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第十六章 『特殊な部隊』と家庭
第46話 礼装に宿る線
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「まあ、アタシ等の方が奴との付き合いが長いからな。色々助言できることもあると思うんだ。オメエはカウラの趣味って言ったらパチンコとスロットくらいしか知らねえだろ?アタシはこの一年半でアイツの事を色々知ってる。頼りにしなよ」
「そうよね。あの娘が何を期待しているかは誠ちゃんより私達のほうが良く知っているはずよね。いつもこの三人で部隊を引っ張って来たんだから。私が企画を立てていろんなことをやって、かなめちゃんが銃を撃って、それをカウラちゃんが止めて……ってそれって引っ張ってないじゃん!って一人ボケツッコミしちゃったりして」
自信満々に答えるかなめとアメリアに誠は嫌な予感がしていた。完全に冗談を連発するときの二人の表情がそこにある。そしてそれにツッコんでいるだけで描く気がうせるのは避けたかった。
「じゃあ、どういうのが良いんですか?」
誠は恐る恐るにんまりと笑う二人の女性士官に声をかけた。
「まず、ああ見えてカウラは自分がお堅いと言われるのが嫌いなんだぜ。知ってるか?」
得意げにまずそう言うかなめを誠はげんなりした目で見つめた。そんなものはカウラに初めて会った瞬間に女性に疎い誠にも分かったことだった。
「ええ、まあ。確かにお堅い人ほどそう言う傾向は有りますね。よく聞く話です」
アメリアは例外としてもそれなりになじんだ日常を送っているアメリアの部下の運航部の女子の人造人間達に憧れを抱いているように見えることもある。中でもサラのなじんだ様子には時々羨望のまなざしを向けるカウラを見ることができた。
「それに衣装もあんまり薄着のものは駄目よ。あの娘のコンプレックスは知ってるでしょ?」
アメリアの指摘。たしかに平らな胸を常にかなめに弄られているのを見ても、誠も最初から水着姿などは避けるつもりでいた。
「あと、露出が多いのも避けるべきだな。あいつはああ見えて恥ずかしがり屋でもあるからな。太ももや腹が露出しているビキニアーマーの女剣士とかは避けろよ……オメエがアメリアからファンタジー系エロゲのヒロインを意地でもビキニアーマーにしたがることくらいアタシだって知ってんだ……オメエ等本当に変態だな」
そんな的確に指摘していくかなめを誠は真顔で覗き見た。二年以上の相棒として付き合ってきただけにかなめの言葉には重みを感じた。確かに先日海に行ったときも肌をあまり晒すような水着は着ていなかった。ここで誠はファンタジー系のイラストはあきらめることにした。
「それならお二人は何が……」
『メイド服』
二人の声があわさって響く。それと同時に誠は耐え難い疲労感に襲われた。
「かなめちゃん真似しないでよね!それにメイド服なら私がプレゼントしたじゃない!」
「それを着せてそれを参考にして描けばいいじゃねえか!それに神前はメイドさんが好きだろ?アメリアと一緒で。アタシは貴族の産まれだから知り合いの家に行くたびにメイドを見てきた。いろんなのがいたぞ……メイドについて知りたければアタシに聞け!」
得意げに胸を張るかなめに誠は首をひねりながら見つめ返した。
「メイドコスですか……僕の最初の候補には上がってましたけど、カウラさんに似合うかどうかとなると……それにメイドと言うとどうしても日野少佐を思い出すんで。僕がカウラさんのメイドコスを描いたなんて日野少佐が知ったら『許婚の僕に相談もなしにそんな絵を描くなんて許せないな!メイドの衣装については僕ほど造詣が深い人間がいないんだ!ぜひ僕のも描いてくれ!』とか言ってメイドコスで出勤して一日その恰好で勤務するかもしれませんよ?あの人に羞恥心とか期待するのは無理なんで。そんな状態を規則にうるさいクバルカ中佐が許すと思います?面倒なことになるのは確実ですよ」
ニヤニヤと笑いながら近づいてくるかなめに誠は苦笑いで答えた。かなめのうれしそうな表情に誠は思わず身構えた。
「でも……考えにはあったんだろ?メイドコスのカウラに萌えーとか」
心理を読むのはさすが嵯峨の姪である。誠は思わず頭を掻いていた。
「ええ、まあ一応……でも最初だけですよ!メイド喫茶とか僕は行ったこと無いですから!」
そんな誠の言葉にかなめは満足げにうなずいた。だが突然真剣な、いつも漫画を読むときの厳しい表情になったアメリアがいつもどおりに誠に声をかけた。
「まあ冗談はさておいて、何が良いかしら?」
アメリアはそう言って乗り気のかなめのはしごをあっさりと外した。
「冗談だったのか?アタシにはオメエは本気だと思ってたけど。まあアタシはマジで冗談だ!」
かなめの言葉。彼女が本気だったのは間違いないが、それにアメリアは大きなため息で返す。そんな彼女をかなめはにらみつける。いつもどおりの光景がそこにあった。
