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第十七章 『特殊な部隊』と上流階級
第47話 銀座・貴賓室にて
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「しかし、この通りの車の多い事……しかも全部高級車ばかり。この道は本当に何度見ても嫌になるわ。地下鉄で来て正解だったわよ」
翌日、アメリアは下町の誠の実家を朝早く出て東都の中心街、銀座にいた。造幣局前の出口階段から外界に出ると、目の前を走る国道に目を向けた。そこには歩いたほうが早いのではと思わせるような高級車による渋滞が繰り広げられていた。その中にはカウラの『スカイラインGTR』を上回る馬力を誇るスポーツカーも混じっているので、その馬力の活かしどころを見出せない車にカウラは同情の視線を向けていた。
「まあな。アタシがいつ来てもこんな感じだから……って、オメエ等三人の貧乏人にここらに来る用事ってあるのか?特にアメリア、オメエに。オメエは都内に来るって言ったら寄席かアニメショップの限定品を買いに来るくらいしか用はねえだろ?この辺に寄席もアニメショップもねえぞ」
ダウンジャケットを着込んだかなめが知った風にアメリアに向けてつぶやいた。これから彼女の顔が利くという宝飾品専門店に行くというのに、その服装はいつもと変わることが無かった。誠もアメリアもカウラも取り立てて着飾ってはいない。そして周りを歩く人々のいかにも気取った調子に誠は違和感を感じながら慣れた調子で歩き始めたかなめを見つめていた。
「結構アニメやゲームの中の人のイベントとかがこのあたりのホールでやることがあるから良く来るのよ。この辺は車で来るには不便だけど、電車は地下鉄が縦横無尽に走ってるからそういうイベント会場は多いのよね。ねえ、誠ちゃん!」
「ええ、まあ……僕もたまに来たいと思うんですけど、僕は電車にも酔うんで……でも『特殊な部隊』に入ってみなさんのおかげで最近は電車は平気になりましたけど」
にやけた目つきでアメリアに見つめられて誠は思わずうなずいた。かなめはそれを見るとそのまま迷うことなく広い歩道が印象的な中央通りを歩き始めた。確かにアメリアの言うとおりだったが、数年に一度この銀座の近くに来るときは、大体そういうときは同好の士も一緒に歩いて街の雰囲気とかけ離れた状況を作り出してくれていて誠にとってはそれが当たり前になっていた。
「でも、本当にこんな格好で着て良い街なのか?ここは?周りを見てみろ、こんなラフな格好をしているのは私達くらいだぞ。こんなにアウェー気分満点だと私でも気分が悪くなってくる」
誠の耳元にカウラが口を寄せてつぶやいた。誠も正直同じ気持ちだった。
少なくとも私立高校の体育教師の息子が来るには不釣合いな雰囲気に包まれていた。現役の士官でもこんなところに来るのは貴族のかなめのような立場の人間だけだろう。そう思いながらすれ違う人々から視線を集めないようにせかせかと誠とカウラは歩いた。
「なによ、二人とも黙っちゃって。別に私達は何も悪いことをして無いんだから萎縮することなんてないのに」
かなめの隣を悠々と歩いていたアメリアが振り向いてにんまりと笑った。
「だってだな……その……」
思わずカウラはうつむいた。アメリアにあわせて立ち止まったかなめも満足げな笑みを浮かべていた。
「なにビビッてるんだよ。アタシ等は客だぜ?しかもこれから行くところは甲武の殿上貴族御用達の店でアタシの顔でいろいろとサービスしてくれる店だ。そんなに硬くなることはねえよ。アタシもここら辺はいつもこんな格好でうろついてる。金さえあれば何でもできるのがこの辺の店の特徴だ。アタシはどんな格好をしてようが金はあるんだ。連中は金の亡者だから連中に文句を言う資格はねえ。その辺を考えて行動すれば何の問題もねえんだ」
そう言ってそのままかなめは歩き始めた。調子を合わせるようにアメリアはかなめについていった。
「本当に大丈夫なのか?こんな格好で」
誠に何度もたずねるカウラだが、その回答が誠にはできないことは彼女もわかっているようで、再び黙って歩き始めた。
