅に移動させ、転がしておく。
橋を渡る時は、外から丸見えだ。
変装したほうが良いだろう、丁度彼女のメイド服がある。
着替えて見るとサイズが小さくて背中のチャックが閉じられない。
「ここはエプロンがあるから……、痛たた、これ破れないか?」
スカートもキツキツで閉じられずベルトでなんとか誤魔化している状態だ。
側から見たら、明らかにサイズが違うと解る。
食事を運ぶメイドに扮して風太は橋を渡る。
凄まじい風にスカートがはためく。
飛んでいったら困る。
ちょっと待ってくれ、すごく恥ずかしいんだが。
風が収まると一気に橋を渡る。
塔の扉も鍵が掛かっていて開かない。
この鍵束から、見つけるのか?
結構重く大量にあるのに……。
また風拭き始める。
勘弁してくれ。
どれだ?
さっきは太陽だった、月のイヤリングにも意味があったとしたら。
あった月の飾りが付いた鍵。
カチャッと一発で開き、中へと入る。
幼い少女が分厚い本を持ち読書している姿があった。
えっ……、想像以上に幼く見える。
風太に気づくと驚いた様子で立ち上がった。
「貴方は何者ですか?」
「俺は風太、君を姉のもとに連れて帰るために来た」
「婚約は議会によって決定した事です。
それを反故にすれば、両国の亀裂を生むことになり国益を損ないます」
見た目とは違い、凛々しい言葉に風太は驚いた。
既に彼女は覚悟を決めているのだろう。
このまま連れ去れば、彼女の意思を無視することになり姉妹の関係にもヒビが入るだろう。
「君を暗殺しようと動いている者達もいる。
このままだと君は死ぬことになるかも知れない」
「仮にそうだとしても、私は役目を全うするだけです。
民が幸せになれば本望」
あの狂人の姉シャオーリと違って、欲しいと思える気持ちも解らなくはない。
王子が妹のアメジアを選んだのは、性格を見抜いていたからでは?
さてどうしたものだろうか。
このまま手ぶらで帰ると、呪で死に至るだろう。
かといって覚悟を決めている彼女を無理矢理に連れ去るのも違う気がする。
あー、どうすれば良いんだ。
「少し考えたい。
後着替えたいから後ろを向いていてくれないか?」
「いいえ、着替えたいなら私の前でどうぞ」
「恥ずかしい」
「何をするのか見ておかないと不安です。
私を騙して連れ去るかも知れない」
その言い分は解るが……。
ジロジロ見られるのは流石に恥ずかしい。
でもキツキツなのはもう限界で早く脱ぎたい。
もうメイドとかに見られている。
恥ずかしがる必要はない。
風太が脱ぎ始めると、ペタッと手の感触。
彼女がお腹を触っていた。
「えっ……」
「やはり呪術を掛けられているのですね。
私を連れて戻らなければ貴方は死ぬのでしょう?」
「正解。
従わされたというよりも、俺の意思で連れ帰ろうと思っている」
「勝算があってここに来たのでしょう?
私の考えを改めるなにか、それを聞きたいわ」
王子によって嫌々婚儀をさせられていると考えていた。
だから助けるといえば、直ぐに乗ってくる。
そんな甘い考えだ。
策など何も考えてはいない。
「俺は君も欲しい。
だから来てくれ」
「アハハ……。
見ず知らずの男を選ぶと本当に思っているとしたら驚きです」
「俺は異界人で、あの炎の魔将を打ち取り王国を救った実績もある。
風太という名を聞いたことはないのか?」
「それは素敵で魅力的。
姉様が惚れて送り込んでくることはあるわ」
「……冗談。
俺は君に逢えただけでも良かった。
覚悟を決めているなら連れて帰る気はない」
「待ちなさい。
婚儀は3日後、まだじっくりと話をする時間はあるわ」
「明日の夜の予定だと、招待状に書いてあった」
時間のズレにアメジアは暗い顔をする。
伝えられた事実が違うということは、何かしらの思惑があるということ。
「王子に会って真相を確かめます。
連れて行っていってください」
バーン、ドドドド……!