「人をこれまでの行動だけで勝手に決め付けるのはかなめちゃんの悪い癖ね。メイド服は私のプレゼントだけで十分。他のバリエーションも考えなきゃ♪」
自信満々にアメリアは答えた。かなめは不満げに彼女を見上げた。
「そこまで言うんだ、何か案はあるのか?自信ありそうじゃねえか。ちゃんとまともな答えを返せよ」
アメリアとかなめ。もはや絵を描くのが誠だということを忘れたかのような二人の言動に突っ込む気持ちも萎えた誠は椅子に座ってじっと二人を見上げていた。
「一応案はあるんだけど……誠ちゃんも少しはこういうことを考えてもらいたい時期だから」
アメリアは神妙な顔でそう言った。
「何の時期なんだよ!そんな時期いらねえよ!」
かなめツッコむ。だが、アメリアのうれしそうな瞳に誠は知恵を絞らざるを得なかった。
「そうですね……野球のユニフォーム姿とか……カウラさんの私服っていつも地味なんで、らしい格好と言うとそれ以外は……」
誠はとりあえずそう言ってみた。アンダースローの精密コントロールのピッチャーとして草野球リーグでのカウラの評判は高かった。俊足好打で知られているアメリアと外野の要で一番バッターを務める島田を別格とすれば注目度は左の技巧派として知られる誠の次に評価が高い。さらに誠がエースとなってからは『カウラゾーン』と他チームから呼ばれるカウラのショートの守備範囲は敵には脅威以外の何ものでも無かった。
「なるほどねえ……野球か……ならアタシがすぐにアイツの投げてる動画とかを出してやろうか?アイツのアンダースローは芸術品だ。本当に地上すれすれ……浮き上がるように低めのストライクゾーンから高めのボールのコースに浮き上がるんだからな。マジでアイツ独立リーグくらいだったら受かるんじゃねえのか?右打者へのワンポイントリリーフだったらアタシが監督だったら喉から手が出るほど欲しがるぞ。それにあのショートの守備。そっちもまるでプロレベルだな。どんなバウンドだろうが間違いなく膝で打球の勢いを殺して受けて正確な送球をする。そっちの方はそれこそプロの名ショート顔負けだからな」
サイボーグであるため大の野球好きでありながらプレーができずに監督として参加しているかなめが大きくうなずいた。
「でも、絵として考えると意外と個性が出ないわよね。ユニフォームと背番号に目が行くだろうし……背番号6のエースって高校野球の臨時投手じゃないんだから。それにそれじゃあ首から上を誰に替えても同じ絵になっちゃうんじゃないの?それこそAIでも作れるレベルよね。手描きをした意味がまるで無いわ」
アメリアの指摘は的確だった。アンダースローで司法局実働部隊のユニフォームを着て背番号が6。そうなればカウラとはすぐわかるがそれゆえに面白みにかけると誠も思っていた。それにプロにも似たようなアンダースローピッチャーが居ると言われれば何の反論もできない。
「それにカウラちゃんのきれいな緑の髪が帽子で見えないじゃない。あの子の売りはあの奇麗な流れるような髪とその鮮やかな緑色なんだから。それは却下!」
そんなアメリアの決定的な一言に誠は少しへこんだ。
「そう言えば去年の時代行列の時の写真があっただろ?あれを使うってのはどうだ?」
かなめはそう言って手を打った。豊川八幡宮での節分のイベントに去年から加わった時代行列。源平絵巻を再現した武者行列の担当が司法局実働部隊だった。鎧兜に身を固めたカウラやかなめの姿は誠の徒歩武者向けの鎧を発注するときに見せてもらっていた。凛とした女武者姿の二人。明らかに知っていてわざと時代を間違えた赤い当世具足の鎧を身につけているアメリアの姿に爆笑したことも思い出された。
「あの娘、馬に乗れないわよね。大鎧で歩いているところを描く訳?それとも無理して馬に乗せてみせる?カウラちゃんはそれを気にしてあの行事自体相当嫌がってるみたいじゃないの。そんなのを描くわけ?それこそ嫌がらせじゃないの?」
アメリアの言葉にまた誠の予定していたデザインが却下された。鉢巻に太刀を構えたカウラの構図が浮かんだだけに誠の落ち込みはさらにひどくなった。
「あとねえ……なんだろうな。パイロットスーツ姿は胸が……。巫女さんなんて言うのはちょっとあいつとは違う感じだろ?」
「巫女さん萌えなんだ、かなめちゃん」
アメリアがかなめの言葉を聞くと満面の笑みを浮かべた。
「ちげえよ馬鹿!」
ののしりあう二人を置いて誠は頭をひねった。だが、どちらかといえば最近はアメリアの企画を絵にすることが多いこともあって自分で絵柄を決めることが減っているだけに誠の中でなかなか形になる姿が想像できずにいた。
かなめも首をひねって考えていた。隣で余裕の表情のアメリアを見れば、いつものかなめならすぐにムキになって手が出るところだが、いい案をひねり出そうとして一緒に思案にくれていた。
