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3章 玉国編
18話 虚言
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「誰の指示で動いているのか白状しなさい」
死者の森を監視する為の砦にいる。
古臭く苔に覆われた壁。
ポタポタと水が滴り落ちて頭を濡らす。
風太は手足を椅子に拘束され、抵抗を試み力を入れるが全く逃れられる気配はない。
「魔女の依頼だ。
顧客が死んだら困るから、手伝えって内容だって言っただろう」
拷問官に扮したシャオーリは短めの鞭を不満げにパチパチと壁を打つ。
どこぞの軍服みたいな格好で、前世から持ち込まれたんだろうと思えるほどのコスプレ感がある。
そもそも室内で帽子を着用する必要はないのに、ワンセット感覚で着ているのだ。
「誰の指示?」
「君の聞きたい答えは、真実かそれとも虚言か?
真実ならもう聞いただろう」
「この部屋には色々な拷問器具が置いてあるわ。
さてどれを使いましょうか?」
「苦痛を与えても得られるのは嘘だけだ」
「ではスライムなんて物があるわ。
これは強力な酸を帯びていて、ジュワーと溶かすの」
楽しそうに瓶から、スプーンですくい上げ瓶へと垂らす。
半透明の青色で粘度が蜂蜜よりも高いのか、ゆっくりと落ちてくる。
尤もらしい嘘で尚且つ、敵対していると思わせない相手なんて思いつかない。
もし嘘でも敵対者を告げれば、敵とみなして処刑されるだろう。
国王とか嘘を言っても名前を知らず、それで依頼主というのは無理がある。
既に詰んだ状態なのだ。
鑑定魔法があるなら、真偽を判定する魔法があっても良さそうなのだが存在しない。
古来から行われてきた拷問が無くならないのも、そのためだ。
スライムが衣の上にポタポタと垂れる。
ツルッと滑り床に落ちると同時に床が溶けて穴が開く。
「魔女から買った死隠れの衣……。
そんな隠れた能力があったんだ」
悪霊の憑依を防ぐ効果がある薬に漬け込んだ革製の衣だ。
薄いレモンのような香りが漂い獣臭さはない。
「んん?
衣服なら革でもドロドロに溶かすはずなのに」
スプーンを持ったまま、溶けない事に不思議がって考え始める。
そんな彼女の手にスライムが伝わって袖を溶かす。
「おい、溶けているぞ!」
「えっ?
あっ……」
肘まで垂れたスライムはスボンへと。
ジュワ~と、素足が晒されていく。
衣服だけ溶かすとかけしからんスライムだ。
「下、下、……足だ」
毛だられだったら幻滅していたが、そんなことはなくツルツルの白い肌。
見せるつもりのない筈なのに見えてしまう、背徳感に襲われつつも目が離せない。
「きゃああぁぁっ!」
シャオーリは恥ずかしさのあまり顔を真赤にして拷問部屋から出ていく。
「……ついでに縄も溶かすなんて都合の良い展開はないのか。
ああ~もうー、助けに来たのになんで捕らわれるのか意味不明だろう!」
戻ってきたシャオーリは白衣を着ていた。
サイズを間違っていそうなムチムチの窮屈さに破裂しそうな胸元に目が吸い込まれる。
「なんで看護服を着ているんだ?」
「これはヒーラードレスとして知られていますわ。
でも異界人は、別の呼び方をするらしいの」
正直に名乗るか、迷うところだ。
何故なら誰が送り込んできたのか解らない暗殺者に襲われた結果、こんな場所に来ることになった。
もし王国と敵対して居た場合、暗殺を企んだのはここかも知れない。
「あの骨で、推測し。
本当の目的は異界人と知ったうえで拘束すること。
合っているか?」
「魔族の師団を瞬殺した事はこの地も伝わっていますわ。
行方不明になった事を良いことに騙る者も多い。
まだ確証には足りない」
「俺には封印が施されている。
国王に危険性を感じて施した」
「確かに異常なほど硬い封印に、自滅の刻印まで施されているようね。
それほど厳重に掛けなければならない程の力……」
「封印を解いてくれるなら、君のために力を使っても良い」
「それはとても嬉しい話ですわ。
……けれど拒否します」
「どうして?」
「魔族を一瞬で消滅させるような過ぎたる力を私は制する事はできないわ」
「……俺を殺すのか?」
「ええ、死んでもらいましょう」
諦めるしか無いと落胆した時だ。
唇が重なる。
「んんん?」
「今から私の一部となりなさい」
彼女は恥ずかしいのか顔が赤く、息が荒い。
返事を待つ瞳がうるうるして愛らしい。
まるで恋する乙女のようだ。
本当にそうなのか?
