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5章 竜国編
36話 平凡な日
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「この地下には数千度のマグマ溜まりがある。
その肉体で耐えることが出来るか試してみるか?」
風太は竜人の里を抜けて帝国に行くつもりだった。
竜人レモプティは騙し、竜人の長老であるバッファムーの元へ連れてきたのである。
虹色に輝く水晶のような鱗のドラゴン、大きくはあるがレモプティの倍程度に過ぎない。
それは問題ではない、二本の角の枝分かれが21もある。
21もの魔法を同時に操れると言うこと。
強敵であるのは間違いない、並の者であれば戦いと成れば死を覚悟するしか無い。
風太は笑みを浮かべ、勝機を見出そうと冷静に思考を巡らせていた。
戦いを避けるのが最善手なのは言うまでもない。
「俺はただ帝国に行きたいだけ。
拒む理由を教えて欲しい」
背後に居たレモプティが抱きつき、耳たぶを甘噛する。
視線を逸らす事は死を招く。
何をされても風太は真剣な眼差しで動きを見ていた。
「我が孫娘を支配し、財宝を奪ったではないか。
許されざる大罪なのは明白」
龍の爪が地面を軽く叩き、揺れる大地。
振動に乗せて、術を放ち地面に仕込んでいる。
それも風太を包囲するように配置し様子を伺っているようだ。
そんな事をされては流石に冷やかしたくなる。
風太は際どく歩き回って見せながら、返事を返した。
「残念だが、全部使ってしまってもう無い。
諦めて回収する別の方法を考えたほうが建設的だ」
お互いに交渉する気はない。
仕掛ける頃合いを見計らって居るだけ。
初めから和解はない、出会った瞬間に感じたことだ。
地面に転がっている屍の山。
怨念が飛び回り、危機を知らせてくる。
歴戦の戦士たちの躯、それを飾ることで権威と力を示しているのだろう。
風太の挑発的な振る舞いに、乗っかり攻撃を仕掛けても良かった。
だが踏み止まる。
バッファムーが数千年も生き延びて来たのは、その直感のような危機感を察知する能力に長けていたからだ。
「では、魔族を撃退して貰おうか。
既に我が子達が挑み破れた、それ程の強敵だが出来るか?」
レモプティに体を引き寄せられしっかりと抱きつかれた。
胸の柔らかい感触、布を通じて温かみが伝わる。
とても邪魔で振りほどきたいが我慢するしか無い。
「復讐は自分の手を使えば良いだろう」
「その隙に通り抜けるつもりであろう。
妥協案を受け入れぬなら、この場で引き裂くも良いか」
「解った。
提案に乗ろう」
冷や汗をたらす風太、足元に魔法の気配があったからだ。
一瞬の隙を突かれたのだろう。
油断ならない相手だ。
もし断ったらレモプティを犠牲に起動していたに違いない。
風太は漂う霊を操り、バッファムーを囲うように陣を作り魔骸骨を何時でも出せるように準備していた。
どちらが優勢だったのかは解らない。
戦いが始まっていたらお互いに深手以上……、死もあり得た。
その場から離れた風太の全身から汗がこぼれ落ちる。
暑かったわけではない、その場の空気……死闘の重圧だ。
「ちょっと、何で私のことを知らん顔するの?」
「久々に怖いと思った。
怪獣とは違う精神がすり減らされるような奇妙な感じ」
「龍の波動の影響ね。
本来の力を発揮できなくなるらしいわ」
「君の目から見て勝算は?」
「貴方に全賭けしているのに、それを聞くのね。
お爺様の初手は意味を成さなかった」
「まさか、俺なんか一瞬で黒焦げになっていただろう?
守りが貧弱過ぎて話にならない」
「やっぱり、見抜いているようね。
だから避けるんでしょう?」
風太は笑って黙った。
わざわざ目立つように屍の山を置いていたのは、人がそれを嫌うからだ。
つまり身近に隠しておきたくて、人を遠ざけたい物がある。
武器が隠してあると読んだ。
魔骸骨が攻撃する間があれば勝機があるというわけだ。
憶測だけで、竜人族の文化も知らずに、勝手な思い込みで立て策に過ぎない。
全く的外れで、ただの装飾品だったなら終わっていた。
「なんで君はベタベタ触ってくるんだ」
「デェヘヘヘ……。
もうあんな猛烈な恋文を送って置いて……」
サラに任せた返事ことだろう。
竜人の機嫌を損ねないようにとは頼んだが……、気を利かせすぎるのも問題だ。
「帝国にある我が家に戻るまではお預け。
冷静に振る舞ってくれ」
「もう、イケず。
恥ずかしがらないで、一緒にいるだけでも心踊るから」
手を握って離さないようだ。
それぐらいは構わないが、それ以上に抱きつかれたりするのは流石に暑苦しい。
時折、地面から蒸気が噴出する。
直撃すれば全身を火傷、死に至る程である。
そんな危険な場所にいる、レモプティは風太を守りたいと思いなるべく接触している。
下心だけでの振る舞いではない……、
と本人は言い訳しつつ、にこにこと笑みを浮かべ楽しんでいるのであった。
「さて、残り時間は短い。
魔族を撃退して帰lりたいけど……」
「封印で力が出せないのでしょう?
本当に戦うつもりなの」
封印は完璧なものではないらしく、欠陥がある気がしている。
何度も魔法を使っていると稀に何も制裁が発生しない時があった。
逆に魔法を使おうとすると、即反応したりと斑がある。
それを特定出来れば、自在に扱えるようになる。
「策を考える時間が欲しい。
ゆっくりできる場所はないのか?」
「竜人の里があるわ。
連れて行ってあげる」
レモプティし風太を抱きしめると、浮遊の法術を操る。
ふわっと浮かび上がると言うよりグーンと飛んだ感じだ。
「どういう仕組なんだ?」
「足元に透明なお椀状の障壁を形成し、風を反射する仕組みで飛んでいるわ。
結構早く移動できるけど、慣れるまでは何処へ飛んでいくか解らなくて怖い」
「どうして反射させるんだ?」
「法術を使って、反動を感じたことはある?
風を地面に叩きつけて跳ね返すよりも、帆を張るように自分に向けた方が効率がいいのよ」
銃なんかは反動を受けるが、魔法はそういうものがなくて飛ばす事ができる。
だから自分自身を対象に飛ばせれば……。
高速で飛んでいく。
何処かに衝突してグチャグチャのミンチになる予感に、試してみようという気にはならなかった。
「飛んでいる所見たこと無いし、
普段は使わないのは燃費が悪いからか?」
「まあ、そんな所。
竜形態の方が何かと便利で、消耗も少ないからね」
肉体を変化させるより消耗するのは意外だ。
鳥は骨がスカスカで体重が軽い。
竜も実は見た目の大きさに反して、中身はスカスカで軽いのかも知れない。
地面の一部が垂直にせり上がって出来たような四角い箱状の大地。
魔法で持ち上げて作ったみたいな、自然に出来た地形だ。
草木に覆われた上部に見張りの竜が丸まり寝ている。
片目を開いたがすぐに閉じて動く様子はない。
その横を素通りする。
竜人の里は、幾重にも地層がみえる側面に空いた穴から入ることができる。
入口となる穴には、竜形態で着陸するための台が組まれていた。
「ただいまー」
ピヨピヨと雛の鳴き声が聞こえる。
燕が飛んできて、穴の壁にある巣へ餌を運ぶ姿があった。
「前世だと見かけなくなったけど、ここに転生してきたのか」
「何のこと?」
「いや、冗談。
俺の故郷で見なくなった鳥が居て」
「ふーん。
まあ、気にしなくていいわ」
「鳥は竜に怯えたりしないのか?」
「まあ、私達は野生の鳥を食べないわ。
お互いに関わらないから気にせずに暮らしているだけよ」
俺もと言いかけて、ゼラが野生動物を食料として出したことを思い出す。
あの時は、鳥は居なかったと思うが……。
現地民が取らないとは限らない。
謎の干し肉が、今更ながら怖い。
二人が燕を眺めていると、水色の髪女が奥から姿を表す。
頭に一本の角が生えていて、彼女も竜人なのだろう。
「客人を連れてくるなんて珍しい。
よろしく、私はスキュラチです」
風太は名乗り礼をする。
その様子が可笑しかったのか、彼女は軽く笑う。
「何か失礼でしたか?
