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第4章 サークル活動
修羅場
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遅い昼飯を本部のある豊川市の大通りのうどん屋で済ませた誠達はそのまま本部に着くとアイシャに引きずられて宿直室のある本部の別館へと連行された。
「どう?進んでる?」
別館の一階。本来は休憩室として灰皿や自販機が置かれるスペースには机が並んでいた。机の上はきれいで、すべての作業が最近終わったことを告げていた。それ以上に部屋に入ったとたん人の出す熱で蒸れたような空気が誠達には気になった。
「おう、早かったな」
コンピュータの端末を覗きこみながらポテトチップスを口に放り込んでいる第一小隊の三番機担当の吉田俊平少佐が振り向く。奥の机からはアイシャの部下の運用艦通信担当のサラ・グリファン少尉が疲れ果てたような顔で闖入してきた誠達を眺めていた。
「お土産は?何か甘いものは?」
「無いわよ。急いできたんだから」
アイシャのぶっきらぼうな一言に力尽きたようにサラのショートの赤い髪が原稿の山に崩れ落ちる。
「そう言えばシャム……また逃げたか?」
「失礼ね!」
バン! と机を叩く音。突然サラの隣の席に小学生のようなちんちくりんが顔を上げる。
「大丈夫かよ?」
カウラがそう言ったのは飛び上がって見せた第一小隊のエース、ナンバルゲニア・シャムラード中尉が頭から被り物をして飛び上がったのが原因では無かった。シャムの目が泳いでいた。基本的に部隊の元気を支えていると言うようなシャムが頭をゆらゆらと揺らして薄ら笑いを浮かべている状況は彼女が相当な疲労を蓄積させているとしか見えなかった。
「アイツもさすがに三日徹夜……それはきついだろ」
吉田はそう言いながらモニターの中の原稿に色をつける作業を再開した。
「サイボーグは便利よねえ。このくらい平気なんでしょ?」
その様子を感心したようにアイシャはかなめを見つめる。隣では複雑な表情のかなめが周りを見回している。
「他の連中……どうしたんだ?」
かなめの一言に再びサラが乱れた赤い髪を整えながら起き上がる。
「ああ、パーラとエダは射撃訓練場よ。今月分の射撃訓練の消化弾薬量にかなり足りなかったみたいだから」
パーラ・ラビロフ中尉とエダ・ラクール少尉もアイシャの部下である。当然、アニメーション研究会のアシスタントとして絵師のシャムや誠の作業を手伝うことを強制させられていた。アイシャはサラの言葉に何度かうなづくと、そのまま部屋の置くの端末を使って原画の取り込み作業をしている技術部整備班班長、島田正人准尉のところに向かった。
「ああ、クラウゼ中佐……少佐?あれ?はあー……」
島田は精魂尽き果てて薄ら笑いを浮かべている。目の下の隈が彼がいかに酷使されてきたかと言うことを誠にも知らせてくれている。
入り口で呆然としていた誠もさすがに手を貸そうとそのままシャムの隣の席に向かおうとした。
「がんばったのねえ……あと一息じゃない」
島田が取り込みを終えた原画を見ながら感心したようにアイシャは声を上げた。それにうれしそうに顔を上げるシャムだが彼女にはもう声を上げる余力も残っていなかった。
「あとは……これが出来れば……」
シャムがそう言うとアイシャから見えるように目の前の原稿を指差す。
「がんばれば何とかなるものね。それが終わったらシャムちゃんは寝ていいわよ」
その言葉に力ない笑みを浮かべるとシャムはそのまま置いていたペンタブを握りなおした。
「じゃあがんばれよ。アイシャ!取り合えず報告に行くぞ」
いつの間にかアイシャの後ろに回りこんでいたかなめがアイシャの首根っこをその強靭なサイボーグの右腕でつかまえる。
「わかっているわよ……でもランちゃんは?」
「ああ、今日は非番だな。代わりにタコが来ているぞ」
吉田は作業を続けながらそう言うと空になったポテトチップスの袋を口に持っていく。
