遼州戦記 司法局実働部隊の戦い 別名『特殊な部隊』の死闘

橋本 直

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第二十二章 『特殊な部隊』のプライド

第49話 未明の鉄槌、陽炎の整備士

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 バルキスタン国境付近、灼熱の巡回基地。

 砂埃が舞う格納ヤードの片隅で、島田正人准尉は一台の飛行戦車に半身を突っ込んでいた。

 工具を握るその手は油にまみれながらもリズミカルで、全身がまるで機械の一部のように動いていた。

「精が出るねえ、君……それにしても、少しは休んだらどうだい?もうすでに九割のビーコンは配置済みなんだ。今更完璧な仕上げをした機体で出かけなくても任務はこなせるよ」

 基地付きの東和陸軍士官が声をかけたが、島田はエンジンの奥から顔だけ出して、にやりと笑った。

「技術屋のサガってやつっすよ。自分の整備ミスで機体が墜ちたら目も当てられねえでしょ?それに……こいつの出番、もうすぐ来る。そんな予感がしてるんでね。それにアンタは九割終わったというが、あと一割は残ってるってことでしょ?だったらなおの事仕事は急がなきゃならないな」

 そう言って島田は戦車の下から這い出して伸びをした。そしてそれまで我慢していたタバコをポケットから取り出すと東和陸軍士官が嫌そうな顔をするのを無視して火をつけた。

「確かにな……この砂漠地帯へのビーコン投下作業はどうにも飛行戦車の機体にただ飛んでいるだけで相当なダメージを与えるからな。君の言うことももっともだ。それより今の状況が問題だ。このままじゃ間違いなく政府軍と反政府武装勢力の衝突は避けられない……いや、もう他の地域では反政府武装勢力が攻勢に出ているそうじゃないか。しかし、君の言うようにあてになるのかね……あの『特殊な部隊』は。これだけ広がった戦場をどうやって収めるつもりだね、彼らは。例の『光のつるぎ』の他にも何か奥の手があるのかな?確かにあの威力は圧倒的だが何せ戦場が広がりすぎている。それにここは地上で主要な使用兵器はせいぜい小型の飛行戦車か四輪駆動車にミサイルを搭載した自爆攻撃覚悟の連中くらいしかいない。そんなのを一々あんな高火力で攻撃してやったらそれこそ普通の軍隊を派遣した方がよっぽど効率がいい。というか僕達が君が『ドラム缶』と呼んでいるあのビーコンの正体はなんなんだね?いい加減教えてくれても良いじゃないか」

 戦車長の士官の問いに胸のポケットからタバコを取り出しながら島田はほほ笑んだ。

「連中ですか……あてになりますよ……だってあの『近藤事件』を制した連中です。それに今回は切り札もありますんで。広い戦場で、敵味方入り乱れた状態に最適な『新兵器』。それを活かすための『ビーコン』。たぶんその威力を知ったらアンタは腰を抜かしますよ。今回の『新兵器』の特徴はこういうろくに対法術装備もつけていない飛行戦車やゲリラ相手に最適の兵器です。まあ、俺にも守秘義務があるんで、この作戦が成功したら教えますよ。まあ、奴なら確実に成功させるし、成功した時シェルターから出たアンタたちが周りを見たらその兵器がどんなものなのか嫌でも分かると思いますがね。アイツは俺の舎弟。そう、偉大なる俺様の舎弟なんですから」

 島田はそう言って笑いかけた。東和陸軍の兵士達は、誰もが暗い表情を浮かべる中で、あっけらかんとした島田に不審そうな視線を投げる。

「今回は敵味方入り乱れた乱戦状態なんだぞ……あの『近藤事件』で使った『剣』。確かに一撃で巡洋艦を撃沈する威力は認める。でもあんなものを使えば味方の損害も凄いことになる。『新兵器』……兵器というものは人を殺すものだ。そう思えば我々に希望を持つ余地などもう残っていないんじゃないかな」

 戦車長の隣の砲手の下士官のつぶやきに島田は満面の笑みで答えた。

「そんなあの神前しんぜんと言う男が力任せだけの男だなんて判断されたら困りますねえ。それはうちを舐めてる態度だ。伊達に『特殊な部隊』と呼ばれているわけじゃないんですよ……すでに仕込みはかなり進んでるって話ですよ。大船に乗った気でいてくださいよ……ああ、時間になったらシェルターに隠れてくださいね、さもないと……後々面倒なことになるんで。あのドラム缶の正体も含めて理由は明かせませんが、さっき言ったようにすべてが終わった後、アンタ等はシェルターの外の光景を見て腰を抜かしますよ。それこそ『こんな兵器が地上に存在したのか!』ってな顔したアンタ等を想像すると俺も楽しくなってきますよ」

