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蜂蜜蜜柑
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蜂蜜の瓶の中に蜜柑を入れてみようと考えたのは、何歳くらいのことだっただろう。母は料理が得意で、キッチンには様々な食品や調味料が置いてあった。その中でも私は蜂蜜が好きだった。瓶に入った蜂蜜を一日中飽きもせずに眺めていることも多くあった。
ガラス越しにみる黄金色の粘性のある液体はその中でも時が止まっているように感じられた。私はおもむろに瓶の蓋を開け、ちょうどテーブルの上に置いてあった片手に収まる程度の蜜柑を皮ごと入れた。
蜜柑はとぷんと軽い音をたててゆっくり蜂蜜の中に沈んでいった。私はそれに満足して瓶の蓋を閉めた。
母がそれに気がついた時「どうしてこんなことをしたの?」と訝しげに聞いたので、私は正直に「はちみつの中に入れたら時間が止まりそうだったから」と答えたのだが、その答えは母の怪訝そうな顔を一層深める結果にしかならなかった。
母は「この蜜柑は自分で食べなさいね」と、私に蜂蜜から取り出して洗った蜜柑を渡した。
丁寧に剥いて食べた蜂蜜蜜柑からは、タイムスリップの味がした
ガラス越しにみる黄金色の粘性のある液体はその中でも時が止まっているように感じられた。私はおもむろに瓶の蓋を開け、ちょうどテーブルの上に置いてあった片手に収まる程度の蜜柑を皮ごと入れた。
蜜柑はとぷんと軽い音をたててゆっくり蜂蜜の中に沈んでいった。私はそれに満足して瓶の蓋を閉めた。
母がそれに気がついた時「どうしてこんなことをしたの?」と訝しげに聞いたので、私は正直に「はちみつの中に入れたら時間が止まりそうだったから」と答えたのだが、その答えは母の怪訝そうな顔を一層深める結果にしかならなかった。
母は「この蜜柑は自分で食べなさいね」と、私に蜂蜜から取り出して洗った蜜柑を渡した。
丁寧に剥いて食べた蜂蜜蜜柑からは、タイムスリップの味がした
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