リアハの言葉が呪縛のように絡みつき本能を抑えている。
受け入れれば開放されるかもしない。
だが彼女が恋しているのは力だけであり、種さえ手に入れば用済みだろう。
(愛がなんて、実につまらないな)
「君に惚れる理由がない。
どうして俺を苦しめるんだ?」
シャオーリの唇が振るえ、涙がこぼれる。
「貴方も私を拒むのですね……」
悪意が混じった振る舞いは恋人に振られ、男を憎んでいたからなのか?
だとしても、そんな悪意を向けられたら誰だって拒絶するだろう。
それが解らないほど浅はかなのか?
……いや、これも演技。
乙姫がどうして玉手箱を贈ったのか謎だった。
時間を忘れるほどの持成しをしたのは、きっと一目惚れしたからで一生共に暮す事を選んでくるとの願いが合ったはず。
愛より故郷を選んだことへの嫉妬だろう。
愛を欲していたとしたら、それは裏切りだ。
さらなる仕打ちが来る。
「本気で誘惑するなら裸になるんだったな」
実際に裸になったら、困ってどうしようもないが。
素足を晒しただけで逃げ出す程のうぶだ。
彼女の反応は顔が真っ赤になって、動きがぎこちない。
震える手で服を脱ごうとしたが上手くいかない。
「む、無理ですわ。
なんて破廉恥な事を要求するの!!」
怒って彼女は出ていった。
「覚悟が足りない……」
風太も同じく動揺し手に汗、鼓動がバクバク。
再びシャオーリが戻って来る。
今度はモコモコした兎の着包み姿だった。
「拒絶したことを後悔しなさい。
これは囚人首輪ですわ」
そう言って、革製のベルトみたなものを見せた。
それを風太の首に巻き付ける。
予想はつく、何かしらの嫌な効果をもつ代物だろう。
首がしまったり、ビリビリと刺激みたいな苦痛で従わせると言うアレだ。
「魔法は封じられたが、まだスキルがある。
俺を自由にしてくれたら協力しても良い」
交渉材料としては弱い。
何故なら奴隷として無条件で働かせば良いだけだ。
ステータスで確認した謎のスキルはまだ、実感がなく用途も使い方も解らない。
「貴方の使っている。
物語化の天賦のことかしら?」
「鑑定……、触れた時。
いやあのキスか、好意に偽装してただ調べていただけなのか!」
「油断するのが悪い。
考えを物語として認識して客観的な思考をするだけのスキルが何の役に立つのかしらね」
「それは秘密だ」
答えろと言われても理解していないから無理な話である。
「私の言うことはどんなことであっても聞きなさい。
返事はハイ」
「……はい」
「宜しい」
まるで犬の首輪のように紐を取り付ける。
拘束は解かれ開放されたが自由はない。
犬のように主人の側をついていくだけだ。
まるで皆に見せるためなのか、砦内を歩き回る。
すれ違う者達は、その様子を見下し笑う。
悔しいが、今は大人しくするしか無い。
「もう勘弁して欲しい」
「この砦は廃棄される予定なの。
最後に目に焼き付けておきなさい」
「建て替えるのか?
確かに古くて、どこも補修した跡があって見栄えも悪い」
「必要なくなったから。
緩衝地として手つかずだった死者の森が無くなれば、もう敵はいないわ」
王国と隣接すれば予期せぬ衝突が起きるかも知れない。
それを回避するために、空白地帯が存在するのだ。
それがたまたま死者の森だった。
変化が起きたとすれば、王国との関係だろう。
好転したなら、この扱いはなんだ?