爆発音と共に、花火が夜空に咲き乱れる。
二人共に、窓へと近づき外を見た。
庭に沢山の人々が集まっている。
そして、衝撃的だったのが、王子の隣にウエディングドレスを着た女が居たことだ。
風太は咄嗟に隣に立つ、アメジアの横顔を見る。
彼女が偽物で、王子に隣に立っているのが本物だとしたら、聖女に騙られたことになる。
どっちが本物か判別する方法はない。
もし偽物だとしたら、危機に瀕しているのは風太自身だ。
早く逃げ出さないと捕らえられて終わる。
「私は思い違いをしていました。
王子の事を信じ両国の併合が皆の幸せになるのだと……。
これは完全な裏切り行為」
アメジアはその場で崩れ涙を零す。
そんな彼女が偽物な筈はない。
もし演技だとしたら……、誰も信じられなくなる。
風太は彼女にそっと手を差し伸べる。
「俺と来てくれ」
「……まだ、王子に真相を聞かなくては。
私が見落としているかも知れない」
悲鳴、絶叫が響く、それは二人の耳に届くほど大きかった。
偽の姫が剣を振り回し、王子に切りかかったである。
風太は理解した。
あの暗殺計画は姫ではなく、王子を殺すための。
違う。
そんな単純なものではない。
リアハの剣は王子に届かなかったのである。
暗殺は失敗する。
風太の予測通り、暗殺は失敗し偽の姫は逃げ出す。
王子は手を少し怪我した程度だった。
「今直ぐ逃げよう。
君は暗殺者として処刑される」
「それで民が救われるなら、私は命を差し出しましょう」
「何を勘違いしているんだ。
君の命なんて、あいつには関係ない」
召喚に必要な生贄を欲していた。
その計画を聖女と共に妨害し、被害を抑えた。
それは王国の民の命を救うことだけであり、玉国の民は無関係であった。
犠牲のすり替え……。
「逃げれば、罪を認めたことになります。
無実を訴え民の命を保証してもらう責務があります」
「無駄だ。
初めから生贄が必要だった。
その代わりを君は用意できない」
「ですから、私の命で」
「必要なのは量で、質じゃない。
転生術を使って解ったんだが、大人5人ぐらいで子ども一人しか転生できない」
そう彼女一人では、一人も転生できないのだ。
「それなら犠牲を最小限に抑えて貰うように懇願します」
「いや、転生術には重大な欠陥がある。
相手を選べない、もし怪獣をこの地に転生させれば世界が滅ぶ」
アメジアには怪獣が何か理解できなかった。
「それは美女を与えれば……」
「魔王以上の化け物だと思って欲しい。
人間を食らいつくす、俺なんか一瞬で殺される」
「そんな化け物がいるですか?」
「ああ、転生術は止めなくてはならない。
君に王子を止められるか?」
王子の目的は、強力な力を持つ異界人を飼いならすことだ。
世界を滅ぼす化け物を呼び出すことではない。
人は一度の成功を忘れらない。
それが人生を変える程の体験だったら、虜となってもう一度を狙いに行く。
もう外れしか無いとは知らずに、当たりを求めてクジを引き続けるようなものだ。
「いいえ。
では貴方はどうなのですか?」
「考えるのは姫様……シャオーリの役目。
彼女が何か考えると信じて行動するだけだ」
「駒が考えたりしませんものね。
どう転んでも救えないのであれば、姉を信じてみるのも悪くはありません」
「じゃあ来てくれるか?」
「はい。
ですがどうやって逃げ出すつもりです」
姫を連れていたら、今は暗殺者として殺されてしまう。
それは避けたい。
「変装するのはどうだろうか?」
アメジアは、メイド服を手に取り確認する。
「これは破れています。
それにチャックが壊れて上がりません」
無理矢理に着たせいでサイズがやや大きくなり、よりブカブカになったようだ。
ふと、ある姫クリオパトラが絨毯に身を包んで、男に会いに行くと言う話があった。
それで誰にも怪しまれずに密会出来たらしいが……。
「絨毯で包んで、俺が下まで運ぶのはどうだ?」
「そんな怪しい人が居たら、直ぐに捕まってしまうでしょう。
それに貴方の手が塞がって、より逃げにくいとは考えないのですか?」
「それは問題ない。
君が見つかって狙われたら終わりだ」
「……確かに姉様よりも軽いですが。
絨毯の重さも加わるということも考えて下さい」
「助かる可能性が少しでもあると思えば乗ってくれ。
このままだと命が絶たれる」
「では何も言いません。
貴方の思う通りにしましょう」
アメジアは絨毯に転がり体に巻き付けた。
それを担ぎ上げると風太は外へと出る。
もう見つかっても構わない。
一気に橋を渡り、階段を掛け降りる。
直ぐに兵士と対面し、風太は咄嗟に壁に立てかけてあった箒を手に取る。
棒の先に枯れ枝を紐で束ねただけの簡単な造りだ。
そんなもので、兵士の持つ刃渡り80センチの剣を相手にしなくてはならない。
兵士が剣を握った時には、既に鋭い付きが兵士の喉を直撃していた。
「なっ……」
声が封じられ、剣を抜き放つと同時に顎を突き上げる一撃が決まって宙を舞う。
兵士が床に倒れ、金属が叩きつけられる音が響く。
軽装とは言っても胸を守るプレートの下に鎖帷子を着込んでいる。
そんな兵士を容易く撃退出来るほどに、風太は強くなっていた。
身体強化の術の副作用でもある。
肉体にかなりの負担が掛かり本来なら耐えきれず筋肉の断裂によって使い物にならなくなる。
だが成長が著しい異界人の特製が組み合わさり、見た目以上に強靭な肉体へ変貌していたのである。
何も知らず身体強化を使い続け、超人に匹敵するほどだ。
「結構響いたな」
箒の紐を斬り、棒だけにする。
剣の方が良さそうに見えるが、無意味に殺す気が無かったからだ。
それに使い慣れているからでもある。
風太はドアや飾ってある花瓶など、あるものを利用しつつ遭遇した兵士を蹴散らし降りていく。
滑稽にも兵士はあたふたして何も出来ずに、混乱したまま棒の一撃で気を失う。
花瓶なんか、受け取らずに無視すればいいのに……。
ドアが開くとは思わずぶつかるのか。
あらら……、痛がっている余裕もないのに。
下へ行けば行くほど兵士が増えていく。
2階まで降りた時には、兵士で通路が埋め尽くされて居た。
あまりに多すぎて兵士も身動きが取れないほどだ。
「うわっ、通れる気がしない……」
3階に戻って、テラスに出ると物干し竿に気づく。
風太はそれを掴み、軽く前にジヤンプして滑るように降りる。
手が摩擦で熱くなってくる。
「アチチ……」
一気に外に出れた。
「うああぁぁっ!」
後を追って飛びかかった兵士が哀れにも地面に激突して倒れている。
「……速度を落とさないから、そうなるんだ」
丁度、馬に乗ったサラが、風太の前にやってくる。
もう一頭も一緒だ。
「さあ今のうちに脱出しましょう」
「待ってくれて馬に乗るのは初めてなんだ」
「横から乗って下さい。
絶対に後ろは危険ですので近づかないように」
「解った」
風太が馬に近づくと、乗りやすいようにしゃがんでくれた。
よく調教された馬なのだろう。
それが安心感に繋がり、風太は馬に乗った。
手綱はサラが持ったまま、2頭とも操作して一気に駆け出す。
早く絨毯から姫を出してあげたいけど、馬の上では出来ない。
「大丈夫か?」
「はい……」
と小さな返事があった。
一気に街を駆け抜け南門へ到達する。
夜は閉じられているのが常識だ。
「突破します」
サラは手を門へと向けた。
「対策が施されていないのか?」
「外から攻撃には強いですが、内からは脆いものです。
大地の精霊よ、我に力を! ストーンボルト!」
石の塊が門の中央に掛けられた丸太……いや閂を貫き砕いた。
衝撃で扉がギギッと音を立て隙間が開く。
だが馬が通るには狭い。
「もしもの時は頼む」
風太は意を決し、魔法を使う。
「天空を支配する黄金の鱗に包まれし緑眼の暴君……。
空の裂け目より目覚めよ。 エアボルト!」
キューンと音が響いたと思うと、扉が木っ端微塵に吹き飛んでいた。
加減を間違えたか?