「黙ってねえで神前、オメエも考えろ!アタシ等がこんなに苦労してやってるんだ!オメエが考えねえで誰が考えるんだ!」
誠にそう言うかなめだが彼女も良い案が思いつきそうに無いのはすぐにわかった。
「じゃあ……甲武風に十二単とか衣冠束帯とか……駄目ですね。わかりました。……西園寺さんそんな軽蔑するような目で見ないでくださいよ!」
闇雲に言ってみても、ただアメリアが首を横に振るばかりだった。かなめはアメリアの余裕の表情が気に入らないのか口元を引きつらせた。
「もらってうれしいイラストじゃないと。驚いて終わりの一発芸的なものはすべて不可!当たり前の話じゃない。それに甲武の『殿上会』には出たことは無いけど、かなめちゃんは何度も十二単も衣冠束帯も何度も着たことがあるんでしょ?かなめちゃんを想像する衣装を常にかなめちゃんに迷惑をかけられてるカウラちゃんが着たがるわけが無いじゃないの」
「白拍子や舞妓さんや甲武名物の花街の花魁道中も不可ということだな」
かなめの発想にアメリアは呆れたような顔をした後にうなずいた。それを聞くとかなめはそのままどっかりと部屋の中央に座り込んだ。部屋の天井の木の板を見上げてかなめはうなりながら考えた。
「西洋甲冑……くの一……アラビアンナイト……全部駄目だよな……どれもアメリアのエロゲの世界にしかなんねえからな」
アメリアを見上げるかなめ。アメリアは無情にも首を横に振るばかりだった。
「ヒント……出す?」
「いいです!」
誠は完全にからかうような調子のアメリアにそう言うと紙と向かい合った。だがこういう時のアメリアは妥協という言葉を知らない。誠はペンを口の周りで動かしながら考え続ける。カウラの性格を踏まえたうえで彼女が喜びそうなシチュエーションのワンカットを考えてみた。創造性とはあまり無縁なカウラのことなので基本的に日常とかけ離れたものは呆れて終わりになる。それは誠にもわかった。
「いっそのこと礼服で良いんじゃないですか?東和陸軍の」
やけになった誠の一言にアメリアが肩を叩いた。
「そうね、カウラちゃんの嗜好と反しないアイディア。これで誠ちゃんも一人前よ。堅物のカウラちゃんにぴったりだし。よく見てるじゃないのカウラちゃんのこと」
「礼服なら、余計な演技をさせずに『立っているだけで』カウラになる」
満面の笑みで誠を見つめるアメリアとかなめ。誠はようやく気持ちが落ち着いて紙に向かおうとした。
「それで誰が堅物なんだ?」
突然響く第三者の声。アメリアが恐る恐る声の方を振り向くとカウラが表情を殺したような様子で立っていた。その声で瞬時に誠のペンが止まった。
「あれ?来てたの……下のお片付けは終わったわけね……手伝えなくってごめんね……」
「片付けくらいなら私でも手伝える。それにこの部屋には寮と違って鍵が無いんだ、それに私がここに居ても問題の無い話をしていたんだろ?」
カウラはそう言って畳に座っているかなめの頭に手を載せる。かなめはカウラの手を振り払うとそのまま一人廊下に飛び出していった。
カウラはじっと誠に視線を向けてきた。
「プレゼントは絵か」
「ええ、まあ……」
そう言う誠にカウラは微笑んでみせた。
「取り柄があるのは悪いことじゃない。期待しているぞ……少なくともこの迷惑をかける事しか能がない何の役に立たない女二人よりはな」
そう言うとカウラは誠から目を離して珍しいものを見るように誠の部屋を眺め回した。カウラの嫌味にこめかみを引きつらせて右手を握りしめているかなめをアメリアが肩を叩いて、なんとか押さえていた。
「それにしても本棚は立派だが漫画が多いな。もう少し社会勉強になるようなものを読んだほうが良いな。クバルカ中佐に助言してもらうがいい。あの人は読書家だ。いろいろな本を持っている。言えば貸してくれるかもしれないぞ」
誠もアメリアも歩き回るカウラを制するつもりも無かった。どこかしらうれしそうなそんな雰囲気をカウラはかもし出していた。
「気にせず作業を続けてくれ。神前は本当に絵が上手いのは知っている話だからな。どんなシチュエーションでも自在にデザインできる才能。実に羨ましい」
そう言うとカウラは棚の一隅にあった高校時代の練習用の野球のボールを手にした。
「カウラちゃんあのね……」
アメリアがようやく言葉を搾り出す。その声にカウラが振り向いた。引きつっているアメリアの顔に不思議そうな視線を投げかけてきた。
「あれでしょ?もらったときに見たほうが楽しみが増えたりするでしょ?」
かなめとアメリアはなんとかこの部屋に居座ろうとするカウラを追い出すつもりの様だった。
「そう言うものなのか?アメリアや西園寺のふざけた意見を取り入れた絵だったりしたら怒りが倍増するのは確実かもしれないが」
今度はカウラはその視線を誠に向けてきた。確かに先ほどの意見のいくつかを彼女に見せれば冷酷な表情で破り捨てかねないと思って愛想笑いを浮かべた。
「なるほど、内緒にしたいのか。それなら別にかまわないが……西園寺!」