礼儀作法とか習ったつもりだったんだけど」
「いえ、私達の挨拶は抱き合うことのなので」
風太は、そういうものなのかと思い彼女を抱きしめる。
彼女が軽く震えているのが感じられて、風太は離れた。
可笑しくて笑っているのだ。
「なんだ?」
レモプティの方を見ると、彼女も笑っている。
「彼女は研究が生きがいなの。
少し付き合ってあげて」
「どういう事?」
スキュラチは風太の体をほぐすように念入りに触り初めた。
「随分、鍛えているようね。
引き締まっていて、魅力的です」
「ちょっと、何だ」
変態が多くて、困ったものだ。
風太は抵抗する気も失せて身を任せてる。
軽いマッサーシのような気持ちよさもあり、悪くはない。
「異界人の肉体がどうなっているのか、謎だったけど。
これは面白い」
「はぁ、何か解ったのか?」
「ええ。
基本的に人間と変わりないようです」
「当たり前だろう」
「うーん、異界とここでは環境が違うらしいです。
記録では、召喚で異界人を呼びたした場合は、生存できる時間が僅か一ヶ月程度」
「大体2年ぐらい、ここにで暮らしていると思う。
なんでそんなに短命なんだ?」
召喚は負荷が高くて肉体が壊れているのか?
でも怪獣は……、一瞬しか召喚できなかったから影響を受けなかった。
うーん。
風太が解をじっくり考えていると、スキュラチはニコッと微笑む。
知識への探求に興味があることに共感したのである。
「淡水魚を濃い塩水に入れるようなものです。
この世界にしか無い、魔素を吸い込むと肉体が侵され息絶えたらしい」
「俺は平気だった。
空が染まるほどの魔素が満ちた場所でも特に異変はなかったし」
「つまり、転生はただの複製ではなく、
この世界に適応するために肉体を改造する目的もあるということです」
今まで召喚魔法があるのにどうして転生が使われているのかを考えた事はなかった。
転生は余計な者を蘇らせる危険性があって、場所を転々と移動する手間もある。
「異界人の成長が早いのも、その副作用なのか?
肉体が強化できるなら、自分を転生させた方が確実だろうし……」
「それは何とも、サンプルが少なくて理論だけでは限界があります。
実際に転生させた人々を調べてみないと……」
風太は一瞬、心当たりがあり目をそらす。
家族を良く解らない実験に突き合わせたくない。
その思いが、皮肉にもスキュラチに気づかせてしまった。
「居たら紹介できたんだけどな。
残念だ」
「私に嘘を付くのですか?
正直に言いなさい」
「……、確かに嘘は良くない。
巻き込みたくは無かった」
「竜人が恐れられていることを失念していました。
私が身の安全を保証します」
キラキラ輝く眼、それは期待と渇望で溢れている。
例え、彼女が絶対的な権力を持っていても、拒否を選んだ。
風太が答えようとした時、予期したのか指で唇を押さえた。
「少し会って話をするぐらいは良いでしょう?
歓迎して、色々と持て成すと約束します」
「レモプティ。
話をして納得したら連れてきてくれ」
レモプティはハイと返すと、竜に変身して飛んでいった。
興奮したスキュラチは風太の頬にチュッ、チュッと口づけする。
「嬉しい。
なんて幸せな日なんでしょうか」
手に入れた玩具を手放したくないと言う雰囲気を感じ取り風太は寒気が襲う。
伝えておかないとズルズルと引き止められる。
それは避けたい。
「魔族を討伐して帝国へ行くつもり。
長居はするつもりはない」
「ええ、長老との会話は見ていました。
奥へ案内します」
洞窟は自然にできた穴らしく、奥に行くと蝙蝠が天井に群がっている。
その下に大きな樽が置かれて糞が溜まっていた。
「凄い悪臭。
鼻が曲がりそう」
「それは肥料や防衛に。
他にも火薬の材料も手に入り、色々と重宝しています」
竜人は魔法に精通した種族たと思っていた。
独自の魔法を操り、肉体を強化することに長けていると。
「それは怖いな。
王国は禁忌として、火薬を封印しているようだけど」
「世界の均衡を壊しかねない代物ですからね。
貴方は作れないのですか?」
「俺には知識がない。
書物で登場した物を見るぐらいだ」
実際は映像で見たものだけで、詳しい分量はよく知らない。
情報を求めている訳でもなさそうで、風太はホッとする。
「興味があるなら教えましょうか?」
「いや、俺は魔法に期待している。
それに兵器は好きじゃない」
怪獣の前では無力だったし、あんな物なくても良い。
銃は怖い。
愛するリアハは貴族、体制をひっくり返そうとする民衆には敵でしか無い。
誰でも使えるようになった時に向けられるのは自分達の方だろう。
「爆薬には欠陥があって、それが魔素による汚染です。
爆発はしますが、同時に魔素をばら撒き周囲を侵食するのです」
「ふーん。
じゃあどうして教えようとしたんだ?」
「秩序を乱す為に知識と言う、猛毒を使うのであれば阻止しなければならない。
試したことは謝ります」
「平凡に暮らすつもりだ。
争いに巻き込まれたりするのは流石にもう良いと思っている」
非日常を創作物として楽しむのは好きだ。
命の危機を感じる状況に遭わなければ、今の世界を楽しめただろう。
自分だけではなく、身近な人達に害が及ぶのは嫌だ。
「私も同じように、平穏であることを望んでいます。
ですが、それを環境が阻むのも事実」
魔族の激戦が続いているのだろう。
王国が敗北していたら、魔族に囲まれる状況になっていた筈だ。
「人間の国と手を結ばないのは理由があるのか?」
「それは私達の支配地を奪い追い出した過去があります。
取り返したいと考えている方も多く、協力関係にはならないでしょう」
分岐点にやってくる。
看板に絵の文字が書かれている。
竜人なら読めるのだろうが、風太にはよく解らない絵の羅列にしか見えない。
「なんて書いてある?」
「私達が行くのは右の通路です」
無回答は、知られたくない何か都合の悪いことが書かれているのだろうかと勘ぐりたくなる。
素直に指示に従うほうが無難だが、好奇心のほうが上回っていた。
「左には何があるんだ?」
「居住区があります。
行きたければ、後々案内します」
「ふーん。
じゃあ何処に連れて行こうとしているんだ?」
「治療施設、魔素に侵食された竜人達が保護されています。
……正確には、邪竜化するまで監禁している場所です」
魔素を浴び続けると四つ耳族が、獣人化する。
同じように竜人も魔素によって理性を失い魔獣と成り果てるのである。
そうなれば、もう戻す手段はなく被害が出る前に息の根を止めるしか無い。
「転生者の体を調べようとしていたのは、
もしかして救う方法を探るためか?」
「勿論、そうです。
本当なら切り刻んで内部構造を確かめたいのですが、流石にそこまでは要求はしません」
妄想にスキュラチはうっとりして、快感を感じているようだ。
狂人研究者ではないのか?
いやいや、一族を救いたいという使命感だろうか。
怖さと信頼したい気持ちが入り混じり複雑な感じだ。
「出来ることがあったら協力する」
「どんな様子なのかを見て欲しい」
到着し、風太は意外な光景に黙した。
だらーんと、寝転び退屈そうにする女達の姿がある。
体の一部が鱗に覆われていたり、片方の翼が腰のあたりから生えていたりと変質の鱗片が伺える。
眼が合うと、暫く見つめ合う。
「男! ひいぃぃぃっごめんなさい!」
彼女は慌てて逃げ出し、何処かへ行ってしまう。
それに反応し、他の女達も慌てて逃げ去り誰も居なくなる。
「なんだ?」
「することがなくて、ゴロゴロと暇を持て余しています。
外に出なければ自由にして良いのですが……」
何もない所に、時間だけを与えられても退屈なだけで辛い。
そこに娯楽があれば天国に変わる。
「遊べるものがあったら喜ぶんじゃないのか?」
「色々と交易で手に入れたのですが、飽きてしまいました。
百年近くもずっと遊び続けられる物なんて無いですから」
「確かに、人の一生と比べて長いな。
もっと状態が悪化してから閉じ込めたら良いんじゃないのか?」
「この場所は魔素が入りこまないようにした、いわば聖域です。
ここから出ると一気に侵食が早まってしまいます」
魔素を吸収することで肉体の変化が早まるということか。
直接、魔素を注入することで魔人になろうした奴も居たが、変化についていけず身を滅ぼす結果に終わった。
自然な形での、魔獣化は肉体が耐えられるのだろうか?
