遼州戦記 司法局実働部隊の戦い 別名『特殊な部隊』の初陣

橋本 直

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第十一章 『特殊な部隊』の『特殊部隊』的性格

第33話 囮にはするが、見捨てない

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 都心の昼下がりは、どこかせわしない。高層ビルの窓面が陽光を跳ね返し、外套をはためかせる人波が銀座の歩道を埋める。広告バナーのデジタル表示は色鮮やかで、遠くには高速のスリップストリームに乗る車の影がちらつく。そんな雑踏の真ん中で、嵯峨は一服の煙をくゆらせていた。彼の腰に下げられた朱鞘の日本刀なら警官が一般的に銃ではなく帯剣しているのが普通である甲武国ならいざ知らず、二十世紀末日本を再現した国である東和のこの文化の中心とも呼べる街では異物のように見えたが、本人にとってはいつもの『仕事道具』であり、違和感は微塵もない。嵯峨の視線は、群衆の輪郭の中に沈むように落ちていく。

 その異物感こそが、嵯峨にとっては心地よかった。
 
 明らかに嫌な顔をして通り過ぎていく、ブランド衣装に身を包んだ銀座の通行人たち。

 そんな視線をまるで気にせず、嵯峨は都内の街中を歩いていた。

 ここは路上喫煙禁止区域だというのに嵯峨はそれを無視していつものようにタバコをくゆらせていた。警察官に似た司法局の制服に身を包んだ人間が帯剣してタバコを吸いながら歩いている姿は注目を集めるには十分すぎる光景で、誰もが嫌な顔をして嵯峨から距離を取ってそれぞれの目的地を目指して歩いている。

「神前に俺達の『特殊部隊』的なところを見せるには……まだ早かったかな?うちは『お馬鹿さん養成機関』じゃなくて、その本質はむしろかつての地球の『ゲシュタポ』や『KGB』の方が近いって……まあ、今の神前に言っても分からねえだろうな。『軍事警察』。国民の命より国家の面子めんつを守る軍隊と言う組織の性格に加えて、同盟機構の直属司法執行機関として遼州圏に住む一般市民の命の事まで頭を巡らせないと仕事ができない……一般市民を任務遂行のためにいくらでも湧いて出る盾として使える兵隊さんが羨ましいと思える組織だなんて今のアイツには理解できないだろうね」

 そう言って嵯峨は一度立ち止まると、夏服のポケットから取り出したタブレット端末に映るランからの『状況終了』のメールを見ながらそう言った。

 そして、最後の一服とでもいうように大きくタバコの煙を空に向って吐いて、咥えていたタバコを路上に投げ捨て、タブレットを夏服の胸ポケットに戻した。

 東都中央銀座通りは、先の20年前に終わった第二次遼州大戦で戦勝国に天文学的な戦時国債を押し付けることで地球圏すら経済で従える遼州圏の経済大国となったこの国の首都らしく、次々と着飾った人々が行きかう中心街だった。

 嵯峨はじっと真正面に立つビルに視線を向けていた。その大通りに面した人目で一等地とわかる場所にある、ぜいを尽くした建物がそこにある。

 そこの一階には地球のイタリア系ブランドの宝石店が居を構えていた。21世紀にはじまった欧州有力国の核武装とそれを利用した核戦争により、国内問題となっていたイスラム系の移民を核で根絶やしにして奥州の国々は国内に流入した難民を強制的に帰国させた。そして、再びの難民の流入を理由とした核攻撃で北アフリカ支配を確立した『ローマの復活』を成し遂げた国らしい気品をその店の店構えは誇っているように見えるのが嵯峨には嫌な気分になった。

 そんな地中海の覇者を自称するイタリアと東和は国交がない。

 当然、扱っているのはすべて密輸品だ。

 東和政府もそれを黙認しているのが皮肉で、嵯峨は苦笑した。

 嵯峨は朱色の鞘と渋めのつばが目立つ『日本刀』が腰にぶら下がっている様を確認すると、じっとその前で立ち続けていた。

 周りの買い物客はその姿に怯えたように遠巻きにして、嵯峨の姿を眺めている。

 その姿はどう見てもマナーの悪い若い警察官が日本刀を持ってぶらついているようにしか見えない。

 すでにその姿が目に付いて警察に通報した者がいたようだが、駆けつけてきた警察官は、嵯峨の制服の袖に縫いつけられた司法局実働部隊の部隊章『大一大万だいいちだいまん大吉だいきち』を見て、その場で近づかず、野次馬の規制を始めた。

