35 / 54
4章 帰国編
35話 滅びの日
しおりを挟む
「ここで食い止めなければ街が壊滅する!
勇気を振り絞り立て!」
日が落ちようかという時の事だ。
クークリフは骨の怪獣を阻むために、全兵力をかき集め2万もの兵を並べ横陣を敷いた。
それが魔族や人々の軍勢なら正しい配置だっただろう。
だか眼の前に迫るのは山程の巨体、怪獣を模した骨である。
進路方向に立てばどうなるかは明らかだ。
だが彼らは真面目に、それで食い止められると信じたのである。
術を何倍にも増幅する術杖を数人で使用し、全力で放てば木っ端微塵となると。
「放て!」
クークリフの合図と共に、炎が龍の群れとなりうねりながら骨の怪獣に巻き付く。
ドドドド……!
爆音と共に光と煙が骨の怪獣を包む。
「やった!」
歓声が沸き起こり兵士達は勝利を確信する。
「20本もの術杖を投入したんだ当たり前だろう」
一本でも戦力を変えるほどの凄まじい力を持つ代物だ。
昔、風太が使用し、魔族の砦を一つ数千の魔族ごと灰に変えている。
そんな凶悪な、最終兵器とも言える物だ。
風が吹き荒れ、煙が流れる。
白い骨、怪獣の頭蓋骨が姿を現し静寂が生まれた。
無傷な姿がそこにある。
一歩、骨の怪獣は何事もなかったかのように進む。
踏み潰された兵士達が地面を赤く染める。
それまで保っていた勇敢さも、尽く崩壊するには十分だった。
兵士達の絶望が悲鳴となって、響き渡った。
「無理だ! 逃げろ!」
クークリフは槍を手に取り、兵士達に鼓舞する。
「戦え! 置いてきた家族を思い出せ。
誰が守る! それは我々だ!」
「貴方は何度も失敗した。
もう誰も信用してはいない」
側近の兵士すら逃げ出す始末だった。
側にいる者ほど、彼の裏の面……他人を蹴落とし自己保身に走る事を知っていた。
それでも付いて来たのは、彼に潰される事を恐れたからだ。
今までの失態は些細なことだが、今回は致命的。
復権することも無く、完全に終わると誰も疑わなかった。
クークリフには後が無くなっていた。
成果を上げる事ができず、挙げ句には一夜城に対抗して作った時計台で大惨事を起こした。
それも得意分野である建築での失態だ。
復興の象徴が崩れるさまを他国の者達に見せてしまい。
どれほど恥をかいた事か。
「勇気を奮い立たせろ!
戦え!」
そんな叫びも虚しく、逃げる兵士は耳を傾けることもなく彼を避けるように通り過ぎた。
「立ち止まって戦え!」
もはや彼に逃げる兵士を止める力はない。
次々と兵士が通り過ぎて行く、最後尾にいた彼が最も突出する。
戦いで挽回するしか、もはや無い。
覚悟を決めて立ち止まり、ただ一人取り残された。
「何故、誰も居ないともに戦うと誓ったというのに……」
共に戦った仲間達も気づけば離れていった。
対立、全ては己の保身が招いた事だ。
暗くなったと、空を見上げると巨大な骨の足が迫っていた。
槍を構え突き刺す。
ガシン!
槍を持つ手が滑り槍の端……石づきが地面に付く。
高鉄の槍がグニャリと曲がっていく、止まらない。
「うわあぁぁっ、止めろ!」
クークリフは倒れ、全身鎧だけが最後の希望だった。
「待て! 何故だ……」
だが、そんな物は紙切れ同然で形状を保つことも出来ず押しつぶされていった。
何百トンもの重みが加わったのだから同然だ。
即死だった。
英雄として祭り上げられ利用されているだけとも知らず、散った哀れな男であった。
そんな彼の頑張りは期待すらされていない。
同刻に、王子は婚儀を初めていた。
主要各国の客人は、王国との外交を進めるために数日前からやって来ていた。
重要な会議既に終わり、後は婚儀での宴会を楽しむだけである。
「……予定と違う。
それに何か不吉な気配が迫っている」
青楓は風太に扮して、会場へと足を運んでいた。
並び歩くナールルネは落ち着いた様子で微笑む。
「何か騒ぎが合ったのでしょう。
日程が変わることは、良くあることですから気になさらないように」
各国の主要な人物が集まる事など滅多にない。
敵対者にとっては、絶好の好機である。
予定を変える事によって、攻撃を失敗させる狙いがあった。
「もしもの時は俺に付いて来てくれ。
君を絶対に守ってみせるから」
能力不足で追放されるような異界人である。
むしろ、ナールルネが青楓を守らなければならない。
そんな事情がありつつも、今は風太として相手をしなければならない。
「フフッ。
期待しておきます」
「にゃーん♥」
足元を黒猫姿のクロニャが歩いている。
少し前までは、何処かへふらふらと散歩して居なくなってたのだが、いつの間にか側にいた。
変身している影響なのか、演技なのか猫に近い動きする。
自由気ままで、本物の猫かと錯覚するほどだ。
ナールルネは動きを封じる為にクロニャを抱き抱える。
「猫を連れて行けるの?」
衛生管理や猫アレルギーに配慮して拒否されるかも知れない。
不安材料を少しでも減らすなら、影の中に隠れていた方が良いだろう。
そんな青楓の不安を不思議そうに、ナールルネは黒猫を撫でて可愛がる。
「ペットはアクセサリーと同じ。
持っている限り、責められたりはしないわ」
持つもの特権であろう。
猫を飼えるほどの富を持っている自慢となる。
価値観の違いに青楓は戸惑いつつも、微笑んで誤魔化す。
ゴミを分別せずに廃棄していたのを思い出し、衛生は気にしないのだと納得した。
それは嫌がらせだった事は、解っているが……。
「俺が持とうか?」
「気遣ってくれてありがとう。
でも、これは私に任せて」
入口に受付のメイドが立っている。
招待状を渡すと、テーブルの上に並べられた仮面を選ぶように勧められた。
「ご自由に、ご利用下さい」
要人の暗殺を警戒し、仮装を推薦しているのだろう。
目元だけを覆う仮面だ。
「君に似合うのは、星。
この夜を感じさせる、煌めく夜空が描かれたのはどう?」
「貴方は月にして」
仮面をつけるなら変装する意味は無かったと思いつつ装着する。
テーブルが2列に並び、その間を赤い絨毯が真っ直ぐに伸びている。
民は食料制限が掛けられ、主食の小麦が配給制となっていた。
収穫期まで際どいにも関わらず、そこに並んだ料理は豪勢で贅沢の限りを尽くしたものであった。
婚儀が始まるまでは飲食はしないようで、楽団の演奏に合わせて踊りを楽しんでいる様子が見られた。
「少し印象付けるためにダンスを楽しんで来たら?
私は見ているわ」
「男女で踊っているように見える。
俺だけ一人で踊るのか?」
「腰に手を当てている女の子が居るでしょう。
隙な相手を選べば良い」
女の子達が楽団の横に並んで立っている。
目立つだけで誰でも良かった。
赤髪の女が挑発するように手を伸ばす。
「俺と一緒に踊ってくれるかい?」
「喜んで」
振る舞いを身につけるために特訓の日々。
その中にダンスがあった。
彼女の腰に手を当て、ぐっと引き寄せ密着させる。
ゆったりと踊りやすい曲に合わせて、楽しくグルグルと回りながら舞う。
数人が踊っていたるが、それは自分達が楽しむだけ。
だが二人は違う囲う群衆に見つける。
そんな大体さと魅力があった。
場を華麗で素早く移動し群衆の前に来るとひときわ目立つ大胆な動きで派手に舞う。
全体を動き回り、しっかりと見せ場を作っていた。
音楽の終わりに合わせ、最後を決める。
熱狂する声、拍手が包む。
ただの前座、暇つぶしのダンスに過ぎない。
なのにどうして、人は興奮するのだろうか。
それは熱意、真剣さに心を打たれるからだろう。
「あら少し、からかって上げようと無茶な動きをしたつもりなのに」
「フフッ。
じゃじゃ馬で楽しかった」
「私はサーシャリよ」
「俺はフータ」
「あのフータに会えるなんてとっても嬉しいわ。
また、今度……」
二人は別れる。
夜空の星が見え始め、花火が咲き乱れた。
「かぎやー」
「何のおまじない?」
「……迂闊。
えっと、あの打ち上げ花火の事」
この世界にかぎやは無い。
玉国の元貴族という設定なのに、異界の文化で語るのは大失態である。
青楓は聞かれて居たら致命的だと顔が青ざめていた。
「ふふふ……。
大丈夫、誰も気にしないわ」
打ち上げ花火自体が珍しく、人々の関心は空に向かっていた。
他に召喚された異界人の知恵なのだろう。
「新婦の登場です!