いや、そんな事を考えるなんて。
もしそれを実験したら、人としての何かが終わる気がした。
転生陣での、あの研究者達と何ら変わりない。
知りたいという欲求で、他に迷惑を掛けても構わないなんて考えだ。
「優れた力を持っていても、こんな場所に閉じ込められるしか無いのか。
何にも出来ないのが悔しいな」
スキュラチは風太を抱きしめる。
「ありがとう。
貴方が来てくれてとても嬉しい、彼女達に会ってくれますよね?」
「ああ、勿論だ」
切石を積み上げて作られた建物がある。
扉はなく、すだれが掛けてあるだけだ。
隙間から慌てふためき掃除している姿が見えた。
「……もしかして、掃除中なのか?」
「片付けるように言っておいたのですが。
休眠期に入っている娘も居て、のんびりとしか動けないのです」
「創作の話かと思っていた。
休眠期ってずっと寝ているのか?」
「まさか、竜に変身できなくなり体がだるくなる感じらしいです」
「らしいって、君は違うのか?」
「私は人間と竜人の子です。
人間の血の方が濃いようで、試しましたが出来ませんでした」
「ごめん」
「良いことのほうが多くて。
私はとても幸せです」
ハーフというと差別されて迫害を受けている印象があるのだが……。
それは前世での先入観なのか、創作物に登場するキャラによって作られた幻想なのかも知れない。
四つ耳族はハーフではなく、突然変異の類だからごっちゃにしそうだが違う。
「そろそろ、片付いたかな?」
物音がなくなり静かになっていた。
二人が入ると、取り囲むように待っていた。
バチバチ……と拍手が贈られた。
「ついに私達も大人の階段を上がる時が来ました。
いひひひ……、早く……」
「何を勘違いしているんだ?
ただ見学に来ただけで、君達と何かするつもりはない」
「やっぱり、この汚れた姿が……。
うぅぅぅぅっ」
いきなり泣かれると困る。
風太は困り果てて、スキュラチの方を見るとニッコリと微笑み返される。
なんか嵌められた感が強い。
竜人族の女は胸が豊かで大きめだ。
メロンぐらいはありそう。
薄暗い紫の影が見え、体に点々とそれが浮かび上がるように見えた。
「いやらしい目で舐め回すように見ている。
ははーん、エッチだけしたいなんて考えている変態」
「待て、誤解だ。
異常が見えた、斑点があるだろう?」
「この美しい肌に、そんなものはないわ」
古代の知識なのだろうか。
眼の前に映像ような感じで、肌を切り裂き異物を取り出す光景が見える。
「君達は俺を信用してくれるか?
直せるかも知れない」
スキュラチは困った感じに呟く。
「人間達が行っている儀式は試しています。
魔素を剣に吸着させても意味はなかったわ」
あらゆる可能性を試して駄目だったから、ここに隔離している。
魔素が存在しない異界から来ているのに、どうして解るというのか疑問しか沸かないのは当然だ。
「私はムニア、賭けをしない?
もし治せなかったら、私達の為に一緒を尽くすと」
長い髪は波打ち、黄緑色をしている。
角が二本、3つ枝分かれしていた。
真面目そうな雰囲気の若い女という感じだ。
右足が鱗に覆われて、左足に比べてやや太くなっている。
それさえなければ、魅力的で言い寄られたらドキドキしそうだ。
勝てる勝負を拒否する理由はない。
「ああ、構わない」
「治療を行うのでしたら、奥の部屋です」
中央に台が置かれていて、壁には薬品の棚が並んでいる。
一応道具も揃っているようだ。
大きなノコギリが目立つ、角を切るためだろうか、それとも……。
考えるだけで身震いする。
「消毒してあって、何時でも使える状態にしてあります」
「任せてくれ。
あと血を付けた綿が欲しい」
「はい。
用意します」
ムニアが台に座ると、肩の結び目を外そうとする。
簡単に脱げるのが竜人の服の特徴だ。
慌てて、風太は手を掴み止めた。
「待て。
服は脱がなくて良い」
「ジロジロ見ていたのは誰かな?
治療と言って、触っても怒らないから……いひひ」
「切るのは足だ」
ムニアが青ざめる。
入る時に、どうしてもノコギリが目に入ってしまう。
切ると宣言されたら、もう答えは一つ。
「ちょっと切断は勘弁して」
「安心してくれ。
メスを入れるだけだ」
足を覆う服の布を避けて、右足を出す。
太ももの半分辺りから魔獣化している。
メスを入れるのは、まだ魔獣化していない柔肌だ。
メスを肌に当てるとムニアは恐怖を感じる。
「嫌っ!」
悲鳴とともに風太を突き飛ばそうと手を出す。
竜人の一撃を受ければ吹き飛び壁に叩きつけられてグチャグチャになっていただろう。
紙一重で回避できたのは、日頃の特訓の賜物だ。
「危ないな。
彼女を抑えていてくれ」
「はい。
……でもどうして、今までムニアが抵抗したことなんて無かったのに」
「賭けに勝ちたいからだろう」
「むっ、私がそんなズルはしない。
貴方が怖い気がして……、治療はスキュラチにして欲しい」
どうして儀式では駄目だったのか?
何を取り除いていたんだ?
そして急に抵抗したのは……。
寄生型の魔獣みたいなのが取り付いて居るのではないのか?
危険を感じて、回避しようと精神支配をして操ったとしたら。
「賭けをしたのは俺だ。
君は眼を閉じて待っていると良い」
「はい……」
風太は念の為に、彼女に拘束術を掛けておいた。
メスを入れる。
「痛……、あれ?」
彼女の表情は困惑しているようだった。
反射的に言葉が出たが痛みは感じない。
見えざる衣を応用した透明な幕が痛みの信号を遮断している。
本来なら出血が起きるのだが、それも阻止していた。
切り裂された肌、筋肉が見え何か異物があるように見えない。
おそらく擬態しているのだろう。
ピンセットで血の付いた綿を掴み、近づけると糸状の触手が伸びる。
「電撃!」
電撃魔法でビリビリにしびれた、寄生魔獣が取れる。
ガラス皿に入れて蓋を閉めた。
色が青紫色に変化しウジ虫のような形となりウネウネと動く。
気持ち悪いとムニアは目をそらす。
「血に反応……、傷から体の中へ入り込んでいたのね」
切れ目は自然と塞がり、元に戻っていく。
竜人の生命力は、四つ耳族を勝る。
切断された部位でも復元して再生する程だ。
メスで切れ目を入れた程度では、縫う必要すらなかった。
「後は体内に残った卵を除去すれば良いだけだ。
厄介なのは寄生体が排除されると、ふ化して常に一体が忍び続ける」
口から出た言葉に風太は驚く。
無意識に古代人の知識を語っていたからだ。
伝授することを古代人が望んでいるということなのだろうか。
「どのように除去するのです?」
「針を刺して潰す」
「体内の卵の位置を特定するなんて不可能。
魔素を調べても何の反応もなかったし、異常は見つからなかったわ」
「魔素の結晶はあるか?
