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5章 竜国編
39話 勝利
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「ひいぃぃぃっ、どうしてこんな事に……!」
ゾンビ化した竜の群れが走っている。
そんな竜の頭の上に座っている貴族の娘が居た。
ラティアーヌである。
復讐に失敗した挙げ句、魔屍竜に遊ばれて魔将の元へ向かっている。
『ガッハハハ……。
空が怖いと言うから、地面を走っておる感謝しても良かろう』
「はい。
感謝しておりますとも……、でも馬の頭に乗ったりしないですわ」
『我らを馬と同等に扱おうつもりであったか。
では爪や牙も使わずに勝つ秘策を是非聞きたいものだ』
本当に腐った死体なのかと思う程、反応がいい。
ボェーボェーと叫びノソノソと歩くグールが一般的な印象だ。
「はぁ、私が愚かでした……。
魔族の特性から推測すると水の魔将あたりでしょうか?」
『会って確かめれば良いこと。
推測が当たっているなら相性はお互いに最悪だろう』
「何故、相手は水が得意で苦手な炎を使ってこないのに」
『我らが宿しているのは腐敗の精霊。
強酸の吐息、腐食カビ霧の息……、水によって弱体化させられてしまうものばかり』
「お母様、復讐を果たせず。
このような辺境の地で死ぬことをお許し下さい」
もはや、祈るしか無い。
そんな祈りが届くこともなく、開戦が始まる。
木々を薙ぎ払い、ドリル状の殻をもつアンモナイトが飛んでくる。
バキバキバキ……
『さあ、どうする?
指揮を取らねば全滅する』
「どうなっても知らない。
左右に隊列を分けて、挟撃するように回り込んで!」
甘やかされて育ったラティアーヌにまともな指揮が取れる筈もなかった。
少数ならまだしも、大群を率いた事など無いド素人である。
『ガハハハ……。
しっかり掴まっておくが良い』
飛んでくる敵を避け、進路を曲げる。
突撃した勢いが凄まじく、敵は方向転換が苦手なのようでそのまま飛んでいく。
「沼地よ!
森ばかりって聞いていたのに」
広く浅い、沼が広がっている。
滑りやすく足を取られて、騎馬が嫌う地形だ。
転倒すれば、投げ出されてしまうと冷や汗が出る。
『ガッハハハ……。
これは良い、木々が邪魔だった』
「動きが鈍れば、突撃で……」
『沈む前に逆の足で踏み続ければ、沈むこともない。
むしろ早く走れるというもの』
ジャジャジャジャ……!
「ひいぃー。
すごい水しぶき……」
魔将の姿が見える。
岩場に座って、竪琴を奏でいた。
下半身が魚となり、まるで人魚のようだ。
奏でる音が激しくなると、水柱が上がり水面が広がっていく。
『我らの力が1とすると、あれは10といった所。
初めから勝算はない』
「ひっくり返せる、数字じゃない。
……くっ、フータ! 初めから解って」
『悔やみ憎悪をするだけでは、何も変えられぬ。
次が来る……!』
水面に口の長い魚が次々と顔を出す。
水吐き魚だ。
口に溜めた高圧力の水を高速で飛ばし切断する。
水が光線のように飛ばされる。
天から水平へと切り裂く。
後ろを走る魔屍竜の群れが、引きされて次々とがバラバラに散っていく。
「弱過ぎよ。
何が竜人の英雄なの、あんな雑魚に負けてるなんて!」
『ガハハハ……。
所詮は屍、不満があるなら生きているお主が戦えばよかろう』
「言ってくれる。
雷の精霊よ、私に力を……青い電撃の矢」
術で形成された弓を引き、電撃の矢を放つ。
遠距離攻撃に特化した法術であり、鹿や猪なら一撃で仕留められる。
バシッ
直撃したにも関わらず反応すら無い。
無傷だった。
『情けない。
その程度の力しか無いとは』
「くっ……。
力が出ないのよ」
『ガッハハハ……。
当然よ、我が吸い取っておるからな』
「……はあぁ?
返しなさい、奪うなんてありえない」
『既に肉体に染み渡っておる。
どうしてもと言うのなら、食らうが良い』
腐肉、しかもアンデット化している肉を食える訳はない。
食せば腹痛に襲われ、死に至りアンデットの仲間入りするだろう。
「ムリムリ、アンデットに成りたくはない」
ウロチョロして回るだけで、次々と水性魔獣が姿を表す。
殺戮魚、小型の肉食魚で群れで食らいつく。
巨大魔怪魚がドーンと出現する。
ウナギのようなウネウネとした体だが、その巨大さは魔屍竜を丸呑みに出来る程だ。
『どんどん湧いてくるな。
さて我らの生き残りは?』
「居ない、貴方が最後。
もう絶体絶命よ、話しに乗らずに逃げていればよかった」
『逃げたとて、何が出来たという。
未来を考え動かずして、何も得るものはない』
「もう私は終わり……、何も出来ずに死ぬわ」
『もう一度いう。
未来を諦めた者に先はない、考えよ』
魔獣に言葉は通じない。
誤魔化しも騙すことすら出来ないだろう。
何も出来ない弱者は強者に踏みにじられて命すら容易く奪われる。
「……ええ、考えます。
何か助言を」
『ガハハハッ
宜しい、我らはこれからが本気を出す』
ザバーン!
朽ちたと思われていた魔屍竜達が起き上がり、呻きを上げる。
オオォォン
「えっ?
全滅したのでは……ないの」
『不死の肉体がどうして、容易く死ねると思う。
さあ、反撃の時』
「まずはあの巨大なウナギを!」
地上では激戦が始まっていた頃。
風太達は無事に救出され、ベットの上に居た。
手早く助け出されたのはアメジア姫が訪れたことによる。
追いかけるように呼び戻そうとした事で、事故が発覚し縄梯子を降ろして貰えたのだった。
「話をすると言って、戻ってこないと思ったら。
何をしているでしょうか?」
寝ている横に、そのアメジアが腰掛けている。
冷え切った体には暖かく温もりが有り難い。
「魔族を撃退するための準備を進めていた。
その途中で襲われて……」
「そのパンツ1枚の格好にされたと?」
その指摘は痛い。
手足は包帯が巻いてあるが、それは服とは言えず。
経緯を話せば長くなるし特に大きな理由もない。
水着で行動したのは軽率だった。
アメジアが呆れた眼で見ている。
「これは濡れるかもしれないからで……」
「ふーん。
姉と関係を持っているというのに、他の方を侍らせていたのは大問題ではないでしょうか?」
「勘違いするな。
君の姉とは何でもないし、依頼主というだけだ」
「じー。
私が幼い少女だと思って誤魔化そうとしているのでしょうけど。
体に契約の印を入れている事を忘れているのでしょうか?」
呪いの事だろう。
早く戻らないと死ぬ事になる。
「困ったな。
俺はこれから、魔族と戦うから……」
アメジアは風太の腕を握る。
包帯を巻いている傷口だ。
激痛に風太は涙目になった。
「痛た……、ちょっとそこは勘弁してくれ。
深く骨が刺さっていた所だ」
「もう、そんな体で戦えるわけがありませんわ。
事情を話して通してもらいましょう」
「私に任せて下さい。
良いでしょう?」
「君に危険な真似をさせられない」
「義兄となる貴方を死なせたくはありません。
そんな事をしたら姉に嫌われます」
話を聞いてくれそうにない。
とりあえず話だけなら危害を加えたりはしないと信じて任せてみるか?