だとしたら……、強烈な痛みが……。
んん? 来ない。
「何でだろう、不思議だな?」
「扉を閉ざすことで、兵力は全部北東へ集結しています。
なので門番すら居なかったわけです」
いや、そんな事はどうでもいいんだけど……。
「そうなんだ。
で何処に行くつもりだ?」
「一度、領地へ戻りましょう」
「……北に行かないと、俺の命が尽きるんだが」
「陸路より空路の方が早いです」
「レモプティに頼むのか。
それなら行けそうだな」
風太は完全に忘れているが、骨の怪獣が街の直ぐ近くに迫っていた。
そろそろ払って頂かないと困るんですよ」
小太りの役人風の男ゴズだ。
領地を魔族に占領されていたいた間の税は免除されている。
しかし大金を隠し持っていたからとその期間の税を納めろと言っているのだ。
風太が不在の時を狙ったかのように現れ、回収の為にぞろぞろと兵士を引き連れていた。
猫耳の少年テラスタンは、怯えて声も出せずにいた。
男達にボコボコに殴られた挙げ句に、片方の猫耳を切り取られたのである。
その時の光景が浮かび、足がすくんで立っているのがやっとだった。
僕がアリアを守らないと。
愛する風太の為に頑張って止めないと、見捨てられてしまう。
「それは嫌だ」
小さな声だった。
ゴズは、少年の頭を手を置く。
「よく聞き取れなかった。
もう一度言ってくれないか?」
「出直して欲しい。
領主フータは、結婚式に招待されて不在です」
「我々も仕事なんでね。
手ぶらで帰るわけには行かない」
「貴方が本物の役人なら、公式な書類を見せて下さい」
「獣となっても貴族と言うことか。
まあ良いでしょう、これがご希望の書類です」
書かれている内容は一見すると正式なものに見えるが、細部が異なっていた。
特に王家の刻印が不自然なぐらい薄く、乱れていた。
誰が見ても偽物だと解るものを提示する意味はなんだろう?
テラスタンはハッとなる。
偽物に見えるように偽装し、これを廃棄すれば反旗を翻したと攻め入るつもりなのだろう。
法術を解除するすべは持っておらず、下手なことをすれば彼らの思う壺だ。
「なんて卑劣な」
本来の文面が分からないことには対処は不可能だ。
ただ解っているのは、見えている文章が偽物だということだけ。
風太が居れば簡単に解決できたのだろうか?
竜人すら従えてきた。
この程度、造作もなく解決しただろう。
悔しいとテラスタンは体が震えた。
「勘は良いようだが、残念だったな。
では、滞納した分を払って頂きましょうか?」
そんな所にアリアがお茶を運んでくる。
テラスタンは顔が真っ青になり、絶望的な結末を予期した。
足をつまずき、転ぶとと盆に乗ったお茶がゴズのデブ顔に直撃したのである。
バタン
「イタタタ……、あらごめんなさい」
「巫山戯よって、わざとやったのであろう。
この無礼な小娘を処罰せよ!」
兵士達が一斉に剣を抜く。
「彼女は、本当にドジで間抜けなだけです。
どうかお許しください」
テラスタンに出来ることは、頭を深々と下げることだけだ。
「私に剣を向けるという事は、覚悟していますの?」
もう黙って欲しい。
余計なことをするから話がややこしくくなって、悪い方向へと転がっていくんだ。
耐えて我慢すれば助かるのに……。
そんな心の声を見越したのかアリアは、テラスタンの頭を撫でる。
「彼の言葉を思い出しなさい。
弱者の戦略……」
「はい、僕は弱い……」
いくら強者でも全てが万能に強いものは稀だ。
何かしらの欠点、弱みがある。
そこを見つけ出し、自分に有利に進めるかが大切だと。
「楯突くと、王家への反逆とみなし皆殺しになると理解しているのかね。
小娘一人の為に領民まで巻き込むのは愚かだと、理解したほうが良い」
「確かにそうですね。
彼女が領主が雇っていたメイドならば、処罰を受け入れたほうが良い。
ですが、彼女は竜人の客人です」
「ははは……。
竜人だと、またそんな嘘を」
「町の住人から聞かなかったのでしょうか?
角の生えた美女が居ると」
田畑を耕し、区画整理までした竜人の事は噂になっている筈だ。
特に隠すわけでもなく、大きく協力しているのは明らかである。
「だが無礼を働いたのは小娘なのは間違いない事実。
詫びるのが筋であろう」
「しかし、客人を保護するのは騎士としての努めです。
僕が代わりに、罰を受けましょう」
テラスタンは覚悟を決めて、彼の前で正座する。
そして目を合わせた。
青楓の言葉を思い出す。
覚悟を決めたのなら相手の目をよく見なさいと。
それまでは恐怖から顔をそらし相手と向き合うことが出来ずにいた。
その変化にゴズも気づく。
覚悟を感じ、信念に満ちている男の目だ。
今まで弱者で甚振られるだけの存在が、どうして歯向かうのかと。
殴りつけようと拳を上げた。
だが目を閉じることもない。
何故怯えない!