次々と名前の通った地球ブランドの店の前を通った。アメリアはちらちらと見るが、どこか納得したようにうなずくだけで立ち止まる様子も見せずに通り過ぎた。かなめにいたっては目もくれないで颯爽と歩いていた。誠とカウラはそのどこかで聞いたようなブランド名の実物を一瞥してはかなめから遅れないように急いで歩くのを繰り返していた。
「見えてきたぞ、そこだ」
かなめが指差す店があった。大理石の壁面と凝った張り出すようなガラスの窓が目立つ宝飾品の店だった。店の目の前ではリムジンから降りた毛皮のコートの女性が絵に描いたように回転扉の中に消えていくのが見えた。あまりにも自分達とは不釣り合いに見える印象を持ちながら誠は半分恐れをなしていた。
「帰りたいなあ……西園寺、今からでも帰らないか?」
明らかに場違いな雰囲気に飲まれたカウラはうつむくと誠だけに聞こえるようにそうつぶやいた。
「ビビるなって。よろしくて?行きますわよ」
振り返ってそう言ったかなめの雰囲気の変わり具合に誠もカウラも唖然とした。かなめは悠然と回転ドアに向かった。そこにはいつもの粗暴な怪力戦闘用サイボーグと言う雰囲気は微塵も無い。カジュアルな雰囲気のダウンジャケットも優雅な物腰のかなめが着ていると思うと最高級の毛皮のコートのようにも見えた。
「すっかりお姫様そのものになっちゃってるじゃないの。いつもの事ながら変わるものねえ……かなめちゃんは」
そう言いながらアメリアがついていった。その言葉を聴いて振り向いてにっこりと笑うかなめは誠にとっても別人のものだった。
回転扉を通ると店内には数人の客が対応に当たる清楚な姿の女性店員と語らっているのが見えた。店の造りは誠がこれまで見たことがあるようなデパートの宝飾品売り場などとは違って展示されているのは数は少ないが豪華なケースに入った指輪やネックレスやティアラ。その中身も誠は美術館等で目にしそうなものばかりだった。
「これは西園寺様いつも当店をご利用いただいてありがとうございます。今日は何をお探しでしょうか?」
落ち着いた物腰でかなめに近づいて来た女性の店員が声をかけてきた。それほど若くは見えないが清潔感のある服装が際立って見えた。かなめが顔を覚えられている。つまりここは甲武一の貴族のような超上流階級だけが入ることが許される超高級宝飾店なんだと悟り誠の心臓の鼓動が高鳴った。いつもなら軽口を叩きそうなアメリアも細い目をさらに細めて好奇心だけで辺りを見回していた。劇場のホールほどある店内に点々とわざと一つ一つを引き立たせるように離れて置かれたウィンドーケースがまるで一つ一つが博物館の展示品のように広いスペースに点在している。
「久しぶりに寄らせていただきましたわ。神田さんはいらっしゃるかしら?今日は比較的大事なものを買いたいと思って寄らせていただきましたの」
所作も変われば声色も変わるものだった。その豹変したかなめにアメリアは一人、生暖かい視線を送った。カウラは店員が声をかけてきたときから凍ったように固まっている。誠も似たような状況だった。
「わかりました……それではいつも通りお部屋にご案内しますので」
そう言って歩き出す店員にかなめは当然のように続いていった。このフロアの商品など眼中に無いというように視線もやらずに店員についていくかなめ。そのいかにも当然と言う姿に誠もアメリアも戸惑いながらついて行こうとした。
「カウラさん!」
誠に声をかけられるまで硬直していたカウラが驚いたようにその後につけた。店内でもVIP扱いされるにしては貧相な服装のかなめ達を不思議そうに見る客達の視線が痛かった。
「どうぞ、こちらです」
黒を基調とする妖艶な雰囲気の廊下から金の縁がまぶしい豪華な客室に通された。誠達の後ろにいつの間にかついてきていた若手の女性店員が扉のそばに並ぶ。穏やかに先輩とわかる店員が合図すると彼女達は静かにドアの向こうに消えていった。
「皆さんもお座りになられてはいかがです?」
すでにソファーに腰掛けているかなめの言葉に誠とカウラは引きつった笑みを浮かべていた。明らかにいつもの彼女を知っている三人には違和感のある言葉の調子。仕方なく誠達はソファーに腰掛けた。
「いつもお友達を紹介していただいてありがとうございます。この方達は……」
