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第1章
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その後詰所でこれからセオドアも来ていいかを確認し、了承を貰ったことでスキップまでしているセオドアと一緒に帰路へ着く。途中約束通り焼き菓子を買ってやると幸せそうにそれを頬張り、セオドアは終始ご機嫌だった。
そんなこんなで俺のトレーニングにセオドアがついてくるようになって数ヶ月、今日も体力づくりに走り込みをしていると、あまり見かけない紋章の付いた馬車がやってくる。
剣をクロスさせその後ろに盾が記されている紋章。それは王国騎士団のものであり、俺はまさかという思いでそれに駆け寄った。
「やあ、元気にしてたかな?」
「ヴィクトル様! 来てくれたんですね!」
「ふふ、当然だよ。……ん?」
元気よく頭を下げて挨拶すると、朗らかな笑い声が頭上から聞こえる。しかしそれが不意に止み、何かと思ってヴィクトル様の様子を見ると視線が俺の腰辺りに向いていた。
「こんにちは。私はヴィクトルという。君はなんていうのかな」
「……セオドア、です」
「セオドア君か。ふむ……ウィリアム君のご兄弟?」
「いえ、違いますが……」
「ウィル兄は、僕の大切な人です!」
何故だか俺の腰にへばりついて精一杯ヴィクトル様を威嚇しているセオドアに困惑してしまうが、続けて大声で言い放った言葉に俺は顔を引きつらせる。
「おい、何言ってんだセオ!」
「ふっ……はははっ! そうか、それは悪いことをしたね。突然現れてウィリアム君に馴れ馴れしくしている私が気に喰わないだろう。でも大丈夫、ウィリアム君を取ったりしないよ」
「ほんと?」
「セオ!」
「本当だ。それに是非君とも仲良くしたいと思っている」
「……ウィル兄取らないなら……」
「セオ、ちょっと……!」
「ふふ、慕われてるねぇ」
マリーなど村の顔見知りならともかく、憧れの存在にこんな光景を見られたことがなんだかいたたまれない。しかしがっしりしがみついているセオドアを剥がすこともできず、奮闘していた俺はヴィクトル様にしばらくくすくすと笑われてしまった。
そんな俺にとっては恥ずかしく詰所としては和やかな時間が落ち着くと、早速トレーニングを再開する。セオドアもヴィクトル様への警戒をとき、今は訓練場の端でヴィクトル様と一緒に俺の頑張りを応援していた。
時折笑顔で何かを話しているのを見るに、ヴィクトル様に俺のことを話してもいるのだろう。変なことを伝えられていないか不安になるが、途中で訓練を投げ出すのも格好つかないためなるべく2人の方を見ないようにした。
「お疲れ様、ウィル兄!」
「ありがとう、セオ」
ひっきりなしに流れる汗をセオドアから渡されたタオルで拭き、チラリとヴィクトル様の様子を伺う。
今日は走り込みに模擬刀を使った打ち込み、それに攻撃をかわす訓練をした。
ヴィクトル様がそれを見て、俺をどう思ったか。難しい顔で考え込んでいるヴィクトル様に、俺の程度というのを教えてほしくて堪らない。
「あの……」
「あ、すまないね。うん、悪くない。年齢にしては持久力があるし、力も剣に上手く乗せられている。瞬発力もなかなかだ。でも無駄に力が入っているせいで必要以上に疲れている……相手の動きを予測するのも、苦手だね?」
「! はい……」
ヴィクトル様の指摘に、俺の返事は小さくなる。自警団の人たちはかなり手加減して俺に打ち込んでくれるのだが、俺はそれが近づいてからでしか反応できない。フェイントなど入れられるともうお手上げだ。
やはりまだまだ道のりは厳しいと項垂れる俺、その上からヴィクトル様の優しい声が降り注ぐ。
「試験は模擬戦方式でね。もちろん相手を負かすことができるならその方が得点は高いけど、負けたとしても不合格というわけじゃない。上手な負け方ってのもあるんだよ」
「負け方……」
「攻撃を追えていたか、とか、隙を付くことができていたか、とか。そういう可能性を見せることが大切だね。ということでウィリアム君、観察する力を高めようか」
「はいっ!」
なんのこともないように簡単に差し伸べられた手は、俺にとっては輝く道標に他ならない。
「僕もっ! 兄ちゃんのお手伝いする!」
「うんうん。じゃあセオドア君も一緒に訓練しようか。やっぱり、高め会う相手がいるのはいいからね」
「が、頑張るよ!」
