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2章 亡国編
16話 死神
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「死罪」
最善を尽くし、結果を出したにも関わらず待っていたのは死である。
小さな丸いテーブルにグラスが置かれている。
そこにぶどう酒が注がれ毒を垂らす。
潔く自決することが貴族として最後にできる名誉の回復方法だ。
だが、リアハは拒む。
「何故です!
私に風太殿の捜索を認めてくれないのですか」
判決を言い渡した主、第二王子リシャールは不敵な笑みを浮かべている。
見かけは美男だが、その内面は魔物だと恐れられる程の冷徹である。
「この件は、貴女の父上も納得してくれた処分だ。
抵抗すれば家名にも傷がつく、さあ潔く」
「断ります。
何故なら、私は貴方の部下ではない」
王子直属の兵士達が剣を抜きリアハを取り囲む。
直ぐに切りつけないのは情であろう。
「理解力が乏しいようだ。
もう貴女は不要だと捨てられた。
いわば捨て犬。
野良犬となって人々に害を及ぼす前に処分しようという気遣いを解ってくれ」
第一王子派の者達を次々と粛清している事はリアハの耳にも入るほど大胆に行っていることだ。
これも、その一環なのだろうと察しはつく。
それだけではない、死体をある場所に集めていると言う噂もある。
火葬されるのが一般的だ。
何故ならアンデットとして徘徊して困るからだ。
では何故、死体を欲するのか?
それは風太の存在が大きく関係してくる。
そう異世界転生の儀式を行うには、死体が必要なのだ。
「解りました」
リアハはグラスを手に取る。
そして兵士達の顔面にぶっ掛ける。
「貴様!」
斬りつける剣を利用し、グラスを切断し鋭利な刃へ。
兵士の首元に、その刃を突きつける。
同時にもう片方の手で兵士の手首を握り反撃を許さない。
そして体を密着させ動きを制御する。
二人で踊るように、剣も舞う。
それは死のダンス、華麗な動きと共に周りに居た兵士達を切り裂く。
「卑劣な! こんな事が許されるなるものか!」
「レディと踊る時は黙っているものです」
囚われの兵士ごと串刺しにしようとする兵士に押し付ける形で突き飛ばす。
互いに生きるために切り合う、そして共に串刺しとなり息絶えた。
そして最後の一人。
グサッ!
兵士の喉元に尖ったグラスが突き刺さり、血が注がれる。
リアハの動きは洗練され、圧倒的な力量差を見せつけるには十分だった。
血の溜まったグラスをテーブルに置き、テーブルごと蹴り滑らす。
リシャールの前にそれが届く。
「流石、元近衛騎士と言ったところか。
こんな舞を見せてもらっては、拍手を送るしか無い」
パチパチパチ……
護衛は全滅し、もはや守る者は誰一人居ないにも関わらず余裕の笑みを浮かべている。
それは王者の貫禄か、それともまだ何かあるのか?
「形勢は一瞬で変わるもの。
ここには私がよりすぐった者達で固めてあります」
そうメイド達は護衛を兼ねて精鋭揃いである。
「それはこれの事か?」
リアハの背後から太い声だ。
振り返ると、メイド達の首が転がっている。
白銀の鎧を纏う大男グーゼ。
第二王子の右腕であり、粉砕の暴将と異名を持つ。
デスメイスと呼ばる、トゲの生えた鉄球が鎖で繋がれた金棒を愛用する。
リアハは咄嗟に倒した兵士の剣を手に取ると鋭い突きを放つ。
プレートアーマーですら貫通する必殺の突き。
グーゼは左手で剣を掴み、その突きを止めた。
パリンッ!!
剣を意図的に折り、残った刃で首を掻っ切る筈だった。
だが鎧の襟を傷を入れただけで、剣は脆くも根本から折れた。
「なっ!」
背丈差がやはり大きく、刃が届く位置がそこだった。
同じ背丈なら、間違いなく首を掻っ切る事はできた。
いや、彼なら避けていた。
目線は刃に向き、それが無力と解ってあえて受けた。
結果、手は反動を受けて痛み痺れている。
「左腕となれるかの試験だったんだが、全員死んだみたいだな」
リシャールの左腕は常に空席である。
それを取引材料とし活用するためとも噂さがある。
それでも地位や権力欲しさに、志願者が集まってくる。
「私を試練として選んでくれて光栄です。
しかし、同志を粗末にするのは頂けない」
手の痺れが落ち着くまでの時間稼ぎ、もし万全であっても勝つ見込みはほぼ無い。
だから今はこの場から脱出することを最優先に策を巡らす。
リシャールはグラスを爪で弾き音を鳴らす。
「どうして直ぐに事を起こさなかったか解るか?