「アメリア。俺が奴さんの部屋に付いた辺りの時間帯を見計らって空気読んで入ってきてよ。まあ、腰の物を抜くかどうかは……俺の気分次第だな。俺は基本的には地球人の野郎は斬ることを主義としててね。どうせ相手は地球人だ。死ねる幸せを認識して死んでくれると俺としては助かる」

 そう言った嵯峨の表情にはいつもの緩んだ調子は無く、まさに『狩る者』のそれが浮かんでいた。

『了解しました』

 嵯峨は配置についているであろう運航部を指揮する部長、アメリア・クラウゼ少佐に通信を飛ばした。そのアメリアの背後にはフル武装の誠の頭に金盥を落とした運航部の女子隊員が突入準備を済ませて隊に配備されている通運会社のバンに偽装した装甲車両の中で待機している手はずになっていた。

 そして嵯峨はアメリアの返答に満足げな笑みを浮かべると周りの好奇の目も気にせずに、制服姿には場違いな高級感のその密輸品を扱うにはあまりに堂々とした店の中に入っていった。

 回転扉を押し開けて店内をさも当然のように入ってきた嵯峨の姿。司法局の制服と腰にぶら下がっている日本刀を見て、それまで店内で接客に従事していた店員達は瞬時に警戒感をあらわにする。

 彼等は外から覗き込んでいる警官が嵯峨が店に入るのを制止しなかった所を見ていたのか、とりあえず係わり合いにならないようにと自然体を装いながら嵯峨から遠ざかった。

「へへーん。死んだカミさんに連れてこられて以来だが……こんなもんが商品になるんだ……俺にはこんなものを買う人間の気が知れないが好きな人は好きなんだろうね?地球圏の金持ち連中は一定金額以上の金を使うととんでもない金額の間接税が経済活性化に貢献したということで戻されるだろうが……元々間接税もない上にこういうぜいたく品には物品税と言う税金がかかるこの国でこんなものに目を向ける客の気が知れないね……なんでこんな店の商売が成り立つのか俺には分からないよ」

 いかにも社会を知り尽くした貧乏人である嵯峨の言葉に店員たちは嫌な顔をする。店の中にいた客は嵯峨の腰にある日本刀に驚いたような顔をしているが、すぐに店員が彼女達に耳打ちをして嵯峨から離れた場所に客を誘導した。

 嵯峨は慣れた調子でショーケースの間をすり抜けながら、ただなんとなく店を見回してでもいるような感じで店の中を歩き回った。

「へえ、かなめ坊は金を持ってはいるが地球系の店の宝飾品は見てて胸糞悪くなるから見たくもないらしいね。アイツも地球人の血が流れてるんだから地球のこういう『上流階級の本場の文化』という物を勉強すればいいのに。というが……俺も地球人のデザイナーのセンスと言う奴には嫌な気分にしかならねえな。地球人は金持ちの金持ちの為の金持ちの為の国しかねえからな。俺みたいな人間は最初から相手にされていないが……甲武で屈指の浪費家のかなめ坊の気分を悪くするようなものしか作れねえなんてかつては地球を席巻したイタリア系デザイナーの質も落ちたもんだ……そう言う意味じゃあ、アイツの『地球人は堕落した生きるに値しない人物だから射撃の的にちょうどいい』って口癖も理解できるってもんだ。地球のデザイナーさんも東和の金持ちの方が将来性があるんだから地球人の政治を握って好き勝手やってる連中なんかの趣味に付き合う必要なんかないのにね」

 明らかに嫌味のような独り言を口走る嵯峨を見て一人の若い女性店員が、意を決したように店内中央に飾られた貴人に似合うような高級感漂うティアラの入ったケースを眺めている嵯峨に声をかけた。

