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第1章
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それにしても好かれているとは思っていたが、プロポーズされるほどだとは驚いた。いやセオドアにとってはずっと一緒にいれられるという約束でしかないが、それほどまでに慕ってくれているのはやはり嬉しい。
だが俺の言葉に拒絶されたと勘違いしたらしいセオドアはひまわりを握り締めながらしょんぼりと顔を俯かせており、今にも泣きそうな表情になっていた。慌ててしゃがみ込んでセオドアと目線を合わせ、そのぷにっとした頬を両手で包み優しく話しかける。
「なぁセオ、俺は別にセオのことを嫌いになった訳じゃない。ああ言ってくれたこと自体は嬉しかったぞ」
「……ほんとに?」
「本当だ」
「……あのね、最近ウィル兄、僕のことおいてどっかに行っちゃうでしょ? 僕、ウィル兄に嫌われちゃったのかも、って……」
「それ、は」
確かにセオドアにばかり構っていられないと時々遠ざけることもあったが、俺としてはそれでも仲良くしているつもりだった。しかしセオドアにとっては俺と離れること自体が滅多にないことであったため、ショックだったのだろう。
寂しい思いをさせてしまったと後悔し黙ってしまった俺、それをじっと見つめながら、セオドアはさらに続ける。
「それに、マリー姉と仲良くしてるのみかけるから……」
「? マリーがどうした?」
「もしかしたらウィル兄、マリ―姉にこれをするのかなって思って……そしたら、僕はもっと、ウィル兄と遊べなくなる、かも……てぇ……」
「わー! 泣くな泣くな! 大丈夫だから! マリーとはなんでもないから!」
「うえぇ……」
結局ずべずべと泣き出してしまったセオドアを抱きしめ、俺は全力で宥めようとする。
マリーは村に唯一ある酒場の娘だ。
娯楽も少ないこの村に来た者は大概その酒場に足を運び、楽しい一時を過ごす。武具屋を営む俺たち一家としては傭兵や旅人といった武器を必要とするものがいれば少しでも商品を売り込みたいため、昔から酒場と手を組んでそれとなく店を紹介してもらうようにしているのだ。
代わりに荷物運びやちょっとした力仕事なんかを手伝うことになっているのだが、最近情報提供をマリーが、手伝いを俺がするようになったため俺たちが会って話しているのを見たセオドアには「マリーと仲良くしている」という認識になったのだろう。
そもそもマリーはルーカスおじさんのような美形が好みだと言っていた。自分で言うのもなんだが俺の見た目は整っている方だとは思うものの、俺の男らしい顔つきとおじさんのきりっと爽やかな顔つきでは方向性が違う。もし俺がマリーに求婚したとしても、多分素っ気なく断られて終わりだろう。
だが、そんな風に説明したとしても幼いセオドアが理解できるか怪しいところがある。
「……このひまわり、どうしたんだ」
「え? これは、お花が欲しいって言ったらメグおばさんがくれたの」
「そうか。だったら、この花はセオが持っててくれ」
「な、なんで……?」
「まだ、受け取るわけにはいかないからな」
体を離し、持っていた手を垂れ下げているために地面に触れていたひまわりをセオドアの手から引き抜いた俺は、それをセオドアの胸に押し付ける。受けとるでなく突き返した俺の行動に、今度こそ嫌われたと顔を歪めるセオドア。その涙が溢れ続けている目をしっかり見て、俺は安心させるようににっこりと笑顔を向けた。
「さっき、プロポーズは俺にすることじゃないって言ったよな?」
「うん……」
「でもな、しちゃいけないってことでもない。そうだな……セオが俺より背が高くなって、そのときまだプロポーズしたいっていうなら、もうちょっと考えてやるよ」
「! ウィル兄、僕のお嫁さんになってくれるの?」
「嫁……まぁいいか。それも考えるから、とにかく泣き止むんだ。な?」
「うんっ! 僕、早く兄ちゃんより大きくなる!」
「ああ、頑張れよ」
ぱっと泣き止み笑顔で抱き付いてくるセオドアに、俺はようやく肩の力を抜いた。
俺もセオドアも成長期だが、まだまだセオドアに身長を抜かれるつもりはない。抜かされるにしてもそれは何年も後だろうし、そのころには求婚の正しい意味をセオドアも知るだろう。
(セオはどんな子を好きになるんだろうな)
