レジェンド・オブ・ダーク 遼州司法局異聞

橋本 直

文字の大きさ
1,205 / 1,557
第7章 大公の旅

キャビンアテンダント

しおりを挟む
 豊川駅前からリムジンバスを利用して湾岸地区の空港に到着した嵯峨はいつも通り甲武行きの定期便のファーストクラスの個室に乗り込んですぐに熟睡した。

 亜空間から実空間に出る時特有の揺れが起きるまで嵯峨は熟睡を続けた。

『ただいま超空間飛行を終了いたしました。これより通常飛行にて甲武鏡都に着陸いたします』

 シャトルにアナウンスが響くのを聞きながら嵯峨はとりあえず伸びをして辺りを見渡した。

 東都、甲武鏡都間の直行シャトルのファーストクラスの個室。そこに乗り込むところから着流し姿の嵯峨は好奇の的だった。嵯峨が甲武四大公の一つ嵯峨家の当主だと知っていれば、すれ違う客達も納得をしただろうが、そんなことに気づく客はいなかった。ただその腰に差した日本刀を見てなぜ乗務員がこれを取り上げないのかと不安がっている様子を見て嵯峨は面白がっていた。

 シャトルががくんと大きく揺れた後、水平飛行に入ったようで安定した状態になった時、客室の扉が開いてキャビンアテンダントが姿を現した。

「大公様。あとに十分ほどで四条畷空港に到着いたします」

 冷たい感じのキャビンアテンダントの声に嵯峨は巻いていたベルトを外した。

「すまないねえ……俺みたいな面倒な客を担当するとは。まあ運がなかったとあきらめてちょうだいよ」

 嵯峨はそう言って冷たい笑みを浮かべているキャビンアテンダントにほほえみを返した。

「いえいえ、四大公家に連なる方を担当させていただいて本当にありがたい限りです」

 キャビンアテンダントは嘘のつけないタイプのようで言葉とは裏腹に嵯峨からは彼女の笑みがこわばっていることがわかった。

「そうかい。まあ俺も本当はこんな馬鹿高いファーストクラスの個室なんて性に合わないんだが……俺ってヘビースモーカーだからさ。隣の客ににおいが移ったらまずいだろ?」

 嵯峨の変な気の回しようを知るとキャビンアテンダントは部屋を見回す。

「安心しなって。そんな気の使える俺だぜ。タバコは吸っちゃいないよ。ガムと水で何とかこうして我慢しているんだ」

 睡眠時間を除けば久しくこれほどタバコを我慢したことが無かったので、嵯峨はどことなく苛立っているようにそう吐き捨てた。

「大変申し訳ありません。これも一応規則なので」

「まあ司法の職に身を置く俺だ。法や規則は守るよ。それにしても……相変わらず侯爵以上はこれをノーチェックで持ち込めるのな」

 嵯峨はそう言って足下に置いていた日本刀を手にした。朱塗りの鞘にいかつい金色の鍔が目立つ。

「それも規則ですので」

 そう言ってキャビンアテンダントは部屋を出て行った。

「いつものことだが、甲武航空のスッチーは堅いねえ……まあ今に始まったことじゃねえがな……きっと没落士族のご令嬢かなんかだろうが、向いてねえよ、客商売には」

 一人、呆れたように嵯峨はつぶやくと静かに日本刀、『同田貫・正国』を握りしめる。嵯峨の目はそれを捉えると一瞬だけ鈍く光を放った。

「さて、今回はどんなお客さんを斬ることになるかね……斬りたくねえんだ、本当は。でもなあ……無事じゃあ済みそうにねえな、今回の里帰りも」

 嵯峨は予言じみた言葉を吐くと唯一の手荷物の風呂敷包に手を伸ばし、そこから最後のガムを取り出して口に放り込んだ。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

完結 シシルナ島物語 少年薬師ノルド/ 荷運び人ノルド 蠱惑の魔剣

織部
ファンタジー
 ノルドは、古き風の島、正式名称シシルナ・アエリア・エルダで育った。母セラと二人きりで暮らし。  背は低く猫背で、隻眼で、両手は動くものの、左腕は上がらず、左足もほとんど動かない、生まれつき障害を抱えていた。  母セラもまた、頭に毒薬を浴びたような痣がある。彼女はスカーフで頭を覆い、人目を避けてひっそりと暮らしていた。  セラ親子がシシルナ島に渡ってきたのは、ノルドがわずか2歳の時だった。  彼の中で最も古い記憶。船のデッキで、母セラに抱かれながら、この新たな島がゆっくりと近づいてくるのを見つめた瞬間だ。  セラの腕の中で、ぽつりと一言、彼がつぶやく。 「セラ、ウミ」 「ええ、そうよ。海」 ノルドの成長譚と冒険譚の物語が開幕します! カクヨム様 小説家になろう様でも掲載しております。

戦国鍛冶屋のスローライフ!?

山田村
ファンタジー
延徳元年――織田信長が生まれる45年前。 神様の手違いで、俺は鹿島の佐田村、鍛冶屋の矢五郎の次男として転生した。 生まれた時から、鍛冶の神・天目一箇神の手を授かっていたらしい。 直道、6歳。 近くの道場で、剣友となる朝孝(後の塚原卜伝)と出会う。 その後、小田原へ。 北条家をはじめ、いろんな人と知り合い、 たくさんのものを作った。 仕事? したくない。 でも、趣味と食欲のためなら、 人生、悪くない。

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

処理中です...