魔石だったか……」
「それなら、棚に置いてあります」
ムニアの肌に魔石を近づけると、肌に紫の斑点が浮かび上がる。
その中心に治療用の細い針を刺す。
すると魔素が抜けて斑点が消えた。
「後は君に出来るだろう?」
「はい。
でもどうして検知術で発見できなかったのか解らない」
「卵がふ化するには、魔素が必要で吸い取っている最中は反応が見える。
活性化しなければ、魔族の反応が出ないのかも知れない」
……自分ではなくなったような違和感。
風太は気持ち悪くなり、そっと離れる。
知恵を授かった代償なのだろうか。
もし肉体が乗っ取られて行ったらと思うと怖い。
あの竜人達も、変化した肉体を見て恐れたのだろうか。
まったりのんびりする姿を思い出し笑う。
「強いな。
何ビビっている、しっかりと意志を強く持てばいいだけだ」
背後から手が伸び、風太を抱きしめる。
感じたことのない大きな柔らかい感触はムニアだろう。
「ありがとう。
私の負けのよう、だって足が元に戻りつつあるわ」
「良かったな。
魔族を撃退する方法を考えるとするか」
「魔族って今噂の?」
「多分、長老が倒してこいって」
ムニアは強く風太を抱きしめる。
ギュギュッ……、強い力で身動きが取れない。
「竜人の里は5箇所あったわ。
でもその魔族によって2個所が滅ぼされたの」
手を成して欲しいのだけどと、思いつつも無理に振りほどく気はなかった。
挨拶みたいなものであって、それを拒むと失礼だと思ったからだ。
「こんな感じの場所か?」
「まさか、ここは人間の村みたいな小規模な集落よ。
千人規模の暮らす場所で、戦闘に特化した竜も居るのに……」
「相手が誰であっても、挑むしか無い」
「私達に、何もかも劣るのにどうやって?」
「どうしてそう思う。
俺にも君達に勝る所はある」
「良いものを見せてあげる」
彼女の個室に水晶玉が置かれていた。
手を乗せると、壁に映像が映し出される。
二十歳前後の女、髪は黒く真っ直ぐで足元まで伸びていた。
衣は派手な柄で多彩な色で目立つ。
額に螺旋状の角が生えてていることが彼女が魔族である証明だった。
「これは記録なのか?」
「ええ、戦いを分析するために残しているわ。
私達は娯楽として見ているけど」
「映像が残っているのは有り難い。
対策を取れる」
「喜ばしい事なら良いのだけど。
絶望し無いことを祈っているわ」
風太は魔族の戦い方を初めてみる。
魔族の女はただゆっくりと歩くだけ。
地面が侵食され、そこから円錐状の殻をもつオウムガイみたいな魔獣が次々と姿を現し襲いかかる。
空を飛び追尾する突撃槍のようにグサッと竜の肉体を貫く光景が映っていた。
「怖いな。
あんなに大量に操れるのか?」
「それぞれが意思を持っていて、本体を撃退しても消えたりしない。
仮に魔獣を対処できても、本体のほうが圧倒的に強いのよ」
確かに、髪一つ乱れる様子もなく、ただ歩いているだけだ。
湧き出る魔獣を対処して、接近出来たとしても、どんな攻撃をするのか想像もつかない。
特に武器を持っているようにも見えないし、もしかすると人間に擬態して本来の姿を隠しているとしたら。
憶測だけが、膨らんでも仕方ない。
「まだ本気を出していないって事か?」
「ええ。
魔将ともなると、数種類の魔獣を出せるから、まだ一種類しか確認出来てないって怖い」
知って後悔する情報だ。
まだ見ぬ脅威があるとしたら……、想像もつかない。
一騎打ちを想定したのが、崩れたのが痛い。
ゼラが言っていた炎魔将の孤立は何だったんだ?
隠し持っているだけで、魔獣を出し切ると打ち止めになるのか。
「ふーん。
数の暴力で攻めてくるなら、俺も数で勝負したいな」
「……私達が協力しても勝ち目はない。
あの速度で襲われると、的にしかならないわ」
「その姿で戦えば良いんじゃないのか?」
冗談のつもりで言った。
竜人の魔法は、起動までに時間が掛かって速度で劣る。
それに不確定な戦力は邪魔なだけだ。
死霊術を使えば、大量の兵士を作り出すことだって出来る。
「貴方が思っている程、竜人は強くない。
だって胸が大きくて動きづらい」
ムニアは恥ずかしそうに、手で抱きかかえるように大きな胸を持ち上げる。
いや、恥ずかしいなら、そんなことをしなくても見えているし。
じっと見ているのもなんか恥ずかしくなり風太は眼を逸らす。
「……なるほど」
確かにおもりが付いているような物だ。
戦闘では無い方が有利なのは間違いない。
「だったら男……」
「さっきの映像で戦っていたのが竜人の男です。
防御術も簡単に突破されて、自慢の鱗も貫通する……、情けない」
玉国も男女比が狂っていた。
もしここでも、同様に男が圧倒的に少ないとしたら……。
風太の予感は的中していた。
「そろそろ、行かないと……」
「いひひ……、女の子の部屋に入って置いて何もせずに出ていくのは失礼でしょう?」
謎の言い分に困惑を隠せない。
そもそも、連れてきたのは彼女であって、それは映像を見せるためだ。
……そう思っていたのは俺だけなのか?
風太は冷や汗が出てくる。
「いや映像の間だろう。
あたかも君の部屋みたいに言うのはやめてくれ」
苦しい言い分だ。
呪いが無ければ、誘いに乗っていたかも知れない。
実に勿体ない気もしなくもない。
けど命は惜しいし、道連れにするのも可愛そうだ。
「ここは私の部屋です。
さーて、逃げられると思わないことね」
仕方ない束縛して逃げるか。
風太が手を伸ばした時だ。
手首を掴まれて抑え込まれた。
「痛た……」
「一度見せた術が通用すると思わないで、
いひひ……、さてどうやって楽しみましょうか」
逃げられない。
もう終わってしまうのか?
「呪いがあるから。
一緒に死ぬつもりなら止めないけど」
「チッ。
でも逃がしたくはない、契約を交わすっていうのはどう?」
迂闊だった、呪いの内容を盛っておけば良かった。
恐らく、具体的な効果は解ってなかったはず。
知っていて、契約に持ち込むために仕組んでいたとは考えたくない。
兎に角、時間を稼いで何か対処を考えないと。
「えっ。
それってどうなるんだ?」
「契約を破れば魂が囚われの身となるらしい。
破られた所は見たことはないから、詳しくは知らないけど」
死ぬよりも怖い感じがする。
悪魔との契約みたいに、理不尽な解釈があったりして……。
少し沈黙し、一度考えを白紙に戻す。
あまり長い間を持たせると、反感を買うだろう。
「断ったら……」
「竜人族は貪欲なのを知らない?
手に入れたいと思ったものは何でも手に入れる」
レモプティが莫大な財宝を持っていたのも不思議だったが、収集する性質を持っていたからなのだろう。
交渉出来るカードが思いつかない。
ここに入った時点で、敗北が確定していたのだろう。
だが諦めたら終わりだ。
「俺は賭けに勝った。
それに君を助けた恩があるだろう」
「確かに。
けど欲望は何よりも優先される」
引き伸ばせる限界だろう。
これ以上は、実力行使もありうるかも知れない。
「……解った。
なんて約束をするんだ?」
ムニアは、モジモジとして恥ずかしそうにする。
何を想像しているのだろうか。
言葉になるまでに何か打てる手はないのか……。
そんな事を考えていると、ムニアは赤裸々に言う。
「呪いを解いたら、私といひひひな事をして……。
いわゆる夫婦の営みよ」
「何で君と夫婦になるんだ?」
迂闊にも、驚いて直ぐに返事をしてしまった。
一つ飛び越えた先に進んでいるのだから……。
「だって沢山妻がいるって、レモプティが話してたし」
「……」
ただ財宝を取りに戻るだけで済むわけ無い。
自慢げに喋ったのだろうとは想像できる。
竜人の情報網は恐るべし。
王国だと素顔でも気づかれない程のガバガバさだっただけに余計に、そう思える。
観念するしか無いのかと諦めかけた時だ。
スキュラチがやって来た。
救世主か、それとも……ごくり。
「客人に手を出してはいけません。
ムニア、手を離しなさい」
「はーい」
意外にも素直に言うことを聞くのには驚きだ。
立場関係がどうも解らない。
片角の方が劣っているように思えるのに……。
年上に従う文化なのかも知れない。
だとしたら、スキュラチはかなり歳上なのか?
うーん、見た目は大差ないような気もする。
竜人の寿命は長いから、人間の尺度では測れないのだろう。
「助かった」
「いえ、他の皆んなも助けることが出来ました。
とても感謝しています」
風太は、ホッとする。
竜人を助けられただけでは無く、サラを巻き込まずに済むのだ。
「それなら、転生者の体を調べる必要はないな。
良かった」
不思議そうな顔をするスキュラチ。
一度交わした約束が破棄されるとは微塵も考えていなかったのである。
「んー?