ふと頭に浮かんだ疑問に、兄というよりまるで親のような目線になっていることについ苦笑いをしてしまう。
縁が無いために恋愛相談に乗れるか分からないが、いざという時は力になってやろう、と俺は密かに決心するのだった。
だが俺の言葉に拒絶されたと勘違いしたらしいセオドアはひまわりを握り締めながらしょんぼりと顔を俯かせており、今にも泣きそうな表情になっていた。慌ててしゃがみ込んでセオドアと目線を合わせ、そのぷにっとした頬を両手で包み優しく話しかける。
「なぁセオ、俺は別にセオのことを嫌いになった訳じゃない。ああ言ってくれたこと自体は嬉しかったぞ」
「……ほんとに?」
「本当だ」
「……あのね、最近ウィル兄、僕のことおいてどっかに行っちゃうでしょ? 僕、ウィル兄に嫌われちゃったのかも、って……」
「それ、は」
確かにセオドアにばかり構っていられないと時々遠ざけることもあったが、俺としてはそれでも仲良くしているつもりだった。しかしセオドアにとっては俺と離れること自体が滅多にないことであったため、ショックだったのだろう。
寂しい思いをさせてしまったと後悔し黙ってしまった俺、それをじっと見つめながら、セオドアはさらに続ける。
「それに、マリー姉と仲良くしてるのみかけるから……」
「? マリーがどうした?」
「もしかしたらウィル兄、マリ―姉にこれをするのかなって思って……そしたら、僕はもっと、ウィル兄と遊べなくなる、かも……てぇ……」
「わー! 泣くな泣くな! 大丈夫だから! マリーとはなんでもないから!」
「うえぇ……」
結局ずべずべと泣き出してしまったセオドアを抱きしめ、俺は全力で宥めようとする。
マリーは村に唯一ある酒場の娘だ。
娯楽も少ないこの村に来た者は大概その酒場に足を運び、楽しい一時を過ごす。武具屋を営む俺たち一家としては傭兵や旅人といった武器を必要とするものがいれば少しでも商品を売り込みたいため、昔から酒場と手を組んでそれとなく店を紹介してもらうようにしているのだ。
代わりに荷物運びやちょっとした力仕事なんかを手伝うことになっているのだが、最近情報提供をマリーが、手伝いを俺がするようになったため俺たちが会って話しているのを見たセオドアには「マリーと仲良くしている」という認識になったのだろう。
そもそもマリーはルーカスおじさんのような美形が好みだと言っていた。自分で言うのもなんだが俺の見た目は整っている方だとは思うものの、俺の男らしい顔つきとおじさんのきりっと爽やかな顔つきでは方向性が違う。もし俺がマリーに求婚したとしても、多分素っ気なく断られて終わりだろう。
だが、そんな風に説明したとしても幼いセオドアが理解できるか怪しいところがある。
「……このひまわり、どうしたんだ」
「え? これは、お花が欲しいって言ったらメグおばさんがくれたの」
「そうか。だったら、この花はセオが持っててくれ」
「な、なんで……?」
「まだ、受け取るわけにはいかないからな」
体を離し、持っていた手を垂れ下げているために地面に触れていたひまわりをセオドアの手から引き抜いた俺は、それをセオドアの胸に押し付ける。受けとるでなく突き返した俺の行動に、今度こそ嫌われたと顔を歪めるセオドア。その涙が溢れ続けている目をしっかり見て、俺は安心させるようににっこりと笑顔を向けた。
「さっき、プロポーズは俺にすることじゃないって言ったよな?」
「うん……」
「でもな、しちゃいけないってことでもない。そうだな……セオが俺より背が高くなって、そのときまだプロポーズしたいっていうなら、もうちょっと考えてやるよ」
「! ウィル兄、僕のお嫁さんになってくれるの?」
「嫁……まぁいいか。それも考えるから、とにかく泣き止むんだ。な?」
「うんっ! 僕、早く兄ちゃんより大きくなる!」
「ああ、頑張れよ」
ぱっと泣き止み笑顔で抱き付いてくるセオドアに、俺はようやく肩の力を抜いた。
俺もセオドアも成長期だが、まだまだセオドアに身長を抜かれるつもりはない。抜かされるにしてもそれは何年も後だろうし、そのころには求婚の正しい意味をセオドアも知るだろう。
(セオはどんな子を好きになるんだろうな)
ふと頭に浮かんだ疑問に、兄というよりまるで親のような目線になっていることについ苦笑いをしてしまう。
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