いや、時間稼ぎの為に話をしてもらおう。
居ない内に魔族を撃退すれば良いだけだ。
「解った。
君に交渉を任せる」
「ふふーん。
良い結果をお待ち下さい」
ふぅ~、これで一先ずは猶予ができた。
後は……。
アメジアは隣のベットに移動しサラの足を撫でながら微笑む。
「主を守るのが貴方の努めでしょう。
間違っていた判断をすれば諌めるのも貴方の努めですよ」
「はい。
深く反省して、今後はきっちりと任務を全うします」
「身だしなみを整えるのも大切だと思います。
休みも必要だとは思いますが、品格を大切にして頂きたいです」
「恐縮、姫様のお言葉深く心に刻み精進します」
その言葉を聞くと、アメジアは部屋を出ていく。
サラは影響を受けやすいのか、特に権力者の言動によって態度をガラリと変える性質が見えてきた。
寝ては居られないと、直ぐにメイド服に着替え。
戻ってきた。
そして風太の側に立ち微笑む。
「怪我が治るまでは座ってくれ。
無理をしたら傷が開く」
「ご心配なく、この程度は傷のうちに入りません。
体を拭かせて頂きます」
「なっ……」
「綺麗な体となって、身なりを整えてさせて頂きます」
「俺は大丈夫だから」
足に包帯が巻いてあるのは、迂闊にも尖った骨を踏んでしまったから。
歩くと痛むが、耐えられない程ではない。
「にひひ……。
これは私の役目なのをお忘れですか?」
「何時の事だ。
それは過去の事、今は違うだろう」
「では今から、私の仕事に加えます。
抵抗して無駄です」
手の内側へと伸ばそうとする彼女との攻防が始まった。
巧みに内側から外へと受け流す。
瞬速で動き、バシバシと激烈な手の応酬に風が巻き起こる。
「以前とは違う……、痛っ……。
卑怯だ」
アメジアが触れた同じ場所を軽く当てられた。
それだけで痛みで、動きが鈍り抑え込まれてしまう。
情報の差が敗因だろう。
疲れ果てるまで、耐えきることだって出来たはずなのに……。
くっ。
「では大人しくして貰いましょう」
これ以上の争いは意味はない。
身を委ねて寝転がる。
優しい手つきで拭いてくれるのは気持ちいい。
このタオルは特に濡れていても、フワフワ感が優しい。
「着替えは俺がするから、持ってくるだけでいい」
「その怪我で立てるのでしょうか。
とても不安です」
抵抗すれば痛い目に遭いそうだ。
もう、彼女は一心同体。
勝手に動く手足と思うことにしよう。
「戦いの準備をしてくれ。
もう残された時間は少ない」
「御意。
そう言われると思い用意しておきました」
「助かる。
さて今直ぐ……」
「にひひひ……。
お着替えが先です」
くっ、常に手持ちのカードを増やしておかないと困るな。
緊急性が高くなると直ぐに解決しないと困るし、保持し続けるのは難しい。
つまり彼女の欲望を上回り、何時でも頼める緊急な用事だ。
……難問、どう考えても思いつかない。
考えている間に着替えは終わっていた。
サラが軽く風太の頬に口づけをする。
「んん?
なんだ急に」
「いえ、考え事をしていたようなので。
準備が整いました」
ラビリスはあの裂け目に置いてきた。
今もずっとあの場所で立っているのだろう。
支配の仮面を装着すると、やはりあの裂け目の光景が広がる。
結局、奪われたバックを取り戻せず、分身体は今も探し回っているようだ。
右上に分身体の視界が縮小されて丸い枠に囲まれる感じで見えている。
操作できるわけではなく別個体として指示した命令を実行するだけのようだ。
(成る程、分身体をこんな感じで管理しているのか)
『それは私に対しての質問?
ええ、忠実な下僕となって、私の目となり動いてくれます』
(覚悟は出来ているな?
相手は強敵だ)
『アハハハ……。
私が負ける事はありません、風太殿が意図的に負けようとすれば別ですが』
(初めから本気で行く。
速攻で決めて終わらせるつもりだ)
ラビリスは戦斧を拾い、背に翼を生やし飛び立つ。
分身体よりも、素早く一瞬で天井まで到達する。
『私に任せてくだされば、直ぐに外に出てご覧に入れましょう』
(恐らく、その真上辺りに居るはず)
アンデットの活性化には原因がある。
その可能性が高いのは、魔将という異物の出現だろう。
それによって魔素が増えたは間違いない。
炎魔将の支配地が、魔素に覆われ魔獣が徘徊するようになっていたからだ。
『では、蝙蝠化の秘術』
無数のこうもりに肉体が分離して、飛び立つ。
映像が線で表現された白黒の世界となる。
眼ではなく音波によって、構築された脳内の一部を見ているのだろう。
飛行するコウモリが壁にぶつからずに移動できるのは、超音波によって障害物を察知できるからである。
反射する音によって、眼では見えない場所まで立体的に把握する。
満月が桃色に輝いている。
変身を解いたのだろう。
『ここは地獄でしょうか?
外に出たつもりでしたが……』
空が美しいのに、地表では地獄のような山上が広がっていた。
魚の残骸……いや、魚人の屍だろうか。
それが大量に転がっているのだ。
(どうなっている。
これが竜人の死体じゃないよな?)
顔がどう見ても魚だし、似ても似つかない。
共存していたのだろうか?
竪琴の音色が響く。
人魚が岩の上に腰掛け、奏でているのか見える。
彼女の周囲に召喚陣が開き、魚人の群れが呼び出されていた。
(あの人魚の顔は、攻めてきた魔族に似ている)
『水魔将レーラム。
大地を海へと沈め数々の国を滅ぼした化け物』
(行くぞ。
初撃で倒す、できるだけ高く飛べ!)
急降下で落下し、戦斧に体重と重力加速を加えた一撃を与えようというのだ。
破壊力は凄まじいものになるだろう。
もし気づかれて迎撃であのアンモナイトを飛ばしても叩き切りそのまま突撃出来る筈。
心配なのは戦斧の強度だけだが、これが壊れるようならそもそも勝ち目はない。
凍える寒さの空中、自由落下が落ち散る。
翼で制御し更に加速を加えた。
『アハハハ……』
(いけえぇぇぇぇっ!)
一撃が決まったとして、そのまま岩に激突するのは目に見えている。
風太はギリギリで仮面を外す。
ありがとうラビリス。
眼の前に、青楓が座っていた。
レモプティが連れてきたのだろうか。
だとしたら調べられて機嫌が悪くなっているかもしれない。
だが、そんな様子はなく微笑み欲しそうに手を出す。
「うちも、そのゲームで遊ばせて」
「これは違う。
いわゆる人形を操る道具だ」
「話は聞いている。
このお土産の焼き芋を食べて、休んでいると良い」
紙袋に焼き芋が入っている。
ホカホカで甘い匂いが漂って、お腹がぐうーとなる。
魔将は討ち取ったあとだし、残るは雑魚だけだろう。
岩に激突してぐちゃぐちゃになっていたら、再生するまで時間が掛かるかもしれないが……。
まあ、大丈夫だろう。
「解った君に任せる。
受けた痛みは返ってくるから気をつけて」
「むー」
「青楓に任せる」
ニッコリと笑う青楓。
相変わらず呼び方に何故かこだわるな。
指輪と仮面を渡す。
「えへん。
任せて、これで勝利は確約された」
この世界でデジタルのゲームは出来ない。
不満が溜まっていたのだろうか。
だとしたら楽しんで欲しい気もする。
「好きに遊んでくれて良い」
「勝利ほど楽しいことはないのだよ。
勿論、うちの手は掴み取れる」
焼き芋を半分に折って、サラに渡すと嫌な顔をする。
女の子はみんな好きだと思っていたけど違ったのか?
「何か不満なのか?」
「豚の餌を食べ無くてはならないほど、
貧しいとは思って見なかったので……」
「こんなに美味しいのに。
餌って、甘くするために与えているとは考えないのか?」
「……いえ、パサパサで味もほとんど無く、調理しても不味いです」
「でも毒見するんだろう?」
「はい。
ではさせて頂きます」
嫌そうに食べるサラだったが、一口食べると手の平を返す。
うっとりして、残りわたべてしまったのである。
「干し芋が人気がなかったは、そういう理由か」
「はい。
こんなに甘くて柔らかいとは知りませんでした」
「芋にも種類があることぐらい知っているだろう?
なんで、知らないんだ」
「豚の餌として、育てていたので……。
芋はそういうものだと、先入観を持っていました」
思い込みは誰にでもある。
間違っていたと気づけたなら幸せだろう。
「君なら、もう芋料理を考えているだろう?