戦いとは始まるまでの準備で勝敗が決する」
「ええ、理解しています」
「奴を説得するのは少々、骨が折れた。
その条件が厳しくてな」
奴?
この殺戮を首謀した人物が居るということだ。
思い当たるのはたった一人しかいかない。
それはレレゲナである。
国王直属の彼は中立を保ち見守るのが役目である。
しかし腑に落ちない。
「私達の経験を活かして、次の異界人を制御したほうが……」
「そこは問題ない。
全て記録し虎の巻として活用できるだろう」
「まさか王国為ではなく、私欲のために!」
「そう忠実な配下として育てるには、貴女達は邪魔でしかない」
仮に逃げ出したとしても、どこにも行く場所はない。
すでに手を回し、罪人として命を狙われるだけだ。
第一王子の元に行けば、彼の思惑どおり第一王子の地位を脅かすことが出来る。
そうすでに詰んだ状態だった。
「……私に出来ることはただ一つ」
覚悟を決めること。
リアハは落ちている剣を回転し拾い、勢いのまま一気にリシャールへ斬りつける。
折られまいと活力を込めた一撃だ。
切られるというのに不敵な笑み。
だが止められない!
剣は見えざる衣に阻まれ動きを止めた。
それだけなら良い、反動が衝撃波共に来る。
リアハの体を吹き飛ばすには十分な威力だ。
空中で回転し威力を削ぎ着地する。
潜在的な能力の差、ビー玉がボーリング玉にぶつかるようなものだ。
弾かれて当然。
「グーゼ、後は任せる」
リアハが振り返ると、デスメイスの一撃が飛んでくる。
パキン!
両手を使い剣で受けたと言うのに、その剣すら粉砕し脇腹を直撃した。
口から血が溢れ吐き出す。
振り回す空を切る音。
次の一撃が来る。
ステップで避ける、更に追撃も避け、また避けた。
凄まじい連撃で床が穴だらけ。
デスメイスの鉄球は床に埋まったまま。
その表面には剣の傷、穴や凹みが見える。
メイド達が戦って残した傷跡だ。
リアハはグーゼを睨む。
「致命傷でもう長くはないだろう。
無駄に避ければ痛みが長引くだけだ」
「私にも意地があります。
右腕だけでも持っていく!」
鉄球をリアハは踏みつけた。
引き寄せる瞬間、隙が生まれる。
脇に潜り込み斬りつければ、大量出血で死に至る。
それが最後の活路。
「さらば美しき騎士よ」
鉄球を引き寄せる。
リアハは飛び出した。
同時に鉄球が爆発したのだ。
轟音共に金属片が飛び散り、リアハの足をへし折った。
床に叩きつけられるように転ぶ。
もはや絶体絶命、次の一撃がなくとも死ぬ。
「風太、貴方との約束は果たせないかも知れない……」
手の甲に文様が光り輝く。
それは風太の贈り物である。
どんな法術が掛けてあるのか解らない。
危機が訪れた時、身を守ってくれるらしい。
もし、見えざる衣だったなら……、今となっては無意味。
だがどんな加護を与えてくれのかは興味があった。
無意味でも知りたいと言う欲望がリアハを動かした。
法術が発動する。
全身を光に包み一瞬で姿が消滅した。
「何にが起きた。
死体をすら残さぬように自滅したというのか?」
「このグラスの様に、どんなに血を注いでも満たされることはない」
「御意、直ぐに次の作戦に移行します」
腐敗した貴族掃討と言う大義名分のもと、対立派閥の粛清が行われる。
規定より多く税を徴収し、差額で私腹を肥やしているのは事実。
民は減税により、この行いを歓迎するのだった。
旧体制を維持する第一王子の牙城を崩す為に、貴族ではなく民の支持を選んだ。
そう分析する者もいたが実際は生贄であり、死体を望んだのである。
「いざ出発」
風太は意気揚々と古城を出ようとしていた時だ。
眼の前に光る球体が飛んできたのである。