「お客様。警察の方ですよね?他のお客様が不安に思われますので、その日本刀はどうにかしていただけますか?」

 勇気を出してそう言った女店員に満面の笑みを浮かべると嵯峨はその店員に語り掛けた。

「お気遣いなく。ここで暴れるつもりはないから。それに俺が何を言おうがそれはまさに東和共和国が憲法で保障している言論の自由だよ。もし俺の言葉が気に食わなくて名誉棄損で訴えるというのなら俺は弁護士の資格も持ってるから俺の発言が何一つ違法でないことは俺自身が証明できるんだ。この東和共和国では地球みたいに政府の都合のいい言葉以外は口にしちゃいけないというような暗黙の了解は無いの。まあこの刀はこの上の階ですぐに使う必要があるから持って来たの。仕舞うにもそんな袋とか持って無いし、俺が用があってこの刀を使うのは俺の仕事の一つのうちだから。一応こう見えても『武装警察』の隊長をしててね。これもその仕事の一環なんだ。アンタがここに立って東和の脳みそスカスカの金持ち連中のご機嫌を取るのと同じこと。まあ、そんな事はどうでもいいんだ……ここのオーナーを出しな。名目上のじゃねえよ。モノホンの方だ……て、そんなことアンタに言っても分からんか……おい!そこのアンちゃん!」

 嵯峨は目の前の若い女子店員に向けていた笑顔を絶やさずに懐に手を入れたままで、じっと嵯峨の方を他の店員とは違う殺気のこもった視線で見つめていた一人の店員に声をかけた。

 嵯峨に声をかけられた若い男の店員は上着のポケットに入れていた手を抜くと、表情を接客モードに切り替え何事も無かったかのように嵯峨の方を笑顔で見つめた。

 その頬に緊張の色があることを、嵯峨は決して見落とさなかった。

「アンちゃんよう!俺みたいに店の悪口ばかり口にする怪しい人物が来たら案内する方の『本当のオーナー』、今日来てんだろ?そいつのとこまで連れてってくんねえか?手間だろうが頼むよ!」

 嵯峨は満面の笑みを浮かべながらそう言った。

 アンちゃんと呼ばれた店員は初老の店長らしき人物に目配せをした後、両手をズボンのポケットに突っ込んで挑発的な視線を送っている嵯峨に歩み寄ってきた。

「お客様、店内であまり大声を出されても……。こちらになりますので」

 店員はあくまで平静を装ってそう言った。

 その店員が自分で出てきたことに満足したように嵯峨はうなずいていた。

「ああ、この店の迷惑になるってこと?俺は貧乏人でね。金持ちが嫌いだから嫌味のつもりで知っててやってんだ。ここの商品一つ売れれば俺の驚くような金がこの店に入るように出来てるんでしょ?俺みたいなこの店の客層とは関係ないゴミムシの言うことなんて気にせんでちょうだい。俺は月3万円の生活費で生きてるの。こんな馬鹿なことでも言わなきゃこのぜいたく品の群れの前じゃあやっていけないよ」

 嫌味たっぷりにそう言うと、業務用通路へ向かうアンちゃんの後ろについて嵯峨は歩いていった。

 彼に従って従業員出入り口からビルの奥へと進む。そしてそのまま人気の無いエレベータルームにたどり着いた。

 二人きりになったとたん、店員の表情は敵意に満ちたものから穏やかなそれに代わった。

 嵯峨はそれを確認すると静かに店員の肩を叩いた。

「ずいぶん長い『内偵ないてい』になったね……すまなかった。神前の『力』おかげでようやく連中も尻尾を出しやがった。今まで泳がされていたことを知らない間抜け野郎が俺の撒いた餌にはのこのこ食いつく……わざわざ同盟機構の下部組織である俺達の手を借りなきゃいけないなんて東都警察は無能だな。俺が東和共和国警視庁の警視総監をやれば、イタリアンマフィアだけじゃ無くチャイニーズやロシアやコロンビアの連中もすぐに一網打尽にしてやる自信が出てきたよ。連中が主な収入源としているこの国の指定暴力団に卸してる違法薬物を運ぶための基本的資本がこういう店から稼がれてるのも見抜けないなんて馬鹿なんじゃないの?」