クバルカ・ラン中佐。彼女は現在の司法局実働部隊隊長にして副長を兼ねる部隊のナンバー2の位置にある士官だった。見た目はどう見ても目つきの悪いお子様にしか見えない彼女だが、先の遼南内戦の共和軍のエースとして活躍した後、東和に亡命してからは軍大学校を主席で卒業したエリート士官だった。一方のタコと呼ばれる明石清海《あかしきよみ》中佐は遼州の外側を回る惑星胡州出身の学徒兵あがりの苦労人。野球と酒をこよなく愛する大男だった。
「タコが相手なら報告は後で良いや。とりあえず射撃レンジで……」
「おう、ワシのこと呼んだか?」
腰の拳銃に手をやったかなめの後ろに大きな影が見えて誠は振り返った。長身で通る誠よりもさらに大きなそして重量感のある坊主頭の大男が入り口で笑みを浮かべていた。
「明石中佐。なんでこんなところに?」
さすがに気まずいと言うようにかなめの声が沈みがちに響く。
「何ででも何もないやろ。シャムにええ加減にせんかい!って突っ込み入れに来たに決まっとるやなかい」
「ああー……」
振り向きもせずに吉田が奥を指差す。左手を上げて明石に手を振るシャムがいた。
「一応、準待機言うても仕事中なんやで。少しは体調を考えてやなあ」
「去年の秋の菱川重工豊川工場カップ戦でバックネットに激突して肩の筋肉断裂って言う大怪我居ったキャッチャーがいたのは……どのチームかな?」
吉田のあてこすりにサングラス越しの視線が鋭くなるのを見て誠は二人の間に立ちはだかった。明石も吉田の挑発はいつものことなので一回咳払いをすると勤務服のネクタイを直して心を落ち着けた。
「ああ、ワレ等の室内訓練終了の報告な。顔さえ出してくれりゃええねん。取り合えずデータはアイシャが出しとるからな。それにしても嵯峨の大将相手とはいえ……まるでわややんか。ほんまになんか連携とか、うまく行く方法、考えなあかんで」
そう言って出て行く明石にカウラと誠が敬礼する。かなめはタレ目をカウラに向けて笑顔を浮かべている。
「ここで暴れるんじゃねえぞー」
吉田はそれを一瞥した後、再び端末のキーボードを叩き始めた。
「そう言えば……今日は?」
突然アイシャが思い出したように言う様を、明らかに仕上げの作業で煮詰まっているサラがうんざりしたと言う目で見つめる。
「呆けたの?今日は12月4日!吉田さんのところに今シャムちゃんの描いている原稿を今日中に仕上げないとって言いつけて出かけたのはアイシャじゃないの!」
サラはそう言うと赤い髪を掻きあげた後、机の上のドリンク剤に手を伸ばした。アイシャはサラの最後の力を振り絞っての叫びにただあいまいな笑みを浮かべるだけだった。
「どう?進んでる?」
別館の一階。本来は休憩室として灰皿や自販機が置かれるスペースには机が並んでいた。机の上はきれいで、すべての作業が最近終わったことを告げていた。それ以上に部屋に入ったとたん人の出す熱で蒸れたような空気が誠達には気になった。
「おう、早かったな」
コンピュータの端末を覗きこみながらポテトチップスを口に放り込んでいる第一小隊の三番機担当の吉田俊平少佐が振り向く。奥の机からはアイシャの部下の運用艦通信担当のサラ・グリファン少尉が疲れ果てたような顔で闖入してきた誠達を眺めていた。
「お土産は?何か甘いものは?」
「無いわよ。急いできたんだから」
アイシャのぶっきらぼうな一言に力尽きたようにサラのショートの赤い髪が原稿の山に崩れ落ちる。
「そう言えばシャム……また逃げたか?」
「失礼ね!」
バン! と机を叩く音。突然サラの隣の席に小学生のようなちんちくりんが顔を上げる。
「大丈夫かよ?」
カウラがそう言ったのは飛び上がって見せた第一小隊のエース、ナンバルゲニア・シャムラード中尉が頭から被り物をして飛び上がったのが原因では無かった。シャムの目が泳いでいた。基本的に部隊の元気を支えていると言うようなシャムが頭をゆらゆらと揺らして薄ら笑いを浮かべている状況は彼女が相当な疲労を蓄積させているとしか見えなかった。
「アイツもさすがに三日徹夜……それはきついだろ」
吉田はそう言いながらモニターの中の原稿に色をつける作業を再開した。
「サイボーグは便利よねえ。このくらい平気なんでしょ?」
その様子を感心したようにアイシャはかなめを見つめる。隣では複雑な表情のかなめが周りを見回している。
「他の連中……どうしたんだ?」
かなめの一言に再びサラが乱れた赤い髪を整えながら起き上がる。
「ああ、パーラとエダは射撃訓練場よ。今月分の射撃訓練の消化弾薬量にかなり足りなかったみたいだから」
