上 下
59 / 187
『力』を持つ者の定め 『特殊な部隊』の通過儀礼としての『事件』

第59話 日常的買い出し業務

しおりを挟む
「良いんですよ、カウラさん。暑いんですね、皆さん。下の給湯室に行ってアイス取って来ます」 

 そう言うとカウラの心配そうな顔をこれ以上曇らせまいと、誠は立ち上がった。

「そりゃ無理だ。どこかのチビが昨日全部食っちゃったからなー」 

 かなめがあまりに残酷な一言を吐いた。同時にカウラも『偉大なる中佐殿』ことクバルカ・ラン中佐に視線を向けた。

「オメ等ーのモノはアタシのモノ。アタシのモノはアタシのモノ。神前、アタシはうな丼の『特級松』だ!」 

 ランはそう言うと将棋盤に駒を指す。かわいらしい『永遠の8歳女児』は完全に『機動部隊の主』として余裕の貫録を見せていた。

 ここで、誠は自分がこの『特殊な部隊』では『人権の無い使用人かペット』であることを自覚した。

「分かりました!アイスですね!隣の工場の生協まで行けばいいんですね!」

 仕方なく誠はそう言って立ち上がる。同時に手にはタブレットを持つ。

 菱川重工豊川工場の『役員向けどんぶりもの専門店』のサイトを立ち上げた。

 かなめとカウラの注文がすでに登録されていた。その『値段の桁が一桁多い』そこのどんぶりを選択して注文をした。

 特にランの『特級松』の値段を見て誠は『偉い人』とは自分の生きている世界が違うことを理解した。 

「あそこの生協は……あんまりいーのがねーんだよな。じゃあアタシはモナカ。小豆じゃなくてチョコだぞ」

 『偉大なる中佐殿』こと、クバルカ・ラン中佐は顔を上げて、そう言った。

「西園寺さんは何にしますか?」 

 誠は半分むきになって、態度のでかいかなめにきつい調子でそうたずねた。

 しばらくの沈黙の後、眼を伏せるようにしてかなめはつぶやいた。

「イチゴ味の奴。それなら何でもいい」 

 かなめは天井を見上げて、めんどくさそうにそう言った。

 誠に歩み寄ってきたカウラは、彼女の財布から一万東和円を取り出して誠に渡した。

「じゃあ私はメロン味のにしてくれ。貴様は財布を島田に取り上げられたまんまだからな。金はこれで間に合うはずだ」

「はい!それじゃあ行ってきます!」

 苦笑いを浮かべるカウラに見送られて、誠はそのまま詰め所を後にした。
しおりを挟む

処理中です...