それは瀕死のリアハだった。
信頼できる者の元へ送る加護が発動した結果である。
親の元へ行くと予想し付与したものだ。
「風太……、ああ、生きていたのですね」
リアハは血を吐きながらも嬉しさ微笑み風太に手を伸ばす。
もはや立つことすら出来ず虫の息である。
風太は彼女の手を握る。
「君を死なせたりはしない。
いや死ぬな」
「無茶を言いますね」
「アニャァァッ。
その怪我ではどうやっても助からない」
ゼラはすでに諦め苦しまないように息の根を止めようしていた。
それを風太は静止する。
「古代の知識を覗き見た。
連れてきてくれば必ず助けられる」
「へぇーじゃあ私も見学して良いってことよね?」
魔女は興味津々に怪我を調べている。
足が骨がない様に複雑に折れ曲がり、靴が燃え落ちたのか素足は焼けただけている。
金属片があちこちに突き刺さり血を流していた。
爆裂の法術にしては損傷が少ない。
もし法術で軽減しても衝撃波は貫通し骨は完全に粉々だろう。
魔女の秘薬でも、これほどの傷を癒やすことは不可能なのは明らか。
それが治せると言うのだから、研究心が燃え上がり止まらない。
「手伝ってくれるなら」
地下にある第三の手を使えば、技量をカバー出来る。
自分の手よりも精密な作業ができるだろう。
『いい、ゾンビが作れる。
互いに好意を持つなら忠実な下僕となって働くだろう』
「……アンデットなんかにしてたまるか」
全力を尽くし救う、其の為には一刻の猶予もない。
リアハを地下のあの部屋に運び込む。
ゾンビを作り出す為の部屋だ。
それを命を救うために使う。
「アアニャ!
出血が多すぎて意識がない」
「俺の血を……いや、血液型を調べないと」
地面がぐにゃぐにゃと歪むような錯覚。
奇跡的な事が偶然が起きるはずもなかった。
もう無理。
『魂はまだ離れていない。
ゾンビとして蘇らせてやれば良い』
「アハハ……。
血ぐらいなら複製したら良いじゃない」
「出来るのか?」
魔女は奇妙な紋様の入った器に、リアハの血を垂らした。
すると器の底から血が溢れてくる。
「良い、これは一時しのぎに過ぎない。
念を送り力を補填しなければ消滅してしまう。
まあ、ある程度回復すれば消滅しても問題ないけどね」
魔女に借りを作りたくないが、背に腹は代えられない。
後々、子供を奪いに来ても逆らってはならない。
それは悲劇の物語となるからだ。
「ありがとう」
リアハがガラス越しの台の上に寝転がっている。
『傷を直したいのだろう。
ゾンビ用の道具を使え』
縫合するための糸や人工細胞、骨を接着する薬がある。
死体の損傷が自然治癒されることはない。
ある程度、復元し生前のように再生させる代物だ。
生きたまま使用しても問題はないが実験をしたわけではない。
そんな事は風太には解らない。
「私も良いものがあって、使ってみる?」
魔女が惑わすように糸と薬を見せる。
「組み合わせれば、効果絶大になったりして」
『愚かな。
糸は繊細な法術が施され、絶妙に調合した薬の効果を増幅されるように調整してある。
異物によって調整が狂えば、どんな副作用が引き起こされるか』
「こっちは虹色蚕の糸に琥珀蝦蟇の油が染み込ませてあって……」
やけに売り込んでくる魔女に不信感を持ちつつも、それが良いものだということはよく分かる。
だが今は売り込みを聞いている場合ではない。
「出来れば傷跡を残したくない」
「薬は人の治癒を助けるだけで、それ以上の事はできないって事を知らない訳じゃないよね?」
「出来ないのなら選択肢は一つだ」
「治療が終わったと思ったら、ゾンビになっているじゃんって落ち?