拍手でお迎え下さい」
二人の前を、ウエディングドレスを着た姫が通り過ぎる。
拍手が巻き起こる。
姫は絨毯の先に立つ王子に向かって歩みを進めていた。
計画通りに事が進んでいれば、姫は現れないはずだった。
「彼氏君は間に合わったのかな?」
「予定よりも早く初めたから。
私達で止めないと……」
そんな二人を止めるように、フードで顔を隠した聖女ユークアが立ちはだかった。
「彼女は偽物です」
衝撃的な言葉に動く機会を逃す二人。
「じっと見守って下さい」
聖女の言葉を信じ待つしか無い。
もし動いていたら、反逆者として処刑される未来もあっただろう。
盲信する青楓と違い、ナールルネは疑いの目で睨んでいた。
偽の姫が王子の前に到達した時だ。
「さあ、私の愛を受け取って!」
スカートの裂け目から、剣を抜き切りかかったのである。
風切り音が響き、王子が切られたかのように見えた。
剣筋は見えざる衣によって大きく逸れ、手にかすり傷を負わせた程度だった。
「乱心だ! あの者を捕らえよ!」
偽の姫はもう一撃を加えようと剣を振るった。
バリンと剣が折れ、刃が天を舞う。
「必ず殺す!」と吐き捨て、偽の姫は人混みを気にせずに突き進む。
折れたとは言え、ナイフほどの長さがある。
観客達は逃げるように避け、進もうとする兵士の邪魔となる。
偽の姫が、青楓達の前を取りすぎた時だ。
猫姿となったクロニャが偽姫の影に入り込み後を追う。
大混乱となった会場だが、直ぐに静寂を取り戻す。
3人を残し、殆ど人が居なくなっていた。
「説明して欲しい。
目まぐるしく状況が変わって良く解らないわ」
ナールルネはユークアの手首を掴み、逃さないようにきつい声で言った。
計画はユークアが仕組んだことで、風太は乗っかっているだけだ。
もし使い捨ての道具にされるのであれば、風太に黙ってユークアを手に掛ける覚悟を決めていた。
「上を見なさい」
城と塔を繋ぐ橋の上に何かを担いでいる人が歩いているの見える。
顔は遠くて識別ができない。
「あれが彼だというの?」
「はい、本物の姫も連れています」
「それなら、私達の役目も終りね。
迎えに行きましょう」
「いいえ、まだ貴方達には活躍してもらいます。
迫りくる脅威に打ち勝つまでは終われません」
青楓はにっこりと微笑む。
「うちに出来ることなら、頑張る。
その代わり解っているよね?」
うっかり言葉使いが素に戻っていた。
感がいい者が居たら気づけたかも知れない。
ユークアは青楓に口づけをするふりをする。
「まだ気を抜いてはいけません。
愛する貴方の為に……チュッ」
「……むっ」
「北門が開いています。
あの化け物を撃退して下さい」
「任せてくれ。
君はどうするつもり?」
「準備を済ませてから、すぐに行きます」
祝の席に相応しくないと武器を取り上げられると思い手ぶらで来ている。
魔法が使える風太ならまだしも、青楓は適正がなく使えない。
ナールルネは止めるように阻む。
「待って、正気?
どうやって対処するつもり」
「俺に考えがある。
見た感じ、がしゃ髑髏の一種で悪霊の集合体に過ぎない」
「アンデットを撃退するには火の法術が扱えなければ話にならないわ。
無謀なことはやめて」
「火は必要ない。
大切なのは祈り、想いの力……」
「意味がわからない。
私達は生き残って彼と一緒に暮らす。
無謀な挑戦に挑む必要はないわ」
「君の言い分は解る。
けど俺なら、命を救うために動くだろう?」
風太なら、人助けもするだろう。
それは人々を善であると考えているからだ。
悪だと知れば、切り捨てる冷酷さも持ち合わせている。
「ここの人々は、自分達が生きるためにどれだけの罪を犯してきたか。
守るに値しないわ」
「そうだとしても、俺には等しく救う命に思える。
君だけでも逃げると良い」
青楓は甘い……。
知っている裏の事実を話しても意味はないだろう。
見捨て一人だけ逃げ帰ることができようか。
「そこまで言うなら、最後まで見届けさせていただきます」
実際に近くで見れば気が変わるかも知れない。
そんな甘い考えも抱きつつも、いざと成れば意思に反しても助ける。
ナールルネは、立てかけてあった旗を手に取る。
「武器は必要ない」
「兵士を集めるたい時に使えるわ。
士気を鼓舞するにも」
二人は、北門を抜け出た。
迫りくる骨の怪獣の側面がみえる。
雲を貫こうかという巨大さが、街を覆う幕壁を模型のような錯覚に陥らせる。
簡単に踏み潰され崩れるのではないのだろうか。
「俺はフータ!
俺に任せて撤退しろ!」
なすすべもなく手をこまねき見ているだけしか出来ない兵士に向かって叫んでいた。
ナールルネは、青楓が気が狂ったのかと疑う。
数万の兵士ですら、止めることが出来ずに立ち尽くすことしか出来ない化け物だ。
それを眼の前にして、怯えるどころか気合が入って勇ましく向かっているのだ。
「勇気あるものは、フータに続きなさい!
あの騎士団を撃退したのは彼よ!」
保守派の騎士団を一つ壊滅させことは、広く知れ渡っている事実だ。
指導者を失い、途方に暮れていた兵士達が集まってくる。
「フータ! フータ!」
狂気に包まれた人々のように、名前を叫びながら行進がする。
一体感が勇気を生み、絶望していた心から闘志を呼び覚ましていた。
(この状況は不味い。
でもどうして、こんな事に……)
ナールルネは困惑を隠せない。
仮に王子がやって来たとしても、これほどに士気が高揚しただろうか?
ありえない。
誰もが逃げ出し、まとまる訳がなかった。
そんな臆病風に吹かれた者達だらけの中を進むのは、よほどの者でなければ出来ない。
心くじけ逃げても誰も文句は言わないだろう。
それが理想だったに、どうしてこうなったか解らずにいた。
兵士が青楓に駆け寄る。
「フータ殿、どのような方法で撃退するのでしょうか?」
「まずは足を狙って動きを止める」
「では、直ぐに正面に配置します」
青楓は首を傾げて不思議そうに思う。
進路方向に立っても、ただ踏み潰されるだけだ。
「君たちは命を粗末にしたいらしい。
犬死にするのは結構、でも残された家族や友が悲しむ事を忘れずに」
クークリフのように敵の前に立ち阻む以外の方法は考えていなかった。
兵士達は困惑して動揺が走る。
「……はい。
ではどのようにすれば良いのです」
「側面から狙う。
進行方向に立のは危険」
「了解」
兵士の動きは素早く、直ぐに側面から攻撃が始まる。
攻撃すれば、進路が変わり自分達に向かってくるだろうと考えていた。
骨の怪獣は、全く気にす様子もなく真っ直ぐに街へ進んでいく。
壁に届こうかという所まで迫っていた。
青楓は祈りを捧げて貯めた気を手に集めていた。
「奥の足を狙う。
レベルマックスのファイアーボルトォォォ」
言葉と同時に、貯めた気を放っていた。
霊感がなければ見えない、気の塊に兵士達は困惑する。
何も起きないのだから、法術が失敗したかのように思われた。
グオオオォォォォ!
今まで、どんな攻撃を受けても反応を示さなかった骨の怪獣が初めて雄叫びを上げた。
奥の脚部の一部が崩れ、地面に落ちる。
静寂後、見えないほど早く飛んで当たったと解釈した兵士達が歓声をあげた。
「おぉぉぉ! フータ! フータ!」
「家族の思い出、温かな日常。
幸せを思い出し、願う時!」
青楓は祈りを捧げる。
兵士達も真似をして、家族との思い出に幸せな日々を祈る。
(これが不要とされた彼女の力……。
確かに、これはあってはならない)
夜にも関わらず、骨の怪獣から人魂が抜け出て天に昇る。
その膨大な数の僅かな光が、柱となって天に伸びる。
聖なる衣に身を包んだ聖女ユークアが青楓の隣に立つ。
「フータよ。
この神聖な剣を使いなさい」
誰もが目を疑う。
練習用の木剣に兵士達は動揺を隠せない。
神殿に飾られてる白銀の聖剣は、金装飾が施されて立派なものである。
「はい」
兵士達は困惑しざわめいていた。
あんな木剣が聖剣な筈無いと……。
「私を疑うのですか?