「貴様!」
振り下ろす拳にも、動揺すること無く目が合ったまま。
当たる紙一重、ゴズは手を止めた。
「殴らないのですか?」
「危ういところでした。
貴方を殴ったとしても屈辱は晴れることはない。
やはり本人を処罰しなくては気が収まらない」
もし殴っていたら、それで事は収まってしまう。
それで気を失えば取り立てを強行することは出来なくなる。
もしそれを行えば盗賊と同じとみなされ、立場が危うくなる。
領主代理人としての努めを果たして貰わなくてはならない。
そう言い訳をすることで、眼力に気圧され臆したことを無かったことにしたのである。
獣が対峙した時、敗北を感じた時に目を逸らす。
ゴズも無意識に少年から目線をそらしていた。
「では、自ら腹を切りましょう」
「ちょっと、命は大切だからそんな事を言うのは駄目よ。
さて、私が責任を取れば良いのよね」
少年は弱者ではなくなっていた。
弱い方へ対象を移せたことにゴズは笑みを浮かべる。
「ええ、さあ自害して詫びなさい」
「罪に対して、罰が重すぎる気がするのだけど?
不慮の事故で、ただ濡れただけでしょう」
「言い訳とは見苦しい。
先程の責任とは、どういう意図なのか知りたいものです」
アリアが手を伸ばすと、水が集まり一瞬で濡れた服が乾く。
引力を操り、汚れを服から反発させた後に引き寄せたのである。
「これで元通りです。
何か問題があるのでしょうか?」
「何を言う、濡れたという記憶は消えてはいない!」
「なるほど、記憶を消せばよいと言うのですね」
アリアは魔法で作り出した黒いハンマーを手に持ち近づく。
そんな巨大なもので殴られたら命まで失いかねない。
ゴズは少年以上に狂った女だと恐怖に引きつる。
「何、待て待て、何をする……。
おい、やめろ!」
「記憶を少しー消すだけです」
「おい何をしている。
早く助けぬか!」
兵士達に呼びかけるが、動く様子がないどころか剣を捨てた。
「何故、剣を捨てた。
貴様達にどれだけ高額な報酬を支払っていると思っている」
巨大な影に気づきゴズは見上げると、赤竜がジーっと見ていた。
竜人のレモプティが化けているのだ。
「うわっ……」
「我の客人を襲うとは許せぬ」
ゴズは腰が抜けて尻もちを付き、必死に逃げようと手足を使って引きずるように下がる。
たった一言、正気を失い言葉を失うには十分だった。
「この土地は一度手放したのであろう。
ここを我の土地にするか、共同で保有するか領主との間で話をしている最中であった」
勿論、レモプティの思いつきで、そんな交渉など一度もしたことはない。
「……ひぃ……、助けて」
ひねり出せたのは、そんな誰でも言えるような情けない言葉だ。
戦意も目的すら忘れているのだろう。
「では、ここは我の領地とする。
それは貴様の失態が原因だと、正直に伝えよ。良いな?」
「はい……」
赤竜の爪の先から、放たれた光る蛇がゴズの首に巻き付く。
成約の法術であり、虚言を吐いた瞬間に首を噛みちぎり命を奪う。
伝言を伝えるのに多用されているものであり、一定内に達成すれば解除されるものだ。
当然だが、沈黙も虚言と同じとみなされて命を奪われ、生き残りたいなら正しい相手に伝えなければならない。
「その蛇の毒は、簡単に命を奪ってくれない。
数日間もの間、全身が痛み火に焼かれ続けるような痛みを与えるらしい」
伝言を伝えたとしても、死が待っている事は明らかだ。
ただ死に方を選べる。
「解りました。
必ず王子に伝えましょう」
死への覚悟が決まったのか、ゴズは立ち上がり。
兵をまとめて引き上げていく。
レモプティは人の姿になると、テラスタンを抱きしめた。
「時間稼ぎをしてくれてありがとう」
「直ぐに戻って来ると思って、でもアリア殿の助けがないと無理でした」
「お茶をぶっかけたのは見ていたわ」
「……なんで直ぐに助けてくれなかったんですか?」
「うーん。
英雄って遅れて登場したほうが格好良いでしょう?」
「いいえ、何時出てきても格好良いです」
「そうね。
本当は私が介入しないほうが良いと思ったからよ」
「確かに。
どうしよう……、竜人族と戦争になってしまう」
「それはないわ。
何故なら、王国は今は戦力増強をしたいはず。
こんな辺境は別に奪われても気にもとめないはず」
「本当かな?」
「何よ、その目は。
もしもの時は私がぶっ飛ばしてあげるから、大丈夫」
それが一番困るとは流石に言えない。
「でも風太に迷惑を掛けてしまった、うううぅぅぅっ」
「はぁー、なんで君は青楓じゃなくて、風太なの?」
青楓も大好きだが、色々と教えてくれる専属教師みたいな感じだ。
ちょっと厳しい面もあるけど優しい所も最高に良い。
「それは愛しているから。
ああ、あの慈悲深い手で撫でられるのは最高です」
「ペット扱いされているだけでしょう」
「例えそうであっても、
僕の愛は変わりません」
アリアは転んだらしく泥だらけになっていた。
「うーん。
私の活躍を取るなんてあんまりよ!」
「目を放すと、なんでそんな事になっているか解らないです。
僕の側から離れないでくださいね」
「子ども扱いして……もうっ」
風太一行は、王国北西の都市に来ていた。
伝統的な古い月鳥城にて、婚儀が行われるためだ。
格式高い場所で行うことで、自分の方が優れていると言うこと内外に知らしめようという魂胆なのだろう。
救出するアメジア姫も、この城に居ることは間違いない。
玉国に最も近い都市に居たわけだ。
一度訪れた街だが、情報は全く入らなかった。
幼すぎて姫だと街の人々には解らなかったのだろう。
何時来るのだろうかと、門の近くに野次馬が集まるぐらいだ。
情報収集を行っていたサラが風太とすれ違う際に言葉を発する。
「召喚施設の爆破事故は隠蔽されたようです」
グールも発生し混乱も起きたはずだが、この街ではで一切耳に入ることはない。
時計台の倒壊や、色んな事故も起きたというのに……。
それだけでは足りないのだろう。
「引き続き、調査を頼む」
「了解」
短い会話で二人は別々の場所へと向かう。
現状では姫の居場所が特定できてはない。
このまま城に潜入しても失敗するだろう。
そもそも姫の顔すらしないのに探しようがない。
着替えている所を狙って、侵入し連れ去るか?