そんなのあんまりにも可愛そう」
不穏な魔女の予言を無視して気持ちを落ち着かせる。
「俺はそんなに賢くない。
だから考えるよりも行動する方を選ぶ」
準備は整った。
第三の手を起動する。
服の上からでも、外傷だけでなく体内に刺さった金属片の位置すら透けて見える。
半透明な手の動きが見え、風太は驚いたがそれが受け取った知識だと直ぐに気づいた。
カチャカチャ……。
第三の手が素早く、その動くを完全にトレースする。
同時に複数の手が動き、工場で機械が精密な物を作っているかのような奇妙な光景だ。
改造人間が出来るのではと不安になりそうなほど複雑な動きをしていた。
カチッ、カチッ、カチッ……。
取り除かれた金属がトレーに入れた音だ。
大小あわせて30近くもある。
「……こんなに手際よく、異物を取り除き縫合出来るなんてやばすぎ」
「目が回りそうな速さ。
本当にすごくて意味がわからない、ニャヒ」
異物の排除が終われば、直ぐに骨の接着に取り掛かる。
解のわからないパズルのように組み合わていくのは困難なほどバラバラだ。
だが繊細な形状の違いから組み合わせを見つけ接着薬をぬり引っ付けていく。
ピタリとひっつき再生されたようにみえる。
『スケルトンにも染み込ませてある。
それは魂が記憶している形に戻ろうとし損傷しても復元する』
仮に彼女が死んでも、骨だけは破壊しても元に戻ると言う事だ。
器だけが残っても意味はないと考えてしまうが、実際は違う。
この世界には、残留思念……悪霊が存在する。
それが器に取り付き、アンデット化するのである。
だが風太の耳は、声は届かない。
意識の集中、全力で助けようとする意思が雑音を遮断していたのだ。
そして治療を終えたのは真夜中だった。
リアハは寝息を立てて生きている。
ぶっ続けでの精密作業は、体力と精神力を著しく消耗させる。
「やった!」
感激の言葉とともに風太は倒れ眠りに落ちていた。
「イニヤァァ!
死なないで!」
ゼラは直ぐに風太を抱きしめ泣き始めた。
「……おい、寝ているだけ」
「えっ……?
こういうのって魂を吸い取られて死ぬって」
「はぁ?
なんておとぎ話、彼女の枕元に死神でも居たって言っていうの?」
「……」
ゼラはドさくさに紛れて口づけしようとしていたのだ。
魔女はそれに感づき引き離す。
「なんて泥棒猫」
「むむっ、私の風太なのに」
最善を尽くし、結果を出したにも関わらず待っていたのは死である。
小さな丸いテーブルにグラスが置かれている。
そこにぶどう酒が注がれ毒を垂らす。
潔く自決することが貴族として最後にできる名誉の回復方法だ。
だが、リアハは拒む。
「何故です!
私に風太殿の捜索を認めてくれないのですか」
判決を言い渡した主、第二王子リシャールは不敵な笑みを浮かべている。
見かけは美男だが、その内面は魔物だと恐れられる程の冷徹である。
「この件は、貴女の父上も納得してくれた処分だ。
抵抗すれば家名にも傷がつく、さあ潔く」
「断ります。
何故なら、私は貴方の部下ではない」
王子直属の兵士達が剣を抜きリアハを取り囲む。
直ぐに切りつけないのは情であろう。
「理解力が乏しいようだ。
もう貴女は不要だと捨てられた。
いわば捨て犬。
野良犬となって人々に害を及ぼす前に処分しようという気遣いを解ってくれ」
第一王子派の者達を次々と粛清している事はリアハの耳にも入るほど大胆に行っていることだ。
これも、その一環なのだろうと察しはつく。
それだけではない、死体をある場所に集めていると言う噂もある。
火葬されるのが一般的だ。
何故ならアンデットとして徘徊して困るからだ。
では何故、死体を欲するのか?
それは風太の存在が大きく関係してくる。
そう異世界転生の儀式を行うには、死体が必要なのだ。
「解りました」
リアハはグラスを手に取る。
そして兵士達の顔面にぶっ掛ける。
「貴様!」
斬りつける剣を利用し、グラスを切断し鋭利な刃へ。
兵士の首元に、その刃を突きつける。
同時にもう片方の手で兵士の手首を握り反撃を許さない。
そして体を密着させ動きを制御する。
二人で踊るように、剣も舞う。
それは死のダンス、華麗な動きと共に周りに居た兵士達を切り裂く。
「卑劣な! こんな事が許されるなるものか!」
「レディと踊る時は黙っているものです」
囚われの兵士ごと串刺しにしようとする兵士に押し付ける形で突き飛ばす。
互いに生きるために切り合う、そして共に串刺しとなり息絶えた。
そして最後の一人。
グサッ!