貴方達は祈り見守っていなさい、彼が証明してくれるでしょう」
青楓は木剣を高々と突き上げた。
「邪悪な力で束縛している呪詛を断ち切る」
骨の怪獣は術によって生み出されたものだ。
当然、術式が組み込まれて形成している。
それを破壊すれば、維持ができなくなり崩壊する。
風太が居れば止めていただろう。
なぜなら膨大な悪霊を閉じ込めている器でもある。
それが壊れれば、赤い月が発生し膨大なアンデットの群れが街を襲う。
骨の怪獣の比ではない被害が出るだろう。
当然、それを知らないナールルネだったが、理不尽な扱いにキレた。
木剣を奪い取ると、地面を叩きへし折ったのだ。
「こんな脆い木剣が聖剣だと言うの?
貴方はフータを殺すために無茶を言ってるわ!」
「余計なことをしてくれましたね。
許しませんよ」
「わざわざ出向いたのですから、ご自分であれを撃退して下されば良い。
形だけの聖女に出来るとは到底思えませんけど」
実力も才能もあり、聖女の地位は形式で選ばれたものではない。
「ええ、解りました。
私がただの飾りではないことを示しましょう」
ユークアは折れた木剣を持って骨の怪獣に向かう。
青楓も横に並び歩く。
見ていた兵士達は、困惑したが付いていこうした。
「邪魔をしないで。
貴方達が行って何が出来るというの?」
「貴様は何だ」
「私はナールルネ。
フータの妻です」
報奨として贈られ女だ。
あの時は、死にそうで顔色も悪く暗い印象しかなかった。
だが今は、凛として強く勇ましくなって別人のよう。
「あの……、まさか……」
兵士達は驚き、ざわめく。
男によって女は変貌するという、不思議なことではないのかと……。
(どうして行ってしまうの。
見捨てても良かったはずなのに)
聖女と巫女、立場が違っても神に使える身である。
意気投合するのに時間は掛からない。
「浄化の舞で、魂を浄化します」
「私にも出来るでしょうか?」
ユークアは不安げだった。
聖女と言っても、アンデットを消滅させる力は持ち合わせていない。
そんな事ができるなら、死者の森なんて不名誉な土地は存在しなかっただろう。
「ええ、うちの真似をして」
手を扇に見立てて、ゆらゆらとゆくっりと舞を始める。
そこに桜の木はないと言うのに花びらが舞う。
幻覚なのか、それとも現実に起きていることなのか?
ユークアは花びらを掴もうとするが、空気しか掴めない。
「何をしたというの?」
「うちを信じて、ただ救いたいと祈って」
ユークアは真似を始めて、桜吹雪に感動し気持ちの良い空気感にうっとりする。
二人の舞が揃い始めると、骨の怪獣はうめき声を上げる。
立ち止まって一歩も動かないのは、足が損傷したからではない。
たどり着いた、ここが故郷だと感じたからだ。
その感動が、うめき声となった。
骸骨の眼から涙は溢れない、なのにポタリと雫が落ちる。
桜の木々に覆われた、異世界の春。
原住民が見たことのない世界だと言うのに、心地よく美しい故郷のような暖かさを感じるのだった。
「ああ、素敵です。
こんな世界があるなんて信じられない」
「これうちの記憶。
これからはユークア、貴方の良き世界を見せてもらいます」
人々が行き交う、日常の風景。
祈りを捧げる人々に、安らぎを与える言葉を囁く。
骨の怪獣の表面にヒビが入り崩壊が始まる。
悪霊が浄化され、支えていた力が弱まり維持でき無くなっていた。
そのまま、浄化の舞を続けていれば静かに消滅しただろう。
王子の右腕……、大男グーゼがやって来てナールルネから旗を奪いった。
「何を悠長に眺めている。
今こそ絶好の好機、全力を持って打ち砕け!」
「私の戦果を横取りつもりですか!?」
「足止めしたことは、褒めてやろう。
だがそれだけだ」
「なっ……、今もフータは戦っています。
見えないのですか?」
「尊い犠牲もやむなしとの事だ。
数人の命で何万人もの救われる、彼も本望であろう」
「せめて最後まで、猶予を与え下さい」
「夫の生命、おしさに好機を逃せというのか?
それでも貴族だと、片腹痛い」
グーゼは手に風の力をため、ナールルネの腹に直撃させた。
衝撃波で吹き飛ばされ、地面を転がる。
それは受け身であり、致命傷は回避したが、それでもすぐに動ける状態ではなかった。
(強すぎる……。
私にはとても止められない、逃げて!)
旗が振り下ろされると攻撃が始まった。
法術の使えない市民兵が殆ど、術杖に頼るしか無い。
杖を数人で握り発動する。
同時に力を奪われた彼らは倒れた。
そんな無茶な攻撃が繰り広げられている。
骨の怪獣は身を屈め守るような動きをみせた。
それは二人を守るために、自らの意思で動いたのである。
『ありがとう……』
故郷の幸せな夢に浸り、怨念が消えていた。
そんな魂の声が蓋に響いていた。
「ありがとう」
「早く、ここから離れましょう。
これ以上は、巻き込まれてしまいます」
二人は兵士達が居ない方向へと逃げていく。
骨の怪獣は尻尾をふり、流れ弾を撃ち落とし二人を守った。
グオオオォォォ!
立ち上がり、前へと歩みを進める。
それは攻撃の向きを変えるためだった。
抜け殻同然の体では、攻撃に耐えられない。
放っておいても崩壊するほどに弱っていたからだ。
壁が踏み潰れる。
街へと入り、家々を踏み潰し砂煙を舞い上げる。
骨の体が崩れながら歩みは止まらない。
逃げ出し、誰も居なくなった無人の街……。
骨の怪獣が目指したのは、そびえ立つ城だった。
「早く止めろ!」
爆音と共に怪獣の腕が吹っ飛び地面に落ちる。
全方位から、城塞兵器の攻撃が始まった。
ドボーン!
骨の怪獣の足が堀の水にハマり水しぶきが上がる。
牙が城に届こうかという時だ。
体が2つに割れ、崩れ落ちた。
勝利に人々の歓声が沸き起こる。
恐怖心が、被害を拡大させたとは知らずに。
成したことが正しいと誰もが信じた。
リシャール王子は、骨の怪獣討伐の報告を受けて笑みを零す。
あれほどの巨大な化け物を撃他としたを世に広められる。
手の傷は殆どかすり傷だが、印象を強める為に包帯を巻いていた。
真実は、見えていることが全て。
表面下で起きている事など誰も詮索することはない。
のんびりとワインを口に含み酔を楽しむ。
それわ阻むように兵士がやって来る。
「城に侵入した者を取り逃がしました」
王子は傍にあったワインのグラスを手に取り、その兵士の顔面にぶっかける。
「姫はどうなった?」
「無事でした、どうやら財宝を奪う目的だったと思われます」
「アリの穴から崩壊するらしい。
聞いたことがあるか?」
「いいえ、初耳です」
「小さな失敗を許してはならないと言う意味だ。
それが大きな失態につながるとな」
王子が席を立つと、悲鳴が聞こえる。
あの兵士が処刑された。
「気が早くて、困ったものだ。
絨毯を血で汚したくはなかった」
王子は急いで姫の元へ向かう。
階段は直通ではなく、通路を通り登らないといけない構造だ。
これでどうすれば逃がすというのだろうか。
兵士の多くは庶民あがりで能力に問題がある。
訓練して鍛え上げた騎士に比べて、見劣りするのは仕方ないとは言え、これほど無能だと思っていなかった。
「庶民でも、そこそこは使える人材がいると期待したのはやはり愚かだったか……。
しかし、もう後戻りは出来ない」
異界人を利用すれば、民に頼らずに戦も出来るだろう。
訓練が終わるまでの辛抱。
アメジア姫は呑気に本を読んでいた。
「お怪我はありませんでしたか?」
「はい、賊はここに宝があると思っていたようです。
ですから貴方に貰った物を渡すと、絨毯に包んで出てきいました」
「無事で何より、また新しく用意させましよう」
姫は特に変わった様子もなく、読書を続けている。
無断で婚儀を早めた事も知らないのだろう。
純粋で真面目な姫に哀れさを感じつつも、計画は既に動き出している。
暗殺者として処刑されるまでは、幸せに過ごして貰おう。
「ええ、ありがとう」
開いたままの、棚に近づく。
確かに盗まれて装飾品が無くなっている。
王子は、綺麗好きな姫にしては違和感があった。
どうして閉じること無く放置していたのだろうか?