カウラの強い口調に廊下で様子を伺っていたかなめが顔を覗かせた。
「こちらは二人に任せるが貴様の明日の銀座での買い物。私もついて行かせてもらうからな!貴様に任せるとろくなものを買ってこない。貴様の金は領民の血と汗と涙の結晶だということを忘れるな!」
「なんでだよ。アタシも秘密にしておいて……」
そこまで言ったところで先ほどとはまるで違う厳しい表情のカウラがそこにいた。
「まあ数千円の買い物ならそれでもかまわないが、何度も言うが貴様の金は平民の血と汗の結晶なんだ。そう簡単に右から左に動かしていい金額と悪い金額の区別のつかない貴様に任せているとろくなことにならない」
カウラは呆れたようにかなめを見つめた。誠も昨日、かなめが気に入らないと買うのをやめたティアラの値段が数百万だったことを思い出しニヤニヤ笑っているかなめに目を向けた。
「なんだよ、アタシは絵なんかよりももっと実用に足るものを買ってやろうとしただけだ。アタシは甲武の顔ともいえる四大公家筆頭の貴族様なんだぜ?そんなアタシの上官が貧相な宝飾品をつけてそれなりの舞台に立ったなんてことになったらアタシの面子が丸つぶれだ。それはアタシの貴族としての格を見せるための有効な金の使い方と言うんだ。まあ、確かにアタシみたいな最上級の貴族にとってはと言う限定は付くがな」
そう言うと立ち上がり、かなめは自分より一回り大柄なカウラを見上げた。だがカウラもひるむところが無かった。
「身につけているもので人の価値が変わるという世界に貴様がいたのは知っている。だが、私にまでそんな価値観を押し付けられても迷惑なだけだ」
カウラの言葉がとげのように突き刺さったようでかなめは眼光鋭くカウラをにらみつけた。
「そんなに難しく考えるなよ。要するにだ。アタシの満足できる格好でそう言う舞台に出てくれりゃあいい。それだけの話だ」
そこで話を切り上げようとするかなめだが、カウラはそのつもりは毛頭無かった。
「貴様の身勝手に付き合うのはごめんだな。それにこれまでの貴様の理屈ならアメリアにも買ってやる必要があるんじゃないのか?」
カウラの言葉に手を打つかなめをアメリアはまばゆい光をまとっているような目で見つめた。
「ああ、そうだな。オメエもいるか?」
かなめは渋々そうつぶやいた。だが目の前には満面の笑みで紺色の髪を掻きあげるアメリアの姿があった。
「断る理由が無いじゃないのよ……お・ひ・め・さ・ま!」
「気持ち悪りい!」
しなだれかかるアメリアをかなめは振り払った。だが、その状況でカウラはかなめがプレゼントして来る高額な宝飾品を断る理由が無くなった。
「でもあまり派手なのは……」
そんなカウラの肩に自信を持っているかなめが手を乗せた。
「わかってるよ。アタシの目を信じな。派手なだけで中身のない宝飾品はアタシの好みにも反する。要はオメエを映えさせる真のアイテムを審美眼のあるアタシが選ぶんだ。アタシの目を信じていれば大丈夫だ!」
かなめには自信がみなぎっていた。そんな表情は模擬戦の最中にしか見れないものだった。隣のアメリアもうれしそうに妄想を繰り広げていた。
「じゃあ貴様だけでなく私の目にもかなうもので頼む。日頃の貴様を見ていると貴様の趣味というものはどうにも信用できない。日野を見てそこのところは更によく理解した」
カウラは場が明らかにかなめのペースに飲まれていると感じて不安げに誠に目をやりながら引き下がろうとした。だが、この状況でかなめが彼女を巻き込まないはずが無かった。
「あれ?ついてくるって言わなかったか?自分のセンスで選ぶんだろ?まあセンスがテメエにあればの話だがな。オメエが貧相な安物を選んだところを笑いものにしてやろうと思ってたんだけどなあ……」
かなめはそう言って目じりを下げた。カウラは宝飾品などと言うものは買ったことが無く、センスに自信が無いのでおどおどと戸惑うばかりだった。アメリアはまだ妄想を続けていた。
「安心しろよ。アタシが行く店は地球ブランドのアタシの趣味の合わねえような品物しか置いてねえ店じゃなくてアタシの好みを知ってる信用が置けるところばかりだからな。つまらないものはアタシが文句を言って下げさせて見せるぞ」
かなめは当然のように胸を張る。それをカウラはさらに心配性な表情で見つめる。こうしてすっかり四人で中心街に向かうことになってため息を漏らす誠だった。
「で……僕の絵は?」
「楽しみにしている。西園寺の贈り物よりはな。私は作られた存在だ。金ですべてを片付ける誰かのような発想はそもそも持っていない」
カウラはそれだけ言うと出て行った。
「結構な出費になりそうね……かなめちゃん大丈夫?」
そう言ってにやけたアメリアだが、かなめは別のそれを気にする様子は無かった。
「まあ、何とかなるだろ。アタシはかえでみたいに異動になるたびに屋敷を買ったりなんかはしないし……神前、あんまり根はつめるなよ」