期待している」
一般的な支配階級なら料理人が調理するのだが、欲望と思惑が交錯し調理場は戦場となっている。
公平にクジで日程を決めて厳格に誰が調理するのかを定めているぐらいだ。
「予備の仮面もあります。
戦いの様子をご覧になっては如何かでしょうか?」
「助かる」
広がる光景に目を疑った。
巨大な化け物が空に浮かんでいるのだ。
魚顔の額に、あの人魚の顔が埋め込まれている。
翼のような鰭を羽ばたかせ、半身はタコのような足が無数生えている。
何処から湧いてきたのか、大きなシャボン玉がたくさん浮遊し飛んでいるのも謎だ。
(何だ……)
『戦闘形態に変身しましたわ。
先程から、変な踊りのような動きは何のために?』
(それは気にするな。
彼女とは話をしているのか?)
『彼女?
一体、誰のことです、まさかあの竜人でしょうか?』
(いや、違う。
まあ会話できなくても問題はないか……)
指輪で操れはせ良いこと。
まあ特別な力を使うには、命令した方が簡単だが……。
人魚の口が開いかと思うと、強烈な高音で金属が共鳴する。
戦斧が激しく揺れ、亀裂が入り砕ける。
グラスが割れる映像は見たことがあるが、金属まで破壊するのは異様だ。
『えっ、ちょっと……。
素手で突っ込むとか、正気!?』
武器は壊れて、あるのは己の拳だけだ。
か弱い少女が繰り出す拳にどれ程の威力があるのか。
ピシ!
『……』
(ああ、やっぱり駄目か)
「はぁーーー、百連拳、たぁーたたたたたたた」
猫パンチをいくら繰り出しても、全然効くはずもない。
格が違いすぎた。
相手はボス格の強敵で、素手のラビリスはひ弱な少女に過ぎない。
無駄だと止めようとした時だ。
最後の100発目の拳が決まる。
鱗の肌が波打ち、バラバラと鱗の一部が吹き飛んだのである。
(ええっ?
何だ、いや意味わからない)
「ふふーん。
陰と陽が混じり合い大きな力となす、うちの秘術の一つ」
式神を操るという話を聞いたことがある。
死者の霊と区別するために、式神と名称を与えているだけで実質同じものだ。
アンデットを操るのも十八番だと言うことなのだろう。
(やるな。
弱体化で防御を剥いだのか)
だが直ぐに再生を始め、鱗が生え揃い元に戻ったように見えた。
そしてタコの足が襲ってくる。
パシパシと手で受け流し、その場を離れた。
接近すれば、あの足の攻撃範囲に入る。
離れれば攻撃できない。
(手詰まりか……)
「まだまだ、これから始まる。
体術こそ最強の武器、奥義を見せてあげよう」
両手を広げ円を書くように手を動かす。
右の手に陽の気が、左手には陰の気が貯まる。
邪魔するようにタコの足から、毒の水が放たれる。
くるくると飛んで回避しシャボン玉の上に立つと、トランポリンのように反動を利用して飛び立つ。
ピンボールのようにバンバン当たって、背後を取ると掌底を放った。
スドン! と衝撃波が走り水魔将レーラムの巨体な体が少し動く。
魚の口から、大量の魚型魔獣を放つ。
相手にすれば不利になる、何故なら魔獣を撃退すれば魔素がばら撒かれる。
魔素が濃くなればなる程、魔族は力を増すのだ。
(捨て身で殴り続ければ……)
『幾ら私でも、食いちぎられれば耐えられません』
「はぁぁぁぁぁ、上、上、下、下、右、左、拳、蹴り」
ゲームじゃないんだが、謎のコマンド入力を試したくなるのは解る。
『はぁぁぁい、見えざる衣!』
(そっか、俺じゃないから。
魔法が使えるんだ)
ガシガシ噛みつくギザギザの歯が見える。
見えない衣に阻まれて噛めないようだが、時間の問題だろう。
徐々に、弱まって距離が縮まっている。
「凍らせたい。
それで投げてぶつける、ボスが出してきたものを利用する感じに」
『冷酷な氷人の手』
ラビリスの手に触れると、魔獣は凍りつく。
それを蹴り飛ばし、水魔将にぶつける。
打つかると同時に氷が砕け、噛みつく。
水魔将は自ら出した魔獣に噛みつかれ、タコの足で払いのける。
キエェェェェー
謎の奇声をを上げて暴れタコの足を手当たり次第に振り回す。
ラビリスはその攻撃を容易く避けていた。
気がつけば周囲にいた魔獣も全滅している。
魔素が濃くなり、水魔将の肉体にも変化が現れる。
タコのの足に加え、縞模様の蛇が生えてきたのである。
(段々キモい姿になっていくな。
何処まで変化するんだ?)
『危機に瀕すると肉体を変貌させて強くなっていく。
もう笑えないほどの脅威です』
水中からドバーンと魔屍竜と飛び上がる。
「はぁー!」
バコッン!
拳の一撃で脳天を砕き撃退する。
(あっ……、それは味方)
「てあぁっ!」
伝わっているのかと思いきや、全く伝わっていなかった。
出できた魔屍竜達を瞬く間に、撃退し全滅させたのである。
『ううぅぅぅ、ごめんなさい。
止められませんでした』
(まあ仕方ない)
んー。
口で言えばよかった事に気づき、「あっ」と思っても手遅れだった。
味方殺しで一人で挑む縛りプレーみたいになっている。
水魔将の肩にはウニのような鋭い棘が生え、エラのの下辺りからカニの爪が。
背は貝の殻で覆われ、側面に磯巾着のような物まで付いていた。
もはや海の生き物、詰め合わせのような化け物だ。
「ついに最終形態に突入。
うちの最終奥義を出す時……、もはや守りは捨て攻撃あるのみ」
「あんなのに素手で行くのか?」
「もちもち。
相手が強ければ強いほど燃える」
素早く飛び、蹴りを決める。
ズドドドドン!
甲殻に覆われたカニの爪が砕け散る。
(まだ、生えたてだから脆いのか)
『ひぃー。
風太殿、許して下さい……』
蹴りが当たるたびに骨が砕け再生するという繰り返し。
相当な激痛が走っている筈なのだが……、青楓には、そんな様子はない。
もしかすると痛覚遮断か、そもそも違う仕組みで制御しているのだろう。
つまり痛みを感じずに、自在に操れるということだ。
他に改善していることはないのだろうか?
やっぱり触ってみないと解らないような。
返してもらいたいけど、今取り上げるは流石に……。
「手を握って良いか?」
「うん。
良い、でもどうして?」
気の利いたことを言えれば良かったが直ぐには思いつかなかった。
やっぱり素直が一番。
「一緒に戦いたいと思って……」
指輪を調べたくてと言い切る前に、手の感触が。
まあ良いか。
目を閉じ集中すると、術式の構成が見えてくる。
膨大な規模、まるで銀河の星海だ。
これをあんなに早く0から構築したのだろうか?
元々合ったものに、追加して改変したとしたら。
新しい部分を追えば解るはず。
古いほど輝きが強く、新しいほど弱々しい光を放つ。
それは転生の魔法陣を改変した後に気づいた特徴だ。
(あった……。
成る程、術の糸で結ばれているのか)
魂の一部を憑依させるのではなく、信号として伝え動かす訳だ。
デジタル化していたってわけか。
『はい?』
「深淵に眠りし赤き眼の破壊の王。
俺の為に力を貸してくれ……小さな火の玉」
風太の詠唱により、ラビリスの指先に魔法の力が宿る。
放たれる火の玉は小さく、一瞬で消えそうな心細いものだった。
それをラビリスは掴み取る。
『ぎああぁぁぁっ!
あつっ熱すぎです!』
「彼氏君の力を受け取った。
この燃え盛る拳で決める」
「えっ?
