遼州戦記 司法局実働部隊の戦い 別名『特殊な部隊』の死闘

橋本 直

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第十八章 『特殊な部隊』の出動命令

第43話 『駄目人間』嵯峨惟基の作戦開始

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 地球圏からすれば東和ならではの時代遅れの端末を前に備品の発注書を打ち込んでいた誠の画面に、突如赤い警告文字が点滅した。

 ……緊急招集……。

 その表示に顔をしかめた誠の耳に、すかさずランの声が飛び込んできた。

「全員ハンガーに集合!一分一秒を争うスケジュールが組まれている!すぐに動けッ!」

 まるでこの瞬間を待っていたかのような口調。ランの傍らでかなめとカウラも黙って立ち上がる。その静かな緊張感に、誠は胃の奥が鈍く痛むのを覚えた。

「今度は……宇宙か?クーデター?また宇宙酔いで医務室に缶詰生活だけは、もう勘弁してください……」

 つい口をついて出た弱音。それでも誠の体は自然と立ち上がっていた。

「ぐだぐだ言ってんじゃねえよ。軍隊じゃ上官の命令は絶対だ。文句言ってっと、またランの姐御にマラソン40キロとか命じられるぞ」

 そう言ってかなめが誠の背中を小突く。誠もそれが戦闘を伴う出動だと察していた。

「ぶたなくても……大丈夫です!もう宇宙酔いも慣れましたし、以前の僕とは違います!」

 反論しつつも、ランの落ち着いた様子が目に入り、誠は不安を募らせる。感情を隠すのが苦手な彼女が、まるで事態を予測していたかのような静けさを湛えていた。

 扉を抜け廊下に出ると、すでに整備班の面々がハンガー前に整列していた。管理部の隊員とともに階段を下ると、誠の知らない小太りの男が背広姿で整列する隊員たちを無言で眺めていた。

 妙に自然なその佇まいに誠は違和感を覚えるが、誰も触れないため自分も黙って整列に加わった。

 整然と並ぶ背中。しかしそこに島田やサラの姿はなかった。

『あの人たちは……バルキスタンか。ということは……』

 何の説明もないまま、背筋に冷たい汗が伝う。

「遅いぞ。とっとと整列しろ。今回の出動は時間との戦いだ!一分も無駄にすんな!」

 ランの怒声が響く。隊員たちは階級順に並び、スクリーンの前で待機する。

 そこには既に大きなスクリーンが起動準備中で、前回とは明らかに異なる緊張感が漂っていた。アメリア麾下の女性クルーたちも、いつもの軽口を一切見せず整列する。

「いいか、これは最初から予定されていた緊急事態だ。仕組まれてたってことだ。まあ、騙されたと思って話を聞け」

 ランは班長代理の整備班員に合図を送り、お立ち台に上がって一段高い位置から全員に語りかけた。

「一言言っておく!今回の出動は戦闘を前提としている。各自、最大限の緊張感を持って任務に当たってくれ」

 その独特な舌足らずのイントネーションに、誠は笑いそうになるが、すぐにかなめが彼の足を踏みつけた。誠が顔をしかめる間に、スクリーンが光を放ち始めた。

「戦闘前提の出動か……僕にとっては初めてだな」

 自分に言い聞かせるようにつぶやく誠の隣で、カウラが静かに応じる。

「これが『特殊な部隊』の設立理由。これからもこういう出動は増える。慣れておけ」

 誠は彼女の言葉にうなずき、映像の開始を待った。

 光が満ちたスクリーンに現れたのは、嵯峨惟基特務大佐。だが、いつものだらしない雰囲気は微塵もなかった。表情は固く、目は緊張に満ちていた。

『えーっと……ラーメン、チャーシューメン……高いよな……ん?』

 突然の間抜けなセリフが珍しく真顔をしている嵯峨の口から吐かれる光景に、一瞬ざわめく隊員たち。嵯峨の目が左右に泳ぎ、カメラの横を気にしている。

『おい、これ映ってんのか?カットしろって、な?……ああ、はいはい』

 沈黙の後、彼は急に真顔に戻った。その落差に、誠の心が跳ねた。

『さて……今、島田たちが展開しているバルキスタンで、反政府組織が停戦合意を破棄した。理由は……選挙に不正があったから、というのが連中の言い分だ』

 画面が切り替わり、バルキスタンの地図が映し出される。

『ここが反政府軍の支配地域。今回の攻勢で青が緑に飲み込まれている。ゲリラの進行にしては異様に速い。つまり……』

「アイツら、機動兵器なんて持ってなかったはずだよな」

 前列のかなめがぽつりと誠に言う。

「もしかして、正規軍が混じってるとか……あそこは西モスレムの影響力が強い。あの国の正規軍の機動部隊を使えばこのくらいの攻勢は軽いだろう」

 カウラは緊張した面持ちで背後のかなめにそう語りかける。

「それなら最初から選挙なんて茶番だ。あそこの独裁者がそんな茶番許す訳ねえだろ。そんなバレバレの芝居を打つほど西モスレム国王は馬鹿じゃねえよ」

 ため息混じりに返すかなめに、誠は言い返せない。

 嵯峨の説明が続く。過去の協定により、反政府組織には機動兵器の輸出が禁じられていた。にもかかわらず今回の急激な侵攻……その裏に何があるのか。

『答えは単純。反政府軍に兵器を売ったのは、政府軍のカント将軍自身だ。まさに敵に塩、いや大砲を送るとはこのことだ。ずいぶんとまあ人格者なことで。敵に塩を送るという話は聞いたことが有るが大砲を送るなんて言う話は俺も聞いたことが無い。貴様等も今後敵に出会って相手の武装が貧弱だったら自分の持ってる銃を恵んでやれ。それが模範的な軍人……とカント将軍は言いたいらしいな』

 その言葉に一部の隊員から小さな笑いが漏れるが、すぐにランの睨みで静まる。

『政府も反政府も、選挙を潰したいだけなんだ。だから手段は選ばない。地球人も遼州人も、その点では同じだ。すべては茶番。自分さえよければそれでいい。人間なんてそんなもんさ。それは宇宙のどこに行っても変わらない真理なんだよ。悲しいことだけどね』

 嵯峨の口元に冷たい笑みが浮かぶ。

『よって、遼州同盟司法局は央都協定に基づき、甲一種出動を命ずる。各任務はこれに優先される。作戦立案の全権は……ランに一任する!以上が司法局実働部隊長としての俺の指令だ!ラン!後は頼むぞ!』

 嵯峨が敬礼すると同時に、画面は静かに消えた。ハンガーに並ぶ全員が、真剣な面持ちでその画面に敬礼を返していた。

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