そう言うとかなめは右手を上げてそのまま出て行った。それにつられて興味を失ったようにアメリアも続いた。
誠はようやく独りになって礼服姿のカウラを想像しながら下書きに取り掛かろうとした。
「そうよね。あの娘が何を期待しているかは誠ちゃんより私達のほうが良く知っているはずよね。いつもこの三人で部隊を引っ張って来たんだから。私が企画を立てていろんなことをやって、かなめちゃんが銃を撃って、それをカウラちゃんが止めて……ってそれって引っ張ってないじゃん!って一人ボケツッコミしちゃったりして」
自信満々に答えるかなめとアメリアに誠は嫌な予感がしていた。完全に冗談を連発するときの二人の表情がそこにある。そしてそれにツッコんでいるだけで描く気がうせるのは避けたかった。
「じゃあ、どういうのが良いんですか?」
誠は恐る恐るにんまりと笑う二人の女性士官に声をかけた。
「まず、ああ見えてカウラは自分がお堅いと言われるのが嫌いなんだぜ。知ってるか?」
得意げにまずそう言うかなめを誠はげんなりした目で見つめた。そんなものはカウラに初めて会った瞬間に女性に疎い誠にも分かったことだった。
「ええ、まあ。確かにお堅い人ほどそう言う傾向は有りますね。よく聞く話です」
アメリアは例外としてもそれなりになじんだ日常を送っているアメリアの部下の運航部の女子の人造人間達に憧れを抱いているように見えることもある。中でもサラのなじんだ様子には時々羨望のまなざしを向けるカウラを見ることができた。
「それに衣装もあんまり薄着のものは駄目よ。あの娘のコンプレックスは知ってるでしょ?」
アメリアの指摘。たしかに平らな胸を常にかなめに弄られているのを見ても、誠も最初から水着姿などは避けるつもりでいた。
「あと、露出が多いのも避けるべきだな。あいつはああ見えて恥ずかしがり屋でもあるからな。太ももや腹が露出しているビキニアーマーの女剣士とかは避けろよ……オメエがアメリアからファンタジー系エロゲのヒロインを意地でもビキニアーマーにしたがることくらいアタシだって知ってんだ……オメエ等本当に変態だな」
そんな的確に指摘していくかなめを誠は真顔で覗き見た。二年以上の相棒として付き合ってきただけにかなめの言葉には重みを感じた。確かに先日海に行ったときも肌をあまり晒すような水着は着ていなかった。ここで誠はファンタジー系のイラストはあきらめることにした。
「それならお二人は何が……」
『メイド服』
二人の声があわさって響く。それと同時に誠は耐え難い疲労感に襲われた。
「かなめちゃん真似しないでよね!それにメイド服なら私がプレゼントしたじゃない!」
「それを着せてそれを参考にして描けばいいじゃねえか!それに神前はメイドさんが好きだろ?アメリアと一緒で。アタシは貴族の産まれだから知り合いの家に行くたびにメイドを見てきた。いろんなのがいたぞ……メイドについて知りたければアタシに聞け!」
得意げに胸を張るかなめに誠は首をひねりながら見つめ返した。
「メイドコスですか……僕の最初の候補には上がってましたけど、カウラさんに似合うかどうかとなると……それにメイドと言うとどうしても日野少佐を思い出すんで。僕がカウラさんのメイドコスを描いたなんて日野少佐が知ったら『許婚の僕に相談もなしにそんな絵を描くなんて許せないな!メイドの衣装については僕ほど造詣が深い人間がいないんだ!ぜひ僕のも描いてくれ!』とか言ってメイドコスで出勤して一日その恰好で勤務するかもしれませんよ?あの人に羞恥心とか期待するのは無理なんで。そんな状態を規則にうるさいクバルカ中佐が許すと思います?面倒なことになるのは確実ですよ」
ニヤニヤと笑いながら近づいてくるかなめに誠は苦笑いで答えた。かなめのうれしそうな表情に誠は思わず身構えた。
「でも……考えにはあったんだろ?メイドコスのカウラに萌えーとか」
心理を読むのはさすが嵯峨の姪である。誠は思わず頭を掻いていた。
「ええ、まあ一応……でも最初だけですよ!メイド喫茶とか僕は行ったこと無いですから!」
そんな誠の言葉にかなめは満足げにうなずいた。だが突然真剣な、いつも漫画を読むときの厳しい表情になったアメリアがいつもどおりに誠に声をかけた。
「まあ冗談はさておいて、何が良いかしら?」
アメリアはそう言って乗り気のかなめのはしごをあっさりと外した。
「冗談だったのか?アタシにはオメエは本気だと思ってたけど。まあアタシはマジで冗談だ!」
かなめの言葉。彼女が本気だったのは間違いないが、それにアメリアは大きなため息で返す。そんな彼女をかなめはにらみつける。いつもどおりの光景がそこにあった。
「人をこれまでの行動だけで勝手に決め付けるのはかなめちゃんの悪い癖ね。メイド服は私のプレゼントだけで十分。他のバリエーションも考えなきゃ♪」
自信満々にアメリアは答えた。かなめは不満げに彼女を見上げた。