ああ、決めてくれ」
試し打ちで、かなり力を絞っていたのだが……。
もし本気だったら、ラビリスの肉体が灰となって消えていただろう。
いつの間にか、水魔将の背に回っていた。
巨体ゆえか、動きが遅く振り返るのはゆっくりだ。
「灼熱、正拳突きぃぃ」
「いけえぇぇぇっ」
二人の気持ちが揃い、ラビリスに力が流れ込む。
強い気に包まれながら勢いよく飛び込み燃え盛る拳を繰り出していた。
阻む海蛇やタコの足も貫き、飛んでくる針に体を串刺しにされながらも止まらない。
最後の一撃を決める覚悟は鋼よりも硬く、二人の絆と共に固く結ばれていた。
最も硬そうな貝の殻をバリンッと壊し貫通する。
内部で手を開く。
火の玉が魔素を吸い取り急激に膨張して行く。
ラビリスが飛び立ち、その場を離れ振り返る。
風船のように膨張し爆散する光景が広がり、残骸が辺りに降り注ぐ。
空中要塞が爆発するかのように、次々と内部で爆発が起きて崩壊しているのだ。
「勝利」
二人は同時に仮面を外していた。
「おめでとう。
いや、ありがとう」
青楓は風太に抱きつく。
「これで、呪いから開放。
早く行こう、うち達の明日も待っている」
「ああ、そうだな。
これからはのんびり出来る」
成り行きとはいえ敵勢力を削いだのは大きい。
放置して、自分達の所にやってくることも無くなって、より平穏な日常に近づいたわけだ。
手放したことにより自由になったラビリスが逃げ用としたが、上手くいくわけもなく。
サラがこっそり後始末し、ラビリスは棺桶に封印されて眠ることになる。
竜人の長老バッファムーの巣に行くと、アメジアが倒れていた。
「アメジアに何をした?」
「安心する良い。
疲れが出て寝ているだけの事」
そんな事はない。
眠りの息を吐いたか、魔法を使ったのだろう。
話し合いで相手を眠らせる状況は想像できないが……。
恐らく、論破されそうになって黙らせたって所か。
「約束を果たした。
これで通って良いだろう?」
「では、証拠に首を持って来ると良い」
爆散して粉々となって肉片となっている。
その肉片も、魔素が抜けて萎み粉状になって散ってしまっていた。
そう証拠を持ってくることは不可能。
「見ていたんだろう?」
「少女が戦っていたのは見ていた。
明らかにお主ではない」
「アレは俺達が操っていた。
この指輪と仮面を渡すから、それで確かめてくれ」
「それは我が肉体とは合わぬ。
誰かの戦果を横取りして報告するとは哀れよな」
横で聞いていた青楓が前に出る。
「うちと彼氏君の勝利を汚すなんて許せない。
証拠ならここにある」
青楓は懐から小瓶を出すと、地面においた。
それには護符が貼られている。
いかにも何かを封印してあるような雰囲気を醸し出してあるが……。
「それが何だという。
ただの小瓶が何の証拠となるのか言ってみよ」
「ここにあの化け物が封印してある。
もう一度倒せるなら、叩き割って確かめてみたら?」
嘘なのは明らかだが、バッファムーの知らない異界人の能力もある。
封印されている可能が全く無いとは言えないのだ。
水魔将を撃退する力を見せられた後で、真偽を確かめるのは勇気がいる。
もし再び、アレが蘇ったら……。
「我らの土地を飛ぶのは許す。
しかし、帝国に侵入すれば我らと帝国の争いとなる」
拒んでいた本当の理由はここにあったのか。
確かに無用に争い事になる事は回避したいだろう。
今は魔族の侵攻によって、被害が出ている状況だ。
慎重になるのも解るが……。
「玉国と帝国の間に空白地があった筈。
そこで降りて帝国に入れば何も問題無いだろう?」
「人間の領地を通らずに入れるなら。
周囲は魔族か人間の領地」
……なにか違和感がある。
仮に玉国の上空を通っても、玉国の人々は何も出来ないだろう。
今は姫が誘拐されて混乱している頃合いだ。
そんな時に、竜人の国に攻め込もうなんて考えは起きないはずだ。
そもそも、難民の対処で困るほど戦力が不足している。
「何処かと取引しているだろう?
果物や山羊の乳とか……」
農業をしている感じはしない。
あの四角い岩の上は森林に覆われていて、畑は見えなかった。
天然に生えているのかもしれないが……。
「誰に聞いた?
外交は機密情報、処分しなければならない」
「アイスを持ってきてくれた。
それで推測しただけで、あえて言うなら君が口を滑らせた」
「夕刻に、定期便が出ている。
その後に付いていけば良い」
「どうして俺が帝国に行くのを嫌がったのか教えて欲しい」
「可愛い孫娘に相応しいか試すため。
見定めるにはまだ足りぬ。
いずれ来てもらうことになる」
「解った」
ラティアーヌは広場に立っていた。
骨となり朽ちかけている魔屍竜が目の前に地面に伏している。
「どうして逃げたのです。
私は覚悟を決めて共に散ろうと思っていました」
幾多の危機を切り抜ける内に、情のようなものが湧いていた。
災難だと思ったりと、あまり印象はなかったが……。
気がつけば感情を共有する仲となっていた。
『ガッハハ……。冗談はよせ。
我はもう力尽きようとしている』
「アンデットが、この程度で力尽きるはずもないでしょう」
『我らは違う。
仮初めに過ぎない、永遠の存在ではない』
「……こんな場所に、私を置いて行くなんて許せません。
せめて出会った場所に帰しなさい」
『復讐を手伝ってやっても良いと思っていた。
しかし、それも叶わぬこと』
遠くで水魔将が爆散する光景が見える。
謎の少女が現れて、計画は狂い最後の襲撃は失敗し敗退が確定した。
不死の魔屍竜の軍勢が、一瞬で滅ぼされ少女に取り込まれてしまった。
「私がもっと賢ければ。
こんな事にならずに済んだのに……、ごめんなさい」
らしくはない、涙が溢れていた。
ラティアーヌは自らが未熟だと悟り、その思いが今まで積み上げてきた虚像を破壊した。
『共に戦った貴女も、英雄の一人……』
「……良く解らない存在に、全てを壊されなくてはならないのです。
まだ終わってはいない」
『もう我の力など無くても成せるのではないのか?』
魔屍竜の骨が崩壊し砂のようになり、風と共に消え去る。
すると木々が花を開かせた。
朽ちる時、新たな生命を芽吹かせる。
仕込まれた魔法の仕掛けだった。
「……もう、復讐なんてどうでも良いのに。
本当に欲しかったのは友……、共に手を取り合える恋人」
ラティアーヌは、魔屍竜が花を贈ってくれたのだと思った。
実につまらない物だと思いつつも笑みが溢れる。
そこに竜に乗って風太がやってくる。
「こんな所に居たのか?
結果は聞くまでもないな」
花々が咲き乱れたことで、知られたのだろう。
運も尽き果てたという事。
いや、魔屍竜が願いを叶えてくれたのかもしれない。
でももう、復讐なんて気力もない。
なら潔く魔屍竜の元へ行こう。
「貴方の死の軍勢を失ったわ。
これほどの失態をしてオメオメと生き恥をさらす気はない、私に裁きを下しなさい」
「解った。
君の処分は考えてある、簡単に死ねると思わないことだ」
王国貴族なら、一族の首を門前に晒される。
それぐらいの失態なのは明らかだ。
あの戦力があれば、王国歩兵10万人を軽く凌駕する。
一体、どれ程の苦痛を与えられるのだろう。
「ええ、覚悟しております」
「チャナタにも良いから、帝国に来るように言ってくれ。
君は街の代表として責任を持って欲しい」
ラティアーヌは困惑した。
占領した街を手放すということなのか?
それとも自分を傀儡に支配を続けるつもりなのだろうか?
なら、どうして監視役を帰らせるのか意図がわからない。
「それはどうして?」
「王国が割れたのは、食料の問題が会ったからだろう?