パーラ・ラビロフ中尉とエダ・ラクール少尉もアイシャの部下である。当然、アニメーション研究会のアシスタントとして絵師のシャムや誠の作業を手伝うことを強制させられていた。アイシャはサラの言葉に何度かうなづくと、そのまま部屋の置くの端末を使って原画の取り込み作業をしている技術部整備班班長、島田正人准尉のところに向かった。
「ああ、クラウゼ中佐……少佐?あれ?はあー……」
島田は精魂尽き果てて薄ら笑いを浮かべている。目の下の隈が彼がいかに酷使されてきたかと言うことを誠にも知らせてくれている。
入り口で呆然としていた誠もさすがに手を貸そうとそのままシャムの隣の席に向かおうとした。
「がんばったのねえ……あと一息じゃない」
島田が取り込みを終えた原画を見ながら感心したようにアイシャは声を上げた。それにうれしそうに顔を上げるシャムだが彼女にはもう声を上げる余力も残っていなかった。
「あとは……これが出来れば……」
シャムがそう言うとアイシャから見えるように目の前の原稿を指差す。
「がんばれば何とかなるものね。それが終わったらシャムちゃんは寝ていいわよ」
その言葉に力ない笑みを浮かべるとシャムはそのまま置いていたペンタブを握りなおした。
「じゃあがんばれよ。アイシャ!取り合えず報告に行くぞ」
いつの間にかアイシャの後ろに回りこんでいたかなめがアイシャの首根っこをその強靭なサイボーグの右腕でつかまえる。
「わかっているわよ……でもランちゃんは?」
「ああ、今日は非番だな。代わりにタコが来ているぞ」
吉田は作業を続けながらそう言うと空になったポテトチップスの袋を口に持っていく。
クバルカ・ラン中佐。彼女は現在の司法局実働部隊隊長にして副長を兼ねる部隊のナンバー2の位置にある士官だった。見た目はどう見ても目つきの悪いお子様にしか見えない彼女だが、先の遼南内戦の共和軍のエースとして活躍した後、東和に亡命してからは軍大学校を主席で卒業したエリート士官だった。一方のタコと呼ばれる明石清海《あかしきよみ》中佐は遼州の外側を回る惑星胡州出身の学徒兵あがりの苦労人。野球と酒をこよなく愛する大男だった。
「タコが相手なら報告は後で良いや。とりあえず射撃レンジで……」
「おう、ワシのこと呼んだか?」
腰の拳銃に手をやったかなめの後ろに大きな影が見えて誠は振り返った。長身で通る誠よりもさらに大きなそして重量感のある坊主頭の大男が入り口で笑みを浮かべていた。
「明石中佐。なんでこんなところに?」
さすがに気まずいと言うようにかなめの声が沈みがちに響く。
「何ででも何もないやろ。シャムにええ加減にせんかい!って突っ込み入れに来たに決まっとるやなかい」
「ああー……」
振り向きもせずに吉田が奥を指差す。左手を上げて明石に手を振るシャムがいた。
「一応、準待機言うても仕事中なんやで。少しは体調を考えてやなあ」
「去年の秋の菱川重工豊川工場カップ戦でバックネットに激突して肩の筋肉断裂って言う大怪我居ったキャッチャーがいたのは……どのチームかな?」
吉田のあてこすりにサングラス越しの視線が鋭くなるのを見て誠は二人の間に立ちはだかった。明石も吉田の挑発はいつものことなので一回咳払いをすると勤務服のネクタイを直して心を落ち着けた。
「ああ、ワレ等の室内訓練終了の報告な。顔さえ出してくれりゃええねん。取り合えずデータはアイシャが出しとるからな。それにしても嵯峨の大将相手とはいえ……まるでわややんか。ほんまになんか連携とか、うまく行く方法、考えなあかんで」
そう言って出て行く明石にカウラと誠が敬礼する。かなめはタレ目をカウラに向けて笑顔を浮かべている。
「ここで暴れるんじゃねえぞー」
吉田はそれを一瞥した後、再び端末のキーボードを叩き始めた。
「そう言えば……今日は?」
突然アイシャが思い出したように言う様を、明らかに仕上げの作業で煮詰まっているサラがうんざりしたと言う目で見つめる。
「呆けたの?今日は12月4日!吉田さんのところに今シャムちゃんの描いている原稿を今日中に仕上げないとって言いつけて出かけたのはアイシャじゃないの!」
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