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第十九章 銘酒一献
酒と昔語り
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「それはそうと、ベルガー、クラウゼ。何でお前等が……って言うだけ野暮か」
嵯峨は細かく千切った干し肉を口に放り込む。
「特に用があったわけじゃないですが、どうも作戦が近づいてるのが気になるみたいでちょっと声でもかけようと思って……カウラちゃんはどうして?」
話を振られてカウラは緑の髪を揺らしながらうろたえていた。ポニーテールの髪がかすかに揺れているのが誠にも分かった。緑色をした澄んだ瞳が、ちらちらと誠の方に向けられる。何度も口を開こうとするが、言葉にする言葉が見つからないというようにそのままうつむく。
「まあいいやな。人のすることを一々詮索する趣味は俺にはねえよ。まあ初出撃だ。ビビらん方がよっぽど厄介だ。おかげさまで俺の部下に、英雄気取りの馬鹿はあまりお目にかかってないんでね。それに俺の軍籍のある胡州陸軍には伝統的な馬鹿矯正法があるからな」
「鉄拳制裁ですか?」
一口酒を舐める嵯峨にカウラはそう答える。
「ぶん殴って頭をはっきりさせるって言うのは、戦場で自爆どころか足を引っ張った上で勝手にくたばる運命に比べたら、よっぽど人道的な配慮のある行為だよ。まあ俺は暴力は嫌いだがね」
「本当にそうなんですか?ずいぶん芝居がかって見えますが。誠ちゃんもう一杯どう?」
皮肉めいた笑みを嵯峨に向けたあと、アイシャがコップを手に取り酒を注いだ。
「そう言えば誠との付き合いは、俺が陸軍大学校を出て東和の大使館付き二等武官をやってたころだから……」
「隊長。そのころまだ僕は生まれてませんよ」
それは誠の実家の道場では誰もが知っている話だった。
それは誠の父神前誠也(しんぜんせいや)が道場を開いて初の道場破りが、胡州帝国東和大使館付きの二等武官の嵯峨、当時は西園寺新三郎と名乗っていた中尉だった。そんな酔狂なその胡州軍人の話は誠の道場では語り草となった。
嵯峨は誠也の竹刀をあっさり叩き落して看板を持って帰ろうとするところを、誠の母、薫に呼び止められてさらに一試合することとなった。
攻撃一辺倒の嵯峨の太刀筋に対して、薫は徹底的に攻撃を受け流すように竹刀をふるった。勝負を焦った嵯峨が打ち込んだ面をかわされて、背中に一太刀浴びたころには、嵯峨の息が上がっていたというのに薫は全く息の乱れもなかったという。そしてそのまま嵯峨は薫に剣の教えを乞うことになったという事も誠は聞いていた。
「そうだったっけ?ああ、そう言えば居なかったな。思い出した、思い出した。俺が復員した後、俺が胡州を出奔して東都で弁護士事務所を始めたころだな、初めて会ったのは」
「弁護士事務所?茶道教室の間違いじゃないんですか?」
アイシャはいたずらっぽく笑う。嵯峨が弁護士資格を持っているのは知っていたが、茶道の心得があることは誠は知らなかった。隊長室のガラクタの置かれた理由を理解して誠は静かにうなづいた。
「仕方ねえだろ、そっちの方が儲かるんだから。茶道具の仕入れや骨董の鑑定なんかは結構、金になるんだぜ。それに一応、二回ほど訴訟も手掛けてるんだから……ちゃんと弁護士事務所してるじゃねえか」
そう言うと嵯峨は急に扉のほうに視線を移す。盆の上に三つのコップと烏龍茶と豚の角煮を一皿持ったかなめが居た。
