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しおりを挟む早いものであれからひと月、俺たちはというと晴れて恋人同士になっていた。
いやそりゃそうなる他ないでしょって感じではあるが、翌日……もとい俺が目覚めた後に正式に告白をしあってちゃんと付き合うことになったのだ。
俺としては基本ずっとふわついていた思考が勝手に美代の告白を捏造したんじゃないかって怪しんでいなかったかというと嘘になるし、美代としては媚薬にやられた俺を相手にして勢いで押し通したって引け目が多少なりともあったらしい。そういうちょっとばかしモヤついてた部分をまともな状態で告白することによって解消したってわけである。
元々誰よりも一緒に過ごしていたものだから、付き合ったからといって大きく変わるものもない。一緒に授業を受けて、一緒に暇を潰して……。そこに、セックスが加わったくらいなものだろう。
恋人になって知ったこと、というかあの日には薄々気付いていたが、美代はとんでもない性豪だった。普段は優しさいっぱいだというのに、一度そういった雰囲気になると途端に俺を押し倒してガン掘り。一、二回で終わることの方が少ないせいですっかり俺は快楽に弱くなった。それが付き合って2週間ほどでの出来事だ。
腰に手を回しただけで発情顔をする俺を見て流石にやり過ぎたと反省したのかそれ以降美代から手を出してくることも少なくなったが、それはそれで開発されきって手遅れになってしまった俺の体は物足りなくなってしまう。なのでここ最近は俺が美代にモーションをかけ、して欲しいプレイだのもっと激しくしてほしいだの、あらゆる要望を俺が口にするようになっていた。傍から見ればとんだ淫乱野郎である。
そんな感じで爛れに爛れた恋人生活を送っていた訳だが、ふと「そういえばデートとかしたことないよな」と気付いてしまった。休日遊びに行くことはあれど、その時はどちらかといえば友達同士のときと変わらないノリで過ごしている。ここまでくると美代に好意をぶつけられまくりそれを疑うなんてこともなかったのだが、それはそれとしてこのままじゃ恋人じゃなくてセフレといっても通じてしまう、と俺が密かに焦ったのは想像できるだろう。
ということで、今日は急遽デートをしようと美代を誘ったのだ。いつもの近場のゲーセンではなく、少し足を延ばしたところにある洒落たレストランを予約済。イイ感じの風景を楽しみながら食事、なんてなんかデートっぽいだろ。……考えれば考えるほど何がデートで何がただの遊びなのか分からなくなったんだ、発想が貧相とか言わないでほしい。要は気の持ちようなんだよ、要は!
「……よし、ちゃんとあるな」
誰に対してか分からない言い訳は置いといて、初めての「デート」になんだかんだで浮かれる俺。しっかり玄関の鍵を締めた後確認したのは、玄関横に設置されているポストである。
そう、例の合鍵を張り付けているポスト。相変わらずの防犯意識の低さに美代は渋い顔をしているが、なんてったって俺の窮地を救ってくれた名隠し場所。変えるなんてとんでもない話だ。
ちゃんと扉の裏に張り付けられているのを目視して、ぱたんと扉を閉じる。ダイヤルを回しておけばロックはかかるし、そう簡単には取れないはずである。結構下の方に張り付けてるから手紙の差込口からじゃ指も届かないしな。
そうしてもう一度戸締りをチェックした俺は、いそいそと待ち合わせ場所に向かう。到着するのは集合時間の5分前くらいになる予定。だが俺がバカみたいに早く着いた時以外は基本的に俺よりも先に美代がいることの方が多いため、きっと今日も待っていることだろう。
「美代~。美代は……お、あそこか」
俺から誘ったんだしな、と気持ちが急いたせいか、予定より巻いて10分前に待ち合わせ場所に到着した。それでもいつも美代はいるので少し周りを見渡せば、案の定ちょっと離れた場所に美代の後ろ姿が見える。
その前にはサングラスをかけた少々小太りな中年くらいだろう男がおり、どうやらその人と話しているようだ。左頬にガーゼを張り付けている男はサングラスをしているためにはっきりとはわからないが、何やら怒っているよう。もしや難癖をつけられてる? とじりじり距離を詰めていくと、美代が申し訳なさそうに宥めているのが見て取れた。
「……違う。あれじゃ割りに……」
「それは……、……の服を……せて……」
「脅せって…………殴られるとは……」
「悪いと…………だから、上乗せ……」
何やら不穏な単語が飛び交っているが、途切れ途切れでは何を話しているのか全く分からない。結局男が立ち去るまで少し離れた場所で様子を伺っていた俺は、しばらくしてから美代に近づいていった。
「美代」
「っ! 橘か。びっくりした」
「ごめん、なんかもめてるみたいだったからついこっそり……大丈夫?」
「ああ、ちょっとした知り合いだったんだ。話は終わったから、大丈夫」
