レジェンド・オブ・ダーク 遼州司法局異聞

橋本 直

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第28章 ピースメーカー

ピースメーカー

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「誠ちゃん!元気!」 

 声の主はシャム。誠が倒れたまま玄関の方を見てみると、珍しく玄関に並んで立っているシャムと吉田の姿があった。いつもなら裏口とか二階に直接上がってくるような吉田がなぜ玄関から入ってくるのかと逆に不思議に思っている誠達を眺めながら靴を脱いであがってくる。

「なんだ?蟹のにおいに釣られたか?」 

 誠の腕をねじりながらのかなめの言葉に頬を膨らませたシャムが手に箱を二つ持ったままずかずかとあがりこんでくる。

「ひどいんだ!せっかく良いもの見せてあげようと思ったのに!」 

 珍しくトレードマークの猫耳をつけていないシャムが手にした二つの箱を大事そうに抱えて誠の目の前に座り込んだ。

「なんですか?それ」 

 ようやく緩んだかなめの手から抜け出して誠は何とか起き上がる。彼の前にシャムはうれしそうに少し焼けたようなセピア色に染まった紙箱を二つ突き出して見せる。

「シャム……」 

 そう言って、立ち上がったばかりのかなめは大きくため息をついた。誠はしばらくその意味がわからなかったが、うれしそうに一つの箱を廊下に置いて蓋を開けた瞬間に少しばかりかなめの気持ちがわかった。

 中には黒鉄色のリボルバーが入っていた。しかもウェスタン映画に出てくるような見覚えのある形だった。

「ピーメかよ……」 

 かなめが再び大きくため息をつく。誠はその言葉でシャムが持ってきたのが西部劇などに良く出てくるガンマンの銃、コルト・シングルアクション・アーミー。通称ピースメーカーであることを思い出した。

「珍しいな。撃てるのか?」 

 カウラが珍しいものを見るように紙箱の中の銃を眺めている。そのピカピカの青黒い姿から見て19世紀の本物のピースメーカーでは無いことは誠にも分かった。

「えーとー」 

「それは第六惑星3番衛星系連邦のルーラ・ガンファクトリーの『SAA・G1』シリーズのシェリブズモデルだ」 

 かなめはそう言うと全員の視線が自分に向いていることに気づいた。

「どうした?」 

「そう言う言い方。誠君がアニメの説明しているときみたいよ」 

 リアナの一言。そして打ちひしがれたようにかなめは凍りつく。

「まあ、それはいいとして……」 

 カウラは相棒をフォローするようにシャムの差し出した箱から拳銃を取り出す。誠はそれを見ながら映画でガンマンが構えていた銃との違いを思い出していた。映画のガンマンの手の中の銃に比べると明らかに銃身が切り詰められていて短い。そしてグリップが丸っこくなりどこか愛嬌すら感じさせる。

「ハンマーヘッドは……なんだ?これは」 

 薬莢の雷管を叩いて激発させるハンマーの突起を見て、カウラが怪訝な表情を浮かべた。誠も覗き込むと、その部分が別部品で出来ているのが見て取れる。

「ああ、それがこの銃の売りの安全装置だ。ハンマーの後ろにボタンがあるだろ?それでハンマーヘッドをフリーにすると引き金を引いてハンマーが落ちても弾は出ない。そこのボタンを押してヘッドを固定した状態でハンマーを落とすと弾が出る」 

 もう一つの箱を開けたかなめが実際にその部品を弄って機能を示して見せる。

「へー……そうなのか?」 

 かなめの解説を聞きながらカウラはしばらくシャムの新しい銃の安全装置を眺めていた。

「でもこれってこれまでのM500の弾より安いんですか?弾」 

 誠の言葉にかなめはにやりと笑ってうなづく。

「まあカウボーイシューティングマニアは今でも結構いるからな。こいつは仕様は45ロングコルト弾だからそれなりに値段は安いぞ」 

「はあ……」 

 銃を弄っているうちに次第にうれしそうな表情に変わるかなめの表情にただ誠はうなづくばかりだった。

「でも隊長のコレクションなんだろ?価値は……」 

「カウラよう。叔父貴と二年も付き合ってわからねえのか?ゲテモノ食いが叔父貴の本分。こいつは二束三文だな。希少価値なんて0に近い。まあ数百年後はどうか知らねえけど」 

 そう言いながらかなめは銃のハンマーの劇発部分をつつく。安全装置の関係でそれはぴこぴこと引っ込んだり出っ張ったりを繰り返す。

「この仕組みがね……。アイディアとしては面白かったんだが、ピースメーカーのレプリカにしては、ハンマーの後ろにつけられたここの安全装置が目障りだったんだ。『ハンマーノーズをそのままに規制の多い国でも販売できるピースメーカー』って売りだったんだが、こんな後付の安全装置をつけるならいらねえって言うのが市場の声でね。メーカーは二年で倒産というわけだ」 

