遼州戦記 司法局実働部隊の戦い 別名『特殊な部隊』と誕生日

橋本 直

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第十六章 『特殊な部隊』と家庭

第45話 揚げ音の前祝

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「じゃあ僕はビールでも飲もうかな……母さん、誠。先にやっているからな」 

 誠一はそう言うとかなめが持ってきたビールの栓を抜いてグラスに注いだ。ご飯を盛り終わったカウラもその隣の席に座った。

「誠。もういいわよ、あなたも食べなさい」 

 薫が海老に衣を着け終わるとそう言ったので誠はテーブルに移った。すでにカウラとアメリアはアナゴに取り付いていた。誠もビールを開けてグラスに注いだ。

「うまいなこれ……でも神前のアレが31.4センチとか言ってたな……かえでの奴……ミリ単位までどうやって調べやがった?ああ、神前は眠りが深いし、寮長の島田は金でどうにでもなる男だ。アイツはまさに日野富子の再来の金で何とでもしてしまう奴だ……夜中に眠りが深くて何をしても起きねえ神前の部屋に忍び込むなんてわけの無い話か……」 

 かなめはそう言いながらサツマイモのてんぷらをおかずにご飯を食べた。

「イモ類にご飯を一緒に食べる。炭水化物の取りすぎだな。貴様らしいと言えばそれまでだが……ただ、なんで神前が興奮した時の大きさがミリ単位で日野と渡辺がの二人が知っているんだ?神前。貴様は日野と……」 

 そう言いながらカウラがじっくりと楽しむようにアナゴのてんぷらを口にしていた。かなめはカウラの言葉に完全に無視を決め込んでレンコンに箸を伸ばす。

「そんなの知らないですよ!僕はそもそも日野少佐や渡辺大尉の前でパンツを脱いだ記憶はありません!」

 誠は必死になって抗弁するがかなめとカウラの視線は明らかに疑いに満ちていた。

「ああ、『モテない宇宙人』であり、なおかつ気の弱い神前にかえでの前でパンツを脱ぐ可能性はゼロだ。間違いなくあの二人は島田を買収して神前の部屋に侵入してそのものを見たわけだ……アタシですら以前、寝起きドッキリを仕掛けた時にパンツ越しにしか見たことが無いものを……しかもランの姐御の腕に匹敵するという人類の限界に挑戦する大きさのもの……かえでが神前の話になると途端に頑なになる理由が良く分かった。そんな大きさのモノを持った男はおそらくこの東和では神前一人だ。アイツの男の価値基準はそこだけだからな。アイツが神前に執着する理由がよく理解できた」

 かなめはサツマイモを食べながらそうつぶやいた。

「クバルカ中佐の腕ぐらいの長さと太さのものを持っているのは男性としてはそれほど珍しいものなのか?私も新生児を街角で見かけることがあるがそれ以上の大きさだぞ。それが出てきたということは別に入る分には問題ないんじゃないのか?」

 純情すぎるカウラはまるで理解していないというようにそう言うのが、その大きすぎるせいで数々のいじめに遭ってきた誠の心に刺さった。

「おい、カウラ。その新生児を生む前の妊婦にも街で出会ってるわけだな?その腹の大きさもオメエは知っているわけだ。そいつがアタシ等の中を出たり入ったりする。しかも一度や二度じゃねえ。一回出すたびにそれが腹の中を何十回となく往復するわけだ。かえでの会話を傍受した限りでは神前は自家発電を野球に負けて引き込もり中だった時代にはその何十回を一日で10回はしていたらしい。一日10回あんなに入れたらその大きさで腹が膨らんで中に入ってるのが人からも分かるほどのものを受け入れる覚悟……オメエにはあるのか?アタシは早速義体を買い替える!ちゃんと神前のに対応できるようにする!神前、あの同じくらいの太さと長さの大根で喜ぶ変態のかえででなくアタシを選べ!オメエはかえでに大根と同じ扱いを受けているんだぞ!そうすれば最高の快楽をアタシが保証してやる!ただ、アタシも『女王様』として縛って痛めつけて楽しむがな!」