明らかに不釣合いな誠達を見回す店員をかなめは満足げに眺めた。
「職場の同僚ですわ。一応この二人に似合う品を用意して差し上げたくて参りましたの」
かなめの気取った言葉にアメリアは対応できずにあんぐりと口を開けていた。まさに鳩が豆鉄砲を食らった顔というものはこう言うものかと誠は納得した。
「あら、そうなのですか。それはまた大切なお友達なのですね」
そう言って微笑む店員にはさわやかな笑みが浮かんでいた。かなめの友達と紹介されて明らかに動揺しているカウラとやけに落ち着いているアメリアがいた。
「いえ、友達ではありませんわ。ただの同僚ですわ。お仕事上の関係ですので」
穏やかな声だがはっきりと響くその声に少し店員はうろたえた。だが、それも一瞬のことですぐに落ち着きを取り戻すとドアへと向かっていった。
「それでは用意をさせていただきます。しばらくお待ちください」
それだけ言って女性店員は出て行った。
「貴賓室付……さすがというかなんと言うか……甲武の未来の関白はさすがに違うわけだな……」
そう言ってカウラは周りを見回した。真顔になったアメリアがゆっくりと視線をかなめに向けた。
「かなめちゃん。気持ち悪いわよ」
「うるせえ。テメエ等は黙ってろ。ここがテメエ等の知らねえアタシのホームグラウンドだ。こういう場所が本来のアタシの生きる世界なんだよ……いつもはオメエ等のレベルに合わせてやってんの!感謝しろよ!」
一瞬だけいつのもかなめに戻った。それを見て誠は安心して成り行きに任せる決意を固めた。
しかし、ドアがノックされたころにはかなめはすでに西園寺家当主の姿に戻っていた。
「どうぞ」
そんな丁寧なかなめの言葉に誠達は思わずかゆみを覚えていた。ドアが開いた瞬間、誠とアメリアは現れた女性の纏っている衣装に息を呑んだ。
「失礼します」
「メイド!メイドさん!」
いつの間にかアメリアはそうつぶやいていた。入ってきたのはフリルのついたスカート、白いエプロンがまぶしい典型的なメイド服の女性だった。甲武貴族の出入りする店だからといって、そんなものがリアルにいるなどとは誠は信じられなかった。
「ベルガー大尉、クラウゼ中佐、神前曹長。今日もアッサムでよろしいですわよね?」
かなめは自然体で微笑んだ。その妖艶にも見える表情に誠は頭を掻きながらうなずいた。二人のメイドは静かに紅茶の準備を進めていた。
その光景を眺めている誠達の耳に再びノックの音が響いた。
「どうぞ」
再び凛としたかなめの声が響いた。開いた扉からは長身の紳士が現れた。誠は思わずアメリアに目をやったが、彼女は紅茶の準備を進めるメイドに夢中だった。しかし現れた紳士があまりにも典型的な執事のような姿をしているのが目に入るとアメリアの表情は驚きに変わった。
「かなめちゃん!」
思わず抱きつきかねないような感無量の表情を浮かべているアメリアが叫んだ。それを見て爆笑しそうになるかなめだが慎みの演技を思い出すようにして静かに目の前に置かれたティーカップに軽く触れた。
「何かしら?クラウゼ中佐」
「ありがとう!本当にありがとう!」
メイドに執事。そのアニメで定番のサブキャラをじかに目にすることでついにアメリアは感激のあまり泣き出した。だがその理由が良くわかるかなめは待たせている神田という名前の執事風の男に笑顔を向けてアメリアを無視することに決めたようだった。
「これはお待たせいたしました」
タイミングを見計らって執事風の神田という老紳士は静かにかなめの正面に座る。隣に雰囲気の違う人物に座られて誠は居づらい気分になった。
「このお二人に似合うティアラなどをお求めとか」
「そうですわ。一応名前だけとはいえ私の上司ですもの。一緒にいて私が恥をかかされてはたまりませんわ」
そんなかなめの言葉にこの場で唯一平常心を保っているカウラは明らかに不機嫌になった。一方のアメリアは紅茶を入れ終わってもそのまま待機しているメイドさんに夢中だった。
「いえいえ、ですが西園寺様程のお方とお付き合いされている方という事で探しますとかなりお時間が……甲武四大公家筆頭当主とお付き合いをなされている方として西園寺様のご期待に応えるほどの商品となりますと……当店でもなかなか……」