ヴィクトル様の言葉にセオドアもやる気に満ちた顔で気合いをいれていて、俺も負けていられないと気持ちを新たにする。
きっと思うがままになる。俺はそう明るい未来を確信していた。
そんなこんなで俺のトレーニングにセオドアがついてくるようになって数ヶ月、今日も体力づくりに走り込みをしていると、あまり見かけない紋章の付いた馬車がやってくる。
剣をクロスさせその後ろに盾が記されている紋章。それは王国騎士団のものであり、俺はまさかという思いでそれに駆け寄った。
「やあ、元気にしてたかな?」
「ヴィクトル様! 来てくれたんですね!」
「ふふ、当然だよ。……ん?」
元気よく頭を下げて挨拶すると、朗らかな笑い声が頭上から聞こえる。しかしそれが不意に止み、何かと思ってヴィクトル様の様子を見ると視線が俺の腰辺りに向いていた。
「こんにちは。私はヴィクトルという。君はなんていうのかな」
「……セオドア、です」
「セオドア君か。ふむ……ウィリアム君のご兄弟?」
「いえ、違いますが……」
「ウィル兄は、僕の大切な人です!」
何故だか俺の腰にへばりついて精一杯ヴィクトル様を威嚇しているセオドアに困惑してしまうが、続けて大声で言い放った言葉に俺は顔を引きつらせる。
「おい、何言ってんだセオ!」
「ふっ……はははっ! そうか、それは悪いことをしたね。突然現れてウィリアム君に馴れ馴れしくしている私が気に喰わないだろう。でも大丈夫、ウィリアム君を取ったりしないよ」
「ほんと?」
「セオ!」
「本当だ。それに是非君とも仲良くしたいと思っている」
「……ウィル兄取らないなら……」
「セオ、ちょっと……!」
「ふふ、慕われてるねぇ」
マリーなど村の顔見知りならともかく、憧れの存在にこんな光景を見られたことがなんだかいたたまれない。しかしがっしりしがみついているセオドアを剥がすこともできず、奮闘していた俺はヴィクトル様にしばらくくすくすと笑われてしまった。
そんな俺にとっては恥ずかしく詰所としては和やかな時間が落ち着くと、早速トレーニングを再開する。セオドアもヴィクトル様への警戒をとき、今は訓練場の端でヴィクトル様と一緒に俺の頑張りを応援していた。
時折笑顔で何かを話しているのを見るに、ヴィクトル様に俺のことを話してもいるのだろう。変なことを伝えられていないか不安になるが、途中で訓練を投げ出すのも格好つかないためなるべく2人の方を見ないようにした。
「お疲れ様、ウィル兄!」
「ありがとう、セオ」
ひっきりなしに流れる汗をセオドアから渡されたタオルで拭き、チラリとヴィクトル様の様子を伺う。
今日は走り込みに模擬刀を使った打ち込み、それに攻撃をかわす訓練をした。
ヴィクトル様がそれを見て、俺をどう思ったか。難しい顔で考え込んでいるヴィクトル様に、俺の程度というのを教えてほしくて堪らない。
「あの……」
「あ、すまないね。うん、悪くない。年齢にしては持久力があるし、力も剣に上手く乗せられている。瞬発力もなかなかだ。でも無駄に力が入っているせいで必要以上に疲れている……相手の動きを予測するのも、苦手だね?」
「! はい……」
ヴィクトル様の指摘に、俺の返事は小さくなる。自警団の人たちはかなり手加減して俺に打ち込んでくれるのだが、俺はそれが近づいてからでしか反応できない。フェイントなど入れられるともうお手上げだ。
やはりまだまだ道のりは厳しいと項垂れる俺、その上からヴィクトル様の優しい声が降り注ぐ。
「試験は模擬戦方式でね。もちろん相手を負かすことができるならその方が得点は高いけど、負けたとしても不合格というわけじゃない。上手な負け方ってのもあるんだよ」
「負け方……」
「攻撃を追えていたか、とか、隙を付くことができていたか、とか。そういう可能性を見せることが大切だね。ということでウィリアム君、観察する力を高めようか」
「はいっ!」
なんのこともないように簡単に差し伸べられた手は、俺にとっては輝く道標に他ならない。
「僕もっ! 兄ちゃんのお手伝いする!」
「うんうん。じゃあセオドア君も一緒に訓練しようか。やっぱり、高め会う相手がいるのはいいからね」
「が、頑張るよ!」
ヴィクトル様の言葉にセオドアもやる気に満ちた顔で気合いをいれていて、俺も負けていられないと気持ちを新たにする。
きっと思うがままになる。俺はそう明るい未来を確信していた。
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