王国が召喚した異界人と解ったなら、王国へ帰せば友好関係も強固になる筈だ。
「そうなんだ」
「成人を迎えたリシャール王子は、8歳の姫を婚約者として選んだわ。
感想を聞かせて」
成人ということは20才、つまり12才も年下の幼女を選んだということだ。
「犯罪じゃないのか?
ロリコン過ぎる」
「珍しい事ではないけど、同年の姫がいるにも関わらず選んでいるって所。
ありえないでしょう?」
「そう思う」
シャオーリも誰かに振られた。
恨みを持つ程の酷い振られ方……、まさかその振られた姫って事なのか。
いや、だとしたらあの振る舞いは異様。
考えが纏まる事はないまま、屋根裏にやって来ていた。
薄暗い中に、怨念の霧がぼんやりと漂っている。
「ここにはベットもあるわ。
ある人物を監禁していましたの」
風太は怨念に手を伸ばす。
探さないと、早く見つけなればならない。
あの悪魔の子は災いを、混沌を……。
ああ、早くこの手で始末しなければ、なのに!!
気がつけば怨念を握りつぶし、消滅させていた。
読み取れる思考など無い、ただ轟音をかき鳴らすだけだ。
「俺には解らないな。
どんなに憎くても悪魔の子とは言わない」
「ええ、それは間違いなく死者だったからですわ」
「まさかネクロマンシー?」
「正解、私には弟が居たのです。
ですが落馬事故で帰らぬ人になってしまいました」
生き返らせる為に禁忌を犯した末路は悲劇であろう。
恐らく、この砦を選んだ理由はグールを捕獲できるからだろう。
「グールの一部を埋め込んだのか?」
「さあ、どのような方法を使ったのか知るものは既に死んでいます。
実験室は地下にあったらしいですが埋められ隠匿されたわ」
「残念だが、怨霊は消滅した。
情報を得ることは出来ない」
「ここは夜な夜な幽霊が出ると怖がって誰も来ませんわ。
こんな所に男女が居て何も無いと言うことはないでしょう?」
「……ないな」
風太は首輪を外す。
うっかり返事を忘れた時があった。
でも何起きなかった、つまり何の効力もない普通の輪っかでしか無い。
なぜそんな物を付けたのだろうか?
彼女が警戒した悪人だったら、命を奪われて死ぬことだって考えられたはずだ。
つまり信用したということだろうか?
だったら嘘を付く理由が解らない。
シャオーリが目の前、鼻先が当たる。
「気をつけなさい。
その一瞬で生死が分かれるわ」
深く考えると周りが見えなくなっていた。
恐らく周りの人達は気づいていたのだろう。
ただ指摘することはなかった。
「それで俺に何をさせたいんだ?」
「エッチ」
「もう確認は済んだんだろう?
ここには音を遮断する魔法が掛けてある。
秘密の話をするために連れてきた」
推測に過ぎない。
本当にエッチがしたいのかも知れない。
返答を待つ間はドキドキが止まらない。
シャオーリは跪く。
「これまでの非礼、どうかお許しを」
「話を聞かせてくれ」
「王子は支援と言って百人ほどの兵をおくってくれたわ。
……それが罠だと知らずにね」
「あからさまに敵対はしないだろうし……。
監視か?」
「半分正解。
もう一つは禁忌の資料を探しているよう」
「痕跡を消すために研究室を埋めたのか?
だったら問題はないだろう」
「王子は不正を行った貴族を処刑しているらしいわ。
その死体は、どこかに輸送され集められているの」
死体の収集なんて普通はしない。
考えられるのはゾンビの実験。
王国は魔族の報復を恐れていたから、兵力としてゾンビを使おうと考えたのだろうか?