「早かったじゃねえか。しかも豚……じゃねえか猪の角煮、炊事班の賄いか?こいつ旨いんだわ。とりあえず机にでも置いて一杯やろうじゃねえか」
ふくれっ面のかなめがカウラとアイシャの横をすり抜ける。肩にかからない程度に切りそろえられた髪をなびかせながら、かなめはアイシャと嵯峨との間に腰を下ろして嵯峨からコップを受け取った。
「叔父貴。ケチるんじゃねえぞ!」
「分かってるよ。まあアイシャも少しは付き合え。カウラすまんな。とりあえず茶でも飲んでくれ」
かなめの労をねぎらうべく、嵯峨は自分達より多めに酒をついでやった。かなめは乾杯を待たずにコップの中の酒を口に含む。
「いいねえ、こいつやっぱ旨いや。アルコール度数も高けえんじゃねえの?」
「そうだな。確か18度くらいじゃないのか?」
「ええと、正解です。アルコール度数17~19度」
誠は手書きのラベルの片隅に書かれた品名の欄を読み上げる。
「それじゃあ私はセーブしながら飲まないと」
アイシャはそう言ってグラスの中の酒の香りを嗅いでいた。
「だな。アイシャはそれほど強くないからな。まあアタシは好きなだけ飲むけど」
かなめがまたグビリと酒を口に含んだ。誠が一口飲む間に、もうさっき注いだ酒の半分が消えていた。
「かなめ坊。もう少し味わって飲めよ」
思わず嵯峨が苦笑いを浮かべる。
「そんなのアタシの勝手だろ?しかし、何度も言うけどカウラ本当に飲めないのか?サラとかパーラは結構いける口なのに変じゃないのか?」
そう振られてカウラは緑の瞳で誠を一瞥した。悲しい瞳だ。誠はそう感じた。
「私達は確かに人造培養生命体だが、同じ遺伝子を使用して製造されたわけではない。体格や各種性能にはそれぞれ差がある」
「そう言うこと。でも本当に美味しいお酒ね」
ちびりちびりとグラスの酒を飲んでいたアイシャがつぶやく。
「褒めても何も出んぞ」
アイシャの言葉を聞きながら嵯峨はそう言いながら四杯目の酒をあおった。
嵯峨は細かく千切った干し肉を口に放り込む。
「特に用があったわけじゃないですが、どうも作戦が近づいてるのが気になるみたいでちょっと声でもかけようと思って……カウラちゃんはどうして?」
話を振られてカウラは緑の髪を揺らしながらうろたえていた。ポニーテールの髪がかすかに揺れているのが誠にも分かった。緑色をした澄んだ瞳が、ちらちらと誠の方に向けられる。何度も口を開こうとするが、言葉にする言葉が見つからないというようにそのままうつむく。
「まあいいやな。人のすることを一々詮索する趣味は俺にはねえよ。まあ初出撃だ。ビビらん方がよっぽど厄介だ。おかげさまで俺の部下に、英雄気取りの馬鹿はあまりお目にかかってないんでね。それに俺の軍籍のある胡州陸軍には伝統的な馬鹿矯正法があるからな」
「鉄拳制裁ですか?」
一口酒を舐める嵯峨にカウラはそう答える。
「ぶん殴って頭をはっきりさせるって言うのは、戦場で自爆どころか足を引っ張った上で勝手にくたばる運命に比べたら、よっぽど人道的な配慮のある行為だよ。まあ俺は暴力は嫌いだがね」
「本当にそうなんですか?ずいぶん芝居がかって見えますが。誠ちゃんもう一杯どう?」
皮肉めいた笑みを嵯峨に向けたあと、アイシャがコップを手に取り酒を注いだ。
「そう言えば誠との付き合いは、俺が陸軍大学校を出て東和の大使館付き二等武官をやってたころだから……」
「隊長。そのころまだ僕は生まれてませんよ」
それは誠の実家の道場では誰もが知っている話だった。
それは誠の父神前誠也(しんぜんせいや)が道場を開いて初の道場破りが、胡州帝国東和大使館付きの二等武官の嵯峨、当時は西園寺新三郎と名乗っていた中尉だった。そんな酔狂なその胡州軍人の話は誠の道場では語り草となった。