「そう? 最後に何か分厚い封筒みたいなのを渡してたけど……強請られてたりはしてないんだよな?」
「どんな発想……あれはなんというか、まぁ感謝の気持ちみたいなもんだ。俺の手伝いをしてもらったお礼、だな」
「ふぅん? ……ま、何でもないならいいんだ」
どことなく踏み込んでほしくなさげな雰囲気の美代に、害がないなら追求しなくてもいいかと話を切り上げる俺。しかし、想定外に早く美代と合流してしまった。となると、次に待っているのはそう、今日のメインである。
「それはそうと美代! これからで、デート! だぞ!!」
「やけに気合が入ってるな?」
「そりゃ、初デートだぞ!? 恋人らしいことってその、せ……エッチしか……とにかく、せっかくならちゃんと恋人っぽいことしたいじゃん!」
「俺としては十分恋人っぽいことしてると思ってたけど……」
「俺はもっとこう、イチャイチャで甘々な感じになりたいの! なんつーか、一緒にいても落ち付きすぎて初々しさがないじゃん、俺たち」
「熟年夫婦みたいでいいよな」
「あ、そういう受け取り方!? ……確かにな。お互い全部分かってる感あるのも……いや、違う! 熟年夫婦の前に、新婚夫婦も経験したいんだよ俺は! 観覧車のてっぺんでキス! キラキラの夜景をバックにプロポーズ!」
「……意外とロマンチストだなぁ。なんか微妙にズレてる気もするけど」
呆れたような声音で苦笑する美代。だがその目付きは柔らかく、馬鹿にしているのではなく愛しく思っているのが伝わってくる。ちょっとばかしこそばゆい。恥ずかしくなって俯いた俺を見ても気持ちは変わらないらしく、くすくすと小さく笑いながら俺の顔を覗きこもうとする。
それから逃げるように顔をそむける俺、さらに追い付こうとする美代……。だんだんただふざけているだけになった追いかけっこは、お互い笑ってしまったことでおしまいになった。
それぞれが己の笑いを落ち着かせようとしている間。だからそれは俺に聞かせようとしたのではなく、多分ついぽろっと出てしまったのだろう。
「でも、橘のそんなところも……可愛いなぁ」
「……っ!」
いやに掠れた湿っぽい声はどこかで聞いたことのある音で、ヒクッと俺の笑いが凍る。なんで体が強張ったのか分からず、どこで聞いたのかも思い当たらず戸惑う俺。そんな俺に気付いていないのかスマホを取り出した美代は、レストランへの道筋を検索し始めた。
「……橘。予約したのってここで合ってるよな?」
「っ、あ、ああ、合ってるよ……って、おい。そのストラップ……」
「……バレた?」
「俺の鍵についてる絵馬とお揃いじゃねーか! それ期間限定の……あんな馬鹿にしてたくせに、おんなじ時期に買ってたんじゃん!!」
「思い出のある大切なものだからしまってたんだけど……もう使ってもいいなって思ってな」
「持ってるならだせぇとか言うなよ!」
「ダサいだろ、赤は。青は格好いい」
「この……っ!」
じっとり背中にへばりついていた恐ろしさは美代のスマホにぶら下がっていたストラップを見たらどこかに飛んでいき、替わりによくわからない憤りが俺を満たす。色違いの全く同じデザインのその絵馬のストラップは、確か地域限定でもあるやつ。そこまで被ってるものを持っておきながら貶してきたのが納得いかないぞ、美代!
そう憤る俺を笑いながらいなす美代に、先ほどまで頭を占めていた恐怖はすっかりなくなっていた。元々そんなに深く考える方ではない俺だ。悪いことよりもいいことを覚えていたいし、実際すぐに頭の中から消えていってしまう。
おかげで立ち直りなんかも早く、信じられないくらいにあの日の出来事も過去のものになっていた。まぁ、思い出そうとするたびに美代に快楽漬けにされて上塗りされたってのもあるけれど。
そういったところでも恩がある美代だから、ストラップの件はもう流してやろう。一緒に選んだ同級生の子も、きっと許してくれるはずだ。
「橘、どうした? おいてくぞ?」
「あ! 待って、美代。お前足長いんだからちょっとは歩く速度考えてくれよな!」
「そんなに身長変わらないだろ」
「股下の長さが違う……って、そんなこと言わせんな!」
「ふふっ。ごめんごめん」
ぼんやりとしていたらレストランに向かって歩いていた美代に声をかけられ、慌てて俺は美代の元へと駆け寄る。少し立ち止まっていただけで随分と距離が離れてしまっていたが、追いついた後はじゃれ合いながら俺たちは進んだ。
美代が気を使っているのと、俺がちょっとだけ意識しているので歩調はあっている。さっきみたいに俺が置いて行かれることも、美代が待ちぼうけることもないのだ。
それに気づいた時、なんだかこういうのっていかにもお互いを大切に思ってるって感じだよな、なんてことを考えて、俺は嬉しくなったのだった。
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