ゾンビの実態は、うすのろで容易く避けられる雑魚だ。
グールなんて、命令も聞かず牙を向いてくる敵である。
「もし禁忌の実験なら失敗する。
そうなれば妹を人質に脅してくるでしょう。
けれど私達は拒むしかない」
「戦争?」
「かも知れない……。
その前に妹の救出をしたい。
手伝って欲しいわ」
魔族の脅威があるのに戦争は愚かだ。
一人の犠牲で済ませる考えなのかも知れない。
健気な幼女の命が散る。
「俺に出来ることは?」
気がつけば王国に敵意を持っていた。
リバーシのように簡単にひっくり返る。
洗脳をされたわけでもない、正常な判断をした結果だ。
恐らく彼女から得た情報の真偽を確かめても、正しい事が証明されるだけだ。
リアハが致命傷を受けて加護を使った事が裏付けとなっている。
安全なはずの王国で、どうして瀕死になるのか?
失態を理由に殺害を試みたからに違いない。
あのジジイなら間違いなく殺る。
「貴族は一族の繁栄のために、数人の子をつくるわ。
でも財産を受け継ぐのは一人、予備の子は平民として生きることになる」
「あれ?
それだと平民でも魔法が使える」
魔法は貴族や王族の特権だと聞いていたので、不思議に思えたのだ。
「元貴族は国が管理して、法術を使うには資格が必要になっているわ。
法術士と呼ばれる人達よ」
「俺は封印されていて魔法は……」
「平民は法術の事はよく知らないわ。
法術士として名声を得て、王子に近づけば救出の機会が訪れる筈」
「でもどうして法術士なんだ?」
「貴族を粛清したら無くなるものがあるでしょう?」
戦力としての魔法だ。
コンコン!
雨戸を叩く音だ。
開くと、箒に乗った魔女がにこにこしている。
「じゃじゃーん、何処まで行った?」
「助けに来てくれた……。
いやまさかグルなのか?」
「ピンポーン。
王宮付法術士、姫様の忠実な配下ってことでよろしくね」
ここに存在してはならない死者の書が手元に戻って来た。
売り捨てる事も、譲ることも出来ない。
持っている限り王国に狙われる。
愛を裏切った贈り物だ。
「なんて玉手箱だ!」
死者の森を監視する為の砦にいる。
古臭く苔に覆われた壁。
ポタポタと水が滴り落ちて頭を濡らす。
風太は手足を椅子に拘束され、抵抗を試み力を入れるが全く逃れられる気配はない。
「魔女の依頼だ。
顧客が死んだら困るから、手伝えって内容だって言っただろう」
拷問官に扮したシャオーリは短めの鞭を不満げにパチパチと壁を打つ。
どこぞの軍服みたいな格好で、前世から持ち込まれたんだろうと思えるほどのコスプレ感がある。
そもそも室内で帽子を着用する必要はないのに、ワンセット感覚で着ているのだ。
「誰の指示?」
「君の聞きたい答えは、真実かそれとも虚言か?
真実ならもう聞いただろう」
「この部屋には色々な拷問器具が置いてあるわ。
さてどれを使いましょうか?」
「苦痛を与えても得られるのは嘘だけだ」
「ではスライムなんて物があるわ。
これは強力な酸を帯びていて、ジュワーと溶かすの」
楽しそうに瓶から、スプーンですくい上げ瓶へと垂らす。
半透明の青色で粘度が蜂蜜よりも高いのか、ゆっくりと落ちてくる。
尤もらしい嘘で尚且つ、敵対していると思わせない相手なんて思いつかない。
もし嘘でも敵対者を告げれば、敵とみなして処刑されるだろう。
国王とか嘘を言っても名前を知らず、それで依頼主というのは無理がある。
既に詰んだ状態なのだ。
鑑定魔法があるなら、真偽を判定する魔法があっても良さそうなのだが存在しない。
古来から行われてきた拷問が無くならないのも、そのためだ。
スライムが衣の上にポタポタと垂れる。
ツルッと滑り床に落ちると同時に床が溶けて穴が開く。
「魔女から買った死隠れの衣……。
そんな隠れた能力があったんだ」
悪霊の憑依を防ぐ効果がある薬に漬け込んだ革製の衣だ。
薄いレモンのような香りが漂い獣臭さはない。
「んん?
