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第7章 大公の旅
キャビンアテンダント
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豊川駅前からリムジンバスを利用して湾岸地区の空港に到着した嵯峨はいつも通り甲武行きの定期便のファーストクラスの個室に乗り込んですぐに熟睡した。
亜空間から実空間に出る時特有の揺れが起きるまで嵯峨は熟睡を続けた。
『ただいま超空間飛行を終了いたしました。これより通常飛行にて甲武鏡都に着陸いたします』
シャトルにアナウンスが響くのを聞きながら嵯峨はとりあえず伸びをして辺りを見渡した。
東都、甲武鏡都間の直行シャトルのファーストクラスの個室。そこに乗り込むところから着流し姿の嵯峨は好奇の的だった。嵯峨が甲武四大公の一つ嵯峨家の当主だと知っていれば、すれ違う客達も納得をしただろうが、そんなことに気づく客はいなかった。ただその腰に差した日本刀を見てなぜ乗務員がこれを取り上げないのかと不安がっている様子を見て嵯峨は面白がっていた。
シャトルががくんと大きく揺れた後、水平飛行に入ったようで安定した状態になった時、客室の扉が開いてキャビンアテンダントが姿を現した。
「大公様。あとに十分ほどで四条畷空港に到着いたします」
冷たい感じのキャビンアテンダントの声に嵯峨は巻いていたベルトを外した。
「すまないねえ……俺みたいな面倒な客を担当するとは。まあ運がなかったとあきらめてちょうだいよ」
嵯峨はそう言って冷たい笑みを浮かべているキャビンアテンダントにほほえみを返した。
「いえいえ、四大公家に連なる方を担当させていただいて本当にありがたい限りです」
キャビンアテンダントは嘘のつけないタイプのようで言葉とは裏腹に嵯峨からは彼女の笑みがこわばっていることがわかった。
「そうかい。まあ俺も本当はこんな馬鹿高いファーストクラスの個室なんて性に合わないんだが……俺ってヘビースモーカーだからさ。隣の客ににおいが移ったらまずいだろ?」
嵯峨の変な気の回しようを知るとキャビンアテンダントは部屋を見回す。
「安心しなって。そんな気の使える俺だぜ。タバコは吸っちゃいないよ。ガムと水で何とかこうして我慢しているんだ」
睡眠時間を除けば久しくこれほどタバコを我慢したことが無かったので、嵯峨はどことなく苛立っているようにそう吐き捨てた。
「大変申し訳ありません。これも一応規則なので」
「まあ司法の職に身を置く俺だ。法や規則は守るよ。それにしても……相変わらず侯爵以上はこれをノーチェックで持ち込めるのな」
嵯峨はそう言って足下に置いていた日本刀を手にした。朱塗りの鞘にいかつい金色の鍔が目立つ。
「それも規則ですので」
そう言ってキャビンアテンダントは部屋を出て行った。
「いつものことだが、甲武航空のスッチーは堅いねえ……まあ今に始まったことじゃねえがな……きっと没落士族のご令嬢かなんかだろうが、向いてねえよ、客商売には」
一人、呆れたように嵯峨はつぶやくと静かに日本刀、『同田貫・正国』を握りしめる。嵯峨の目はそれを捉えると一瞬だけ鈍く光を放った。
「さて、今回はどんなお客さんを斬ることになるかね……斬りたくねえんだ、本当は。でもなあ……無事じゃあ済みそうにねえな、今回の里帰りも」
嵯峨は予言じみた言葉を吐くと唯一の手荷物の風呂敷包に手を伸ばし、そこから最後のガムを取り出して口に放り込んだ。
亜空間から実空間に出る時特有の揺れが起きるまで嵯峨は熟睡を続けた。
『ただいま超空間飛行を終了いたしました。これより通常飛行にて甲武鏡都に着陸いたします』
シャトルにアナウンスが響くのを聞きながら嵯峨はとりあえず伸びをして辺りを見渡した。
東都、甲武鏡都間の直行シャトルのファーストクラスの個室。そこに乗り込むところから着流し姿の嵯峨は好奇の的だった。嵯峨が甲武四大公の一つ嵯峨家の当主だと知っていれば、すれ違う客達も納得をしただろうが、そんなことに気づく客はいなかった。ただその腰に差した日本刀を見てなぜ乗務員がこれを取り上げないのかと不安がっている様子を見て嵯峨は面白がっていた。
シャトルががくんと大きく揺れた後、水平飛行に入ったようで安定した状態になった時、客室の扉が開いてキャビンアテンダントが姿を現した。
「大公様。あとに十分ほどで四条畷空港に到着いたします」
冷たい感じのキャビンアテンダントの声に嵯峨は巻いていたベルトを外した。
「すまないねえ……俺みたいな面倒な客を担当するとは。まあ運がなかったとあきらめてちょうだいよ」
嵯峨はそう言って冷たい笑みを浮かべているキャビンアテンダントにほほえみを返した。
「いえいえ、四大公家に連なる方を担当させていただいて本当にありがたい限りです」
キャビンアテンダントは嘘のつけないタイプのようで言葉とは裏腹に嵯峨からは彼女の笑みがこわばっていることがわかった。
「そうかい。まあ俺も本当はこんな馬鹿高いファーストクラスの個室なんて性に合わないんだが……俺ってヘビースモーカーだからさ。隣の客ににおいが移ったらまずいだろ?」
嵯峨の変な気の回しようを知るとキャビンアテンダントは部屋を見回す。
「安心しなって。そんな気の使える俺だぜ。タバコは吸っちゃいないよ。ガムと水で何とかこうして我慢しているんだ」
睡眠時間を除けば久しくこれほどタバコを我慢したことが無かったので、嵯峨はどことなく苛立っているようにそう吐き捨てた。
「大変申し訳ありません。これも一応規則なので」
「まあ司法の職に身を置く俺だ。法や規則は守るよ。それにしても……相変わらず侯爵以上はこれをノーチェックで持ち込めるのな」
嵯峨はそう言って足下に置いていた日本刀を手にした。朱塗りの鞘にいかつい金色の鍔が目立つ。
「それも規則ですので」
そう言ってキャビンアテンダントは部屋を出て行った。
「いつものことだが、甲武航空のスッチーは堅いねえ……まあ今に始まったことじゃねえがな……きっと没落士族のご令嬢かなんかだろうが、向いてねえよ、客商売には」
一人、呆れたように嵯峨はつぶやくと静かに日本刀、『同田貫・正国』を握りしめる。嵯峨の目はそれを捉えると一瞬だけ鈍く光を放った。
「さて、今回はどんなお客さんを斬ることになるかね……斬りたくねえんだ、本当は。でもなあ……無事じゃあ済みそうにねえな、今回の里帰りも」
嵯峨は予言じみた言葉を吐くと唯一の手荷物の風呂敷包に手を伸ばし、そこから最後のガムを取り出して口に放り込んだ。
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