それなら間違わずに済むが、ギリギリ過ぎて失敗したら手の打ちようがない。
とっておきの切り札を使う時だろう。
砦攻略前に運ばせておいた、怪獣の骨がある。
あれを目覚めさせれば、ここに向かって来る。
その混乱に乗じれば……。
ただそのタイミングが早すぎれば、別の場所に移動させられてることになる。
逆に遅すぎれば婚儀が終わってしまう。
「中々、難しいな。
この距離なら1日あれば到着する」
前世ではニュースに散々取り上げられ、移動速度は熟知している。
骨の怪獣の移動速度が生身と同じとは限らないが、大体は同じぐらいだろう。
いや、ゾンビやグールは少し遅いよな。
なら少し早いが起動して動かしたほうが良いか?
ぼんやり考えながら歩いていると、ビビッと衝撃が走る。
「何だ?」
最後に残ったメイドの魂が危険を知らせた。
『あの男……、私達を殺した……』
フードを被り、外套で身を包んでいる。
旅人の服装ではあるが、その体格はまさしく大男だった。
リアハを瀕死に追い込んだ、実力の持ち主。
無数の怨念が取り付き、どす黒い気を放つほどだ。
どれだけの人を殺めれば、それほどの怨念に取り憑かれるのだろうか。
「任せろ俺が仇をとる!」
風太の足が動かず、足元を見ると震えていた。
本能的にあの男に近づけば死ぬと肉体が拒否したのだろう。
『……見てくる。
そこで待って』
「ありがとう」
風太は深呼吸して、気持ちを落ち着かせた。
もし軽率に、攻撃していれば計画は破綻し救出はほぼ失敗に終わっただろう。
あの死者の本がどのような方法で離れた場所を見ていたのか解らない。
しかし、聞く方法だけは察する事ができた。
糸電話のように霊糸を人魂に繋いでおけば、音が聞こえるのである。
それを発見したのごく最近のことだ。
『コツコツ……』
足音が響いているのが聞こえる。
まだ歩いているのだろう。
道の真ん中でボーと立っているわけにもいかない。
ふと、新聞を配っている少年の姿が目に入る。
「どうぞ、無料です」
「ああ、ありがとう」
王国にも新聞があるんだ。
数枚の程度だが、時間を潰すには丁度いい。
近くの茶屋へ入り、新聞を読み始める。
いや読んでいるふりで、霊糸が繋がった指を耳に当て音を聞いている。
油断している合間に、話が始まっていたようで途中からのようだ。
『……うを果たしたいとは思わないか?』
相手の声は小さくて何を言っているのか解らない。
……まだ改良の余地があるようだ。
『疑うのも無理はない。
従っているのは家族を人質に取られていたからだ』
どういう言うことだ?
リアハからは、王子の側近だと聞いている。
そんな身近な者の家族を人質するのだろうか?
正直な所、その価値観は良く解らない。
無いとは言えないが、だからといってメイド達を皆殺しにしたことが許されるわけではない。
『このままでも、処刑は確定している。
もし暗殺に成功すれば、逃がしてやると約束する』
誰を暗殺しようとしているんだ?
また、命を奪おうというのか。
やはり、生かして置けない相手だ。
『婚儀を利用する計画をここに記してある』
視界情報があれば、何が記されていたのか解るのだが。
内容は解るか?と念を送ってみる。
糸電話と同じなら、メイドの魂にも伝わるだろう。
『城の内部……、姫は隔離塔に幽閉……』
メイドの声だ。
えっ?
つまり、暗殺相手は姫様ということなのか!
婚儀は明日の夜に行われる。
それまでに助け出さなくては、暗殺されてしまう。
「行くぞ!」
今なら先回りして救出出来るはずだ。
「お客さん、ちゃんと食べていってください」
店のおばちゃんが、不機嫌そうにお茶を置く。
「解った、簡単なものを一つ。
これはチップだ」
銀貨を1枚渡すと、おばちゃんは直ぐに持ってきてくれた。
「特製ホットドックです、焦らずゆっくり食べるんだよ」
ちょっと大きい気もしたけど……。
新聞に目を通しながら食べ始める。
ジューシーな肉汁がパンに染み込む。
結構行けるな。
婚儀のことが大々的に書かれていて目新しいものはない。
そんな中、小さな記事に目が留まる。
シャオーリ姫が帝国に亡命したことが書かれている。
民にも亡命を呼びかけたが、同意したのは百人に満たないとのこと。
「彼女が動いたのなら、俺も本気で行こうか」
一気にホットドックを口に押し込む。
金貨を指で弾き、おばちゃんに渡す。
「ちょっと待ちな。
お釣りを用意するから……」
「別にいい。
旨い物を食べさせてくれた礼、じゃあな」
風太は駆け出し、城を目指した。
同時に、骨の怪獣を目覚めさせる。
念を送れば動き出すはずだ。
故郷に戻りたい悪霊の集まり。
ただ帰りたい思いだけが足を運ばせる。
君達が帰りたかった場所はここにある!