あの土地が戻れば、少なくとも第一王子の所は危機が去るはずだ」
「ええ、十分な収穫が見込めます。
一体、貴方は何がしたかったのです」
「争いを止めたかったけど、難しかったみたい。
被害は出たし、上手く行かないこともある」
「私の失態は……」
「頑張って挽回すれば良いだろう。
後は頼んだ」
そう言うと袋を落とし風太は去っていく。
袋には金貨が入っている。
帰るための費用なのだろう。
「手に入れようとすれば失い。
捨てようとすれば手に入る、なんて皮肉なの」
ゾンビ化した竜の群れが走っている。
そんな竜の頭の上に座っている貴族の娘が居た。
ラティアーヌである。
復讐に失敗した挙げ句、魔屍竜に遊ばれて魔将の元へ向かっている。
『ガッハハハ……。
空が怖いと言うから、地面を走っておる感謝しても良かろう』
「はい。
感謝しておりますとも……、でも馬の頭に乗ったりしないですわ」
『我らを馬と同等に扱おうつもりであったか。
では爪や牙も使わずに勝つ秘策を是非聞きたいものだ』
本当に腐った死体なのかと思う程、反応がいい。
ボェーボェーと叫びノソノソと歩くグールが一般的な印象だ。
「はぁ、私が愚かでした……。
魔族の特性から推測すると水の魔将あたりでしょうか?」
『会って確かめれば良いこと。
推測が当たっているなら相性はお互いに最悪だろう』
「何故、相手は水が得意で苦手な炎を使ってこないのに」
『我らが宿しているのは腐敗の精霊。
強酸の吐息、腐食カビ霧の息……、水によって弱体化させられてしまうものばかり』
「お母様、復讐を果たせず。
このような辺境の地で死ぬことをお許し下さい」
もはや、祈るしか無い。
そんな祈りが届くこともなく、開戦が始まる。
木々を薙ぎ払い、ドリル状の殻をもつアンモナイトが飛んでくる。
バキバキバキ……
『さあ、どうする?
指揮を取らねば全滅する』
「どうなっても知らない。
左右に隊列を分けて、挟撃するように回り込んで!」
甘やかされて育ったラティアーヌにまともな指揮が取れる筈もなかった。
少数ならまだしも、大群を率いた事など無いド素人である。
『ガハハハ……。
しっかり掴まっておくが良い』
飛んでくる敵を避け、進路を曲げる。
突撃した勢いが凄まじく、敵は方向転換が苦手なのようでそのまま飛んでいく。
「沼地よ!
森ばかりって聞いていたのに」
広く浅い、沼が広がっている。
滑りやすく足を取られて、騎馬が嫌う地形だ。
転倒すれば、投げ出されてしまうと冷や汗が出る。
『ガッハハハ……。
これは良い、木々が邪魔だった』
「動きが鈍れば、突撃で……」
『沈む前に逆の足で踏み続ければ、沈むこともない。
むしろ早く走れるというもの』
ジャジャジャジャ……!
「ひいぃー。
すごい水しぶき……」
魔将の姿が見える。
岩場に座って、竪琴を奏でいた。
下半身が魚となり、まるで人魚のようだ。
奏でる音が激しくなると、水柱が上がり水面が広がっていく。
『我らの力が1とすると、あれは10といった所。
初めから勝算はない』
「ひっくり返せる、数字じゃない。
……くっ、フータ! 初めから解って」
『悔やみ憎悪をするだけでは、何も変えられぬ。
次が来る……!』
水面に口の長い魚が次々と顔を出す。
水吐き魚だ。
口に溜めた高圧力の水を高速で飛ばし切断する。
水が光線のように飛ばされる。
天から水平へと切り裂く。
後ろを走る魔屍竜の群れが、引きされて次々とがバラバラに散っていく。
「弱過ぎよ。
何が竜人の英雄なの、あんな雑魚に負けてるなんて!」
『ガハハハ……。
所詮は屍、不満があるなら生きているお主が戦えばよかろう』
「言ってくれる。
雷の精霊よ、私に力を……青い電撃の矢」
術で形成された弓を引き、電撃の矢を放つ。
遠距離攻撃に特化した法術であり、鹿や猪なら一撃で仕留められる。
バシッ
直撃したにも関わらず反応すら無い。
無傷だった。
『情けない。
その程度の力しか無いとは』
「くっ……。
力が出ないのよ」
『ガッハハハ……。
当然よ、我が吸い取っておるからな』
「……はあぁ?
返しなさい、奪うなんてありえない」
『既に肉体に染み渡っておる。
どうしてもと言うのなら、食らうが良い』
腐肉、しかもアンデット化している肉を食える訳はない。
食せば腹痛に襲われ、死に至りアンデットの仲間入りするだろう。
「ムリムリ、アンデットに成りたくはない」
ウロチョロして回るだけで、次々と水性魔獣が姿を表す。
殺戮魚、小型の肉食魚で群れで食らいつく。
巨大魔怪魚がドーンと出現する。
ウナギのようなウネウネとした体だが、その巨大さは魔屍竜を丸呑みに出来る程だ。
『どんどん湧いてくるな。
さて我らの生き残りは?』
「居ない、貴方が最後。
もう絶体絶命よ、話しに乗らずに逃げていればよかった」
『逃げたとて、何が出来たという。
未来を考え動かずして、何も得るものはない』
「もう私は終わり……、何も出来ずに死ぬわ」
『もう一度いう。
未来を諦めた者に先はない、考えよ』
魔獣に言葉は通じない。
誤魔化しも騙すことすら出来ないだろう。
何も出来ない弱者は強者に踏みにじられて命すら容易く奪われる。
「……ええ、考えます。
何か助言を」
『ガハハハッ
宜しい、我らはこれからが本気を出す』
ザバーン!
朽ちたと思われていた魔屍竜達が起き上がり、呻きを上げる。
オオォォン
「えっ?
全滅したのでは……ないの」
『不死の肉体がどうして、容易く死ねると思う。
さあ、反撃の時』
「まずはあの巨大なウナギを!」
地上では激戦が始まっていた頃。
風太達は無事に救出され、ベットの上に居た。
手早く助け出されたのはアメジア姫が訪れたことによる。
追いかけるように呼び戻そうとした事で、事故が発覚し縄梯子を降ろして貰えたのだった。
「話をすると言って、戻ってこないと思ったら。
何をしているでしょうか?」
寝ている横に、そのアメジアが腰掛けている。
冷え切った体には暖かく温もりが有り難い。
「魔族を撃退するための準備を進めていた。
その途中で襲われて……」
「そのパンツ1枚の格好にされたと?」
その指摘は痛い。
手足は包帯が巻いてあるが、それは服とは言えず。
経緯を話せば長くなるし特に大きな理由もない。
水着で行動したのは軽率だった。
アメジアが呆れた眼で見ている。
「これは濡れるかもしれないからで……」
「ふーん。
姉と関係を持っているというのに、他の方を侍らせていたのは大問題ではないでしょうか?」
「勘違いするな。
君の姉とは何でもないし、依頼主というだけだ」
「じー。
私が幼い少女だと思って誤魔化そうとしているのでしょうけど。
体に契約の印を入れている事を忘れているのでしょうか?」
呪いの事だろう。
早く戻らないと死ぬ事になる。
「困ったな。
俺はこれから、魔族と戦うから……」
アメジアは風太の腕を握る。
包帯を巻いている傷口だ。
激痛に風太は涙目になった。
「痛た……、ちょっとそこは勘弁してくれ。
深く骨が刺さっていた所だ」
「もう、そんな体で戦えるわけがありませんわ。
事情を話して通してもらいましょう」
「私に任せて下さい。
良いでしょう?」
「君に危険な真似をさせられない」
「義兄となる貴方を死なせたくはありません。
そんな事をしたら姉に嫌われます」
話を聞いてくれそうにない。
とりあえず話だけなら危害を加えたりはしないと信じて任せてみるか?