調べます、だって知りたいですから」
強欲なのは竜人の特性だった。
片角でも、それは変わらないようだ。
「……」
後に、サラが連れてこられ、念入りに触って調べられることになる。
風太は一つお願いを聞いて、ご機嫌を取る羽目となった。
その肉体で耐えることが出来るか試してみるか?」
風太は竜人の里を抜けて帝国に行くつもりだった。
竜人レモプティは騙し、竜人の長老であるバッファムーの元へ連れてきたのである。
虹色に輝く水晶のような鱗のドラゴン、大きくはあるがレモプティの倍程度に過ぎない。
それは問題ではない、二本の角の枝分かれが21もある。
21もの魔法を同時に操れると言うこと。
強敵であるのは間違いない、並の者であれば戦いと成れば死を覚悟するしか無い。
風太は笑みを浮かべ、勝機を見出そうと冷静に思考を巡らせていた。
戦いを避けるのが最善手なのは言うまでもない。
「俺はただ帝国に行きたいだけ。
拒む理由を教えて欲しい」
背後に居たレモプティが抱きつき、耳たぶを甘噛する。
視線を逸らす事は死を招く。
何をされても風太は真剣な眼差しで動きを見ていた。
「我が孫娘を支配し、財宝を奪ったではないか。
許されざる大罪なのは明白」
龍の爪が地面を軽く叩き、揺れる大地。
振動に乗せて、術を放ち地面に仕込んでいる。
それも風太を包囲するように配置し様子を伺っているようだ。
そんな事をされては流石に冷やかしたくなる。
風太は際どく歩き回って見せながら、返事を返した。
「残念だが、全部使ってしまってもう無い。
諦めて回収する別の方法を考えたほうが建設的だ」
お互いに交渉する気はない。
仕掛ける頃合いを見計らって居るだけ。
初めから和解はない、出会った瞬間に感じたことだ。
地面に転がっている屍の山。
怨念が飛び回り、危機を知らせてくる。
歴戦の戦士たちの躯、それを飾ることで権威と力を示しているのだろう。
風太の挑発的な振る舞いに、乗っかり攻撃を仕掛けても良かった。
だが踏み止まる。
バッファムーが数千年も生き延びて来たのは、その直感のような危機感を察知する能力に長けていたからだ。
「では、魔族を撃退して貰おうか。
既に我が子達が挑み破れた、それ程の強敵だが出来るか?」
レモプティに体を引き寄せられしっかりと抱きつかれた。
胸の柔らかい感触、布を通じて温かみが伝わる。
とても邪魔で振りほどきたいが我慢するしか無い。
「復讐は自分の手を使えば良いだろう」
「その隙に通り抜けるつもりであろう。
妥協案を受け入れぬなら、この場で引き裂くも良いか」
「解った。
提案に乗ろう」
冷や汗をたらす風太、足元に魔法の気配があったからだ。
一瞬の隙を突かれたのだろう。
油断ならない相手だ。
もし断ったらレモプティを犠牲に起動していたに違いない。
風太は漂う霊を操り、バッファムーを囲うように陣を作り魔骸骨を何時でも出せるように準備していた。
どちらが優勢だったのかは解らない。
戦いが始まっていたらお互いに深手以上……、死もあり得た。
その場から離れた風太の全身から汗がこぼれ落ちる。
暑かったわけではない、その場の空気……死闘の重圧だ。
「ちょっと、何で私のことを知らん顔するの?」
「久々に怖いと思った。
怪獣とは違う精神がすり減らされるような奇妙な感じ」
「龍の波動の影響ね。
本来の力を発揮できなくなるらしいわ」
「君の目から見て勝算は?」
「貴方に全賭けしているのに、それを聞くのね。
お爺様の初手は意味を成さなかった」
「まさか、俺なんか一瞬で黒焦げになっていただろう?
守りが貧弱過ぎて話にならない」
「やっぱり、見抜いているようね。
だから避けるんでしょう?」
風太は笑って黙った。
わざわざ目立つように屍の山を置いていたのは、人がそれを嫌うからだ。
つまり身近に隠しておきたくて、人を遠ざけたい物がある。
武器が隠してあると読んだ。
魔骸骨が攻撃する間があれば勝機があるというわけだ。
憶測だけで、竜人族の文化も知らずに、勝手な思い込みで立て策に過ぎない。
全く的外れで、ただの装飾品だったなら終わっていた。
「なんで君はベタベタ触ってくるんだ」
「デェヘヘヘ……。
もうあんな猛烈な恋文を送って置いて……」
サラに任せた返事ことだろう。
竜人の機嫌を損ねないようにとは頼んだが……、気を利かせすぎるのも問題だ。
「帝国にある我が家に戻るまではお預け。
冷静に振る舞ってくれ」
「もう、イケず。
恥ずかしがらないで、一緒にいるだけでも心踊るから」
手を握って離さないようだ。
それぐらいは構わないが、それ以上に抱きつかれたりするのは流石に暑苦しい。
時折、地面から蒸気が噴出する。
直撃すれば全身を火傷、死に至る程である。
そんな危険な場所にいる、レモプティは風太を守りたいと思いなるべく接触している。
下心だけでの振る舞いではない……、
と本人は言い訳しつつ、にこにこと笑みを浮かべ楽しんでいるのであった。
「さて、残り時間は短い。
魔族を撃退して帰lりたいけど……」
「封印で力が出せないのでしょう?
本当に戦うつもりなの」
封印は完璧なものではないらしく、欠陥がある気がしている。
何度も魔法を使っていると稀に何も制裁が発生しない時があった。
逆に魔法を使おうとすると、即反応したりと斑がある。
それを特定出来れば、自在に扱えるようになる。
「策を考える時間が欲しい。
ゆっくりできる場所はないのか?」
「竜人の里があるわ。
連れて行ってあげる」
レモプティし風太を抱きしめると、浮遊の法術を操る。
ふわっと浮かび上がると言うよりグーンと飛んだ感じだ。
「どういう仕組なんだ?」
「足元に透明なお椀状の障壁を形成し、風を反射する仕組みで飛んでいるわ。
結構早く移動できるけど、慣れるまでは何処へ飛んでいくか解らなくて怖い」
「どうして反射させるんだ?」
「法術を使って、反動を感じたことはある?
風を地面に叩きつけて跳ね返すよりも、帆を張るように自分に向けた方が効率がいいのよ」
銃なんかは反動を受けるが、魔法はそういうものがなくて飛ばす事ができる。
だから自分自身を対象に飛ばせれば……。
高速で飛んでいく。
何処かに衝突してグチャグチャのミンチになる予感に、試してみようという気にはならなかった。
「飛んでいる所見たこと無いし、
普段は使わないのは燃費が悪いからか?」
「まあ、そんな所。
竜形態の方が何かと便利で、消耗も少ないからね」
肉体を変化させるより消耗するのは意外だ。
鳥は骨がスカスカで体重が軽い。
竜も実は見た目の大きさに反して、中身はスカスカで軽いのかも知れない。
地面の一部が垂直にせり上がって出来たような四角い箱状の大地。
魔法で持ち上げて作ったみたいな、自然に出来た地形だ。
草木に覆われた上部に見張りの竜が丸まり寝ている。
片目を開いたがすぐに閉じて動く様子はない。
その横を素通りする。
竜人の里は、幾重にも地層がみえる側面に空いた穴から入ることができる。
入口となる穴には、竜形態で着陸するための台が組まれていた。
「ただいまー」
ピヨピヨと雛の鳴き声が聞こえる。
燕が飛んできて、穴の壁にある巣へ餌を運ぶ姿があった。
「前世だと見かけなくなったけど、ここに転生してきたのか」
「何のこと?」
「いや、冗談。
俺の故郷で見なくなった鳥が居て」
「ふーん。
まあ、気にしなくていいわ」
「鳥は竜に怯えたりしないのか?」
「まあ、私達は野生の鳥を食べないわ。
お互いに関わらないから気にせずに暮らしているだけよ」
俺もと言いかけて、ゼラが野生動物を食料として出したことを思い出す。
あの時は、鳥は居なかったと思うが……。
現地民が取らないとは限らない。
謎の干し肉が、今更ながら怖い。
二人が燕を眺めていると、水色の髪女が奥から姿を表す。
頭に一本の角が生えていて、彼女も竜人なのだろう。
「客人を連れてくるなんて珍しい。
よろしく、私はスキュラチです」
風太は名乗り礼をする。
その様子が可笑しかったのか、彼女は軽く笑う。
「何か失礼でしたか?