衣服なら革でもドロドロに溶かすはずなのに」
スプーンを持ったまま、溶けない事に不思議がって考え始める。
そんな彼女の手にスライムが伝わって袖を溶かす。
「おい、溶けているぞ!」
「えっ?
あっ……」
肘まで垂れたスライムはスボンへと。
ジュワ~と、素足が晒されていく。
衣服だけ溶かすとかけしからんスライムだ。
「下、下、……足だ」
毛だられだったら幻滅していたが、そんなことはなくツルツルの白い肌。
見せるつもりのない筈なのに見えてしまう、背徳感に襲われつつも目が離せない。
「きゃああぁぁっ!」
シャオーリは恥ずかしさのあまり顔を真赤にして拷問部屋から出ていく。
「……ついでに縄も溶かすなんて都合の良い展開はないのか。
ああ~もうー、助けに来たのになんで捕らわれるのか意味不明だろう!」
戻ってきたシャオーリは白衣を着ていた。
サイズを間違っていそうなムチムチの窮屈さに破裂しそうな胸元に目が吸い込まれる。
「なんで看護服を着ているんだ?」
「これはヒーラードレスとして知られていますわ。
でも異界人は、別の呼び方をするらしいの」
正直に名乗るか、迷うところだ。
何故なら誰が送り込んできたのか解らない暗殺者に襲われた結果、こんな場所に来ることになった。
もし王国と敵対して居た場合、暗殺を企んだのはここかも知れない。
「あの骨で、推測し。
本当の目的は異界人と知ったうえで拘束すること。
合っているか?」
「魔族の師団を瞬殺した事はこの地も伝わっていますわ。
行方不明になった事を良いことに騙る者も多い。
まだ確証には足りない」
「俺には封印が施されている。
国王に危険性を感じて施した」
「確かに異常なほど硬い封印に、自滅の刻印まで施されているようね。
それほど厳重に掛けなければならない程の力……」
「封印を解いてくれるなら、君のために力を使っても良い」
「それはとても嬉しい話ですわ。
……けれど拒否します」
「どうして?」
「魔族を一瞬で消滅させるような過ぎたる力を私は制する事はできないわ」
「……俺を殺すのか?」
「ええ、死んでもらいましょう」
諦めるしか無いと落胆した時だ。
唇が重なる。
「んんん?」
「今から私の一部となりなさい」
彼女は恥ずかしいのか顔が赤く、息が荒い。
返事を待つ瞳がうるうるして愛らしい。
まるで恋する乙女のようだ。
本当にそうなのか?
リアハの言葉が呪縛のように絡みつき本能を抑えている。
受け入れれば開放されるかもしない。
だが彼女が恋しているのは力だけであり、種さえ手に入れば用済みだろう。
(愛がなんて、実につまらないな)
「君に惚れる理由がない。
どうして俺を苦しめるんだ?」
シャオーリの唇が振るえ、涙がこぼれる。
「貴方も私を拒むのですね……」
悪意が混じった振る舞いは恋人に振られ、男を憎んでいたからなのか?
だとしても、そんな悪意を向けられたら誰だって拒絶するだろう。
それが解らないほど浅はかなのか?