「分かっておりますわ。ただ明々後日がこのベルガー大尉の誕生日ですの……それに間に合い、かつ私の満足できるような品があると信じて今日は寄らせていただきましたの」
そう言ってかなめは目の前のカップを見下ろして紅茶をどうするか悩んでいるカウラに目をやる。その一瞬だけ見せるサディスティックな笑みに誠は大きくため息をついた。
「エメラルドグリーンの髪……もしかして……」
「私はゲルパルトの人造人間です」
カウラは一言そういうとまた難しそうな顔でカップを見下ろした。
「どういたしましたの?ベルガー大尉」
再び残忍な笑みを一瞬だけ浮かべた後にカウラにかなめは追い討ちをかけた。カウラはそれを見て覚悟を決めると机の中央に置かれた上品な白磁の上のレモンを手にとってカップに落とし込んだ。
「そんなに緊張なさらないでください」
笑みを浮かべる執事におどおどとうなずくとカウラは静かにカップを手にして口に運んだ。その様子をかなめは今にも噴出しそうな表情で見つめていた。
「髪を映えさす為に緑で統一するということになりますと……」
そう言って紳士はテーブルの上のコンソールに手を持っていった。次々と画像が移り、そしてエメラルドのはめ込まれたティアラとネックレス、ブレスレッドのセットを表示させた。
「これなどはいかがでしょうか?現在鏡都の支店に保管してあるものですが明後日には取り寄せることができると思いますが」
神田はそういうと画面をかなめの見えやすいように角度を変えて見せた。そこには誠でさえその値段が天文学的な金額になるであろう巨大なエメラルドが三つもちりばめられたティアラと、それを引き立てるようにこれも大きめの翡翠のネックレスが映し出されていた。
「緑の髪に緑の石。いまひとつ映えませんわね……これではまるでベルガー大尉が緑人間に見えてしまいますわ。他に候補となりそうなものはございませんの?」
かなめの言葉に神田という支配人は笑みを浮かべて静かにまた端末の操作に移った。その表情はこの写真を見ればかなめがどういう反応を示すかわかりきっているかのようで誠は感心させられた。
「それならこれなどはいかがでしょう?幸い当店にあるお品物ですので。今日お持ち帰りいただくこともできます」
そう言って画面に現れたのは赤い宝石……おそらくルビーのちりばめられたティアラとネックレス、そして指輪のセットだった。はめ込まれた石は一つ一つは大きくないものの、その数、そしてその周りを飾る小さなダイヤも見事に輝いて見える。明らかに高嶺の花とわかる商品にただ誠は息を呑んだ。
「なるほど、ルビーですわね。確かにベルガーさんの緑の髪には赤い色がアクセントになって似合うんじゃないかしら」
かなめはそう言って悠然とカウラに目を向けた。そのタレ目の真意を測りかねてカウラは呆然としていた。そこで神田は微笑んで話し始めた。
「よろしければ直接ご覧いただけますよ。早速用意させます。そしてこちらのご婦人のものは……」
今度はアメリアを一瞥して再び老執事は検索を始めた。カウラはただ呆然と二人の会話を聞いていた。もしそのまま彼女の気の抜けた顔を今のかなめが見たらかなめの演技のめっきは剥がれ落ちて大爆笑間違いないという状況だった。
誠はただ老執事の手元だけを見ていた。
「クラウゼ中佐のものは急がなくて結構ですわよ。また折を見て寄らせていただいた時に選ばせていただきますわ」
そういうと自然な動きでレモンと砂糖をカップに入れてかなめは悠然と紅茶を飲んだ。その優雅な姿はいつも寮で番茶をずるずるすすっている御仁と同一人物だとは誠には信じられなかった。
「なるほど、では、まもなく開かれる地球圏でのオークションなどに出品されることが考えられているようなものでもよろしいわけですね?」
かなめを見上げて穏やかに笑う初老の支配人の表情は穏やかだった。
「そうですわね。とりあえずコンセプトを私が決めますからその線で品物が出てきたときに連絡していただければ結構ですわ」
かなめはゆっくりとカップを置く。彼女にこんな芸当ができるとは誠も予想していなかった。
「それではこれなどはいかがでしょう」
そう言って映し出したのはダイヤ中心の白を基調としたようなティアラと首飾り、それに腕輪のセットだった。
誠は神田とかなめのやり取りの自然さにただ茫然と見守ることしかできなかった。
翌日、アメリアは下町の誠の実家を朝早く出て東都の中心街、銀座にいた。造幣局前の出口階段から外界に出ると、目の前を走る国道に目を向けた。そこには歩いたほうが早いのではと思わせるような高級車による渋滞が繰り広げられていた。その中にはカウラの『スカイラインGTR』を上回る馬力を誇るスポーツカーも混じっているので、その馬力の活かしどころを見出せない車にカウラは同情の視線を向けていた。
「まあな。アタシがいつ来てもこんな感じだから……って、オメエ等三人の貧乏人にここらに来る用事ってあるのか?特にアメリア、オメエに。オメエは都内に来るって言ったら寄席かアニメショップの限定品を買いに来るくらいしか用はねえだろ?この辺に寄席もアニメショップもねえぞ」
ダウンジャケットを着込んだかなめが知った風にアメリアに向けてつぶやいた。これから彼女の顔が利くという宝飾品専門店に行くというのに、その服装はいつもと変わることが無かった。誠もアメリアもカウラも取り立てて着飾ってはいない。そして周りを歩く人々のいかにも気取った調子に誠は違和感を感じながら慣れた調子で歩き始めたかなめを見つめていた。
「結構アニメやゲームの中の人のイベントとかがこのあたりのホールでやることがあるから良く来るのよ。この辺は車で来るには不便だけど、電車は地下鉄が縦横無尽に走ってるからそういうイベント会場は多いのよね。ねえ、誠ちゃん!」
「ええ、まあ……僕もたまに来たいと思うんですけど、僕は電車にも酔うんで……でも『特殊な部隊』に入ってみなさんのおかげで最近は電車は平気になりましたけど」
にやけた目つきでアメリアに見つめられて誠は思わずうなずいた。かなめはそれを見るとそのまま迷うことなく広い歩道が印象的な中央通りを歩き始めた。確かにアメリアの言うとおりだったが、数年に一度この銀座の近くに来るときは、大体そういうときは同好の士も一緒に歩いて街の雰囲気とかけ離れた状況を作り出してくれていて誠にとってはそれが当たり前になっていた。
「でも、本当にこんな格好で着て良い街なのか?ここは?周りを見てみろ、こんなラフな格好をしているのは私達くらいだぞ。こんなにアウェー気分満点だと私でも気分が悪くなってくる」
誠の耳元にカウラが口を寄せてつぶやいた。誠も正直同じ気持ちだった。
少なくとも私立高校の体育教師の息子が来るには不釣合いな雰囲気に包まれていた。現役の士官でもこんなところに来るのは貴族のかなめのような立場の人間だけだろう。そう思いながらすれ違う人々から視線を集めないようにせかせかと誠とカウラは歩いた。
「なによ、二人とも黙っちゃって。別に私達は何も悪いことをして無いんだから萎縮することなんてないのに」
かなめの隣を悠々と歩いていたアメリアが振り向いてにんまりと笑った。
「だってだな……その……」
思わずカウラはうつむいた。アメリアにあわせて立ち止まったかなめも満足げな笑みを浮かべていた。
「なにビビッてるんだよ。アタシ等は客だぜ?しかもこれから行くところは甲武の殿上貴族御用達の店でアタシの顔でいろいろとサービスしてくれる店だ。そんなに硬くなることはねえよ。アタシもここら辺はいつもこんな格好でうろついてる。金さえあれば何でもできるのがこの辺の店の特徴だ。アタシはどんな格好をしてようが金はあるんだ。連中は金の亡者だから連中に文句を言う資格はねえ。その辺を考えて行動すれば何の問題もねえんだ」
そう言ってそのままかなめは歩き始めた。調子を合わせるようにアメリアはかなめについていった。
「本当に大丈夫なのか?こんな格好で」
誠に何度もたずねるカウラだが、その回答が誠にはできないことは彼女もわかっているようで、再び黙って歩き始めた。
次々と名前の通った地球ブランドの店の前を通った。アメリアはちらちらと見るが、どこか納得したようにうなずくだけで立ち止まる様子も見せずに通り過ぎた。かなめにいたっては目もくれないで颯爽と歩いていた。誠とカウラはそのどこかで聞いたようなブランド名の実物を一瞥してはかなめから遅れないように急いで歩くのを繰り返していた。
「見えてきたぞ、そこだ」
かなめが指差す店があった。大理石の壁面と凝った張り出すようなガラスの窓が目立つ宝飾品の店だった。店の目の前ではリムジンから降りた毛皮のコートの女性が絵に描いたように回転扉の中に消えていくのが見えた。あまりにも自分達とは不釣り合いに見える印象を持ちながら誠は半分恐れをなしていた。
「帰りたいなあ……西園寺、今からでも帰らないか?」
明らかに場違いな雰囲気に飲まれたカウラはうつむくと誠だけに聞こえるようにそうつぶやいた。
「ビビるなって。よろしくて?行きますわよ」
振り返ってそう言ったかなめの雰囲気の変わり具合に誠もカウラも唖然とした。かなめは悠然と回転ドアに向かった。そこにはいつもの粗暴な怪力戦闘用サイボーグと言う雰囲気は微塵も無い。カジュアルな雰囲気のダウンジャケットも優雅な物腰のかなめが着ていると思うと最高級の毛皮のコートのようにも見えた。
「すっかりお姫様そのものになっちゃってるじゃないの。いつもの事ながら変わるものねえ……かなめちゃんは」
そう言いながらアメリアがついていった。その言葉を聴いて振り向いてにっこりと笑うかなめは誠にとっても別人のものだった。
回転扉を通ると店内には数人の客が対応に当たる清楚な姿の女性店員と語らっているのが見えた。店の造りは誠がこれまで見たことがあるようなデパートの宝飾品売り場などとは違って展示されているのは数は少ないが豪華なケースに入った指輪やネックレスやティアラ。その中身も誠は美術館等で目にしそうなものばかりだった。
「これは西園寺様いつも当店をご利用いただいてありがとうございます。今日は何をお探しでしょうか?」
落ち着いた物腰でかなめに近づいて来た女性の店員が声をかけてきた。それほど若くは見えないが清潔感のある服装が際立って見えた。かなめが顔を覚えられている。つまりここは甲武一の貴族のような超上流階級だけが入ることが許される超高級宝飾店なんだと悟り誠の心臓の鼓動が高鳴った。いつもなら軽口を叩きそうなアメリアも細い目をさらに細めて好奇心だけで辺りを見回していた。劇場のホールほどある店内に点々とわざと一つ一つを引き立たせるように離れて置かれたウィンドーケースがまるで一つ一つが博物館の展示品のように広いスペースに点在している。
「久しぶりに寄らせていただきましたわ。神田さんはいらっしゃるかしら?今日は比較的大事なものを買いたいと思って寄らせていただきましたの」
所作も変われば声色も変わるものだった。その豹変したかなめにアメリアは一人、生暖かい視線を送った。カウラは店員が声をかけてきたときから凍ったように固まっている。誠も似たような状況だった。
「わかりました……それではいつも通りお部屋にご案内しますので」
そう言って歩き出す店員にかなめは当然のように続いていった。このフロアの商品など眼中に無いというように視線もやらずに店員についていくかなめ。そのいかにも当然と言う姿に誠もアメリアも戸惑いながらついて行こうとした。
「カウラさん!」
誠に声をかけられるまで硬直していたカウラが驚いたようにその後につけた。店内でもVIP扱いされるにしては貧相な服装のかなめ達を不思議そうに見る客達の視線が痛かった。
「どうぞ、こちらです」
黒を基調とする妖艶な雰囲気の廊下から金の縁がまぶしい豪華な客室に通された。誠達の後ろにいつの間にかついてきていた若手の女性店員が扉のそばに並ぶ。穏やかに先輩とわかる店員が合図すると彼女達は静かにドアの向こうに消えていった。
「皆さんもお座りになられてはいかがです?」
すでにソファーに腰掛けているかなめの言葉に誠とカウラは引きつった笑みを浮かべていた。明らかにいつもの彼女を知っている三人には違和感のある言葉の調子。仕方なく誠達はソファーに腰掛けた。
「いつもお友達を紹介していただいてありがとうございます。この方達は……」
明らかに不釣合いな誠達を見回す店員をかなめは満足げに眺めた。
「職場の同僚ですわ。一応この二人に似合う品を用意して差し上げたくて参りましたの」
かなめの気取った言葉にアメリアは対応できずにあんぐりと口を開けていた。まさに鳩が豆鉄砲を食らった顔というものはこう言うものかと誠は納得した。
「あら、そうなのですか。それはまた大切なお友達なのですね」
そう言って微笑む店員にはさわやかな笑みが浮かんでいた。かなめの友達と紹介されて明らかに動揺しているカウラとやけに落ち着いているアメリアがいた。
「いえ、友達ではありませんわ。ただの同僚ですわ。お仕事上の関係ですので」
穏やかな声だがはっきりと響くその声に少し店員はうろたえた。だが、それも一瞬のことですぐに落ち着きを取り戻すとドアへと向かっていった。
「それでは用意をさせていただきます。しばらくお待ちください」
それだけ言って女性店員は出て行った。
「貴賓室付……さすがというかなんと言うか……甲武の未来の関白はさすがに違うわけだな……」
そう言ってカウラは周りを見回した。真顔になったアメリアがゆっくりと視線をかなめに向けた。
「かなめちゃん。気持ち悪いわよ」
「うるせえ。テメエ等は黙ってろ。ここがテメエ等の知らねえアタシのホームグラウンドだ。こういう場所が本来のアタシの生きる世界なんだよ……いつもはオメエ等のレベルに合わせてやってんの!感謝しろよ!」
一瞬だけいつのもかなめに戻った。それを見て誠は安心して成り行きに任せる決意を固めた。
しかし、ドアがノックされたころにはかなめはすでに西園寺家当主の姿に戻っていた。
「どうぞ」
そんな丁寧なかなめの言葉に誠達は思わずかゆみを覚えていた。ドアが開いた瞬間、誠とアメリアは現れた女性の纏っている衣装に息を呑んだ。
「失礼します」
「メイド!メイドさん!」
いつの間にかアメリアはそうつぶやいていた。入ってきたのはフリルのついたスカート、白いエプロンがまぶしい典型的なメイド服の女性だった。甲武貴族の出入りする店だからといって、そんなものがリアルにいるなどとは誠は信じられなかった。
「ベルガー大尉、クラウゼ中佐、神前曹長。今日もアッサムでよろしいですわよね?」
かなめは自然体で微笑んだ。その妖艶にも見える表情に誠は頭を掻きながらうなずいた。二人のメイドは静かに紅茶の準備を進めていた。
その光景を眺めている誠達の耳に再びノックの音が響いた。
「どうぞ」
再び凛としたかなめの声が響いた。開いた扉からは長身の紳士が現れた。誠は思わずアメリアに目をやったが、彼女は紅茶の準備を進めるメイドに夢中だった。しかし現れた紳士があまりにも典型的な執事のような姿をしているのが目に入るとアメリアの表情は驚きに変わった。
「かなめちゃん!」
思わず抱きつきかねないような感無量の表情を浮かべているアメリアが叫んだ。それを見て爆笑しそうになるかなめだが慎みの演技を思い出すようにして静かに目の前に置かれたティーカップに軽く触れた。
「何かしら?クラウゼ中佐」
「ありがとう!本当にありがとう!」
メイドに執事。そのアニメで定番のサブキャラをじかに目にすることでついにアメリアは感激のあまり泣き出した。だがその理由が良くわかるかなめは待たせている神田という名前の執事風の男に笑顔を向けてアメリアを無視することに決めたようだった。
「これはお待たせいたしました」
タイミングを見計らって執事風の神田という老紳士は静かにかなめの正面に座る。隣に雰囲気の違う人物に座られて誠は居づらい気分になった。
「このお二人に似合うティアラなどをお求めとか」
「そうですわ。一応名前だけとはいえ私の上司ですもの。一緒にいて私が恥をかかされてはたまりませんわ」
そんなかなめの言葉にこの場で唯一平常心を保っているカウラは明らかに不機嫌になった。一方のアメリアは紅茶を入れ終わってもそのまま待機しているメイドさんに夢中だった。
「いえいえ、ですが西園寺様程のお方とお付き合いされている方という事で探しますとかなりお時間が……甲武四大公家筆頭当主とお付き合いをなされている方として西園寺様のご期待に応えるほどの商品となりますと……当店でもなかなか……」
「分かっておりますわ。ただ明々後日がこのベルガー大尉の誕生日ですの……それに間に合い、かつ私の満足できるような品があると信じて今日は寄らせていただきましたの」
そう言ってかなめは目の前のカップを見下ろして紅茶をどうするか悩んでいるカウラに目をやる。その一瞬だけ見せるサディスティックな笑みに誠は大きくため息をついた。
「エメラルドグリーンの髪……もしかして……」
「私はゲルパルトの人造人間です」