礼儀作法とか習ったつもりだったんだけど」
「いえ、私達の挨拶は抱き合うことのなので」
風太は、そういうものなのかと思い彼女を抱きしめる。
彼女が軽く震えているのが感じられて、風太は離れた。
可笑しくて笑っているのだ。
「なんだ?」
レモプティの方を見ると、彼女も笑っている。
「彼女は研究が生きがいなの。
少し付き合ってあげて」
「どういう事?」
スキュラチは風太の体をほぐすように念入りに触り初めた。
「随分、鍛えているようね。
引き締まっていて、魅力的です」
「ちょっと、何だ」
変態が多くて、困ったものだ。
風太は抵抗する気も失せて身を任せてる。
軽いマッサーシのような気持ちよさもあり、悪くはない。
「異界人の肉体がどうなっているのか、謎だったけど。
これは面白い」
「はぁ、何か解ったのか?」
「ええ。
基本的に人間と変わりないようです」
「当たり前だろう」
「うーん、異界とここでは環境が違うらしいです。
記録では、召喚で異界人を呼びたした場合は、生存できる時間が僅か一ヶ月程度」
「大体2年ぐらい、ここにで暮らしていると思う。
なんでそんなに短命なんだ?」
召喚は負荷が高くて肉体が壊れているのか?
でも怪獣は……、一瞬しか召喚できなかったから影響を受けなかった。
うーん。
風太が解をじっくり考えていると、スキュラチはニコッと微笑む。
知識への探求に興味があることに共感したのである。
「淡水魚を濃い塩水に入れるようなものです。
この世界にしか無い、魔素を吸い込むと肉体が侵され息絶えたらしい」
「俺は平気だった。
空が染まるほどの魔素が満ちた場所でも特に異変はなかったし」
「つまり、転生はただの複製ではなく、
この世界に適応するために肉体を改造する目的もあるということです」
今まで召喚魔法があるのにどうして転生が使われているのかを考えた事はなかった。
転生は余計な者を蘇らせる危険性があって、場所を転々と移動する手間もある。
「異界人の成長が早いのも、その副作用なのか?
肉体が強化できるなら、自分を転生させた方が確実だろうし……」
「それは何とも、サンプルが少なくて理論だけでは限界があります。
実際に転生させた人々を調べてみないと……」
風太は一瞬、心当たりがあり目をそらす。
家族を良く解らない実験に突き合わせたくない。
その思いが、皮肉にもスキュラチに気づかせてしまった。
「居たら紹介できたんだけどな。
残念だ」
「私に嘘を付くのですか?
正直に言いなさい」
「……、確かに嘘は良くない。
巻き込みたくは無かった」
「竜人が恐れられていることを失念していました。
私が身の安全を保証します」
キラキラ輝く眼、それは期待と渇望で溢れている。
例え、彼女が絶対的な権力を持っていても、拒否を選んだ。
風太が答えようとした時、予期したのか指で唇を押さえた。
「少し会って話をするぐらいは良いでしょう?
歓迎して、色々と持て成すと約束します」
「レモプティ。
話をして納得したら連れてきてくれ」
レモプティはハイと返すと、竜に変身して飛んでいった。
興奮したスキュラチは風太の頬にチュッ、チュッと口づけする。
「嬉しい。
なんて幸せな日なんでしょうか」
手に入れた玩具を手放したくないと言う雰囲気を感じ取り風太は寒気が襲う。
伝えておかないとズルズルと引き止められる。
それは避けたい。
「魔族を討伐して帝国へ行くつもり。
長居はするつもりはない」
「ええ、長老との会話は見ていました。
奥へ案内します」
洞窟は自然にできた穴らしく、奥に行くと蝙蝠が天井に群がっている。
その下に大きな樽が置かれて糞が溜まっていた。
「凄い悪臭。
鼻が曲がりそう」
「それは肥料や防衛に。
他にも火薬の材料も手に入り、色々と重宝しています」
竜人は魔法に精通した種族たと思っていた。
独自の魔法を操り、肉体を強化することに長けていると。
「それは怖いな。
王国は禁忌として、火薬を封印しているようだけど」
「世界の均衡を壊しかねない代物ですからね。
貴方は作れないのですか?」
「俺には知識がない。
書物で登場した物を見るぐらいだ」
実際は映像で見たものだけで、詳しい分量はよく知らない。
情報を求めている訳でもなさそうで、風太はホッとする。
「興味があるなら教えましょうか?」
「いや、俺は魔法に期待している。
それに兵器は好きじゃない」
怪獣の前では無力だったし、あんな物なくても良い。
銃は怖い。
愛するリアハは貴族、体制をひっくり返そうとする民衆には敵でしか無い。
誰でも使えるようになった時に向けられるのは自分達の方だろう。
「爆薬には欠陥があって、それが魔素による汚染です。
爆発はしますが、同時に魔素をばら撒き周囲を侵食するのです」
「ふーん。
じゃあどうして教えようとしたんだ?」
「秩序を乱す為に知識と言う、猛毒を使うのであれば阻止しなければならない。
試したことは謝ります」
「平凡に暮らすつもりだ。
争いに巻き込まれたりするのは流石にもう良いと思っている」
非日常を創作物として楽しむのは好きだ。
命の危機を感じる状況に遭わなければ、今の世界を楽しめただろう。
自分だけではなく、身近な人達に害が及ぶのは嫌だ。
「私も同じように、平穏であることを望んでいます。
ですが、それを環境が阻むのも事実」
魔族の激戦が続いているのだろう。
王国が敗北していたら、魔族に囲まれる状況になっていた筈だ。
「人間の国と手を結ばないのは理由があるのか?」
「それは私達の支配地を奪い追い出した過去があります。
取り返したいと考えている方も多く、協力関係にはならないでしょう」
分岐点にやってくる。
看板に絵の文字が書かれている。
竜人なら読めるのだろうが、風太にはよく解らない絵の羅列にしか見えない。
「なんて書いてある?」
「私達が行くのは右の通路です」
無回答は、知られたくない何か都合の悪いことが書かれているのだろうかと勘ぐりたくなる。
素直に指示に従うほうが無難だが、好奇心のほうが上回っていた。
「左には何があるんだ?」
「居住区があります。
行きたければ、後々案内します」
「ふーん。
じゃあ何処に連れて行こうとしているんだ?」
「治療施設、魔素に侵食された竜人達が保護されています。
……正確には、邪竜化するまで監禁している場所です」
魔素を浴び続けると四つ耳族が、獣人化する。
同じように竜人も魔素によって理性を失い魔獣と成り果てるのである。
そうなれば、もう戻す手段はなく被害が出る前に息の根を止めるしか無い。
「転生者の体を調べようとしていたのは、
もしかして救う方法を探るためか?」
「勿論、そうです。
本当なら切り刻んで内部構造を確かめたいのですが、流石にそこまでは要求はしません」
妄想にスキュラチはうっとりして、快感を感じているようだ。
狂人研究者ではないのか?
いやいや、一族を救いたいという使命感だろうか。
怖さと信頼したい気持ちが入り混じり複雑な感じだ。
「出来ることがあったら協力する」
「どんな様子なのかを見て欲しい」
到着し、風太は意外な光景に黙した。
だらーんと、寝転び退屈そうにする女達の姿がある。
体の一部が鱗に覆われていたり、片方の翼が腰のあたりから生えていたりと変質の鱗片が伺える。
眼が合うと、暫く見つめ合う。
「男! ひいぃぃぃっごめんなさい!」
彼女は慌てて逃げ出し、何処かへ行ってしまう。
それに反応し、他の女達も慌てて逃げ去り誰も居なくなる。
「なんだ?」
「することがなくて、ゴロゴロと暇を持て余しています。
外に出なければ自由にして良いのですが……」
何もない所に、時間だけを与えられても退屈なだけで辛い。
そこに娯楽があれば天国に変わる。
「遊べるものがあったら喜ぶんじゃないのか?」
「色々と交易で手に入れたのですが、飽きてしまいました。
百年近くもずっと遊び続けられる物なんて無いですから」
「確かに、人の一生と比べて長いな。
もっと状態が悪化してから閉じ込めたら良いんじゃないのか?」
「この場所は魔素が入りこまないようにした、いわば聖域です。
ここから出ると一気に侵食が早まってしまいます」
魔素を吸収することで肉体の変化が早まるということか。
直接、魔素を注入することで魔人になろうした奴も居たが、変化についていけず身を滅ぼす結果に終わった。
自然な形での、魔獣化は肉体が耐えられるのだろうか?