 かなめはにんまりと笑いながら誠を見つめてきた。そのあまりのいかにもサディスティックな『女王様』独特の支配欲に塗れたかなめの視線に誠は目を逸らした。その誠の中学時代にはいじめの対象にもなって学校に呼び出されたという事件が起きたほどの大きさの話を知っている誠一は黙って天つゆを足すだけで聞こえないふりを貫いていた。

「そうか……ただ、私は神前のすべてを受け入れる覚悟はできている。日野にできたことで私にできないことがあるわけが無い。それに法術が関係の無いのならなおさらだ」

 そう言って右手をしっかりと握って見せるカウラを見て誠はそっちの方で努力してもらわなくてもと正直思わないでもなかった。

「海老も揚がったわよ。それと、その話は揚げ物が終わってからね。食事中にする話ではないから」 

 薫はそれぞれのお皿にこんがりと色づいた海老を並べていった。それを見ながら誠は油の処理をするために立ち上がった。

「本当においしいわね。やっぱりしいたけも欲しかったかも」 

 早速、揚がったばかりのかき揚げを食べながらアメリアはそう言った。

「ごめんなさいね。ちょっと買い忘れちゃって」 

 火を止めて油を固める薬を混ぜている誠の後ろで和やかな食事の光景が続いていた。

「でもおいしいですよ、このかき揚げ」 

 カウラの満足そうな顔を食卓の椅子に戻って誠は眺めていた。

「ビールもたまにはいいもんだな。こういう時はウィスキーの水割りとかを飲みたくなるもんだが、たまには良いもんだ」 

 かなめはそう言うと自分の手前の最後の海老に手を伸ばした。

「ちょっとかなめちゃん……ピッチ早すぎ」

 かなめはビールをまるで水でも飲むように喉に流し込んでいた。

「テメエが遅いんだ。それにアタシにとっちゃビールなんて水みたいなもんだ。いくらでも飲める」 

 アメリアに口を出されて気分が悪いというようにかなめは自分の最後の海老を口の中に放りこんだ。

「……確かに早すぎるな」 

 カウラはそのあまりに遠慮のないかなめの態度に顔をしかめながらそう言った。
 
「ビール追加します?」 

 微笑みつつもかなめのあまりのピッチの速さに驚きながら薫はそう尋ねてきた。

「アタシが取りますから。気にしないで」 

 薫の一言を断った後に立ち上がってかなめは廊下に向かった。

「自分でやるんだな、いいことだ。いつも自分のことぐらい自分でしてくれないと困るんだ。西園寺はやるだけやって何も片付けない。その点だけは隊長の姪だということがすぐに分かるな」 

 カウラの皮肉に振り返りにんまりとかなめは笑った。

「本当においしいわね。アナゴがふかふかで……」 

 満足そうにアメリアは茶碗を置いた。戻ってきたかなめはまずビールを置き、湯飲みに手を伸ばした。

「でもよく食べたな。カウラ、オメエの食ったもんはどこに行くんだ?胸じゃないよな?まるっきり洗濯板だし」 

 誠並みに五本も海老を食べたその痩せ型の身体に見合わぬ大食漢のカウラをかなめが冷やかすような視線で眺めていた。そう言われてもわざわざニヤニヤ笑って喧嘩を買う準備中のかなめを無視してカウラは湯飲みに手を伸ばした。

「そう言えば父さんは今日はうちの泊まって……明日は合宿場に戻るの?」 

 かなめがカウラを挑発するのを見てまた暴れられてはたまらないと誠は話題を父に振った。

「そうなんだ。皆さんと年末を過ごしたいのは山々なんだが、これも仕事でね。毎年の事さ」

 そんな誠の言葉に誠一はそう答えた。かなめもカウラもアメリアも誠一に目をやった。親子といえばなんとなく目も鼻も眉も口も似ているようにも見える。だがそれらの配置が微妙に違う。それに気づけば誠のどちらかといえば臆病な性格が見て取れる。そして誠一はまるで正反対の強気な性格なのだろうと予想がついた。

