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第二十五章 どんちゃん騒ぎ

宴会の予感

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 そんなどんよりとした医務室に凛とした声が響いた。

「主賓が来なくちゃ始まらないじゃないの!」 

 声の主は司法局実働部隊の影の最高実力者、技術部長許明華大佐だった。その後ろには警備部部長のマリア・シュバーキナ大尉の姿も見える。

「許大佐!少しは小さい声で」 

 明華の声を聞きつけたのか続けて入ってきたドムに白い目で見られて明華は照れるように頭に手をやる。

「神経衰弱とは、少したるんでいるんじゃないのか?」 

 青いベレーに金の髪が映えるマリアが笑顔でそう突っ込む。

「そうか。じゃあ室内戦闘用訓練のカリキュラムでも作ってくれるのか?」 

 嵯峨もさすがにこの時ばかりはニヤつきながらマリアに仕事を押し付ける。そんな嵯峨の冗談は鋭いマリアの視線で黙殺された。

「ドクター!それじゃあ先行ってるんで!今回の主役はお前らだ!なんとシャムが先月取って来た猪肉が200kgもある!」 

 叫ぶ嵯峨に一同は驚嘆した。腰に手を当て無い胸を張るシャムの頭には猫耳が踊っている。

「牡丹鍋だ!」 

 島田が叫んだ。 

「豆腐あるの?豆腐」 

「アイシャ。オメエ、頭も腐ってりゃ、好きなものまで腐ってるんだな」 

「なによ!豆腐は漢字は腐ると書いても腐っているわけじゃ……」 

「クラウゼ大尉!西園寺中尉!」 

『ハイ!大佐殿』 

 明華の声にわざとらしく二人は大げさに敬礼した。

「以上二名はガスコンロ等の物資をハンガーに運搬する指揮を執ること!ナンバルゲニア中尉!ラビロフ中尉!グリファン少尉!島田曹長!」 

『ハイ!』 

「以上は会場の設営の指揮を担当!以上!かかれ!」 

『了解!』 

 明華の命令を聞くと全員が小走りで医務室を飛び出していく。

「僕とカウラさんはなにを?」 

 残された誠とカウラはベッドに腰掛けながら待っていた。

「ああ、あんた等は主賓でしょ?ただ待ってりゃいいのよ。マリアは飲み物の手配お願い。それと隊長!」 

 気の強そうな明華の張りのある声を聴くと嵯峨はビクンといつもの猫背気味の背筋を伸ばして多少軍人らしい格好をして見せる。その手から吸っていたタバコが落ちた。明華はそのタバコを踏み潰した。悲しそうに嵯峨はそれを見送る。

「隊長には私品の酒類の供出を求めたいのですが」 

 明華は不気味な笑みを浮かべる。

「鬼より怖い技術部長の頼みだからねえ……でもマッカランの60年はだめだからな!」

 珍しくムキになって嵯峨は隊長室に飾ってある秘蔵のシングルモルトウィスキーの名を叫んだ。

「どうせうちの馬鹿達が飲むんですから、アルコールさえ入っていればなんでも良いんですよ。まあ隊長が酒にうるさいのは知ってますからそれなりの出費になりますが」

 非情な明華の一言に嵯峨はさらにがっくりとうなだれた。

「じゃあ神前君、カウラ。私たちは先に行くわよ」 

 そう言いながら、明華の口元には彼女独特のサディスティック笑みがあった。

「うるせえなあ、うちの小姑は」 

 嵯峨がぼそりと呟くが、明華が一睨みすると、肩をすぼめて自室へと向かった。

「隊長でも許大佐にはかなわないんですね」 

 残された誠はカウラに向かって微笑みかける。

「そうだな。技術部の面々には逆らわない方がいいぞ。アサルト・モジュール乗りなら当然のことだろ?まあトラブルを愛機に仕込まれて慣らし運転の途中で一緒にスクラップになりたいなら別だが」 

 カウラはそう言って笑いかけた。こんな素敵な笑顔も出来るんだ。誠はその笑みに答えるようにして立ち上がる。

「病人でも無い者が医務室に居るのは感心しないよ。さっさと出てきな!」 

 そんな光景を目の当たりにして居心地の悪さを感じたのか、ドムは苦々しげにそう言った。

「それではドクター失礼します」 

「おうおう!出てけ、出てけ!」 

 二人は医務室を出ると廊下を食堂へ向けて歩き出した。
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