兵士の喉元に尖ったグラスが突き刺さり、血が注がれる。
リアハの動きは洗練され、圧倒的な力量差を見せつけるには十分だった。
血の溜まったグラスをテーブルに置き、テーブルごと蹴り滑らす。
リシャールの前にそれが届く。
「流石、元近衛騎士と言ったところか。
こんな舞を見せてもらっては、拍手を送るしか無い」
パチパチパチ……
護衛は全滅し、もはや守る者は誰一人居ないにも関わらず余裕の笑みを浮かべている。
それは王者の貫禄か、それともまだ何かあるのか?
「形勢は一瞬で変わるもの。
ここには私がよりすぐった者達で固めてあります」
そうメイド達は護衛を兼ねて精鋭揃いである。
「それはこれの事か?」
リアハの背後から太い声だ。
振り返ると、メイド達の首が転がっている。
白銀の鎧を纏う大男グーゼ。
第二王子の右腕であり、粉砕の暴将と異名を持つ。
デスメイスと呼ばる、トゲの生えた鉄球が鎖で繋がれた金棒を愛用する。
リアハは咄嗟に倒した兵士の剣を手に取ると鋭い突きを放つ。
プレートアーマーですら貫通する必殺の突き。
グーゼは左手で剣を掴み、その突きを止めた。
パリンッ!!
剣を意図的に折り、残った刃で首を掻っ切る筈だった。
だが鎧の襟を傷を入れただけで、剣は脆くも根本から折れた。
「なっ!」
背丈差がやはり大きく、刃が届く位置がそこだった。
同じ背丈なら、間違いなく首を掻っ切る事はできた。
いや、彼なら避けていた。
目線は刃に向き、それが無力と解ってあえて受けた。
結果、手は反動を受けて痛み痺れている。
「左腕となれるかの試験だったんだが、全員死んだみたいだな」
リシャールの左腕は常に空席である。
それを取引材料とし活用するためとも噂さがある。
それでも地位や権力欲しさに、志願者が集まってくる。
「私を試練として選んでくれて光栄です。
しかし、同志を粗末にするのは頂けない」
手の痺れが落ち着くまでの時間稼ぎ、もし万全であっても勝つ見込みはほぼ無い。
だから今はこの場から脱出することを最優先に策を巡らす。
リシャールはグラスを爪で弾き音を鳴らす。
「どうして直ぐに事を起こさなかったか解るか?
戦いとは始まるまでの準備で勝敗が決する」
「ええ、理解しています」
「奴を説得するのは少々、骨が折れた。
その条件が厳しくてな」
奴?
この殺戮を首謀した人物が居るということだ。
思い当たるのはたった一人しかいかない。
それはレレゲナである。
国王直属の彼は中立を保ち見守るのが役目である。
しかし腑に落ちない。
「私達の経験を活かして、次の異界人を制御したほうが……」
「そこは問題ない。
全て記録し虎の巻として活用できるだろう」
「まさか王国為ではなく、私欲のために!」
「そう忠実な配下として育てるには、貴女達は邪魔でしかない」
仮に逃げ出したとしても、どこにも行く場所はない。
すでに手を回し、罪人として命を狙われるだけだ。
第一王子の元に行けば、彼の思惑どおり第一王子の地位を脅かすことが出来る。
そうすでに詰んだ状態だった。
「……私に出来ることはただ一つ」
覚悟を決めること。
リアハは落ちている剣を回転し拾い、勢いのまま一気にリシャールへ斬りつける。
折られまいと活力を込めた一撃だ。
切られるというのに不敵な笑み。
だが止められない!
剣は見えざる衣に阻まれ動きを止めた。
それだけなら良い、反動が衝撃波共に来る。
リアハの体を吹き飛ばすには十分な威力だ。
空中で回転し威力を削ぎ着地する。
潜在的な能力の差、ビー玉がボーリング玉にぶつかるようなものだ。
弾かれて当然。
「グーゼ、後は任せる」
リアハが振り返ると、デスメイスの一撃が飛んでくる。
パキン!