……いや、これも演技。
乙姫がどうして玉手箱を贈ったのか謎だった。
時間を忘れるほどの持成しをしたのは、きっと一目惚れしたからで一生共に暮す事を選んでくるとの願いが合ったはず。
愛より故郷を選んだことへの嫉妬だろう。
愛を欲していたとしたら、それは裏切りだ。
さらなる仕打ちが来る。
「本気で誘惑するなら裸になるんだったな」
実際に裸になったら、困ってどうしようもないが。
素足を晒しただけで逃げ出す程のうぶだ。
彼女の反応は顔が真っ赤になって、動きがぎこちない。
震える手で服を脱ごうとしたが上手くいかない。
「む、無理ですわ。
なんて破廉恥な事を要求するの!!」
怒って彼女は出ていった。
「覚悟が足りない……」
風太も同じく動揺し手に汗、鼓動がバクバク。
再びシャオーリが戻って来る。
今度はモコモコした兎の着包み姿だった。
「拒絶したことを後悔しなさい。
これは囚人首輪ですわ」
そう言って、革製のベルトみたなものを見せた。
それを風太の首に巻き付ける。
予想はつく、何かしらの嫌な効果をもつ代物だろう。
首がしまったり、ビリビリと刺激みたいな苦痛で従わせると言うアレだ。
「魔法は封じられたが、まだスキルがある。
俺を自由にしてくれたら協力しても良い」
交渉材料としては弱い。
何故なら奴隷として無条件で働かせば良いだけだ。
ステータスで確認した謎のスキルはまだ、実感がなく用途も使い方も解らない。
「貴方の使っている。
物語化の天賦のことかしら?」
「鑑定……、触れた時。
いやあのキスか、好意に偽装してただ調べていただけなのか!」
「油断するのが悪い。
考えを物語として認識して客観的な思考をするだけのスキルが何の役に立つのかしらね」
「それは秘密だ」
答えろと言われても理解していないから無理な話である。
「私の言うことはどんなことであっても聞きなさい。
返事はハイ」
「……はい」
「宜しい」
まるで犬の首輪のように紐を取り付ける。
拘束は解かれ開放されたが自由はない。
犬のように主人の側をついていくだけだ。
まるで皆に見せるためなのか、砦内を歩き回る。
すれ違う者達は、その様子を見下し笑う。
悔しいが、今は大人しくするしか無い。
「もう勘弁して欲しい」
「この砦は廃棄される予定なの。
最後に目に焼き付けておきなさい」
「建て替えるのか?
確かに古くて、どこも補修した跡があって見栄えも悪い」
「必要なくなったから。
緩衝地として手つかずだった死者の森が無くなれば、もう敵はいないわ」
王国と隣接すれば予期せぬ衝突が起きるかも知れない。
それを回避するために、空白地帯が存在するのだ。
それがたまたま死者の森だった。
変化が起きたとすれば、王国との関係だろう。
好転したなら、この扱いはなんだ?
王国が召喚した異界人と解ったなら、王国へ帰せば友好関係も強固になる筈だ。
「そうなんだ」
「成人を迎えたリシャール王子は、8歳の姫を婚約者として選んだわ。
感想を聞かせて」
成人ということは20才、つまり12才も年下の幼女を選んだということだ。
「犯罪じゃないのか?
ロリコン過ぎる」
「珍しい事ではないけど、同年の姫がいるにも関わらず選んでいるって所。
ありえないでしょう?」
「そう思う」
シャオーリも誰かに振られた。
恨みを持つ程の酷い振られ方……、まさかその振られた姫って事なのか。
いや、だとしたらあの振る舞いは異様。
考えが纏まる事はないまま、屋根裏にやって来ていた。
薄暗い中に、怨念の霧がぼんやりと漂っている。
「ここにはベットもあるわ。
ある人物を監禁していましたの」
風太は怨念に手を伸ばす。
探さないと、早く見つけなればならない。
あの悪魔の子は災いを、混沌を……。
ああ、早くこの手で始末しなければ、なのに!!
気がつけば怨念を握りつぶし、消滅させていた。
読み取れる思考など無い、ただ轟音をかき鳴らすだけだ。
「俺には解らないな。
どんなに憎くても悪魔の子とは言わない」
「ええ、それは間違いなく死者だったからですわ」
「まさかネクロマンシー?」
「正解、私には弟が居たのです。
ですが落馬事故で帰らぬ人になってしまいました」
生き返らせる為に禁忌を犯した末路は悲劇であろう。
恐らく、この砦を選んだ理由はグールを捕獲できるからだろう。
「グールの一部を埋め込んだのか?」
「さあ、どのような方法を使ったのか知るものは既に死んでいます。
実験室は地下にあったらしいですが埋められ隠匿されたわ」
「残念だが、怨霊は消滅した。
情報を得ることは出来ない」
「ここは夜な夜な幽霊が出ると怖がって誰も来ませんわ。
こんな所に男女が居て何も無いと言うことはないでしょう?」
「……ないな」
風太は首輪を外す。
うっかり返事を忘れた時があった。
でも何起きなかった、つまり何の効力もない普通の輪っかでしか無い。
なぜそんな物を付けたのだろうか?