いや、時間稼ぎの為に話をしてもらおう。
居ない内に魔族を撃退すれば良いだけだ。
「解った。
君に交渉を任せる」
「ふふーん。
良い結果をお待ち下さい」
ふぅ~、これで一先ずは猶予ができた。
後は……。
アメジアは隣のベットに移動しサラの足を撫でながら微笑む。
「主を守るのが貴方の努めでしょう。
間違っていた判断をすれば諌めるのも貴方の努めですよ」
「はい。
深く反省して、今後はきっちりと任務を全うします」
「身だしなみを整えるのも大切だと思います。
休みも必要だとは思いますが、品格を大切にして頂きたいです」
「恐縮、姫様のお言葉深く心に刻み精進します」
その言葉を聞くと、アメジアは部屋を出ていく。
サラは影響を受けやすいのか、特に権力者の言動によって態度をガラリと変える性質が見えてきた。
寝ては居られないと、直ぐにメイド服に着替え。
戻ってきた。
そして風太の側に立ち微笑む。
「怪我が治るまでは座ってくれ。
無理をしたら傷が開く」
「ご心配なく、この程度は傷のうちに入りません。
体を拭かせて頂きます」
「なっ……」
「綺麗な体となって、身なりを整えてさせて頂きます」
「俺は大丈夫だから」
足に包帯が巻いてあるのは、迂闊にも尖った骨を踏んでしまったから。
歩くと痛むが、耐えられない程ではない。
「にひひ……。
これは私の役目なのをお忘れですか?」
「何時の事だ。
それは過去の事、今は違うだろう」
「では今から、私の仕事に加えます。
抵抗して無駄です」
手の内側へと伸ばそうとする彼女との攻防が始まった。
巧みに内側から外へと受け流す。
瞬速で動き、バシバシと激烈な手の応酬に風が巻き起こる。
「以前とは違う……、痛っ……。
卑怯だ」
アメジアが触れた同じ場所を軽く当てられた。
それだけで痛みで、動きが鈍り抑え込まれてしまう。
情報の差が敗因だろう。
疲れ果てるまで、耐えきることだって出来たはずなのに……。
くっ。
「では大人しくして貰いましょう」
これ以上の争いは意味はない。
身を委ねて寝転がる。
優しい手つきで拭いてくれるのは気持ちいい。
このタオルは特に濡れていても、フワフワ感が優しい。
「着替えは俺がするから、持ってくるだけでいい」
「その怪我で立てるのでしょうか。
とても不安です」
抵抗すれば痛い目に遭いそうだ。
もう、彼女は一心同体。
勝手に動く手足と思うことにしよう。
「戦いの準備をしてくれ。
もう残された時間は少ない」
「御意。
そう言われると思い用意しておきました」
「助かる。
さて今直ぐ……」
「にひひひ……。
お着替えが先です」
くっ、常に手持ちのカードを増やしておかないと困るな。
緊急性が高くなると直ぐに解決しないと困るし、保持し続けるのは難しい。
つまり彼女の欲望を上回り、何時でも頼める緊急な用事だ。
……難問、どう考えても思いつかない。
考えている間に着替えは終わっていた。
サラが軽く風太の頬に口づけをする。
「んん?
なんだ急に」
「いえ、考え事をしていたようなので。
準備が整いました」
ラビリスはあの裂け目に置いてきた。
今もずっとあの場所で立っているのだろう。
支配の仮面を装着すると、やはりあの裂け目の光景が広がる。
結局、奪われたバックを取り戻せず、分身体は今も探し回っているようだ。
右上に分身体の視界が縮小されて丸い枠に囲まれる感じで見えている。
操作できるわけではなく別個体として指示した命令を実行するだけのようだ。
(成る程、分身体をこんな感じで管理しているのか)
『それは私に対しての質問?
ええ、忠実な下僕となって、私の目となり動いてくれます』
(覚悟は出来ているな?
相手は強敵だ)
『アハハハ……。
私が負ける事はありません、風太殿が意図的に負けようとすれば別ですが』
(初めから本気で行く。
速攻で決めて終わらせるつもりだ)
ラビリスは戦斧を拾い、背に翼を生やし飛び立つ。
分身体よりも、素早く一瞬で天井まで到達する。
『私に任せてくだされば、直ぐに外に出てご覧に入れましょう』
(恐らく、その真上辺りに居るはず)
アンデットの活性化には原因がある。
その可能性が高いのは、魔将という異物の出現だろう。
それによって魔素が増えたは間違いない。
炎魔将の支配地が、魔素に覆われ魔獣が徘徊するようになっていたからだ。
『では、蝙蝠化の秘術』
無数のこうもりに肉体が分離して、飛び立つ。
映像が線で表現された白黒の世界となる。
眼ではなく音波によって、構築された脳内の一部を見ているのだろう。
飛行するコウモリが壁にぶつからずに移動できるのは、超音波によって障害物を察知できるからである。
反射する音によって、眼では見えない場所まで立体的に把握する。
満月が桃色に輝いている。
変身を解いたのだろう。
『ここは地獄でしょうか?
外に出たつもりでしたが……』
空が美しいのに、地表では地獄のような山上が広がっていた。
魚の残骸……いや、魚人の屍だろうか。
それが大量に転がっているのだ。
(どうなっている。
これが竜人の死体じゃないよな?)
顔がどう見ても魚だし、似ても似つかない。
共存していたのだろうか?
竪琴の音色が響く。
人魚が岩の上に腰掛け、奏でているのか見える。
彼女の周囲に召喚陣が開き、魚人の群れが呼び出されていた。
(あの人魚の顔は、攻めてきた魔族に似ている)
『水魔将レーラム。
大地を海へと沈め数々の国を滅ぼした化け物』
(行くぞ。
初撃で倒す、できるだけ高く飛べ!)
急降下で落下し、戦斧に体重と重力加速を加えた一撃を与えようというのだ。
破壊力は凄まじいものになるだろう。
もし気づかれて迎撃であのアンモナイトを飛ばしても叩き切りそのまま突撃出来る筈。
心配なのは戦斧の強度だけだが、これが壊れるようならそもそも勝ち目はない。
凍える寒さの空中、自由落下が落ち散る。
翼で制御し更に加速を加えた。
『アハハハ……』
(いけえぇぇぇぇっ!)
一撃が決まったとして、そのまま岩に激突するのは目に見えている。
風太はギリギリで仮面を外す。
ありがとうラビリス。
眼の前に、青楓が座っていた。
レモプティが連れてきたのだろうか。
だとしたら調べられて機嫌が悪くなっているかもしれない。
だが、そんな様子はなく微笑み欲しそうに手を出す。
「うちも、そのゲームで遊ばせて」
「これは違う。
いわゆる人形を操る道具だ」
「話は聞いている。
このお土産の焼き芋を食べて、休んでいると良い」
紙袋に焼き芋が入っている。
ホカホカで甘い匂いが漂って、お腹がぐうーとなる。
魔将は討ち取ったあとだし、残るは雑魚だけだろう。
岩に激突してぐちゃぐちゃになっていたら、再生するまで時間が掛かるかもしれないが……。
まあ、大丈夫だろう。
「解った君に任せる。
受けた痛みは返ってくるから気をつけて」
「むー」
「青楓に任せる」
ニッコリと笑う青楓。
相変わらず呼び方に何故かこだわるな。
指輪と仮面を渡す。
「えへん。
任せて、これで勝利は確約された」
この世界でデジタルのゲームは出来ない。
不満が溜まっていたのだろうか。
だとしたら楽しんで欲しい気もする。
「好きに遊んでくれて良い」
「勝利ほど楽しいことはないのだよ。
勿論、うちの手は掴み取れる」
焼き芋を半分に折って、サラに渡すと嫌な顔をする。
女の子はみんな好きだと思っていたけど違ったのか?
「何か不満なのか?」
「豚の餌を食べ無くてはならないほど、
貧しいとは思って見なかったので……」
「こんなに美味しいのに。
餌って、甘くするために与えているとは考えないのか?」
「……いえ、パサパサで味もほとんど無く、調理しても不味いです」
「でも毒見するんだろう?」
「はい。
ではさせて頂きます」
嫌そうに食べるサラだったが、一口食べると手の平を返す。
うっとりして、残りわたべてしまったのである。
「干し芋が人気がなかったは、そういう理由か」
「はい。
こんなに甘くて柔らかいとは知りませんでした」
「芋にも種類があることぐらい知っているだろう?
なんで、知らないんだ」
「豚の餌として、育てていたので……。
芋はそういうものだと、先入観を持っていました」
思い込みは誰にでもある。
間違っていたと気づけたなら幸せだろう。
「君なら、もう芋料理を考えているだろう?