「昨日のスープは如何でしたか?」
「はい、美味しかったです」
「貴方の嫌いなグリーン豆が入っていましたよ」
それは全くの嘘だ。
嫌いなものは避けるように料理人に伝えてある。
「そうですね」
偽物だと確信を持った王子は腰の剣で姫を叩き切っていた。
手応えは無い。
姫は1枚の紙切れとなって消えた。
青楓の護符である。
最後の一枚をダミーとして、残し油断させるために使ったのである。
「無能共!
この程度のまやかしすら見抜けないというのか!」
その頃、クロニャは森に来ていた。
「とても哀れ、
捨て駒として処分される運命とは悲しすぎます」
人の姿……いや普段の猫耳の姿に戻っていた。
足元に息絶えた偽の姫が転がっている。
そして、その周りに人の首を咥えた魔獣が取り囲む。
クロニャによって作り出された魔獣である。
役目を終えると黒い液体となり地面に解けて消えた。
「8人のようですね。
連携も素晴らしく、優れた力を持っていました」
偽の姫を殺した謎の集団である。
彼らの後ろで糸を引いていたのは、王子で間違いないだろう。
クロニャの関心は偽姫の方だった。
彼女の魂を摘むと飲み込む。
「にゃあー。
美味しい……」
お腹を擦り、満足げに微笑む。
魂を食べても、腹がふくれるわけではない。
残された記憶を覗き見できるのだ。
偽姫は、大貴族の娘として生まれロベルアと名付けられた。
第一王子派であった為に粛清を受けたのである。
その時から復讐に闘志を燃やし、牢獄の中でも体を鍛え続けた。
王子の側近グーゼがやって来る。
一見それは王子の暗殺計画だが、信用できるものでは無かった。
明らかな罠、利用されて殺されるのは明白だろう。
「武器はしっかりと調べさせてもらう」
「構わない。
じっくりと調べると良い」
「王子の守りは鉄壁で打ち破れないと聞く。
どう対処するつもり」
「婚儀では隙が出来た所を狙えば良い。
そのような場で油断をしているだろう」
あの王子が油断をして、簡単に殺されるわけがない。
だが断れば、二度とチャンスは巡ってこないだろう。
「運が味方してくれることを祈る」
牢の鍵か開く。
飛び出して逃げ出したとして、出口まで到達出来るだろうか?
それには3箇所を突破しなくてはならない。
この男を人質にすることも不可能だろう。
逆に押さえつけられて死ぬ。
それほどの体格差がある。
「聞いていたよりも、大人しく従ってくれるようで安心した。
もし歯向かってきたらと心配して居たが取り越し苦労だった」
「利害が一致している間は逆らう意味はない」
看守には話がつけてあるようで、素通りさせてくれる。
城まで誰にも阻まれること無くたどり着く。
準備は完璧といったところ。
着替えも用意されていた。
ウエディングドレスに細工が施され武器を取り出しやすくなっている切れ目がある。
「私の力だけでは不足している。
身体強化を掛けてほしい」
自ら掛けることが出来れば最善なのだが、会得しているのは攻撃系の法術だけ。
「そこに呪薬がある」
「毒が仕込んであったら終わる。
完全に信用したわけじゃない、神官に頼みたい」
「良いだろう。
手配する」
予期していたのか、聖女ユークアがやって来る。
「身体強化の祈りを捧げます。
貴方に力を……」
「力を試したい」
「どうぞ」
鉄の棒を受け取ると、ねじり曲げる。
粘土で遊んでいるような柔らかさだ。
これだけ強化されれば反動もきつい。
「どれぐらいで効果が切れる?」
「半日程、疲れを感じ始めたら眠り下さい」
時が来る。
婚儀が始まる時間となった。
鼓動が高まり高揚する、自分の婚儀ではないというのに雰囲気に飲まれていた。
一歩一歩、赤い絨毯を進み王子の前に来る。
止められない。
憎悪と憎しみに顔は険しく、もはや鬼の形相となっていた。
剣を抜き、切りつけていた。
理性で止められるものではない。
刃に血が付いている。
殺せる。
渾身の二撃目、手応えはなく剣が折れた。
やはり細工がしてあった。
捨て台詞と共に逃げ出す。
身体強化で、動きは超人のように人の域を超えている。
早い、風が顔面を叩きつけ阻むようだ。
人混みを抜ければ、城を抜け出すのは容易い。
壁すら軽く飛び越える。
堀の水に落ちる前に、風の盾を作り出し弾く。
トランポリンのように跳ね、一気にに堀を超えたのである。
「……流石、聖女様の力」
人間の体は、肉体が壊れないように制限が掛けられている。
それを取っ払い、更に強化を施すのである。
こんな事を続けていたら、体がぼろぼろになってしまう。
それほどに強化されているは明らか。
だからこそ、急ぐ必要があった。
半日も肉体が持つわけがない。
全力で駆け抜けると、追手は直ぐに振り切れた。
堀に水を引き込むための水路、鎖で閉ざした水門の前に到着する。
小舟が止まり、小汚い男が待っていた。
「さあ、船を出して」
「その格好で、外に出るつもりか?
ここに着替えが用意してある」
小舟に被せてあった布を取ると、木箱に服が収められているのが見えた。
「それは助かる。
乗りながら着替えるから、早くロープを外しなさい」
小舟を止めてあるロープを外そうと男が背を向けた時だ。
ロベルアは背後から折れた剣で男に切りつけた。
ガリッと骨が切り裂かれる感触。
「うぎぁっ」
ドボン!
男は転落し、水面が赤く染まる。
「私を甘く見るから」
流石にウエディングドレスは目立つ、用意された服を調べる。
特に何か細工は無い、サイズもきっちりあって問題ない。
それは呪術の知識がなければの話だ。
身体強化の呪薬をくすねて来ている。
これを軽く振りかけると、ほんのり光る。
「追跡の呪詛が掛けられている。
やっぱり初めから生かすつもりはなかったということ」
小舟を覆っていた布は血が付いている。
血の付いた方を内側にすれば、全身を隠せる。
下着姿になり布を覆う。
まるで難民のような姿だ。
骨の怪獣の出現によって、西門が開き脱出する人々で混雑していた。
紛れ逃げ切れるだろう。
門を抜け、森へと逃げ込む。
この森を北に抜ければ、玉国……、そして帝国へ逃げられる。
「次こそ……」
何が起きたのか。
倒れて木の葉が顔にべったりと付いていた。
「えっ?」
痛みが襲ったと思うと、両足が切断されていた。
「あぎゃあぁぁぁっ」
背が熱く、耐えきれない痛みが襲う。
何が起きているのかも解らない。
このままだと死ぬ。
手で体を引きずりながら逃げようと必死だった。
暗殺者達が遊ぶかのように、殺さずに痛めつけようとじっくりと攻撃を敷かれていた。
「逃げられると思っているらしい。
アハハ……」
「にゃーん♥」
「猫か、あっちに行け」
「彼女に話を聞こうと思っていたのに。
酷いことをするのですね」
「誰だ?」
クロニャが姿を現したと同時に、影から魔獣が飛び出す。
悲鳴をあげる余裕もない、程に一瞬だった。
魔獣達は、首を咥えて戻ってきたのである。
「御主人様なら、これぐらいの戯れぐらい余裕なのに。
あまりひ弱すぎて楽しむ余裕もないのですね」
回想が終わる。
クロニャは笑みを浮かべて、どうしようか迷う。
「私の下僕も欲しいけど。
御主人様は許してくれるかしら?」
暗殺者達の魂とロベルアの魂をかき混ぜる。
魔族として蘇らせるのも一興。
それともアンデットとして、玩具にするのも面白そう。
ニヤニヤしながら迷う。
「どっち良い?
にゃ~ん♪」
『私は生きたい……、助けてくれるなら何でもする……』
「信用できない」
『……貴方の力なら、出来るのでしょう。
私を束縛し従えさせることも』
「御主人様の判断に任せよう。
良くー考えて言葉を選ばないと、どうなるか解らない」
勇気を振り絞り立て!」
日が落ちようかという時の事だ。
クークリフは骨の怪獣を阻むために、全兵力をかき集め2万もの兵を並べ横陣を敷いた。
それが魔族や人々の軍勢なら正しい配置だっただろう。
だか眼の前に迫るのは山程の巨体、怪獣を模した骨である。
進路方向に立てばどうなるかは明らかだ。
だが彼らは真面目に、それで食い止められると信じたのである。
術を何倍にも増幅する術杖を数人で使用し、全力で放てば木っ端微塵となると。
「放て!」
クークリフの合図と共に、炎が龍の群れとなりうねりながら骨の怪獣に巻き付く。
ドドドド……!