 嵯峨はエレベータを待つ間、降りて来るランプを見ながらひとりごとのようにそう言った。

「違法薬物はすり抜けることができれば確かに金になるが摘発されるリスクが高い。だから、こうして公然と稼げる業務を常にやっていて、検疫に優秀な人材がたまたまいたり、運び屋が無能だったりして摘発が立て続けにあっても組織が維持できるだけの安定した収入源を連中も必ず持ってるもんだ。そんなの常識だと思うけど……違法薬物を摘発している人たちは違法薬物だけでそんな組織は暮らしてると考えているのかね?」

 そんな独り言の間にエレベータは嵯峨達の居る階に到着し店構えと比べてあまりに古びて汚らしい業務用エレベータの錆びた扉が開いた。

「今回、神前の野郎をおとりに使った件では俺が情報をリークした段階でここに踏み込む口実が出来たと喜び勇んで東和警察の連中も独自に動き始めたみたいだ。でも、遅かったな。こうして俺の方が東和のお巡りさんより先に目的地にたどり着いたもんね。東和警察の連中も自分達が思ったより早く俺がまいた神前の身元にここの親分さんが食いつくとは思ってなかったのかな?違法薬物なんて見つかって当然のものを下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるとばかりにうんざりするほど税関に運び込んで摘発リスクは覚悟で稼いでる連中だよ?そのぐらいの動きが出来なくてそんなもので金を稼ごうなんて思いつかないよ。まあ、そこまで読んでこうしてのこのこ俺がここにいる……俺のこれからやるあからさまな東和警察に対する越権行為を知ったらさぞご立腹だろうが……うちも隊員が一人危ない目に遭わされたんだ。それなりのけじめをつけないと俺としても収まらないんだ」

 若い店員の目に急に嵯峨に対する敬意の色を帯びた。二人が乗り込んだエレベータの扉が静かに締まり、そのまま最上階へと向かう。

「少将。自分はこういうことは慣れていますから。それにいくら囮にしても『部下の事は決して見捨てない』と言う少将の哲学は良く存じ上げております。そのことを知っているからこそ我等内偵者は閣下についていくんです。神前とか言う新人も無事なそうじゃないですか。いわゆる我々の世界に入るための通過儀礼だと思えば当然のことでしょう。それとこの組織が東都警察や東和の麻薬対策室から秘匿している薬物ルートについてはすべて私が掴んで先ほど東都警察と厚生省の薬物対策課に連絡しておきました。それで少将の無茶についても彼等も目をつぶってくれるでしょう」

 『内偵』任務の仕上げに入った男はそう言って嵯峨に口元を緩めて見せた。

「俺は褒められるのは苦手でね。嫌われてあらゆる人に悪口を言われどおしで生きてきたから……褒められるより悪口を言われる方が俺としてはしっくりくるんだ。お前さんにも『遅いんだよ!『駄目人間』!』とこういう場面で叫ぶ今の俺の『特殊な部隊』のちっちゃな副隊長のかわいい顔を見せてやりたくなったよ」

 嵯峨は鼻で笑ってみせたが、その横顔には、わずかに気恥ずかしさの色もあった。見た目がふざけているほど若い嵯峨よりは年上の三十代に見える男は、背広から小型拳銃を取り出す。

 この店の本当のオーナーの信頼を勝ち取るべく長い内偵を続けてきた任務からようやく解放されることに安堵した表情が彼には浮かんでいた。

「ああ、そんなところまで気が回る部下を持って俺は幸せもんだね。甲武の国家憲兵隊はどうか知らないけど俺の指揮下の甲武国陸軍憲兵隊では俺はそういう時は『内偵担当者』に敬意を表して直接出向く方針を貫いてるの。俺も前の戦争の初期は内偵任務とか押し付けられたが、アレは疲れるものだからそのことを知ってる俺なりの気遣いって奴。現場を知ってる人間なら当然のことだよ。捨て駒として使い潰される辛さは俺自身が良く分かってるからさ。まあ、今は自分だけが被害者だとしか思えない神前の野郎には理解できないかもしれないけど……まあ若い奴なんてのはみんなそんなもんだよね。若いってのはいいことだが、目の前の事実しか見えてないって言うことに気付かない。年を取れば……嫌でもその背後に何があるか気付くようになる。まあ、年を食ってもその世の中の摂理に気付かない奴はただの馬鹿だ」