両手を使い剣で受けたと言うのに、その剣すら粉砕し脇腹を直撃した。
口から血が溢れ吐き出す。
振り回す空を切る音。
次の一撃が来る。
ステップで避ける、更に追撃も避け、また避けた。
凄まじい連撃で床が穴だらけ。
デスメイスの鉄球は床に埋まったまま。
その表面には剣の傷、穴や凹みが見える。
メイド達が戦って残した傷跡だ。
リアハはグーゼを睨む。
「致命傷でもう長くはないだろう。
無駄に避ければ痛みが長引くだけだ」
「私にも意地があります。
右腕だけでも持っていく!」
鉄球をリアハは踏みつけた。
引き寄せる瞬間、隙が生まれる。
脇に潜り込み斬りつければ、大量出血で死に至る。
それが最後の活路。
「さらば美しき騎士よ」
鉄球を引き寄せる。
リアハは飛び出した。
同時に鉄球が爆発したのだ。
轟音共に金属片が飛び散り、リアハの足をへし折った。
床に叩きつけられるように転ぶ。
もはや絶体絶命、次の一撃がなくとも死ぬ。
「風太、貴方との約束は果たせないかも知れない……」
手の甲に文様が光り輝く。
それは風太の贈り物である。
どんな法術が掛けてあるのか解らない。
危機が訪れた時、身を守ってくれるらしい。
もし、見えざる衣だったなら……、今となっては無意味。
だがどんな加護を与えてくれのかは興味があった。
無意味でも知りたいと言う欲望がリアハを動かした。
法術が発動する。
全身を光に包み一瞬で姿が消滅した。
「何にが起きた。
死体をすら残さぬように自滅したというのか?」
「このグラスの様に、どんなに血を注いでも満たされることはない」
「御意、直ぐに次の作戦に移行します」
腐敗した貴族掃討と言う大義名分のもと、対立派閥の粛清が行われる。
規定より多く税を徴収し、差額で私腹を肥やしているのは事実。
民は減税により、この行いを歓迎するのだった。
旧体制を維持する第一王子の牙城を崩す為に、貴族ではなく民の支持を選んだ。
そう分析する者もいたが実際は生贄であり、死体を望んだのである。
「いざ出発」
風太は意気揚々と古城を出ようとしていた時だ。
眼の前に光る球体が飛んできたのである。
それは瀕死のリアハだった。
信頼できる者の元へ送る加護が発動した結果である。
親の元へ行くと予想し付与したものだ。
「風太……、ああ、生きていたのですね」
リアハは血を吐きながらも嬉しさ微笑み風太に手を伸ばす。
もはや立つことすら出来ず虫の息である。
風太は彼女の手を握る。
「君を死なせたりはしない。
いや死ぬな」
「無茶を言いますね」
「アニャァァッ。
その怪我ではどうやっても助からない」
ゼラはすでに諦め苦しまないように息の根を止めようしていた。
それを風太は静止する。
「古代の知識を覗き見た。
連れてきてくれば必ず助けられる」
「へぇーじゃあ私も見学して良いってことよね?」
魔女は興味津々に怪我を調べている。
足が骨がない様に複雑に折れ曲がり、靴が燃え落ちたのか素足は焼けただけている。
金属片があちこちに突き刺さり血を流していた。
爆裂の法術にしては損傷が少ない。
もし法術で軽減しても衝撃波は貫通し骨は完全に粉々だろう。
魔女の秘薬でも、これほどの傷を癒やすことは不可能なのは明らか。
それが治せると言うのだから、研究心が燃え上がり止まらない。
「手伝ってくれるなら」
地下にある第三の手を使えば、技量をカバー出来る。
自分の手よりも精密な作業ができるだろう。
『いい、ゾンビが作れる。
互いに好意を持つなら忠実な下僕となって働くだろう』
「……アンデットなんかにしてたまるか」
全力を尽くし救う、其の為には一刻の猶予もない。
リアハを地下のあの部屋に運び込む。
ゾンビを作り出す為の部屋だ。
それを命を救うために使う。
「アアニャ!
