レジェンド・オブ・ダーク 遼州司法局異聞

橋本 直

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第十一章 司法局実働部隊運用艦『高雄』

誠の『力』と一気飲み

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「なるほどねえ、お前さんが黙っていると言うことは、連中もまだ動くに動けんと言うわけか。しかし、あれだな。今回の一件で一番美味しい思いをしている奴がいるねえ。わざわざ俺の手でかかわらないで済む口実を与えてもらった当事者。そして……」 

 誠は目の前に見たことが無いような真剣な視線を送る嵯峨を見ていた。

「遼州の利権に一番関心を持ち、いかなる犠牲を払っても近藤資金のルートを遮断したいと思っている連中」 

「アメリカですか?」 

 その誠の口から発せられた言葉を聞いて、吉田は思わず笑いをこぼしていた。

「いい勘してんな、神前の。そんじゃあアタシが隊長にに進言しようとしてることもわかるか?」

 ケラケラと笑いながらランがそう言った。

「僕にどんな力があるか知りませんが、全てを知りうるだけの諜報網と、この一件を収拾するだけの軍事力、政治力を持つのはアメリカだけでしょう。となれば、同盟会議に圧力をかけることも簡単に出来るんじゃないですか?まあそんなことまでしなくとも近藤中佐の活動を内偵するくらいのことはやっていたはずです。そしてその情報の量はおそらく出遅れた胡州の憲兵隊の比ではない」

 そんな誠の答えに嵯峨は満足そうにうなづく。 

「だろうなあ。じゃあどうやってどこにその情報を使うと思う?大統領の任期も半年を切った。ことは起こしたくないのが本音だ。手を汚さずに済む為には確実に俺達にお鉢が回ってくるように仕向けなきゃならねえんだぞ?」 

 からかうようにして嵯峨が口を挟む。

「今回『自由と民主主義の拡大』という大義をアメリカと共有しているのは胡州の民派ですからね。他国の介入によって近藤一派を駆逐することは簡単ですが、そのことは民意で政権を維持している西園寺内閣にとっては致命的なダメージになりかねません」

「自由も民主主義もと言う前に、胡州の民意として『地球からの介入に屈してはならない』と言うのが大原則だからな」 

 そんな嵯峨の言葉にカウラは口を挟んだ。

「かと言って胡州の現政権も、下手に自国軍で鎮圧に乗り出せば近藤シンパの決起の口実を与え、悪くすれば西園寺首相は寝首をかかれる可能性すらあります。胡州民主化の象徴死すとなれば、不安定な政情の大麗、ゲルパルトが同盟協調主義政策の転換を図るかもしれません」

 誠が持っている知識を総動員してカウラの言葉を理解しようとした。嵯峨はしばらく腕組みをした後、納得したようにテーブルから酒の入ったグラスを手に取った。 

「なるほどねえ。俺もいい部下を持ったもんだ。ただ……それだけじゃあアメちゃんは俺達が暴れるのを許してくれないぜ。別に俺達が近藤一派の前で襲撃大失敗と言うことでかんかん能を踊った所で奴等の腹は痛まないんだから」 

 笑っている。誠は自分がこんな状況に置かれて笑っていることに気がついた。

「いいですか?」

 思わず誠は手を挙げていた。

「はい、新人君。ご意見期待してるよ」

 嵯峨はそう言うとニヤリと笑う。

「もう一つ手土産を用意するんです。よく分かりませんが僕の力とやらを出せば……」 

 誠の言葉を聞きながら嵯峨はゆっくりと猪口を傾けると、手酌で飲み始める。

「そうだな。俺の次にお前さんに目をつけたのがアメちゃんだ。俺と吉田の解説付きの戦闘データをプレゼントするなんて言ったら土下座でも何でもするだろうな……それほどの価値はあるだろう」 

「隊長、その線で行って見ますか?」 

 皿を置いた吉田が立ち上がった。嵯峨はうなづく。そそくさと吉田はハンガーから出て行った。

「自分で言っといてなんですが、僕の力ってなんなんですか?」 

「それは……なんだ……。俺、文系だからねえ」

 猪口を傾けながら嵯峨はじっと徳利を見ていた。アイシャが気を利かせて新しい徳利を持ってくる。嵯峨はそれを受け取るとまた手酌でやり始めた。

「それをお前が知っちゃうとそれに頼るようになるからねえ。力はあれば良いと言うもんじゃない。それを支えるだけの意思と倫理観が必要だ。少なくともどちらも今のお前にゃ縁遠いな。そのうち嫌だって言っても分かるようになるだろうけど」 

 嵯峨はそれだけ言うとまだクレーンの操作盤のところでじゃれているシャム達を手招きした。

「叔父貴よう。話は済んだのか?」 

 呼ばれてきたかなめが遊びの途中で食事に呼ばれた子供のような口調で切り出した。

「まああれだ。お前にゃあもったいないほど出来た部下だってことはよく分かった」 

「そりゃあねえよ叔父貴!」 

 嵯峨の一言にかなめは天を仰ぐ。一方、そんな言葉を軽く無視するように嵯峨は杯を重ねた。

「かなめちゃん!とりあえず食べようよ!」 

「シャムの言うとおりだぞ!とりあえず食えるときに食っとけ。それも仕事のうちだ」 

「言われなくてもそうするよ」 

 嵯峨に指図されて不愉快そうなかなめはそう言うとせっせと鉄板の上の料理を盛り分けていたアイシャから皿を受け取った。しかし、その中身を見るとすぐにアイシャに突き返した。

「アイシャ!テメエ、アタシに恨みでもあんのか?」 

「あらどうしたの?かなめちゃん」 

「ピーマンだらけじゃねえか!アタシがピーマン嫌いだって知っててやってんだろ!」 

「ちゃんとバランスよく食べないと、その巨乳が維持できないでしょ?」 

 箸にワザとピーマンだけをより分けて拾ったアイシャは、それをかなめの手の中の皿に盛り付けた。二人の間に緊張した空気が流れる。

「じゃあ、アタシが食べるの!」 

 空気を察してか、それとも野生の勘がなせる業か、シャムがかなめの皿からピーマンをより分け始めた。

「神前!オメエも取れ!」 

「西園寺さん。実は僕もピーマンあんまり好きじゃないんです」 

 誠は不安を抱えたままかなめと眼も合わさずにそう答えた。

 少し間をおいて、罵られるかと思いつつかなめの顔を見ると、そこには満面の笑顔があった。

「聞いたか?アイシャ!神前とアタシはピーマンを憎む同志なんだ。お前やシャムのようにピーマンを好む人間とは一線を画してるんだ。分かるか?神前!やっぱオメエ気に入ったよ!じゃあこれを飲め!」 

 かなめは誰も手をつけようとしていなかったテキーラの瓶を手に取ると栓を抜いた。

「それって結構きついですよね?」 

「ああ、アルコール度数40パーセントだ」 

「飲まなきゃだめですか?」 

「アタシと同志であると言う所を見せるにはこれを飲み干さないとな」 

 据わった眼で見つめてくるかなめを前に、自然に後ずさる誠。

「西園寺!また神前少尉を潰すつもりか!」 

 それまでハンガーの隅で烏龍茶を飲んでいたカウラが、かなめの腕を握っていた。

「いつだってアタシは潰すつもりなんか無いぜ?ただこいつが勝手に潰れてるだけだ」 

 そんなかなめの声を聞いた所までは、誠も覚えていた。不意に暗転する世界。

『またやっちまった』 

 そんな独り言が誠の頭の中で回転していた。誠は自分の意識が飛んでいく瞬間を感じながらそのまま後ろに倒れこんだ。
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