彼女が警戒した悪人だったら、命を奪われて死ぬことだって考えられたはずだ。
つまり信用したということだろうか?
だったら嘘を付く理由が解らない。
シャオーリが目の前、鼻先が当たる。
「気をつけなさい。
その一瞬で生死が分かれるわ」
深く考えると周りが見えなくなっていた。
恐らく周りの人達は気づいていたのだろう。
ただ指摘することはなかった。
「それで俺に何をさせたいんだ?」
「エッチ」
「もう確認は済んだんだろう?
ここには音を遮断する魔法が掛けてある。
秘密の話をするために連れてきた」
推測に過ぎない。
本当にエッチがしたいのかも知れない。
返答を待つ間はドキドキが止まらない。
シャオーリは跪く。
「これまでの非礼、どうかお許しを」
「話を聞かせてくれ」
「王子は支援と言って百人ほどの兵をおくってくれたわ。
……それが罠だと知らずにね」
「あからさまに敵対はしないだろうし……。
監視か?」
「半分正解。
もう一つは禁忌の資料を探しているよう」
「痕跡を消すために研究室を埋めたのか?
だったら問題はないだろう」
「王子は不正を行った貴族を処刑しているらしいわ。
その死体は、どこかに輸送され集められているの」
死体の収集なんて普通はしない。
考えられるのはゾンビの実験。
王国は魔族の報復を恐れていたから、兵力としてゾンビを使おうと考えたのだろうか?
ゾンビの実態は、うすのろで容易く避けられる雑魚だ。
グールなんて、命令も聞かず牙を向いてくる敵である。
「もし禁忌の実験なら失敗する。
そうなれば妹を人質に脅してくるでしょう。
けれど私達は拒むしかない」
「戦争?」
「かも知れない……。
その前に妹の救出をしたい。
手伝って欲しいわ」
魔族の脅威があるのに戦争は愚かだ。
一人の犠牲で済ませる考えなのかも知れない。
健気な幼女の命が散る。
「俺に出来ることは?」
気がつけば王国に敵意を持っていた。
リバーシのように簡単にひっくり返る。
洗脳をされたわけでもない、正常な判断をした結果だ。
恐らく彼女から得た情報の真偽を確かめても、正しい事が証明されるだけだ。
リアハが致命傷を受けて加護を使った事が裏付けとなっている。
安全なはずの王国で、どうして瀕死になるのか?
失態を理由に殺害を試みたからに違いない。
あのジジイなら間違いなく殺る。
「貴族は一族の繁栄のために、数人の子をつくるわ。
でも財産を受け継ぐのは一人、予備の子は平民として生きることになる」
「あれ?
それだと平民でも魔法が使える」
魔法は貴族や王族の特権だと聞いていたので、不思議に思えたのだ。
「元貴族は国が管理して、法術を使うには資格が必要になっているわ。
法術士と呼ばれる人達よ」
「俺は封印されていて魔法は……」
「平民は法術の事はよく知らないわ。
法術士として名声を得て、王子に近づけば救出の機会が訪れる筈」
「でもどうして法術士なんだ?」
「貴族を粛清したら無くなるものがあるでしょう?」
戦力としての魔法だ。
コンコン!
雨戸を叩く音だ。
開くと、箒に乗った魔女がにこにこしている。
「じゃじゃーん、何処まで行った?」
「助けに来てくれた……。
いやまさかグルなのか?」
「ピンポーン。
王宮付法術士、姫様の忠実な配下ってことでよろしくね」
ここに存在してはならない死者の書が手元に戻って来た。
売り捨てる事も、譲ることも出来ない。
持っている限り王国に狙われる。
愛を裏切った贈り物だ。
「なんて玉手箱だ!」
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