 自信ありげな島田の態度を見ても戦車長の士官の表情は冴えなかった。

「君の言うこと……本当に信じて良いんだね?それになんでわざわざ戦車乗りがシェルターに隠れなきゃならないんだ?どういう兵器なんだ、その『新兵器』とやらは。教えてくれてもいいじゃないか。我々は同じ東和国民だろ?しかもこの周辺には政府軍も反政府軍もいない。秘密漏洩の事を考える必要なんか無いんだ。君がそれほど自信を持って確実だという『新兵器』その効力の一部でも俺達には知る権利が有るんじゃないかな?」

 タバコをくゆらせる島田に士官は気難しい表情を浮かべてそう尋ねた。

「内緒ですよ……これはうちの隊長から直々に命令を受けてましてね。これだけは絶対に秘密なんです。味方でも敵でも『新兵器』とあのドラム缶の中身については一切しゃべるなってね……あれは存在を知れたら最後、何の効果も無い兵器だ。だから一切しゃべるなってね。実際のところうちの副隊長が『お前はおしゃべりが過ぎるから効果は教えない』とか言われて正直俺も正確なその兵器の機能とかは知らないんですよ。だからアンタたちは黙って見てなってくださいよ。作戦が終わってシェルターから出たあんたらが、腰抜かして呆然とする光景。それが俺の……いや、アイツの『答え』なんで」

 士官たちが黙り込む中、島田はやや寂しげに笑った。

「ただ、今回の作戦は間違いなく成功することと、その後この地がどうなってるかだけは教えてもらった。それはまさにびっくりするような光景が目の前に広がることになりますよ」

 島田は余裕のある態度で吸い終わったタバコを投げ捨てると、遠くを見るように地平線に目をやった。

「その新兵器は……やはり『法術兵器』なのかね?そのくらいは教えてくれても良いじゃないか」

 士官は島田に尋ねるが、明らかに島田を見下すような態度にヤンキーである島田は怒りの表情を浮かべた。

「そんなもん、神前が使うんだから『法術兵器』に決まってんじゃないですか!アンタ等そんなことも分からねえのか?神前はパイロットとしては並以下だ。そいつが使うんだもん。当然、法術頼みの兵器じゃ無ければ何の意味もない。それだったらパイロット教育も受けてる俺があの機体に乗った方が百倍マシだ」

 いつもの乱暴な口調に戻った島田は今にも士官の胸倉を掴みかねない勢いでそう言った。

「法術兵器……あてになるのかね?あんな現代科学で説明できない現象など……まるでオカルトだ。確かにあの『近藤事件』では役に立った。法術が存在することも認める。しかし、法術も万能では無いだろ?いくら神前誠曹長に素質があったとしても現状の変更などもう無理な話だ。ここまで状況が複雑になって戦場が敵味方入り乱れてしまった以上、どんなに力のある兵器を使っても味方の損害を無視して問題を解決できる状況にはない。それとも何かね?今度の『新兵器』は敵と味方を区別して広範囲に一撃で攻撃できる機能でもあるのかね?それこそ『魔法』だよ。そんなものが開発できるほど『法術』は万能なんじゃないだろ?」

 自身が遼州人でありながら法術適性の無い士官はそう言って絶望の表情を浮かべて見せた。

「オカルトでもなんでも結構じゃないですか。目で見たリアルを信じるのが俺達の合言葉でしてね……まあ、見ていてくださいよ。すべてが終わった時、この地域に平和が訪れる……かっこいいなあ!がんばれよ!神前!」

 島田の自信満々の言葉に東和陸軍の戦車兵達は今1つ納得できないような表情を浮かべていた。

「いい加減辛気臭い顔はやめてくださいよ。見ていてこっちまで神前を信じられなくなる。今回もまたあの胃弱なヒーロー神前誠が見せ場を作ってくれますから……安心してください。絶対に作戦は成功します。この俺が保証します!」

 完全に誠の任務で成し遂げれば誠の手柄だと言うのに、まるで自分の立てる手柄について語っているかのように島田はそう言い切った。

「胃弱のヒーローねえ……余計あてにする気が無くなってきた」

 戦車兵達は島田の言葉に全く動じることなく、暗い表情のままそれぞれの持ち場に消えて行った。

「全く、俺の事を信用できねえって言うんだ!後でぶんなぐってやる!これだから『まとも』で売ってる軍人さん連中は嫌いなんだ」

 自分が全く彼等に信用されなかったことに腹を立てて島田はそう叫んだ。慣れない丁寧な口調を使ったことの馬鹿馬鹿しさに腹を立てながら立ち上がった島田は再びタバコを取り出すと表情をにこやかな表情に戻してタバコに火をつけくゆらせながらほほ笑んでいた。

「神前……オメエの本気、見せてみろや。オメエが失敗すると俺の面子めんつも潰れるんだ。成功しなかったら後で隊に戻ったらぼこぼこにしてやんからな。オメエは俺の舎弟。だからいつでも俺を立てろ。今回もそうだ。見事作戦を成功させて俺を『おとこ』にしてくれや」

 島田はそう言って、島田が聞かされている時間ではまだこの国の上空に到着していない誠に向けてそう言った。
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