爆音と共に光と煙が骨の怪獣を包む。
「やった!」
歓声が沸き起こり兵士達は勝利を確信する。
「20本もの術杖を投入したんだ当たり前だろう」
一本でも戦力を変えるほどの凄まじい力を持つ代物だ。
昔、風太が使用し、魔族の砦を一つ数千の魔族ごと灰に変えている。
そんな凶悪な、最終兵器とも言える物だ。
風が吹き荒れ、煙が流れる。
白い骨、怪獣の頭蓋骨が姿を現し静寂が生まれた。
無傷な姿がそこにある。
一歩、骨の怪獣は何事もなかったかのように進む。
踏み潰された兵士達が地面を赤く染める。
それまで保っていた勇敢さも、尽く崩壊するには十分だった。
兵士達の絶望が悲鳴となって、響き渡った。
「無理だ! 逃げろ!」
クークリフは槍を手に取り、兵士達に鼓舞する。
「戦え! 置いてきた家族を思い出せ。
誰が守る! それは我々だ!」
「貴方は何度も失敗した。
もう誰も信用してはいない」
側近の兵士すら逃げ出す始末だった。
側にいる者ほど、彼の裏の面……他人を蹴落とし自己保身に走る事を知っていた。
それでも付いて来たのは、彼に潰される事を恐れたからだ。
今までの失態は些細なことだが、今回は致命的。
復権することも無く、完全に終わると誰も疑わなかった。
クークリフには後が無くなっていた。
成果を上げる事ができず、挙げ句には一夜城に対抗して作った時計台で大惨事を起こした。
それも得意分野である建築での失態だ。
復興の象徴が崩れるさまを他国の者達に見せてしまい。
どれほど恥をかいた事か。
「勇気を奮い立たせろ!
戦え!」
そんな叫びも虚しく、逃げる兵士は耳を傾けることもなく彼を避けるように通り過ぎた。
「立ち止まって戦え!」
もはや彼に逃げる兵士を止める力はない。
次々と兵士が通り過ぎて行く、最後尾にいた彼が最も突出する。
戦いで挽回するしか、もはや無い。
覚悟を決めて立ち止まり、ただ一人取り残された。
「何故、誰も居ないともに戦うと誓ったというのに……」
共に戦った仲間達も気づけば離れていった。
対立、全ては己の保身が招いた事だ。
暗くなったと、空を見上げると巨大な骨の足が迫っていた。
槍を構え突き刺す。
ガシン!
槍を持つ手が滑り槍の端……石づきが地面に付く。
高鉄の槍がグニャリと曲がっていく、止まらない。
「うわあぁぁっ、止めろ!」
クークリフは倒れ、全身鎧だけが最後の希望だった。
「待て! 何故だ……」
だが、そんな物は紙切れ同然で形状を保つことも出来ず押しつぶされていった。
何百トンもの重みが加わったのだから同然だ。
即死だった。
英雄として祭り上げられ利用されているだけとも知らず、散った哀れな男であった。
そんな彼の頑張りは期待すらされていない。
同刻に、王子は婚儀を初めていた。
主要各国の客人は、王国との外交を進めるために数日前からやって来ていた。
重要な会議既に終わり、後は婚儀での宴会を楽しむだけである。
「……予定と違う。
それに何か不吉な気配が迫っている」
青楓は風太に扮して、会場へと足を運んでいた。
並び歩くナールルネは落ち着いた様子で微笑む。
「何か騒ぎが合ったのでしょう。
日程が変わることは、良くあることですから気になさらないように」
各国の主要な人物が集まる事など滅多にない。
敵対者にとっては、絶好の好機である。
予定を変える事によって、攻撃を失敗させる狙いがあった。
「もしもの時は俺に付いて来てくれ。
君を絶対に守ってみせるから」
能力不足で追放されるような異界人である。
むしろ、ナールルネが青楓を守らなければならない。
そんな事情がありつつも、今は風太として相手をしなければならない。
「フフッ。
期待しておきます」
「にゃーん♥」
足元を黒猫姿のクロニャが歩いている。
少し前までは、何処かへふらふらと散歩して居なくなってたのだが、いつの間にか側にいた。
変身している影響なのか、演技なのか猫に近い動きする。
自由気ままで、本物の猫かと錯覚するほどだ。
ナールルネは動きを封じる為にクロニャを抱き抱える。
「猫を連れて行けるの?」
衛生管理や猫アレルギーに配慮して拒否されるかも知れない。
不安材料を少しでも減らすなら、影の中に隠れていた方が良いだろう。
そんな青楓の不安を不思議そうに、ナールルネは黒猫を撫でて可愛がる。
「ペットはアクセサリーと同じ。
持っている限り、責められたりはしないわ」
持つもの特権であろう。
猫を飼えるほどの富を持っている自慢となる。
価値観の違いに青楓は戸惑いつつも、微笑んで誤魔化す。
ゴミを分別せずに廃棄していたのを思い出し、衛生は気にしないのだと納得した。
それは嫌がらせだった事は、解っているが……。
「俺が持とうか?」
「気遣ってくれてありがとう。
でも、これは私に任せて」
入口に受付のメイドが立っている。
招待状を渡すと、テーブルの上に並べられた仮面を選ぶように勧められた。
「ご自由に、ご利用下さい」
要人の暗殺を警戒し、仮装を推薦しているのだろう。
目元だけを覆う仮面だ。
「君に似合うのは、星。
この夜を感じさせる、煌めく夜空が描かれたのはどう?」
「貴方は月にして」
仮面をつけるなら変装する意味は無かったと思いつつ装着する。
テーブルが2列に並び、その間を赤い絨毯が真っ直ぐに伸びている。
民は食料制限が掛けられ、主食の小麦が配給制となっていた。
収穫期まで際どいにも関わらず、そこに並んだ料理は豪勢で贅沢の限りを尽くしたものであった。
婚儀が始まるまでは飲食はしないようで、楽団の演奏に合わせて踊りを楽しんでいる様子が見られた。
「少し印象付けるためにダンスを楽しんで来たら?
私は見ているわ」
「男女で踊っているように見える。
俺だけ一人で踊るのか?」
「腰に手を当てている女の子が居るでしょう。
隙な相手を選べば良い」
女の子達が楽団の横に並んで立っている。
目立つだけで誰でも良かった。
赤髪の女が挑発するように手を伸ばす。
「俺と一緒に踊ってくれるかい?」
「喜んで」
振る舞いを身につけるために特訓の日々。
その中にダンスがあった。
彼女の腰に手を当て、ぐっと引き寄せ密着させる。
ゆったりと踊りやすい曲に合わせて、楽しくグルグルと回りながら舞う。
数人が踊っていたるが、それは自分達が楽しむだけ。
だが二人は違う囲う群衆に見つける。
そんな大体さと魅力があった。
場を華麗で素早く移動し群衆の前に来るとひときわ目立つ大胆な動きで派手に舞う。
全体を動き回り、しっかりと見せ場を作っていた。
音楽の終わりに合わせ、最後を決める。
熱狂する声、拍手が包む。
ただの前座、暇つぶしのダンスに過ぎない。
なのにどうして、人は興奮するのだろうか。
それは熱意、真剣さに心を打たれるからだろう。
「あら少し、からかって上げようと無茶な動きをしたつもりなのに」
「フフッ。
じゃじゃ馬で楽しかった」
「私はサーシャリよ」
「俺はフータ」
「あのフータに会えるなんてとっても嬉しいわ。
また、今度……」
二人は別れる。
夜空の星が見え始め、花火が咲き乱れた。
「かぎやー」
「何のおまじない?」
「……迂闊。
えっと、あの打ち上げ花火の事」
この世界にかぎやは無い。
玉国の元貴族という設定なのに、異界の文化で語るのは大失態である。
青楓は聞かれて居たら致命的だと顔が青ざめていた。
「ふふふ……。
大丈夫、誰も気にしないわ」
打ち上げ花火自体が珍しく、人々の関心は空に向かっていた。
他に召喚された異界人の知恵なのだろう。
「新婦の登場です!