期待している」
一般的な支配階級なら料理人が調理するのだが、欲望と思惑が交錯し調理場は戦場となっている。
公平にクジで日程を決めて厳格に誰が調理するのかを定めているぐらいだ。
「予備の仮面もあります。
戦いの様子をご覧になっては如何かでしょうか?」
「助かる」
広がる光景に目を疑った。
巨大な化け物が空に浮かんでいるのだ。
魚顔の額に、あの人魚の顔が埋め込まれている。
翼のような鰭を羽ばたかせ、半身はタコのような足が無数生えている。
何処から湧いてきたのか、大きなシャボン玉がたくさん浮遊し飛んでいるのも謎だ。
(何だ……)
『戦闘形態に変身しましたわ。
先程から、変な踊りのような動きは何のために?』
(それは気にするな。
彼女とは話をしているのか?)
『彼女?
一体、誰のことです、まさかあの竜人でしょうか?』
(いや、違う。
まあ会話できなくても問題はないか……)
指輪で操れはせ良いこと。
まあ特別な力を使うには、命令した方が簡単だが……。
人魚の口が開いかと思うと、強烈な高音で金属が共鳴する。
戦斧が激しく揺れ、亀裂が入り砕ける。
グラスが割れる映像は見たことがあるが、金属まで破壊するのは異様だ。
『えっ、ちょっと……。
素手で突っ込むとか、正気!?』
武器は壊れて、あるのは己の拳だけだ。
か弱い少女が繰り出す拳にどれ程の威力があるのか。
ピシ!
『……』
(ああ、やっぱり駄目か)
「はぁーーー、百連拳、たぁーたたたたたたた」
猫パンチをいくら繰り出しても、全然効くはずもない。
格が違いすぎた。
相手はボス格の強敵で、素手のラビリスはひ弱な少女に過ぎない。
無駄だと止めようとした時だ。
最後の100発目の拳が決まる。
鱗の肌が波打ち、バラバラと鱗の一部が吹き飛んだのである。
(ええっ?
何だ、いや意味わからない)
「ふふーん。
陰と陽が混じり合い大きな力となす、うちの秘術の一つ」
式神を操るという話を聞いたことがある。
死者の霊と区別するために、式神と名称を与えているだけで実質同じものだ。
アンデットを操るのも十八番だと言うことなのだろう。
(やるな。
弱体化で防御を剥いだのか)
だが直ぐに再生を始め、鱗が生え揃い元に戻ったように見えた。
そしてタコの足が襲ってくる。
パシパシと手で受け流し、その場を離れた。
接近すれば、あの足の攻撃範囲に入る。
離れれば攻撃できない。
(手詰まりか……)
「まだまだ、これから始まる。
体術こそ最強の武器、奥義を見せてあげよう」
両手を広げ円を書くように手を動かす。
右の手に陽の気が、左手には陰の気が貯まる。
邪魔するようにタコの足から、毒の水が放たれる。
くるくると飛んで回避しシャボン玉の上に立つと、トランポリンのように反動を利用して飛び立つ。
ピンボールのようにバンバン当たって、背後を取ると掌底を放った。
スドン! と衝撃波が走り水魔将レーラムの巨体な体が少し動く。
魚の口から、大量の魚型魔獣を放つ。
相手にすれば不利になる、何故なら魔獣を撃退すれば魔素がばら撒かれる。
魔素が濃くなればなる程、魔族は力を増すのだ。
(捨て身で殴り続ければ……)
『幾ら私でも、食いちぎられれば耐えられません』
「はぁぁぁぁぁ、上、上、下、下、右、左、拳、蹴り」
ゲームじゃないんだが、謎のコマンド入力を試したくなるのは解る。
『はぁぁぁい、見えざる衣!』
(そっか、俺じゃないから。
魔法が使えるんだ)
ガシガシ噛みつくギザギザの歯が見える。
見えない衣に阻まれて噛めないようだが、時間の問題だろう。
徐々に、弱まって距離が縮まっている。
「凍らせたい。
それで投げてぶつける、ボスが出してきたものを利用する感じに」
『冷酷な氷人の手』
ラビリスの手に触れると、魔獣は凍りつく。
それを蹴り飛ばし、水魔将にぶつける。
打つかると同時に氷が砕け、噛みつく。
水魔将は自ら出した魔獣に噛みつかれ、タコの足で払いのける。
キエェェェェー
謎の奇声をを上げて暴れタコの足を手当たり次第に振り回す。
ラビリスはその攻撃を容易く避けていた。
気がつけば周囲にいた魔獣も全滅している。
魔素が濃くなり、水魔将の肉体にも変化が現れる。
タコのの足に加え、縞模様の蛇が生えてきたのである。
(段々キモい姿になっていくな。
何処まで変化するんだ?)
『危機に瀕すると肉体を変貌させて強くなっていく。
もう笑えないほどの脅威です』
水中からドバーンと魔屍竜と飛び上がる。
「はぁー!」
バコッン!
拳の一撃で脳天を砕き撃退する。
(あっ……、それは味方)
「てあぁっ!」
伝わっているのかと思いきや、全く伝わっていなかった。
出できた魔屍竜達を瞬く間に、撃退し全滅させたのである。
『ううぅぅぅ、ごめんなさい。
止められませんでした』
(まあ仕方ない)
んー。
口で言えばよかった事に気づき、「あっ」と思っても手遅れだった。
味方殺しで一人で挑む縛りプレーみたいになっている。
水魔将の肩にはウニのような鋭い棘が生え、エラのの下辺りからカニの爪が。
背は貝の殻で覆われ、側面に磯巾着のような物まで付いていた。
もはや海の生き物、詰め合わせのような化け物だ。
「ついに最終形態に突入。
うちの最終奥義を出す時……、もはや守りは捨て攻撃あるのみ」
「あんなのに素手で行くのか?」
「もちもち。
相手が強ければ強いほど燃える」
素早く飛び、蹴りを決める。
ズドドドドン!
甲殻に覆われたカニの爪が砕け散る。
(まだ、生えたてだから脆いのか)
『ひぃー。
風太殿、許して下さい……』
蹴りが当たるたびに骨が砕け再生するという繰り返し。
相当な激痛が走っている筈なのだが……、青楓には、そんな様子はない。
もしかすると痛覚遮断か、そもそも違う仕組みで制御しているのだろう。
つまり痛みを感じずに、自在に操れるということだ。
他に改善していることはないのだろうか?
やっぱり触ってみないと解らないような。
返してもらいたいけど、今取り上げるは流石に……。
「手を握って良いか?」
「うん。
良い、でもどうして?」
気の利いたことを言えれば良かったが直ぐには思いつかなかった。
やっぱり素直が一番。
「一緒に戦いたいと思って……」
指輪を調べたくてと言い切る前に、手の感触が。
まあ良いか。
目を閉じ集中すると、術式の構成が見えてくる。
膨大な規模、まるで銀河の星海だ。
これをあんなに早く0から構築したのだろうか?
元々合ったものに、追加して改変したとしたら。
新しい部分を追えば解るはず。
古いほど輝きが強く、新しいほど弱々しい光を放つ。
それは転生の魔法陣を改変した後に気づいた特徴だ。
(あった……。
成る程、術の糸で結ばれているのか)
魂の一部を憑依させるのではなく、信号として伝え動かす訳だ。
デジタル化していたってわけか。
『はい?』
「深淵に眠りし赤き眼の破壊の王。
俺の為に力を貸してくれ……小さな火の玉」
風太の詠唱により、ラビリスの指先に魔法の力が宿る。
放たれる火の玉は小さく、一瞬で消えそうな心細いものだった。
それをラビリスは掴み取る。
『ぎああぁぁぁっ!
あつっ熱すぎです!』
「彼氏君の力を受け取った。
この燃え盛る拳で決める」
「えっ?