いや、そんな事を考えるなんて。
もしそれを実験したら、人としての何かが終わる気がした。
転生陣での、あの研究者達と何ら変わりない。
知りたいという欲求で、他に迷惑を掛けても構わないなんて考えだ。
「優れた力を持っていても、こんな場所に閉じ込められるしか無いのか。
何にも出来ないのが悔しいな」
スキュラチは風太を抱きしめる。
「ありがとう。
貴方が来てくれてとても嬉しい、彼女達に会ってくれますよね?」
「ああ、勿論だ」
切石を積み上げて作られた建物がある。
扉はなく、すだれが掛けてあるだけだ。
隙間から慌てふためき掃除している姿が見えた。
「……もしかして、掃除中なのか?」
「片付けるように言っておいたのですが。
休眠期に入っている娘も居て、のんびりとしか動けないのです」
「創作の話かと思っていた。
休眠期ってずっと寝ているのか?」
「まさか、竜に変身できなくなり体がだるくなる感じらしいです」
「らしいって、君は違うのか?」
「私は人間と竜人の子です。
人間の血の方が濃いようで、試しましたが出来ませんでした」
「ごめん」
「良いことのほうが多くて。
私はとても幸せです」
ハーフというと差別されて迫害を受けている印象があるのだが……。
それは前世での先入観なのか、創作物に登場するキャラによって作られた幻想なのかも知れない。
四つ耳族はハーフではなく、突然変異の類だからごっちゃにしそうだが違う。
「そろそろ、片付いたかな?」
物音がなくなり静かになっていた。
二人が入ると、取り囲むように待っていた。
バチバチ……と拍手が贈られた。
「ついに私達も大人の階段を上がる時が来ました。
いひひひ……、早く……」
「何を勘違いしているんだ?
ただ見学に来ただけで、君達と何かするつもりはない」
「やっぱり、この汚れた姿が……。
うぅぅぅぅっ」
いきなり泣かれると困る。
風太は困り果てて、スキュラチの方を見るとニッコリと微笑み返される。
なんか嵌められた感が強い。
竜人族の女は胸が豊かで大きめだ。
メロンぐらいはありそう。
薄暗い紫の影が見え、体に点々とそれが浮かび上がるように見えた。
「いやらしい目で舐め回すように見ている。
ははーん、エッチだけしたいなんて考えている変態」
「待て、誤解だ。
異常が見えた、斑点があるだろう?」
「この美しい肌に、そんなものはないわ」
古代の知識なのだろうか。
眼の前に映像ような感じで、肌を切り裂き異物を取り出す光景が見える。
「君達は俺を信用してくれるか?
直せるかも知れない」
スキュラチは困った感じに呟く。
「人間達が行っている儀式は試しています。
魔素を剣に吸着させても意味はなかったわ」
あらゆる可能性を試して駄目だったから、ここに隔離している。
魔素が存在しない異界から来ているのに、どうして解るというのか疑問しか沸かないのは当然だ。
「私はムニア、賭けをしない?
もし治せなかったら、私達の為に一緒を尽くすと」
長い髪は波打ち、黄緑色をしている。
角が二本、3つ枝分かれしていた。
真面目そうな雰囲気の若い女という感じだ。
右足が鱗に覆われて、左足に比べてやや太くなっている。
それさえなければ、魅力的で言い寄られたらドキドキしそうだ。
勝てる勝負を拒否する理由はない。
「ああ、構わない」
「治療を行うのでしたら、奥の部屋です」
中央に台が置かれていて、壁には薬品の棚が並んでいる。
一応道具も揃っているようだ。
大きなノコギリが目立つ、角を切るためだろうか、それとも……。
考えるだけで身震いする。
「消毒してあって、何時でも使える状態にしてあります」
「任せてくれ。
あと血を付けた綿が欲しい」
「はい。
用意します」
ムニアが台に座ると、肩の結び目を外そうとする。
簡単に脱げるのが竜人の服の特徴だ。
慌てて、風太は手を掴み止めた。
「待て。
服は脱がなくて良い」
「ジロジロ見ていたのは誰かな?
治療と言って、触っても怒らないから……いひひ」
「切るのは足だ」
ムニアが青ざめる。
入る時に、どうしてもノコギリが目に入ってしまう。
切ると宣言されたら、もう答えは一つ。
「ちょっと切断は勘弁して」
「安心してくれ。
メスを入れるだけだ」
足を覆う服の布を避けて、右足を出す。
太ももの半分辺りから魔獣化している。
メスを入れるのは、まだ魔獣化していない柔肌だ。
メスを肌に当てるとムニアは恐怖を感じる。
「嫌っ!」
悲鳴とともに風太を突き飛ばそうと手を出す。
竜人の一撃を受ければ吹き飛び壁に叩きつけられてグチャグチャになっていただろう。
紙一重で回避できたのは、日頃の特訓の賜物だ。
「危ないな。
彼女を抑えていてくれ」
「はい。
……でもどうして、今までムニアが抵抗したことなんて無かったのに」
「賭けに勝ちたいからだろう」
「むっ、私がそんなズルはしない。
貴方が怖い気がして……、治療はスキュラチにして欲しい」
どうして儀式では駄目だったのか?
何を取り除いていたんだ?
そして急に抵抗したのは……。
寄生型の魔獣みたいなのが取り付いて居るのではないのか?
危険を感じて、回避しようと精神支配をして操ったとしたら。
「賭けをしたのは俺だ。
君は眼を閉じて待っていると良い」
「はい……」
風太は念の為に、彼女に拘束術を掛けておいた。
メスを入れる。
「痛……、あれ?」
彼女の表情は困惑しているようだった。
反射的に言葉が出たが痛みは感じない。
見えざる衣を応用した透明な幕が痛みの信号を遮断している。
本来なら出血が起きるのだが、それも阻止していた。
切り裂された肌、筋肉が見え何か異物があるように見えない。
おそらく擬態しているのだろう。
ピンセットで血の付いた綿を掴み、近づけると糸状の触手が伸びる。
「電撃!」
電撃魔法でビリビリにしびれた、寄生魔獣が取れる。
ガラス皿に入れて蓋を閉めた。
色が青紫色に変化しウジ虫のような形となりウネウネと動く。
気持ち悪いとムニアは目をそらす。
「血に反応……、傷から体の中へ入り込んでいたのね」
切れ目は自然と塞がり、元に戻っていく。
竜人の生命力は、四つ耳族を勝る。
切断された部位でも復元して再生する程だ。
メスで切れ目を入れた程度では、縫う必要すらなかった。
「後は体内に残った卵を除去すれば良いだけだ。
厄介なのは寄生体が排除されると、ふ化して常に一体が忍び続ける」
口から出た言葉に風太は驚く。
無意識に古代人の知識を語っていたからだ。
伝授することを古代人が望んでいるということなのだろうか。
「どのように除去するのです?」
「針を刺して潰す」
「体内の卵の位置を特定するなんて不可能。
魔素を調べても何の反応もなかったし、異常は見つからなかったわ」
「魔素の結晶はあるか?