出血が多すぎて意識がない」
「俺の血を……いや、血液型を調べないと」
地面がぐにゃぐにゃと歪むような錯覚。
奇跡的な事が偶然が起きるはずもなかった。
もう無理。
『魂はまだ離れていない。
ゾンビとして蘇らせてやれば良い』
「アハハ……。
血ぐらいなら複製したら良いじゃない」
「出来るのか?」
魔女は奇妙な紋様の入った器に、リアハの血を垂らした。
すると器の底から血が溢れてくる。
「良い、これは一時しのぎに過ぎない。
念を送り力を補填しなければ消滅してしまう。
まあ、ある程度回復すれば消滅しても問題ないけどね」
魔女に借りを作りたくないが、背に腹は代えられない。
後々、子供を奪いに来ても逆らってはならない。
それは悲劇の物語となるからだ。
「ありがとう」
リアハがガラス越しの台の上に寝転がっている。
『傷を直したいのだろう。
ゾンビ用の道具を使え』
縫合するための糸や人工細胞、骨を接着する薬がある。
死体の損傷が自然治癒されることはない。
ある程度、復元し生前のように再生させる代物だ。
生きたまま使用しても問題はないが実験をしたわけではない。
そんな事は風太には解らない。
「私も良いものがあって、使ってみる?」
魔女が惑わすように糸と薬を見せる。
「組み合わせれば、効果絶大になったりして」
『愚かな。
糸は繊細な法術が施され、絶妙に調合した薬の効果を増幅されるように調整してある。
異物によって調整が狂えば、どんな副作用が引き起こされるか』
「こっちは虹色蚕の糸に琥珀蝦蟇の油が染み込ませてあって……」
やけに売り込んでくる魔女に不信感を持ちつつも、それが良いものだということはよく分かる。
だが今は売り込みを聞いている場合ではない。
「出来れば傷跡を残したくない」
「薬は人の治癒を助けるだけで、それ以上の事はできないって事を知らない訳じゃないよね?」
「出来ないのなら選択肢は一つだ」
「治療が終わったと思ったら、ゾンビになっているじゃんって落ち?
そんなのあんまりにも可愛そう」
不穏な魔女の予言を無視して気持ちを落ち着かせる。
「俺はそんなに賢くない。
だから考えるよりも行動する方を選ぶ」
準備は整った。
第三の手を起動する。
服の上からでも、外傷だけでなく体内に刺さった金属片の位置すら透けて見える。
半透明な手の動きが見え、風太は驚いたがそれが受け取った知識だと直ぐに気づいた。
カチャカチャ……。
第三の手が素早く、その動くを完全にトレースする。
同時に複数の手が動き、工場で機械が精密な物を作っているかのような奇妙な光景だ。
改造人間が出来るのではと不安になりそうなほど複雑な動きをしていた。
カチッ、カチッ、カチッ……。
取り除かれた金属がトレーに入れた音だ。
大小あわせて30近くもある。
「……こんなに手際よく、異物を取り除き縫合出来るなんてやばすぎ」
「目が回りそうな速さ。
本当にすごくて意味がわからない、ニャヒ」
異物の排除が終われば、直ぐに骨の接着に取り掛かる。
解のわからないパズルのように組み合わていくのは困難なほどバラバラだ。
だが繊細な形状の違いから組み合わせを見つけ接着薬をぬり引っ付けていく。
ピタリとひっつき再生されたようにみえる。
『スケルトンにも染み込ませてある。
それは魂が記憶している形に戻ろうとし損傷しても復元する』
仮に彼女が死んでも、骨だけは破壊しても元に戻ると言う事だ。
器だけが残っても意味はないと考えてしまうが、実際は違う。
この世界には、残留思念……悪霊が存在する。
それが器に取り付き、アンデット化するのである。
だが風太の耳は、声は届かない。
意識の集中、全力で助けようとする意思が雑音を遮断していたのだ。
そして治療を終えたのは真夜中だった。
リアハは寝息を立てて生きている。
ぶっ続けでの精密作業は、体力と精神力を著しく消耗させる。
「やった!」
感激の言葉とともに風太は倒れ眠りに落ちていた。
「イニヤァァ!
死なないで!」
ゼラは直ぐに風太を抱きしめ泣き始めた。
「……おい、寝ているだけ」
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「はぁ?
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「……」
ゼラはドさくさに紛れて口づけしようとしていたのだ。
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