「そこまで言うんだ、何か案はあるのか?自信ありそうじゃねえか。ちゃんとまともな答えを返せよ」
アメリアとかなめ。もはや絵を描くのが誠だということを忘れたかのような二人の言動に突っ込む気持ちも萎えた誠は椅子に座ってじっと二人を見上げていた。
「一応案はあるんだけど……誠ちゃんも少しはこういうことを考えてもらいたい時期だから」
アメリアは神妙な顔でそう言った。
「何の時期なんだよ!そんな時期いらねえよ!」
かなめツッコむ。だが、アメリアのうれしそうな瞳に誠は知恵を絞らざるを得なかった。
「そうですね……野球のユニフォーム姿とか……カウラさんの私服っていつも地味なんで、らしい格好と言うとそれ以外は……」
誠はとりあえずそう言ってみた。アンダースローの精密コントロールのピッチャーとして草野球リーグでのカウラの評判は高かった。俊足好打で知られているアメリアと外野の要で一番バッターを務める島田を別格とすれば注目度は左の技巧派として知られる誠の次に評価が高い。さらに誠がエースとなってからは『カウラゾーン』と他チームから呼ばれるカウラのショートの守備範囲は敵には脅威以外の何ものでも無かった。
「なるほどねえ……野球か……ならアタシがすぐにアイツの投げてる動画とかを出してやろうか?アイツのアンダースローは芸術品だ。本当に地上すれすれ……浮き上がるように低めのストライクゾーンから高めのボールのコースに浮き上がるんだからな。マジでアイツ独立リーグくらいだったら受かるんじゃねえのか?右打者へのワンポイントリリーフだったらアタシが監督だったら喉から手が出るほど欲しがるぞ。それにあのショートの守備。そっちもまるでプロレベルだな。どんなバウンドだろうが間違いなく膝で打球の勢いを殺して受けて正確な送球をする。そっちの方はそれこそプロの名ショート顔負けだからな」
サイボーグであるため大の野球好きでありながらプレーができずに監督として参加しているかなめが大きくうなずいた。
「でも、絵として考えると意外と個性が出ないわよね。ユニフォームと背番号に目が行くだろうし……背番号6のエースって高校野球の臨時投手じゃないんだから。それにそれじゃあ首から上を誰に替えても同じ絵になっちゃうんじゃないの?それこそAIでも作れるレベルよね。手描きをした意味がまるで無いわ」
アメリアの指摘は的確だった。アンダースローで司法局実働部隊のユニフォームを着て背番号が6。そうなればカウラとはすぐわかるがそれゆえに面白みにかけると誠も思っていた。それにプロにも似たようなアンダースローピッチャーが居ると言われれば何の反論もできない。
「それにカウラちゃんのきれいな緑の髪が帽子で見えないじゃない。あの子の売りはあの奇麗な流れるような髪とその鮮やかな緑色なんだから。それは却下!」
そんなアメリアの決定的な一言に誠は少しへこんだ。
「そう言えば去年の時代行列の時の写真があっただろ?あれを使うってのはどうだ?」
かなめはそう言って手を打った。豊川八幡宮での節分のイベントに去年から加わった時代行列。源平絵巻を再現した武者行列の担当が司法局実働部隊だった。鎧兜に身を固めたカウラやかなめの姿は誠の徒歩武者向けの鎧を発注するときに見せてもらっていた。凛とした女武者姿の二人。明らかに知っていてわざと時代を間違えた赤い当世具足の鎧を身につけているアメリアの姿に爆笑したことも思い出された。
「あの娘、馬に乗れないわよね。大鎧で歩いているところを描く訳?それとも無理して馬に乗せてみせる?カウラちゃんはそれを気にしてあの行事自体相当嫌がってるみたいじゃないの。そんなのを描くわけ?それこそ嫌がらせじゃないの?」
アメリアの言葉にまた誠の予定していたデザインが却下された。鉢巻に太刀を構えたカウラの構図が浮かんだだけに誠の落ち込みはさらにひどくなった。
「あとねえ……なんだろうな。パイロットスーツ姿は胸が……。巫女さんなんて言うのはちょっとあいつとは違う感じだろ?」
「巫女さん萌えなんだ、かなめちゃん」
アメリアがかなめの言葉を聞くと満面の笑みを浮かべた。
「ちげえよ馬鹿!」
ののしりあう二人を置いて誠は頭をひねった。だが、どちらかといえば最近はアメリアの企画を絵にすることが多いこともあって自分で絵柄を決めることが減っているだけに誠の中でなかなか形になる姿が想像できずにいた。
かなめも首をひねって考えていた。隣で余裕の表情のアメリアを見れば、いつものかなめならすぐにムキになって手が出るところだが、いい案をひねり出そうとして一緒に思案にくれていた。
「黙ってねえで神前、オメエも考えろ!アタシ等がこんなに苦労してやってるんだ!オメエが考えねえで誰が考えるんだ!」
誠にそう言うかなめだが彼女も良い案が思いつきそうに無いのはすぐにわかった。
「じゃあ……甲武風に十二単とか衣冠束帯とか……駄目ですね。わかりました。……西園寺さんそんな軽蔑するような目で見ないでくださいよ!」
闇雲に言ってみても、ただアメリアが首を横に振るばかりだった。かなめはアメリアの余裕の表情が気に入らないのか口元を引きつらせた。
「もらってうれしいイラストじゃないと。驚いて終わりの一発芸的なものはすべて不可!当たり前の話じゃない。それに甲武の『殿上会』には出たことは無いけど、かなめちゃんは何度も十二単も衣冠束帯も何度も着たことがあるんでしょ?かなめちゃんを想像する衣装を常にかなめちゃんに迷惑をかけられてるカウラちゃんが着たがるわけが無いじゃないの」
「白拍子や舞妓さんや甲武名物の花街の花魁道中も不可ということだな」
かなめの発想にアメリアは呆れたような顔をした後にうなずいた。それを聞くとかなめはそのままどっかりと部屋の中央に座り込んだ。部屋の天井の木の板を見上げてかなめはうなりながら考えた。
「西洋甲冑……くの一……アラビアンナイト……全部駄目だよな……どれもアメリアのエロゲの世界にしかなんねえからな」
アメリアを見上げるかなめ。アメリアは無情にも首を横に振るばかりだった。
「ヒント……出す?」
「いいです!」
誠は完全にからかうような調子のアメリアにそう言うと紙と向かい合った。だがこういう時のアメリアは妥協という言葉を知らない。誠はペンを口の周りで動かしながら考え続ける。カウラの性格を踏まえたうえで彼女が喜びそうなシチュエーションのワンカットを考えてみた。創造性とはあまり無縁なカウラのことなので基本的に日常とかけ離れたものは呆れて終わりになる。それは誠にもわかった。
「いっそのこと礼服で良いんじゃないですか?東和陸軍の」
やけになった誠の一言にアメリアが肩を叩いた。
「そうね、カウラちゃんの嗜好と反しないアイディア。これで誠ちゃんも一人前よ。堅物のカウラちゃんにぴったりだし。よく見てるじゃないのカウラちゃんのこと」
「礼服なら、余計な演技をさせずに『立っているだけで』カウラになる」
満面の笑みで誠を見つめるアメリアとかなめ。誠はようやく気持ちが落ち着いて紙に向かおうとした。
「それで誰が堅物なんだ?」
突然響く第三者の声。アメリアが恐る恐る声の方を振り向くとカウラが表情を殺したような様子で立っていた。その声で瞬時に誠のペンが止まった。
「あれ?来てたの……下のお片付けは終わったわけね……手伝えなくってごめんね……」
「片付けくらいなら私でも手伝える。それにこの部屋には寮と違って鍵が無いんだ、それに私がここに居ても問題の無い話をしていたんだろ?」
カウラはそう言って畳に座っているかなめの頭に手を載せる。かなめはカウラの手を振り払うとそのまま一人廊下に飛び出していった。
カウラはじっと誠に視線を向けてきた。
「プレゼントは絵か」
「ええ、まあ……」
そう言う誠にカウラは微笑んでみせた。
「取り柄があるのは悪いことじゃない。期待しているぞ……少なくともこの迷惑をかける事しか能がない何の役に立たない女二人よりはな」
そう言うとカウラは誠から目を離して珍しいものを見るように誠の部屋を眺め回した。カウラの嫌味にこめかみを引きつらせて右手を握りしめているかなめをアメリアが肩を叩いて、なんとか押さえていた。
「それにしても本棚は立派だが漫画が多いな。もう少し社会勉強になるようなものを読んだほうが良いな。クバルカ中佐に助言してもらうがいい。あの人は読書家だ。いろいろな本を持っている。言えば貸してくれるかもしれないぞ」
誠もアメリアも歩き回るカウラを制するつもりも無かった。どこかしらうれしそうなそんな雰囲気をカウラはかもし出していた。
「気にせず作業を続けてくれ。神前は本当に絵が上手いのは知っている話だからな。どんなシチュエーションでも自在にデザインできる才能。実に羨ましい」
そう言うとカウラは棚の一隅にあった高校時代の練習用の野球のボールを手にした。
「カウラちゃんあのね……」
アメリアがようやく言葉を搾り出す。その声にカウラが振り向いた。引きつっているアメリアの顔に不思議そうな視線を投げかけてきた。
「あれでしょ?もらったときに見たほうが楽しみが増えたりするでしょ?」
かなめとアメリアはなんとかこの部屋に居座ろうとするカウラを追い出すつもりの様だった。
「そう言うものなのか?アメリアや西園寺のふざけた意見を取り入れた絵だったりしたら怒りが倍増するのは確実かもしれないが」
今度はカウラはその視線を誠に向けてきた。確かに先ほどの意見のいくつかを彼女に見せれば冷酷な表情で破り捨てかねないと思って愛想笑いを浮かべた。
「なるほど、内緒にしたいのか。それなら別にかまわないが……西園寺!」
カウラの強い口調に廊下で様子を伺っていたかなめが顔を覗かせた。
「こちらは二人に任せるが貴様の明日の銀座での買い物。私もついて行かせてもらうからな!貴様に任せるとろくなものを買ってこない。貴様の金は領民の血と汗と涙の結晶だということを忘れるな!」
「なんでだよ。アタシも秘密にしておいて……」
そこまで言ったところで先ほどとはまるで違う厳しい表情のカウラがそこにいた。
「まあ数千円の買い物ならそれでもかまわないが、何度も言うが貴様の金は平民の血と汗の結晶なんだ。そう簡単に右から左に動かしていい金額と悪い金額の区別のつかない貴様に任せているとろくなことにならない」
カウラは呆れたようにかなめを見つめた。誠も昨日、かなめが気に入らないと買うのをやめたティアラの値段が数百万だったことを思い出しニヤニヤ笑っているかなめに目を向けた。
「なんだよ、アタシは絵なんかよりももっと実用に足るものを買ってやろうとしただけだ。アタシは甲武の顔ともいえる四大公家筆頭の貴族様なんだぜ?そんなアタシの上官が貧相な宝飾品をつけてそれなりの舞台に立ったなんてことになったらアタシの面子が丸つぶれだ。それはアタシの貴族としての格を見せるための有効な金の使い方と言うんだ。まあ、確かにアタシみたいな最上級の貴族にとってはと言う限定は付くがな」
そう言うと立ち上がり、かなめは自分より一回り大柄なカウラを見上げた。だがカウラもひるむところが無かった。
「身につけているもので人の価値が変わるという世界に貴様がいたのは知っている。だが、私にまでそんな価値観を押し付けられても迷惑なだけだ」
カウラの言葉がとげのように突き刺さったようでかなめは眼光鋭くカウラをにらみつけた。
「そんなに難しく考えるなよ。要するにだ。アタシの満足できる格好でそう言う舞台に出てくれりゃあいい。それだけの話だ」
そこで話を切り上げようとするかなめだが、カウラはそのつもりは毛頭無かった。
「貴様の身勝手に付き合うのはごめんだな。それにこれまでの貴様の理屈ならアメリアにも買ってやる必要があるんじゃないのか?」
カウラの言葉に手を打つかなめをアメリアはまばゆい光をまとっているような目で見つめた。
「ああ、そうだな。オメエもいるか?」
かなめは渋々そうつぶやいた。だが目の前には満面の笑みで紺色の髪を掻きあげるアメリアの姿があった。
「断る理由が無いじゃないのよ……お・ひ・め・さ・ま!」
「気持ち悪りい!」
しなだれかかるアメリアをかなめは振り払った。だが、その状況でカウラはかなめがプレゼントして来る高額な宝飾品を断る理由が無くなった。
「でもあまり派手なのは……」
そんなカウラの肩に自信を持っているかなめが手を乗せた。
「わかってるよ。アタシの目を信じな。派手なだけで中身のない宝飾品はアタシの好みにも反する。要はオメエを映えさせる真のアイテムを審美眼のあるアタシが選ぶんだ。アタシの目を信じていれば大丈夫だ!」
かなめには自信がみなぎっていた。そんな表情は模擬戦の最中にしか見れないものだった。隣のアメリアもうれしそうに妄想を繰り広げていた。
「じゃあ貴様だけでなく私の目にもかなうもので頼む。日頃の貴様を見ていると貴様の趣味というものはどうにも信用できない。日野を見てそこのところは更によく理解した」
カウラは場が明らかにかなめのペースに飲まれていると感じて不安げに誠に目をやりながら引き下がろうとした。だが、この状況でかなめが彼女を巻き込まないはずが無かった。
「あれ?ついてくるって言わなかったか?自分のセンスで選ぶんだろ?まあセンスがテメエにあればの話だがな。オメエが貧相な安物を選んだところを笑いものにしてやろうと思ってたんだけどなあ……」
かなめはそう言って目じりを下げた。カウラは宝飾品などと言うものは買ったことが無く、センスに自信が無いのでおどおどと戸惑うばかりだった。アメリアはまだ妄想を続けていた。
「安心しろよ。アタシが行く店は地球ブランドのアタシの趣味の合わねえような品物しか置いてねえ店じゃなくてアタシの好みを知ってる信用が置けるところばかりだからな。つまらないものはアタシが文句を言って下げさせて見せるぞ」
かなめは当然のように胸を張る。それをカウラはさらに心配性な表情で見つめる。こうしてすっかり四人で中心街に向かうことになってため息を漏らす誠だった。
「で……僕の絵は?」
「楽しみにしている。西園寺の贈り物よりはな。私は作られた存在だ。金ですべてを片付ける誰かのような発想はそもそも持っていない」
カウラはそれだけ言うと出て行った。
「結構な出費になりそうね……かなめちゃん大丈夫?」
そう言ってにやけたアメリアだが、かなめは別のそれを気にする様子は無かった。
「まあ、何とかなるだろ。アタシはかえでみたいに異動になるたびに屋敷を買ったりなんかはしないし……神前、あんまり根はつめるなよ」
そう言うとかなめは右手を上げてそのまま出て行った。それにつられて興味を失ったようにアメリアも続いた。
誠はようやく独りになって礼服姿のカウラを想像しながら下書きに取り掛かろうとした。
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