拍手でお迎え下さい」
二人の前を、ウエディングドレスを着た姫が通り過ぎる。
拍手が巻き起こる。
姫は絨毯の先に立つ王子に向かって歩みを進めていた。
計画通りに事が進んでいれば、姫は現れないはずだった。
「彼氏君は間に合わったのかな?」
「予定よりも早く初めたから。
私達で止めないと……」
そんな二人を止めるように、フードで顔を隠した聖女ユークアが立ちはだかった。
「彼女は偽物です」
衝撃的な言葉に動く機会を逃す二人。
「じっと見守って下さい」
聖女の言葉を信じ待つしか無い。
もし動いていたら、反逆者として処刑される未来もあっただろう。
盲信する青楓と違い、ナールルネは疑いの目で睨んでいた。
偽の姫が王子の前に到達した時だ。
「さあ、私の愛を受け取って!」
スカートの裂け目から、剣を抜き切りかかったのである。
風切り音が響き、王子が切られたかのように見えた。
剣筋は見えざる衣によって大きく逸れ、手にかすり傷を負わせた程度だった。
「乱心だ! あの者を捕らえよ!」
偽の姫はもう一撃を加えようと剣を振るった。
バリンと剣が折れ、刃が天を舞う。
「必ず殺す!」と吐き捨て、偽の姫は人混みを気にせずに突き進む。
折れたとは言え、ナイフほどの長さがある。
観客達は逃げるように避け、進もうとする兵士の邪魔となる。
偽の姫が、青楓達の前を取りすぎた時だ。
猫姿となったクロニャが偽姫の影に入り込み後を追う。
大混乱となった会場だが、直ぐに静寂を取り戻す。
3人を残し、殆ど人が居なくなっていた。
「説明して欲しい。
目まぐるしく状況が変わって良く解らないわ」
ナールルネはユークアの手首を掴み、逃さないようにきつい声で言った。
計画はユークアが仕組んだことで、風太は乗っかっているだけだ。
もし使い捨ての道具にされるのであれば、風太に黙ってユークアを手に掛ける覚悟を決めていた。
「上を見なさい」
城と塔を繋ぐ橋の上に何かを担いでいる人が歩いているの見える。
顔は遠くて識別ができない。
「あれが彼だというの?」
「はい、本物の姫も連れています」
「それなら、私達の役目も終りね。
迎えに行きましょう」
「いいえ、まだ貴方達には活躍してもらいます。
迫りくる脅威に打ち勝つまでは終われません」
青楓はにっこりと微笑む。
「うちに出来ることなら、頑張る。
その代わり解っているよね?」
うっかり言葉使いが素に戻っていた。
感がいい者が居たら気づけたかも知れない。
ユークアは青楓に口づけをするふりをする。
「まだ気を抜いてはいけません。
愛する貴方の為に……チュッ」
「……むっ」
「北門が開いています。
あの化け物を撃退して下さい」
「任せてくれ。
君はどうするつもり?」
「準備を済ませてから、すぐに行きます」
祝の席に相応しくないと武器を取り上げられると思い手ぶらで来ている。
魔法が使える風太ならまだしも、青楓は適正がなく使えない。
ナールルネは止めるように阻む。
「待って、正気?
どうやって対処するつもり」
「俺に考えがある。
見た感じ、がしゃ髑髏の一種で悪霊の集合体に過ぎない」
「アンデットを撃退するには火の法術が扱えなければ話にならないわ。
無謀なことはやめて」
「火は必要ない。
大切なのは祈り、想いの力……」
「意味がわからない。
私達は生き残って彼と一緒に暮らす。
無謀な挑戦に挑む必要はないわ」
「君の言い分は解る。
けど俺なら、命を救うために動くだろう?」
風太なら、人助けもするだろう。
それは人々を善であると考えているからだ。
悪だと知れば、切り捨てる冷酷さも持ち合わせている。
「ここの人々は、自分達が生きるためにどれだけの罪を犯してきたか。
守るに値しないわ」
「そうだとしても、俺には等しく救う命に思える。
君だけでも逃げると良い」
青楓は甘い……。
知っている裏の事実を話しても意味はないだろう。
見捨て一人だけ逃げ帰ることができようか。
「そこまで言うなら、最後まで見届けさせていただきます」
実際に近くで見れば気が変わるかも知れない。
そんな甘い考えも抱きつつも、いざと成れば意思に反しても助ける。
ナールルネは、立てかけてあった旗を手に取る。
「武器は必要ない」
「兵士を集めるたい時に使えるわ。
士気を鼓舞するにも」
二人は、北門を抜け出た。
迫りくる骨の怪獣の側面がみえる。
雲を貫こうかという巨大さが、街を覆う幕壁を模型のような錯覚に陥らせる。
簡単に踏み潰され崩れるのではないのだろうか。
「俺はフータ!
俺に任せて撤退しろ!」
なすすべもなく手をこまねき見ているだけしか出来ない兵士に向かって叫んでいた。
ナールルネは、青楓が気が狂ったのかと疑う。
数万の兵士ですら、止めることが出来ずに立ち尽くすことしか出来ない化け物だ。
それを眼の前にして、怯えるどころか気合が入って勇ましく向かっているのだ。
「勇気あるものは、フータに続きなさい!
あの騎士団を撃退したのは彼よ!」
保守派の騎士団を一つ壊滅させことは、広く知れ渡っている事実だ。
指導者を失い、途方に暮れていた兵士達が集まってくる。
「フータ! フータ!」
狂気に包まれた人々のように、名前を叫びながら行進がする。
一体感が勇気を生み、絶望していた心から闘志を呼び覚ましていた。
(この状況は不味い。
でもどうして、こんな事に……)
ナールルネは困惑を隠せない。
仮に王子がやって来たとしても、これほどに士気が高揚しただろうか?
ありえない。
誰もが逃げ出し、まとまる訳がなかった。
そんな臆病風に吹かれた者達だらけの中を進むのは、よほどの者でなければ出来ない。
心くじけ逃げても誰も文句は言わないだろう。
それが理想だったに、どうしてこうなったか解らずにいた。
兵士が青楓に駆け寄る。
「フータ殿、どのような方法で撃退するのでしょうか?」
「まずは足を狙って動きを止める」
「では、直ぐに正面に配置します」
青楓は首を傾げて不思議そうに思う。
進路方向に立っても、ただ踏み潰されるだけだ。
「君たちは命を粗末にしたいらしい。
犬死にするのは結構、でも残された家族や友が悲しむ事を忘れずに」
クークリフのように敵の前に立ち阻む以外の方法は考えていなかった。
兵士達は困惑して動揺が走る。
「……はい。
ではどのようにすれば良いのです」
「側面から狙う。
進行方向に立のは危険」
「了解」
兵士の動きは素早く、直ぐに側面から攻撃が始まる。
攻撃すれば、進路が変わり自分達に向かってくるだろうと考えていた。
骨の怪獣は、全く気にす様子もなく真っ直ぐに街へ進んでいく。
壁に届こうかという所まで迫っていた。
青楓は祈りを捧げて貯めた気を手に集めていた。
「奥の足を狙う。
レベルマックスのファイアーボルトォォォ」
言葉と同時に、貯めた気を放っていた。
霊感がなければ見えない、気の塊に兵士達は困惑する。
何も起きないのだから、法術が失敗したかのように思われた。
グオオオォォォォ!
今まで、どんな攻撃を受けても反応を示さなかった骨の怪獣が初めて雄叫びを上げた。
奥の脚部の一部が崩れ、地面に落ちる。
静寂後、見えないほど早く飛んで当たったと解釈した兵士達が歓声をあげた。
「おぉぉぉ! フータ! フータ!」
「家族の思い出、温かな日常。
幸せを思い出し、願う時!」
青楓は祈りを捧げる。
兵士達も真似をして、家族との思い出に幸せな日々を祈る。
(これが不要とされた彼女の力……。
確かに、これはあってはならない)
夜にも関わらず、骨の怪獣から人魂が抜け出て天に昇る。
その膨大な数の僅かな光が、柱となって天に伸びる。
聖なる衣に身を包んだ聖女ユークアが青楓の隣に立つ。
「フータよ。
この神聖な剣を使いなさい」
誰もが目を疑う。
練習用の木剣に兵士達は動揺を隠せない。
神殿に飾られてる白銀の聖剣は、金装飾が施されて立派なものである。
「はい」
兵士達は困惑しざわめいていた。
あんな木剣が聖剣な筈無いと……。
「私を疑うのですか?
貴方達は祈り見守っていなさい、彼が証明してくれるでしょう」
青楓は木剣を高々と突き上げた。
「邪悪な力で束縛している呪詛を断ち切る」
骨の怪獣は術によって生み出されたものだ。
当然、術式が組み込まれて形成している。
それを破壊すれば、維持ができなくなり崩壊する。
風太が居れば止めていただろう。
なぜなら膨大な悪霊を閉じ込めている器でもある。
それが壊れれば、赤い月が発生し膨大なアンデットの群れが街を襲う。
骨の怪獣の比ではない被害が出るだろう。
当然、それを知らないナールルネだったが、理不尽な扱いにキレた。
木剣を奪い取ると、地面を叩きへし折ったのだ。
「こんな脆い木剣が聖剣だと言うの?