「明日の始発で出てそのまま合宿場だ。正月明けまでは稽古三昧だ……どうする?いっそのこと誠たちも一緒に来るか」 

 すぐにアメリアとかなめに殺気にも近いオーラが漂っているのが誠からも見えた。

『全力でお断りします』 

 二人の射るような視線に誠はそう言うほか無かった。いつものように薫は笑顔を振りまいている。カウラは薫と誠を見比べた。実に微妙だがこれも親子らしく印象というか存在感が似ていることにカウラは満足して手にした湯飲みから茶をすすった。

「今頃は隊は大変だろうな……あの熱を出すだけの使えない『全自動温泉卵製造器』扱いの機体を稼働状態に持って行く……専門官でもない私でもその作業の困難さは想像するだけで疲れてくる。島田達整備班員は今の時間も作業中だろう。それを思うと少し気が引けるな」 

 カウラの一言にアメリアが大きくため息をついた。

「もう!カウラちゃんはそんなだから駄目なのよ。ともかく仕事のことは忘れなさいよ。思い出すのは定時連絡のときだけで十分でしょ?遊びは遊び、仕事は仕事!ちゃんと分ける!分かった?それと誠ちゃんがランちゃんの肘から手の先くらいの立派なノを持ってるとか言ってたわね!義体の新調が必要なかなめちゃんや覚悟が必要なカウラちゃんじゃなくて誠ちゃんは私を選びなさい!私は出産経験者。当然そのくらいのものは平気で受け止められるわ!それで最高の関係を結べる!これで誠ちゃんは性犯罪者のかえでちゃんリンちゃんコンビか私の『選択肢』しか無くなったわけ!かえでちゃんとリンちゃんの異常性に巻き込まれて性犯罪者になりたく無ければ私を選ぶしか無いわよね!」 

 そう言ってアメリアは薫から渡された湯飲みに手を伸ばす。だが真面目一本のカウラが呆れたように向かいでため息をついているのには気づかないふりをしていた。

「アメリアさん。その話はしないでってさっき言いましたよね?でも本当に皆さんには誠が本当にお世話になって……でも本当に誠が迷惑かけてないかしら?いつもそれだけが気になってるのよ」 

 そんな母の言葉に心当たりが山ほどある誠はただ黙り込んだ。

「そんなお母様、大丈夫ですよ。誠ちゃんはちゃんと仕事していますから」 

「時々さらわれたり襲撃されたりするがな」 

 アメリアのフォローをかなめは完膚なきまでに潰してみせた。そんなかなめを見て薫はカウラに目を向けた。カウラはゆっくりと茶をすすって薫を向き直った。

「よくやってくれていると思いますよ。神前曹長の活躍無くして語れないのが我が隊の実情ですから。これまでも何度危機を救われたかわかりません」 

 にこやかに微笑みながらカウラはフォローした。だが薫はまだ納得していないようだった。

「でも……気が弱いでしょ」 

 その言葉にすぐにかなめが噴出した。アメリアも隣で大きくうなずいていた。

「笑いすぎですよ。西園寺さん」 

 誠は少しばかり不機嫌になりながらタレ目で自分を見上げてくるかなめにそう言った。

「誠ちゃんは確かに気が弱いわよねえ。出動で困ったことは今のところはないけど、草野球の試合の時だってランナーがでるとすぐ目があっちこっち向いて。守っていてもそれが気になってしかたないもの。それになんと言っても戦場での腰の引けた戦い方。あれどうにかならないの?今後、本当にそれを狙って隙を突いてくるようなランちゃんみたいなエース級の法術師が出てきたら間違いなくその術中にはまって大ピンチよ」 