 そう言うとかなめは器用にくるくるとガンマンのように手の中のピースメーカーを回して見せる。

「ふーん。そうなんだ……」 

 ようやく自分の銃のことが分かって感心したようにシャムはかなめを見上げる。そしてカウラから受け取った銃をまじまじと見つめる。

「そう言えば二挺あるってことは後は誰が使うんだ?吉田か?」 

「俺は御免だな。シングルアクションのリボルバー持って鉄火場に立つほど趣味人じゃないよ」 

 カウラの指摘に吉田は即答する。そして吉田は慣れた調子でハンマーを少しだけ起こしてシリンダーの後ろの部品を動かす。そこには誠にも弾が入る穴だとわかる部分が見えている。

「ここから装弾するんだ。しかも薬莢を取り出すのは……一般的なタイプならバレルの横に排莢用の棒が付いているんだが、これみたいなシェリフズタイプには無いからな。前の部分から棒か何かで押し出さないと出てこない」 

 吉田の説明でなぜこの銃が二挺セットなのか誠も理解した。要するに撃ち合いのさなかに弾を込めるようなことはとても出来る銃じゃない。解決策はもう一丁を用意して撃ち終わったらそちらを使う。

「吉田君。知ってたら教えてあげないと」 

 リアナの言うのももっともだった。うなづく誠だが、当のシャムはすっかり気に入ったと言うように銃を手に構える練習を始めている。

「まあ本人が気に入ってるんだからいいんじゃねえか?それより蟹だよ」 

 そう言うとそのままかなめは道場へ向かう廊下に向かう。誠はカウラが手を洗っているのを見つけるとそのまま洗面台に向かった。

『はじめちゃうからね!』 

『いいぞ!アタシも行くから待ってろ!』 

 廊下で響くサラとかなめの叫び声。

「蟹があるの?」 

 箱に銃を戻しながら手を拭いているカウラにシャムが尋ねた。

「そうだ。玄関に箱が有っただろ?」 

 そう言うとシャムの表情が一気に明るくなった。

 誠が手を洗い、白いタオルでそれを拭う。

「冗談抜きで西園寺はすでに始めているだろうからな。こういう時のあいつは気が早すぎる」 

 笑みを浮かべているカウラについて道場へ向かう廊下を急ぎ足で進む。

「かなめちゃん!もう蟹を入れちゃったの?」 

 リアナの声が響く。道場にはテーブルが五つほど並んでいた。上にはそれぞれ土鍋とその隣に山とつまれた蟹。かなめの占拠したテーブルの鍋から湯気が上がり、その中にかなめが蟹を放り込んでいる。

「まあすぐに茹で上がるわけじゃないからいいですよ」 

 リアナの声にこたえてカウラは微笑む。

「そうそう!ちゃんと火が通らねえとな」 

 そう言って上機嫌なかなめの手にはすでに芋焼酎が握られていた。そのラベルを見て誠は母に近づいて小声でささやく。

「母さん、それ親父の取って置きの……」 

 おどおどとした誠に薫は笑顔を浮かべている。

「あら、大丈夫よ。代わりに麦焼酎のおいしいのを頂いたから」 

 そんな薫を見て頷きながらかなめは次々と蟹を鍋に入れる。

「そんなに入れても仕方ないだろ?それより野菜を入れろ」 

 自然とかなめの座っているテーブルに着いたカウラは対抗するように白菜を鍋に投入する。

「だってアタシは野菜食べないし……」 

 かなめはそう言うと蟹を鍋に放り込んでいた手を休めてグラスに焼酎を注ぎ始める。

「あ!待っててくれなかったの?」 

 母屋から入ってきたシャムの一言。にんまりと笑ってかなめがシャムを見上げる。

「オメエは飛び入りだろ?遠慮しろよ」 

 そう言いながらかなめは乾杯を待っている。それを見てリアナは自分のテーブルにシャムを招くと周りを見回した。

「カウラさん……」 

 そう言いながら後ろのケースから冷えたビールの瓶を手にして誠はカウラに向ける。

「今日ぐらいはいいか……」 

「明日も飲むくせに何言ってんだか」 

 カウラをいつものようにかなめが茶化す。それを無視するようにグラスを手にしたカウラは誠の注ぐビールをうれしそうな顔で見つめていた。

「えーとそれじゃあ失礼するわね」 

 咳払いをしながらリアナが立ち上がる。それぞれのテーブルにはお互い女同士でグラスにビールを注ぎあっていた運行部の女性士官達が手にグラスを掲げている。

「まあいろいろと忙しいみたいで今年は部隊での忘年会は出来そうにないから」 

「あのーお姉さん?趣旨が違うんだけど」 

 思わず突っ込むかなめに思い出したようにリアナはどてらの袖を打つ。

「えーとじゃあカウラちゃんの誕生日が明日と言うことで!おめでとう!」 

『おめでとうございます!』 

 黄色い歓声が沸きあがる。誠と吉田は少し肩身が狭いと言うようにグラスを合わせて乾杯した。
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