 エレベーターは二十五階の最上階へと上昇し続けた。

「その『内偵』経験者としては、お前さんみたいな奴の気持ちはわかるんだ。これまでの偽りの自分を捨ててようやく自分に戻れるってのは良いもんだ。まるで生まれ変わった気分と言うのはああいう体験を言うんだろうね。まあ、俺は戦争の最中だったからそんな羽を伸ばす経験はしたことが無いが、戦後に同じように内偵仕事を終えた部下の顔を見ればその事だけは理解できたね。あとの詰めは俺がやる。安心しな」

 銃を構えた嵯峨の指示でこの密輸店に入り込んでいた男は周りを見回した後、安堵の笑みを浮かべながら静かな調子で語り始めた。

「お気遣いありがとうございます。そのターゲットの『皆殺しのカルヴィーノ』は、最上階の専用の私室に入ったまま動く様子はありません。見込みどおりあの男が外惑星連邦の外務省のエージェントと接触しているのは私も知らされています。恐らくターゲットの身柄を他の組織より先に抑えたということで前祝でもしている最中でしょう」

 嵯峨は手を上げて若い男の言葉を制した。

「ああ、そいつはダミーだよ。何しろ今回の一件は俺の方から積極的に仕掛けてるんだ。それに『皆殺しのカルヴィーノ』を東和支部のボスに任命した地球圏・イタリア共和国パレルモ在住の旦那衆も馬鹿じゃねえよ。神前の『素質』の売り手はいくらでもあることくらい、ちょっと頭の回る人間ならすぐわかることさ。値段がつりあがるまで待って、そこで引き渡すってのが商道しょうどうってもんだろ?要するに、カルヴィーノの野郎もあっちこっちに連絡をして『誰がどこまで本気で神前を欲しがっているか』を炙り出すテスト中ってわけ。外惑星の工作員との交渉もそんな中の一つだよ。うちの技術部の『ネットマニア将校』が漁っただけでも、地球圏の『某政府』はその倍の値段を出してたぜ。それに俺もちょっと調べてみたが『皆殺しのカルヴィーノ』はこれまで奴が他の星系の支部で起こした事件の顛末から考えるとかなり慎重な男だと俺は見た。こんなことで小躍りして喜ぶようなおめでたい奴じゃないよ。それだけにこちらもそれなりの礼をしてやらなきゃならねえな……たぶんこれからすぐに殺生をすることになるな……ランじゃ無いが心が痛むもんだ」

 エレベータは業務用らしくゆっくりと最上階に昇っていく。

「じゃあ少将のブラフに乗ってマフィアに火をつけたのは……」

 若い男は再び背広の中に手を入れて小型拳銃を取り出した。

「奴等も慈善事業で神前を拉致したわけじゃないだろうから誰かがそれなりの条件を提示したんだろうが……誰が本当に直接マフィアに火をつけたのか。その条件まで俺が知ってればこんな俺の嫌いな街に俺は出てきたりしないよ。ただ俺が囮に使ったとはいえ、かわいい部下を拉致られた『特殊な部隊』の隊長としては、ここで1つの『けじめ』って奴をつけなきゃなんないな。安心しな、すでにお前さんの家族は、俺の知り合いが『甲武国』の『俺所有の直轄コロニー』へご同道している最中だ。まあこの一件の片がつくまで家族水入らずで過ごすのも悪くないだろ?内偵中はそれこそ休みも無かったんだ。バカンスとしゃれこむのもいいもんだ。まあ、甲武の狭苦しいコロニーと任務とは言え自然の空気があるこの東都の空とどっちが好みかは……お前さん次第だ。もし、この排ガスだらけの銀座の街が好きならば謝っとくよ」

 エレベータは時代遅れな速度でようやく目的の階に到着した。

「まあ、その前に少しだけ付き合ってもらおうか。始末はウチでつけるからな。お前さんは安心して家族との穏やかな日々を想像していればいい」

 その言葉に安心したのか、男は嵯峨を頑丈な扉で閉ざされた部屋へと導いた。

 あの階下の豪勢な雰囲気はそこには無かった。

 有るのは奇妙な殺気だけ。

 それが嵯峨にはそれが心地よく感じられるようでにんまりと笑いながら扉を開いた。

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