 アメリアはまたにんまりと笑って誠を見つめて来た。そんな彼女の視線をうっとおしく感じながら誠は最後に残った芋のてんぷらを口に運んだ。

「臆病で慎重なパイロットの方が蛮勇で作戦を台無しにする誰かよりはずいぶんと楽だな。あくまでこれは指揮する側の意見だがな」 

 たまらずに繰り出されたカウラの一言。かなめの笑みがすぐに冷たい好戦的な表情へ切り替わった。

「おい。その蛮勇うんたらのパイロットとは誰のことだ?まさかアタシのことを言ってるわけじゃねえよな?そうだよな?」 

 腹が膨れたのか、ご飯を食べ終えてビールだけを飲んでいたかなめがカウラをにらみつけた。

「西園寺は自分の行動を理解していないのか?これはさらに致命的だな。自己分析のできていない軍人は早死にするぞ」 

 カウラの嘲笑にも近い表情に立ち上がろうとしたかなめの前に薫が手を伸ばした。突然視界をふさがれてかなめは驚いた。

「食事中でしょ?静かにしましょうね」 

 相変わらず笑顔の薫だが、かなめは明らかに薫のすばやい動きに動揺していた。そんなやり取りを傍から眺めていた誠はさすがと母を感心しながらゆっくりとお茶を飲み干した。

「ご馳走様。それじゃあ僕は……」 

 誠が立ち上がるのを見るとアメリアも手を合わせた。

「ご馳走様です。おいしかったわね。それじゃあ、私も誠ちゃんの部屋に……」 

「なんで貴様が行くんだ?」 

 カウラの言葉にただ黙って笑みを浮かべてアメリアが立ち上がった。その様子を見てそれまで薫の動きに目を向けていたかなめも思い出したような笑みを浮かべた。

「じゃあアタシもご馳走様で……」 

 今度はかなめまで急いで残ったご飯を口に掻きこんでそう言うと立ち上がった。

「貴様等は何を考えてるんだ?つまらないことなら張り倒すからな」 

 誠たちの行き先が彼の部屋であることを悟ったカウラが見上げてくるのをかなめは楽しそうに見つめた。

「ちょっと時間がねえんだよな、のんびりと説明しているような」 

 そう言って立ち上がろうとするかなめを追おうとするカウラを薫が抑えた。

「なにか三人にも考えがあるんじゃないの。待ったほうが良いわよ、誠たちが教えてくれるまでは」 

 カウラは薫の言葉に仕方がないというように腰掛けて誠たちを見送った。

「なあ、悟られてるんじゃねえのか?」 

 階段を先頭で歩いていたかなめが振り向いた。

「いくら鈍いカウラちゃんでも誠ちゃんが画材を買ったことは知ってるのよ。たぶん半分は分かってるわよ。問題はその絵のインパクトね……期待してるわよ、先生!」 

 そう言ってアメリアは誠の肩を叩いた。

「なんでお二人がついて来るんですか?」 

 さすがの誠も自分の部屋のドアを前にして振り返って二人の上官を見据えた。

「それは助言をしようと思って」 

「だよな」 

 あっさりと答えるアメリアとかなめに誠はため息をついた。おそらく邪魔にしかならないのはわかっているが、何を言っても二人には無駄なのはわかっているので誠はあきらめて自分の部屋のドアを開いた。

「なんだ変な匂いだな、おい」 

「油性塗料の匂いよ。何に使ったのかしら」 

 部屋を眺めている二人を置いて誠は買ってきた画材が置いてある自分の机を見つめた。とりあえず誠は椅子においてあった画材を机に並べた。

「あ!こんなところにフィギュアの原型が」 

 幸いなことにアメリアは以前誠が作った少しエッチな美少女フィギュアの原型に目をやっていた。誠はその隙に、買ってきた画材を見回して紙を取り出した。

「しかし……凄い量の漫画だな」 

 本棚を見つめているかなめを無視して机に紙を固定する。誠は昔から漫画を書いていたので机はそれに向いたつくりとなっていた。手元でなく漫画にかなめの視線が向いているのが誠の気を楽にした。

 そして紙を見て、しばらく誠は考えた。

 相手はカウラである。媚を売ったポーズなら明らかに軽蔑したような視線が飛んでくるのは間違いが無かった。胸を増量したいところだが、それも結果は同じに決まっていた。

 目をつぶって考えている誠の肩をアメリアが叩いた。

「やっぱりすぐに煮詰まってるわね。そう言う時こそ私達を頼りなさいな」 

 そんな言葉に自然と誠はうなずいていた。それまで本棚を見ていたかなめもうれしそうに誠に視線を向けてきた。

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