魔石だったか……」
「それなら、棚に置いてあります」
ムニアの肌に魔石を近づけると、肌に紫の斑点が浮かび上がる。
その中心に治療用の細い針を刺す。
すると魔素が抜けて斑点が消えた。
「後は君に出来るだろう?」
「はい。
でもどうして検知術で発見できなかったのか解らない」
「卵がふ化するには、魔素が必要で吸い取っている最中は反応が見える。
活性化しなければ、魔族の反応が出ないのかも知れない」
……自分ではなくなったような違和感。
風太は気持ち悪くなり、そっと離れる。
知恵を授かった代償なのだろうか。
もし肉体が乗っ取られて行ったらと思うと怖い。
あの竜人達も、変化した肉体を見て恐れたのだろうか。
まったりのんびりする姿を思い出し笑う。
「強いな。
何ビビっている、しっかりと意志を強く持てばいいだけだ」
背後から手が伸び、風太を抱きしめる。
感じたことのない大きな柔らかい感触はムニアだろう。
「ありがとう。
私の負けのよう、だって足が元に戻りつつあるわ」
「良かったな。
魔族を撃退する方法を考えるとするか」
「魔族って今噂の?」
「多分、長老が倒してこいって」
ムニアは強く風太を抱きしめる。
ギュギュッ……、強い力で身動きが取れない。
「竜人の里は5箇所あったわ。
でもその魔族によって2個所が滅ぼされたの」
手を成して欲しいのだけどと、思いつつも無理に振りほどく気はなかった。
挨拶みたいなものであって、それを拒むと失礼だと思ったからだ。
「こんな感じの場所か?」
「まさか、ここは人間の村みたいな小規模な集落よ。
千人規模の暮らす場所で、戦闘に特化した竜も居るのに……」
「相手が誰であっても、挑むしか無い」
「私達に、何もかも劣るのにどうやって?」
「どうしてそう思う。
俺にも君達に勝る所はある」
「良いものを見せてあげる」
彼女の個室に水晶玉が置かれていた。
手を乗せると、壁に映像が映し出される。
二十歳前後の女、髪は黒く真っ直ぐで足元まで伸びていた。
衣は派手な柄で多彩な色で目立つ。
額に螺旋状の角が生えてていることが彼女が魔族である証明だった。
「これは記録なのか?」
「ええ、戦いを分析するために残しているわ。
私達は娯楽として見ているけど」
「映像が残っているのは有り難い。
対策を取れる」
「喜ばしい事なら良いのだけど。
絶望し無いことを祈っているわ」
風太は魔族の戦い方を初めてみる。
魔族の女はただゆっくりと歩くだけ。
地面が侵食され、そこから円錐状の殻をもつオウムガイみたいな魔獣が次々と姿を現し襲いかかる。
空を飛び追尾する突撃槍のようにグサッと竜の肉体を貫く光景が映っていた。
「怖いな。
あんなに大量に操れるのか?」
「それぞれが意思を持っていて、本体を撃退しても消えたりしない。
仮に魔獣を対処できても、本体のほうが圧倒的に強いのよ」
確かに、髪一つ乱れる様子もなく、ただ歩いているだけだ。
湧き出る魔獣を対処して、接近出来たとしても、どんな攻撃をするのか想像もつかない。
特に武器を持っているようにも見えないし、もしかすると人間に擬態して本来の姿を隠しているとしたら。
憶測だけが、膨らんでも仕方ない。
「まだ本気を出していないって事か?」
「ええ。
魔将ともなると、数種類の魔獣を出せるから、まだ一種類しか確認出来てないって怖い」
知って後悔する情報だ。
まだ見ぬ脅威があるとしたら……、想像もつかない。
一騎打ちを想定したのが、崩れたのが痛い。
ゼラが言っていた炎魔将の孤立は何だったんだ?
隠し持っているだけで、魔獣を出し切ると打ち止めになるのか。
「ふーん。
数の暴力で攻めてくるなら、俺も数で勝負したいな」
「……私達が協力しても勝ち目はない。
あの速度で襲われると、的にしかならないわ」
「その姿で戦えば良いんじゃないのか?」
冗談のつもりで言った。
竜人の魔法は、起動までに時間が掛かって速度で劣る。
それに不確定な戦力は邪魔なだけだ。
死霊術を使えば、大量の兵士を作り出すことだって出来る。
「貴方が思っている程、竜人は強くない。
だって胸が大きくて動きづらい」
ムニアは恥ずかしそうに、手で抱きかかえるように大きな胸を持ち上げる。
いや、恥ずかしいなら、そんなことをしなくても見えているし。
じっと見ているのもなんか恥ずかしくなり風太は眼を逸らす。
「……なるほど」
確かにおもりが付いているような物だ。
戦闘では無い方が有利なのは間違いない。
「だったら男……」
「さっきの映像で戦っていたのが竜人の男です。
防御術も簡単に突破されて、自慢の鱗も貫通する……、情けない」
玉国も男女比が狂っていた。
もしここでも、同様に男が圧倒的に少ないとしたら……。
風太の予感は的中していた。
「そろそろ、行かないと……」
「いひひ……、女の子の部屋に入って置いて何もせずに出ていくのは失礼でしょう?」
謎の言い分に困惑を隠せない。
そもそも、連れてきたのは彼女であって、それは映像を見せるためだ。
……そう思っていたのは俺だけなのか?
風太は冷や汗が出てくる。
「いや映像の間だろう。
あたかも君の部屋みたいに言うのはやめてくれ」
苦しい言い分だ。
呪いが無ければ、誘いに乗っていたかも知れない。
実に勿体ない気もしなくもない。
けど命は惜しいし、道連れにするのも可愛そうだ。
「ここは私の部屋です。
さーて、逃げられると思わないことね」
仕方ない束縛して逃げるか。
風太が手を伸ばした時だ。
手首を掴まれて抑え込まれた。
「痛た……」
「一度見せた術が通用すると思わないで、
いひひ……、さてどうやって楽しみましょうか」
逃げられない。
もう終わってしまうのか?
「呪いがあるから。
一緒に死ぬつもりなら止めないけど」
「チッ。
でも逃がしたくはない、契約を交わすっていうのはどう?」
迂闊だった、呪いの内容を盛っておけば良かった。
恐らく、具体的な効果は解ってなかったはず。
知っていて、契約に持ち込むために仕組んでいたとは考えたくない。
兎に角、時間を稼いで何か対処を考えないと。
「えっ。
それってどうなるんだ?」
「契約を破れば魂が囚われの身となるらしい。
破られた所は見たことはないから、詳しくは知らないけど」
死ぬよりも怖い感じがする。
悪魔との契約みたいに、理不尽な解釈があったりして……。
少し沈黙し、一度考えを白紙に戻す。
あまり長い間を持たせると、反感を買うだろう。
「断ったら……」
「竜人族は貪欲なのを知らない?
手に入れたいと思ったものは何でも手に入れる」
レモプティが莫大な財宝を持っていたのも不思議だったが、収集する性質を持っていたからなのだろう。
交渉出来るカードが思いつかない。
ここに入った時点で、敗北が確定していたのだろう。
だが諦めたら終わりだ。
「俺は賭けに勝った。
それに君を助けた恩があるだろう」
「確かに。
けど欲望は何よりも優先される」
引き伸ばせる限界だろう。
これ以上は、実力行使もありうるかも知れない。
「……解った。
なんて約束をするんだ?」
ムニアは、モジモジとして恥ずかしそうにする。
何を想像しているのだろうか。
言葉になるまでに何か打てる手はないのか……。
そんな事を考えていると、ムニアは赤裸々に言う。
「呪いを解いたら、私といひひひな事をして……。
いわゆる夫婦の営みよ」
「何で君と夫婦になるんだ?」
迂闊にも、驚いて直ぐに返事をしてしまった。
一つ飛び越えた先に進んでいるのだから……。
「だって沢山妻がいるって、レモプティが話してたし」
「……」
ただ財宝を取りに戻るだけで済むわけ無い。
自慢げに喋ったのだろうとは想像できる。
竜人の情報網は恐るべし。
王国だと素顔でも気づかれない程のガバガバさだっただけに余計に、そう思える。
観念するしか無いのかと諦めかけた時だ。
スキュラチがやって来た。
救世主か、それとも……ごくり。
「客人に手を出してはいけません。
ムニア、手を離しなさい」
「はーい」
意外にも素直に言うことを聞くのには驚きだ。
立場関係がどうも解らない。
片角の方が劣っているように思えるのに……。
年上に従う文化なのかも知れない。
だとしたら、スキュラチはかなり歳上なのか?
うーん、見た目は大差ないような気もする。
竜人の寿命は長いから、人間の尺度では測れないのだろう。
「助かった」
「いえ、他の皆んなも助けることが出来ました。
とても感謝しています」
風太は、ホッとする。
竜人を助けられただけでは無く、サラを巻き込まずに済むのだ。
「それなら、転生者の体を調べる必要はないな。
良かった」
不思議そうな顔をするスキュラチ。
一度交わした約束が破棄されるとは微塵も考えていなかったのである。
「んー?
調べます、だって知りたいですから」
強欲なのは竜人の特性だった。
片角でも、それは変わらないようだ。
「……」
後に、サラが連れてこられ、念入りに触って調べられることになる。
風太は一つお願いを聞いて、ご機嫌を取る羽目となった。
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