貴方はフータを殺すために無茶を言ってるわ!」
「余計なことをしてくれましたね。
許しませんよ」
「わざわざ出向いたのですから、ご自分であれを撃退して下されば良い。
形だけの聖女に出来るとは到底思えませんけど」
実力も才能もあり、聖女の地位は形式で選ばれたものではない。
「ええ、解りました。
私がただの飾りではないことを示しましょう」
ユークアは折れた木剣を持って骨の怪獣に向かう。
青楓も横に並び歩く。
見ていた兵士達は、困惑したが付いていこうした。
「邪魔をしないで。
貴方達が行って何が出来るというの?」
「貴様は何だ」
「私はナールルネ。
フータの妻です」
報奨として贈られ女だ。
あの時は、死にそうで顔色も悪く暗い印象しかなかった。
だが今は、凛として強く勇ましくなって別人のよう。
「あの……、まさか……」
兵士達は驚き、ざわめく。
男によって女は変貌するという、不思議なことではないのかと……。
(どうして行ってしまうの。
見捨てても良かったはずなのに)
聖女と巫女、立場が違っても神に使える身である。
意気投合するのに時間は掛からない。
「浄化の舞で、魂を浄化します」
「私にも出来るでしょうか?」
ユークアは不安げだった。
聖女と言っても、アンデットを消滅させる力は持ち合わせていない。
そんな事ができるなら、死者の森なんて不名誉な土地は存在しなかっただろう。
「ええ、うちの真似をして」
手を扇に見立てて、ゆらゆらとゆくっりと舞を始める。
そこに桜の木はないと言うのに花びらが舞う。
幻覚なのか、それとも現実に起きていることなのか?
ユークアは花びらを掴もうとするが、空気しか掴めない。
「何をしたというの?」
「うちを信じて、ただ救いたいと祈って」
ユークアは真似を始めて、桜吹雪に感動し気持ちの良い空気感にうっとりする。
二人の舞が揃い始めると、骨の怪獣はうめき声を上げる。
立ち止まって一歩も動かないのは、足が損傷したからではない。
たどり着いた、ここが故郷だと感じたからだ。
その感動が、うめき声となった。
骸骨の眼から涙は溢れない、なのにポタリと雫が落ちる。
桜の木々に覆われた、異世界の春。
原住民が見たことのない世界だと言うのに、心地よく美しい故郷のような暖かさを感じるのだった。
「ああ、素敵です。
こんな世界があるなんて信じられない」
「これうちの記憶。
これからはユークア、貴方の良き世界を見せてもらいます」
人々が行き交う、日常の風景。
祈りを捧げる人々に、安らぎを与える言葉を囁く。
骨の怪獣の表面にヒビが入り崩壊が始まる。
悪霊が浄化され、支えていた力が弱まり維持でき無くなっていた。
そのまま、浄化の舞を続けていれば静かに消滅しただろう。
王子の右腕……、大男グーゼがやって来てナールルネから旗を奪いった。
「何を悠長に眺めている。
今こそ絶好の好機、全力を持って打ち砕け!」
「私の戦果を横取りつもりですか!?」
「足止めしたことは、褒めてやろう。
だがそれだけだ」
「なっ……、今もフータは戦っています。
見えないのですか?」
「尊い犠牲もやむなしとの事だ。
数人の命で何万人もの救われる、彼も本望であろう」
「せめて最後まで、猶予を与え下さい」
「夫の生命、おしさに好機を逃せというのか?
それでも貴族だと、片腹痛い」
グーゼは手に風の力をため、ナールルネの腹に直撃させた。
衝撃波で吹き飛ばされ、地面を転がる。
それは受け身であり、致命傷は回避したが、それでもすぐに動ける状態ではなかった。
(強すぎる……。
私にはとても止められない、逃げて!)
旗が振り下ろされると攻撃が始まった。
法術の使えない市民兵が殆ど、術杖に頼るしか無い。
杖を数人で握り発動する。
同時に力を奪われた彼らは倒れた。
そんな無茶な攻撃が繰り広げられている。
骨の怪獣は身を屈め守るような動きをみせた。
それは二人を守るために、自らの意思で動いたのである。
『ありがとう……』
故郷の幸せな夢に浸り、怨念が消えていた。
そんな魂の声が蓋に響いていた。
「ありがとう」
「早く、ここから離れましょう。
これ以上は、巻き込まれてしまいます」
二人は兵士達が居ない方向へと逃げていく。
骨の怪獣は尻尾をふり、流れ弾を撃ち落とし二人を守った。
グオオオォォォ!
立ち上がり、前へと歩みを進める。
それは攻撃の向きを変えるためだった。
抜け殻同然の体では、攻撃に耐えられない。
放っておいても崩壊するほどに弱っていたからだ。
壁が踏み潰れる。
街へと入り、家々を踏み潰し砂煙を舞い上げる。
骨の体が崩れながら歩みは止まらない。
逃げ出し、誰も居なくなった無人の街……。
骨の怪獣が目指したのは、そびえ立つ城だった。
「早く止めろ!」
爆音と共に怪獣の腕が吹っ飛び地面に落ちる。
全方位から、城塞兵器の攻撃が始まった。
ドボーン!
骨の怪獣の足が堀の水にハマり水しぶきが上がる。
牙が城に届こうかという時だ。
体が2つに割れ、崩れ落ちた。
勝利に人々の歓声が沸き起こる。
恐怖心が、被害を拡大させたとは知らずに。
成したことが正しいと誰もが信じた。
リシャール王子は、骨の怪獣討伐の報告を受けて笑みを零す。
あれほどの巨大な化け物を撃他としたを世に広められる。
手の傷は殆どかすり傷だが、印象を強める為に包帯を巻いていた。
真実は、見えていることが全て。
表面下で起きている事など誰も詮索することはない。
のんびりとワインを口に含み酔を楽しむ。
それわ阻むように兵士がやって来る。
「城に侵入した者を取り逃がしました」
王子は傍にあったワインのグラスを手に取り、その兵士の顔面にぶっかける。
「姫はどうなった?」
「無事でした、どうやら財宝を奪う目的だったと思われます」
「アリの穴から崩壊するらしい。
聞いたことがあるか?」
「いいえ、初耳です」
「小さな失敗を許してはならないと言う意味だ。
それが大きな失態につながるとな」
王子が席を立つと、悲鳴が聞こえる。
あの兵士が処刑された。
「気が早くて、困ったものだ。
絨毯を血で汚したくはなかった」
王子は急いで姫の元へ向かう。
階段は直通ではなく、通路を通り登らないといけない構造だ。
これでどうすれば逃がすというのだろうか。
兵士の多くは庶民あがりで能力に問題がある。
訓練して鍛え上げた騎士に比べて、見劣りするのは仕方ないとは言え、これほど無能だと思っていなかった。
「庶民でも、そこそこは使える人材がいると期待したのはやはり愚かだったか……。
しかし、もう後戻りは出来ない」
異界人を利用すれば、民に頼らずに戦も出来るだろう。
訓練が終わるまでの辛抱。
アメジア姫は呑気に本を読んでいた。
「お怪我はありませんでしたか?」
「はい、賊はここに宝があると思っていたようです。
ですから貴方に貰った物を渡すと、絨毯に包んで出てきいました」
「無事で何より、また新しく用意させましよう」
姫は特に変わった様子もなく、読書を続けている。
無断で婚儀を早めた事も知らないのだろう。
純粋で真面目な姫に哀れさを感じつつも、計画は既に動き出している。
暗殺者として処刑されるまでは、幸せに過ごして貰おう。
「ええ、ありがとう」
開いたままの、棚に近づく。
確かに盗まれて装飾品が無くなっている。
王子は、綺麗好きな姫にしては違和感があった。
どうして閉じること無く放置していたのだろうか?
「昨日のスープは如何でしたか?」
「はい、美味しかったです」
「貴方の嫌いなグリーン豆が入っていましたよ」
それは全くの嘘だ。
嫌いなものは避けるように料理人に伝えてある。
「そうですね」
偽物だと確信を持った王子は腰の剣で姫を叩き切っていた。
手応えは無い。
姫は1枚の紙切れとなって消えた。
青楓の護符である。
最後の一枚をダミーとして、残し油断させるために使ったのである。
「無能共!