嵯峨は誠也の竹刀をあっさり叩き落して看板を持って帰ろうとするところを、誠の母、薫に呼び止められてさらに一試合することとなった。
攻撃一辺倒の嵯峨の太刀筋に対して、薫は徹底的に攻撃を受け流すように竹刀をふるった。勝負を焦った嵯峨が打ち込んだ面をかわされて、背中に一太刀浴びたころには、嵯峨の息が上がっていたというのに薫は全く息の乱れもなかったという。そしてそのまま嵯峨は薫に剣の教えを乞うことになったという事も誠は聞いていた。
「そうだったっけ?ああ、そう言えば居なかったな。思い出した、思い出した。俺が復員した後、俺が胡州を出奔して東都で弁護士事務所を始めたころだな、初めて会ったのは」
「弁護士事務所?茶道教室の間違いじゃないんですか?」
アイシャはいたずらっぽく笑う。嵯峨が弁護士資格を持っているのは知っていたが、茶道の心得があることは誠は知らなかった。隊長室のガラクタの置かれた理由を理解して誠は静かにうなづいた。
「仕方ねえだろ、そっちの方が儲かるんだから。茶道具の仕入れや骨董の鑑定なんかは結構、金になるんだぜ。それに一応、二回ほど訴訟も手掛けてるんだから……ちゃんと弁護士事務所してるじゃねえか」
そう言うと嵯峨は急に扉のほうに視線を移す。盆の上に三つのコップと烏龍茶と豚の角煮を一皿持ったかなめが居た。
「早かったじゃねえか。しかも豚……じゃねえか猪の角煮、炊事班の賄いか?こいつ旨いんだわ。とりあえず机にでも置いて一杯やろうじゃねえか」
ふくれっ面のかなめがカウラとアイシャの横をすり抜ける。肩にかからない程度に切りそろえられた髪をなびかせながら、かなめはアイシャと嵯峨との間に腰を下ろして嵯峨からコップを受け取った。
「叔父貴。ケチるんじゃねえぞ!」
「分かってるよ。まあアイシャも少しは付き合え。カウラすまんな。とりあえず茶でも飲んでくれ」
かなめの労をねぎらうべく、嵯峨は自分達より多めに酒をついでやった。かなめは乾杯を待たずにコップの中の酒を口に含む。
「いいねえ、こいつやっぱ旨いや。アルコール度数も高けえんじゃねえの?」
「そうだな。確か18度くらいじゃないのか?」
「ええと、正解です。アルコール度数17~19度」
誠は手書きのラベルの片隅に書かれた品名の欄を読み上げる。
「それじゃあ私はセーブしながら飲まないと」
アイシャはそう言ってグラスの中の酒の香りを嗅いでいた。
「だな。アイシャはそれほど強くないからな。まあアタシは好きなだけ飲むけど」
かなめがまたグビリと酒を口に含んだ。誠が一口飲む間に、もうさっき注いだ酒の半分が消えていた。
「かなめ坊。もう少し味わって飲めよ」
思わず嵯峨が苦笑いを浮かべる。
「そんなのアタシの勝手だろ?しかし、何度も言うけどカウラ本当に飲めないのか?サラとかパーラは結構いける口なのに変じゃないのか?」
そう振られてカウラは緑の瞳で誠を一瞥した。悲しい瞳だ。誠はそう感じた。
「私達は確かに人造培養生命体だが、同じ遺伝子を使用して製造されたわけではない。体格や各種性能にはそれぞれ差がある」
「そう言うこと。でも本当に美味しいお酒ね」
ちびりちびりとグラスの酒を飲んでいたアイシャがつぶやく。
「褒めても何も出んぞ」
アイシャの言葉を聞きながら嵯峨はそう言いながら四杯目の酒をあおった。
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