その念と共に目覚めのだった。
花が咲き乱れる、死者の安らぎの場に巨大な怪獣の骨が集まり立ち上がった。
邪竜の屍を吸収し完全な形へと成長した姿で歩き始める。
風太が城に到達した頃には、騒ぎが起き始めていた。
「ボーンドレイクが、この街を目指しているらしいぞ」
城の警備にも混乱が見られるようだ。
城に並んで立つ塔が見える。
その塔に入るには、城の最上階から繋がっている橋を渡るしか無い。
そんな場所に姫は閉じ込められている。
伝達手段が乏しいのに、意外と早く気づいたんだな。
何でだろう。
遠く離れているにも関わらず城の見張り台からでも、その巨体が見える。
もし生きた竜だったら、警鐘が鳴り響き大混乱が起きていただろう。
それが骨だった事が、脅威して良いのか判断を狂わせていた。
堀に水が張られ、城に近づくには橋を渡るしか無い。
一瞬だが警備が不在になり、橋に誰も居なくなる。
風太は、その隙を逃さず一気に駆け抜ける。
歩いているメイドが目に入る。
メイドの耳には月のイヤリングが付いている。
付いて行けば良いのだろうか。
風太は気づかれないように気配を消してそっと後ろを歩く。
古い城だということもあり、それほど防御施設がなく直ぐに城の裏口へとたどり着く。
メイドが入った扉を開き、中に入ろうとした時だ。
真っ暗で何も見えない。
魔法だと気づいた時だ。
手が伸び首元を捕まれ引き込まれた。
「貴方は失敗したわ。
だから大人しくしなさい」
「ユークア……」
唇に柔らかい感触、彼女の唇……。
舌が入ってくる。
暗闇の中、甘い声で囁く彼女。
「ずっと我慢していた」
「君は王子の為に……」
彼女の抱きしめる手に力が入る。
「あんな男の為なんかにもう力は使いたくはない」
「それなら一緒に行くか?」
ユークアは黙った。
本当なら即答でハイと言いたい。
その二言を言ったら、全てが狂う。
自ら破滅の道へと突き進むことになる。
「いいえ。
忘れて、私としたことが……」
「今から救出に向かう、良いよな?」
「認識を弱める法術を掛けました。
視界に入っても動かなければ気づかれないでしょう」
「助かる」
「でも過信はしないように。
月の後を追い続ければきっとたどり着ける」
正しいのか解らない時程、不安にかられることはない。
正解だと言ってくれることがどれだけ心の支えになるか。
聖女としての役目を果たしつつ、協力してくれる事に感謝しつつも怖さを感じていた。
全て彼女の手の平で踊らされているとしたら。
最終的に待つのは、風太自身の破滅だろう。
「ああ、君を信じている」
暗闇が消えた時、彼女の姿は無くなっていた。
調理場らしく、慌ただしく準備する料理人の姿が見える。
トントントン……と、野菜を切ったりと下準備しているようだ。
既に到着した貴族や王族がいる。
その食事に問題があれば一族の首が飛ぶ。
そんなピリピリとして緊張感が漂う。
メイドの一人に目印が付いている。
月のイヤリング。
風太が彼女の後を追っても、料理人達は気づく気配もない。
メイドの持つ籠には丸めた布巾が入っている。
(ああ、テーブルを拭くのか。
だとしたら客間へ行く筈……)
最初に住んでいた場所を思い出す。
客間は2階が殆どだ。
予想した通り、階段を上がり2階の客間へと入っていく。
ついて行って中に入るのは流石に無意味だと、外で待っていると眼の前を兵士が数人通り過ぎる。
目と鼻の先だと言うのに、全然気づく様子がない。
別のメイドが隣の部屋から出てくる。
目印がある。
風太は、そっと後ろを付いて行く。
もし背後に誰か居れば、丸見えになっていただろう。
こういう隠れながら進むゲームの体験が風太の感を冴え渡らせていた。
誰か来そうな予感がすれば直ぐに動きを止める。
未来が見えているかのような動きだ。
何人ものメイドを乗り換え、目的の橋の前に来ていた。
外に出る為に扉のノブを回す。
ガチガチ……。
「鍵か……」
側に台があるだけで鍵は見当たらない。
ふと外を見ると、巨大な骨の怪獣が迫っているのが見えた。
夕日が大地が燃えているようでとっても映える。
骨の怪獣が火を拭くわけでも無く、ただ歩くだけなのに。
小さな爆発が起きているようで、足止めしようと攻撃を加えているのだろう。
あの程度で止まるわけもないだろう。
コツコツ……。
誰かが階段を上がってくる音だ。
音がなる靴を履くのは、兵士に認知してもらうためである。
メイドだが、目印は付けていない。
関係のないメイドか?
風太は息を潜め様子を見る。
メイドは台に食事を乗せた盆を置く。
鍵の束から太陽飾りの鍵を手に取ると扉を開いた。
そこまでは何の不自然さもなかった。
身につけていたロケットペンダントを開き、小瓶を取り出すとスープに数滴垂らした。
間違いない暗殺者だ。
風太は咄嗟に彼女に赤黒い霊糸を放ち束縛を掛けた。
「さて、これがどんな物か試そうか」
「何者……、どうして体が動かない」
小瓶を取り上げると、彼女の口を無理やり開き数滴垂らす。
暗殺に使うものだ。
きっと直ぐに効果を発揮して命が尽きるのだろう。
その予想は外れ、メイドは眠っただけだった。
「睡眠薬か。
眠らせてから殺すつもりだったのか?」
具体的な暗殺計画は解らずじまいだ。
メイドの服を剥ぎ取ったが、特に不自然なものはない。
下着姿で転がっている彼女には悪いことをしたと罪悪感すらある。
隅に移動させ、転がしておく。
橋を渡る時は、外から丸見えだ。
変装したほうが良いだろう、丁度彼女のメイド服がある。
着替えて見るとサイズが小さくて背中のチャックが閉じられない。
「ここはエプロンがあるから……、痛たた、これ破れないか?」
スカートもキツキツで閉じられずベルトでなんとか誤魔化している状態だ。
側から見たら、明らかにサイズが違うと解る。
食事を運ぶメイドに扮して風太は橋を渡る。
凄まじい風にスカートがはためく。
飛んでいったら困る。
ちょっと待ってくれ、すごく恥ずかしいんだが。
風が収まると一気に橋を渡る。
塔の扉も鍵が掛かっていて開かない。
この鍵束から、見つけるのか?
結構重く大量にあるのに……。
また風拭き始める。
勘弁してくれ。
どれだ?
さっきは太陽だった、月のイヤリングにも意味があったとしたら。
あった月の飾りが付いた鍵。
カチャッと一発で開き、中へと入る。
幼い少女が分厚い本を持ち読書している姿があった。
えっ……、想像以上に幼く見える。
風太に気づくと驚いた様子で立ち上がった。
「貴方は何者ですか?」
「俺は風太、君を姉のもとに連れて帰るために来た」
「婚約は議会によって決定した事です。
それを反故にすれば、両国の亀裂を生むことになり国益を損ないます」
見た目とは違い、凛々しい言葉に風太は驚いた。
既に彼女は覚悟を決めているのだろう。
このまま連れ去れば、彼女の意思を無視することになり姉妹の関係にもヒビが入るだろう。
「君を暗殺しようと動いている者達もいる。
このままだと君は死ぬことになるかも知れない」
「仮にそうだとしても、私は役目を全うするだけです。
民が幸せになれば本望」
あの狂人の姉シャオーリと違って、欲しいと思える気持ちも解らなくはない。
王子が妹のアメジアを選んだのは、性格を見抜いていたからでは?
さてどうしたものだろうか。
このまま手ぶらで帰ると、呪で死に至るだろう。
かといって覚悟を決めている彼女を無理矢理に連れ去るのも違う気がする。
あー、どうすれば良いんだ。
「少し考えたい。
後着替えたいから後ろを向いていてくれないか?」
「いいえ、着替えたいなら私の前でどうぞ」
「恥ずかしい」
「何をするのか見ておかないと不安です。
私を騙して連れ去るかも知れない」
その言い分は解るが……。
ジロジロ見られるのは流石に恥ずかしい。
でもキツキツなのはもう限界で早く脱ぎたい。
もうメイドとかに見られている。
恥ずかしがる必要はない。
風太が脱ぎ始めると、ペタッと手の感触。
彼女がお腹を触っていた。
「えっ……」
「やはり呪術を掛けられているのですね。
私を連れて戻らなければ貴方は死ぬのでしょう?」
「正解。
従わされたというよりも、俺の意思で連れ帰ろうと思っている」
「勝算があってここに来たのでしょう?
私の考えを改めるなにか、それを聞きたいわ」
王子によって嫌々婚儀をさせられていると考えていた。
だから助けるといえば、直ぐに乗ってくる。
そんな甘い考えだ。
策など何も考えてはいない。
「俺は君も欲しい。
だから来てくれ」
「アハハ……。
見ず知らずの男を選ぶと本当に思っているとしたら驚きです」
「俺は異界人で、あの炎の魔将を打ち取り王国を救った実績もある。
風太という名を聞いたことはないのか?」
「それは素敵で魅力的。
姉様が惚れて送り込んでくることはあるわ」
「……冗談。
俺は君に逢えただけでも良かった。
覚悟を決めているなら連れて帰る気はない」
「待ちなさい。
婚儀は3日後、まだじっくりと話をする時間はあるわ」
「明日の夜の予定だと、招待状に書いてあった」
時間のズレにアメジアは暗い顔をする。
伝えられた事実が違うということは、何かしらの思惑があるということ。
「王子に会って真相を確かめます。
連れて行っていってください」
バーン、ドドドド……!
爆発音と共に、花火が夜空に咲き乱れる。
二人共に、窓へと近づき外を見た。
庭に沢山の人々が集まっている。
そして、衝撃的だったのが、王子の隣にウエディングドレスを着た女が居たことだ。
風太は咄嗟に隣に立つ、アメジアの横顔を見る。
彼女が偽物で、王子に隣に立っているのが本物だとしたら、聖女に騙られたことになる。
どっちが本物か判別する方法はない。
もし偽物だとしたら、危機に瀕しているのは風太自身だ。
早く逃げ出さないと捕らえられて終わる。
「私は思い違いをしていました。
王子の事を信じ両国の併合が皆の幸せになるのだと……。
これは完全な裏切り行為」
アメジアはその場で崩れ涙を零す。
そんな彼女が偽物な筈はない。
もし演技だとしたら……、誰も信じられなくなる。
風太は彼女にそっと手を差し伸べる。
「俺と来てくれ」
「……まだ、王子に真相を聞かなくては。
私が見落としているかも知れない」
悲鳴、絶叫が響く、それは二人の耳に届くほど大きかった。
偽の姫が剣を振り回し、王子に切りかかったである。
風太は理解した。
あの暗殺計画は姫ではなく、王子を殺すための。
違う。
そんな単純なものではない。
リアハの剣は王子に届かなかったのである。
暗殺は失敗する。
風太の予測通り、暗殺は失敗し偽の姫は逃げ出す。
王子は手を少し怪我した程度だった。
「今直ぐ逃げよう。
君は暗殺者として処刑される」
「それで民が救われるなら、私は命を差し出しましょう」
「何を勘違いしているんだ。
君の命なんて、あいつには関係ない」
召喚に必要な生贄を欲していた。
その計画を聖女と共に妨害し、被害を抑えた。
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「無駄だ。
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「いや、転生術には重大な欠陥がある。
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それが人生を変える程の体験だったら、虜となってもう一度を狙いに行く。
もう外れしか無いとは知らずに、当たりを求めてクジを引き続けるようなものだ。
「いいえ。
では貴方はどうなのですか?」
「考えるのは姫様……シャオーリの役目。
彼女が何か考えると信じて行動するだけだ」
「駒が考えたりしませんものね。
どう転んでも救えないのであれば、姉を信じてみるのも悪くはありません」
「じゃあ来てくれるか?」
「はい。
ですがどうやって逃げ出すつもりです」
姫を連れていたら、今は暗殺者として殺されてしまう。
それは避けたい。
「変装するのはどうだろうか?」
アメジアは、メイド服を手に取り確認する。
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「そんな怪しい人が居たら、直ぐに捕まってしまうでしょう。
それに貴方の手が塞がって、より逃げにくいとは考えないのですか?」
「それは問題ない。
君が見つかって狙われたら終わりだ」
「……確かに姉様よりも軽いですが。
絨毯の重さも加わるということも考えて下さい」
「助かる可能性が少しでもあると思えば乗ってくれ。
このままだと命が絶たれる」
「では何も言いません。
貴方の思う通りにしましょう」
アメジアは絨毯に転がり体に巻き付けた。
それを担ぎ上げると風太は外へと出る。
もう見つかっても構わない。
一気に橋を渡り、階段を掛け降りる。
直ぐに兵士と対面し、風太は咄嗟に壁に立てかけてあった箒を手に取る。
棒の先に枯れ枝を紐で束ねただけの簡単な造りだ。
そんなもので、兵士の持つ刃渡り80センチの剣を相手にしなくてはならない。
兵士が剣を握った時には、既に鋭い付きが兵士の喉を直撃していた。
「なっ……」
声が封じられ、剣を抜き放つと同時に顎を突き上げる一撃が決まって宙を舞う。
兵士が床に倒れ、金属が叩きつけられる音が響く。
軽装とは言っても胸を守るプレートの下に鎖帷子を着込んでいる。
そんな兵士を容易く撃退出来るほどに、風太は強くなっていた。
身体強化の術の副作用でもある。
肉体にかなりの負担が掛かり本来なら耐えきれず筋肉の断裂によって使い物にならなくなる。
だが成長が著しい異界人の特製が組み合わさり、見た目以上に強靭な肉体へ変貌していたのである。
何も知らず身体強化を使い続け、超人に匹敵するほどだ。
「結構響いたな」
箒の紐を斬り、棒だけにする。
剣の方が良さそうに見えるが、無意味に殺す気が無かったからだ。
それに使い慣れているからでもある。
風太はドアや飾ってある花瓶など、あるものを利用しつつ遭遇した兵士を蹴散らし降りていく。
滑稽にも兵士はあたふたして何も出来ずに、混乱したまま棒の一撃で気を失う。
花瓶なんか、受け取らずに無視すればいいのに……。
ドアが開くとは思わずぶつかるのか。
あらら……、痛がっている余裕もないのに。
下へ行けば行くほど兵士が増えていく。
2階まで降りた時には、兵士で通路が埋め尽くされて居た。
あまりに多すぎて兵士も身動きが取れないほどだ。
「うわっ、通れる気がしない……」
3階に戻って、テラスに出ると物干し竿に気づく。
風太はそれを掴み、軽く前にジヤンプして滑るように降りる。
手が摩擦で熱くなってくる。
「アチチ……」
一気に外に出れた。
「うああぁぁっ!」
後を追って飛びかかった兵士が哀れにも地面に激突して倒れている。
「……速度を落とさないから、そうなるんだ」
丁度、馬に乗ったサラが、風太の前にやってくる。
もう一頭も一緒だ。
「さあ今のうちに脱出しましょう」
「待ってくれて馬に乗るのは初めてなんだ」
「横から乗って下さい。
絶対に後ろは危険ですので近づかないように」
「解った」
風太が馬に近づくと、乗りやすいようにしゃがんでくれた。
よく調教された馬なのだろう。
それが安心感に繋がり、風太は馬に乗った。
手綱はサラが持ったまま、2頭とも操作して一気に駆け出す。
早く絨毯から姫を出してあげたいけど、馬の上では出来ない。
「大丈夫か?」
「はい……」
と小さな返事があった。
一気に街を駆け抜け南門へ到達する。
夜は閉じられているのが常識だ。
「突破します」
サラは手を門へと向けた。
「対策が施されていないのか?」
「外から攻撃には強いですが、内からは脆いものです。
大地の精霊よ、我に力を! ストーンボルト!」
石の塊が門の中央に掛けられた丸太……いや閂を貫き砕いた。
衝撃で扉がギギッと音を立て隙間が開く。
だが馬が通るには狭い。
「もしもの時は頼む」
風太は意を決し、魔法を使う。
「天空を支配する黄金の鱗に包まれし緑眼の暴君……。
空の裂け目より目覚めよ。 エアボルト!」
キューンと音が響いたと思うと、扉が木っ端微塵に吹き飛んでいた。
加減を間違えたか?
だとしたら……、強烈な痛みが……。
んん? 来ない。
「何でだろう、不思議だな?」
「扉を閉ざすことで、兵力は全部北東へ集結しています。
なので門番すら居なかったわけです」
いや、そんな事はどうでもいいんだけど……。
「そうなんだ。
で何処に行くつもりだ?」
「一度、領地へ戻りましょう」
「……北に行かないと、俺の命が尽きるんだが」
「陸路より空路の方が早いです」
「レモプティに頼むのか。
それなら行けそうだな」
風太は完全に忘れているが、骨の怪獣が街の直ぐ近くに迫っていた。
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