この程度のまやかしすら見抜けないというのか!」
その頃、クロニャは森に来ていた。
「とても哀れ、
捨て駒として処分される運命とは悲しすぎます」
人の姿……いや普段の猫耳の姿に戻っていた。
足元に息絶えた偽の姫が転がっている。
そして、その周りに人の首を咥えた魔獣が取り囲む。
クロニャによって作り出された魔獣である。
役目を終えると黒い液体となり地面に解けて消えた。
「8人のようですね。
連携も素晴らしく、優れた力を持っていました」
偽の姫を殺した謎の集団である。
彼らの後ろで糸を引いていたのは、王子で間違いないだろう。
クロニャの関心は偽姫の方だった。
彼女の魂を摘むと飲み込む。
「にゃあー。
美味しい……」
お腹を擦り、満足げに微笑む。
魂を食べても、腹がふくれるわけではない。
残された記憶を覗き見できるのだ。
偽姫は、大貴族の娘として生まれロベルアと名付けられた。
第一王子派であった為に粛清を受けたのである。
その時から復讐に闘志を燃やし、牢獄の中でも体を鍛え続けた。
王子の側近グーゼがやって来る。
一見それは王子の暗殺計画だが、信用できるものでは無かった。
明らかな罠、利用されて殺されるのは明白だろう。
「武器はしっかりと調べさせてもらう」
「構わない。
じっくりと調べると良い」
「王子の守りは鉄壁で打ち破れないと聞く。
どう対処するつもり」
「婚儀では隙が出来た所を狙えば良い。
そのような場で油断をしているだろう」
あの王子が油断をして、簡単に殺されるわけがない。
だが断れば、二度とチャンスは巡ってこないだろう。
「運が味方してくれることを祈る」
牢の鍵か開く。
飛び出して逃げ出したとして、出口まで到達出来るだろうか?
それには3箇所を突破しなくてはならない。
この男を人質にすることも不可能だろう。
逆に押さえつけられて死ぬ。
それほどの体格差がある。
「聞いていたよりも、大人しく従ってくれるようで安心した。
もし歯向かってきたらと心配して居たが取り越し苦労だった」
「利害が一致している間は逆らう意味はない」
看守には話がつけてあるようで、素通りさせてくれる。
城まで誰にも阻まれること無くたどり着く。
準備は完璧といったところ。
着替えも用意されていた。
ウエディングドレスに細工が施され武器を取り出しやすくなっている切れ目がある。
「私の力だけでは不足している。
身体強化を掛けてほしい」
自ら掛けることが出来れば最善なのだが、会得しているのは攻撃系の法術だけ。
「そこに呪薬がある」
「毒が仕込んであったら終わる。
完全に信用したわけじゃない、神官に頼みたい」
「良いだろう。
手配する」
予期していたのか、聖女ユークアがやって来る。
「身体強化の祈りを捧げます。
貴方に力を……」
「力を試したい」
「どうぞ」
鉄の棒を受け取ると、ねじり曲げる。
粘土で遊んでいるような柔らかさだ。
これだけ強化されれば反動もきつい。
「どれぐらいで効果が切れる?」
「半日程、疲れを感じ始めたら眠り下さい」
時が来る。
婚儀が始まる時間となった。
鼓動が高まり高揚する、自分の婚儀ではないというのに雰囲気に飲まれていた。
一歩一歩、赤い絨毯を進み王子の前に来る。
止められない。
憎悪と憎しみに顔は険しく、もはや鬼の形相となっていた。
剣を抜き、切りつけていた。
理性で止められるものではない。
刃に血が付いている。
殺せる。
渾身の二撃目、手応えはなく剣が折れた。
やはり細工がしてあった。
捨て台詞と共に逃げ出す。
身体強化で、動きは超人のように人の域を超えている。
早い、風が顔面を叩きつけ阻むようだ。
人混みを抜ければ、城を抜け出すのは容易い。
壁すら軽く飛び越える。
堀の水に落ちる前に、風の盾を作り出し弾く。
トランポリンのように跳ね、一気にに堀を超えたのである。
「……流石、聖女様の力」
人間の体は、肉体が壊れないように制限が掛けられている。
それを取っ払い、更に強化を施すのである。
こんな事を続けていたら、体がぼろぼろになってしまう。
それほどに強化されているは明らか。
だからこそ、急ぐ必要があった。
半日も肉体が持つわけがない。
全力で駆け抜けると、追手は直ぐに振り切れた。
堀に水を引き込むための水路、鎖で閉ざした水門の前に到着する。
小舟が止まり、小汚い男が待っていた。
「さあ、船を出して」
「その格好で、外に出るつもりか?
ここに着替えが用意してある」
小舟に被せてあった布を取ると、木箱に服が収められているのが見えた。
「それは助かる。
乗りながら着替えるから、早くロープを外しなさい」
小舟を止めてあるロープを外そうと男が背を向けた時だ。
ロベルアは背後から折れた剣で男に切りつけた。
ガリッと骨が切り裂かれる感触。
「うぎぁっ」
ドボン!
男は転落し、水面が赤く染まる。
「私を甘く見るから」
流石にウエディングドレスは目立つ、用意された服を調べる。
特に何か細工は無い、サイズもきっちりあって問題ない。
それは呪術の知識がなければの話だ。
身体強化の呪薬をくすねて来ている。
これを軽く振りかけると、ほんのり光る。
「追跡の呪詛が掛けられている。
やっぱり初めから生かすつもりはなかったということ」
小舟を覆っていた布は血が付いている。
血の付いた方を内側にすれば、全身を隠せる。
下着姿になり布を覆う。
まるで難民のような姿だ。
骨の怪獣の出現によって、西門が開き脱出する人々で混雑していた。
紛れ逃げ切れるだろう。
門を抜け、森へと逃げ込む。
この森を北に抜ければ、玉国……、そして帝国へ逃げられる。
「次こそ……」
何が起きたのか。
倒れて木の葉が顔にべったりと付いていた。
「えっ?」
痛みが襲ったと思うと、両足が切断されていた。
「あぎゃあぁぁぁっ」
背が熱く、耐えきれない痛みが襲う。
何が起きているのかも解らない。
このままだと死ぬ。
手で体を引きずりながら逃げようと必死だった。
暗殺者達が遊ぶかのように、殺さずに痛めつけようとじっくりと攻撃を敷かれていた。
「逃げられると思っているらしい。
アハハ……」
「にゃーん♥」
「猫か、あっちに行け」
「彼女に話を聞こうと思っていたのに。
酷いことをするのですね」
「誰だ?」
クロニャが姿を現したと同時に、影から魔獣が飛び出す。
悲鳴をあげる余裕もない、程に一瞬だった。
魔獣達は、首を咥えて戻ってきたのである。
「御主人様なら、これぐらいの戯れぐらい余裕なのに。
あまりひ弱すぎて楽しむ余裕もないのですね」
回想が終わる。
クロニャは笑みを浮かべて、どうしようか迷う。
「私の下僕も欲しいけど。
御主人様は許してくれるかしら?」
暗殺者達の魂とロベルアの魂をかき混ぜる。
魔族として蘇らせるのも一興。
それともアンデットとして、玩具にするのも面白そう。
ニヤニヤしながら迷う。
「どっち良い?
にゃ~ん♪」
『私は生きたい……、助けてくれるなら何でもする……』
「信用できない」
『……貴方の力なら、出来るのでしょう。
私を束縛し従えさせることも』
「御主人様の判断に任せよう。
良くー考えて言葉を選ばないと、どうなるか解らない」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
【完結】発明家アレンの異世界工房 ~元・商品開発部員の知識で村おこし始めました~
シマセイ
ファンタジー
過労死した元商品開発部員の田中浩介は、女神の計らいで異世界の少年アレンに転生。
前世の知識と物作りの才能を活かし、村の道具を次々と改良。
その発明は村の生活を豊かにし、アレンは周囲の信頼と期待を集め始める。
構造理解で始めるゼロからの文明開拓
TEKTO
ファンタジー
ブラック企業勤めのサラリーマン・シュウが転生したのは、人間も街も存在しない「完全未開の大陸」だった。
適当な神から与えられたのは、戦闘力ゼロ、魔法適性ゼロのゴミスキル《構造理解》。
だが、物の仕組みを「作れるレベル」で把握できるその力は、現代知識を持つ俺にとっては、最強の「文明構築ツール」だった――!
――これは、ゴミと呼ばれたスキルとガラクタと呼ばれた石で、世界を切り拓く男の物語。
スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する
カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、
23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。
急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。
完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。
そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。
最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。
すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。
どうやら本当にレベルアップしている模様。
「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」
最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。
他サイトにも掲載しています。
最強賢者の最強メイド~主人もメイドもこの世界に敵がいないようです~
津ヶ谷
ファンタジー
綾瀬樹、都内の私立高校に通う高校二年生だった。
ある日、樹は交通事故で命を落としてしまう。
目覚めた樹の前に現れたのは神を名乗る人物だった。
その神により、チートな力を与えられた樹は異世界へと転生することになる。
その世界での樹の功績は認められ、ほんの数ヶ月で最強賢者として名前が広がりつつあった。
そこで、褒美として、王都に拠点となる屋敷をもらい、執事とメイドを派遣してもらうことになるのだが、このメイドも実は元世界最強だったのだ。
これは、世界最強賢者の樹と世界最強メイドのアリアの異世界英雄譚。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる