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第13章 人斬り
殺人者
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着ていた古ぼけたトレンチコートに付いた血痕を確認しながら細身の骸骨のような顔をした男が小型自動車の後部座席に乗り込んだ。その緩慢とした動きを苦々しく思うように運転席のサングラスの男が見つめていた。
「ありゃあ揉めそうな感じですねえ……でも……斬ることは無いんじゃないですか?」
革ジャンの袖を触りながらオープンカーの運転席のサングラスの男。北川公平は後ろの席のコートの男に声をかけた。
「気に入らない奴を斬っただけだ。俺は人が斬れるからあの御仁についているだけだからな……俺もお前も法術師だ……それを売り買いする……許せるか?」
不敵な笑みを浮かべるのは『人斬り』の異名を持つ男、桐野孫四郎だった。法術師の能力の強制発動の実験に材料を提供していた人身売買組織の幹部の暗殺。地球人に憎悪を燃やして活動する二人にとってそれは至極当然な行為だった。これまで実験に協力する姿勢を見せていたのは二人が所属する組織が出資者への配当を滞らせている現状を打開するための苦肉の策に過ぎなかった。地球人への報復。それだけを目的としてつながっているテロ組織を再編成して結成された彼等の組織は拡張と共に安定した財源の確保が問題となった。
そこに声をかけたのが地球人至上主義を掲げるゲルパルトの元秘密警察の幹部であるルドルフ・カーンだった。
お互いまったく正反対の主張を繰り広げる非公然組織だが、当面の課題として北川達は資金が、カーンの手には優秀な手駒が不足していた。そこで両者は手を結び、法術研究の地下組織を支援することで一致し動き出した。そしてその為にシンパの同盟機構の幹部まで動員して彼らの手駒を三つ調達し、その試験も兼ねて覚醒に失敗する公算の高い法術師の少女を同盟機構の入るビルの前で暴走させ三人の調整した法術素体が攻撃するデモンストレーションを行った。
「でもあのチンピラ。どこまで知っているんでしょうねえ、我々のことを」
そう言うと北川はエンジンをかける。野次馬達を徐行してやり過ごすと北川はそのまま廃墟に近い東都租界を車で流す。
「奴は俺の顔を……知らなかった。俺達とは連絡を取る手段は持っていなかったからな。もしかしたらゲルパルトのネオナチ連中と商売をしていたこともあるかもしれないが……今となってはそんなことはどうでもいいことだ」
桐野の言葉にハンドルを握る北川もうなづく。元々敵が同じだからと言うことで一時的に手を結んでいるだけと言うカーンの組織を守ってやるほど二人の心は広くは無い。恐らくカーン達も同じ考えだろう。そう思いながら北川は信号が変わって停車したごみ収集車の後ろにつける。
「しかし……ひどい町ですね」
北川は久しぶりに心のそこから出た言葉を後ろの桐野に投げた。彼自身は東都の生まれで大学に在学中に地球人排斥運動に参加して表の世界での生活を捨てた。そして彼の運動の始まりもこの貧弱な建物の並ぶ租界だった。
「そうか?俺には天国に見えるがな」
そう言って桐野は笑う。信号が変わり走り出すごみ収集車に続いて車を走らせる。誰の顔も汚れと垢にすすけて生気という物を感じさせるものが一つとしてない街。そこがここ東都租界だった。
「ここが天国なら世界中天国だらけですね」
「そう思ったほうが幸せだろ?」
北川は冗談か本気か分かりかねる不敵な笑みを浮かべる殺人狂をバックミラー越しに見ていた。自分が斬られるかもしれないということは何度と無く経験してきた。桐野にとって人を斬るのが挨拶程度のことだというのはこの半年あまりの付き合いで良く分かっていた。
「じゃあ今回の取引は終了ですね。つまらない実験をした報い。どうなるか楽しみですねえ」
「そうだな。後は『茶坊主』嵯峨惟基の手柄になるか、遼の姫君が先にたどり着くか。俺達は高みの見物を気取ればいいだけの話だ……同盟厚生局はいい噛ませ犬だったというだけの話だ」
そう言って桐野は目をつぶり沈黙する。その満足げな顔につばを吐きかけて自分の車から叩き落したい衝動を我慢しながら北川は同盟軍の装甲車両の脇を抜けて東都の街へと車を走らせた。
「ありゃあ揉めそうな感じですねえ……でも……斬ることは無いんじゃないですか?」
革ジャンの袖を触りながらオープンカーの運転席のサングラスの男。北川公平は後ろの席のコートの男に声をかけた。
「気に入らない奴を斬っただけだ。俺は人が斬れるからあの御仁についているだけだからな……俺もお前も法術師だ……それを売り買いする……許せるか?」
不敵な笑みを浮かべるのは『人斬り』の異名を持つ男、桐野孫四郎だった。法術師の能力の強制発動の実験に材料を提供していた人身売買組織の幹部の暗殺。地球人に憎悪を燃やして活動する二人にとってそれは至極当然な行為だった。これまで実験に協力する姿勢を見せていたのは二人が所属する組織が出資者への配当を滞らせている現状を打開するための苦肉の策に過ぎなかった。地球人への報復。それだけを目的としてつながっているテロ組織を再編成して結成された彼等の組織は拡張と共に安定した財源の確保が問題となった。
そこに声をかけたのが地球人至上主義を掲げるゲルパルトの元秘密警察の幹部であるルドルフ・カーンだった。
お互いまったく正反対の主張を繰り広げる非公然組織だが、当面の課題として北川達は資金が、カーンの手には優秀な手駒が不足していた。そこで両者は手を結び、法術研究の地下組織を支援することで一致し動き出した。そしてその為にシンパの同盟機構の幹部まで動員して彼らの手駒を三つ調達し、その試験も兼ねて覚醒に失敗する公算の高い法術師の少女を同盟機構の入るビルの前で暴走させ三人の調整した法術素体が攻撃するデモンストレーションを行った。
「でもあのチンピラ。どこまで知っているんでしょうねえ、我々のことを」
そう言うと北川はエンジンをかける。野次馬達を徐行してやり過ごすと北川はそのまま廃墟に近い東都租界を車で流す。
「奴は俺の顔を……知らなかった。俺達とは連絡を取る手段は持っていなかったからな。もしかしたらゲルパルトのネオナチ連中と商売をしていたこともあるかもしれないが……今となってはそんなことはどうでもいいことだ」
桐野の言葉にハンドルを握る北川もうなづく。元々敵が同じだからと言うことで一時的に手を結んでいるだけと言うカーンの組織を守ってやるほど二人の心は広くは無い。恐らくカーン達も同じ考えだろう。そう思いながら北川は信号が変わって停車したごみ収集車の後ろにつける。
「しかし……ひどい町ですね」
北川は久しぶりに心のそこから出た言葉を後ろの桐野に投げた。彼自身は東都の生まれで大学に在学中に地球人排斥運動に参加して表の世界での生活を捨てた。そして彼の運動の始まりもこの貧弱な建物の並ぶ租界だった。
「そうか?俺には天国に見えるがな」
そう言って桐野は笑う。信号が変わり走り出すごみ収集車に続いて車を走らせる。誰の顔も汚れと垢にすすけて生気という物を感じさせるものが一つとしてない街。そこがここ東都租界だった。
「ここが天国なら世界中天国だらけですね」
「そう思ったほうが幸せだろ?」
北川は冗談か本気か分かりかねる不敵な笑みを浮かべる殺人狂をバックミラー越しに見ていた。自分が斬られるかもしれないということは何度と無く経験してきた。桐野にとって人を斬るのが挨拶程度のことだというのはこの半年あまりの付き合いで良く分かっていた。
「じゃあ今回の取引は終了ですね。つまらない実験をした報い。どうなるか楽しみですねえ」
「そうだな。後は『茶坊主』嵯峨惟基の手柄になるか、遼の姫君が先にたどり着くか。俺達は高みの見物を気取ればいいだけの話だ……同盟厚生局はいい噛ませ犬だったというだけの話だ」
そう言って桐野は目をつぶり沈黙する。その満足げな顔につばを吐きかけて自分の車から叩き落したい衝動を我慢しながら北川は同盟軍の装甲車両の脇を抜けて東都の街へと車を走らせた。
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