ああ、決めてくれ」
試し打ちで、かなり力を絞っていたのだが……。
もし本気だったら、ラビリスの肉体が灰となって消えていただろう。
いつの間にか、水魔将の背に回っていた。
巨体ゆえか、動きが遅く振り返るのはゆっくりだ。
「灼熱、正拳突きぃぃ」
「いけえぇぇぇっ」
二人の気持ちが揃い、ラビリスに力が流れ込む。
強い気に包まれながら勢いよく飛び込み燃え盛る拳を繰り出していた。
阻む海蛇やタコの足も貫き、飛んでくる針に体を串刺しにされながらも止まらない。
最後の一撃を決める覚悟は鋼よりも硬く、二人の絆と共に固く結ばれていた。
最も硬そうな貝の殻をバリンッと壊し貫通する。
内部で手を開く。
火の玉が魔素を吸い取り急激に膨張して行く。
ラビリスが飛び立ち、その場を離れ振り返る。
風船のように膨張し爆散する光景が広がり、残骸が辺りに降り注ぐ。
空中要塞が爆発するかのように、次々と内部で爆発が起きて崩壊しているのだ。
「勝利」
二人は同時に仮面を外していた。
「おめでとう。
いや、ありがとう」
青楓は風太に抱きつく。
「これで、呪いから開放。
早く行こう、うち達の明日も待っている」
「ああ、そうだな。
これからはのんびり出来る」
成り行きとはいえ敵勢力を削いだのは大きい。
放置して、自分達の所にやってくることも無くなって、より平穏な日常に近づいたわけだ。
手放したことにより自由になったラビリスが逃げ用としたが、上手くいくわけもなく。
サラがこっそり後始末し、ラビリスは棺桶に封印されて眠ることになる。
竜人の長老バッファムーの巣に行くと、アメジアが倒れていた。
「アメジアに何をした?」
「安心する良い。
疲れが出て寝ているだけの事」
そんな事はない。
眠りの息を吐いたか、魔法を使ったのだろう。
話し合いで相手を眠らせる状況は想像できないが……。
恐らく、論破されそうになって黙らせたって所か。
「約束を果たした。
これで通って良いだろう?」
「では、証拠に首を持って来ると良い」
爆散して粉々となって肉片となっている。
その肉片も、魔素が抜けて萎み粉状になって散ってしまっていた。
そう証拠を持ってくることは不可能。
「見ていたんだろう?」
「少女が戦っていたのは見ていた。
明らかにお主ではない」
「アレは俺達が操っていた。
この指輪と仮面を渡すから、それで確かめてくれ」
「それは我が肉体とは合わぬ。
誰かの戦果を横取りして報告するとは哀れよな」
横で聞いていた青楓が前に出る。
「うちと彼氏君の勝利を汚すなんて許せない。
証拠ならここにある」
青楓は懐から小瓶を出すと、地面においた。
それには護符が貼られている。
いかにも何かを封印してあるような雰囲気を醸し出してあるが……。
「それが何だという。
ただの小瓶が何の証拠となるのか言ってみよ」
「ここにあの化け物が封印してある。
もう一度倒せるなら、叩き割って確かめてみたら?」
嘘なのは明らかだが、バッファムーの知らない異界人の能力もある。
封印されている可能が全く無いとは言えないのだ。
水魔将を撃退する力を見せられた後で、真偽を確かめるのは勇気がいる。
もし再び、アレが蘇ったら……。
「我らの土地を飛ぶのは許す。
しかし、帝国に侵入すれば我らと帝国の争いとなる」
拒んでいた本当の理由はここにあったのか。
確かに無用に争い事になる事は回避したいだろう。
今は魔族の侵攻によって、被害が出ている状況だ。
慎重になるのも解るが……。
「玉国と帝国の間に空白地があった筈。
そこで降りて帝国に入れば何も問題無いだろう?」
「人間の領地を通らずに入れるなら。
周囲は魔族か人間の領地」
……なにか違和感がある。
仮に玉国の上空を通っても、玉国の人々は何も出来ないだろう。
今は姫が誘拐されて混乱している頃合いだ。
そんな時に、竜人の国に攻め込もうなんて考えは起きないはずだ。
そもそも、難民の対処で困るほど戦力が不足している。
「何処かと取引しているだろう?
果物や山羊の乳とか……」
農業をしている感じはしない。
あの四角い岩の上は森林に覆われていて、畑は見えなかった。
天然に生えているのかもしれないが……。
「誰に聞いた?
外交は機密情報、処分しなければならない」
「アイスを持ってきてくれた。
それで推測しただけで、あえて言うなら君が口を滑らせた」
「夕刻に、定期便が出ている。
その後に付いていけば良い」
「どうして俺が帝国に行くのを嫌がったのか教えて欲しい」
「可愛い孫娘に相応しいか試すため。
見定めるにはまだ足りぬ。
いずれ来てもらうことになる」
「解った」
ラティアーヌは広場に立っていた。
骨となり朽ちかけている魔屍竜が目の前に地面に伏している。
「どうして逃げたのです。
私は覚悟を決めて共に散ろうと思っていました」
幾多の危機を切り抜ける内に、情のようなものが湧いていた。
災難だと思ったりと、あまり印象はなかったが……。
気がつけば感情を共有する仲となっていた。
『ガッハハ……。冗談はよせ。
我はもう力尽きようとしている』
「アンデットが、この程度で力尽きるはずもないでしょう」
『我らは違う。
仮初めに過ぎない、永遠の存在ではない』
「……こんな場所に、私を置いて行くなんて許せません。
せめて出会った場所に帰しなさい」
『復讐を手伝ってやっても良いと思っていた。
しかし、それも叶わぬこと』
遠くで水魔将が爆散する光景が見える。
謎の少女が現れて、計画は狂い最後の襲撃は失敗し敗退が確定した。
不死の魔屍竜の軍勢が、一瞬で滅ぼされ少女に取り込まれてしまった。
「私がもっと賢ければ。
こんな事にならずに済んだのに……、ごめんなさい」
らしくはない、涙が溢れていた。
ラティアーヌは自らが未熟だと悟り、その思いが今まで積み上げてきた虚像を破壊した。
『共に戦った貴女も、英雄の一人……』
「……良く解らない存在に、全てを壊されなくてはならないのです。
まだ終わってはいない」
『もう我の力など無くても成せるのではないのか?』
魔屍竜の骨が崩壊し砂のようになり、風と共に消え去る。
すると木々が花を開かせた。
朽ちる時、新たな生命を芽吹かせる。
仕込まれた魔法の仕掛けだった。
「……もう、復讐なんてどうでも良いのに。
本当に欲しかったのは友……、共に手を取り合える恋人」
ラティアーヌは、魔屍竜が花を贈ってくれたのだと思った。
実につまらない物だと思いつつも笑みが溢れる。
そこに竜に乗って風太がやってくる。
「こんな所に居たのか?
結果は聞くまでもないな」
花々が咲き乱れたことで、知られたのだろう。
運も尽き果てたという事。
いや、魔屍竜が願いを叶えてくれたのかもしれない。
でももう、復讐なんて気力もない。
なら潔く魔屍竜の元へ行こう。
「貴方の死の軍勢を失ったわ。
これほどの失態をしてオメオメと生き恥をさらす気はない、私に裁きを下しなさい」
「解った。
君の処分は考えてある、簡単に死ねると思わないことだ」
王国貴族なら、一族の首を門前に晒される。
それぐらいの失態なのは明らかだ。
あの戦力があれば、王国歩兵10万人を軽く凌駕する。
一体、どれ程の苦痛を与えられるのだろう。
「ええ、覚悟しております」
「チャナタにも良いから、帝国に来るように言ってくれ。
君は街の代表として責任を持って欲しい」
ラティアーヌは困惑した。
占領した街を手放すということなのか?
それとも自分を傀儡に支配を続けるつもりなのだろうか?
なら、どうして監視役を帰らせるのか意図がわからない。
「それはどうして?」
「王国が割れたのは、食料の問題が会ったからだろう?
あの土地が戻れば、少なくとも第一王子の所は危機が去るはずだ」
「ええ、十分な収穫が見込めます。
一体、貴方は何がしたかったのです」
「争いを止めたかったけど、難しかったみたい。
被害は出たし、上手く行かないこともある」
「私の失態は……」
「頑張って挽回すれば良いだろう。
後は頼んだ」
そう言うと袋を落とし風太は去っていく。
袋には金貨が入っている。
帰るための費用なのだろう。
「手に入れようとすれば失い。
捨てようとすれば手に入る、なんて皮肉なの」
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