レジェンド・オブ・ダーク 遼州司法局異聞

橋本 直

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第22章 進行

探索

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「ついに死人か……」 

 突然の着信があった通信端末を覗き込んでいたかなめの顔が緊張する。

 司法局実働部隊豊川基地。そのコンピュータルームに着いた誠達はそのニュースに眉をひそめた。

「いつかは出ると思っていたけど……早かったわね」 

「クラウゼ、そういう問題じゃないだろ。それじゃあ……西園寺。そのまま普通に東都警察警備部機動隊第三中隊にアクセスしろ」 

 アイシャの緩んだ笑いもカウラの緊張した言葉に吹き飛んだ。ラーナと誠が見守る中、かなめはそのまま端末の前に腰掛けると首筋のジャックにコードを挿して端末を起動させる。

「普通にそのままログインすればいいんだな?」 

「安心しろ、エルマも多少はサポートしてくれるはずだ」 

 そんなカウラの言葉にかなめはにやけた笑みを浮かべる。その目の前の端末がとても追えない速度で切り替わり始める。

「機動隊……第三中隊っと」 

 かなめのつぶやきと同時に飾り気の無い画面が映し出される。青い地に数字と枠。この画面について知識のない人間の入力を拒むかのような画面だが、かなめにとっては慣れたものだった。

「そのまま右下の空欄に……」 

「8954356か?アタシでもパスワードが拾えるんだからかなり楽勝なんだな」 

「そう言いながら枝は残さないでよ。見つかったらそれこそ私達全員諭旨解雇よ」 

 アイシャに茶化されたのも気にせずかなめは本庁の資料室にアクセスした。

「法術系の……アストラルゲージ……とりあえず配置でもみてみるか?」

 かなめはそう言うと相変わらずの無愛想な画面にキーワードを入力していく。画面が急に地図と言う個性を持つとようやく誠も安心できた。 

「ずいぶんと数だけはあるのね……半年でこれだけ配置するなんて準備がいいこと」 

 東都一円を示した地図には満遍なく設置されたアストラルゲージの位置が示しだされた。それはほとんど一つの町内に一個と言う数のものだった。確かに準備が良すぎるが誠達は警察もまた法術の存在を隠蔽してきた組織の一つだと思って納得していた。

「これだけ設置して犯人が捕まらないのか?職務怠慢だろ、東都警察は」 

「法術適正がある人が通ればある程度反応しますから。同じパターンのすり合わせなどの技術は同盟司法局も東都警察には教えてないっすから……」 

「縦割り行政の弊害って奴か?少しはサービスしてやれよ」 

 ラーナの言葉にかなめは苦笑いを浮かべる。彼女はそのままこれまで演操術による法術暴走が起きた場所近くのアストラルゲージを指定していく。

「とりあえずパターンが読めれば何とかなるか?」 

 素早くすべての指定を終えるとかなめはパターン検索の指示を出した

「かなりノイズがあるんじゃないのか?」 

 ラーナもまた手元の司法局のデータベースにつながる端末で照合を行なっていた。証拠になるのは昨日の殺人と変わった法術暴走事件の現場で取れたアストラルパターンデータ。そこで採取されたアストラルパターンデータはすでに法術を乗っ取られた掃除のおばさんの空間干渉能力発動の時に発生した波動を取り去ったものがすでに採取済みだった。

 かなめの操作していた画面にそれぞれの事件当時のアストラルパターンデータが表示される。まるで共通点のないグラフの波にかなめは顔をしかめた。

「こりゃ……共通項を見つけるのはかなりの手間だぞ」

 ラーナももう少しそれぞれが似た波形をしていると思っていたようで難しい表情で再び自分の端末に視線を落とす。

「神前曹長やナンバルゲニア中尉クラスならすぐに分かりますが……」

 誠がラーナの携帯端末を覗き込むと誠やシャムの顔と棒グラフが並んでいる画面が移っているのが見えた。 

「急ぐことは無いだろ。慎重に進めてくれ」 

 カウラはそう言うとそのままドアに向かう。

「カウラちゃん?」 

「ああ、コーヒーでも入れてこようと思ってな」 

 その言葉にアイシャは目を点にする。だが次の瞬間には満面の笑みといつもの流し目が顔に浮かんでいた。

「進歩したのね、カウラちゃん」 

「馬鹿にしてるのか?」 

 捨て台詞を置いてカウラが出て行く。かなめとラーナはそれぞれデータの照合作業を続けていた。沈黙。かなめは絶え間なくその中でキーボードを叩き、首筋のジャックに挿したデータ出力端子から情報を送信している。