カウラは一言そういうとまた難しそうな顔でカップを見下ろした。
「どういたしましたの?ベルガー大尉」
再び残忍な笑みを一瞬だけ浮かべた後にカウラにかなめは追い討ちをかけた。カウラはそれを見て覚悟を決めると机の中央に置かれた上品な白磁の上のレモンを手にとってカップに落とし込んだ。
「そんなに緊張なさらないでください」
笑みを浮かべる執事におどおどとうなずくとカウラは静かにカップを手にして口に運んだ。その様子をかなめは今にも噴出しそうな表情で見つめていた。
「髪を映えさす為に緑で統一するということになりますと……」
そう言って紳士はテーブルの上のコンソールに手を持っていった。次々と画像が移り、そしてエメラルドのはめ込まれたティアラとネックレス、ブレスレッドのセットを表示させた。
「これなどはいかがでしょうか?現在鏡都の支店に保管してあるものですが明後日には取り寄せることができると思いますが」
神田はそういうと画面をかなめの見えやすいように角度を変えて見せた。そこには誠でさえその値段が天文学的な金額になるであろう巨大なエメラルドが三つもちりばめられたティアラと、それを引き立てるようにこれも大きめの翡翠のネックレスが映し出されていた。
「緑の髪に緑の石。いまひとつ映えませんわね……これではまるでベルガー大尉が緑人間に見えてしまいますわ。他に候補となりそうなものはございませんの?」
かなめの言葉に神田という支配人は笑みを浮かべて静かにまた端末の操作に移った。その表情はこの写真を見ればかなめがどういう反応を示すかわかりきっているかのようで誠は感心させられた。
「それならこれなどはいかがでしょう?幸い当店にあるお品物ですので。今日お持ち帰りいただくこともできます」
そう言って画面に現れたのは赤い宝石……おそらくルビーのちりばめられたティアラとネックレス、そして指輪のセットだった。はめ込まれた石は一つ一つは大きくないものの、その数、そしてその周りを飾る小さなダイヤも見事に輝いて見える。明らかに高嶺の花とわかる商品にただ誠は息を呑んだ。
「なるほど、ルビーですわね。確かにベルガーさんの緑の髪には赤い色がアクセントになって似合うんじゃないかしら」
かなめはそう言って悠然とカウラに目を向けた。そのタレ目の真意を測りかねてカウラは呆然としていた。そこで神田は微笑んで話し始めた。
「よろしければ直接ご覧いただけますよ。早速用意させます。そしてこちらのご婦人のものは……」
今度はアメリアを一瞥して再び老執事は検索を始めた。カウラはただ呆然と二人の会話を聞いていた。もしそのまま彼女の気の抜けた顔を今のかなめが見たらかなめの演技のめっきは剥がれ落ちて大爆笑間違いないという状況だった。
誠はただ老執事の手元だけを見ていた。
「クラウゼ中佐のものは急がなくて結構ですわよ。また折を見て寄らせていただいた時に選ばせていただきますわ」
そういうと自然な動きでレモンと砂糖をカップに入れてかなめは悠然と紅茶を飲んだ。その優雅な姿はいつも寮で番茶をずるずるすすっている御仁と同一人物だとは誠には信じられなかった。
「なるほど、では、まもなく開かれる地球圏でのオークションなどに出品されることが考えられているようなものでもよろしいわけですね?」
かなめを見上げて穏やかに笑う初老の支配人の表情は穏やかだった。
「そうですわね。とりあえずコンセプトを私が決めますからその線で品物が出てきたときに連絡していただければ結構ですわ」
かなめはゆっくりとカップを置く。彼女にこんな芸当ができるとは誠も予想していなかった。
「それではこれなどはいかがでしょう」
そう言って映し出したのはダイヤ中心の白を基調としたようなティアラと首飾り、それに腕輪のセットだった。
誠は神田とかなめのやり取りの自然さにただ茫然と見守ることしかできなかった。
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「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
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