「やっぱりノイズが多すぎるな……本当に法術師の発生割合は2パーセントなのか?」 

 二度目のフィルターをかけたアストラルパターンデータだが、まだそれぞれはかなりの違う波形をしているばかりだった。

「一般人でも感情の起伏によってアストラルパターンの異常は起こりますから。どうしてもそういうものまで拾っちゃうんですよ」 

 かなめの泣き言に付き合うラーナ。誠とアイシャはただ次々と流れていくアストラルゲージを眺めているだけだった。

「でか……」 

 突然のかなめの言葉にラーナの手が止まる。そしてすぐにかなめが検索した四件目の放火事件の現場のパターンに目をやった。考えられる法術師のアストラルパターンを除去したのにもかかわらず巨大な波がそこに残されていたのが見える。

「何ですか?これは……でも大きすぎますよ……嵯峨大佐でもいたんですかね」

「アタシに聞くなよ」 

 誠も目にしたパターン。それはアストラルゲージが完全に振り切れるほどの反応を見せていた。

「それは別件でしょ。次に行って頂戴よ」 

 投げやりにそう言ったアイシャにかなめはにらむような表情で見つめ返した。

「いいのか?」 

「良いも悪いも私はそのバカでかい力を持った法術適正者には関心が無いもの」 

「関心が無いって……」 

「止めておけ」 

 いつの間にか戻ってきていたカウラがコーヒーの入ったカップを配りながらかなめをにらみつけた。マイペースのアイシャはそれを受け取るといかにもおいしいというように目を閉じて黙り込む。二人の間に立ってカウラは苦笑いで隣で作業中のラーナに目をやった。

「クラウゼ中佐の意見の方に理があるっすね。私達の任務はすべての法術適正者を監視下に置くことじゃないっすから」 

「そ……そうだな」 

 かなめの視線が誠に向かう。誠はただ頭を掻きながら作業を続けるラーナを見つめていた。

「もう少し夾雑物を抜けば見えてくると思うんすけど……演操術系のパターンは特徴的っすから……」 

 それだけ言うとそのまま自分の作業を続けるラーナ。かなめも仕方なくアストラルゲージを眺め始めた。

「共通項って……どうやったら分かるの?」 

「β波が特徴的っすね。一般人の約一万倍の強さで出るっすから。パイロキネシストや領域把握系の法術ではほとんど通常の人間との差異は見られませんが空間干渉系の法術発動時にはそれなりに出るっす。ですから今回のように空間干渉系の法術の事件が他にも起こっていればなかなか共通項を見つけ出すのは大変かもしれませんが、そういう話もないっすから」

 ラーナはそう言う間にも自分の手元の端末を弄っている。誠は黙ってかなめの目の前の端末の画面に映るグラフの変化を見つめていた。 

「ふうん……それって法術発動時以外にも出るの?」 

「他の法術と違って意識しないでもある程度発してるっすから……出た!」 

 ラーナの叫びに視線が彼女に集中した。

「港南区の放火未遂事件。ちゃんと出てるっすよ」 

 そう言うとラーナは画面を事件直後の映像に切り替える。ごみの山が半分ほど焦げた状態の現場と結局は不起訴になった容疑者の顔写真が映し出される。明らかに悪人と言うような表情の頬に傷のある男。思わず誠は苦笑いを浮かべた。

「おい、こいつが犯人じゃねえのか?」 

「違うっす。意識をトレースした結果この人物が放火をしたという意識の残滓はなかったっす。それに彼にはこの場所で放火をする理由がないっす……」 

「意識トレースか。実用になっているんだな」 

 法術の研究の急激過ぎる発展で得ることができた脳反応をトレースしての意識を読む技術。おかげで警察の取調べの手間はかなり少なくなったと誠も聞いていた。

「で……一箇所じゃ決まらないだろ?続けんぞ」 

 かなめは感心することも無くそのまま自分の端末に目を移して作業を開始した。
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